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太平洋の嵐(Pacific storm)
対獣戦闘(Anti-beast warfare) 4
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「まったく、あなたのところの艦長は無謀にもほどがあるわ」
煙草を取り出したキルケを御調は制止した。
「女史、ここは禁煙です」
独逸令嬢はため息をつくと、「ごめんなさい」と言った。
「よりにもよって、接続試験の日に危険な警戒任務を買って出るなんて! もし、何かあったらどうするの?」
「そう言われましても……あなたの方こそ、なぜ中止されなかったんですか?」
「中止? 冗談じゃ無いわ。やっと準備が整ったのよ。私一人がかりでここまでようやくこれたっていうのに、こんなところで止めてなるものですか」
キルケの予定では、彼女の他に何名か助手を乗船させるつもりだった。しかし、六反田の許可が下りなかったのだ。そのため、彼女は本来ならば5人がかりでやらねばならない調整作業を自分だけでやる羽目になった。船酔いに苦しみながら、17日間かけて彼女は演算機と魔導機関の同調回路の接続を完了させていた。本国に戻ったら、あのデブに必ず復讐すると彼女は誓った。
「私に与えられた時間は少ないの。この艦に乗っている間に、試験を行わなければ祖国に申しわけがたたないわ」
彼女はマギアコアと演算機の接続を手伝う代わりに、日本が開発した魔導機関の内部構造について知る機会を得ていた。独逸のアーネンエルベ機関は彼女の成果に期待をかけている。もちろん、それに応えられなかったとき、彼女の立場危うくなるであろう。<宵月>がシアトルに入港すれば、彼女は艦を降りなければならなかった。それまでに彼女は独逸本国の期待に適った手土産を用意しなければならない。
「この世界は、広いのだな……」
マギアコアからネシスの声が漏れ聞こえた。どうやら儀堂に話しかけているらしい。
=====================
『この世界は、広いのだな……』
耳当てから吐息のような声が響いた。なんだ、いったい何があったと儀堂は思った。落ち込んでいるように彼の耳には聞こえていた。
「どうした? 気分でも悪いのか?」
『フフ、否じゃ。ただ、そう……妾は感じ入っている』
「そうか」
『妾があの黒い月に囚われていたときも、外の世界を見ることができた。だが、かように広いとは全く思えなかった。ああ、思い出したぞ。幻か悪夢を見せられているように妾は感じていた。いかに広かろうとも妾の手に届かぬものだった』
「今は違うのだな」
『是じゃ。今は違う。妾はどこまで行けるようだ』
「そうか。まあ、それならいい。ただ、勝手にどこかへ行かれてはオレが困る」
『フフ、道理じゃな。……ギドーよ』
ネシスはためらいがちに名前を呼んだ。
「なんだ?」
『昨夜の話だが――』
「ああ」
『もし、妾に助けを求めるものが現われたとき、できることなら力を貸してほしいのだ』
儀堂はしばらく考えた。時間にして、それは数秒。されどもネシスには永遠に感じられた。
「相手によるな。もし、その存在が敵として現われたのならば――」
『構わぬ』
ネシスは明確な意思で遮った。怒りすら含まれていた。
『お主は妾を見くびっておる。妾は力を貸せと言ったのだ。助けよとは言っておらぬ。当然、妾たちにとって敵ならば約束通り、ただ鏖殺するのみじゃ』
「そうかい……それでいいのだな」
『構わぬよ。恐らく、何よりもそやつにとってそれが――』
突然、ネシスの言葉が途絶えた。
「ネシス?」
『ギドー、来るぞ! 奴らじゃ!』
入れ替わるように電測室より報告が上がってくる。
「艦橋へ、対空電探に反射波あり。大規模な不明飛行群の接近を認む。真方位150、距離167海里」
=====================
次回1/1投稿予定
煙草を取り出したキルケを御調は制止した。
「女史、ここは禁煙です」
独逸令嬢はため息をつくと、「ごめんなさい」と言った。
「よりにもよって、接続試験の日に危険な警戒任務を買って出るなんて! もし、何かあったらどうするの?」
「そう言われましても……あなたの方こそ、なぜ中止されなかったんですか?」
「中止? 冗談じゃ無いわ。やっと準備が整ったのよ。私一人がかりでここまでようやくこれたっていうのに、こんなところで止めてなるものですか」
キルケの予定では、彼女の他に何名か助手を乗船させるつもりだった。しかし、六反田の許可が下りなかったのだ。そのため、彼女は本来ならば5人がかりでやらねばならない調整作業を自分だけでやる羽目になった。船酔いに苦しみながら、17日間かけて彼女は演算機と魔導機関の同調回路の接続を完了させていた。本国に戻ったら、あのデブに必ず復讐すると彼女は誓った。
「私に与えられた時間は少ないの。この艦に乗っている間に、試験を行わなければ祖国に申しわけがたたないわ」
彼女はマギアコアと演算機の接続を手伝う代わりに、日本が開発した魔導機関の内部構造について知る機会を得ていた。独逸のアーネンエルベ機関は彼女の成果に期待をかけている。もちろん、それに応えられなかったとき、彼女の立場危うくなるであろう。<宵月>がシアトルに入港すれば、彼女は艦を降りなければならなかった。それまでに彼女は独逸本国の期待に適った手土産を用意しなければならない。
「この世界は、広いのだな……」
マギアコアからネシスの声が漏れ聞こえた。どうやら儀堂に話しかけているらしい。
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『この世界は、広いのだな……』
耳当てから吐息のような声が響いた。なんだ、いったい何があったと儀堂は思った。落ち込んでいるように彼の耳には聞こえていた。
「どうした? 気分でも悪いのか?」
『フフ、否じゃ。ただ、そう……妾は感じ入っている』
「そうか」
『妾があの黒い月に囚われていたときも、外の世界を見ることができた。だが、かように広いとは全く思えなかった。ああ、思い出したぞ。幻か悪夢を見せられているように妾は感じていた。いかに広かろうとも妾の手に届かぬものだった』
「今は違うのだな」
『是じゃ。今は違う。妾はどこまで行けるようだ』
「そうか。まあ、それならいい。ただ、勝手にどこかへ行かれてはオレが困る」
『フフ、道理じゃな。……ギドーよ』
ネシスはためらいがちに名前を呼んだ。
「なんだ?」
『昨夜の話だが――』
「ああ」
『もし、妾に助けを求めるものが現われたとき、できることなら力を貸してほしいのだ』
儀堂はしばらく考えた。時間にして、それは数秒。されどもネシスには永遠に感じられた。
「相手によるな。もし、その存在が敵として現われたのならば――」
『構わぬ』
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『お主は妾を見くびっておる。妾は力を貸せと言ったのだ。助けよとは言っておらぬ。当然、妾たちにとって敵ならば約束通り、ただ鏖殺するのみじゃ』
「そうかい……それでいいのだな」
『構わぬよ。恐らく、何よりもそやつにとってそれが――』
突然、ネシスの言葉が途絶えた。
「ネシス?」
『ギドー、来るぞ! 奴らじゃ!』
入れ替わるように電測室より報告が上がってくる。
「艦橋へ、対空電探に反射波あり。大規模な不明飛行群の接近を認む。真方位150、距離167海里」
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