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北米魔獣戦線(North America)

ドキュメント 世界大戦2(Report of reports 2nd)

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―ドキュメント 世界大戦2(Report of reports 2nd)―


 なんで護衛総隊の創設が承認されたか? そりゃあ、君、米英からの圧力があったからだよ。連中からしてみれば、せっかく用意した船団を護衛無しで送る神経がわからかなかったのだろうね。
 私としては彼等の言い分は至極当然なことだと思っていたのだけれども、海軍、特にGFの連中はなかなか理解が及ばなかった。当時のGFはいわゆる決戦思想に染まりきっていたんだ。艦隊は魔獣との決戦のためにあるものであって、チリ紙を載せた船舶の護衛になんぞつけられるかという話だったんだよ。
 巫山戯ふざけた話だろう?
 その船舶が運んだ物資や油のおかげで自分たち海軍は戦争ができているのに。
 当時、私は軍令部の戦争指導員として月ごとの船舶喪失数について報告を受けていたが、GFが作戦を発動する度に喪失トン数が跳ね上がっていた。何しろ大量の艦がラバウルやらセイロンやらに行くわけだから、そのために物資を送る必要がある。それで船団を組んで向わせるが、その作戦とやらのために戦力が割かれて、十分な護衛をつけてやれない。護衛がないから魔獣に船団が襲撃され、喪失数が増えていく。喪失が増えたことで民需用物資の供給が滞り、他の戦線へ当てるはずだった物資が生産されなくなる。そんな悪循環が昭和17年末期まで続いていたんだ。
 酷いときは月に20万トン以上沈められたことがあったよ。当時の日本の船舶供給量がどんなに頑張っても月産10万トンだよ。米英からの支援込みでも14、5万トンがせいぜいだ。こんなのが毎月つづいたのでは、そのうち一戦も行わずして再び本土を魔獣に蹂躙される日も遠くは無いと思ったよ。
 それで業を煮やした米英側からある通達が来たんだ。そう、あれは昭和18年の3月だったかな。ついに米英側から護衛戦力をつけぬなら、これ以上の戦略資源の供給を行わないって話が来てね。向こうからすれば当てが外れた思いだったんだろうね。当時、北米の東半分は魔獣に占拠され、工業生産能力は半減し、人的資源も全く足りていなかった。話はそれるが、西海岸の生産能力だけでも合衆国は日本を上回っていたんだよ。そんな国を相手に戦争にならず、心底良かったと今でも私は思っているよ。ただ、その合衆国をもってしても魔獣との戦いは劣勢だった。武器、弾薬、そして兵員の全てが全般的に足らなかったんだ。
 彼等は北米の戦略資源と引き替えに、日本で物資の生産を肩代わりさせるつもりだったんだが、肝心の日本が自分の戦争にかまけて生産した物資を送らないのでは全く約束が違ってくる。彼等の怒りは当然のものだろう。
 米英から通達を受けた外務大臣の重光さん(注釈:重光葵外務大臣)が血相を変えて、海軍省へすっ飛んできたらしいよ。井上さん(注釈:井上成美海軍大臣)も、ちょうと護衛戦力の見直しを考えていたらしくね。これ幸いとばかりに山本総長(注釈:山本五十六軍令部総長)を説得にかかった。
 とにかくそういうわけで、船舶護衛専門の組織として護衛総隊が連合艦隊から独立したわけだ。
 
 昭和47年、筆者は大井篤退役海軍中将の邸宅を伺う好機を得るに至った。大井閣下は筆者を温かく迎えてくださり、護衛総隊創設までの系譜について心ゆくまでお聞かせいただいた。上記はその一部を抜粋したものである。
 当時を振り返り、大井閣下は日本海軍の船団護衛に対する意識はお粗末の一言に尽きるものだったと締めくくられた。心苦しくもあるが筆者も同意見であった。彼等は日本海海戦の栄光に引きずられ続け、国家総力戦の骨子に全く理解が及んでいなかったのである。このような認識の下では仮にBMの出現なくとも、早晩合衆国との戦争で我が国は壊滅的な敗北を喫したであろうと言わざるを得ない。

「暗雲の波濤」より(福田遼太郎著 文秋文庫1975年刊行)





親愛なる大統領閣下、まずは魔獣の襲撃により亡くなられた合衆国の人々へ哀悼の意を捧げさせていただきます。
このような未曾有の悲劇は有史以来の出来事であり、一刻も早く終わらせるべき事態であります。私は一人の科学者として、今回の事態収拾に向けて尽力したく、この書簡を信頼できる友人のシラードへ託しました。
さて閣下、私は以前にも一度、1939年にホワイトハウスへ書簡を送らせていただきました。届け先は他ならぬあなたのご友人ルーズヴェルト大統領閣下であります。それはナチスドイツへの警鐘もこめ、その脅威へ対抗するための手段を提案した内容でした。具体的にはウランの連鎖反応が及ぼす可能性と、その可能性を開拓するグループに関して言及しておりました。
その後ナチスドイツの脅威は思わぬかたちで消滅いたしましたが、合衆国ひいては人類全般はより深刻な脅威に直面することとなりました。BMと魔獣は世界各地で暴虐の限りを尽くし、私の同胞も少なからず犠牲となっております。
私は新たな脅威を打ち払うため、再びウランを用いた反応兵器の開発を提言したく存じます。現況を鑑みるに、必要な物資と設備を揃えるのが困難であろうことは承知しております。しかしながら、これの達成は人類の絶望的な未来を照らす光になるものと私は強く考えております。これの達成のため、閣下は合衆国のみならず友邦(殊に英国、政治状況次第では日本)に積極的な働きかけをご検討いただきますようお願い申し上げます。

1943年 アルバート・アインシュタインの書簡より(1971年、機密指定解除につき公開)





「しかし戦争が起りましたじゃ、魚は再び地下におしこめられるかもしれん、だがもう一度この明るい太陽の光りのもとに出て来るじゃろう。セント・アントニーが諧謔的に注意したように、ノアの大洪水に生き残るのはただ魚だけじゃ」
チェスタトン


※次回11/23投稿予定
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