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第65話 ウィスドム、掴み取る。
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カチリ、とわたしの中で何かがはまった。
その瞬間、わたしの頭の中を渦巻いていた意味不明な文字と言葉が形を成していく。
ああ、そうか……。そうなんだ。これは、これは……!
「『風』『放出』――――!!」
普通は聞き取れないし、喋れるはずもない言葉。
それがわたしの口から素早く出るとわたしの少量の魔力と、周囲に留まっていた魔力を受け取って形となった。
方向を示していない風が放出される。けれど、運良く倒れそうになっていたわたしを浮かびあがらせるようにして風は吹き荒れる。
結界内に風が満たされていく中、倒れそうになっていたわたしは立つと正面にいる老人を見た。
「なっ、なにっ!? 何故、何故立てるのですっ!? 私の一撃は完璧だったはずっ!!」
「何で立てるか? そんなの、あんたがヨシュアの隣に立つのがムカつくからよ……!」
「減らず口を!! だ、だが、その妙な力を使ったとしても、傷付いた貴女に勝機はないっ!!」
老人は狼狽しながら、わたしを指差す。
……ちなみに老人や周り……要するに視界が真っ赤だけど、多分氷の塊が頭にぶつかった時に血が出たのだと思う。
そう思っていると、老人は怯えるかのようにわたしに向けて魔術を使い始める。
「こ、氷よ、我が敵に苦痛を込めた氷結の戒めを与えなさい!!」
「『火』『刃』『前方へ』――!!」
先程よりも大きな氷の塊をわたしに向けて放とうとしているのか、老人は息を切らしながら氷の塊を大きくさせていく。……魔力を多く込めて大きくさせているのだ。
それに対してわたしは、言葉と共に腕を振るった。――瞬間、振るう腕から火が現れると火は刃のように鋭くなり、前方に向けて放たれた。
その現象に驚きを隠せないのか老人の顔は驚愕に満ちていて、それでも自分へと向かってくる火の刃を消すべく準備段階であった魔術を発動させた。
「ア、アイス・ロック! ――――なっ!?」
未完成であろう氷の塊と火の刃がぶつかり、火の刃は砕け散る。そう思っていたであろう老人は更に驚きを見せた。
何故なら、ぶつかり合った氷の塊は火の刃によって、真っ二つとなったのだから。
このままだと、火の刃は老人の胴体をも焼き切っていくだろうけど……それをやったらヨシュアは悲しい顔を見せるだろう。
だから――。
「『停止』『爆発』――!!」
その2つの言葉を告げると、火の刃は老人の近くで停止し――一気に膨れ上がると小さな爆発を起こした。
爆発はボワッと爆風を巻き起こし……結界内を煙が被い隠す。
暫く煙に包まれていた結界内だったけれど、煙は結界の外へと洩れていき……後に残ったのは、髪を膨れ上がらせて服がボロボロとなった老人だった。
……ああ、肉体には支障が無いように調整したつもりだから……問題は無いはず……はずだと思う。
「ば、か、な…………、ぐふっ」
「っ!? しょ、勝者、勇者様の仲間のウィスドム!!」
口から煙を出しつつ老人は呟いたが、ショックとダメージが大きかったようでバタッと倒れた。
それを見届けたからか結界は解除され、わたしの勝利が告げられる。
周囲が静まり返る中、わたしはゆっくりと自分が勝利したと主張するように腕を伸ばす。
…………が、それがいけなかったのだろう。
「あ、れ…………?」
「ウィスドムさんっ!!」
クラッとした瞬間、背中と頭に衝撃が走った。
背中を殴られた? けど、何か違うような……。
「ウィスドムさん! 大丈夫ですか、ウィスドムさんっ!!」
目の前にヨシュアがいる。……あ、ヨシュアも後ろも赤い……。じゃなくて、地面が見えない?
