駄々甘ママは、魔マ王さま。

清水裕

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第4話 ザッコ、茶番する。

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 屋敷を出て……バッサバッサと森の上空を飛び、何時も魔王様と会っている場所に自分は降り立ったッス。
 そして、そこから見える魔王様たちの家の様子に気づいた自分はある意味、魔王様の本気度を理解したッス。
 なにせ、魔王様が何時も家の周辺に張っていた不可視化とモンスターなどヨシュア君に害意を与える存在を寄せ付けない結界が、綺麗さっぱり消えていたんッスよ。

「あー……、これは来て正解だったッスね……。というか、甘い考えで行ったら自分殺されるかも知れないッス」

 呟きながら、自分はすうはあと息を吐いてから気合を入れるッス。――ヌンッ!!
 体に魔力を込めた瞬間、自分の周囲の空気が重く変わっていくのが分かったッス。
 そして体からは重くドロドロとした濃い紫のオーラが出始めていくけど、これは一部の魔族が出すことが出来る瘴気ッス。
 これは魔族以外には毒となっていて、解毒魔法とか使わないと危険な代物ッス。
 事実、自分が瘴気を放った周囲の木々が見る見る内に枯れて行くッス。
 当然瘴気を放っていることは、魔王様も理解しているッス。なので即効駄目だしが来たッス。

『瘴気使っても良いけど、ヨシュアが気分悪くなったら……分かってるわよね~?』
「ひ、ひぃっ!?」

 瘴気を出した自分は無敵。一瞬そんな風に思ってしまった自分の考えを打ち砕くかのごとく、底冷えする声が頭に響き……自分は冷静になったッス。
 と、とと、とりあえず、見た目だけ邪悪っぽい印象に見せるようにするッスよ!
 ガクガク震えながら何とか瘴気を雰囲気だけという風に調整し、自分はゆっくりと魔王様たちの家へと向かうッス。
 すると家に近づいたからか、ヨシュア君と魔王様の声が聞こえるッス。
 どうやら2人は食事中のようだったけれど……、ヨシュア君は魔王様の予想通り神様によって勇者に覚醒されているようッスね。
 じゃあ、家を壊して乱入するッスけど……あの壁は自分が頑張って塗ったんッスよね。ああ、あっちの窓はガラスを頑張って加工して……くぅ! 正直、あの家は魔王様の聖域ッスけど……自分にとっては頑張って建てた家なんッスよ!?

「けど、けどここは我慢。我慢ッス……! ああ、凄く綺麗に彫ることが出来た扉、すまないッス! あとで絶対に直すから!!」

 小さくそう叫びながら、自分は丁寧に創られていた扉へと涙を流しながら蹴りを入れたッス。
 力一杯に蹴り飛ばした扉はメキャリと圧し折れながら、家の中へと吹き飛んで行ったッス。
 うぅ、扉……綺麗に彫り込んだ扉がぁ……、くぅ……! くぅぅ……!
 悲しみに心を満たしながら自分は腹の底から声を搾り出すかのように、口から瘴気を漏らしながら悪役っぽく声を出すッス……。

「見つけたぜ、勇者ァ……。魔王さまの命令でテメェをぶっ殺す!」

 ……久しぶりに高圧的な喋りかたをしたけど、出るもんッスね。
 そう思いながら、眉間に皺を寄せるようにして食事中の2人を見るッス。
 遠くから見ていたことがあるヨシュア君は、自分を見て恐怖を感じているのかパンを片手にガクガク震えているッス。
 見た目モンスターッスから怖がられるのは分かるんッスけど、傷付くッスね……。
 そして、魔王様は驚愕している表情(演技)を浮かべながら、ヨシュア君を庇うようにしながら立ち塞がったッス。

「そ、そんな! 結界は?! ここには結界が張られているはずなのに!!」
「結界だと? そんな物は無かった! だ、だが、なるほど結界が張られていたのならば、貴様を見つけることが出来なかったわけだ!」
「まさか……、いったいだれが……(ザッコ君、ちゃんと演技しなさいよぉ?)」
「っ!! 誰の仕業かは判らんが、我らにとっては好都合だ。というわけで、勇者よ。貴様は魔王様への生贄として捧げさせて貰おう!!」

 信じられない、といった表情と台詞を口にする魔王様だけど、自分への駄目出しは念話でキッチリとして来るッス。
 なので、一瞬ビクッと震えたけれどなんとか抑えることが出来た……けど、長々と話してたらボロが出そうな気がしたので、爪を伸ばすことにしたッス。

「う、うわぁぁぁっ!!」
「ヨシュア! し、心配しないで……ママが護ってあげるから……!(ちょっとヨシュア怖がってるじゃないの)」
「ふはっ!? ふは、ふはははははっ! このような弱者が勇者だと?! 笑わせるなっ!!」

 伸ばした爪は鋭く、近くに吊るされた野菜をスパッと切ったッス。
 野菜ッスよ野菜。家の調度品壊したら後が怖いじゃないッスか! そして、その光景にヨシュア君は怯えて、魔王様からの念話で自分も怯えたッス。
 だけどヘタレたところを見せたら場の空気を壊すことになりそうッスから、根性で抑えたッス。
 変わりに怒鳴るようにヨシュア君に声を張り上げると、ヨシュア君は怯え切っているようでペタンと椅子から落ちてへたり込んでしまったッス。
 大目に! 本当、大目に見てくださいッス魔王様!!
 心っからそう思いながら、ヨシュア君に気づかないように部屋の周囲の空気を冷たくする魔王様に心の中で思いきり頭を下げながら、爪をヨシュア君へと向けたッス。

「此度の勇者は弱者だったか、だが魔王様への生贄には変わり無い。その命、魔王様に捧げるが良い!!」
「ひぃ!! う、うわああああああーーーーっっ!!?」
「あ、危ないヨシュア!! あ――」

 自分はゆっくりと近づくと伸ばした爪でヨシュア君を貫くように、腕を前に突き出したッス。
 すると魔王様は、事前の予定通り自分とヨシュア君の間に立ち塞がったッス。
 ……なので、どうせ塞がれるのは分かっているので手を突き出しながら、素早く爪を縮めて行き……魔王様の腹にほんのちょっとだけ爪を当てるようにしたッス。
 そうすると魔王様のお腹に用意した血糊はタラ~と溢れて、って――ドバッと行ったッスよ!?

「え、マ、ママ…………?」
「ちょ、何ッスかその血のりょ――ゲフゲフ、ふんっ! たかが人間風情が間に立つとは何事だ。だが、前座として勇者の母親というのは魔王様に申し分ないだろう」
「ママ……ママ、しっかり……しっかりしてよ。ママ……」

 一瞬素に戻った自分ッスけどなんとか堪えながら演技を続けるッス。
 で、目の前では血糊をドバドバと流し、ばたっと倒れている魔王様とそれに縋りつくヨシュア君。
 ……何というか、すごく申し訳ないことをした気分になるッスよね。
 ってこの甘ったるっこい匂い、まさか血糊って動物の血じゃなくて、赤い木の実使ったんッスか!?
 普通ばれないッスか?! ……あ、焼き木の実作ってたッスから、鼻がちょっと変になってるんッスね?

「む? な、何だその力は……?!」

 そんなことを思っていると突然ヨシュア君がゆっくりと立ち上がり、眩い光を体から放ち始めたッス。
 え、なにこれ? 聞いて無いッスよ?!
 目の前の光景に戸惑いながら、自分はこちらへと向くヨシュア君を見ていたッス。
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