駄々甘ママは、魔マ王さま。

清水裕

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第47話 ヨシュア、初めての買い物をする。

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 お待たせしました。

 ―――――

 わいわい、がやがやと街の人たちが大通りにある果物や野菜、お肉が吊るされたお店の前で楽しそうに話したり、何かを出して代わりに物を貰っているのが見える。
 そんな光景が所々で見えて、出している物が数枚だったり、一枚だったりまちまちだった。

「もしかして、アレがウィスドムさんが言ってたお金で、交換しているんじゃなくて……買っているのかな?」

 そう呟きながら、僕は街の入口でウィスドムさんが言ってた事を思い出しつつ物を買っている人達を見る。
 物を買って行く人達はお金を払って、物を受け取り……買った人も、売った人も笑顔になって別れていく。
 そんな人たちの様子を見ながら僕も、何か買ってみたいなー……って思い始めていた。
 と、そんな事を考えているとサタニャエルがぴょぴょんと宙を蹴って、僕の肩に飛び乗ってきた。

(どうかしましたかニャ、勇者様?)
(あ、うん。僕、かいものって言うのを始めて見て……、ちょっとやってみたいなって思ったんだ)
(そうなのですかニャ? ニャったら、買い物をしてみては如何でしょうかニャ?)
(そうなんだけど……、何だか僕の持ってるお金は分かる人にしか見せたらダメだってウィスドムさんが言ってたんだ)

 けど、なんでダメなんだろう? まだ僕がおかねの価値を分かってないからかなぁ?
 うーん。と唸っていると、サタニャエルが僕の頬をポンポンと押してきた。あ、ぷにぷにして柔らかい……。

(ご主人様が勇者様に遺したお金は何なのかはなんとなく予想出来ていますニャ。ですから、わにゃくしが(人攫いから)入手したお金で買えば良いと思いますニャ)

 そう言うと、サタニャエルは何処からかお金を数枚ほど僕の手に出してきた。
 何処で手に入れたんだろう? まあでも、これでかいものが出来るんだよね?
 そう思いながら、僕はギュッとお金を握り締めるとどんなお店があるのかを見始める。
 ついさっき見たように果物を売っているお店、野菜を売っているお店、お肉が吊るされているお店やお魚を売っているお店もある。
 お魚はママと食べたことがある見慣れた物もあれば、初めて見る物もあった。
 あ、気づいたけど……ママが何時もデザートに出してくれた赤い木の実は無いなぁ。

「ワン! ハッハッハ……」
(ふむふむ、勇者様。駄犬せんぱいがまだ移動しないのかって聞いていますニャ)
(う、うん。移動……しようか)

 僕を見て尻尾を振りながら吠えたワンエルの言葉を訳してくれたサタニャエルに返事を返しながら、僕達は歩き出す。
 そんな僕達を見て、同じように道を行く人達から可愛いって声が聞こえる。
 時折、僕よりも小さな子達が「あ~、わんちゃん~♪ にゃーにゃーもいる~!」って言って僕達を指差すのが見えた。
 小さな子達の中にはをママと一緒に手を繋いで歩く子達もいて、僕は少し……ううん、凄く羨ましいって思いながらも、悲しくなった。……ママァ。

「……うん? なんだろう、この匂い……甘い香りが……」

 ママを思い出して悲しくなった僕の鼻に、凄く甘い香りが届いた。
 その匂いにつられて、僕の足はフラフラとそのお店に向かって行き……、気づけばお店の前に立っていた。
 お店の中ではママよりもずっと大人だと思う女の人が、何かを揚げているのが見えた。

「いらっしゃい、幾つ欲しいんだい?」

 僕に気づいた女の人が顔を上げて、僕に聞いてくる。
 だから僕はこれが何なのか聞くことにした。

「あの、これって……何ですか?」
「これはね、わたしの考えたお菓子で名前はまだ無いんだけど……パン生地を伸ばしてから丸く繋げて揚げた物だよ。一応パン生地の中には質が悪いけど糖は入ってるよ」

 そう言いながら、女の人は油で揚げていた物を木の板に載せて見せてくれた。
 見せてくれたそれは、油で揚げられているからか茶色に染まり、ぷっくりと膨れていた。
 初めて見る形だけど……、何だか美味しそうに見えた。

(これは……ドーナツっぽくしているお菓子ですニャね)
「どーなつ?」

 サタニャエルが耳元で囁いた言葉を僕はポツリと口にする。
 すると、その呟きは女の人に届いていたみたいで……。

「どーなつ? 良い名前だね! 何て言うか、しっくり来る名前だ! お客さん、その名前使わせて貰ってもいいかな?」
「え、えと、どうぞ」
「ありがとう! お礼と言ったら何だけど……今揚がったばかりのどーなつを貰ってくれるかな?」

 女の人は笑顔で言って、僕へと揚がったばかりのどーなつを2つ大きな葉に巻いて差し出してくれる。
 戸惑いながら、僕はそれを受け取り……気づく。

「あっ、あの、お金!」
「良いの良いの。素敵な名前を付けてくれたお礼ってことで貰ってちょうだい。それに子供は遠慮なんてしないしない」
「あ、ありがとうございます」

 女の人にそう言って僕はその場から離れる。
 物は貰えたけど……、お金、払えなかったなー……。
 ちょっとしょんぼりとしていると、またサタニャエルが頬をポンポンと押してきた。

(そんニャ顔をしないでくださいニャ勇者様。それよりも、ドーナツを食べてみましょうニャ)
「ワン!!」
駄犬せんぱいもそう言っていますニャ。あ、そこの噴水前の縁に座れば良いですニャ!)
「……うん、そうだね。それじゃあちょっと食べてみようか」
「ニャー」「ワン」

 2人に言って、僕はサタニャエルが勧める噴水前に移動してその縁に座った。
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