レッドサン ブラックムーン ―大日本帝国は真珠湾にて異世界軍と戦闘状態に入れり―

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遠すぎた月(A Moon Too Far)

前夜祭(April Fool) 7

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 集積所内は完全な混乱に陥っていた。いたるところで爆発による火災が発生し、煙によって視界が急速に悪化し始めている。兵士と作業員達の誰もが事故によるものだと思い、消火に専念しようとした。そのままならば収束は時間の問題だったかも知れない。しかし、警備本部が侵入者の可能性を告げることで、混乱にさらなる拍車がかかってしまった。

 兵士達は恐怖から、いるはずのない敵へ向けて発砲を開始した。各所で同士撃ちが多発し、警備責任の大佐は怒りと共に発砲禁止命令を大半の部隊に発した。

 グレイとオクトが混乱のただ中へ参戦したのは、そのときだった。二人の工作員にとっては最良にして、日本海軍にとって最悪のタイミングだった。 

 グレイは油槽車タンクローリーへ向けて、銃撃を行った。オイルに引火、たちまち大爆発を起こし、火炎が周辺にまき散らされる。その間にオクトは起爆スイッチを押し、変電所を爆破した。集積所が暗闇に閉ざされ、禍々しい橙色の炎が浮かび上がった。

「行こう。そろそろ感づかれるぞ」

 グレイが周辺を見渡しながら言った。ゆっくりと、それでいて有無を言わせぬように口調だった。彼は夜目が効く男だった。その目には多数の武装した日本兵が集まってくるのが遷っていた。

「やれやれ、ひとつ聞いて良いか?」

 オクトは起爆装置の接続を解除すると、立ち上がった。心なしか不満そうだった。

「なんだ?」
「なんで、小物しか狙わないんだ? あんなチンケなタンクローリーじゃなくても、ここにはオイルタンクや弾薬庫が山ほどあるんだぜ。そいつらを爆破してやった方が俺たちの仕事も楽になるって言うのに……」
「上からの命令だ。過度に日本軍の力を削ぐような工作は控えろと言われている。それにな。その手の施設は相手IJNも重要だとわかっているはずだ。恐らく、この基地でも最も厳重な警備が敷かれているだろうさ」

 グレイの予測は当たっていた。警備本部は弾薬集積所とオイルタンクへ増援を送り込もうとしていた。兵員を積んだ軍用トラックが次々と要所へ向っていくのが見て取れた。その中の1グループが港の奥地へ向おうとしているのがわかった。

 グレイは眉間にしわ寄せた。

「まずいな……」

 こいつはしまった。少しばかり、やりすぎたらしい。

「どうする?」

 オクトが短機関銃を肩にかけ、手榴弾の残りを確かめていた。

「もちろん、やるしかない」

 グレイはM1バズーカの次弾装填を完了させた。

「やれやれ、貧乏くじをひいちまったな。もう片方の任務のほうがやりやすかったろうに……」

 オクトが肩をすくませる。グレイは笑いを堪えていた。

「俺もお前さんも肌の色のせいで損な役回りになったな。まったく皮肉なもんだ」
「放っておけ。ここだけの話だが、黄色jauneは嫌いなんだ。何だか中途半端な色だろう? ああ、誤解するな。blancはもっと嫌いだ。冷たい色だ」
「へっ、ああ、そうかい!」

 目標へ向う車列は2台のトラックで構成されていた。グレイは、まず先頭車両へ向けてバズーカを放った。フロントエンジンに直撃し、燃料タンクへ引火する。蠢く炎の塊から数体の人のかたちをしたものが、奇怪な声を上げながら現われた。先頭車両の惨劇を受けて、2台目は急停車し、中から十名近い兵士が降りてきた。オクトは兵士の群れへ向けて、手榴弾を立て続けに2発投げ込んだ。爆発でまき散らされた破片により、6名が戦闘能力を奪われた。

 残り4名は咄嗟に物陰へ身を隠し、果敢にも反撃を行ってきた。
 グレイとオクトはM50短機関銃を放ち、その場を制圧しにかかった。

――4人か。俺とオクトなら何とかなりそうだ。

 そう思ったときだ。重々しいギアの駆動音が迫ってくるのがわかった。聞き覚えのある音だった。

 履帯・・を備えた車両の音だった。

「ケ・セラ・セラってか?」

 グレイは、余裕の笑みを浮かべた。ある種の諦観が込められていた。M1バズーカの残弾は残り1発だった。

 オクトが抗議を告げる。

「どこの言葉だ? ルール違反だぜ」

 この日、警備責任の大佐が派遣したのは陸戦隊に配備されたばかりの五式戦車チリだった。彼はグレイ達2名へ向けて、1個小隊3両を派遣していた。たった2名に対して送り込まれた戦力としては過剰きわまりない物だった。


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次回3/2投稿予定
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