68 / 88
第67話 ウィスドム、混乱す。
しおりを挟む
温かい手のぬくもりが、わたしの手に伝わる。
ヨシュアが、わたしの手を握り締めているんだ。
そう思うと気恥ずかしくなり、顔が赤くなって行くのを感じる。
「ウィスドムさん……」
「な、なに……?」
そんなわたしをヨシュアが呼ぶ。
だからわたしは返事を返しつつ、彼の顔を見た。直後――。
「どうして、どうしてこんな無茶をしたんですかっ!? ぼ、僕は……いえ、僕もファンロンさんも心配したんですよっ!!」
「っ!? そ、れは……その、ご……めんなさい」
怒られた。それも、本気で怒っている……。
そうわたしは理解し、自分の無茶の結果を実感させられた。
「負けても良かったじゃないですか! ウィスドムさんがこんな事になってまでも僕は勝って欲しくなんて――「それは無理」――え」
「悪いって思ってるし、ヨシュアにも、アホにも心配させたって思ってる。……でも、あそこで負けたくなんて、したくなかった」
怒鳴るヨシュアだったけど、わたしの言葉に冷や水をかけられたように一気に怒りが萎んでいったようで静かになったけれど……今度は別の疑問が浮かんだようだった。
「その、何か……あのお爺さんに言われたのですか?」
「…………負けたら、勇者のパーティーからわたしを外して、その代わりに自分を推薦しろって言ってきたのよ。だから、負けたくなかった……」
「えっ!? そ、そんなことを言ってたんですか……?!」
信じられない、といった感じにヨシュアは驚きを見せる。
まあ、あの老人……気の良い爺さんのようにしか見えなかったから、そう言うなんて……って思ってるんだと思う。
「信じる信じないはヨシュアの勝手だから、どう思うかはヨシュアのじ――「信じます!」――え、あ……そ、そう……」
信じなくても良い、だけど言われた事だけは知っておいて欲しい。そんな想いで言ったつもりだったけれど、言い終わる前に面と言われ……嬉しくもあると同時に恥かしくも感じた。
…………何というか、こう言うの……本当に慣れていないから。
「青春ですワン。麗しき友情ですワン!」
「いや、それって友情なのかわかんないから――って、誰? …………え?」
かけられた声に突っ込みを入れつつ、その声の主のほうを振り向くと……犬が目の前にいた。
……え? 犬? この犬って、ヨシュアが拾ってきた犬? ……え、でも、光り輝いて……、それに翼?
え、どう言うこと??
そんな目が点になっているであろうわたしへと、翼を生やした犬は空中で二足歩行で立ち上がると優雅に礼をしてきた。
「改めて挨拶させて頂きますワン。ワンが輩の名はワンエルと申しますワン。よろしくお願いしますワン」
「え、あ、ああ……、ウィスドム……です。よろしくおねがいします……」
正直混乱している。と言うか、わたしは本当に目が覚めているのだろうか?
それともわたしはまだ夢でも見ているのだろうか、でなければ犬が喋って礼儀正しい挨拶なんてしないはず……。
だけど、混乱はまだ収まっていなかったらしい。何故なら……。
「はあ……、駄犬が挨拶してしまったからニャあ、わにゃくしも挨拶するべきニャよね?」
「え? ね、ねこ?」
声がして、ピョンピョンと黒い塊がわたしのベッドに上がってきた。
……こっちもヨシュアが拾ってきた猫だ。
「わにゃくしは、サタニャエル。大悪魔サタニャエルニャ。よろしくですニャ、お二人さん」
「ファンロンはファンロンアル、よろしくアル! わんえる、さにゃにゃえる!」
「サタニャエルですニャ。……まあ、言い難いなら仕方ないですニャ」
「よ、ろし、く……?」
頭の中が覗けるとしたらきっと今のわたしの頭の中は「?」で埋め尽くされていることだろう。
だって……目が覚めて、ヨシュアに怒られて、犬が喋って挨拶して、猫も喋って挨拶したのだから。
と言うか、アホはアホで順応力が高いのか、それとも何も考えていないからなのか平然と挨拶をしている。しかも名前を間違えている。
ヨシュアは……あ、秘密にしていたことが明らかになってホッとしてるわ……。
なら、安心して――――、
「安心……、出来るわけないわーーーーっ!!」
「うわっ!? ど、どうしたんですかウィスドムさんっ!?」
突如吠えたわたしに驚いたヨシュアが、わたしに声をかける。
ここは大人の対応を見せるようにきちんと訊ねる。そうするべきかも知れなかった。
けれど今現在わたしは混乱中。そのためヨシュアの肩を掴んで吠えた。
「どうしたもこうしたもないっ! 何で平然としている訳っ!? 驚くよね、普通犬とか猫とかが喋ったら驚くよねっ!? そこんところどうなのさっ!?」
「あ、えっと……初めて会った時は驚きましたよ? でも、ママのペットだったから気にならなくなりました」
「くそっ! またママかっ!! あんたのお母さんどんな人なの!? と言うか人間なわけ!?」
王族、と言うか転生者連中と知り合いで、天の使いだと思う犬と悪魔の猫をペットにしているって、人間だとしたらそう言うのを勇者だって言うと思う。
あまりの状況に付いていけなくなったわたしは頭をガシガシと掻き乱しながら吠え続ける。混乱するなというのが無理な話しだ。
……が、それがいけなかったらしい。
「う――げほっ、げほっ、げっほ!?」
「ウィ、ウィスドムさん!? み、水! お水をっ!!」
「わ、わかったアル!」
激しく咽る。……そういえばわたし、今まで眠ってて水も飲めていなかったんだった。
そう思いながら、思いの丈をぶちまけた自身にちょっと嫌悪しつつ、差し出された水に口を付ける。
……水は口の中を潤し、ゴクンと飲み込むと喉を潤していく。ただ、吠えていたからか喉を切っていたようでチクリとした痛みを感じる。
痛い。だけど、体が水を欲しているようで、飲み終わると同時にわたしはコップを出す。
するとアホが水差しを持っていたようで、水を注いでくれる。
「ごく、ごく、ごく……ごく…………ふぅ、ぃ、いきかえった……」
ふう、と息を吐いて……わたしは落ち着いた。
ヨシュアが、わたしの手を握り締めているんだ。
そう思うと気恥ずかしくなり、顔が赤くなって行くのを感じる。
「ウィスドムさん……」
「な、なに……?」
そんなわたしをヨシュアが呼ぶ。
だからわたしは返事を返しつつ、彼の顔を見た。直後――。
「どうして、どうしてこんな無茶をしたんですかっ!? ぼ、僕は……いえ、僕もファンロンさんも心配したんですよっ!!」
「っ!? そ、れは……その、ご……めんなさい」
怒られた。それも、本気で怒っている……。
そうわたしは理解し、自分の無茶の結果を実感させられた。
「負けても良かったじゃないですか! ウィスドムさんがこんな事になってまでも僕は勝って欲しくなんて――「それは無理」――え」
「悪いって思ってるし、ヨシュアにも、アホにも心配させたって思ってる。……でも、あそこで負けたくなんて、したくなかった」
怒鳴るヨシュアだったけど、わたしの言葉に冷や水をかけられたように一気に怒りが萎んでいったようで静かになったけれど……今度は別の疑問が浮かんだようだった。
「その、何か……あのお爺さんに言われたのですか?」
「…………負けたら、勇者のパーティーからわたしを外して、その代わりに自分を推薦しろって言ってきたのよ。だから、負けたくなかった……」
「えっ!? そ、そんなことを言ってたんですか……?!」
信じられない、といった感じにヨシュアは驚きを見せる。
まあ、あの老人……気の良い爺さんのようにしか見えなかったから、そう言うなんて……って思ってるんだと思う。
「信じる信じないはヨシュアの勝手だから、どう思うかはヨシュアのじ――「信じます!」――え、あ……そ、そう……」
信じなくても良い、だけど言われた事だけは知っておいて欲しい。そんな想いで言ったつもりだったけれど、言い終わる前に面と言われ……嬉しくもあると同時に恥かしくも感じた。
…………何というか、こう言うの……本当に慣れていないから。
「青春ですワン。麗しき友情ですワン!」
「いや、それって友情なのかわかんないから――って、誰? …………え?」
かけられた声に突っ込みを入れつつ、その声の主のほうを振り向くと……犬が目の前にいた。
……え? 犬? この犬って、ヨシュアが拾ってきた犬? ……え、でも、光り輝いて……、それに翼?
え、どう言うこと??
そんな目が点になっているであろうわたしへと、翼を生やした犬は空中で二足歩行で立ち上がると優雅に礼をしてきた。
「改めて挨拶させて頂きますワン。ワンが輩の名はワンエルと申しますワン。よろしくお願いしますワン」
「え、あ、ああ……、ウィスドム……です。よろしくおねがいします……」
正直混乱している。と言うか、わたしは本当に目が覚めているのだろうか?
