26 / 88
第25話 ウィスドム、お金の価値を教える。
しおりを挟む
ポカポカと光り輝く日の光を浴びながら、わたし……ウィスドムは勇者達と街道を歩いていた。
今まで森の中で暮らしていたと言う勇者のヨシュアは、見る物すべてが物珍しいのかキョロキョロと周囲を楽しそうに見回していく。
そしてもう一方のファンロンという名の龍人は――。
「あ、スライムアル! 食べるアルーーッ!!」
「勝手に行くな」
「ぐえっ!? な、何するアルかっ!? 酷いアルよ!!」
街道を離れて少し先に見えるスライムへと駆け出そうとしたので、躊躇いなくわたしは杖で転ばした。
綺麗に地面を擦るアホの子を見ていたわたしだったが、すぐに置き上がったアホの子はわたしに抗議をしてきた。
なので、わたしは黙らせる。
「貴様が勝手に飛び出して迷子になってしまうから、わたしは止めた。それだけだが?」
「迷子アルか? ファンロン、迷子なったこと無いアル!」
「……どの口が言っているんだ? お前が迷子になっていなかったら、わたしたちは2日前には森を抜けて、この国の王都に付いていたんだぞ?」
「ん~~……。思い出したアル! ファンロンごはんから戻ったら、ゆうしゃたちいなかったアル。だからファンロン探しに行ったアル! ――あいたぁ!? だから、何するアルか!?」
正直頭が痛い。アホの子と言うのは何代かの勇者の書物に書かれていたけれど、ここまで大変なものだったなんて……。
頭を抱えそうになりながら、わたしはアホの子の頭を杖で殴りつけると空を仰ぎ見る。
…………神よ。どうしてこうなった?
「あそこに見える大きい壁が、ハジメーノ王国の王都なの?」
「多分そうだと思う。わたし自身、この国は初めてだから確証は無いけれど」
視線の先に見える巨大な石で造られた壁を見ながら訊ねてくる勇者に、わたしは返事を返す。
思えば、わたしもあの国から出たのはこれが初めてだったことを思い出す。
そう考えると、知識はあってもわたしも勇者と同じ無知だったのだと理解する。
「おーとの中には、美味しい物いっぱいあるアルか? ファンロン、いっぱい食べたいアル!」
「うん、いっぱい食べれると良いね」
ジュルリと舌なめずりをするファンロンとそれを見ながら笑う勇者。
彼らの中にはお金と言う概念は無いのだろうか? ……無いな。
「それはそうと、いっぱい食べるとしても……お金は持っているのか?」
「おかね?」「お金アル?」
……あ、わかってない。絶対に分かっていない。
とりあえず、そう考えてわたしはお金の必要性を簡単に説明する。
アホの子は分かっていないようだったが、勇者は完全には理解していないようだけど分かったようだった。
「えっと……それじゃあ、お金っていう物を払うことで……食べ物とか道具を交換出来る……ってこと?」
「まあ、そんな感じ……で良いか。それで、それっぽい物持っていない?」
「それっぽい物、ママが持って行くように言った袋の中にあったかなぁ……?」
そう言いながら勇者は母親から貰ったと言う袋に手を突っ込み中を漁り始める。
……あの袋、いったい何なのだろうか? 初めて会った日の野営のときに食べ物を出していたから気になって見せてもらったけれど、中は真っ暗であまり物が入らないと感じられた。なのに、手を突っ込むと何処に繋がっているのか分からないけれど何か広大な空間に繋がったような気がした。
正直、怖い袋だ。……もしかすると、あれは伝説と言われた魔法の――、
「あ、それっぽいのありました!」
「っ! 見つかった? どれど……れ…………え?」
目を輝かせながら、取り出したお金であろう物を勇者はわたしに見せる。
なので、わたしはそれを見た。……その瞬間、わたしは固まった。
何故なら、勇者が手に持っているソレはわたしの記憶に因れば……遥か昔に存在したと言われている【魔法王国マジカール】の通貨であるマジカール金貨だったからだ。
しかもその輝きは悠久の時を経ているはずなのに、煌びやかな輝きを失ってはいなかった。
……間違い無い、勇者の持っている袋はマジカールの住人が持っていたと言われている魔法の袋だ……。
その袋の持ち主だったと言う勇者の母親、いったい何者?
「えっと、ウィスドムさん……? これで、大丈夫……ですか?」
「えっ!? あ、……あ、ああ、大丈夫……と言えば大丈夫だけど、あと……あまりその袋を人前で晒さないように」
「はあ……、わかりました?」
不安そうにわたしを見る勇者にそう言うと、わたしは眉間を揉み解しつつどうするかを考え始める。
勇者が持っているお金は絶対にこのマジカール金貨だけだろう。わたしの予想が正しければ、10枚は軽くあるに違いない……。
じゃあ、それを持って入場待ちの列に飛び込むか? 多分だが、衛兵はこの金貨の価値を分からないだろう。
けれど分かる者には分かるに違いない。そして、この勇者は天然と言うか純粋だ。
良い様に騙されてしまう可能性が高い……。
部屋に置かれていた本の中には美術品の目録もあったから読んだのだが、その本には古すぎて所々が欠けていたりしていたマジカール金貨1枚が金貨300万枚ほどになったと書かれていた。
古く所々欠けた物で300万枚だとすると、新品同然のソレは…………。
「あ、頭痛い…………」
「ええっ!? だ、大丈夫ですか!?」
「ああ、うん、大丈夫……大丈夫だけど……、ちょっと入場料代わりにモンスターを狩りに行こう……。それで衛兵と話しよう……」
「え、でもこれで良いんじゃ……」
「いい? 分かる人以外でその袋も、そのお金も出したら駄目だから!」
「ひぇ……!? は、はい……」
ついギロッと見てしまったわたしが怖かったようで、勇者は涙目となる。
はあ……何でこんなのが勇者…………って、ちょっと待て。あのアホ何処に行った?
早くモンスターを狩ってこないと街の中に入れないと言うのに、あのアホは何処に……?!
何時の間にか居なくなっているアホを探すと、ブンブンと元気良く手を振るアホが居た。
「お~~い、ゆうしゃ~~! にゅ~じょ~りょ~はらってほしいアル~~~~!! 早く来るアルよゆうしゃ~~~~!!」
入場待ちの列に並んだ状態で……。
そして、アホが勇者と叫んだお陰で、わたしたちに入場待ちの人達の視線が注がれてしまった。
…………何というか、逃げたい……。
今まで森の中で暮らしていたと言う勇者のヨシュアは、見る物すべてが物珍しいのかキョロキョロと周囲を楽しそうに見回していく。
そしてもう一方のファンロンという名の龍人は――。
「あ、スライムアル! 食べるアルーーッ!!」
「勝手に行くな」
「ぐえっ!? な、何するアルかっ!? 酷いアルよ!!」
街道を離れて少し先に見えるスライムへと駆け出そうとしたので、躊躇いなくわたしは杖で転ばした。
綺麗に地面を擦るアホの子を見ていたわたしだったが、すぐに置き上がったアホの子はわたしに抗議をしてきた。
なので、わたしは黙らせる。
「貴様が勝手に飛び出して迷子になってしまうから、わたしは止めた。それだけだが?」
「迷子アルか? ファンロン、迷子なったこと無いアル!」
「……どの口が言っているんだ? お前が迷子になっていなかったら、わたしたちは2日前には森を抜けて、この国の王都に付いていたんだぞ?」
「ん~~……。思い出したアル! ファンロンごはんから戻ったら、ゆうしゃたちいなかったアル。だからファンロン探しに行ったアル! ――あいたぁ!? だから、何するアルか!?」
正直頭が痛い。アホの子と言うのは何代かの勇者の書物に書かれていたけれど、ここまで大変なものだったなんて……。
頭を抱えそうになりながら、わたしはアホの子の頭を杖で殴りつけると空を仰ぎ見る。
…………神よ。どうしてこうなった?
