駄々甘ママは、魔マ王さま。

清水裕

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第73話 ヨシュア、戦場に潜り込む。

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 街の外から、街全体に聞こえるほどの大きな楽器の音が聞こえた。
 それを……僕とウィスドムさん、ファンロンさんは案内された部屋で聞いていた。
 その音を聞いていた静かに本を読んでいたウィスドムさんが顔を上げると……。

「戦いが始まったわ」
「えっ? この音が、そうなの……ですか?」
「ええ、馬鹿みたいって思うでしょうけど宣戦布告されたから奇襲ってわけには行かないみたいで、こっちも攻撃しますっていうのを教えるための楽器の音ね」
「そ、そうなんですか?」

 面倒でしょ? と何処か呆れたようにウィスドムさんが言う。
 僕はどう答えたら良いのかわからず、眉を寄せるけれど……ファンロンさんが反応した。

「人間面倒アルね。ファンロン達普通に元の姿に戻って、ブレスをブーーッ!アルよ?」
「あんたのは規格外過ぎるの……。と言うか、龍が大群で現れたら天変地異の前触れかって思うわよ」
「そうアルか? ファンロン、子供でそう言うの未経験だから分からないアル」

 うーん、ファンロンさん……いったいどう言う意味なんだろう?
 僕には良く判らないや。
 そう思っていると雄叫びが響いた。
 人々の雄叫び、それと……モンスターの雄叫びが。
 怖いと思うと同時に……僕はある事を思っていた。

「……僕が怖いんだから、街の人も怖いと思ってるんだよね?」
「そうね。怖いと思ってるかも知れないわ……」
「そうアルか? ファンロン、ちっともこわくないアルよ?」
「そう言うものなの、あんたと違って人間は弱いんだから」
「わかったアル」

 勇者としての本能、なのかも知れない。
 誰かが怖がっている。助けたい、そう心の中で叫んでるように聞こえた。
 だからだと思う。僕は立ち上がって……窓の外を眺める。

「ウィスドムさん……あの――「駄目よ」――え」
「ヨシュアのことだから、助けたいって言うんでしょ? だから、その答えに対してわたしは駄目と言わせて貰うわ」
「どうして……」
「どうしても何も、王様も言ったように今のヨシュアは実力が足りないし、戦闘も足りていない。そんなあんたが行ったとしても何の力にもならない。
 それどころか、あんたを庇って逆に人が傷つくかも知れないの」

 …………ウィスドムさんの言葉はもっともだった。
 だけど、それでも……。

「それでも、僕はこの戦いを早く終わらせて、怖がっている人を笑顔にしたいんだっ!」
「ヨシュア?」
「よしゅあ、かっこいいのだ」
「…………と思う」

 格好良く言ったけれど、本当にそうなのか分からなくてちょっと不安ながらにそう付け加える。
 すると2人は転びそうになっていた。
 うぅ、不甲斐無くてゴメン……。そうガクッとする2人に心で思いながら謝る。

「……はあ、ヨシュアが甘いっていうのはわかってたから、こうなるんじゃないかと思ってたわ。でも、どうやってあそこまで行くつもり? 今入口は騎士が護っているから、安全と同時に出ることが不可能よ?」
「う、えっと……、戦場行きますって普通に言えば……」
「そんなこと言ったら完全に閉じ込められるわよ?」

 ウィスドムさんにそう言われて、僕はガクリと来る。でも、外に出るにはそうしないといけないと思うんだ。
 他に出口と言ったら、大きな窓の先に立てる場所はあるけど……高さが大分あるから危険だって思う。

「よしゅあ、戦場行きたいアル?」
「え? は、はい、ファンロンさん。僕は、怖がっている人達が笑顔に戻って欲しいので、モンスターを退治したいです」
「なるほど、わかったアル。それじゃあ、ファンロン向こうまでヨシュアとウィスを連れて行くアル!」

 そう言うとファンロンさんは大きな窓を開けて、立てる場所に歩いていく。
 そんなファンロンさんに僕達はついて行くと、ファンロンさんは軽く体を伸ばし始めた。

「おいっちにー、さんしー。久しぶりに戻るから、感覚掴めるか不安アルよー」
「ファンロンさん?」
「うんっと、よしゅあ。ファンロン今から元に戻るけど、驚かないで欲しいアル」
「え? 元にって? え?」

 元に戻る? それはいったいどう言う意味だろう?
 そう思っていると、体を伸ばし終えたファンロンさんの体が緑色に輝き始めた。……って、えっ!?

「はあああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!! ――グゥルゥアアアアアアアアアーーーー!!』

 咆哮。そう言わんばかりの声がファンロンさんの口から放たれ、光りが周囲を覆った。
 そして、光が止むと……そこにはファンロンさんの姿はなく、代わりに見たこともない緑色の鱗を持った巨大な蛇が居た。
 どれくらい巨大かって言うと、僕が10人居て並べたとしても足りないくらいの長さだ。
 あ、あれ? ファンロンさんは?

「あの、ウィスドムさん、ファンロンさんは何処に?」
「……まさか、本当に竜人か龍人って思ってたけど、本物の龍だったなんて……」
「ウィスドムさん?」
「だから、目の前のその龍がアホなのよ」

 目の前の緑色の鱗を持つ蛇は、りゅうという名前みたいだ。
 それよりも、目の前のりゅう? がファンロンさん?
 上手く理解出来ない。ファンロンさんが目の前のりゅう、というのが結び付かないでいると……。

『よしゅあー、速く乗るアル。戦場向かうアルよー?』
「う、うわっ!? ほ、本当にファンロンさんだった……」

 耳の近くで聞こえた大きな声に驚くけれど、その声は聞き覚えのあるファンロンさんの声だった。
 そして、その声を聞いて僕はそうだったと思い出す。

「わ、わかりました! えと、ウィスドムさんは……」
「もちろんついて行くわ。……あんた達だけに任せると碌なことが起きないでしょうしね」
「あ、ありがとうございます……」

 ウィスドムさんの言葉にどんな表情を浮かべたら良いのか困りつつ、僕はファンロンさんを見る。

「ファンロンさーん、どうやって乗れば良いですかー?」
『普通に飛び乗ってくれたら良いアルよー』
「わかりましたーっ! えと、ウィスドムさん、行きましょう!」
「ええ、行きましょうか」

 ウィスドムさんの返事を聞いて、僕はファンロンさんにジャンプして飛び乗る。
 ……あ、そういえば普通にジャンプで飛び乗れちゃった。
 レヴが上がって上昇したステータスの恩恵、っていうのかな? そう思っていると、ウィスドムさんも乗ってきた。
 それを見届けて、ファンロンさんは「行くアルよー」と言ってゆっくりと空へと昇っていった。

 ―――――

・ファンロン(龍状態):
 全長25メートル、胴回り3メートル
 鱗の色:緑(風龍の証)
 備考:現在成長途中
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