10 / 14
女王の手袋
しおりを挟むあるところに冬の女王が治める雪の国がありました。
春が訪れることはない国でしたが、女王様は善人とまではいかなくてもまあまあ分別のある方でしたので、人々はつつがなく暮らしておりました。
さて、ある日のこと。
吹雪が止んで、久方ぶりに晴れたので、可愛い妹にせがまれて、近所で変わり者と評判の男の子が散歩に出かけました。
変わり者というのはほかでもありません。
男の子は、女の子の格好をするのが好きな男の子なのでした。
いつでもキラキラな格好をしています。
妹の手を引いて散歩をしていると、突然黒い影が二人に突っ込んできました。
男の子は、天使にそっくりな妹を悪魔がさらいに来たに違いないと思いきり黒い影をぶちました。
殴られたのは黒いカラスで、ぎゃあとわめいて空に逃げて行きました。
──ポトリ、と宝石のついた赤い素敵な手袋を雪の上に落として。
冬の女王のお城はルビーでできていました。
真っ白な雪の国では、赤が一番美しい色とされていました。
女王は紅色のドレスを着て、緋色のクッションを抱え、ワイン色のソファーの上でおいおいと嘆きに嘆いて、目まで赤くしていました。
パーティーにしていく素敵な赤い手袋が見つからないのです。
素敵な手袋なしにどうやってパーティーへ行けというのでしょう?
そんな時、手袋を拾った男の子が妹と一緒にルビーの道を辿って城へやってきたのでした。
無事に見つかった手袋のことを女王は一瞬で忘れてしまいました。
ぽかぽかと暖かい広間で男の子がキラキラのコートを脱いだとき、男の子の額にチカチカと星が光っているのを見たのです。
「そんなのは常春の女神も風の娘たちも持っていないわ! きっと四季のパーティーで注目の的ね。 わたしに譲ってくれないかしら」
女王が頼みました。
「喜んで。もともとそのつもりでしたから。手袋を拾ったので二つの願いをしに来たんです。ひとつは額の星を取ってもらうこと」
「星が嫌なの?」
「だって僕は目立つの嫌いだもの。だから派手な格好をして星を誤魔化してるんです。額に星をくっつけてるよりは、派手な格好をしてる方がまだ普通だもの。おかげでお父さんは僕が嫌いだし、星をくっつけてると夜中に月が窓を叩いて、夢を邪魔するし」
女王はよく考えてみました。
睡眠不足になったら、美容にも良くないわね。
さらにじっくり考えて女王は赤い素敵な手袋で満足することにしました。
「手袋を届けてくれてありがとう。その星は空に返しといてあげましょう。それが第一の願いね。もうひとつは何かしら?」
「一週間後の妹の誕生日に彼女の欲しいものが贈られますように」
女王は承知して、素敵な手袋を着けていそいそとパーティーへ出かけて行きました。
男の子は、お父さんと仲直りをし、キラキラの格好を止めた男の子になりました。
誕生日を迎えた妹は、額にチカチカと光る星を持った、ますます天使のように愛らしいと評判の女の子になったそうです。
人生に悩みはつきません。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売
【ショートショート】おやすみ
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる