駄々甘ママは、魔マ王さま。

清水裕

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第35話 ウィスドム、王妃と話をする。

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「待っていましたよ、ウィスドムさん」

 そう言って微笑む王妃を前に、わたしは焦っていた。
 ……気づかれていた。わたしが王妃を怪しいと思っているのがばれていたのだ。
 けれど同時に、頭の中で必死に打開策を考える。
 そうだ。今はまだ扉が閉じられていない。それに、怪しいのは王妃だけ。だから客観的に見ると失礼な行為かも知れないけれどここは戦略的撤退を――!

「申し訳ありませんが、逃亡はさせません」
「窓をぶち破って飛び出すなんて事をしそうな気もしますので、防がせて頂きます」
「「「ですので、大人しく座ってください」」」
「っ!? 王妃だけじゃ……ない?」

 逃げ出そうとしたわたしを逃がさない、と言うように王妃に仕えている侍女達は扉を閉め、窓の前に立ち塞がり、わたしの逃げ道を塞いだ。
 その瞬間、理解した。怪しいのは王妃だけじゃなかったのだと言うことを……。
 だけど、だけど王妃や侍女達はいったい何者なんだ?
 まさか……魔王軍の手先とか!?
 焦りながら、即座にわたしは魔術を唱える為に杖を構えようとする。
 だが、わたしの行動は王妃達にも理解していたようで……。

「炎よ、渦となりて――」
「ちょ! ちょっと待って! ちょっと待ってください!! 魔術は使わないで、こんな所で魔術なんて使ったら色々と問題になりますから!!」
「「「「私達は危害を加えるつもりはないですから!!」」」」
「――え?」

 物凄く必死に止めるように言う王妃とその侍女達、その様子にわたしは呆気に取られ……展開しようとしていた魔術が空中に霧散していった。
 どういう、こと? 普通に考えて、怪しいと調べられて正体を探られていたなら……こっそりと始末するのが当たり前だと思うのに。
 そんな困惑と疑惑に満ちた視線を感じているのか、王妃は手を前の席へと向ける。

「まあ、とりあえず……席に座っていただけませんか? 少し長くなると思いますので……」
「……安心させて毒とかでこっそり暗殺。とかは無い?」
「そんな事をしません。というか、そんな事をしたらヨシュア君が泣いちゃうじゃないですか」
「「「「そうですよ。ヨシュア君の泣いてるのを見たら悲しくなりますし……」」」」

 わたしの言葉を払拭するように王妃がそう言うと、続けて周りに立つ侍女達も同じ事を言う。
 ……と言うか、勇者を平然と名前で呼ぶ? 昨日や今朝までは普通に勇者様と言っていたはずなのに……。
 きっと王妃や侍女を含めた一団はわたしが知らない何かを知っている。
 そう考えると、敵対するべきじゃない。そう考えながらわたしは促されるままに王妃の向かい合うように椅子へと座った。

「……ありがとうございます。話を聞いてくれる……ということで良いのですね?」
「話を聞くだけ。……でも、わたし達に害があると判断したら、容赦なく魔術を使わせて貰うから」
「……わかりました。では初めに……何故わたくしが怪しいと判断したのですか?」

 王妃は頭を下げてから、初めに聞くべき事をわたしに問いかけて来た。
 なのでちゃんと答えることにする。

「貴女が勇者の母親と親友だった。というのがあまりにも都合が良すぎた……それがわたしが王妃に違和感を感じたのが始まりだった。
 そして、次に朝食の時にわたし達を妙な視線……所謂噛み付こうとする子猫を見るような視線で見ていたからだ」
「そうですか……。即興にしては良くできた設定だと思えたのですが……」
「設定……」
「はい、ただの国の王妃と母親の親友。貴女ならどちらをより信用出来ますか?」

 疑わしい視線を向けると、王妃は軽く返事を返す。
 そしてその質問に対し、わたしは母親の知人の方なら信用が厚いだろうと考える。
 けれど、同時にわたしの中で新たな疑問が生まれる……。

「王妃、貴女は……勇者の母親を知って居るのか?」
「はい、知っていますよ。そしてウィスドムさんのママも、ファンロンさんのママも知っていますよ」
「っ!? その言い方、わたしの立場も知っているみたい……。というか、あのアホの母親も知っている?」

 微笑みながら返事を返す王妃にわたしは戸惑いを隠せなかった。わたしの母親の事も知ってると言うのは驚いたが、更に驚いたのはアホの母親の事だ。
 あのアホは如何考えても龍、だからそれを見つけるのも一苦労なはずだ。それなのに目の前の人物は何時も会っていますと言うような言い草をしている。
 いったいどうやって……? そんな疑問が頭を過ぎるけれど、すぐに思考を切り替える。
 目の前の人物は、普通の人間じゃない。何かがあるはず。
 そう考えながら、わたしは王妃に尋ねることにした。

「……王妃、あなたは……いや、周りにいる侍女を含めて何者なんだ?」
「わたくし達は、転生者。ウィスドムさんが知る『ワレワレハテンセイシャッダー』と同じ存在です」

 そう言って、王妃達はわたしに向けて微笑んだ……。
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