「あそこに見える大きい壁が、ハジメーノ王国の王都なの?」
「多分そうだと思う。わたし自身、この国は初めてだから確証は無いけれど」
視線の先に見える巨大な石で造られた壁を見ながら訊ねてくる勇者に、わたしは返事を返す。
思えば、わたしもあの国から出たのはこれが初めてだったことを思い出す。
そう考えると、知識はあってもわたしも勇者と同じ無知だったのだと理解する。
「おーとの中には、美味しい物いっぱいあるアルか? ファンロン、いっぱい食べたいアル!」
「うん、いっぱい食べれると良いね」
ジュルリと舌なめずりをするファンロンとそれを見ながら笑う勇者。
彼らの中にはお金と言う概念は無いのだろうか? ……無いな。
「それはそうと、いっぱい食べるとしても……お金は持っているのか?」
「おかね?」「お金アル?」
……あ、わかってない。絶対に分かっていない。
とりあえず、そう考えてわたしはお金の必要性を簡単に説明する。
アホの子は分かっていないようだったが、勇者は完全には理解していないようだけど分かったようだった。
「えっと……それじゃあ、お金っていう物を払うことで……食べ物とか道具を交換出来る……ってこと?」
「まあ、そんな感じ……で良いか。それで、それっぽい物持っていない?」
「それっぽい物、ママが持って行くように言った袋の中にあったかなぁ……?」
そう言いながら勇者は母親から貰ったと言う袋に手を突っ込み中を漁り始める。
……あの袋、いったい何なのだろうか? 初めて会った日の野営のときに食べ物を出していたから気になって見せてもらったけれど、中は真っ暗であまり物が入らないと感じられた。なのに、手を突っ込むと何処に繋がっているのか分からないけれど何か広大な空間に繋がったような気がした。
正直、怖い袋だ。……もしかすると、あれは伝説と言われた魔法の――、
「あ、それっぽいのありました!」
「っ! 見つかった? どれど……れ…………え?」
目を輝かせながら、取り出したお金であろう物を勇者はわたしに見せる。
なので、わたしはそれを見た。……その瞬間、わたしは固まった。
何故なら、勇者が手に持っているソレはわたしの記憶に因れば……遥か昔に存在したと言われている【魔法王国マジカール】の通貨であるマジカール金貨だったからだ。
しかもその輝きは悠久の時を経ているはずなのに、煌びやかな輝きを失ってはいなかった。
……間違い無い、勇者の持っている袋はマジカールの住人が持っていたと言われている魔法の袋だ……。
その袋の持ち主だったと言う勇者の母親、いったい何者?
「えっと、ウィスドムさん……? これで、大丈夫……ですか?」
「えっ!? あ、……あ、ああ、大丈夫……と言えば大丈夫だけど、あと……あまりその袋を人前で晒さないように」
「はあ……、わかりました?」
不安そうにわたしを見る勇者にそう言うと、わたしは眉間を揉み解しつつどうするかを考え始める。
勇者が持っているお金は絶対にこのマジカール金貨だけだろう。わたしの予想が正しければ、10枚は軽くあるに違いない……。
じゃあ、それを持って入場待ちの列に飛び込むか? 多分だが、衛兵はこの金貨の価値を分からないだろう。
けれど分かる者には分かるに違いない。そして、この勇者は天然と言うか純粋だ。
良い様に騙されてしまう可能性が高い……。
部屋に置かれていた本の中には美術品の目録もあったから読んだのだが、その本には古すぎて所々が欠けていたりしていたマジカール金貨1枚が金貨300万枚ほどになったと書かれていた。
古く所々欠けた物で300万枚だとすると、新品同然のソレは…………。
「あ、頭痛い…………」
「ええっ!? だ、大丈夫ですか!?」
「ああ、うん、大丈夫……大丈夫だけど……、ちょっと入場料代わりにモンスターを狩りに行こう……。それで衛兵と話しよう……」
「え、でもこれで良いんじゃ……」
「いい? 分かる人以外でその袋も、そのお金も出したら駄目だから!」
「ひぇ……!? は、はい……」
ついギロッと見てしまったわたしが怖かったようで、勇者は涙目となる。
はあ……何でこんなのが勇者…………って、ちょっと待て。あのアホ何処に行った?
早くモンスターを狩ってこないと街の中に入れないと言うのに、あのアホは何処に……?!
何時の間にか居なくなっているアホを探すと、ブンブンと元気良く手を振るアホが居た。
「お~~い、ゆうしゃ~~! にゅ~じょ~りょ~はらってほしいアル~~~~!! 早く来るアルよゆうしゃ~~~~!!」
入場待ちの列に並んだ状態で……。
そして、アホが勇者と叫んだお陰で、わたしたちに入場待ちの人達の視線が注がれてしまった。
…………何というか、逃げたい……。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
22
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる