彼の隣に私は似合わない

うさみ

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5月

ミルクココア

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一度意識してしまうと、気づくとそれを裏付ける何かを探してしまう。


わからないことがあったら挙手制を採用した放課後の勉強会の最中も、自然とふたりを見てしまって自分の勉強に集中ができない。



「鈴乃」


頑張って苦手科目-李雪は全部だが-を前に集中するふたりには聞こえないくらいの声で隣の京介くんが私の名前を呼ぶ。


トントンとシャーペンの先で叩くところを見ると、ノートの余白に、「集中できてないんじゃないの」の文字が書かれている。


どうかした?という意味を含む瞳で見つめられる。


私も彼に倣って「ちょっと他のことで考え事」と答える。



その文字をしばらくみつめ、急に立ち上がる。


ガタンと大きめの音で、向かいに座るふたりも顔を上げる。


視線の先の恭介くんは一言、


「喉乾いた」


というと私の手を引き歩きだす。



「ふたりが頑張ってるから差し入れ買ってくる」


空いているもう片方の手をゆらゆらと振り、ふたりを見ることなく廊下へ進む。





 


「不自然だったよ、ちょっと」



「あのふたり相手だぞ?大丈夫だろ」



隣の教室を通り過ぎた辺りで話し出す。



「ねぇ手、歩きづらい」



「お、悪ぃ」



そう言えばパッと離される。



「で、考え事ってなに?」



「…そのこと聞くために連れ出したの?」



「質問を質問で返さない」




彼は自身が思っているよりもかなり世話焼きだ。


ただの、ちょっと他より仲のいい友達の私が感じるから幼馴染の彼女にはもっとだろう。


李雪が色々危なげなのは、彼も一因なのではないだろうか。




「連休に遊び行ったでしょ、4人で。その時からずっと気になってるだけ」



「あー…違和感?」



「それがどこにいるのか、そもそもいるのかもわからないからずっと考えちゃって」



階段の踊り場にある窓から入る風が少しだけ暑いのを飛ばす。


1階のプレイルームに設置された3台の自動販売機の真ん中のを迷わず選ぶ。



「そういうのってさ、すぐに見つかるものでもないんじゃないの?」



チャリンとお金を2枚入れる音、ピッというボタンの音が響く。


少しも待たないうちにガタンと出てきたものを、私の頬にくっつける。



「冷たっ!…もう、なに?」


冷たい缶をつけたまま彼は口を開く。



「今一瞬忘れてただろ?」



「…たしかに」



「好きなことして、見つかるまで忘れてたらいい」



頰から離され、渡されたのはミルクココア。



「好きなもんでも飲んでさ」



「好きって…言ったことあったっけ?」



「あー…裕太から聞いたし、あ、これ持ってて……あと、疲れてるときとか飲んでるだろ?」


ミルクティーを渡してくる彼の言葉が頭に響く。







「…おーい、戻るぞ?」



気づけば彼と裕太の分を買ったらしい恭介くんの声でハッとする


数歩先にいる彼の隣に小走りで向かう。








私と似てるなんてずっと思ってたけど、私なんかよりずっとずっと素敵な人だ。
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