駄々甘ママは、魔マ王さま。

清水裕

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第55話 魔マ王、心の奥に問いかける。

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『僕は2人と仲良くなりたいし……ママも仲間を信じろって言ってたから……』

 うーん、ヨシュア。良いこと言ったわねぇ♪
 周囲でヨシュアを無視して自分勝手なことをしたメスどもがもがき苦しんでいる中で、私は【ママラブ魔法】を使って現在の様子を見ていたわぁ。
 時折、魔法言語を無理矢理書き込むお仕置きを実行中のメスが悲鳴を上げてちょっと五月蝿いけれど、ヨシュアが可愛いから無視してあげてるわ~。
 本当だったら、もっと酷いことをして上げる所だったわよぉ?
 そう思っていると、メスどもから呻き声が洩れ始めたのに気づいた。

「――めん、さい……」
「ご、――おげ……なさ……うごげ…………」

 そこでようやく、私はメスどもに視線を移したけれど……ちょっと驚いてしまったわ。
 だって、メスどもがボロボロと涙を流しているんですもの。
 その涙はどういう意味での涙なのかしら~? ちょっと聞いてみることにしましょうか。

「貴女達、どうして泣きながら……謝っているのかしら~?」
「ご、め……な……い」
「ごめ……うぐぐ……なさ…………ル」
「ん~……、まともに話せないわよねぇ? 仕方ない、ちょっと荒療治になるけど……視させて貰うわ~♪ えいっ」
「「ふぉぐっ!?」」

 ぶっ倒れているメスどもの胸の辺りに【ママラブ魔法】の鏡を表示させると、それぞれをメスどもの精神に直結させたわ~。
 行うときに激しい痛みと言うか激痛が走るけど、私にもヨシュアにも関係ないから気にしない♪
 初めに鏡に少しノイズが走ったけれど、すぐに虚ろな表情をしたメスどもの顔が表示されたわ。
 鏡に表示されているメスはそれぞれの深層意識、つまりは心の奥底の存在だから嘘偽り無く思った事を口にするの。

「貴女達、勇者への思いを話なさい」

 そう私が口にすると、心の奥底のメスどもはゆっくりと喋り始めたわ。

「わたしにとっての勇者、それは……物語の中のように、強く・気高く・逞しい……そんな素敵な勇者」
「ファンロン、ゆうしゃ、よくわからない……アル」
「ん~、片方はお馬鹿みたいだけど……、もう片方は勇者嫌いじゃなかったのかしら?」

 メスどもの勇者への思いを聞きながら、私は目がきついメスのほうに訊ねる。
 というか、本当に目が下手なモンスターよりもきついってどう言うことかしらね?
 あと、お馬鹿の子は後で聞くことにしましょう。先にこっちのメスよ。

「勇者は、嫌い……。だって、勇者を理由に……父も母も、家族全員が金儲けを企み、私欲のために動いているから」
「周りが原因で嫌いになったのね? それじゃあ、それが無かったら?」
「……好き。表立って嫌いな感情しか出ないけれど……、本当は勇者と旅が出来ると聞いて、嬉しかった。………………でも」

 でも? あ、なんだか、ヨシュアのことで凄く腹が立つ事を言われそうな気がするわぁ?
 そして、その予感は当たっていたわ。

「わたしが出会った勇者、それは物語に居るような強くて、気高くて、逞しい勇者なんかじゃなかった……。弱くて、ナヨナヨして、ママママ言ってる子供だった」
「よし殺そう」

 この鏡を叩き割ったらきっと精神が死ぬでしょうから、叩き壊しましょう。今すぐ壊しましょう。
 ヨシュアの悪口を言う奴はダイよ、死あるのみよ。

「だから、わたしは……心の何処かであの勇者を馬鹿にしていたし、名前を呼ばずに勇者としか言っていなかったし、蔑ろにしていた。
 なのに……そんなわたしと、仲良くなりたいって言ってる……。わたしは、勇者を……見ていなかったんだ」

 鏡に映るメスはそう呟き、涙をホロリと流したわぁ。
 …………正直気づくのが遅いって思うわ~。
 それとも、本と知識ばかりの生活で自分を表現出来なかったのかしらねぇ?
 ま、おいおい語るでしょうし、放っておきましょう。

「……とりあえず、壊すのは一旦止めて、お馬鹿な子のほうも聞いてみましょうか」

 そう言いながら、おばかなメスの鏡を見る。
 勇者が良く分からないって、言ってたわね~? じゃあ、こっちのほうはどうかしら?

「貴女は、ヨシュアの事をどう思っているのかしら~?」
「ヨシュア……、ゆうしゃのことアル? ゆうしゃは怒らないアル。ファンロン、食べるのに夢中になっててウィスは怒るのに、ゆうしゃは怒らないアル。ちょろいと思うアル」
「……ハンマー、ハンマーは何処かしら~?」

 おばかなメスは物凄く失礼だったわ。
 だから、バキャッてハンマーで鏡を壊す事を考えちゃった♪ っと、あったわ、ハンマー。
 片手にハンマーを握り締めて、パンパンと手に当てながら、にっこり笑顔で鏡に近づく私だったけれど……話は終わっていなかったようだったわ。

「でも、大事なところじゃ食べたら駄目だってわかったアル……。ファンロン、馬鹿だから言われないとわからないアル」
「言われなくても分からないといけないんじゃないかしらねぇ?」
「けど……自分から聞く事を覚えるべきだったアル。抑える事を知るべきだったアル……。仲間を大事にする事を覚えるべきだったアル……」

 そう言いながら、鏡の中のおばかなメスはボロボロと涙を流し始めたわ~。
 まあ、基本的に龍っていうのは群れるものじゃなくて、個々の存在だものねぇ。集団意識なんて無いわよね~?
 そんな風に思い始めて行くと、ちょっと冷静になってきたわぁ。

「……仕方ない。とりあえず、彼女達がヨシュアとどう接するか。そして、ヨシュアが彼女達にどう接するか……見て決めましょうか」

 私はそう呟きながら、鏡から彼女達の意識を切り離す。
 ……そういえば、気が立っていたからか、メス呼ばわりしてたわねぇ。……まあ良いけど。

「さ、それじゃあ……2人とも、そろそろ目覚めましょうか。ああ、お仕置きだから、暫く頭痛と吐き気は治まらないわよ~♪」

 鏡があったから、一応は話せていたけれど……現状は呻き声しか聞こえない。だけど、そんな事をお構い無しに私はそう言ってパンパンと手を叩くわ。
 すると、目の前にいた2人の精神は体のほうへと戻って行ったわ。
 そうしたらすぐに目が覚めるわよね~?

「…………って、ちょっと待って? ちょっと待って……」

 心配そうに見守りながら2人と一緒に居たいって言ったヨシュア、馬鹿にしていたのを改める2人……。
 あ、あれ……? もしかして、私……やったわけじゃないわよねぇ?

 自分がやってしまったのではないかと考えながら、私は急いで【ママラブ魔法】を使ってヨシュアの様子を見始めたわ。
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