65 / 88
第64話 ヨシュア、きっかけを作る。
しおりを挟む
「ウィスドムさんっ!? ど、どうして攻撃しないの!?」
試合が始まった瞬間、ウィスドムさんは魔術を使わないで後ろに跳んだだけだった。
ウィスドムさんのことだから、凄い魔術を使ってドコーンのドドーンってやってしまうものだと思ってたのに……。
そう思っていると、ウィスドムさんの足が凍ってしまった。
「ああっ!?」
それを見た僕は声を上げてしまう。
そんな僕の隣ではサタニャエルが少し引き気味に呟く声が聞こえる。
「うわ、あの爺さん……凍りつかせた後に、圧縮されるようにしているニャ……。あんなの全身に受けたら、下手すれば骨折れるニャよ?」
「何と言うか、呪詛交じりですワンね。プライドが高そうですワン」
ウィスドムさんは凍りつかせた足を魔術で溶かそうとしているのか、地面に魔術陣が広がっていくのが見えた。
だけど、ある程度の大きさになった瞬間、魔術陣は突然消えてしまった。
もしかして……、ウィスドムさん。頭が痛いの……治っていないの?
そしてウィスドムさんの具合の悪さをチャンスと見たお爺さんは、ウィスドムさんへと魔法で創り出した石を大量に放ち始めた。
小さな石が一つ一つ当たる度に、ウィスドムさんの体に傷が出来……痛みに彼女の口から呻きが洩れる。
だから僕は結界の近くまで駆け寄ると、勝負を中止するように求めた。
けれどそれはウィスドムさんに拒否された。
「どうして? 具合が悪いなら、また後で勝負したら良いのに…………!」
「人間負けられない戦いがあるんです、勇者様」
「あ、え、っと……?」
「自分のことはお気になさらずに。……それにしても、酷すぎるんじゃないか……」
僕の言葉を聞いたと思う兵士の人がそう言っていた。
ママも、下がることが出来ない戦いがあるって言ってたよね?
そう言う、事なのかな……? ギュッと拳を握り締めながら、僕はウィスドムさんを見つめる。
後ろに控えるサタニャエルとワンエルも、ウィスドムさんを見ていたようで……。
「うにゃー……、これは厳しいと思うニャ。魔法言語を読み解けていないから、ごっちゃになり過ぎているニャ」
「いったい誰がこんなことをしたのですかワン?」
「心当たりはありますニャ。けど、ここでは言いたくないですニャ」
「ふ、ふたりともっ。ウィスドムさんがどうなってるのか知ってるの?!」
こっそりと話す2人に僕が詰め寄ると、2人はちょっとだけビクッとしたけど……すぐに僕を見てきた。
「は、はいですニャ。今あの女の頭の中には魔法を使うための知識が送り込まれていますニャ。でもそれを頭が認識していないから、頭痛を起こしていますニャ」
「頭が痛いって、そう言うことだったんだ……。よ、良くする方法は無いのっ?!」
サタニャエルが僕に説明をしてくれたから、ウィスドムさんの頭痛を失くす方法も知っているはず。
そう思いながら答えを待っていると……。
「簡単な話ですニャ。あの女の頭の中に現在蠢いてるものが魔法言語だって、自身の頭に認識させたら良いんですニャ」
「認識……?」
「ニャ~……、分かり易く言いますとニャ。板があってそこには丸いあニャがひとつありますニャ、それが魔術を認識する為のものだとしますニャ。
それなのに、魔法言語は複雑な形をしていますから穴に通らないですニャ。ニャから、それが出来る穴を用意してやれば良いんですニャ」
…………良く分からない。けど、理解しないと! そう思いながら、必死に噛み砕こうとするけれど……やっぱり理解出来ない。
「ニャ~~。要するにですニャ、簡単ニャ魔法を勇者様が使ってみせたら良いですニャ。そうすればきっと頭が認識するはずですニャ」
「えっ!? …………わ、わかった。でも、魔法なんて……僕使えないよ?」
分かり易いサタニャエルの言葉に納得した僕だけど、魔法が使えないという事にしょんぼりしてしまった。
だけど、2人には問題が無いように見えた。
「大丈夫ですニャ。勇者には必ず魔法を使う才能がありますニャ。ニャから、一緒に唱えますニャ」
「わ、わかった」
「それじゃあ、行きますニャ――『光』」
「『ひ、ひか……うぅ、『ひきゃ――」
舌を巻くような感じに喋っているからか上手に喋れない。
チラリと見たウィスドムさんはボロボロで膝をついていた。それなのに、諦めようとはしていない。
早く言わないと、早く、早く!
「慌てなくても良いですニャ。ゆっくりでも良いから、丁寧に言うんですニャ」
「う、うん。……『ひか、り』…………『ひ・か・り』――え?!」
それを口にした瞬間、ポワッと手から光を放ち始めた。
これが、魔法なの? って、ウィスドムさんっ!!
唖然としていた僕だったけど、すぐにウィスドムさんのほうを振り向いた。
けれどその時、僕が見たのはウィスドムさんの頭に氷がぶつかる瞬間だった。
「ウィ、ウィスドムさんっ!!」
倒れていくウィスドムさんの姿に、僕は驚いた声を上げる。
けど、倒れる瞬間、ウィスドムさんは僕を見た……様な気がする。
ううん、気のせいじゃない。本当に見ていた。だから、次に聞こえてきた声に僕は安堵した。
「『風』『放出』――――!!」
直後、激しい風が結界内に吹き荒れた。
―――――
H30.1.23
「魔方陣」を「魔術陣」に変更
試合が始まった瞬間、ウィスドムさんは魔術を使わないで後ろに跳んだだけだった。
ウィスドムさんのことだから、凄い魔術を使ってドコーンのドドーンってやってしまうものだと思ってたのに……。
そう思っていると、ウィスドムさんの足が凍ってしまった。
「ああっ!?」
それを見た僕は声を上げてしまう。
そんな僕の隣ではサタニャエルが少し引き気味に呟く声が聞こえる。
「うわ、あの爺さん……凍りつかせた後に、圧縮されるようにしているニャ……。あんなの全身に受けたら、下手すれば骨折れるニャよ?」
「何と言うか、呪詛交じりですワンね。プライドが高そうですワン」
ウィスドムさんは凍りつかせた足を魔術で溶かそうとしているのか、地面に魔術陣が広がっていくのが見えた。
だけど、ある程度の大きさになった瞬間、魔術陣は突然消えてしまった。
もしかして……、ウィスドムさん。頭が痛いの……治っていないの?
そしてウィスドムさんの具合の悪さをチャンスと見たお爺さんは、ウィスドムさんへと魔法で創り出した石を大量に放ち始めた。
小さな石が一つ一つ当たる度に、ウィスドムさんの体に傷が出来……痛みに彼女の口から呻きが洩れる。
だから僕は結界の近くまで駆け寄ると、勝負を中止するように求めた。
けれどそれはウィスドムさんに拒否された。
「どうして? 具合が悪いなら、また後で勝負したら良いのに…………!」
「人間負けられない戦いがあるんです、勇者様」
「あ、え、っと……?」
「自分のことはお気になさらずに。……それにしても、酷すぎるんじゃないか……」
僕の言葉を聞いたと思う兵士の人がそう言っていた。
ママも、下がることが出来ない戦いがあるって言ってたよね?
そう言う、事なのかな……? ギュッと拳を握り締めながら、僕はウィスドムさんを見つめる。
後ろに控えるサタニャエルとワンエルも、ウィスドムさんを見ていたようで……。
「うにゃー……、これは厳しいと思うニャ。魔法言語を読み解けていないから、ごっちゃになり過ぎているニャ」
「いったい誰がこんなことをしたのですかワン?」
「心当たりはありますニャ。けど、ここでは言いたくないですニャ」
「ふ、ふたりともっ。ウィスドムさんがどうなってるのか知ってるの?!」
こっそりと話す2人に僕が詰め寄ると、2人はちょっとだけビクッとしたけど……すぐに僕を見てきた。
「は、はいですニャ。今あの女の頭の中には魔法を使うための知識が送り込まれていますニャ。でもそれを頭が認識していないから、頭痛を起こしていますニャ」
「頭が痛いって、そう言うことだったんだ……。よ、良くする方法は無いのっ?!」
サタニャエルが僕に説明をしてくれたから、ウィスドムさんの頭痛を失くす方法も知っているはず。
そう思いながら答えを待っていると……。
「簡単な話ですニャ。あの女の頭の中に現在蠢いてるものが魔法言語だって、自身の頭に認識させたら良いんですニャ」
「認識……?」
「ニャ~……、分かり易く言いますとニャ。板があってそこには丸いあニャがひとつありますニャ、それが魔術を認識する為のものだとしますニャ。
それなのに、魔法言語は複雑な形をしていますから穴に通らないですニャ。ニャから、それが出来る穴を用意してやれば良いんですニャ」
…………良く分からない。けど、理解しないと! そう思いながら、必死に噛み砕こうとするけれど……やっぱり理解出来ない。
「ニャ~~。要するにですニャ、簡単ニャ魔法を勇者様が使ってみせたら良いですニャ。そうすればきっと頭が認識するはずですニャ」
「えっ!? …………わ、わかった。でも、魔法なんて……僕使えないよ?」
分かり易いサタニャエルの言葉に納得した僕だけど、魔法が使えないという事にしょんぼりしてしまった。
だけど、2人には問題が無いように見えた。
「大丈夫ですニャ。勇者には必ず魔法を使う才能がありますニャ。ニャから、一緒に唱えますニャ」
「わ、わかった」
「それじゃあ、行きますニャ――『光』」
「『ひ、ひか……うぅ、『ひきゃ――」
舌を巻くような感じに喋っているからか上手に喋れない。
チラリと見たウィスドムさんはボロボロで膝をついていた。それなのに、諦めようとはしていない。
早く言わないと、早く、早く!
「慌てなくても良いですニャ。ゆっくりでも良いから、丁寧に言うんですニャ」
「う、うん。……『ひか、り』…………『ひ・か・り』――え?!」
それを口にした瞬間、ポワッと手から光を放ち始めた。
これが、魔法なの? って、ウィスドムさんっ!!
唖然としていた僕だったけど、すぐにウィスドムさんのほうを振り向いた。
けれどその時、僕が見たのはウィスドムさんの頭に氷がぶつかる瞬間だった。
「ウィ、ウィスドムさんっ!!」
倒れていくウィスドムさんの姿に、僕は驚いた声を上げる。
けど、倒れる瞬間、ウィスドムさんは僕を見た……様な気がする。
ううん、気のせいじゃない。本当に見ていた。だから、次に聞こえてきた声に僕は安堵した。
「『風』『放出』――――!!」
直後、激しい風が結界内に吹き荒れた。
―――――
H30.1.23
「魔方陣」を「魔術陣」に変更
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
22
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる