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新世界(New World)
六反田少将(Warmonger)
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―六反田少将(Warmonger)―
【東京 築地 海軍大学校】
ジープに押し込められた儀堂は海軍大学校内の一室へ連れて行かれた。深夜にも関わらず煌々と灯が点いているのがわかった。ドアの表札には何もかかれていない。
入室と同時に儀堂は眉間にしわを寄せた。視覚的にも嗅覚的にも不快だった。まず室内は全般的に煙草の臭いがしみついており、そして長机や棚、あまつさえ椅子の上まで書類がうずたかく盛られている。ざっと30人は収容できそうな広さだった。もとは講義室として使われていたのだろうが、部屋の奥にかろうじて見える黒板以外に、その面影は残されていない。
「六反田少将、連れて参りました」
御調少尉とともに、儀堂と鬼の少女は部屋の奥まで進んだ。
書類の山を越えた先に執務机があり、この部屋の主が陣取っていた。角刈りの頭部で体型は決して健康的とは言い難く、腹部には長年の不摂生による負債を抱えている。浅黒いふくよかな顔立ちに縄文系特有の彫りの深い目縁は細く開かれ、どこか親しみの感じさせる表情だった。
「ずいぶんとまあ早かったじゃあないか。オレはもうダメかと思っていたがね」
六反田道忠は紫煙を吐き出しながら言った。灰皿には、うずたかく吸い殻が盛られている。
「ちょうどさっき井上さんに電話したところだ。なにかと今回のでブンヤが騒ぎ立てるかもしらんからな。あの人のことだから上手く処理してくれるだろう」
井上さんとは井上成美海軍大臣のことだった。六反田はにやりと笑った。ヤニで黄色く染まった歯がのぞく。
「で、そっちのお嬢さんはえらくやんちゃな格好だ。それにうん、なにか不機嫌そうだね」
鬼の子は相変わらずぶすりとして何も答えようとしなかった。素っ裸でも儀堂の外套を羽織っているため、幾分かましな体裁になっている。だが、服に着られている感は否めなかった。
「御調君、その姫君に何か相応の服を見繕ってやってくれ。さすがにそのままじゃあ、あんまりだろうて」
「はい、しかし……」
御調は少女のほうを伺った。断固として言うことを聞く様子はない。少女は視線を逸らしたまま、嫌そうに口を開いた。
「この男をどうするつもりだ」
「ほう、日本語がお上手だ。なに、どうもせんよ。オレはこのお兄さんと話をするだけだ。そう、きっとそれは悪い話じゃ無いと思うがね」
「お主は嘘を言っていない。だが、本当のことも言っていない。妾にはわかるぞ」
「うん、それは正解だ。すべからく物事は相対的なもんだ。まあ、わかったよ。これだけは保証しよう。このお兄さんはお嬢さんとすぐに会える。そうだな。少なくとも夜明け前までには解放しよう」
「よかろう。おい、その女官、案内せよ。ここは臭いうえに、不浄だ」
御調は憮然としながらも「こっちよ」と言い、少女を先導した。部屋から出る間際に少女が振り向いた。
「おい、お主。名はなんだ?」
「………」
「おい、お兄さん、君のことだよ思うがね。答えてやれよ」
「六反田少将、それは命令でしょうか?」
「どうだろうね? そういうことにさせたいのかね?」
儀堂は大きく息を吐いた。
「儀堂、儀堂衛士だ」
「ふむ、勇ましくは無いが、やや雅さを感じる響きだ。覚えておこう」
「それはどうも……」
「………」
角の生えた少女はなおも不服そうに突っ立っていた。
「まだ何かあるのかい?」
「名を尋ねよ」
「は?」
「妾の名を尋ねよ」
「なぜ?」
「……良いから尋ねよ!」
儀堂はさらに大きく息を吐いた。誰の目から見ても、それはため息だった。
「……君の名は?」
「ネシス。ネシス・メ・アヴィシンティアじゃ。覚えておくが良いぞ」
「わかった」
ネシスは満足げに肯くと今度こそ部屋から出て行った。
「さて、儀堂大尉」
振り向けば、六反田が山師のような笑みを浮かべていた。
「話をしよう。長い話だ」
六反田は従兵を呼んだ。珈琲を淹れさせるためだった。
=====================
六反田は机の一角から書類の束を引っ張り出した。そこには目の前の男の半生が綴られていた。
「儀堂衛士大尉。名前だけは聞いていたが、よもやこんな巡り合わせがあろうとは驚きだね」
すでに六反田は儀堂の経歴を一通り把握していた。ハワイ沖海戦のの功労により中尉に昇進後、東京湾決戦、インドシナ奪還作戦を経て大尉へ昇進。その後、護衛総隊へ転属願を出し、昨年より護衛任務に従事。特筆すべきは、彼が任官した船団の損耗率の低さと殺傷した魔獣の多さだった。
「ほう、直近では軽巡の砲術だったのか?」
「はい」
「鉄砲屋ならデカい艦のほうがよかっただろうに。なんでまた|連合艦隊|《GF》ではなく、護衛総隊へ行った?」
「GFは極めて限定的な条件下でしか積極的になれません。一方、EFは任務の性格上、会敵が日常茶飯事となっております。否が応でも積極的にならざるを得ない。それは自分の望むところです」
ようするにGFは怠け者でEFは働き者だと儀堂は断言したのである。乱暴だが一理あった。強力な艦艇を有するGFだが、その主目的は敵主力の撃滅だった。つまり大規模な迎撃作戦か、あるいは攻勢作戦でのみ活動することになる。そして近年では両者とも、ごく希な時期にしか発生し得なかった。戦局が膠着したためだ。魔獣との戦いに於いて、人類は開戦当初の劣勢を挽回するに至ったが、ただそれだけのことだった。ただ単に負けていないが、勝ってもいない。そんな状況が2年近く続いている。
GFと異なり、EFは船団護衛が主な任務となっている。『護衛任務』とは消極的に聞こえるかも知れないが、実態は全く異なっている。5年前より、一部の海域は魔獣のバスタブと化していた。そして日本の通商路は、そのバスタブのど真ん中を抜けねばならぬものだった。主なものを上げるならば、アラビア海だ。中東の原油を手に入れるため、常時大量の油槽船が航行している。それらは必ず護衛艦艇を伴っていた。さもなければたちまち魔獣の餌食になってしまうからだ。EFは日本の生命線を守るために、魔獣との死闘を宿命づけられた組織になっていた。今では戦闘経験を積ませるためだけに、乗組員ごと艦艇がGFからEFへ貸し出されるケースすら出てきている。
「私は一匹でも多く魔獣を殺戮したいのです」
「驚いたな。貴官は見た目よりもずいぶん率直らしい」
「私も驚いています。軍が、あの化け物を積極的に保護していたとは」
「そうだな。人生は驚きに満ちているものだ」
六反田がわざとらしく鷹揚にうなずいたとき、手元の電話が鳴った。
「失礼。おう、どうした? なに菓子を所望している? かまわん。たしかこの前買った福間屋のカステラが残っておるはずだ。あー……五月蠅い。医者の言うことなぞ聞くものか。それで次はなんだ……ほう、そうか。そいつは好都合だ。なに心配するな。オレに考えがある」
どうやら相手は御調少尉のようだった。ネシスに手を焼いているようだが、六反田の予想の範囲内だったらしい。愉快犯のように笑いながら指示を飛ばし、電話を切った。
「さて、話を戻そう。貴官の言う化け物、ネシスについてだ。君には感謝している。どういうわけか昨夜、彼女の行方がわからなくなってな。困っておったのだが、手間もかからずに見つけ出せた」
「それは何よりです」
「それでだ。貴官に頼みがある。彼女の面倒を貴官が見てくれ」
一瞬の沈黙が訪れる。儀堂は何を言っているのかと思った。
「私はあれを殺そうとしたのですが、よろしいのですか?」
「殺してもらっては困る。だが、君にその気はもうなかろう?」
「なぜわかるのですか?」
「わからんよ。だから君に尋ねているんじゃないか。君はあれをまだ殺したいのか?」
儀堂は少し考えたが、すぐに結論を出した。
「……わかりません」
それが結論だった。あの鬼、ネシスへの殺意がくじかれていた。また再燃するかも知れないが、何とも言えなかった。
「第一、なぜ私なのですか? 軍の保護下にあるのならば、もっと適任がいるはずです」
六反田はやれやれと行った具合に頭をかいた。肩に白い雪が降った。どうやらしばらく風呂に入っていないらしい。
「お前さん気づかなかったのか? あのお嬢さんにずいぶんと懐かれているだろう?」
「さあ、どうなのでしょう。自覚はありませんが」
「お前さんの自覚なんざどうでもいいんだ。さきほど御調君から連絡があった。あのネシスとか言う嬢ちゃんが、それを望んでいるらしいからな。あれに鉛玉ぶち込んだ貴官ならわかるだろう。あの娘はとんでもない化け物なんだよ。とてもではないが、常人ではあれの相手は務まらん」
「小官も常人と愚考しますが?」
「出会い頭に銃弾叩き込んだヤツの台詞とは思えんな」
「……」
「とにかくだ。貴官には、あの面倒を押しつけたい。ああ、心配するな。望み通り護衛任務は続けさせてやる」
「自分が留守の間はどうするのですか?」
「ああ、それの心配は無用だ」
「どういうことですか?」
「そのうちわかるさ。まあ、楽しみに待っておれ」
六反田は満面の笑みで肯いた。不安しか湧かなかった。
「さて儀堂君。推測するに君は私に聞きたいことだらけだろう?」
「ええ、まずは――」
「ああ、何も言うな。おおよそわかっている。あの鬼、ネシスとかいう嬢ちゃんの正体。そして、彼女がなぜ保護されていたのか? そもそもオレ達はいったいどういう組織なのか? そんなところじゃないか?」
「……そんなところです」
「よろしい。全ては答えられんが、まあそこは我慢しろ。さて、まずは君がハワイで拾ったあのカプセルから話そう。そう、あの嬢ちゃんがしまってあった筒のことからだ……」
=====================
数時間後、約束どおり六反田は儀堂とネシスを解放した。御調少尉に先導され、再びジープに乗り込む姿を窓から六反田は見送っていた。
背後でドアの開く音がする。
「聞きましたよ。どえらいことになりましね」
六反田は振り返った。眉間にしわを寄せている。
「矢澤君、遅いぞ」
矢澤幸一中佐は肩をすくめた。矢澤は六反田の副官を長年勤めてきた。体格は上官と対称的で長身痩躯に面長の顔が乗っかっている。同年代の平均よりも広い額をしていたが、彼の場合は知性的な印象を演出するのに役立っていた。
「勘弁してください。こちとら独逸大使館に寄ってから来たんですから」
「リッテルハイム女史はお怒りだったか?」
「お怒りなんてもんじゃありませんよ。なにせはるばる欧州から取り寄せた演算器が一夜でお釈迦になったんですからね。あの眼光、呪い殺されるかと思いました」
「はは、そいつはいい。女性から情感的な視線を浴びせられる機会は滅多に無いぞ。ましてや美人ならばなおさらだ」
六反田は胸ポケットから金印の押された煙草を取り出した。矢澤に勧める。慣れた手つきで矢澤は一本取りだし、銀製のライターで火をつけた。六反田も自分の分を取り出すと、マッチで火をつける。
「それで、例の鬼はどうなったんですか? 捕らえたと聞きましたよ」
「そいつは誤報だな。たった今、無罪放免となった」
「え!? 逃がしたんですか?」
「違う。預けたのさ」
六反田は、儀堂の家でネシスが発見されてから解放されるまでの経緯を話した。
「その大尉は大丈夫なんでしょうね? うちらの組織は表向きは海大の一研究機関ってことになってますが……」
「心配ない。彼は我々に協力するさ。なにせ主目的において、オレと彼は合致しておるからな」
六反田の組織、月読機関が設立されたのは二年ほど前のことだった。ちょうど魔獣との戦いが膠着かし始めた時期だ。元々は魔獣との戦闘記録を編纂するために作られた研究室だった。それが紆余曲折を経て、今では対魔獣の戦争指導の研究を担うようになっていた。きっかけはハワイ沖海戦で捕獲された銀の筒だった。ネシスが納められたその容器の処遇を海軍、そして日本は持てあましていた。決して彼等が怠慢だったわけでは無い。単純に当時の日本はあらゆる資源が不足していたため、ハワイで拾った謎のの物体にかまう余裕がなかったのだ。
当時、日本は国内と満州に出現した魔獣、そしてBMへの対処を最優先とせねばならなかった。さもなくば国家の存亡が危ぶまれる状況だった。日本が1941年に抱え込んだ問題に片をつけ、置き去りにされたハワイの戦利品の処遇を考え始めたのは、1943年に入ってからだった。まずは恒例の管轄争いから始まったが、それは短期間で海軍の勝利に終わった。海軍上層部は筒内のネシスを「捕虜」と定義し、自分たちの保護下におくことで話を決着させた。陸軍からの干渉は受けなかったのは、皮肉なことに魔獣とBMのおかげだった。満州での魔獣との戦闘で帝国陸軍は大敗北を喫し、敗退の責任を問われ東条内閣は解散していた。以降、陸軍の影響力は弱まっていくことになる。
海軍は目黒の技術研究所の一角を改装し、ネシスを保護観察することとなった。その際、適当な機関として月読機関の名前が挙がった。推挙したのはある宮家出身の海軍軍人だった。そのやんごとなき大将は当時大佐だった六反田を前線から呼び戻し、昇進させた上で機関の長に据えた。その宮家と六反田にどういう繋がりがあるのか、誰もが謎に思ったが答えを知るものはいなかった。
「主目的とは? 魔獣との戦争ですか?」
「そう、そいつの解決という点においてね。あの儀堂大尉とオレは一致している」
「しかし、我々と彼とでは手段に乖離があるように思われますが?」
矢澤も儀堂の経歴に一通り目を通していた。彼が経歴から受けた印象は生粋の魔獣殺しだ。
「我々は魔獣との戦争終結を講じてきました。それは魔獣の根絶と同義とは限りませんよ。聞けば、あのカプセルの鬼は日本語を話したとか?」
「ああ。それもやんごとない言葉遣いで、流暢にな。正直、オレが一番驚いたのその点だよ。矢澤君、気づいているだろう? こいつは世紀の大発見だぜ。何せヤツラは話せる相手だってことがわかったんだからな」
「ええ……全くです。話せるのならば当然、交渉も不可能ではない」
矢澤は魔獣側との講和を視野に入れていた。六反田は手を振って否定した。
「講和なら今の段階では全く無意味だぞ。下手をしたら数十年先になる」
「もちろん今すぐは無理ですよ。しかし話の通じる相手ならば可能性はあるでしょう?」
「いいや、そうでもない。矢澤君、君はときどき妙なところで理想主義に傾倒するな。いいか。人類はまだこの戦いに飽きちゃいないんだ。それどころかますますのめり込んでおる。まあ、その話は今はいい。矢澤君、君にもう一働きしてもらうぞ」
「はあ……」
矢澤は露骨に嫌そうな顔を浮かべた。この上官、これは徹夜させる気だ。
「明日の朝、すぐに海軍省へ向かう。そこで山本さんにこのペーパーを渡すつもりだ。君にはGFとEFに同じものを届けて欲しい」
六反田はついさっきこしらえた上申書を手渡した。
「中を見ても?」
「構わんよ」
矢澤は書類をめくり、ほどなく上官の正気を疑うこととなった。そこには儀堂大尉にある任務を課すよう申し送りが添えてあった。
「……暴挙にもほどがありませんか?」
忌憚ない感想に六反田は吹き出した。
「酷い言いようだな。だが的確だ」
「こんなのGFの山口大将が許しませんよ。EFの了解もとれるかどうか――いくら何でも早急すぎます」
「だから、その上の軍令部総長に頼むんだよ」
「何をそんなに急がれているんです?」
「北米だよ」
六反田は低い声で言った。
「……何かあるのですか?」
「米英軍の大反攻作戦だ。連中、東海岸を取り戻すつもりらしい。だがオレは手痛く失敗すると思っている。それも取り返しのつかんほどの大敗北を喫してな。矢澤君、君も北米のレポートは読んだだろう。せいぜい今の戦線を維持するのが手一杯のはずだ。それなのに攻勢に出たら……ま、この先はいわずともわかるな。そうなる前にオレ達がこの戦争の主導権を握る必要がある」
「そんなまさか……連中だって莫迦じゃないでしょう? なんでまたそんなことを……?」
