異世界転生を知らない幽閉王子は死にたがり。

いちご食べたい人

文字の大きさ
上 下
9 / 25
転生

6

しおりを挟む


落ちることを予測し、目を瞑ったが地面と衝突する衝撃は来なかった。

ゆっくりと上を見上げると、僕の腕を強く握り引き上げようとするウルスが見えた。

「…なんで助けたの?僕のこと嫌ってたじゃないか。」

「ふざけるな!! 死にそうになってるやつを見て助けないわけないだろう、馬鹿なのかお前は!!」

死にそうになってる?
あぁ、エントランスから落ちたんだっけ。

それでも……

「嫌ってる人間を助けようとしている方が馬鹿じゃないか。それに、僕は死を望まれて生きてきた人間で罪人だ。生きる価値なんてないと思わないのか。」

「…っ!!
長年一緒にいたんだ、お前が最低な人間なのは百も承知だ!
でもな、俺は目の前で死にそうな人間には誰でも手を差し伸べる。お前のような悪人でも見て見ぬふりをしてたら夢見が悪いからな。

…いい加減引き上げるぞ!!」

「……。」

僕の腕をギュウという音がなるほど強く握り、一気に僕を引き上げた。

再度地面い放り出された僕は、部屋の柔らかい絨毯に落とされた。

「礼は言わないからな、助けてなんて一言も言ってない。」

「そうか、別にどうでもいい。勝手に死なれたら俺は任務怠慢で叱られる…。

ーそれに、少し気になることもできたからな。」

「なんだ、最後の方は聞こえなかった「なんでもない」」

そう言い放ったあとは、僕がいくら話しかけても全て無視だった。

その後は着る途中だった服を着て布団に潜り込んだ。


そういえば、あんなに強く握られた腕もぶつけた親指も痛くないな。

なぜだろう……。


◇ ◇ ◇


ーウルス視点ー


自殺未遂をしたため、監視をするために部屋を用意した。
罪がしっかりと決まるまでは死なれたら困る。

そしてその監視が、俺だった。

昔からの付き合いだろう、気の知れる奴といた方が気も休まるだろう…という上からの命令だ。精神的なストレスがなければ死のうとは思わないだろうってか?

俺といた方が向こうもストレスが溜まると思うがな。


しばらく経ち、スノードロップの世話役の使用人が入ってきた。

見た目は幼く見えるがよく訓練されているように見える。
洗練された動きだ…隙がない。

スノードロップとの会話を聞いていると、使用人のくせに…罪人とはいえ一時的に仕える主人に対する態度ではない。

それに対して答えるスノードロップは全く気にしてはいないようだが。

使用人に対する態度も悪いと聞いていたが、こんな態度をとる奴に対しても普通の対応なのか。

その疑問は、彼が着替えている背を見てより一層膨れ上がっていった。

背には鞭で叩かれた跡がびっしりとついていたのだ。
それはかなりの力で叩かれていたのか、とても深い傷跡だった。

傷は完全に治っていることからかなり昔に付けられたこのだろう…。

いつなんだ?
公爵家の人間…しかも子息だ、次男でも大切に育てるはずだ。なぜこんな傷がついているんだ?!

そんな考えを巡らせていると、服を着ている途中で急に窓辺へ移動し始めた。

目は虚で何を考えているのかわからない…口元は微かに動いているように感じた。

「おい、どうした?」

声をかけても返事はない。

裸足でエントランス出て危険な予感がした。

落ちるつもりか!!

俺の予想通り、身を乗り出した瞬間外に誘い込まれるようにエントランスから落ちていった。

「っ!!」

咄嗟に腕を伸ばし、落ちるその腕を掴んだ。

きっと先に動き始めていなかったら間に合わなかっただろう。

「…なんで助けたの?僕のこと嫌ってたじゃないか。」

そう虚な目をして不思議そうに問いかける馬鹿にイライラが募った。

「ふざけるな!! 死にそうになってるやつを見て助けないわけないだろう、馬鹿なのかお前は!!」

なぜ死のうとするのか、公爵家では何が起きていたのか。

考えれば考えるほど謎が増える。



多少の言い合いが終わり、窓を閉めて服を着させて布団に入るのを確認した。

眠ったのを確認して数分で使用人の女がきたが、ぐっすりと眠る主人を見て今日は寝かせておくことにした。

部屋を出るのを確認し、スノードロップが眠るベッドを見つめた。

あどけない顔で眠る頬には綺麗に切り揃えられた銀髪がかかり、その銀髪は月光に反射してキラキラと輝きを放ちとても綺麗だった。

「見目はいいのにな…」

ボソリとつぶやいた俺の声は誰も聞いていない。
聞こえてはいけないんだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

誤字・脱字があったらすみません。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

陛下の失われしイチモツをみつけた者を妃とする!………え、ヤバいどうしよう!?

ミクリ21
BL
主人公がヤバいことしてしまいました。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

○○に求婚されたおっさん、逃げる・・

相沢京
BL
小さな町でギルドに所属していた30過ぎのおっさんのオレに王都のギルマスから招集命令が下される。 といっても、何か罪を犯したからとかではなくてオレに会いたい人がいるらしい。そいつは事情があって王都から出れないとか、特に何の用事もなかったオレは承諾して王都へと向かうのだった。 しかし、そこに待ち受けていたのは―――・・

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

婚約破棄をしようとしたら、パパになりました

ミクリ21
BL
婚約破棄をしようとしたら、パパになった話です。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

処理中です...