…………ああ、そうか。わたしは倒れたのか。
そう思っていると、目の前が霞み始め……、ヨシュアの声も遠くなって行く。
「――――ドム、さ――! だ、――か、早――!」
ヨシュアが叫んでるのが聞こえるけど、何を言ってるのか分からない……。
ごめん、もういちど……いって、くれ…………な、い……?
ユサユサと体が揺さぶられる感覚が遠ざかっていき、わたしの意識も……遠くなっていった。
●
暗く、寒い、そんな世界にわたしは独りで蹲る……。
すると、トクン、トクンと小さな胸の鼓動が聞こえるけれど……その音は弱い。
どうして、そんなに弱いのだろう……? あと、何かを……忘れてる?
一瞬、誰かを思い出しそうになったけれど……、すぐに掻き消えた。
多分……思い出さなくても良いこと、なんだ……。
ああ、疲れた……。疲れたから、鼓動が、弱いんだ……。
ねよう。……このまま、ねむりにつこう…………。
そう思いながら、わたしは静かに目を閉じる。
『――ワンワン、早く目覚めるワン!』
だけどそんなわたしが居る世界へと、突然五月蝿い声と光が差し込んできた。
…………うるさい、わたしは……ねむいんだ。
『五月蝿いとは何ですワン。早く起きないと勇者様が心配しますワン!』
「…………ゆう、しゃ……?」
『そうですワン。勇者様は今心配そうにお前を見ていますワン! だから、目覚めるワン!!』
頭の中に、心配そうにわたしに声をかける誰かが、思い出される……。
ちがう、誰かじゃない……。心配そうにわたしに駆け寄ってきたヨシュアだ…………。
「そう、だ……。戻らない、と……。帰らないと、あの場所に……ヨシュアの、元に……」
『こっちですワン。ついてくるですワン!』
その言葉に従って、わたしはその光を追いかけるようにして歩きだす。
すると、光が差し込み……わたしはゆっくりと、目を開けた……。
―――――
魔術=長ったらしい詠唱とド派手な威力。
魔法=短い詠唱と効率重視。
って感じです。
そして、いい加減旅立たないと……。
その瞬間、わたしの頭の中を渦巻いていた意味不明な文字と言葉が形を成していく。
ああ、そうか……。そうなんだ。これは、これは……!
「『風』『放出』――――!!」
普通は聞き取れないし、喋れるはずもない言葉。
それがわたしの口から素早く出るとわたしの少量の魔力と、周囲に留まっていた魔力を受け取って形となった。
方向を示していない風が放出される。けれど、運良く倒れそうになっていたわたしを浮かびあがらせるようにして風は吹き荒れる。
結界内に風が満たされていく中、倒れそうになっていたわたしは立つと正面にいる老人を見た。
「なっ、なにっ!? 何故、何故立てるのですっ!? 私の一撃は完璧だったはずっ!!」
「何で立てるか? そんなの、あんたがヨシュアの隣に立つのがムカつくからよ……!」
「減らず口を!! だ、だが、その妙な力を使ったとしても、傷付いた貴女に勝機はないっ!!」
老人は狼狽しながら、わたしを指差す。
……ちなみに老人や周り……要するに視界が真っ赤だけど、多分氷の塊が頭にぶつかった時に血が出たのだと思う。
そう思っていると、老人は怯えるかのようにわたしに向けて魔術を使い始める。
「こ、氷よ、我が敵に苦痛を込めた氷結の戒めを与えなさい!!」
「『火』『刃』『前方へ』――!!」
先程よりも大きな氷の塊をわたしに向けて放とうとしているのか、老人は息を切らしながら氷の塊を大きくさせていく。……魔力を多く込めて大きくさせているのだ。
それに対してわたしは、言葉と共に腕を振るった。――瞬間、振るう腕から火が現れると火は刃のように鋭くなり、前方に向けて放たれた。
その現象に驚きを隠せないのか老人の顔は驚愕に満ちていて、それでも自分へと向かってくる火の刃を消すべく準備段階であった魔術を発動させた。