「国内世論に押されてやむなくというところだな。合衆国は特にそうだ。まあ無理はなかろう。国土の東半分がわけのわからん魔獣の巣にされたのだからな。彼等にとり、国土の回復は明白な命題なのさ。あとほら、特に英国はもうすぐ選挙だろう? 両国ともとかく民衆の声がでかい。その点、我が国は良くも悪くも慎ましいもんだが」
「民意が兵を殺すのですか?」
「その通り。麗しき近代国家の美徳だよ。我が国とて例外ではないぞ。何せ合衆国相手に戦争をふっかけようとしていたのだからな。君には身に染みてわかっているはずだ」
矢澤は気を落ち着かせるため、紫煙で肺を満たすと、大きくはいた。
「……作戦開始はいつなんですか?」
「今年の春だ。遅くとも4月には開始される」
矢澤は絶句した。3ヶ月もないではないか。
「わかっただろう? だから、あの大尉には人柱になってもらうほかないのさ」
=====================
【東京 世田谷 儀堂家】
翌朝、儀堂はいつもどおり6時に起床した。六反田と話をした後、御調少尉に送られて帰宅したのは零時頃だった。その後、やたらとこの世界について聞いてくるネシスを強制的に寝かしつかせたとき、時計の針は4時を回っていた。ほとんど仮眠と言って良いほどの間しかなかったが、支障は全く感じなかった。徹夜慣れしていたためだ。ひとたび護衛作戦が始まれば、三日間一睡もせずに艦橋へ詰めるなど、ざらにあることだった。横になれるだけありがたかった。
顔を洗い、身支度をすませながら儀堂は悶々と考えていた。昨夜、あの少将に押しつけられたネシスについてだった。恐らくまだ別室で寝ているはずだった。どうやら鬼にも睡眠の周期はあるらしい。
「……どうしたものか?」
率直に儀堂は困っていた。今日は海軍省へ出頭しなけらばならなかった。新たな配属先の辞令を受け取るためだ。遅れるわけにはいかなかった。
聞けば次は駆逐艦の副長職らしい。なればこそ、なおのこと早く彼は海軍省へ出向きたかった。一刻も早く次の艦の兵の練度と士気を掌握し、艦長を補佐できるよう万全に備えねばならない。EF所属ともなれば、訓練期間の間も限られるだろう。短い間に艦の戦力を高め、魔獣を殺す用意をせねばならぬ。
「せめて留守の間、誰かがあれを見張ってくれればよいのだが」
見当も付かなかった。不本意だが六反田の言うとおりだった。人外と屋根を共にするなど、常人に務まると思えなかった。幸いネシスに敵意はないようだが、あの額から突き出た角を見て平静を保てるヤツなどいないだろう。
=====================
「仕方ない。家から出るなと言い聞かせるか」
儀堂がネシスの寝床へ向かおうとしたときだった。玄関の開く音がした。
「衛士さん! 朝ご飯持ってきたよ!」
小春の声だった。儀堂は顔から血液が後退していくのを感じた。
「やあ、小春ちゃん。ありがとう。ずいぶんと早いね」
平静を装いつつ、儀堂は脳みそを全力稼働させた。一刻も早く、この羅刹の家から出て行ってもらう必要がある。
「兄貴が早起きでさ。朝から五月蠅いのなんの。なんか知らないけど新型の飛行機に今日から乗るらしいわ」
噂に聞く烈風のことだろうかと儀堂は思い、軍機を妹に開帳する友人の神経を少しばかり案じた。
「ご飯まだでしょ? 簡単だけど、作ってきたわ」
小春は大きめの盆を抱えていた。鍋らしきものの取っ手が見える。
「台所借りるね。味噌汁温め直すから」
「いや、それは……大丈夫だよ。それくらい自分で――」
「もう遠慮しないでいいったら。男子厨房に入らずっていうでしょ? 男が料理なんてご法度よ」
愛らしい笑顔とともに、小春はこの世の全ての男女同権主義者へ宣戦布告すると、儀堂家に強襲上陸した。歴戦の防人の抵抗むなしく、台所へ進撃していく。
「ああ、いや、そうではなくこれからオレは出かけ――」
急いで儀堂は後を追ったが、ほどなく追いつくこととなった。小春の進撃が突然止まったからだ。彼女は会敵した。
「うるさいのう……なんの騒ぎじゃ?」
ネシスが起床してきていた。小春は5秒ほど沈黙した後に疑問を口にした。
「衛士さん……この人、なんで全裸なの?」
15の娘が発した声とは思えぬものだった。それは儀堂に生命の危険を感じさせるほど、静かな怒気を孕んだ声音だった。
=====================
海軍軍人として、儀堂はあらゆる魔獣との戦闘に立ち会った。遭遇戦、対空戦、掃討戦、対水上戦、なかでも目に見えぬ水面下の魔獣相手に神経をすり減らすような対潜戦闘を幾度もくぐり抜けてきた。彼の過去3年間は自身とその他多くの兵員、船員を肩にかけた死戦の積み重ねだった。つまり儀堂にとり、非常こそが日常であり、手慣れたはずのものだった。
彼は努めて冷静な対処を試みた。
「小春ちゃん、驚かせてすまない。これにはわけがあるんだ」
「そうでしょうねえ! 無ければおかしいわ!」
「全く道理だ」
「ギドー、妾は腹が減った」
「少し黙れ」
「黙れ? 女の子相手にそんな乱暴なこと言っちゃダメ!」
「ああ、いや、違うんだ。これとは昨日会ったばかりで――」
「これ!? これってこの子のこと……!? 人をこれ呼ばわりするなんてひどい!」
「おい、お主のそれ良い香りがする。食い物か?」
「これは衛士さんのよ! それより早く服を着なさい! なんで、あなた裸なの!?」
「妾はずっとこの格好だが?」
「なっ………!!!! 儀堂さん!!??」
誠に心外なことに小春は儀堂へあからさまな非難の視線を向けてきた。
――なぜだ? どうしてこうなった?
小春の興奮は収まる気配がなかった。ただいまにおいて、彼女は全方位に対して敵意を振りまいており、ネシスの存在がさらに輪をかけて混乱を招いていた。いや、そもそも発端はネシスなのだから、まずこれを何とかしなければならなかった。儀堂は各個撃破で対応することにした。
「ネシス、まず君は服を着るんだ。昨日、あの少尉からもらったものがあるだろう」
ネシスを呼び捨てにしたとき、小春の肩眉がぴくりと動いたが、深くは考えぬことにした。
「あのセーラーふくとかいうのはごわごわする。嫌いじゃ」
「着てくれ。頼む」
儀堂は頭を下げた。ネシスは急に気をよくしたらしい。にやりと口角を上げた。
「ほう、頼むというのなら仕方が無いのう」
ネシスは勝ち誇ったように部屋へ戻っていった。
理解不能の敗北感を味わいつつ、儀堂は次の目標に向き直った。
「小春ちゃん……」
小春は何も言わず台所へ向かった。そのまま無言で飯の支度を始めた背中に儀堂は話せる範囲で事の次第を、理性的に説明した。小春は「へえ」「そうなの」の二言で終始返事をすると、そのままそそくさと家に帰ってしまった。
=====================
「食わぬのか? せっかくあの給仕が用意したというのに」
「あの子は給仕じゃない」
居間でネシスと儀堂は食卓を囲んでいた。ネシスは箸を使えなかったため、スプーンとフォークを手渡した。めざしを口に放り込むと「まあままだな」とネシスは言った。小春がここに居なくてよかったと心底思う。
あと詫びを入れに行くべきだろうかと思った。何に対する詫びなのか全く不明だが、その方が良いと儀堂の本能が告げていた。
儀堂は小さくため息をつくと、ネシスに向き直った。聞かなければならないことがある。
「君、角はどうしたんだ?」
ネシスの頭部から生えていた角が綺麗に無くなっていた。もし、あの角があれば小春もっと別の反応を示していただろう。
「角? ああ、あれなら隠した」
「隠しただと?」
長さにして、30センチはあろうかという角だ。隠しきれるものではないだろう。
「いったい、どうやって? よもや着脱可能というわけではあるまい」
ネシスは眼を丸くすると、笑い転げた。
「そんなわけがなかろう。要はお主らの眼に映らなければよいのであろう? ならば、そのように計らうまでだ」
ネシスは指先をこめかみに当てると何かを呟いた。すると、先ほどまで見えなかった角がたちまち現れた。そのあまりの奇天烈さに、儀堂は呆気にとられてしまった。
「どういう仕組みだ? なにかの妖術か?」
魔獣の類いならば、怪しげな術を使役できてもおかしくはないだろう。
「妖術とはいささか品位に欠ける言いぐさじゃな。まあよい。そのようなものだと心得るがいい」
――考えてもみれば、あの魔獣の群れを繰り出すような輩だ。今さら驚くほどのことではないか
儀堂は改めて目前の少女が人外であることを思い返した。
「君はいったい何者だ? なぜあんなことをしたのだ?」
味噌汁をすくうネシスの手が止まった。
「わからぬ……」
苦しげとも悲しげともとれる表情だった。
「妾が自分が何をしたのかはわかる。それははっきりと覚えておる。しかし、妾が何者で、なぜあれをしなければならなかったのか。全くわからぬのじゃ」
「ずいぶんと都合の良い記憶喪失だな」
「信じぬのも無理はない。ならば妾を拷問にかけてみるか?」
ネシスは挑戦的な笑みを浮かべた。
「私は無駄なことはしない。銃弾を食らいながら、平然としているものを痛めつけて、何かを得られるとは到底思えないな」
「そうか……ならば良い」
「食い終わったら、食器は台所へ運んでおいてくれ」
儀堂は立ち上がった。
「どうしたのだ?」
「外へ出る。君はここにいろ。私は用事があるのだ」
そろそろ家を出なければ、海軍省が示した出頭時刻より遅れてしまう。役所、とりわけ軍隊は期限に神聖な価値観を抱いている。
「昼までには戻るつもりだが、勝手に外へ出るなよ」
「妾もついていってやろう」
「だめだ」
「遠慮するな」
「拒否する」
「嫌でも付いていく」
「迷惑だ。大人しくしていろ」
「迷惑にならぬ。むしろ妾はお主の役に立つぞ」
「余計なお世話だ。私はこれから仕事なんだ。子どもが来て良いところではないんだ」
ネシスは眉間にしわ寄せた。
「無礼者。妾を子ども扱いするでない。お主よりも長く生きておる」
「記憶は無いのに年齢は覚えているのか? いくつなんだ? 言ってみろ」
「……断る。女子に歳を聞くとは無粋にもほどがあろう」
「埒が明かんな。とにかく君はここにいてくれ」
「わかった。勝手についていく」
「そうか、わかった。やはり首と胴を離しておくべきだったな」
儀堂は念のため持ってきていた軍刀へ手をかけた。
「ほう、よかろう。ただし妾とて今度はただでは済まさぬぞ」
ネシスの眼が一際赤く輝いた。
沈黙が居間が包んだときだった。玄関のベルが鳴った。
今日はやけに来客が多い。
【東京 築地 海軍大学校】
ジープに押し込められた儀堂は海軍大学校内の一室へ連れて行かれた。深夜にも関わらず煌々と灯が点いているのがわかった。ドアの表札には何もかかれていない。
入室と同時に儀堂は眉間にしわを寄せた。視覚的にも嗅覚的にも不快だった。まず室内は全般的に煙草の臭いがしみついており、そして長机や棚、あまつさえ椅子の上まで書類がうずたかく盛られている。ざっと30人は収容できそうな広さだった。もとは講義室として使われていたのだろうが、部屋の奥にかろうじて見える黒板以外に、その面影は残されていない。
「六反田少将、連れて参りました」
御調少尉とともに、儀堂と鬼の少女は部屋の奥まで進んだ。
書類の山を越えた先に執務机があり、この部屋の主が陣取っていた。角刈りの頭部で体型は決して健康的とは言い難く、腹部には長年の不摂生による負債を抱えている。浅黒いふくよかな顔立ちに縄文系特有の彫りの深い目縁は細く開かれ、どこか親しみの感じさせる表情だった。
「ずいぶんとまあ早かったじゃあないか。オレはもうダメかと思っていたがね」
六反田道忠は紫煙を吐き出しながら言った。灰皿には、うずたかく吸い殻が盛られている。
「ちょうどさっき井上さんに電話したところだ。なにかと今回のでブンヤが騒ぎ立てるかもしらんからな。あの人のことだから上手く処理してくれるだろう」
井上さんとは井上成美海軍大臣のことだった。六反田はにやりと笑った。ヤニで黄色く染まった歯がのぞく。
「で、そっちのお嬢さんはえらくやんちゃな格好だ。それにうん、なにか不機嫌そうだね」
鬼の子は相変わらずぶすりとして何も答えようとしなかった。素っ裸でも儀堂の外套を羽織っているため、幾分かましな体裁になっている。だが、服に着られている感は否めなかった。
「御調君、その姫君に何か相応の服を見繕ってやってくれ。さすがにそのままじゃあ、あんまりだろうて」
「はい、しかし……」
御調は少女のほうを伺った。断固として言うことを聞く様子はない。少女は視線を逸らしたまま、嫌そうに口を開いた。
「この男をどうするつもりだ」
「ほう、日本語がお上手だ。なに、どうもせんよ。オレはこのお兄さんと話をするだけだ。そう、きっとそれは悪い話じゃ無いと思うがね」
「お主は嘘を言っていない。だが、本当のことも言っていない。妾にはわかるぞ」
「うん、それは正解だ。すべからく物事は相対的なもんだ。まあ、わかったよ。これだけは保証しよう。このお兄さんはお嬢さんとすぐに会える。そうだな。少なくとも夜明け前までには解放しよう」
「よかろう。おい、その女官、案内せよ。ここは臭いうえに、不浄だ」
御調は憮然としながらも「こっちよ」と言い、少女を先導した。部屋から出る間際に少女が振り向いた。
「おい、お主。名はなんだ?」
「………」
「おい、お兄さん、君のことだよ思うがね。答えてやれよ」
「六反田少将、それは命令でしょうか?」
「どうだろうね? そういうことにさせたいのかね?」
儀堂は大きく息を吐いた。
「儀堂、儀堂衛士だ」
「ふむ、勇ましくは無いが、やや雅さを感じる響きだ。覚えておこう」
「それはどうも……」
「………」
角の生えた少女はなおも不服そうに突っ立っていた。
「まだ何かあるのかい?」
「名を尋ねよ」
「は?」
「妾の名を尋ねよ」
「なぜ?」
「……良いから尋ねよ!」
儀堂はさらに大きく息を吐いた。誰の目から見ても、それはため息だった。
「……君の名は?」
「ネシス。ネシス・メ・アヴィシンティアじゃ。覚えておくが良いぞ」
「わかった」
ネシスは満足げに肯くと今度こそ部屋から出て行った。
「さて、儀堂大尉」
振り向けば、六反田が山師のような笑みを浮かべていた。
「話をしよう。長い話だ」
六反田は従兵を呼んだ。珈琲を淹れさせるためだった。
=====================
六反田は机の一角から書類の束を引っ張り出した。そこには目の前の男の半生が綴られていた。
「儀堂衛士大尉。名前だけは聞いていたが、よもやこんな巡り合わせがあろうとは驚きだね」
すでに六反田は儀堂の経歴を一通り把握していた。ハワイ沖海戦のの功労により中尉に昇進後、東京湾決戦、インドシナ奪還作戦を経て大尉へ昇進。その後、護衛総隊へ転属願を出し、昨年より護衛任務に従事。特筆すべきは、彼が任官した船団の損耗率の低さと殺傷した魔獣の多さだった。
「ほう、直近では軽巡の砲術だったのか?」
「はい」
「鉄砲屋ならデカい艦のほうがよかっただろうに。なんでまた|連合艦隊|《GF》ではなく、護衛総隊へ行った?」
「GFは極めて限定的な条件下でしか積極的になれません。一方、EFは任務の性格上、会敵が日常茶飯事となっております。否が応でも積極的にならざるを得ない。それは自分の望むところです」
ようするにGFは怠け者でEFは働き者だと儀堂は断言したのである。乱暴だが一理あった。強力な艦艇を有するGFだが、その主目的は敵主力の撃滅だった。つまり大規模な迎撃作戦か、あるいは攻勢作戦でのみ活動することになる。そして近年では両者とも、ごく希な時期にしか発生し得なかった。戦局が膠着したためだ。魔獣との戦いに於いて、人類は開戦当初の劣勢を挽回するに至ったが、ただそれだけのことだった。ただ単に負けていないが、勝ってもいない。そんな状況が2年近く続いている。
