駄々甘ママは、魔マ王さま。

清水裕

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第66話 ヨシュア、自身を責める。

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 僕達に割り振られた部屋の一室、その部屋のベッドにウィスドムさんは眠っていた。
 頭に布が巻かれ、所々に治癒能力の上昇を促す薬が塗られた状態で……。
 そんなウィスドムさんを僕は今にも泣きそうな顔で見ていた。

「ウィスドムさん……。やっぱり、無理矢理にでも止めるべきだったんだ……」

 あの時のことを思い出しながら、僕は呟く。
 そんな僕の隣ではファンロンさんがマジマジとウィスドムさんの顔を見ていた。

「……ウィスー、早く目を開けるアルよー。美味しい食べ物待ってるアルよー? よしゅあ、心配してるアルよー? ……よしゅあ、ウィスは大丈夫アルか……?」
「…………分かりません。治癒師の人も、絶対安静って言ってたので……」
「そうアルか……。でも、ウィスも災難アル。少し前に1日ベッド送りだったのが、今度は3日ベッドアル」

 やれやれ、といった感じにファンロンさんは言っていたけど……僕は今にも泣きそうになってしまう。
 だって、ウィスドムさんがこうなった原因は……。

「むむっ!」
「あぶっ!? ファ、ファンフォンふぁん? いふぁい、いふぁいれふ……!」

 声がしたと思った瞬間、僕の頬をファンロンさんが摘んでいた。
 って、痛い。痛いです痛いです!!

「よしゅあ。暗い顔したら駄目アルよ! よしゅあずっと、自分悪い言い続けてるアル。ファンロンもう怒るアルよ?」

 ぎりぎりぎり、と頬の痛みが増していく中、ファンロンさんは頬をぷくーっと膨らませながら僕に言う。
 ……あ、僕、ファンロンさんにも心配、かけてた……?

「ご、ごへんなはい……」
「うん、謝るのは良い事アル! とりあえず、今はよしゅあも落ち着くアル。ウィス目覚めてよしゅあゲッソリだったら、心配するアルから」
「は……はい、そう……ですね。その、ファンロンさん。ありがとうございます」
「良いって事アル。旦那様の心配取り除く、妻の役目アル!」

 ドンと胸を打ちながらファンロンさんは言った。……あれ? 何か今ファンロンさん、変なこと言わなかった?
 気のせいかなぁ?

「多分気のせいじゃないと思うニャぁ……。まあ、わにゃくしは見ないふりしますニャ……」
「ワンワン、さすが勇者様ですワン。人気者ですワン!」

 サタニャエルはどこか遠くを見ながら呟いていて、ワンエルは尻尾をブンブン振りながら興奮している。
 ちなみにファンロンさんは2人が喋っていることは気にしていないのか、驚いていない。
 ウィスドムさんは、2人が喋ったら驚くかな?

「早く目を覚まさないかな……」
「ワン? 勇者様は、そこで寝ている者が目覚めるのをご所望ですかワン?」
「え、うん……。目を覚まして欲しいって思ってるよ……」
「けど、このままじゃ目を覚まさないですよ?」
「え? それって、どう言うこと?」

 ワンエルの言葉に驚いて、僕はワンエルを見る。
 見られたワンエルはきょとんとした表情をしながら、軽く首を傾げた。

「ワフン、この者の意識は今深い深い場所に眠ってしまっていますワン。多分、頭に大きな衝撃を受けた結果だと思いますワン」
「頭に衝撃……、もしかしてあの氷の塊っ!?」
「十中八九そうですワン。だから、普通に待ってたらこの者は目を覚まさないですワン」
「そ、そんな……。それじゃあ、如何したら……」

 ワンエルの言葉を聞いて僕は愕然とした。
 ウィスドムさんが、もう目を覚まさない……?

「安心してください、ワンが輩がこの者の意識に入って、引っ張り上げますワン!」
「で、出来るのっ!?」
「お任せくださいですワン! ワオオオオオオ~~ンッ!! ワンワンッ!!」

 ワンエルの言葉を信じ、問い返すとワンエルは吠えながらウィスドムさんの上へと跳んだ。
 そして、ウィスドムさんの上へと行くと……背中の翼を広げて光出した。

「うわっ!?」
「ほわああっ!? つ、翼が生えたアルっ!? 犬じゃなかったアルか!?」

 眩しい光に僕は目を被い、ファンロンさんは翼を広げたワンエルの姿に驚いていた。
 多分、喋っている時点でただ者じゃないと思うよ……?

『さあ早く戻ってきますワン。勇者様が心配していますワン』

 光りながら、ワンエルはウィスドムさんの心に囁いているのか小さな声が聞こえる。
 ウィスドムさん、はやく、早く目を覚ましてください……。ウィスドムさん!
 そう心で強く思いながら、僕はウィスドムさんの枕元に近づくと……その手を握り締める。

 ……握り締めて、少し経ち……目元が動くのが見え、僕が握り締める手がゆっくりと握り返された。
 そして、ゆっくりと……ウィスドムさんの瞼が、開いた。
 起きている? 瞼が開いたけれど……本当に起きているのかな?
 不安に思いながら、僕は声をかける。

「ウィ、ウィスドム……、さん?」
「ウィスー、目覚ましてるアルか……?」
「ヨ、シュア……。アホ……。なんて顔、してんの?」

 そんな僕達の心配を拭うように、僕達を見ながら……掠れた声だけれどウィスドムさんが返事を返した。
 良かった。目を覚ました……。ウィスドムさんが、目を覚ました!

 そう僕は喜ぶと同時に、言わないといけない事を決めていた。
 だから、僕はそれを口にした。
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