「ア、アイス・ロック! ――――なっ!?」
未完成であろう氷の塊と火の刃がぶつかり、火の刃は砕け散る。そう思っていたであろう老人は更に驚きを見せた。
何故なら、ぶつかり合った氷の塊は火の刃によって、真っ二つとなったのだから。
このままだと、火の刃は老人の胴体をも焼き切っていくだろうけど……それをやったらヨシュアは悲しい顔を見せるだろう。
だから――。
「『停止』『爆発』――!!」
その2つの言葉を告げると、火の刃は老人の近くで停止し――一気に膨れ上がると小さな爆発を起こした。
爆発はボワッと爆風を巻き起こし……結界内を煙が被い隠す。
暫く煙に包まれていた結界内だったけれど、煙は結界の外へと洩れていき……後に残ったのは、髪を膨れ上がらせて服がボロボロとなった老人だった。
……ああ、肉体には支障が無いように調整したつもりだから……問題は無いはず……はずだと思う。
「ば、か、な…………、ぐふっ」
「っ!? しょ、勝者、勇者様の仲間のウィスドム!!」
口から煙を出しつつ老人は呟いたが、ショックとダメージが大きかったようでバタッと倒れた。
それを見届けたからか結界は解除され、わたしの勝利が告げられる。
周囲が静まり返る中、わたしはゆっくりと自分が勝利したと主張するように腕を伸ばす。
…………が、それがいけなかったのだろう。
「あ、れ…………?」
「ウィスドムさんっ!!」
クラッとした瞬間、背中と頭に衝撃が走った。
背中を殴られた? けど、何か違うような……。
「ウィスドムさん! 大丈夫ですか、ウィスドムさんっ!!」
目の前にヨシュアがいる。……あ、ヨシュアも後ろも赤い……。じゃなくて、地面が見えない?
…………ああ、そうか。わたしは倒れたのか。
そう思っていると、目の前が霞み始め……、ヨシュアの声も遠くなって行く。
「――――ドム、さ――! だ、――か、早――!」
ヨシュアが叫んでるのが聞こえるけど、何を言ってるのか分からない……。
ごめん、もういちど……いって、くれ…………な、い……?
ユサユサと体が揺さぶられる感覚が遠ざかっていき、わたしの意識も……遠くなっていった。
●
暗く、寒い、そんな世界にわたしは独りで蹲る……。
すると、トクン、トクンと小さな胸の鼓動が聞こえるけれど……その音は弱い。
どうして、そんなに弱いのだろう……? あと、何かを……忘れてる?
一瞬、誰かを思い出しそうになったけれど……、すぐに掻き消えた。
多分……思い出さなくても良いこと、なんだ……。
ああ、疲れた……。疲れたから、鼓動が、弱いんだ……。
ねよう。……このまま、ねむりにつこう…………。
そう思いながら、わたしは静かに目を閉じる。
『――ワンワン、早く目覚めるワン!』
だけどそんなわたしが居る世界へと、突然五月蝿い声と光が差し込んできた。
…………うるさい、わたしは……ねむいんだ。
『五月蝿いとは何ですワン。早く起きないと勇者様が心配しますワン!』
「…………ゆう、しゃ……?」
『そうですワン。勇者様は今心配そうにお前を見ていますワン! だから、目覚めるワン!!』
頭の中に、心配そうにわたしに声をかける誰かが、思い出される……。
ちがう、誰かじゃない……。心配そうにわたしに駆け寄ってきたヨシュアだ…………。
「そう、だ……。戻らない、と……。帰らないと、あの場所に……ヨシュアの、元に……」
『こっちですワン。ついてくるですワン!』
その言葉に従って、わたしはその光を追いかけるようにして歩きだす。
すると、光が差し込み……わたしはゆっくりと、目を開けた……。
―――――
魔術=長ったらしい詠唱とド派手な威力。
魔法=短い詠唱と効率重視。
って感じです。
そして、いい加減旅立たないと……。
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