GFと異なり、EFは船団護衛が主な任務となっている。『護衛任務』とは消極的に聞こえるかも知れないが、実態は全く異なっている。5年前より、一部の海域は魔獣のバスタブと化していた。そして日本の通商路は、そのバスタブのど真ん中を抜けねばならぬものだった。主なものを上げるならば、アラビア海だ。中東の原油を手に入れるため、常時大量の油槽船が航行している。それらは必ず護衛艦艇を伴っていた。さもなければたちまち魔獣の餌食になってしまうからだ。EFは日本の生命線を守るために、魔獣との死闘を宿命づけられた組織になっていた。今では戦闘経験を積ませるためだけに、乗組員ごと艦艇がGFからEFへ貸し出されるケースすら出てきている。
「私は一匹でも多く魔獣を殺戮したいのです」
「驚いたな。貴官は見た目よりもずいぶん率直らしい」
「私も驚いています。軍が、あの化け物を積極的に保護していたとは」
「そうだな。人生は驚きに満ちているものだ」
六反田がわざとらしく鷹揚にうなずいたとき、手元の電話が鳴った。
「失礼。おう、どうした? なに菓子を所望している? かまわん。たしかこの前買った福間屋のカステラが残っておるはずだ。あー……五月蠅い。医者の言うことなぞ聞くものか。それで次はなんだ……ほう、そうか。そいつは好都合だ。なに心配するな。オレに考えがある」
どうやら相手は御調少尉のようだった。ネシスに手を焼いているようだが、六反田の予想の範囲内だったらしい。愉快犯のように笑いながら指示を飛ばし、電話を切った。
「さて、話を戻そう。貴官の言う化け物、ネシスについてだ。君には感謝している。どういうわけか昨夜、彼女の行方がわからなくなってな。困っておったのだが、手間もかからずに見つけ出せた」
「それは何よりです」
「それでだ。貴官に頼みがある。彼女の面倒を貴官が見てくれ」
一瞬の沈黙が訪れる。儀堂は何を言っているのかと思った。
「私はあれを殺そうとしたのですが、よろしいのですか?」
「殺してもらっては困る。だが、君にその気はもうなかろう?」
「なぜわかるのですか?」
「わからんよ。だから君に尋ねているんじゃないか。君はあれをまだ殺したいのか?」
儀堂は少し考えたが、すぐに結論を出した。
「……わかりません」
それが結論だった。あの鬼、ネシスへの殺意がくじかれていた。また再燃するかも知れないが、何とも言えなかった。
「第一、なぜ私なのですか? 軍の保護下にあるのならば、もっと適任がいるはずです」
六反田はやれやれと行った具合に頭をかいた。肩に白い雪が降った。どうやらしばらく風呂に入っていないらしい。
「お前さん気づかなかったのか? あのお嬢さんにずいぶんと懐かれているだろう?」
「さあ、どうなのでしょう。自覚はありませんが」
「お前さんの自覚なんざどうでもいいんだ。さきほど御調君から連絡があった。あのネシスとか言う嬢ちゃんが、それを望んでいるらしいからな。あれに鉛玉ぶち込んだ貴官ならわかるだろう。あの娘はとんでもない化け物なんだよ。とてもではないが、常人ではあれの相手は務まらん」
「小官も常人と愚考しますが?」
「出会い頭に銃弾叩き込んだヤツの台詞とは思えんな」
「……」
「とにかくだ。貴官には、あの面倒を押しつけたい。ああ、心配するな。望み通り護衛任務は続けさせてやる」
「自分が留守の間はどうするのですか?」
「ああ、それの心配は無用だ」
「どういうことですか?」
「そのうちわかるさ。まあ、楽しみに待っておれ」
六反田は満面の笑みで肯いた。不安しか湧かなかった。
「さて儀堂君。推測するに君は私に聞きたいことだらけだろう?」
「ええ、まずは――」
「ああ、何も言うな。おおよそわかっている。あの鬼、ネシスとかいう嬢ちゃんの正体。そして、彼女がなぜ保護されていたのか? そもそもオレ達はいったいどういう組織なのか? そんなところじゃないか?」
「……そんなところです」
「よろしい。全ては答えられんが、まあそこは我慢しろ。さて、まずは君がハワイで拾ったあのカプセルから話そう。そう、あの嬢ちゃんがしまってあった筒のことからだ……」
=====================
数時間後、約束どおり六反田は儀堂とネシスを解放した。御調少尉に先導され、再びジープに乗り込む姿を窓から六反田は見送っていた。
背後でドアの開く音がする。
「聞きましたよ。どえらいことになりましね」
六反田は振り返った。眉間にしわを寄せている。
「矢澤君、遅いぞ」
矢澤幸一中佐は肩をすくめた。矢澤は六反田の副官を長年勤めてきた。体格は上官と対称的で長身痩躯に面長の顔が乗っかっている。同年代の平均よりも広い額をしていたが、彼の場合は知性的な印象を演出するのに役立っていた。
「勘弁してください。こちとら独逸大使館に寄ってから来たんですから」
「リッテルハイム女史はお怒りだったか?」
