駄々甘ママは、魔マ王さま。

清水裕

文字の大きさ
上 下
36 / 88

第35話 ウィスドム、王妃と話をする。

しおりを挟む
「待っていましたよ、ウィスドムさん」

 そう言って微笑む王妃を前に、わたしは焦っていた。
 ……気づかれていた。わたしが王妃を怪しいと思っているのがばれていたのだ。
 けれど同時に、頭の中で必死に打開策を考える。
 そうだ。今はまだ扉が閉じられていない。それに、怪しいのは王妃だけ。だから客観的に見ると失礼な行為かも知れないけれどここは戦略的撤退を――!

「申し訳ありませんが、逃亡はさせません」
「窓をぶち破って飛び出すなんて事をしそうな気もしますので、防がせて頂きます」
「「「ですので、大人しく座ってください」」」
「っ!? 王妃だけじゃ……ない?」

 逃げ出そうとしたわたしを逃がさない、と言うように王妃に仕えている侍女達は扉を閉め、窓の前に立ち塞がり、わたしの逃げ道を塞いだ。
 その瞬間、理解した。怪しいのは王妃だけじゃなかったのだと言うことを……。
 だけど、だけど王妃や侍女達はいったい何者なんだ?
 まさか……魔王軍の手先とか!?
 焦りながら、即座にわたしは魔術を唱える為に杖を構えようとする。
 だが、わたしの行動は王妃達にも理解していたようで……。

「炎よ、渦となりて――」
「ちょ! ちょっと待って! ちょっと待ってください!! 魔術は使わないで、こんな所で魔術なんて使ったら色々と問題になりますから!!」
「「「「私達は危害を加えるつもりはないですから!!」」」」
「――え?」

 物凄く必死に止めるように言う王妃とその侍女達、その様子にわたしは呆気に取られ……展開しようとしていた魔術が空中に霧散していった。
 どういう、こと? 普通に考えて、怪しいと調べられて正体を探られていたなら……こっそりと始末するのが当たり前だと思うのに。
 そんな困惑と疑惑に満ちた視線を感じているのか、王妃は手を前の席へと向ける。

「まあ、とりあえず……席に座っていただけませんか? 少し長くなると思いますので……」
「……安心させて毒とかでこっそり暗殺。とかは無い?」
「そんな事をしません。というか、そんな事をしたらヨシュア君が泣いちゃうじゃないですか」
「「「「そうですよ。ヨシュア君の泣いてるのを見たら悲しくなりますし……」」」」

 わたしの言葉を払拭するように王妃がそう言うと、続けて周りに立つ侍女達も同じ事を言う。
 ……と言うか、勇者を平然と名前で呼ぶ? 昨日や今朝までは普通に勇者様と言っていたはずなのに……。
 きっと王妃や侍女を含めた一団はわたしが知らない何かを知っている。
 そう考えると、敵対するべきじゃない。そう考えながらわたしは促されるままに王妃の向かい合うように椅子へと座った。

「……ありがとうございます。話を聞いてくれる……ということで良いのですね?」
「話を聞くだけ。……でも、わたし達に害があると判断したら、容赦なく魔術を使わせて貰うから」
「……わかりました。では初めに……何故わたくしが怪しいと判断したのですか?」

 王妃は頭を下げてから、初めに聞くべき事をわたしに問いかけて来た。
 なのでちゃんと答えることにする。

「貴女が勇者の母親と親友だった。というのがあまりにも都合が良すぎた……それがわたしが王妃に違和感を感じたのが始まりだった。
 そして、次に朝食の時にわたし達を妙な視線……所謂噛み付こうとする子猫を見るような視線で見ていたからだ」
「そうですか……。即興にしては良くできた設定だと思えたのですが……」
「設定……」
「はい、ただの国の王妃と母親の親友。貴女ならどちらをより信用出来ますか?」

 疑わしい視線を向けると、王妃は軽く返事を返す。
 そしてその質問に対し、わたしは母親の知人の方なら信用が厚いだろうと考える。
 けれど、同時にわたしの中で新たな疑問が生まれる……。

「王妃、貴女は……勇者の母親を知って居るのか?」
「はい、知っていますよ。そしてウィスドムさんのママも、ファンロンさんのママも知っていますよ」
「っ!? その言い方、わたしの立場も知っているみたい……。というか、あのアホの母親も知っている?」

 微笑みながら返事を返す王妃にわたしは戸惑いを隠せなかった。わたしの母親の事も知ってると言うのは驚いたが、更に驚いたのはアホの母親の事だ。
 あのアホは如何考えても龍、だからそれを見つけるのも一苦労なはずだ。それなのに目の前の人物は何時も会っていますと言うような言い草をしている。
 いったいどうやって……? そんな疑問が頭を過ぎるけれど、すぐに思考を切り替える。
 目の前の人物は、普通の人間じゃない。何かがあるはず。
 そう考えながら、わたしは王妃に尋ねることにした。

「……王妃、あなたは……いや、周りにいる侍女を含めて何者なんだ?」
「わたくし達は、転生者。ウィスドムさんが知る『ワレワレハテンセイシャッダー』と同じ存在です」

 そう言って、王妃達はわたしに向けて微笑んだ……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

ダンマス(異端者)

AN@RCHY
ファンタジー
 幼女女神に召喚で呼び出されたシュウ。  元の世界に戻れないことを知って自由気ままに過ごすことを決めた。  人の作ったレールなんかのってやらねえぞ!  地球での痕跡をすべて消されて、幼女女神に召喚された風間修。そこで突然、ダンジョンマスターになって他のダンジョンマスターたちと競えと言われた。  戻りたくても戻る事の出来ない現実を受け入れ、異世界へ旅立つ。  始めこそ異世界だとワクワクしていたが、すぐに碇石からズレおかしなことを始めた。  小説になろうで『AN@CHY』名義で投稿している、同タイトルをアルファポリスにも投稿させていただきます。  向こうの小説を多少修正して投稿しています。  修正をかけながらなので更新ペースは不明です。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

処理中です...