駄々甘ママは、魔マ王さま。

清水裕

文字の大きさ
上 下
33 / 88

第32話 ウィスドム、調査する。

しおりを挟む
「さすがにアースガイル。
 使節船も立派なものだ。」

 砂漠の国“デザリア”で宰相を務める男は星空の下、近づいてくる大型の船を見つめていた。

 到着は翌日と思われていたが、返信をした日の内に着くとは、相手も随分と無理をしたらしい。

「急かしたわけではないのだがな。」

 問題が起こっている。
 どこにも寄らずに王宮に来いと言っておいて急かしてないはない。

 使節団の代表がアースガイル国王の愛する第2王子と知った上で、どう動くか試したのだ。

「流石、勤勉と謳われる王子だけある。
 愚鈍でないと分かって安心した。」

 アースガイルの使節船はデザリアで好まれる派手な装飾でないにしろ、シンプルにも洗礼された美しい船だった。

 見事に横付けにされた使節船から帽子の大きな男が降りてきた。

「これはこれは、豪勢なお出迎え痛み入ります。」

 男は目の前に立つ老功に軽く頭を下げた。

「無事の到着なによりです。
 貴方は・・・。」

 宰相がといかけると、男は帽子を脱ぎ胸に当てた。

「ハッ。
 私はアースガイル貴族、フィルディナンド・クロス。
 伯爵位を賜っております。
 この度は使節船の船長という大役を任されておりました。
 ディビット・ドゥ・アースガイル第2王子は間も無く参ります。
 今暫くお待ちください。」

 クロス伯爵と名乗った男に宰相は1つ頷くと静かに浮かぶ船を見上げた。

 そこに、1人の若者が現れるとアースガイルの騎士や船員が背筋を伸ばす。

 宰相はこの若者こそが第2王子かと、見極めるように見つめた。

 若者は軽やかに階段を降りてくるとクロス伯爵の肩にポンと手を置いて微笑んだ。

「楽しい船旅でした。
 世話になりました。
 帰りも頼みます。」

「ハッ!
 光栄であります。
 ディビット様をアースガイルにお送りするまでが私の仕事です。
 どうぞ、“デザリア”の滞在が実りあるものである事を願います。」

 クロス伯爵の通る声にディビットは笑いを堪えながら頷いた。
 
 そして出迎えの先頭にたっていた老功に目をやると、かけていた眼鏡をクィッと上げて微笑んだ。

「待たせてしまいましたか?」

「とんでもない事でございます。
 ようこそ“デザリア”までお越しくださいました。
 私、宰相を務めますナロ・シウバと申します。
 責任をもって王宮までご案内致します。」

 老功の挨拶にディビットは優しく頷いた。

「ありがとう。
 あの有名なナロ・シウバ殿に会えて嬉しいかぎりです。
 『砂漠における革新的防衛の考察』の論文を拝見しました。
 興味深い記述が多く、呼んでいて勉強になりました。」

「なんと!
 アレは私が20代の折に書いた、およそ傑作とはほど遠いと論ぜられた物ですぞ?
 読まれたのですか?」

「えぇ。
 我が国は砂漠ではありませんが、通じる物がないとも言い切れないでしょう。
 論文とは研究者達の本気の証。
 国の統治に関わる者は、どんな考えでも拒まずに知識として頭に入れるべきです。
 ・・・まぁ、偉そうな事を言いましたが、本当は私が読み物が好きというだけの話ですがね。」

“デザリア”の宰相ナロ・シウバはアースガイルの若き王子との出会いで、国を揺るがす問題が解消されるのではないかと願わずにいられなかった。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

アレク・プランタン

かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった と‥‥転生となった 剣と魔法が織りなす世界へ チートも特典も何もないまま ただ前世の記憶だけを頼りに 俺は精一杯やってみる 毎日更新中!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

ダンマス(異端者)

AN@RCHY
ファンタジー
 幼女女神に召喚で呼び出されたシュウ。  元の世界に戻れないことを知って自由気ままに過ごすことを決めた。  人の作ったレールなんかのってやらねえぞ!  地球での痕跡をすべて消されて、幼女女神に召喚された風間修。そこで突然、ダンジョンマスターになって他のダンジョンマスターたちと競えと言われた。  戻りたくても戻る事の出来ない現実を受け入れ、異世界へ旅立つ。  始めこそ異世界だとワクワクしていたが、すぐに碇石からズレおかしなことを始めた。  小説になろうで『AN@CHY』名義で投稿している、同タイトルをアルファポリスにも投稿させていただきます。  向こうの小説を多少修正して投稿しています。  修正をかけながらなので更新ペースは不明です。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

処理中です...