9 / 12
*
しおりを挟む「夏雪君っ、学校は」
「何事かと思ったから、早退してきました」
ポケットのヒヨコを撫でる。
廊下の引戸からぴょこっ、とポンポンのついたニット帽子の地蔵がのぞき、すぐに引っ込む。
「あやつめ、密告こみおったな!」
月弧が舌打ちする。
部屋の惨状に色々思うところや言いたいことがあったろうが、夏雪は先に傍らに連れた青い髪の女の子を紹介した。
「雀女さん、この子はイス・セマンダ。骨董品屋さんの娘さんだよ」
「ごきげんよう、異界人の方。わたしは我が主の八番目の記憶人形、イスト・セマンダ」
「はち? え、人形……って」
困惑しかない雀女に月弧が説明してくれる。
「骨董品屋の主人の累は長命の魔術師でな、長く生きすぎて頭が混乱するから、ある程度記憶が溜まると、記録にして人形に移して管理しておる」
「???」
「連絡が取れたのだな」
「うん、彼女と帰り道で会ったからちょうどタイミングが良かったよ」
「なんとかなりそうなのか?」
「ええ、恐らくその鏡は我が主人の手に依るものです」
「へッ?」
「なぬっ、雀女をとんだ事態に巻き込んだ鏡とやらはお前の主が作ったのか?!」
青い髪の少女が無表情で頷く。
「はい。実益のない中途半端な効能、情に流されたかと思われる機能停止、適当にいじったら異界に飛ばされるという安全装置と危機管理への考慮の無さ、如実に情緒不安定な我が主の手による特徴を有しています」
(なんかすごい辛辣……!)
「何より、彼女がここに来たことがその証左かと。寿命を迎えると道具たちは帰巣本能で主の元へ帰ってきます。へっぽこですが、道具には好かれるので」
「雀女さんのお祖母さんの実家も調べたけど無かったから、鏡が骨董品屋さんの所へ帰ろうとして、雀女さんが巻き込まれてこっちへ来てしまったというのが、事態の真相みたいだね」
「それで、雀女は元の場所へ帰してやれるのか?」
「主は只今、出先で引きこもりに陥ったので、当分帰りませんが問題はありません。該当記憶、関連記憶は所持しております。鏡を再構築して、彼女の記憶を解析させてもらえば、早急になんとかいたしましょう。記憶を確認させて頂くので、額に触れさせて頂いても宜しいでしょうか?」
月弧さんがわたしの背中を優しく叩いて彼女の方へ促す。
「良かったな、雀女。うちに帰れるぞ」
「あ、あのッ、」
「はい?」
「戻ったら わたし、月弧さんや夏雪君のことちゃんと覚えてる?」
「雀女……」
「記憶の保持をお望みですか? 混乱を避けるために消すつもりでしたが、お望みならば叶えましょう。ただし、誰にも話すことはできませんが」
「手間をかけるな」
「そもそもは主人の不手際ですので。では、明朝に」
明日?!
早すぎるっと叫ぼうとする間に、すうっと少女は消えてしまった。
1
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
虎の帝は華の妃を希う
響 蒼華
キャラ文芸
―その華は、虎の帝の為にこそ
かつて、力ある獣であった虎とそれに寄り添う天女が開いたとされる国・辿華。
当代の皇帝は、継母である皇太后に全てを任せて怠惰を貪る愚鈍な皇帝であると言われている。
その国にて暮らす華眞は、両親を亡くして以来、叔父達のもとで周囲が同情する程こき使われていた。
しかし、当人は全く堪えておらず、かつて生き別れとなった可愛い妹・小虎と再会する事だけを望み暮らしていた。
ある日、華眞に後宮へ妃嬪として入る話が持ち上がる。
何やら挙動不審な叔父達の様子が気になりながらも受け入れた華眞だったが、入宮から十日を経て皇帝と対面することになる。
見るものの魂を蕩かすと評判の美貌の皇帝は、何故か華眞を見て突如涙を零して……。
変り行くものと、不変のもの。
それでも守りたいという想いが咲かせる奇跡の華は、虎の帝の為に。
イラスト:佐藤 亘 様
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
下っ端妃は逃げ出したい
都茉莉
キャラ文芸
新皇帝の即位、それは妃狩りの始まりーー
庶民がそれを逃れるすべなど、さっさと結婚してしまう以外なく、出遅れた少女は後宮で下っ端妃として過ごすことになる。
そんな鈍臭い妃の一人たる私は、偶然後宮から逃げ出す手がかりを発見する。その手がかりは府庫にあるらしいと知って、調べること数日。脱走用と思われる地図を発見した。
しかし、気が緩んだのか、年下の少女に見つかってしまう。そして、少女を見張るために共に過ごすことになったのだが、この少女、何か隠し事があるようで……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる