駄々甘ママは、魔マ王さま。

清水裕

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第84話 ヨシュア、馬車を手に入れる。

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「ありがとう勇者様、我が国を護ってくれたこと、ハジメーノ王国国王として礼を言わせてもらおう」
「ありがたきしあわせです」

 半分ボーっとした状態で何とか事前に話し合った様に謁見の間で僕は王様に礼を言われて、返事を返して頭を下げる。
 ……正直、王様達の言葉が上手く耳に入ってこない。
 理由は……分かっている。
 あの女の人のことを考えているからだ。
 …………あの人が、魔王。僕が、倒さないといけない相手……。
 もし、あの人と戦うことになったら……僕は戦うことが出来るのかな?

「――――シュア」

 うぅ、きっと無理。無理だよぉ……!

「よ――、しっかりするアル」

 それにもしまた会ったら……もしかしたら、抱きついてしまうかも知れない。
 それほどまでに僕はあの女性に会いたいって思っているんだと思う。

「ヨシュア、しっかりしなさい」
「よしゅあー、目を覚ますアルー」
「え? あ、あれ??」

 両側から声がかけられ、僕はハッとする。
 そして周囲を見ると……、そこは謁見の間じゃなかった。
 と言うよりも……。

「あ、あの……、何で僕……掴まれているんですか?」

 そう、掴まれていた……。ウィスドムさんとファンロンさんの2人に両脇を抱えられながら、僕は歩いていた。
 ……歩く? これって、歩くっていうのかな?

「よしゅあ全然反応無かったから、ファンロン達持って歩いているアル」
「とりあえず、頂く馬車を見に行くみたいだけど……問題ないわね?」
「も、問題ありますっ! 早く下ろしてください!!」
「「大丈夫、疲れていないから」」

 僕が大きな声で言うと、2人は揃って同じことを口にする。
 しかも自力で離れようとしても、ファンロンさんは兎も角……ウィスドムさんもガッチリ捕まえているのには納得が行かない……。
 もしかして……、魔法で強化しちゃってるのかな?
 そう思いつつ、僕は何も出来ないまま2人に連れて行かれた。……今の僕が本気を出したらファンロンさんもウィスドムさんも振り払うことが出来るかも知れないけど……可哀想な気がするからやめておこう。
 そうして、暫く2人に連れ歩かれて……馬車がある施設へと到着した。
 すると、そこの施設に話が行っていたみたいですぐに施設の人が姿を現した

「ようこそおいでくださいました勇者様、こちらが勇者様に贈られる馬車とそれを牽くための馬となります」
『『ヒヒィィィ~~~~ンッ!!』』

 施設の人が手と視線を向けた先には大きな幌付きの馬車と、それに繋がれた馬が2頭いた。
 そして馬は自分達をアピールするように嘶いた。

「うわぁ、大きな馬ですねっ! それに馬車も大きい!!」
「大分大きな馬車ね。牽く馬も大きいし……従順みたい」
「よろしくアル、馬達!」

 目を輝かせる僕、冷静にそれらを見るウィスドムさん、馬に向けて手を振るファンロンさん。
 そんな様々な様子を見せつつ、ある事に気づいた……。

「あの、そういえば……馬車って誰が動かすんですか?」
「……アホ、あんたはでき…………ないわね?」
「何かひどいこと言ってるアル!」
「じゃあ聞くけど、馬車動かせる?」
「押せば良いアル!」
「違う。馬を操って移動って事」
「出来ないアル。何だか面倒アル!」

 ファンロンさんが胸を張って自信満々に言うと、ウィスドムさんは頭を抱えた。
 もちろん、僕も馬車なんて動かせるわけがない。

「僕も、2人ともも出来ないなら……どうしよう?」
「正直宝の持ち腐れになっちゃうわ……」
「困ったアル」

 そんな感じに僕らが悩んでいると、足元で声がした。

「ワンワン!」
「ニャーニャー♪」
「2人とも? ……もしかして、馬車を牽けるの?」

 足元で鳴き声をあげるワンエルとサタニャエル。
 その2人へと訊ねると、2人は頷いた。
 それを見ていた施設の人が信じられないと言う感じに苦笑しながら僕らを見ながら声をかける。

「あ、あの、勇者様? 確かに犬や猫なら馬と会話を出来るかも知れませんが……、獣同士なので上手く行くかは分かりませんよ?」
「大丈夫だと思いますよ? えっと、馬車に乗れば良いかな?」
「ワン」「ニャー」
「そうみたいだね。それじゃあ、2人とも馬車に乗ってみよう」
「わかったアル」
「分かったわ」

 施設の人にそう言ってから、僕達は馬車へと乗り込む。
 中はまだ何もないからか、広いように思えた。
 それを見届けたというようにして、ワンエルとサタニャエルの2人も馬車の前の席に飛び乗った。
 ちなみにウィスドムさんがあの場所は御者台だと教えてくれた。

「ワンワン」
「ニャーニャー」
『『ブルッヒッヒヒヒヒィィィィン!!』』
「ワワン、ワン!」
「ニャニャー、ニャー!」
『『ブルルルルル…………』』

 鳴き声が響き暫くすると、ゆっくりと馬車は移動を始めた。
 それを施設の人は大きく口を開けて見ていた。
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