15 / 22
5月
ミルクココア
しおりを挟む
一度意識してしまうと、気づくとそれを裏付ける何かを探してしまう。
わからないことがあったら挙手制を採用した放課後の勉強会の最中も、自然とふたりを見てしまって自分の勉強に集中ができない。
「鈴乃」
頑張って苦手科目-李雪は全部だが-を前に集中するふたりには聞こえないくらいの声で隣の京介くんが私の名前を呼ぶ。
トントンとシャーペンの先で叩くところを見ると、ノートの余白に、「集中できてないんじゃないの」の文字が書かれている。
どうかした?という意味を含む瞳で見つめられる。
私も彼に倣って「ちょっと他のことで考え事」と答える。
その文字をしばらくみつめ、急に立ち上がる。
ガタンと大きめの音で、向かいに座るふたりも顔を上げる。
視線の先の恭介くんは一言、
「喉乾いた」
というと私の手を引き歩きだす。
「ふたりが頑張ってるから差し入れ買ってくる」
空いているもう片方の手をゆらゆらと振り、ふたりを見ることなく廊下へ進む。
「不自然だったよ、ちょっと」
「あのふたり相手だぞ?大丈夫だろ」
隣の教室を通り過ぎた辺りで話し出す。
「ねぇ手、歩きづらい」
「お、悪ぃ」
そう言えばパッと離される。
「で、考え事ってなに?」
「…そのこと聞くために連れ出したの?」
「質問を質問で返さない」
彼は自身が思っているよりもかなり世話焼きだ。
ただの、ちょっと他より仲のいい友達の私が感じるから幼馴染の彼女にはもっとだろう。
李雪が色々危なげなのは、彼も一因なのではないだろうか。
「連休に遊び行ったでしょ、4人で。その時からずっと気になってるだけ」
「あー…違和感?」
「それがどこにいるのか、そもそもいるのかもわからないからずっと考えちゃって」
階段の踊り場にある窓から入る風が少しだけ暑いのを飛ばす。
1階のプレイルームに設置された3台の自動販売機の真ん中のを迷わず選ぶ。
「そういうのってさ、すぐに見つかるものでもないんじゃないの?」
チャリンとお金を2枚入れる音、ピッというボタンの音が響く。
少しも待たないうちにガタンと出てきたものを、私の頬にくっつける。
「冷たっ!…もう、なに?」
冷たい缶をつけたまま彼は口を開く。
「今一瞬忘れてただろ?」
「…たしかに」
「好きなことして、見つかるまで忘れてたらいい」
頰から離され、渡されたのはミルクココア。
「好きなもんでも飲んでさ」
「好きって…言ったことあったっけ?」
「あー…裕太から聞いたし、あ、これ持ってて……あと、疲れてるときとか飲んでるだろ?」
ミルクティーを渡してくる彼の言葉が頭に響く。
「…おーい、戻るぞ?」
気づけば彼と裕太の分を買ったらしい恭介くんの声でハッとする
数歩先にいる彼の隣に小走りで向かう。
私と似てるなんてずっと思ってたけど、私なんかよりずっとずっと素敵な人だ。
わからないことがあったら挙手制を採用した放課後の勉強会の最中も、自然とふたりを見てしまって自分の勉強に集中ができない。
「鈴乃」
頑張って苦手科目-李雪は全部だが-を前に集中するふたりには聞こえないくらいの声で隣の京介くんが私の名前を呼ぶ。
トントンとシャーペンの先で叩くところを見ると、ノートの余白に、「集中できてないんじゃないの」の文字が書かれている。
どうかした?という意味を含む瞳で見つめられる。
私も彼に倣って「ちょっと他のことで考え事」と答える。
その文字をしばらくみつめ、急に立ち上がる。
ガタンと大きめの音で、向かいに座るふたりも顔を上げる。
視線の先の恭介くんは一言、
「喉乾いた」
というと私の手を引き歩きだす。
「ふたりが頑張ってるから差し入れ買ってくる」
空いているもう片方の手をゆらゆらと振り、ふたりを見ることなく廊下へ進む。
「不自然だったよ、ちょっと」
「あのふたり相手だぞ?大丈夫だろ」
隣の教室を通り過ぎた辺りで話し出す。
「ねぇ手、歩きづらい」
「お、悪ぃ」
そう言えばパッと離される。
「で、考え事ってなに?」
「…そのこと聞くために連れ出したの?」
「質問を質問で返さない」
彼は自身が思っているよりもかなり世話焼きだ。
ただの、ちょっと他より仲のいい友達の私が感じるから幼馴染の彼女にはもっとだろう。
李雪が色々危なげなのは、彼も一因なのではないだろうか。
「連休に遊び行ったでしょ、4人で。その時からずっと気になってるだけ」
「あー…違和感?」
「それがどこにいるのか、そもそもいるのかもわからないからずっと考えちゃって」
階段の踊り場にある窓から入る風が少しだけ暑いのを飛ばす。
1階のプレイルームに設置された3台の自動販売機の真ん中のを迷わず選ぶ。
「そういうのってさ、すぐに見つかるものでもないんじゃないの?」
チャリンとお金を2枚入れる音、ピッというボタンの音が響く。
少しも待たないうちにガタンと出てきたものを、私の頬にくっつける。
「冷たっ!…もう、なに?」
冷たい缶をつけたまま彼は口を開く。
「今一瞬忘れてただろ?」
「…たしかに」
「好きなことして、見つかるまで忘れてたらいい」
頰から離され、渡されたのはミルクココア。
「好きなもんでも飲んでさ」
「好きって…言ったことあったっけ?」
「あー…裕太から聞いたし、あ、これ持ってて……あと、疲れてるときとか飲んでるだろ?」
ミルクティーを渡してくる彼の言葉が頭に響く。
「…おーい、戻るぞ?」
気づけば彼と裕太の分を買ったらしい恭介くんの声でハッとする
数歩先にいる彼の隣に小走りで向かう。
私と似てるなんてずっと思ってたけど、私なんかよりずっとずっと素敵な人だ。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
神様のボートの上で
shiori
ライト文芸
”私の身体をあなたに託しました。あなたの思うように好きに生きてください”
(紹介文)
男子生徒から女生徒に入れ替わった男と、女生徒から猫に入れ替わった二人が中心に繰り広げるちょっと刺激的なサスペンス&ラブロマンス!
(あらすじ)
ごく平凡な男子学生である新島俊貴はとある昼休みに女子生徒とぶつかって身体が入れ替わってしまう
ぶつかった女子生徒、進藤ちづるに入れ替わってしまった新島俊貴は夢にまで見た女性の身体になり替わりつつも、次々と事件に巻き込まれていく
進藤ちづるの親友である”佐伯裕子”
クラス委員長の”山口未明”
クラスメイトであり新聞部に所属する”秋葉士郎”
自分の正体を隠しながら進藤ちづるに成り代わって彼らと慌ただしい日々を過ごしていく新島俊貴は本当の自分の机に進藤ちづるからと思われるメッセージを発見する。
そこには”私の身体をあなたに託しました。どうかあなたの思うように好きに生きてください”と書かれていた
”この入れ替わりは彼女が自発的に行ったこと?”
”だとすればその目的とは一体何なのか?”
多くの謎に頭を悩ませる新島俊貴の元に一匹の猫がやってくる、言葉をしゃべる摩訶不思議な猫、その正体はなんと自分と入れ替わったはずの進藤ちづるだった
日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~
海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。
そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。
そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。
三度目の庄司
西原衣都
ライト文芸
庄司有希の家族は複雑だ。
小学校に入学する前、両親が離婚した。
中学校に入学する前、両親が再婚した。
両親は別れたりくっついたりしている。同じ相手と再婚したのだ。
名字が大西から庄司に変わるのは二回目だ。
有希が高校三年生時、両親の関係が再びあやしくなってきた。もしかしたら、また大西になって、また庄司になるかもしれない。うんざりした有希はそんな両親に抗議すべく家出を決行した。
健全な家出だ。そこでよく知ってるのに、知らない男の子と一夏を過ごすことになった。有希はその子と話すうち、この境遇をどうでもよくなってしまった。彼も同じ境遇を引き受けた子供だったから。
水曜日のパン屋さん
水瀬さら
ライト文芸
些細なことから不登校になってしまった中学三年生の芽衣。偶然立ち寄った店は水曜日だけ営業しているパン屋さんだった。一人でパンを焼くさくらという女性。その息子で高校生の音羽。それぞれの事情を抱えパンを買いにくるお客さんたち。あたたかな人たちと触れ合い、悩み、励まされ、芽衣は少しずつ前を向いていく。
第2回ほっこり・じんわり大賞 奨励賞
行くゼ! 音弧野高校声優部
涼紀龍太朗
ライト文芸
流介と太一の通う私立音弧野高校は勝利と男気を志向するという、時代を三周程遅れたマッチョな男子校。
そんな音弧野高で声優部を作ろうとする流介だったが、基本的にはスポーツ以外の部活は認められていない。しかし流介は、校長に声優部発足を直談判した!
