上 下
52 / 88

第51話 ウィスドム、おのれのおろかさをしる。

しおりを挟む
 凄い、これは凄い魔術書だ……! 口止めの報酬というだけの事はある。
 そう思いながら、わたしは魔術書のページを捲りながら書かれている文字を目で追いかけていく。
 数日前にオーク共に放っていた魔術。それをもう少しスマートに簡略にする方法が乗っているし、理論上難しいと思われていた属性の魔術も分かり易く書かれている。
 その一文字一文字を噛み砕きながら、わたしはぶつぶつと呟きつつ……頭の中に魔術式を構築する。
 一つ一つの文字が形を持って行く、実際に試していないからどんな効果となるのかは分からない。けれど、どんな効果を産むのか分からなくても……何度も何度も長年これをやっていると楽しいものは楽しいものだった。

「…………うん?」

 何かフワッとした感覚がした。だけど、瑣末な事だと考えわたしは魔術書を読み進めて行く。
 ふわふわ、ユサユサと体が揺れる。……多分、体が揺れてるだけだろう。
 そう思いながら暫く読み続けて行くと、ドスッと体が揺さぶられてから……揺れは収まった。
 何だったのだろうか? 一瞬疑問に思ってしまったが、すぐに読書に戻り魔術書を読み進める。
 だが、突如魔術書が浮き上がり……いや、誰かに取られてしまった。

「なっ!? いったい何をする! 誰がこんなこ…………え?」
「ようやく気づいたか……」

 いったい誰がわたしの探求の邪魔をする! そう思いながら目を釣り上げて顔を上げた。……が、わたしを取り囲むように騎士達が立っていて、呆けてしまった。
 どういうこと? いったいどういう状況??
 右を見る、アホがアホ面下げて居た。左を見る……勇者を教会に送る時に張り切っていた暑苦しい騎士が青い顔をしていた。
 ……あ、これ何だかヤバイ予感?

「……さて、何を言いたいのか分かるか?」
「も、もうしわけありませんでした!」
「ファンロン、何で連れて来られたアル?」
「状況がわからない……」

 一番偉そうな立場に見える騎士……多分騎士団長がわたし達に訊ねると、暑苦しい騎士は頭を下げ、アホは首を傾げ、わたしは状況がついていけなかった。
 そんなわたし達の言葉に、騎士団長だと思われる騎士が呆れたように溜息を吐く。

「ならば一応説明させて貰おう。勇者様が今日教会に神の声を聞きに行ったのだが、戻ると誰も居なかったらしい」

 そう言いながら、わたし以外の2人を騎士団長はチラリと見る。
 見られたアホは首を傾げ、暑苦しい騎士のほうはますます顔を蒼ざめさせた。
 …………つまりあのアホが原因って事だろうか?

「本当ならば、御供の方がもう一人居たら良かったが……どうやら読書に夢中だったようで勇者様はお一人だったらしい」
「……………………」

 原因のひとつはわたしも含まれて居たらしい。
 あー……うん、正直、悪かったわ。王妃に対する疑問が解消された時点で、教会に向かっていたらばったり会えたかも知れないのに……。
 心でちょっとばかり悪いと思っていると、騎士団長は更に衝撃的なことを言った。

「更に一人になった勇者様のところに、優しい顔をした女が近づいたらしいが……勇者様の説明を聞くとどうも人攫いだったらしい」
「ひと……」
「さら?」
「いぃぃぃぃぃぃぃいぃいいいいい!?」

 信じられないことを聞いた、と思いながら訊ねるように聞くと……驚いた声が暑苦しい騎士から洩れた。
 五月蝿い、そう思いつつもわたしも驚いてしまっているのは確かだった。
 けれども同時に、勇者の弱さを改めて思い知……あ、思い返してみればレヴは1だったんだ……。
 そう考えると自分自身の行動に悪いことをしてしまったと考え始めてしまう。

「悪いことをしてしまった。そう思っているようだが……、もう遅い。何故なら――――私が、お仕置きするからぁ」
「「え?」」

 俯いていたわたしだったけれど、騎士団長の威厳のある声が不意に女性の声へと変わった事に驚き、顔を上げた。
 すると……、さっきまで居た騎士達が居なかった。
 それどころか、わたし達が連れられた部屋でもなかった……。
 あるのは、真っ白い空間。そこにわたしとアホと暑苦しい騎士だけが居た。

「ど、どこですかここはっ!?」
「これは……いったい?」
「アル!? ご飯まだアルかっ!?」

 戸惑うわたしと暑苦しい騎士、そしてアホはやっぱりアホだった。
 もう少しコイツには食欲以外の考えは無いのか? ……いや、わたしも同じような物か……。

「……それよりも、ここはいったい何処?」
「分かりません! 城にはこの様な場所は無かったはずです!!」
「何処にもご飯なさそうアル!」
「うん、アホは黙ってろ」

 わたしのスッパリと断ち切る一言に、アホは「酷いアルー!」と文句を言っているけれど無視をする。
 そういえば……、騎士団長から切り替わるように変わった女性の声、あれはいったい……。

「そろそろ良いかしら~?」
「「「!?」」」

 先程の、女性の声が空から響いた。
 その声にわたしと暑苦しい騎士はビクッとしたが、アホまでもビクッとしたのは驚いた。
 珍しい……一瞬そう思ってしまったわたしだったが、空から感じる気配に気づけば震えてしまっていた……。
 危険だ。下りてくるそれは、危険なものだ……あのアホよりも、遥かずっと……。
 そう心から感じている中、それは私達が立っている高さに降り立った……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

処理中です...