それともわたしはまだ夢でも見ているのだろうか、でなければ犬が喋って礼儀正しい挨拶なんてしないはず……。
だけど、混乱はまだ収まっていなかったらしい。何故なら……。
「はあ……、駄犬が挨拶してしまったからニャあ、わにゃくしも挨拶するべきニャよね?」
「え? ね、ねこ?」
声がして、ピョンピョンと黒い塊がわたしのベッドに上がってきた。
……こっちもヨシュアが拾ってきた猫だ。
「わにゃくしは、サタニャエル。大悪魔サタニャエルニャ。よろしくですニャ、お二人さん」
「ファンロンはファンロンアル、よろしくアル! わんえる、さにゃにゃえる!」
「サタニャエルですニャ。……まあ、言い難いなら仕方ないですニャ」
「よ、ろし、く……?」
頭の中が覗けるとしたらきっと今のわたしの頭の中は「?」で埋め尽くされていることだろう。
だって……目が覚めて、ヨシュアに怒られて、犬が喋って挨拶して、猫も喋って挨拶したのだから。
と言うか、アホはアホで順応力が高いのか、それとも何も考えていないからなのか平然と挨拶をしている。しかも名前を間違えている。
ヨシュアは……あ、秘密にしていたことが明らかになってホッとしてるわ……。
なら、安心して――――、
「安心……、出来るわけないわーーーーっ!!」
「うわっ!? ど、どうしたんですかウィスドムさんっ!?」
突如吠えたわたしに驚いたヨシュアが、わたしに声をかける。
ここは大人の対応を見せるようにきちんと訊ねる。そうするべきかも知れなかった。
けれど今現在わたしは混乱中。そのためヨシュアの肩を掴んで吠えた。
「どうしたもこうしたもないっ! 何で平然としている訳っ!? 驚くよね、普通犬とか猫とかが喋ったら驚くよねっ!? そこんところどうなのさっ!?」
「あ、えっと……初めて会った時は驚きましたよ? でも、ママのペットだったから気にならなくなりました」
「くそっ! またママかっ!! あんたのお母さんどんな人なの!? と言うか人間なわけ!?」
王族、と言うか転生者連中と知り合いで、天の使いだと思う犬と悪魔の猫をペットにしているって、人間だとしたらそう言うのを勇者だって言うと思う。
あまりの状況に付いていけなくなったわたしは頭をガシガシと掻き乱しながら吠え続ける。混乱するなというのが無理な話しだ。
……が、それがいけなかったらしい。
「う――げほっ、げほっ、げっほ!?」
「ウィ、ウィスドムさん!? み、水! お水をっ!!」
「わ、わかったアル!」
激しく咽る。……そういえばわたし、今まで眠ってて水も飲めていなかったんだった。
そう思いながら、思いの丈をぶちまけた自身にちょっと嫌悪しつつ、差し出された水に口を付ける。
……水は口の中を潤し、ゴクンと飲み込むと喉を潤していく。ただ、吠えていたからか喉を切っていたようでチクリとした痛みを感じる。
痛い。だけど、体が水を欲しているようで、飲み終わると同時にわたしはコップを出す。
するとアホが水差しを持っていたようで、水を注いでくれる。
「ごく、ごく、ごく……ごく…………ふぅ、ぃ、いきかえった……」
ふう、と息を吐いて……わたしは落ち着いた。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

アレク・プランタン
かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった
と‥‥転生となった
剣と魔法が織りなす世界へ
チートも特典も何もないまま
ただ前世の記憶だけを頼りに
俺は精一杯やってみる
毎日更新中!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


ダンマス(異端者)
AN@RCHY
ファンタジー
幼女女神に召喚で呼び出されたシュウ。
元の世界に戻れないことを知って自由気ままに過ごすことを決めた。
人の作ったレールなんかのってやらねえぞ!
地球での痕跡をすべて消されて、幼女女神に召喚された風間修。そこで突然、ダンジョンマスターになって他のダンジョンマスターたちと競えと言われた。
戻りたくても戻る事の出来ない現実を受け入れ、異世界へ旅立つ。
始めこそ異世界だとワクワクしていたが、すぐに碇石からズレおかしなことを始めた。
小説になろうで『AN@CHY』名義で投稿している、同タイトルをアルファポリスにも投稿させていただきます。
向こうの小説を多少修正して投稿しています。
修正をかけながらなので更新ペースは不明です。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる