60 / 88
第59話 ヨシュア、料理を作る。
しおりを挟む
「あの、ちょっと良いですか?」
「ゆ、勇者様っ!? この様な場所にどうなされたのですか?」
厨房に顔を少しだけ出しながら、僕は中へと声をかける。
すると、コックさんが僕に気づいて驚いた声を上げた。
そしてその声に釣られるようにして、他のコックさん達も入口に顔を向けてくる。
集中する視線に、何と言うか恥かしい気持ちになるけれど……僕は勇気を振り絞る。
「勇者様、どうされましたか? 何か食べ物に不満でもあったのですか?」
僕が勇気を振り絞り正面を見ると同時に、コックさん達の中から一番帽子が長いコックさんが出てきた。
もしかしたら、騎士団長さんみたいに偉い人……なのかな?
っとと、考えてたらダメだよね? 言うことを言わないと。
「食べ物に不満は無いです。何時も美味しいご飯をありがとうございます」
「ははっ、ありがとうございます。そう言って貰えるのが料理人冥利につくものです」
「それで……今日はお願いがあって来ました」
「ほう? なんでしょうか?」
「あの、ぼ……僕に、料理を教えてくれませんかっ!」
僕は、厨房に響き渡るように言った。料理を教えて欲しいという理由も……。
それを聞いて、コックさん達は納得したように頷き合った。
「なるほど……。昨日から全然食べ物が減らなかった理由はそれでしたか。良いでしょう、簡単な料理ですが教えさせていただきます」
「あ、ありがとうございますっ!」
「いえいえ、お礼などはいりません。さあ、早く作りましょう」
「はいっ!」
一番偉いコックさん……コック長さんに教えて貰いながら、僕は料理を作り始める。
けれど、初めての料理という事と、作った物が軟らかすぎたために……何度もひっくり返す時に崩れてしまったり、焦がしたりした。
だけど……何度も失敗して、不恰好ながらもようやく料理は完成した。
それを周りのコックさん達が温かい眼差しで見つめてくれていて、最後にコック長さんが……。
「勇者様、上手に出来なくても良いのです。その人のために想いを込めるのが良いのです」
「ありがとうございました。その、いってきますっ」
「いってらっしゃいませ。……さあ、仕込みの続きをしましょう!!」
僕は出来上がった料理を持って、厨房を離れ……暫く歩いて、ある部屋の前へと立っていた。
すぅ、はぁ、と息を吸って吐いてから、ノックする。
――コンコン。
――ぺたぺたぺた…………。
ノックに気づいたのか、部屋に居る人はゆっくりと扉の前へと近づいて来ているようで、歩く音が聞こえる。
そして、暫くすると具合が悪そうな声が聞こえてきた。
「だ、だれアルかぁ…………?」
「あの、僕です。ヨシュアですけど……、ファンロンさん。大丈夫ですか?」
「よしゅあアルか? 如何したアルか……?」
僕だって分かったからなのか、ファンロンさんが扉を開けて顔を見せる。
けれどその顔は、元気かと聞かれたら具合が悪いって言いたくなるような、青白い顔をしていた。
僕が騎士の人達の手を借りてスライムを倒してた時も具合が悪そうだったけど、先程よりももっと具合が悪そうだった。
やっぱり、食べても吐いちゃうから、元気が無いんだろうな……。
「えっと、ご飯を作ってきたのですけど……食べますか?」
心配そうにファンロンさんを見ながら、僕は料理が載ったトレーを見せる。
僕の持つトレーを見て、一瞬瞳を輝かせたけれど……、申し訳なさそうな顔に戻った。
「駄目アルよ……。ファンロン食べたらきっと、また吐いちゃうアル……。そうしたら、よしゅあに申し訳ないアル……」
「大丈夫ですよ。ファンロンさんは具合が悪い。だから、僕は怒りません」
「…………わかった、アル……。じゃあ、中に入って欲しいアル」
そう言って、ファンロンさんは僕を部屋の中へと招いた。
ファンロンさんの部屋は僕の部屋と同じ感じだった。多分、ウィスドムさんの部屋も同じなんだろうなぁ。
そんな事を思いながら、僕はファンロンさんが座った椅子の前のテーブルへと作ってきた料理を置く。
「えっと、初めて作ったから……美味しくないかも知れませんけど、どうぞ」
料理の蓋を開けると、フワっと甘い香りが周囲に漂ってくる。
「甘い匂いアル……。これは、何アルか?」
「これはコック長さんに教えて貰った料理ですけど、栄養満点トロトロパンです」
僕が作った料理、それは柔らかいパンを輪切りにしてたっぷりの蜂蜜とミルク、卵を混ぜた物にじっくりと浸して、凄く軟らかくなった物を低温で温めたフライパンでじっくりと焼いた料理。
失敗した物を僕も食べてみたけれど、口に入れた瞬間……トロ~っと溶けて甘い味わいが口の中へと広がっていった。
この食べ物は初めて食べたけど……ケーキみたいに生地がふんわりとしていない分、トロッとした染み込ませた液の甘みが強く感じることが出来た。
「美味しそうアルね……。けど、食べれるか不安アル……」
「そう、ですか……」
「でも……、よしゅあが作ってくれたから、一口だけでも食べてみるアル」
「わ、わかりましたっ。えっと、それじゃあ……あーん、してください」
まるで決死の覚悟、と言った感じに言うファンロンさんに僕も緊迫してしまいながらも……、トロトロパンをひとつフォークで刺すと、ファンロンさんへと持っていく。
すると、ファンロンさんは……顔を真っ赤にしながらモジモジとしていた。
……どうしたのかな?
「ゆ、勇者様っ!? この様な場所にどうなされたのですか?」
厨房に顔を少しだけ出しながら、僕は中へと声をかける。
すると、コックさんが僕に気づいて驚いた声を上げた。
そしてその声に釣られるようにして、他のコックさん達も入口に顔を向けてくる。
集中する視線に、何と言うか恥かしい気持ちになるけれど……僕は勇気を振り絞る。
「勇者様、どうされましたか? 何か食べ物に不満でもあったのですか?」
僕が勇気を振り絞り正面を見ると同時に、コックさん達の中から一番帽子が長いコックさんが出てきた。
もしかしたら、騎士団長さんみたいに偉い人……なのかな?
っとと、考えてたらダメだよね? 言うことを言わないと。
「食べ物に不満は無いです。何時も美味しいご飯をありがとうございます」
「ははっ、ありがとうございます。そう言って貰えるのが料理人冥利につくものです」
「それで……今日はお願いがあって来ました」
「ほう? なんでしょうか?」
「あの、ぼ……僕に、料理を教えてくれませんかっ!」
僕は、厨房に響き渡るように言った。料理を教えて欲しいという理由も……。
それを聞いて、コックさん達は納得したように頷き合った。
「なるほど……。昨日から全然食べ物が減らなかった理由はそれでしたか。良いでしょう、簡単な料理ですが教えさせていただきます」
「あ、ありがとうございますっ!」
「いえいえ、お礼などはいりません。さあ、早く作りましょう」
「はいっ!」
一番偉いコックさん……コック長さんに教えて貰いながら、僕は料理を作り始める。
けれど、初めての料理という事と、作った物が軟らかすぎたために……何度もひっくり返す時に崩れてしまったり、焦がしたりした。
だけど……何度も失敗して、不恰好ながらもようやく料理は完成した。
それを周りのコックさん達が温かい眼差しで見つめてくれていて、最後にコック長さんが……。
「勇者様、上手に出来なくても良いのです。その人のために想いを込めるのが良いのです」
「ありがとうございました。その、いってきますっ」
「いってらっしゃいませ。……さあ、仕込みの続きをしましょう!!」
僕は出来上がった料理を持って、厨房を離れ……暫く歩いて、ある部屋の前へと立っていた。
すぅ、はぁ、と息を吸って吐いてから、ノックする。
――コンコン。
――ぺたぺたぺた…………。
ノックに気づいたのか、部屋に居る人はゆっくりと扉の前へと近づいて来ているようで、歩く音が聞こえる。
そして、暫くすると具合が悪そうな声が聞こえてきた。
「だ、だれアルかぁ…………?」
「あの、僕です。ヨシュアですけど……、ファンロンさん。大丈夫ですか?」
「よしゅあアルか? 如何したアルか……?」
