駄々甘ママは、魔マ王さま。

清水裕

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第67話 ウィスドム、混乱す。

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 温かい手のぬくもりが、わたしの手に伝わる。
 ヨシュアが、わたしの手を握り締めているんだ。
 そう思うと気恥ずかしくなり、顔が赤くなって行くのを感じる。

「ウィスドムさん……」
「な、なに……?」

 そんなわたしをヨシュアが呼ぶ。
 だからわたしは返事を返しつつ、彼の顔を見た。直後――。

「どうして、どうしてこんな無茶をしたんですかっ!? ぼ、僕は……いえ、僕もファンロンさんも心配したんですよっ!!」
「っ!? そ、れは……その、ご……めんなさい」

 怒られた。それも、本気で怒っている……。
 そうわたしは理解し、自分の無茶の結果を実感させられた。

「負けても良かったじゃないですか! ウィスドムさんがこんな事になってまでも僕は勝って欲しくなんて――「それは無理」――え」
「悪いって思ってるし、ヨシュアにも、アホにも心配させたって思ってる。……でも、あそこで負けたくなんて、したくなかった」

 怒鳴るヨシュアだったけど、わたしの言葉に冷や水をかけられたように一気に怒りが萎んでいったようで静かになったけれど……今度は別の疑問が浮かんだようだった。

「その、何か……あのお爺さんに言われたのですか?」
「…………負けたら、勇者のパーティーからわたしを外して、その代わりに自分を推薦しろって言ってきたのよ。だから、負けたくなかった……」
「えっ!? そ、そんなことを言ってたんですか……?!」

 信じられない、といった感じにヨシュアは驚きを見せる。
 まあ、あの老人……気の良い爺さんのようにしか見えなかったから、そう言うなんて……って思ってるんだと思う。

「信じる信じないはヨシュアの勝手だから、どう思うかはヨシュアのじ――「信じます!」――え、あ……そ、そう……」

 信じなくても良い、だけど言われた事だけは知っておいて欲しい。そんな想いで言ったつもりだったけれど、言い終わる前に面と言われ……嬉しくもあると同時に恥かしくも感じた。
 …………何というか、こう言うの……本当に慣れていないから。

「青春ですワン。麗しき友情ですワン!」
「いや、それって友情なのかわかんないから――って、誰? …………え?」

 かけられた声に突っ込みを入れつつ、その声の主のほうを振り向くと……犬が目の前にいた。
 ……え? 犬? この犬って、ヨシュアが拾ってきた犬? ……え、でも、光り輝いて……、それに翼?
 え、どう言うこと??
 そんな目が点になっているであろうわたしへと、翼を生やした犬は空中で二足歩行で立ち上がると優雅に礼をしてきた。

「改めて挨拶させて頂きますワン。ワンが輩の名はワンエルと申しますワン。よろしくお願いしますワン」
「え、あ、ああ……、ウィスドム……です。よろしくおねがいします……」

 正直混乱している。と言うか、わたしは本当に目が覚めているのだろうか?
 それともわたしはまだ夢でも見ているのだろうか、でなければ犬が喋って礼儀正しい挨拶なんてしないはず……。
 だけど、混乱はまだ収まっていなかったらしい。何故なら……。

「はあ……、駄犬が挨拶してしまったからニャあ、わにゃくしも挨拶するべきニャよね?」
「え? ね、ねこ?」

 声がして、ピョンピョンと黒い塊がわたしのベッドに上がってきた。
 ……こっちもヨシュアが拾ってきた猫だ。

「わにゃくしは、サタニャエル。大悪魔サタニャエルニャ。よろしくですニャ、お二人さん」
「ファンロンはファンロンアル、よろしくアル! わんえる、さにゃにゃえる!」
「サタニャエルですニャ。……まあ、言い難いなら仕方ないですニャ」
「よ、ろし、く……?」

 頭の中が覗けるとしたらきっと今のわたしの頭の中は「?」で埋め尽くされていることだろう。
 だって……目が覚めて、ヨシュアに怒られて、犬が喋って挨拶して、猫も喋って挨拶したのだから。
 と言うか、アホはアホで順応力が高いのか、それとも何も考えていないからなのか平然と挨拶をしている。しかも名前を間違えている。
 ヨシュアは……あ、秘密にしていたことが明らかになってホッとしてるわ……。
 なら、安心して――――、

「安心……、出来るわけないわーーーーっ!!」
「うわっ!? ど、どうしたんですかウィスドムさんっ!?」

 突如吠えたわたしに驚いたヨシュアが、わたしに声をかける。
 ここは大人の対応を見せるようにきちんと訊ねる。そうするべきかも知れなかった。
 けれど今現在わたしは混乱中。そのためヨシュアの肩を掴んで吠えた。

「どうしたもこうしたもないっ! 何で平然としている訳っ!? 驚くよね、普通犬とか猫とかが喋ったら驚くよねっ!? そこんところどうなのさっ!?」
「あ、えっと……初めて会った時は驚きましたよ? でも、ママのペットだったから気にならなくなりました」
「くそっ! またママかっ!! あんたのお母さんどんな人なの!? と言うか人間なわけ!?」

 王族、と言うか転生者連中と知り合いで、天の使いだと思う犬と悪魔の猫をペットにしているって、人間だとしたらそう言うのを勇者だって言うと思う。
 あまりの状況に付いていけなくなったわたしは頭をガシガシと掻き乱しながら吠え続ける。混乱するなというのが無理な話しだ。
 ……が、それがいけなかったらしい。

「う――げほっ、げほっ、げっほ!?」
「ウィ、ウィスドムさん!? み、水! お水をっ!!」
「わ、わかったアル!」

 激しく咽る。……そういえばわたし、今まで眠ってて水も飲めていなかったんだった。
 そう思いながら、思いの丈をぶちまけた自身にちょっと嫌悪しつつ、差し出された水に口を付ける。
 ……水は口の中を潤し、ゴクンと飲み込むと喉を潤していく。ただ、吠えていたからか喉を切っていたようでチクリとした痛みを感じる。
 痛い。だけど、体が水を欲しているようで、飲み終わると同時にわたしはコップを出す。
 するとアホが水差しを持っていたようで、水を注いでくれる。

「ごく、ごく、ごく……ごく…………ふぅ、ぃ、いきかえった……」

 ふう、と息を吐いて……わたしは落ち着いた。
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