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第63話 ウィスドム、気づく。
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「勝負方式は、相手が降参するまで……で宜しいですかな?」
「分かったわ」
「では、魔術が拡散しない為の結界を展開します」
そう言って、老人は手を上げる。
すると、誰かが居たらしく……訓練場内のわたしと老人が立つ周囲に何か膜が張られる。
……結界だ。どうやら、魔術師の勝負用に城に用意してはいたようだ。
結構な威力の魔術だって防いでくれるだろう。だったら、遠慮は要らないはず。
「そこの兵士、勝負の合図を送ってくれ」
「は、はっ!」
「彼が開始を告げてから勝負と行きましょう」
老人の言葉に、わたしは頷くと距離を取るために歩き出す。
一定の距離を取り、杖を構える。対する老人も杖を構えており、わたしを見る。
「先に呪文を唱えていても構わないのですよ?」
「そう言う貴方こそ、唱えておかなくても良いの?」
「ええ、私は年上なので、若者に甘いのですよ」
良く言う。そんな事をしなくても自分は勝てる。という現れでしょ?
だから、完膚なきまでに倒す。そう思いながら、兵士の勝負開始の合図を待つ。
とりあえずは、何を使う? ヘルファイア・エクスプロージョン? ……駄目だ、使ったら自分にも被害がありそうだ。
だったら、アロー系? 風属性に他の属性混ぜたウインド系?
何を使う? 如何する? ……考えるために思考を働かせる。けれど最悪なことに頭の中をまたも聞き慣れない言葉と見慣れない文字が埋め尽くし始めていた。
「くっ、こんなときに……!」
「――――始めっ!!」
軋む頭、その痛みに顔を歪めた瞬間――兵士が腕を上げたのが見えた。
直後、老人の詠唱が聞こえる。
「氷よ、我が敵に苦痛を込めた氷結の戒めを与えなさい! アイス・ロック!!」
「しまっ!? っくぅぅ――!!?」
詠唱が聞こえ、青い魔術陣が見えた瞬間――地面を蹴ってその場から移動をする。
その直後、わたしへと氷の塊が放たれた。
直前に移動したから直撃は避けられた。……けれど、移動するのが遅かったようでわたしの左足が氷の塊にぶつかった。
本来なら氷の固まりは左足を殴打するように撃ちこまれるはずだった。
しかし、老人が紡いだ詠唱は氷の戒めだ。だから、わたしの左足に命中した氷の塊はわたしの左足を呑み込み……動きを止めた。
直後に来る氷の重み、それは受けた者への動きを阻害し……更には、氷が左足を締め付けて痛みを起こした。
そういえば、苦痛を込めたって言っていた。
「危なかった……。あのまま命中してたら、全身ギッシギシにされていたってわけね」
「ちっ……。あのまま凍っておれば良いものを……。だが、私の力を見せつけるために利用させて貰いましょうかね」
そう言って、老人は小さく何かを詠唱し始める。
さっきは聞こえるように、と言うか開幕早々のパフォーマンスを兼ねて大きな声で言ったのだろう。早く、足の氷を溶かして移動しないと。
「風よ、炎を纏いて――――っく!?」
術式を組み上げ、魔術陣を展開させようとした瞬間――わたしの頭に再び頭痛が襲いかかり、展開されようとしていた魔術陣は割れて消失し、術式が霧散して行く。
マズい、早く……早く術式を組み上げないと!!
「調子が悪いように見えますが、勝負は時の運と言います。ですから、行かせてもらいましょうかね!」
「っ!!」
「土よ、固まり無数の弾を撃ち出しなさい! ストーン・バレット!!」
「く――あああああぁぁっ!!」
黄色の魔術陣が展開されると老人の周囲に、石礫が現れ――一斉に放たれる。
逃げようにも左足の重石となった氷は重く……先程のように移動が出来ない。咄嗟に顔を両手で覆った瞬間、石礫がわたしに降り注いだ。
使用者の性格を表しているからだろう、石礫は一つ一つはあまり痛くないのだけれど……幾度となく当たって痛みを覚える。
頭の激痛、体の痛み、痛い、痛い……。一方的に嬲られる様子に、周囲の兵士達から戸惑うような声が聞こえた。
その声と視線が向けられる中、グラリと体がふら付く。……けれど、倒れないように右足に力を込めて地面を踏み締める。
そんなわたしを心配してか、結界の側までヨシュアが近づいていた。
「ウィスドムさんっ!! あのっ、中止してください! ウィスドムさんは体調が悪くて……!!」
「いい、からっ! ヨシュアは……、見守っていて!!」
「でもっ!」
「勇者様、彼女もそう言っておられるのですから、信じてあげてはどうですかな? まあ、それが最後の言葉となるでしょうが!!」
心配するヨシュアの声を遮るように、わたしは叫ぶ。
そして自分の勝利を確信している老人は、ヨシュアにそう言う。
何を、勝った気で……いるの? わたしは、まだやれる……!
そう心で思うけれど、石礫によって痛めつけられた体は傷付き痛い、握り締めていた杖は何時の間にか落ちていたらしい。
白熱した戦いを期待していたであろう兵士達からの老人の容赦無さに非難の声が聞こえる。
……そんな中、わたしは膝を付いてしまった。
「さて、降参しますか? 今なら言う機会を与えますが、いかがなさいますかな?」
「こうさん、なんて……する、わけないっ」
「そうですか。でしたら、気絶させていただきましょうか。氷よ、固まりを撃ち出せ! アイス・ショット!!」
呆れたように息を吐き、老人はわたしに杖を向け青い魔術陣を展開させる。直後、わたしの頭目掛けて――氷が放たれた。
握り拳ほどの大きさの氷が、ゴッと頭を殴りつけ……わたしはゆっくりと倒れていく。
……わたしは、負ける……? これで、おわり……?
ぐわんぐわんと頭が揺れる中、で……わたしは、ヨシュアを……みる。
かれは、なにかをさけんでいる。……わたしの名前?
それとも――『ひか、り……?』
そんな風にヨシュアが言ってるふうに……聞こえた。瞬間、ポッと彼の手に光が見えた。
かちり、――と、何かがはまった…………。
―――――
H30.1.23
「魔方陣」を「魔術陣」に変更。
「分かったわ」
「では、魔術が拡散しない為の結界を展開します」
そう言って、老人は手を上げる。
すると、誰かが居たらしく……訓練場内のわたしと老人が立つ周囲に何か膜が張られる。
……結界だ。どうやら、魔術師の勝負用に城に用意してはいたようだ。
結構な威力の魔術だって防いでくれるだろう。だったら、遠慮は要らないはず。
「そこの兵士、勝負の合図を送ってくれ」
「は、はっ!」
「彼が開始を告げてから勝負と行きましょう」
老人の言葉に、わたしは頷くと距離を取るために歩き出す。
一定の距離を取り、杖を構える。対する老人も杖を構えており、わたしを見る。
「先に呪文を唱えていても構わないのですよ?」
「そう言う貴方こそ、唱えておかなくても良いの?」
「ええ、私は年上なので、若者に甘いのですよ」
良く言う。そんな事をしなくても自分は勝てる。という現れでしょ?
だから、完膚なきまでに倒す。そう思いながら、兵士の勝負開始の合図を待つ。
とりあえずは、何を使う? ヘルファイア・エクスプロージョン? ……駄目だ、使ったら自分にも被害がありそうだ。
だったら、アロー系? 風属性に他の属性混ぜたウインド系?
何を使う? 如何する? ……考えるために思考を働かせる。けれど最悪なことに頭の中をまたも聞き慣れない言葉と見慣れない文字が埋め尽くし始めていた。
「くっ、こんなときに……!」
「――――始めっ!!」
軋む頭、その痛みに顔を歪めた瞬間――兵士が腕を上げたのが見えた。
直後、老人の詠唱が聞こえる。
「氷よ、我が敵に苦痛を込めた氷結の戒めを与えなさい! アイス・ロック!!」
「しまっ!? っくぅぅ――!!?」
詠唱が聞こえ、青い魔術陣が見えた瞬間――地面を蹴ってその場から移動をする。
その直後、わたしへと氷の塊が放たれた。
直前に移動したから直撃は避けられた。……けれど、移動するのが遅かったようでわたしの左足が氷の塊にぶつかった。
本来なら氷の固まりは左足を殴打するように撃ちこまれるはずだった。
しかし、老人が紡いだ詠唱は氷の戒めだ。だから、わたしの左足に命中した氷の塊はわたしの左足を呑み込み……動きを止めた。
直後に来る氷の重み、それは受けた者への動きを阻害し……更には、氷が左足を締め付けて痛みを起こした。
そういえば、苦痛を込めたって言っていた。
「危なかった……。あのまま命中してたら、全身ギッシギシにされていたってわけね」
「ちっ……。あのまま凍っておれば良いものを……。だが、私の力を見せつけるために利用させて貰いましょうかね」
そう言って、老人は小さく何かを詠唱し始める。
さっきは聞こえるように、と言うか開幕早々のパフォーマンスを兼ねて大きな声で言ったのだろう。早く、足の氷を溶かして移動しないと。
「風よ、炎を纏いて――――っく!?」
術式を組み上げ、魔術陣を展開させようとした瞬間――わたしの頭に再び頭痛が襲いかかり、展開されようとしていた魔術陣は割れて消失し、術式が霧散して行く。
マズい、早く……早く術式を組み上げないと!!
「調子が悪いように見えますが、勝負は時の運と言います。ですから、行かせてもらいましょうかね!」
「っ!!」
「土よ、固まり無数の弾を撃ち出しなさい! ストーン・バレット!!」
「く――あああああぁぁっ!!」
黄色の魔術陣が展開されると老人の周囲に、石礫が現れ――一斉に放たれる。
逃げようにも左足の重石となった氷は重く……先程のように移動が出来ない。咄嗟に顔を両手で覆った瞬間、石礫がわたしに降り注いだ。
使用者の性格を表しているからだろう、石礫は一つ一つはあまり痛くないのだけれど……幾度となく当たって痛みを覚える。
頭の激痛、体の痛み、痛い、痛い……。一方的に嬲られる様子に、周囲の兵士達から戸惑うような声が聞こえた。
その声と視線が向けられる中、グラリと体がふら付く。……けれど、倒れないように右足に力を込めて地面を踏み締める。
そんなわたしを心配してか、結界の側までヨシュアが近づいていた。
「ウィスドムさんっ!! あのっ、中止してください! ウィスドムさんは体調が悪くて……!!」
「いい、からっ! ヨシュアは……、見守っていて!!」
「でもっ!」
「勇者様、彼女もそう言っておられるのですから、信じてあげてはどうですかな? まあ、それが最後の言葉となるでしょうが!!」
心配するヨシュアの声を遮るように、わたしは叫ぶ。
そして自分の勝利を確信している老人は、ヨシュアにそう言う。
何を、勝った気で……いるの? わたしは、まだやれる……!
そう心で思うけれど、石礫によって痛めつけられた体は傷付き痛い、握り締めていた杖は何時の間にか落ちていたらしい。
白熱した戦いを期待していたであろう兵士達からの老人の容赦無さに非難の声が聞こえる。
……そんな中、わたしは膝を付いてしまった。
「さて、降参しますか? 今なら言う機会を与えますが、いかがなさいますかな?」
「こうさん、なんて……する、わけないっ」
「そうですか。でしたら、気絶させていただきましょうか。氷よ、固まりを撃ち出せ! アイス・ショット!!」
呆れたように息を吐き、老人はわたしに杖を向け青い魔術陣を展開させる。直後、わたしの頭目掛けて――氷が放たれた。
握り拳ほどの大きさの氷が、ゴッと頭を殴りつけ……わたしはゆっくりと倒れていく。
……わたしは、負ける……? これで、おわり……?
ぐわんぐわんと頭が揺れる中、で……わたしは、ヨシュアを……みる。
かれは、なにかをさけんでいる。……わたしの名前?
それとも――『ひか、り……?』
そんな風にヨシュアが言ってるふうに……聞こえた。瞬間、ポッと彼の手に光が見えた。
かちり、――と、何かがはまった…………。
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H30.1.23
「魔方陣」を「魔術陣」に変更。
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