駄々甘ママは、魔マ王さま。

清水裕

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第62話 ウィスドム、喧嘩を売られる。

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 早朝……まだ日の光が差し込まない時間にわたしは目覚める。
 数日前から世話になっているハジメーノ王国の王城内の一室。
 フカフカの天蓋付きのベッドに寝転がりながら、ゆっくりと目を閉じる……。眠るためじゃなくて、瞑想をするためだ。

【■■】【■■】【■】【■■】【■■■】【■■】
【■■■】【■■】【■】【■■】【■】
【■】【■■】【■■■】【■】
【■■】【■■■】【■■】
【■■■】【■■】
【■■】

 すると、頭の中に……黒く塗り潰された文字らしき物と何かが囁く声が響き渡る。
 その文字を何とか読み解こうと意識を集中させ、言葉を聞こうと耳を澄ませる。

【ひ】【み■】【■ぜ】【つ■】【ひ■り】【■み】
【た■■う】【つ■】【■し】
【■くは■】【■う■つ】
【ほう■■■】【■■】【■■■】
【■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■】

「――――っっ!!」

 一つ一つ噛み砕くように読んでいこうとするけれど、その文字の速さにわたしの頭は次々と黒に塗り潰されていく。
 聞こうとしている言葉も、徐々に言葉から耳障りな音へと変わって行き……、頭は限界を感じた。
 その瞬間、わたしは瞼をバチッと開け――激しい呼吸をする。

「はあ……はぁ、はあ…………は、あ…………っ。あ…………っくぅぅっ!?」

 ドクンドクンと胸が激しく脈を打ち、全身からは激しい汗が吹き零れていた。
 集中していたからだろう。そう思った直後、頭に激しい激痛が襲ってきた。

「く……ぅ、ぅ……!」

 その激痛を抑えるように、両手で頭を抱えるようにしながらベッドの中で丸くなる。
 けれど……そんな行為で頭の頭痛は消える事は無い。
 だけど、そうしていると痛みが安らぐ様な気がするのだ。
 …………どれだけの時間、丸くなっていたのかは分からない。
 ただ分かるのは、室内の窓のカーテン越しから日の光が覗いていることだけ。

「…………、そろそろ起きないと」

 小さく呟きながら、ゆっくりとベッドから起き上がる。
 頭痛は……鈍い痛みが続いているけれど、普通の生活には支障がない。
 だから、わたしは起き上がり……着替えを行う。
 …………その前に、城の給仕に頼んで濡れた布を用意してもらい、全身から吹き出た汗を拭いた。
 身支度を整え、朝食の席に向かうと……わたし達と朝食を取る王妃から今日はヨシュアが魔術の事を知ってもらって、彼が扱える魔術の適正を調べる事を告げられた。
 教える人物は魔術に精通している年季の入った人物らしい。

「あの、僕だけじゃなくて……ウィスドムさんもどうですか?」

 そうヨシュアが訊ねて来たので、ヨシュアの事を見守ると同時に一応はどのように教えるのか気になったからついて行く事に決めた。
 ……正直、頭痛はまだ残るけれど。
 …………まあ、結果的に言うと魔術を教える相手である老人は魔術こそ至高であり、魔法は知る者が居ないから覚える必要が無いと言っているタイプだった。
 魔法を学ぶための道具と考えられる魔道具がピルグリムや、マジカールがあったと言われる土地から少量ながらも出土しているのを知っていたわたしは、老人に対して挑発的な言動でそれを言ってしまった。
 その言葉に腹を立てたのか、いや……そもそも老人からわたしに向けられる視線が相手を見下すような感じがしたのだから、どっちもどっちだろう。
 その結果、わたしはその老人と屋外にある訓練場で決闘をすることとなった。
 自惚れ? そんなつもりはない、もし今も自惚れていたなら……わたしはそんな自分を叱咤する。
 だからヨシュア、離れて見ていて。

「勝負を行う前に、ひとつ賭けでもしませんか?」
「賭け?」

 ヨシュアが離れ、わたしと向き合うように立つ老人がわたしに言う。
 と言うか勝負に自信があるのだろうか?

「賭けは……、そうですな。貴女が勇者様の御供を辞して、代わりに私を推薦してくれること……でしょうか」
「……要するに、わたしは実力がない小童だ。だから自分が勇者の隣に立つのが相応しい。と言いたいわけ?」
「さあ? どうでしょう? 私はそう思っていませんが、貴女自身がそう思っているのでは? ははっ」

 ……わたしでは力不足だ。老人の顔がわたしに向けてそう物語っている。
 自分には実力がある……という事なのだろうか? 分からない。
 ……けど、それ以上に。ヨシュアの隣にこの老人が立っているという想像がわたしの心をざわつかせた。

 ヨシュアの隣は、今の所わたしとアホの2人で十分なのよ。
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