同じ一年生にしてフィギュアスケートの国民的スター・氷堂を巻き込みつつ、果たして太一と流介は声優部を作ることができるのか否か?!
泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)
武者走走九郎or大橋むつお
ライト文芸
神楽坂高校の俺は、ある日学食に飯を食いに行こうとしたら、数学の堂本が一年の女子をいたぶっているところに出くわしてしまう。数学の堂本は俺にω(オメガ)ってあだ名を付けた意地悪教師だ。
ωってのは、俺の口が、いつもωみたいに口元が笑っているように見えるから付けたんだってさ。
いたぶられてる女子はΣ(シグマ)って堂本に呼ばれてる。顔つきっていうか、口元がΣみたいに不足そうに尖がってるかららしいが、ω同様、ひどい呼び方だ。
俺は、思わず堂本とΣの間に飛び込んでしまった。
【本編完結】繚乱ロンド
由宇ノ木
ライト文芸
番外編更新日 12/25日
*『とわずがたり~思い出を辿れば~1 』
本編は完結。番外編を不定期で更新。
11/11,11/15,11/19
*『夫の疑問、妻の確信1~3』
10/12
*『いつもあなたの幸せを。』
9/14
*『伝統行事』
8/24
*『ひとりがたり~人生を振り返る~』
お盆期間限定番外編 8月11日~8月16日まで
*『日常のひとこま』は公開終了しました。
7月31日
*『恋心』・・・本編の171、180、188話にチラッと出てきた京司朗の自室に礼夏が現れたときの話です。
6/18
*『ある時代の出来事』
6/8
*女の子は『かわいい』を見せびらかしたい。全1頁。
*光と影 全1頁。
-本編大まかなあらすじ-
*青木みふゆは23歳。両親も妹も失ってしまったみふゆは一人暮らしで、花屋の堀内花壇の支店と本店に勤めている。花の仕事は好きで楽しいが、本店勤務時は事務を任されている二つ年上の林香苗に妬まれ嫌がらせを受けている。嫌がらせは徐々に増え、辟易しているみふゆは転職も思案中。
林香苗は堀内花壇社長の愛人でありながら、店のお得意様の、裏社会組織も持つといわれる惣領家の当主・惣領貴之がみふゆを気に入ってかわいがっているのを妬んでいるのだ。
そして、惣領貴之の懐刀とされる若頭・仙道京司朗も海外から帰国。みふゆが貴之に取り入ろうとしているのではないかと、京司朗から疑いをかけられる。
みふゆは自分の微妙な立場に悩みつつも、惣領貴之との親交を深め養女となるが、ある日予知をきっかけに高熱を出し年齢を退行させてゆくことになる。みふゆの心は子供に戻っていってしまう。
令和5年11/11更新内容(最終回)
*199. (2)
*200. ロンド~踊る命~ -17- (1)~(6)
*エピローグ ロンド~廻る命~
本編最終回です。200話の一部を199.(2)にしたため、199.(2)から最終話シリーズになりました。
※この物語はフィクションです。実在する団体・企業・人物とはなんら関係ありません。架空の町が舞台です。
現在の関連作品
『邪眼の娘』更新 令和6年1/7
『月光に咲く花』(ショートショート)
以上2作品はみふゆの母親・水無瀬礼夏(青木礼夏)の物語。
『恋人はメリーさん』(主人公は京司朗の後輩・東雲結)
『繚乱ロンド』の元になった2作品
『花物語』に入っている『カサブランカ・ダディ(全五話)』『花冠はタンポポで(ショートショート)』
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる