異世界転生を知らない幽閉王子は死にたがり。

いちご食べたい人

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前世

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プロローグ

「スノードロップ、お前との婚約は無効だ。殺人を犯そうとしたお前が私との婚約を続けられると思っていたのか。」

低く静かに、こちらを軽蔑するように放たれた言葉が“僕”が見慣れない荘厳な広間で告げられた。

それはここでも起きる不幸への第一歩だった。

◇ ◇ ◇

7年前ーー


母親が出て行ったのは小学生5年生の冬だった。
原因は子供の僕は知らなかったけど、母が自由奔放な人だったことは身をもって経験していたため母がその原因を作ったことは明らかだった。

親権は母が手放したため、父に引き取られることになった。仕事が忙しい父だったが、休日はゲームをしたり出かけたりしてくれて母がいた時よりも楽しい生活を送っていた。

生活が慣れてきて、僕が中学1年生の時に父が再婚相手を連れてきた。

優しそう雰囲気の女性で、母とは全く似ておらず抱きしめられた時には恥ずかしい気持ちが大きかったが、お日様の匂いがして胸がポカポカしたことを覚えている。父も幸せそうで、僕も幸せな時を過ごせた。

それからまた数ヵ月後、女の人に新しい命が宿った。「結婚をしていないのに…」など祖父母たちとは揉めたらしいが最終的には認められて、その女の人は僕にお母さんになった。

病院の検診を受けると、子供は双子だということがわかった。
その後は何事もなく出産、妹と弟が生まれ我が家は祝福に包まれた。

それから2年間は怒涛な日々だった。
可愛らしい見た目とは裏腹に…
夜泣きがひどく日々睡眠不足だったし、1人でも大変なのにそれは2人もいるんだ。
片方が寝てても、もう片方の夜泣きが始まると寝てた方も泣き始める。

そんな生活が数ヶ月経って、ようやく落ち着いたと思ったら、次はどこにでも歩き回ってなんでも口に入れてしまうし。

僕が世話を任された時に少し目を離した時、台所の食器棚の下にいた時は心臓が止まるかと思った…。

ある程度大きくなっても喧嘩はするし、学校の物は壊すし大変だった。

しかし、そんな忙しくも幸せな生活はとある事故で永遠に奪われることとなった。

それは僕が高校に入学し、少し慣れ始めてきた夏の休日。家族で楽しく夕飯の買い物へ行った帰りだった。

見づらい曲がり角もなく、特に危険のない家前の横断歩道を渡ろうとした時。

チカチカと変わりそうな青信号に指を指さした妹はなにを思ったのかそのまま走り出した。
片手を握っていた僕は妹の手を少し引っ張り周囲をしっかりと見て危険がないことを確認、両手を握っている弟妹と共に横断歩道を急いで渡ろうとした。

次の瞬間だった。

信号前で止まると思っていた遠くからきた車がそのままものすごいスピードで衝突してきたのだ。

一瞬の出来事だったはずなのに、ぶつかる瞬間だけはスローモーションに映った。

避けようと思ったがもう間に合わない位置だ…。急いで弟妹たちを僕の腕の中に抱きしめて背中を向けた。
僕が死んでも弟たちは助かるようにと思っての行動だった。

背中を向けた瞬間、すぐに大きな衝撃が背中に走り息もできないまま数メートル飛ばされたと思う。
うっすら車にはねられたことはわかるが周りを見渡す力が出ない。
妹たちは無事なのか、暗くなる視界でそんなことを考えていたのを覚えている。


目が覚めたのは事故が起きてから一週間後だった。
目が覚めた僕は、白い清潔なシーツに包まれて布団に寝かされていた。

痛み止めが効いているのか傷は全く痛くない。
その後しばらくしてから医者が来て、怪我のことを教えてくれたが、背骨が真っ二つに折れていたらしい。

怪我は治るらしいが何かしらの後遺症があるかもしれないし、リハビリも大変らしい。

しかし、目が覚めたと看護師さんが家に連絡してくれても何時間経っても両親はこなかった。

そういえば、自分にことしか考えていられなかったけど…弟妹たちはどうなったのだろうか?
そう考えていた時、大きな音を立てて病室の扉が開いた。

そこにいたのは目をボンボンに腫らした母だった。
僕を心配して泣いてくれてたのか、と一瞬思ったがどうも様子が違うようだった。
憎悪のこもった目で僕を見ていたのだ。

「っ、母さん……何か…あった?」
「妹たちは大丈夫だった?無傷ではないよね…心配なんだ。」

そう声をかけると、顔を俯き大きな音を立ててこちらへ近づいてきた。
恐る恐る目線を上げると目があった瞬間、“バチッ”という乾いた音と共に僕の頬に鈍い痛みが走った。

「へっ……」

再び目を合わせると恐ろしい形相の母が、再度手を振りかぶっていた。

ーバチンッ

「……のせいよぉ、アンタのせいよ!!“妹たちは無事だった”ですって?無事なわけないじゃないっ!!死んでしまったわよっ!!…うぅっ」

嗚咽混じりに母が言ったのは弟妹たちが亡くなった…ということだった。

僕が救ったと思っていた弟妹たちは、僕が飛ばされて地面に落ちた瞬間頭を打っていた。打ちどころが悪く救急車がついた頃には、もう心肺が停止した状態だったらしい。

そのことを罵声混じりに僕に放つ母はもう以前の優しい母ではなかった。

「アンタがしっかり手を繋いでいたのに、なんでそのまま信号を渡ったの?!」
「車が来ていたのに、わざとあの子達を死に追いやったのね!!」

「アンタなんて“引き取らなければよかったのよ!!”」

その後も酷い形相で僕を罵っていたが、騒ぎを聞いて駆けつけた医者に鎮静剤を打たれ父に連れられ帰っていった。その時病院に来た父は、僕になんの言葉もかけず見向きもしなかった。

その後、両親は病室には来てくれなかった。

その翌日も翌々日も。
入院していた期間の1ヵ月半、誰も病室には来なかった。

退院して自宅に戻ると弟妹たちのお骨が置かれており、もう弟妹たちがこの世にいないのだと改めて実感した。

僕のせいなんだ。

……病院のカウンセリングの先生は僕のせいではない、僕は酷い怪我をしても弟妹たちをしっかりと腕に抱いていて、弟妹たちには大きな外傷はなかったんだ。
ただ、運が悪く頭をぶつけてしまったんだと、僕の心を癒すように言ってくれた。

僕も、どうしようもない事故だったと思っている。
止まらなかった車は運転手は急な心臓の発作が起こったせいだったと聞いたし、そのタイミングでたまたま僕たちが青信号を渡ろうと横断歩道を走っただけ。

僕のせいではないことは自分でもよくわかっていたけど、母や父が僕のせいにする事で心が保たれるなら僕は…僕のせいで弟妹たちが亡くなったということにしようと心に決めた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

誤字脱字があったらすみません…。
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