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北米魔獣戦線(North America)
老人と戦車(Old man and Panzer) 2
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【アメリカ合衆国 ノースダコダ州北部 ボッテインオー】
1945年3月14日
ボッティンオーがようやく秩序らしいものを回復したのは、魔獣の襲撃から2日後のことだった。
本郷は遣米軍司令部から派遣された味方部隊と合流し、任務の引き継ぎを行った。
彼の部隊はあまりにも損耗しすぎていたからだった。そう遠くない未来に本郷の中隊は再編成のため、遙か後方へ回されるだろう。久しぶりにロッキー山脈を越えることになりそうだ。輜重科の将校から聞いた話だと、先月横須賀を発った支援船団がシアトルに着くらしい。新たな戦いに備えて、大量の物資と装備が届けられる。その中の幾分かは本郷の中隊に割り当てられることになるかもしれない。
その日の午後、本郷は大隊本部から新たな命令を正式に受けた。予想通りだった。彼の中隊は、戦力を充足させるために、一週間後にシアトルへ移送されることになった。
ならば、彼は急がなければならなかった。
翌朝、日もまだ姿を見せぬ頃合に本郷はボッティンオー近郊の森へ足を踏み入れた。そこはドラゴンが出現した付近に当たる。中村少尉を含む数名の将兵を伴い、慎重に歩を進めていく。この地区の哨戒担当は帝国陸軍が担っているが、余計な面倒を招かぬためにも遭遇したくは無かった。
やがて、本郷は目的地に辿り着いた。見張りに付けていた兵士へ、差し入れのチョコレイトと煙草を手渡す。
そこは原生林の間に出来た巨大な洞穴で、本郷が倒したギガワームによって築かれたものだった。
懐中電灯で足下を照らしながら、奥深くへ突き進んでいく。敵獣がいないとわかっていても、部下達は雰囲気から薄ら寒い気分に囚われがちだった。数日前の戦闘が彼等の心に深い疵痕を残していた。一方、本郷は全く別の理由から気を揉んでいた。
――あれから2日……果たして本当に飲まず食わずで本当に大丈夫なのか?
やがて、彼は洞窟の最奥部まで辿り着いた。懐中電灯を前にかざす、映し出されたのは鋼鉄のモノリスだった。数日前にボッティンオーの街で巨獣2体を圧倒し、平らげた鉄の鼠だ。
本郷は兵士を待機させると、巨大な車体脇へ歩む寄った。そこに備えられた梯子をのぼり、車体前部にある操縦手用のハッチをノックする。しばらくして返事があった。小さな子どもの声だった。
「誰ダ?」
ほっと本郷は胸をなで下ろした。
「僕だ。本郷だよ。ここを空けて良いかな?」
「……カマワナイ」
「失礼、お嬢さん」
本郷は丸い天蓋を開き、本郷は車内を懐中電灯で照らし出した。全く現実離れした情景が浮かび上がる。
操縦席に据えられていたのは、直径1メートルほどの小さな黒い球体だった。
――確かに……これを合衆国に引き渡すのは無理だな。
人類にとって悪夢の象徴に他ならない存在だった。5年前に世界各地に忽然と現われ、厄災をまき散らした球体だ。
BMだった。
それこそが声の主であり、マウスの操縦手だった。
――よりにもよって……とんでもないものを貸し出してくれたものだ。
黒光りする球体に、自身の顔が映し出されれる酷く歪んでいる。まるで困っているようだった。
2日前の記憶が彼の脳内で再生された。
ドラゴンとの戦闘を終えて、本郷はマウスと共に格納庫へ帰還した。降車後、独逸の老人へ礼を告げるため、本郷は歩み寄った。老人は彼が礼を言う前に、会話を始めた。焦っているようだった。
「君らに、これを預けたい」
マウスを指しながら、彼は言った。
本郷は素直に面喰らい、思わず日本語で「待ってくれ」と言い、独逸語で急いで言い直した。
「待ってください。説明をしてください。突然すぎる」
教本に載っているような単語を繰り返す。
老人は僅かに反省の色をみせたが、その意思に変わりは無いようだった。
彼は本郷の求めに応じて、説明を始めた。
「元々、これはあるお方の遺志で開発したものなのだ」
独り言のような語り口だった。
=====================
次回12/19投稿予定
1945年3月14日
ボッティンオーがようやく秩序らしいものを回復したのは、魔獣の襲撃から2日後のことだった。
本郷は遣米軍司令部から派遣された味方部隊と合流し、任務の引き継ぎを行った。
彼の部隊はあまりにも損耗しすぎていたからだった。そう遠くない未来に本郷の中隊は再編成のため、遙か後方へ回されるだろう。久しぶりにロッキー山脈を越えることになりそうだ。輜重科の将校から聞いた話だと、先月横須賀を発った支援船団がシアトルに着くらしい。新たな戦いに備えて、大量の物資と装備が届けられる。その中の幾分かは本郷の中隊に割り当てられることになるかもしれない。
その日の午後、本郷は大隊本部から新たな命令を正式に受けた。予想通りだった。彼の中隊は、戦力を充足させるために、一週間後にシアトルへ移送されることになった。
ならば、彼は急がなければならなかった。
翌朝、日もまだ姿を見せぬ頃合に本郷はボッティンオー近郊の森へ足を踏み入れた。そこはドラゴンが出現した付近に当たる。中村少尉を含む数名の将兵を伴い、慎重に歩を進めていく。この地区の哨戒担当は帝国陸軍が担っているが、余計な面倒を招かぬためにも遭遇したくは無かった。
やがて、本郷は目的地に辿り着いた。見張りに付けていた兵士へ、差し入れのチョコレイトと煙草を手渡す。
そこは原生林の間に出来た巨大な洞穴で、本郷が倒したギガワームによって築かれたものだった。
懐中電灯で足下を照らしながら、奥深くへ突き進んでいく。敵獣がいないとわかっていても、部下達は雰囲気から薄ら寒い気分に囚われがちだった。数日前の戦闘が彼等の心に深い疵痕を残していた。一方、本郷は全く別の理由から気を揉んでいた。
――あれから2日……果たして本当に飲まず食わずで本当に大丈夫なのか?
やがて、彼は洞窟の最奥部まで辿り着いた。懐中電灯を前にかざす、映し出されたのは鋼鉄のモノリスだった。数日前にボッティンオーの街で巨獣2体を圧倒し、平らげた鉄の鼠だ。
本郷は兵士を待機させると、巨大な車体脇へ歩む寄った。そこに備えられた梯子をのぼり、車体前部にある操縦手用のハッチをノックする。しばらくして返事があった。小さな子どもの声だった。
「誰ダ?」
ほっと本郷は胸をなで下ろした。
「僕だ。本郷だよ。ここを空けて良いかな?」
「……カマワナイ」
「失礼、お嬢さん」
本郷は丸い天蓋を開き、本郷は車内を懐中電灯で照らし出した。全く現実離れした情景が浮かび上がる。
操縦席に据えられていたのは、直径1メートルほどの小さな黒い球体だった。
――確かに……これを合衆国に引き渡すのは無理だな。
人類にとって悪夢の象徴に他ならない存在だった。5年前に世界各地に忽然と現われ、厄災をまき散らした球体だ。
BMだった。
それこそが声の主であり、マウスの操縦手だった。
――よりにもよって……とんでもないものを貸し出してくれたものだ。
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彼は本郷の求めに応じて、説明を始めた。
「元々、これはあるお方の遺志で開発したものなのだ」
独り言のような語り口だった。
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