駄々甘ママは、魔マ王さま。

第４２話 ザッコ、受け入れる。

「ふう、今日の業務も終わったッスから、ゆっくり休むことにするッス……」
「ありがとう、ザッコ殿。正直与えられたゴミ＝デスが書類整理に使えなくて難儀していたので、本当に助かりました」

　与えられた職務用の机から離れ、体を椅子の背凭れに預けながら自分は疲れた息を漏らすッス。
　そんな自分へと、同じ部屋で同じように作業を行っていた大臣がお礼を言ったッス。
　自分は大臣へと気にするなと言う風に、手を前に出して振るッス。
　……というか、今まで魔王城ではこんな業務が出来る人材がいなかったようで、色々と酷いことになっていたッス。

「今回で溜まっていた仕事は大体は片付けることが出来たッスけど……、大臣一人だとまた燃え尽きるッスよ？」
「そうですね……。とりあえずは何とかしないといけませんね」
「優秀な人材は居ないッスか？　自分の館では、有能な侍女達が居るので彼女達にも手を貸してもらってるッスよ？　……そういえば、今ごろどうしてるッスかねー……」

　きっとご飯は食べているし、職務も全うしてることと思うッスけど……留守にしすぎるっていうのも駄目ッスよね？
　魔マ王様がどうにかしてくれると思うッスけど、一度は帰りたいッスねー。

「ふむ、侍女ですか……。そう言えば有能そうな人材が何名も居ましたね。彼女達に声をかけてみましょうか……って、ザ、ザザ、ザッコ殿？」
「どうしたんッスか？　そんな慌てたような声を出して」

　慌てる大臣の声を聞きながら、自分は顔を上げるッス。
　そんな自分が見た光景は、眼前に伸びる手だったッス……。
　あ、これ魔マ王様ッスよね？　伸びてくる手の主が誰か理解し、自分は抵抗すること無くその手に掴まれ……空間の中へと入っていったッス……。
　そして……、空間から飛ばされた先は予想通りと言うべきか魔マ王様の目の前だったッス。

「抵抗しないなんて、良い心がけだわ～。流石ザッコ君ねぇ♪」
「抵抗なんてしたら魔マ王様の後が怖いじゃないッスか」
「ええそうよ～♪　それで、君が呼ばれた理由……分かってるかしらぁ？」
「……いえ、わからないッス。ですから、理由を聞かせて欲しいッス……」

　待っている先は同じ。だから自分は抵抗せずに魔マ王様が怒っている原因を尋ねるッス。
　すると、魔マ王様は自らの後ろにある鏡を指差すッス。
　あれは確か……【ママラブ魔法】ッスよね？　そう思いながら、鏡を見ると……ヨシュア君が街中で泣いているッス。
　隣の鏡では、神様が用意したウィスドムさんと、自分が選んだファンロンが映っているッス。
　……読書と大食いをしているという姿が……。

「…………魔マ王様が何故自分を呼んだのか、分かったッス。これは自分の失敗ッスね……」

　多分ッスけど、ファンロンは食べ物の匂いに釣られてどこかに行ったに違いないッス。
　ヨシュア君ほっぽいて……。
　だから、彼女を送った自分にも罪があるッス。だから、自分は目を閉じるッス。

「どうぞ魔マ王様……。覚悟は出来ているッス。ですから、思う存分殴り飛ばしてくださいッス」
「良い心掛けねぇ、流石ザッコ君。……それじゃあ、遠慮なく♪」
「ぐ――ご、っふ……！！」

　痛いッス！　魔マ王様の言葉と共に、腹を貫く拳は自分に激痛を与えたッス。
　そして口の中に、熱いものが込み上げてくるのを感じるので……多分、中から血が吹き出しそうになってるッスね？
　けど我慢ッス。魔マ王様にかけたら、服を汚したってことで更に暴力が増えるはずッスから……！
　だから、嵐が過ぎるのを待つッス。頑張るッス自分……！！
　そう心の中で自分を励ましながら、自分は目を閉じたまま……魔マ王様の攻撃を受けるッス。
　腹を貫く拳の次は、胸を砕く拳が来たッス。

「ぐぇ……げ……え……！　が――ふ、ひ……！？」

　メキメキと胸の骨が砕け、体の中に突き刺さってるのか中でグチャッという感覚がし……一瞬意識を失ったッス。
　けれど次の瞬間、魔マ王様の蹴りが横腹へと放たれたッス。
　ゴギャ、と肋骨を砕きながら、自分はスライムのように吹き飛ばされて壁にぶち当たったッス。
　……何時もなら、たまに来る回復魔法は全然来ないところを見ると、きっと魔マ王様は何時も通りの様子みたいだったッスけど……怒り狂ってるッスね？
　意識が途切れ途切れの中でそう思いながら、自分はめり込んだ壁から剥がれ落ちたようで……何も感じなくなったッス。
　いや、感じることは感じているッス……、迫り来る死の恐怖っていうやつを……。

「もうしわけありません、っす……ままおう、さま……」

　ほんとうに、よしゅあくんをなかせて……もうしわけないっす……。
　自分はどう呟いたのかはもうわからないッス。けれど分かることはただ一つ。

「――――あ」

　床へと落ちて行く自分の体を貫くように拳が放たれ、自分の命が尽きたと言うこと……。
　そしてすべてが黒へと染まっていった……ッス。

　●




　●

「――――っは！？」
「起きたわね～、気分はどうかしらザッコ君？」

　目をパチっと開けると、何時ものように魔マ王様は自分を見て笑っていたッス。
　気分？　気分は…………あれ？　体が痛くないッス？　アレだけ殴られて、蹴られていたはずなのに……。
　それに、自覚しているッスよ？　自分は……、自分は……。

「あの、魔マ王様？　自分、死んでいたッスよね？」
「ゴメンね～、ちょっと加減をミスっちゃって、ザッコ君殺しちゃったわぁ。だから、すぐに生返らせたんだけど……問題は無いわね～？」
「は、はあ……、問題は……ないッス」

　魔マ王様が洒落にならない言葉を言っているッスけど……魔マ王様なので、気にしない事にするッス。
　というか、やっぱり死んでたッスか……。
　死に触れたからか、自分やっぱりゾクゾク寒気を少しだけ感じるッス。だけど、大丈夫……と言えば大丈夫ッス。
　だけど、問題を口にすることにするッス。

「魔マ王様……、自分何度も殺されるのは厳しいッスから……対策を考えたほうが良いと思うッス」
「ええ、何か良い方法は無いかしらぁ？」

　魔マ王様が頬に手を当てながら呟いた瞬間、部屋の扉がバーーンッと開けられたッス。

　え、誰ッスか？　自分は慌てて扉のほうを向いたッス。