駄々甘ママは、魔マ王さま。

清水裕

文字の大きさ
上 下
3 / 88

第2話 ヨシュア、ママと食事する。

しおりを挟む
 ギャース、ギャースっていう聞き慣れた鳥の鳴き声を聞きながら、僕は体を伸ばす。

「ふぁ~~あ、あ~~……。んーー……何だか変な夢を見たなぁ…………」

 何だかゆうしゃがどうとか言ってたけど、良くわかんないや。
 けど、もしかしたらママなら分かってくれるかも。
 そう思いながら僕はベッドから起き上がると、いそいそと服を着替えて部屋から降りて行く。
 すると、タンタンタンタンと軽快に調理を行う音が下から聞こえてくる。
 それと同時に耳が幸せになる声で紡がれる楽しそうな歌もだ。

「ふんふんふ~~ん♪ ヨシュアのご飯よ、おいしくな~~ぁれ♪ ふふんふふ~~……あらっ、ヨシュア、おはよう♪」
「おはよー、ママ♪ 今日もすっごくいい匂いだね~♪」

 僕が下りてきたのに気づいたのか、ママが笑顔で僕におはようと言ってくれる。
 その優しい笑顔は本当に素敵で、ママだっていうのに僕の胸はドキドキしてしまう。けど、それは普通のことだろう。
 他の人に会ったことは無いけど……、きっとママに対する感情としては当たり前なんだ。
 そう思いながら僕はママに挨拶をすると、挨拶と一緒に漂ってくる朝食の香ばしいにおいにお腹を鳴らす。
 大好きなママにお腹の音を聞かれるのは少しだけ恥かしかったけど、出たものは仕方ないんだ。
 そして、そんな僕のおなかの音を聞いたのか、ママはクスリと微笑むと何時ものように――、

「もうすぐ朝ご飯が出来るから、ヨシュアは顔を洗ってらっしゃい」
「は~い! すぐに顔を洗ってくるね!」

 何時ものようにママにそう言うと、僕は家の外へと出て井戸水を汲むと手で掬って……バシャッと顔を洗う。
 森の水はキンキンに冷えていて、まだほんのちょっとだけぼんやりとしていた頭がシャキッとして行く。
 そのお陰か変な夢の内容がなんとなくだけど思い出してきた。

「あ、ママに聞こうって思ってたんだ!」

 同時に、夢の内容をママに言って、どんな夢か訊ねようと思っていたことを思い出す。
 確か『ゆうしゃ』になっちゃったとか何とかだったはず。けど、『ゆうしゃ』ってなんだろう?
 それもママに聞かないとなー。そう考えながら僕は家の中へと戻ると、ママは作った料理をテーブルの上へと並べており、最後にデザートとして甘い木の実を2つポーンと放り投げるとママが右手に持っていた【まおー剣ダークネス・フレイム】を素早く振るった。
 すると宙を舞う甘い木の実はシャンシャンと音が響き、香ばしい焼ける香りが広がり……僕のお腹をますます鳴らせる。
 ママ曰く、ダークネス・フレイムは切った物を焼く効果があるようで、甘い木の実は美味しく焼かれていた。

「よ~し、デザートも完成~♪ そして、ヨシュアも顔を洗ってきたからぁ……ご飯にしましょぉ~♪」
「うん、ママッ!」

 ダークネス・フレイムを鞘に収めて、ママはこちらを見ると僕へと優しく微笑む。
 その微笑みに僕は頷くといそいそと席へと座る。
 何時ものように向かい合う、楽しい楽しい食事だ。

「今日のご飯はぁ、焼きたてパンとお庭で取れた野菜を使ったスープ、それとハムステーキとサラダにデザートの焼き木の実よぉ~♪」
「わあ、すっごく美味しそう! それじゃあ、いただきますっ!」
「はい、いただきま~す♪ う~ん、我ながら美味しくできちゃったわぁ♪」

 そう言ってママはハムステーキを美味しそうに食べる。
 僕もそれに倣うようにして、がぶりとハムステーキを齧ると肉厚なハムのゴリッとした食感と、塩が染み込んだ肉と脂の味が広がってくる。
 う~ん、美味しい~~!! さすがママ! 本当、ママの料理は美味しいなー!
 ニコニコと笑顔で僕はハムステーキを齧り、パンを齧る。時折ハムステーキの脂をのじりつけながら食べるパンは本当に美味しい。
 口の中が幸せいっぱいになっていく中で、僕は忘れかけていたことを思い出し、ママを見る。
 ママは既にデザートに移っていて、美味しそうに焼き木の実を食べていた。
 その姿に何故だか僕はドキドキしたけれど、ゴクッと唾を呑み込んで耐える。

「マ、ママ、そういえば今日変な夢を見たんだ」
「夢? どんな夢だったの?」
「えっとね、僕は原っぱに居て、そこに突然オバケが出てきて、『おまえはゆうしゃだー』って……」
「あらあら、怖い夢を見たのね~。きっとそのオバケは、何千年も生きてるくせに成長する気が無いのか出来ないのか分からないチビッ子で、のじゃのじゃ言ってたりするのね~」
「何だか具体的だね、ママ……。それで、ゆうしゃって何なの?」

 首を傾けながらママに訊ねると、ママが少し困ったような顔をする。
 ? どうしたんだろう??
 僕は不思議に思ったけれど、ママのその表情の理由はすぐに理解した。

「ヨシュア、勇者っていうのはね、魔王を退治しに行く職業なの。だからね、ヨシュアはママと離れて魔王を退治しに行かないといけないの」
「え……、ママと……離れるの? いっしょに、行ってくれないの?」
「ええ、ヨシュアは可愛くて本当に可愛いからママは変な虫が付かないか心配でいっしょに付いて行きたいけど……、勇者のママは家でヨシュアが無事であることを祈ることしか出来ないの」
「そんなぁ……。だったら、だったら僕はゆうしゃなんてならない!」
「それは駄目よ……。だって、神様に勇者と認められたのよ? それに、ヨシュアが勇者になったのはすぐに魔王も気づいているから、魔王はすぐにでもヨシュアを殺しに敵を差し向けてくるわ……」

 そう言ってママは心配そうに僕を見る。
 というか、殺しに……? え、ど、どういうこと……?
 僕、殺されちゃうの?

「……で、でもこんな森の中に居るなんて分からないよ。だから、ずっとここに居――」

 ここでママと一緒に暮らそう。そう言おうとした直後、突如扉が蹴破られた。
 そして、扉の先の……外から、巨大な何かが立っていた。

「見つけたぜ、勇者ァ……。魔王さまの命令でテメェをぶっ殺す!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

ダンマス(異端者)

AN@RCHY
ファンタジー
 幼女女神に召喚で呼び出されたシュウ。  元の世界に戻れないことを知って自由気ままに過ごすことを決めた。  人の作ったレールなんかのってやらねえぞ!  地球での痕跡をすべて消されて、幼女女神に召喚された風間修。そこで突然、ダンジョンマスターになって他のダンジョンマスターたちと競えと言われた。  戻りたくても戻る事の出来ない現実を受け入れ、異世界へ旅立つ。  始めこそ異世界だとワクワクしていたが、すぐに碇石からズレおかしなことを始めた。  小説になろうで『AN@CHY』名義で投稿している、同タイトルをアルファポリスにも投稿させていただきます。  向こうの小説を多少修正して投稿しています。  修正をかけながらなので更新ペースは不明です。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

学園長からのお話です

ラララキヲ
ファンタジー
 学園長の声が学園に響く。 『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』  昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。  学園長の話はまだまだ続く…… ◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない) ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

処理中です...