僕だって分かったからなのか、ファンロンさんが扉を開けて顔を見せる。
けれどその顔は、元気かと聞かれたら具合が悪いって言いたくなるような、青白い顔をしていた。
僕が騎士の人達の手を借りてスライムを倒してた時も具合が悪そうだったけど、先程よりももっと具合が悪そうだった。
やっぱり、食べても吐いちゃうから、元気が無いんだろうな……。
「えっと、ご飯を作ってきたのですけど……食べますか?」
心配そうにファンロンさんを見ながら、僕は料理が載ったトレーを見せる。
僕の持つトレーを見て、一瞬瞳を輝かせたけれど……、申し訳なさそうな顔に戻った。
「駄目アルよ……。ファンロン食べたらきっと、また吐いちゃうアル……。そうしたら、よしゅあに申し訳ないアル……」
「大丈夫ですよ。ファンロンさんは具合が悪い。だから、僕は怒りません」
「…………わかった、アル……。じゃあ、中に入って欲しいアル」
そう言って、ファンロンさんは僕を部屋の中へと招いた。
ファンロンさんの部屋は僕の部屋と同じ感じだった。多分、ウィスドムさんの部屋も同じなんだろうなぁ。
そんな事を思いながら、僕はファンロンさんが座った椅子の前のテーブルへと作ってきた料理を置く。
「えっと、初めて作ったから……美味しくないかも知れませんけど、どうぞ」
料理の蓋を開けると、フワっと甘い香りが周囲に漂ってくる。
「甘い匂いアル……。これは、何アルか?」
「これはコック長さんに教えて貰った料理ですけど、栄養満点トロトロパンです」
僕が作った料理、それは柔らかいパンを輪切りにしてたっぷりの蜂蜜とミルク、卵を混ぜた物にじっくりと浸して、凄く軟らかくなった物を低温で温めたフライパンでじっくりと焼いた料理。
失敗した物を僕も食べてみたけれど、口に入れた瞬間……トロ~っと溶けて甘い味わいが口の中へと広がっていった。
この食べ物は初めて食べたけど……ケーキみたいに生地がふんわりとしていない分、トロッとした染み込ませた液の甘みが強く感じることが出来た。
「美味しそうアルね……。けど、食べれるか不安アル……」
「そう、ですか……」
「でも……、よしゅあが作ってくれたから、一口だけでも食べてみるアル」
「わ、わかりましたっ。えっと、それじゃあ……あーん、してください」
まるで決死の覚悟、と言った感じに言うファンロンさんに僕も緊迫してしまいながらも……、トロトロパンをひとつフォークで刺すと、ファンロンさんへと持っていく。
すると、ファンロンさんは……顔を真っ赤にしながらモジモジとしていた。
……どうしたのかな?
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

アレク・プランタン
かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった
と‥‥転生となった
剣と魔法が織りなす世界へ
チートも特典も何もないまま
ただ前世の記憶だけを頼りに
俺は精一杯やってみる
毎日更新中!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


ダンマス(異端者)
AN@RCHY
ファンタジー
幼女女神に召喚で呼び出されたシュウ。
元の世界に戻れないことを知って自由気ままに過ごすことを決めた。
人の作ったレールなんかのってやらねえぞ!
地球での痕跡をすべて消されて、幼女女神に召喚された風間修。そこで突然、ダンジョンマスターになって他のダンジョンマスターたちと競えと言われた。
戻りたくても戻る事の出来ない現実を受け入れ、異世界へ旅立つ。
始めこそ異世界だとワクワクしていたが、すぐに碇石からズレおかしなことを始めた。
小説になろうで『AN@CHY』名義で投稿している、同タイトルをアルファポリスにも投稿させていただきます。
向こうの小説を多少修正して投稿しています。
修正をかけながらなので更新ペースは不明です。
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる