レッドサン ブラックムーン ―大日本帝国は真珠湾にて異世界軍と戦闘状態に入れり―

弐進座

文字の大きさ
上 下
59 / 99
太平洋の嵐(Pacific storm)

太平洋の嵐(Pacific storm) 14

しおりを挟む
 少女が迫ってくるにつれ、その輪郭がはっきりと見て取れるようになった。頬はこけ、顔のあちこち、体中に黒紫色の染みが出来ていた。ネシスは、その姿に見覚えがあった。少女は自分に、とてもよく似ていた。彼女は確信に近いものを感じた。

 少女が跳躍し、牙を剥き出しにして来ても、何ら恐れることは無かった。彼女は全身に衝撃を感じながらも、抱きしめるように小枝のように細い身体を受け止めた。
 同時に鋭い痛みを首筋に走った。

 帝国海軍の水兵セイラ―服、その襟元から黒く染められていく。
 背後で、彼女の契約者パートナーが必死に名を呼んでいるのがわかった。なんだ、あの男でも慌てることがあるのじゃなと、少しばかりおかしみを感じる。

 ネシスの腕の中で、少女は暴れ回っていたが、彼女は駄々っ子をなだめるかのようにじっと抱いたまま動かなかった。

「すまぬ……。許すが良い。今の妾は、抱き留めることしか出来ぬ」

 絞り出すような囁き声でネシスは言った。

 儀堂は、射撃命令を撤回すると他の兵をその場に残し、ネシスの背後へ歩み寄った。何事か囁く声が聞こえたかと思えば、少女が徐々に大人しくなっていく様子が見て取れた。やがて、血走った目が穏やかなものに変わり、首元から顔が離れた。

 少女はネシスと鼻先を付き合わすような姿勢になった。その瞳に映った顔を認識すると、かすれた声で言語化した。

「ねえ……さん?」
「気は済んだか?」

 ネシスは寝かしつけるように言った。少女は小さな声で「うん」と肯くと、そのまま気を失った。

「儀堂――」

 ネシスは倒れた少女を抱えながら、ためらいがちに振り向いた。彼女の契約者は、ルガーをホルスターへ収めていた。ただ、表情は依然として険しかった。

「お前に夢に出てきたのは、その子だったのか?」
「そうじゃ」
「詳しく聞かせてもらえるな?」
「……ああ、約束する」

 ネシスは苦しげにうなずくと、よろめいた。咄嗟に儀堂は肩を貸した。

「まったく無茶をする。お前、この子にわざと血を吸わせただろう。もしもことがあったらどうする?」
「たわけ。もしもなどあろうはずがない。妾を何と心得る」
「何も心得んよ。とにかく、こんなところに居られない。おい、寛。もう歩けるな?」

 ちょうど戸張は、よたよたと立ち上がったところだった。

「ああ、大丈夫――ああん!?」

 間の抜けた声を上げると、戸張は少女が収まっていた容器に手を伸ばした。

「どうした?」
「いや、こいつはなんだ?」

 伸ばした手の先には、鈍い銀色の光を放つ卵が握られていた。ただし大きさが規格外だった。それらは控えめに見積もっても西瓜ほどの大きさだった。
 ネシスは、その卵を見た瞬間、血相を変えた。怒りとも悲しみとつかない表情だった。

「何と惨いことを」
「知っているのか?」
「それは――」

 彼女が答えを言う前に、産みの親が正体を現わした。

 突如、支柱を大きな揺れが襲い、内壁に大きな穴が空いた。穴の先から黒い巨影が姿を現わした。

 <宵月>で沈黙させたはずの黒竜だった。血だらけになった頭部を壁から突き出すと、かっと口を開いた。橙色の光が喉元に宿りだした。

「なるほど、こりゃ参ったね!」

 半笑いで戸張は首を降る。
 儀堂はネシスから少女を取り上げた。わずかな重さしか感じられず、軽い驚きを覚える。

「自分で走れるな?」
「無論じゃ」
「よろしい。総員、退避! <宵月>まで走れ!!」

 儀堂達が駆け出すと同時に、黒竜より火球が放たれた。

=====================

次回1/22(火)投稿予定
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます

竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論 東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで… ※超注意書き※ 1.政治的な主張をする目的は一切ありません 2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります 3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です 4.そこら中に無茶苦茶が含まれています 5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません 6.カクヨムとマルチ投稿 以上をご理解の上でお読みください

蒼海の碧血録

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年六月、ミッドウェー海戦において日本海軍は赤城、加賀、蒼龍を失うという大敗を喫した。  そして、その二ヶ月後の八月、アメリカ軍海兵隊が南太平洋ガダルカナル島へと上陸し、日米の新たな死闘の幕が切って落とされた。  熾烈なるガダルカナル攻防戦に、ついに日本海軍はある決断を下す。  戦艦大和。  日本海軍最強の戦艦が今、ガダルカナルへと向けて出撃する。  だが、対するアメリカ海軍もまたガダルカナルの日本軍飛行場を破壊すべく、最新鋭戦艦を出撃させていた。  ここに、ついに日米最強戦艦同士による砲撃戦の火蓋が切られることとなる。 (本作は「小説家になろう」様にて連載中の「蒼海決戦」シリーズを加筆修正したものです。予め、ご承知おき下さい。) ※表紙画像は、筆者が呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)にて撮影したものです。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部

山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。 これからどうかよろしくお願い致します! ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

暁のミッドウェー

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年七月五日、日本海軍はその空母戦力の総力を挙げて中部太平洋ミッドウェー島へと進撃していた。  真珠湾以来の歴戦の六空母、赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴が目指すのは、アメリカ海軍空母部隊の撃滅。  一方のアメリカ海軍は、暗号解読によって日本海軍の作戦を察知していた。  そしてアメリカ海軍もまた、太平洋にある空母部隊の総力を結集して日本艦隊の迎撃に向かう。  ミッドウェー沖で、レキシントン、サラトガ、ヨークタウン、エンタープライズ、ホーネットが、日本艦隊を待ち構えていた。  日米数百機の航空機が入り乱れる激戦となった、日米初の空母決戦たるミッドウェー海戦。  その幕が、今まさに切って落とされようとしていた。 (※本作は、「小説家になろう」様にて連載中の同名の作品を転載したものです。)

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

小沢機動部隊

ypaaaaaaa
歴史・時代
1941年4月10日に世界初の本格的な機動部隊である第1航空艦隊の司令長官が任命された。 名は小沢治三郎。 年功序列で任命予定だった南雲忠一中将は”自分には不適任”として望んで第2艦隊司令長官に就いた。 ただ時局は引き返すことが出来ないほど悪化しており、小沢は戦いに身を投じていくことになる。 毎度同じようにこんなことがあったらなという願望を書き綴ったものです。 楽しんで頂ければ幸いです!

処理中です...