レッドサン ブラックムーン ―大日本帝国は真珠湾にて異世界軍と戦闘状態に入れり―

弐進座

文字の大きさ
上 下
40 / 99
太平洋の嵐(Pacific storm)

対獣戦闘(Anti-beast warfare) 3

しおりを挟む
【北太平洋上 駆逐艦<宵月>よいづき
 1945年3月17日 昼

 久方ぶりに、気分の良い寝覚めに、ネシスは上機嫌だった。何よりも今日という日を絶好調ベストコンディションで迎えられたことに喜びを感じている。

 彼女は今、魔導機関の室内、その中央部に据えられた銀色の筒(マギアコア)内部にいた。マギアコアはカプセルの容器で、台の上に横たわるように据えられていた。

「まだかのう?」
 好奇心旺盛の彼女はのぞき窓から、忙しなく外をきょろきょろと見渡した。
「もう少し待って。さっきから言っているでしょう」

 あのドイツじんのキルケとか言うのが、少しいらついた声で返してくる。そんなに怒らなくてもよかろうにと思う。

「退屈なのじゃ」
「あと少しですよ、ネシスさん」

 みつぎとかいう少尉が、優しく諭すように言ってきた。どうも気に入らない。初めて会った頃から、この女には嫌悪感というか、嘘くさいものをネシスは感じていた。

「わかっとる」
 ぶっきらぼうに言い放つとネシスは、そっと目を閉じた。
 昨夜の儀堂との会話を思い返す。
『君がここにいるということだ』

 そう、妾はここにいる。もうあの牢獄に囚われることはない。それだけは確かなことだ。その事実が彼女の精神に安らぎをもたらしていた。今ならば、あの男ギドーのために存分に自らを役立てることができそうだった。

 ガチリと硬質な歯車が回るような音がマギアコアの下部から伝わってきた。

「準備は出来たわよ。お姫様」
 リッテルハイムが揶揄するように言った。
「その言い方は止めよ」
 ネシスは口を尖らせ、文句を言うと、そっと目を閉じた。

=====================

 儀堂はちょうど対空指揮所から艦橋へ降りてきたところだった。警戒任務を開始してから数時間、今のところ、電探と水測から異常は報告されていない。オレの杞憂ならば良いが、そう思い始めたときだった。耳当てレシーバーから中性的ハスキーな声が発せられた。

『艦長、魔導機関へ同調接続が完了致しました』
 御調少尉だった。儀堂は喉頭式マイクを押さえた。
「わかった。始めてくれ。異常があれば直ちに中止だ。その場合は通常通り、電探と水測に切り替える」
『承知しました。それでは始めます』

=====================

 電子演算機の真空管が忙しなく点滅する。演算機は<宵月>の対空、対水上電探および水中聴音機へ接続されていた。電波の揺らぎが視覚情報に変換され、音紋の旋律が聴覚情報に変換される。それらは演算機によって特殊なフィルタリングされて、マギアコアへ送信された。

 電探が捕らえる反射波、聴音機が捕らえる音紋が、ネシスの神経パルスへ正しく変換されていく。彼女は自身の感覚が広がり、<宵月>と同調していくのがわかった。

「良いな。そう、これは良い」
 ネシスは低く呟いた。

 今やネシスの目から、<宵月>彼女の取り巻く全てが遙か遠くまで見えており、そして感じることが出来た。

 大空を駆ける渡り鳥の群れ、その上空を大きく旋回する烈風の編隊、海面下で求愛行動を繰り広げるイルカのつがい、さらに深い海の底をゆらりと航行するマッコウクジラの巨体。
 それらの挙動をつぶさに彼女は見て、聞き、感じることができた。

 これまでも彼女は<宵月>の周辺の状況を感じ取ることことができたが、それはあくまでも気配を探る程度に過ぎなかった。おおざっぱに定義するならば何となくに過ぎなかったのだ。それが今では明確な形状フォルムを持って認識できるようになった。彼女は<宵月>が発しているもの、そして受けているもの全てを感じとることができた。

 今のネシスは<宵月>そのものだった。

「良いぞ、誠に良いぞ。お主ら、褒めてつかわそう。大義であった」

 ネシスは、新しい玩具を手に入れた子どものように喜んでいた。御調は苦笑し、キルケは肩をすくめた。

=====================

次回12/31投稿予定
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます

竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論 東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで… ※超注意書き※ 1.政治的な主張をする目的は一切ありません 2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります 3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です 4.そこら中に無茶苦茶が含まれています 5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません 6.カクヨムとマルチ投稿 以上をご理解の上でお読みください

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

蒼海の碧血録

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年六月、ミッドウェー海戦において日本海軍は赤城、加賀、蒼龍を失うという大敗を喫した。  そして、その二ヶ月後の八月、アメリカ軍海兵隊が南太平洋ガダルカナル島へと上陸し、日米の新たな死闘の幕が切って落とされた。  熾烈なるガダルカナル攻防戦に、ついに日本海軍はある決断を下す。  戦艦大和。  日本海軍最強の戦艦が今、ガダルカナルへと向けて出撃する。  だが、対するアメリカ海軍もまたガダルカナルの日本軍飛行場を破壊すべく、最新鋭戦艦を出撃させていた。  ここに、ついに日米最強戦艦同士による砲撃戦の火蓋が切られることとなる。 (本作は「小説家になろう」様にて連載中の「蒼海決戦」シリーズを加筆修正したものです。予め、ご承知おき下さい。) ※表紙画像は、筆者が呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)にて撮影したものです。

戦神の星・武神の翼 ~ もしも日本に2000馬力エンジンが最初からあったなら

もろこし
歴史・時代
架空戦記ファンが一生に一度は思うこと。 『もし日本に最初から2000馬力エンジンがあったなら……』 よろしい。ならば作りましょう! 史実では中途半端な馬力だった『火星エンジン』を太平洋戦争前に2000馬力エンジンとして登場させます。そのために達成すべき課題を一つ一つ潰していく開発ストーリーをお送りします。 そして火星エンジンと言えば、皆さんもうお分かりですね。はい『一式陸攻』の運命も大きく変わります。 しかも史実より遙かに強力になって、さらに1年早く登場します。それは戦争そのものにも大きな影響を与えていきます。 え?火星エンジンなら『雷電』だろうって?そんなヒコーキ知りませんw お楽しみください。

【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部

山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。 これからどうかよろしくお願い致します! ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。

暁のミッドウェー

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年七月五日、日本海軍はその空母戦力の総力を挙げて中部太平洋ミッドウェー島へと進撃していた。  真珠湾以来の歴戦の六空母、赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴が目指すのは、アメリカ海軍空母部隊の撃滅。  一方のアメリカ海軍は、暗号解読によって日本海軍の作戦を察知していた。  そしてアメリカ海軍もまた、太平洋にある空母部隊の総力を結集して日本艦隊の迎撃に向かう。  ミッドウェー沖で、レキシントン、サラトガ、ヨークタウン、エンタープライズ、ホーネットが、日本艦隊を待ち構えていた。  日米数百機の航空機が入り乱れる激戦となった、日米初の空母決戦たるミッドウェー海戦。  その幕が、今まさに切って落とされようとしていた。 (※本作は、「小説家になろう」様にて連載中の同名の作品を転載したものです。)

皇国の栄光

ypaaaaaaa
歴史・時代
1929年に起こった世界恐慌。 日本はこの影響で不況に陥るが、大々的な植民地の開発や産業の重工業化によっていち早く不況から抜け出した。この功績を受け犬養毅首相は国民から熱烈に支持されていた。そして彼は社会改革と並行して秘密裏に軍備の拡張を開始していた。 激動の昭和時代。 皇国の行く末は旭日が輝く朝だろうか? それとも47の星が照らす夜だろうか? 趣味の範囲で書いているので違うところもあると思います。 こんなことがあったらいいな程度で見ていただくと幸いです

無職ニートの俺は気が付くと聯合艦隊司令長官になっていた

中七七三
ファンタジー
■■アルファポリス 第1回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞■■ 無職ニートで軍ヲタの俺が太平洋戦争時の聯合艦隊司令長官となっていた。 これは、別次元から来た女神のせいだった。 その次元では日本が勝利していたのだった。 女神は、神国日本が負けた歴史の世界が許せない。 なぜか、俺を真珠湾攻撃直前の時代に転移させ、聯合艦隊司令長官にした。 軍ヲタ知識で、歴史をどーにかできるのか? 日本勝たせるなんて、無理ゲーじゃねと思いつつ、このままでは自分が死ぬ。 ブーゲンビルで機上戦死か、戦争終わって、戦犯で死刑だ。 この運命を回避するため、必死の戦いが始まった。 参考文献は、各話の最後に掲載しています。完結後に纏めようかと思います。 使用している地図・画像は自作か、ライセンスで再利用可のものを検索し使用しています。 表紙イラストは、ヤングマガジンで賞をとった方が画いたものです。

処理中です...