異世界転生を知らない幽閉王子は死にたがり。

いちご食べたい人

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「スノードロップ、お前との婚約は無効だ。殺人を犯そうとしたお前が私との婚約を続けられると思っていたのか。」

見慣れない広場で罵声を浴びせている男は…ヴォールク王国の第一王子のシシエノーク・ヴォールクだ。

初めて見たはずの場所の名前も周りにいる男たちの名前も…僕が生きてきたものはない記憶が一気に頭に流れ込んできた。

「うっ……。」

ガンガンと打ち付けられているような頭痛に顔を顰めていると、シシエノークが壇上から降り目の前までズカズカと歩いてきた。

「おい、聞いているのか!!
またそんな仮病なんと使って私を騙そうと考えているのか。ふざけるな、もう騙されんぞ!!」

大声で怒鳴り、痛みでうずくまる僕の腕を捻り上げた。
一気に腕を上げられ凄い力で握られているため、骨がミシミシとなり肩の骨が外れそうになる。

「…っ痛っ、い!!」

「痛いだと、お前が階段から落とした“ユリアス”はもっと痛かった筈だ!
こんなもので許されると思うなよ!」

シシエノークは酷く憎いものを見るように僕を睨みつけている。

僕が何したっていうんだ…そう思い記憶を遡ると階段から黒髪の可愛らしい男が階段から落ちていくシーンが頭のよぎった。

これの、ことか…。


しかし、彼が階段から落ちたのが僕のせいだって?


ふざけるなよ!!


彼は自分で落ちていったんだぞ?!

その後僕が冤罪をかけられ幽閉されたとき檻の外で聞こえたが、彼には大きな怪我はなかったと聞いた。
きっと僕をこんな場で捌かせて、罪を着せようと考えていたんだろう。

落ちていく彼は……僕を見てニヤリと笑っていた。

何を考えているのか、そんなことをしなくても僕はとっくのとうに婚約者のシシエノークに嫌われているというのに。

僕の婚約者という位置を奪いたかったのだろう。

まぁ、僕らは政略結婚だったため勝手に婚約破棄はできない。
だから、僕を貶めて場所を奪いたかったのだ…。

シシエノークもそれを知っている筈だ。きっとユリアスと共に僕を貶めたのだろう。

シシエノークは頭がいい。
この事件を仕組んでいたのがユリアスだけだったとしても、僕がやっていないということはすぐにわかる筈だ。


そうこう考えながら腕の痛みに耐えていると、シシエノークは僕を地面に放り投げた。

「うっ!!」

「とにかく…。ユリアスの事故はお前の仕業だと周りも証言している!!
王家に嫁ぐ者が犯罪者では示しがつかないからな。これでお前との婚約は破棄されることになる。長い間ご苦労だったな。」

捨て台詞を吐いたシシエノークは僕を横目で見て、その場を後にした。

その後、横に立つ宰相の言葉でこの“意味のない断罪“は終わった。

僕は終わったと同時に周りにいる兵士に囲まれて腕に付いている木の手錠を引っ張られ地下牢に入れた。

これでも僕は公爵家の人間だ。
王家の次に階位の高い家系のはずなのだが…。
その家系の者に対する態度ではないだろうこれは。

いつのまにか頭痛は治ったが、掴まれた方の腕と手首がジクジクと痛む。

「…はぁ、これが神様の言う幸せだって?笑えない冗談だよ、もうそんな気力もないけど。」

ぽつりとこぼす独り言は誰にも聞こえない。

この地下牢には、警備も何もないのだから。
…それに、僕が逃げられないことは知っているんだ。

公爵家の次男なのに、魔法の才能は皆無。色白で細く、ぜい肉もない棒のような男。

周りからは、バカにされ親にも愛想を尽かされ暴力を振るわれている。
屋敷の使用人にもバカにされ食事のろくなものが出ない。

だから体が細く、背も低い。
生まれてから家事も何も教わっていない僕は食事も自分では作れないし服も着れなかった。
だから自分でどうこうするという発想は思いつかないし、勝手な行動もできなかった。

でも、どれだけバカにされていても僕は身分が高かった。そのため、最低限服を着せたり食事(質素だったが…)は使用人が持ってきていた。

でも、記憶が戻った僕は自分でできるので誰もいない今の生活の方がいいのかもしれないなぁ。

「はぁ。」

今後のことを考えてため息が溢れた。

ーーーーーーーーーーーーー

主人公は転生した時の記憶と昔に記憶がごちゃ混ぜになって口調も変わっています。

シシエノークはロシア語で子犬という意味だそうです!
子犬みたいにキャンキャン吠えて煩い王子…。

誤字・脱字があったらすみません。
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