レッドサン ブラックムーン ―大日本帝国は真珠湾にて異世界軍と戦闘状態に入れり―

弐進座

文字の大きさ
上 下
89 / 99
遠すぎた月(A Moon Too Far)

発動(zero hour):2

しおりを挟む
【北米大陸 中央部】
 1945年5月9日

 連合国はエクリプス作戦において、作戦区域を3つに分けていた。

 まずカナダのオンタリオOntario戦区Frontであり、英国陸軍ロイヤルアーミーと日本の遣米軍が主攻戦力となっていた。同軍の任務はオンタリオ周辺からスペリオール湖北部に潜む魔獣の掃討であり、同時に敵獣の南進を未然に防ぐ役割が課せられている。これは後述する合衆国第6軍の進攻を戦略レベルで援護する意味が含まれていた。

 次に五大湖Lakes戦区Frontである。こちらは合衆国第6軍の担当戦区として割り当てられていた。彼等には文字通り五大湖周辺に潜む魔獣の掃討によって、BMの防衛戦力を低下させる任務が課せられている。まさにエクリプスの主目的を背負っていた。そのため、第6軍は合衆国軍の中でも最も装備の充足化が計られ、優先的に航空支援が得られるように事前調整がなされている。

 最後に南部South戦区Frontだった。ここは合衆国第7軍の担当戦区となっていた。彼等は第6軍に先行し、アトランタBMから産出される魔獣の北進を挫く役割が与えられている。アトランタBMと南部の魔獣に動きが無かった場合は、戦力予備として状況次第では合衆国第6軍の攻勢に加わる予定となっていた。

 端的に要約すれば、エクリプスの主舞台は五大湖戦区であり、主役は合衆国第6軍だった。それ以外の戦区に割り当てられた配役は引き立て役に過ぎなかったのである。英国陸軍、遣米軍、そして合衆国第7軍に期待された役割は南北から邪魔が入らぬよう防波堤として機能することだった。合衆国第6軍が合衆国中央部から五大湖まで打通するまで、他の軍は魔獣の進攻を食い止めれば良かった。逆説的には、合衆国第6軍が打通が失敗した場合、全てが水泡に帰することを意味していた。

 上述のようにエクリプス作戦の実態は、あくまでも五大湖周辺の魔獣とBMの無力化を意図した限定攻勢であり、決して後世に語り継がれるような合衆国の全土回復を意図した全面攻勢では無かった。

====================

 エクリプス発動の先鋒を切ったのは、航空部隊だった。2000機以上の戦爆混合の攻撃隊が払暁とともに飛び立ち、定められた目標へ向けて爆弾の豪雨を降らした。

 主要な攻撃目標は大別して、二つに分かれていた。

 一つは陸上戦力の進撃予定路にある魔獣の群れだった。魔獣はセルと呼ばれる群体を形成している。セルの構成は、種族によって様々な形態に分けられていた。例えば、ワームやバジリスクなどの竜種は単一で構成されている。一方、グールやトロールなど人型個体の魔獣は、互いを補うようにセルを形成し、擬似的な複合戦闘集団と化していた。

 もう一つの攻撃目標は、大型魔獣だった。ドラゴンやヒュドラなどである。予め識別票をマーキングされた個体に対して、中隊単位の航空隊が割り振られた。それら魔獣は、ロケット弾から1トン爆弾まで航空機に搭載可能なあらゆる兵装を用いて、文字通りミンチになるまで猛攻を受けることになった。一見すると完全な過剰攻撃オーバーキルだったが、ボッティンオーの戦いを鑑みれば致し方ないことだった。彼の地では大型ドラゴン1頭と引き替えに、合衆国軍は1個大隊2000名の将兵を生け贄に捧げていた。本郷たちの活躍がなければ、さらに1個大隊追加されていたかもしれない。合衆国軍にとって、受け入れがたい交換比率レートだった。

 作戦開始から48時間後、航空攻撃によって50個近くのセルと28体の大型魔獣が戦闘不能と判定された。

 初動は成功と判断され、5月11日、正面戦力として連合国の陸上部隊20万人が進撃を開始した。

 もちろん航空支援エアーサポートは引き続き行われる。連合国は、この日のために30日間稼働可能な物資を集積していた。

====================
次回3月16日(土)投稿予定
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます

竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論 東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで… ※超注意書き※ 1.政治的な主張をする目的は一切ありません 2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります 3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です 4.そこら中に無茶苦茶が含まれています 5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません 6.カクヨムとマルチ投稿 以上をご理解の上でお読みください

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

超文明日本

点P
ファンタジー
2030年の日本は、憲法改正により国防軍を保有していた。海軍は艦名を漢字表記に変更し、正規空母、原子力潜水艦を保有した。空軍はステルス爆撃機を保有。さらにアメリカからの要求で核兵器も保有していた。世界で1、2を争うほどの軍事力を有する。 そんな日本はある日、列島全域が突如として謎の光に包まれる。光が消えると他国と連絡が取れなくなっていた。 異世界転移ネタなんて何番煎じかわかりませんがとりあえず書きます。この話はフィクションです。実在の人物、団体、地名等とは一切関係ありません。

無職ニートの俺は気が付くと聯合艦隊司令長官になっていた

中七七三
ファンタジー
■■アルファポリス 第1回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞■■ 無職ニートで軍ヲタの俺が太平洋戦争時の聯合艦隊司令長官となっていた。 これは、別次元から来た女神のせいだった。 その次元では日本が勝利していたのだった。 女神は、神国日本が負けた歴史の世界が許せない。 なぜか、俺を真珠湾攻撃直前の時代に転移させ、聯合艦隊司令長官にした。 軍ヲタ知識で、歴史をどーにかできるのか? 日本勝たせるなんて、無理ゲーじゃねと思いつつ、このままでは自分が死ぬ。 ブーゲンビルで機上戦死か、戦争終わって、戦犯で死刑だ。 この運命を回避するため、必死の戦いが始まった。 参考文献は、各話の最後に掲載しています。完結後に纏めようかと思います。 使用している地図・画像は自作か、ライセンスで再利用可のものを検索し使用しています。 表紙イラストは、ヤングマガジンで賞をとった方が画いたものです。

蒼海の碧血録

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年六月、ミッドウェー海戦において日本海軍は赤城、加賀、蒼龍を失うという大敗を喫した。  そして、その二ヶ月後の八月、アメリカ軍海兵隊が南太平洋ガダルカナル島へと上陸し、日米の新たな死闘の幕が切って落とされた。  熾烈なるガダルカナル攻防戦に、ついに日本海軍はある決断を下す。  戦艦大和。  日本海軍最強の戦艦が今、ガダルカナルへと向けて出撃する。  だが、対するアメリカ海軍もまたガダルカナルの日本軍飛行場を破壊すべく、最新鋭戦艦を出撃させていた。  ここに、ついに日米最強戦艦同士による砲撃戦の火蓋が切られることとなる。 (本作は「小説家になろう」様にて連載中の「蒼海決戦」シリーズを加筆修正したものです。予め、ご承知おき下さい。) ※表紙画像は、筆者が呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)にて撮影したものです。

暁のミッドウェー

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年七月五日、日本海軍はその空母戦力の総力を挙げて中部太平洋ミッドウェー島へと進撃していた。  真珠湾以来の歴戦の六空母、赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴が目指すのは、アメリカ海軍空母部隊の撃滅。  一方のアメリカ海軍は、暗号解読によって日本海軍の作戦を察知していた。  そしてアメリカ海軍もまた、太平洋にある空母部隊の総力を結集して日本艦隊の迎撃に向かう。  ミッドウェー沖で、レキシントン、サラトガ、ヨークタウン、エンタープライズ、ホーネットが、日本艦隊を待ち構えていた。  日米数百機の航空機が入り乱れる激戦となった、日米初の空母決戦たるミッドウェー海戦。  その幕が、今まさに切って落とされようとしていた。 (※本作は、「小説家になろう」様にて連載中の同名の作品を転載したものです。)

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

処理中です...