駄々甘ママは、魔マ王さま。

清水裕

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第29話 ハジメーノ王妃、思い出を語る。

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 出された色んな食事、それらを勇者……いえ、ヨシュア君とウィスドムちゃんとファンロンちゃんが美味しそうに食べているのをわたくしは優しい瞳で見る。
 その視線が気になったのか、ファンロンちゃんがわたくしに尋ねてきたけれど優しく微笑み返す。
 ちなみにファンロンちゃんの食べている蒸し饅頭は、彼女自身忘れているみたいだけど……思い出の母の味。
 何故ならこの日の為に料理長に差し出したレシピはある方法で手に入れた物だから。

 ……まあ、分かっているでしょうけど、わたくし……転生者です。

「美味しいアル~~!」
「あんた良く食べるわ……」

 凄く嬉しそうにファンロンちゃんが喜んでるので、今夜にでも彼女のママさんに見せてあげましょう。
 きっと娘の姿を見て喜ぶでしょうね。
 そんなファンロンちゃんを呆れながらウィスドムちゃんが見ているけれど、彼女はついさっきから同じ料理しか食べていないのに気づいていないわね。
 まあ、慣れ親しんだ味だから、無意識ながらも食べてるのね。うふふ。
 ちなみにこれもピルグリムに居る転生ママ友から貰ったレシピを(略)

 そしてファンロンちゃんが物凄く食べているけれど、食事はデザートへと移りました。
 出されたデザートをやっぱりファンロンちゃんはタップリと食べていて、それに圧倒されているからかウィスドムちゃんは口元に手を当てちゃっている。
 まあ、その気持ちは分かりますよ。超が付くほどの大食いの食べっぷりを見ていれば食欲、失せますよね?

 ですが……さて、ここからが演技の見せどころ、ですね。
 そう思いながら、わたくしはデザートを食べようとしているヨシュア君をチラリと見ます。

「……え、この味…………」
「どうかしたのか、勇者?」
「どーしたアル、ゆうしゃ?」

 反応……、しましたね? よしっ!
 心の中でガッツポーズを取りつつ、わたくしは何も知らない振りをしながらヨシュア君を見ます。

「どうかしましたか、勇者様?」
「あ、あのっ! こ、このお菓子の味……」
「この菓子ですか? これは、わたくしの友人が教えてくれた菓子なんですが、お気に召しましたか?」
「そ、そのっ! その人の……、その人の……名前は…………?」

 興奮しているようで顔を紅くしながら、ヨシュア君はわたくしに詰め寄るように聞いてきます。
 とりあえず、昔を懐かしむ……といった表情を浮かべ、わたくしは口を開きます。

「その方の名前ですか? 彼女の名前は、リリー……。そう、リリーと言う名前でした。彼女はわたくしの一番の友人、つまりは親友でした……」
「リリー……」
「わたくし、王妃となるまではこの国の一市民でした。そんなわたくしとリリーは家が近くだったため、良く遊ぶ間柄でした。
 彼女は……とても頭が良く、とても綺麗で、とても強かった……。そんな彼女と親友であるわたくしは何事にも変えられない喜びを感じていました……ですが」

 ……とりあえず、どうやってどうやって話を繋げて行くか……。どうしてリリーはこの国に居ないのか、そしてその設定を他のママさんがする話のバトンとして繋げるやり方、それを言うようにしないと……、頑張れわたくしのアドリブ力!
 えーっと、えーっと……そうだ。旅、旅が良いですね!

「そう、ですが……彼女にとってはこの国は小さかったみたいなんです……。リリーが成人した日、彼女は旅に出ると言って……その身一つでこの国を飛び出して行きました。
 彼女が居なくなった当初のわたくしは、抜け殻のようにやる気を失っていました……。
 ですが、リリーが何時も言っていた事を思い出したのです。『この国の腐敗政治を如何にかしないといけない』と言うことを……。

 ですから、わたくしはこの国の腐敗政治を如何にか断ち切ることが出来ないかと考え、頑張って頑張って勉強をして……文官となりました。
 そうしてこの国の為に頑張っていると、夫である王に見初められ……妻となったのです。
 ですから……リリーはわたくしにとっての憧れであり、思い出であり、目標です」

 そう言って、わたくしは昔を思い出すように遠くを見ながら、祈るように両手を組み合わせます。
 …………さあ、どうです? 完璧な演技でしょう? これならリリーはハジメーノ王国に住んでいたと言う風に取れますよね?
 そう思いながら、ヨシュア君を見ると……今にも泣きそうな顔をしていました。
 彼の表情の理由、分かっています。ですが、わたくしは知らない振りをして問いかけます。

「どうかなさいましたか、勇者様?」
「っ!! あ、あの……王妃様の親友の……リ、リリーは、もしかすると……僕の、ママ……です」
「――まあ! 本当ですか?! 勇者様はリリーの子供でしたのね? あの、リリーは元気にしていますか?」

 さも嬉しそうにわたくしは問いかけます。すると、ヨシュア君はボロボロと涙を零し始めました。
 ……後で怒られそうですが、演出上……仕方ないと思ってください、本当にごめんなさい。

「マ、ママは……ママは、勇者に目覚めたばかりの……僕を襲ってきた魔王の使いに…………」
「え……。そ、そんな…………。ああ、リリー……リリーが……」

 信じられない。と大いにショックを受けるようによろめくと、側に居た侍女がわたくしを支えて声をかけてきます。
 ですが、わたくしは侍女を制止させると、ふらりと立ち上がり……ヨシュア君へと近づきます。
 近づくヨシュア君はボロボロと涙を流しながら、自分を責めていました。

「ご、めんなさい……。僕が、僕が……強かったら、ママは……!」
「……勇者様、勇者様は泣かないでください…………」
「あ……」

 涙を流し、自身を責めるヨシュア君をわたくしは優しく抱き締め、頭を撫でます。
 撫でられる事に安心したのか、ヨシュア君はわたくしの体に寄りかかってきます。

「貴方様は勇者として目覚めたばかりだったのですよね?」
「うん……」
「でしたら、倒せるわけがないです……。ですから、勇者様は悪くはありません……」
「でも、でもママが……」
「リリーのことは、残念です。ですが、ですが勇者様は他の人々を救うことが出来ます。ですから、その力をわたくし達に御貸しください。お願い、します……」

 そう耳元で囁きながら、頭を撫でていくと……何時の間にかヨシュア君は眠りについていました。
 それを見届けてからわたくしは、ウィスドムちゃんとファンロンちゃんにも休むように告げました。

 ……こうして、わたくしの仕込みは終わったのでした。
 とりあえず、明日は……教会に行ってもらいましょうか。


 ―――――

 ・ハジメーノ王妃、(ありもしない)思い出を語る。
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