「お怒りなんてもんじゃありませんよ。なにせはるばる欧州から取り寄せた演算器が一夜でお釈迦になったんですからね。あの眼光、呪い殺されるかと思いました」
「はは、そいつはいい。女性から情感的な視線を浴びせられる機会は滅多に無いぞ。ましてや美人ならばなおさらだ」
六反田は胸ポケットから金印の押された煙草を取り出した。矢澤に勧める。慣れた手つきで矢澤は一本取りだし、銀製のライターで火をつけた。六反田も自分の分を取り出すと、マッチで火をつける。
「それで、例の鬼はどうなったんですか? 捕らえたと聞きましたよ」
「そいつは誤報だな。たった今、無罪放免となった」
「え!? 逃がしたんですか?」
「違う。預けたのさ」
六反田は、儀堂の家でネシスが発見されてから解放されるまでの経緯を話した。
「その大尉は大丈夫なんでしょうね? うちらの組織は表向きは海大の一研究機関ってことになってますが……」
「心配ない。彼は我々に協力するさ。なにせ主目的において、オレと彼は合致しておるからな」
六反田の組織、月読機関が設立されたのは二年ほど前のことだった。ちょうど魔獣との戦いが膠着かし始めた時期だ。元々は魔獣との戦闘記録を編纂するために作られた研究室だった。それが紆余曲折を経て、今では対魔獣の戦争指導の研究を担うようになっていた。きっかけはハワイ沖海戦で捕獲された銀の筒だった。ネシスが納められたその容器の処遇を海軍、そして日本は持てあましていた。決して彼等が怠慢だったわけでは無い。単純に当時の日本はあらゆる資源が不足していたため、ハワイで拾った謎のの物体にかまう余裕がなかったのだ。
当時、日本は国内と満州に出現した魔獣、そしてBMへの対処を最優先とせねばならなかった。さもなくば国家の存亡が危ぶまれる状況だった。日本が1941年に抱え込んだ問題に片をつけ、置き去りにされたハワイの戦利品の処遇を考え始めたのは、1943年に入ってからだった。まずは恒例の管轄争いから始まったが、それは短期間で海軍の勝利に終わった。海軍上層部は筒内のネシスを「捕虜」と定義し、自分たちの保護下におくことで話を決着させた。陸軍からの干渉は受けなかったのは、皮肉なことに魔獣とBMのおかげだった。満州での魔獣との戦闘で帝国陸軍は大敗北を喫し、敗退の責任を問われ東条内閣は解散していた。以降、陸軍の影響力は弱まっていくことになる。
海軍は目黒の技術研究所の一角を改装し、ネシスを保護観察することとなった。その際、適当な機関として月読機関の名前が挙がった。推挙したのはある宮家出身の海軍軍人だった。そのやんごとなき大将は当時大佐だった六反田を前線から呼び戻し、昇進させた上で機関の長に据えた。その宮家と六反田にどういう繋がりがあるのか、誰もが謎に思ったが答えを知るものはいなかった。
「主目的とは? 魔獣との戦争ですか?」
「そう、そいつの解決という点においてね。あの儀堂大尉とオレは一致している」
「しかし、我々と彼とでは手段に乖離があるように思われますが?」
矢澤も儀堂の経歴に一通り目を通していた。彼が経歴から受けた印象は生粋の魔獣殺しだ。
「我々は魔獣との戦争終結を講じてきました。それは魔獣の根絶と同義とは限りませんよ。聞けば、あのカプセルの鬼は日本語を話したとか?」
「ああ。それもやんごとない言葉遣いで、流暢にな。正直、オレが一番驚いたのその点だよ。矢澤君、気づいているだろう? こいつは世紀の大発見だぜ。何せヤツラは話せる相手だってことがわかったんだからな」
「ええ……全くです。話せるのならば当然、交渉も不可能ではない」
矢澤は魔獣側との講和を視野に入れていた。六反田は手を振って否定した。
「講和なら今の段階では全く無意味だぞ。下手をしたら数十年先になる」
「もちろん今すぐは無理ですよ。しかし話の通じる相手ならば可能性はあるでしょう?」
「いいや、そうでもない。矢澤君、君はときどき妙なところで理想主義に傾倒するな。いいか。人類はまだこの戦いに飽きちゃいないんだ。それどころかますますのめり込んでおる。まあ、その話は今はいい。矢澤君、君にもう一働きしてもらうぞ」
「はあ……」
矢澤は露骨に嫌そうな顔を浮かべた。この上官、これは徹夜させる気だ。
「明日の朝、すぐに海軍省へ向かう。そこで山本さんにこのペーパーを渡すつもりだ。君にはGFとEFに同じものを届けて欲しい」
六反田はついさっきこしらえた上申書を手渡した。
「中を見ても?」
「構わんよ」
矢澤は書類をめくり、ほどなく上官の正気を疑うこととなった。そこには儀堂大尉にある任務を課すよう申し送りが添えてあった。
「……暴挙にもほどがありませんか?」
忌憚ない感想に六反田は吹き出した。
「酷い言いようだな。だが的確だ」
「こんなのGFの山口大将が許しませんよ。EFの了解もとれるかどうか――いくら何でも早急すぎます」
「だから、その上の軍令部総長に頼むんだよ」
「何をそんなに急がれているんです?」
「北米だよ」
六反田は低い声で言った。
「……何かあるのですか?」
「米英軍の大反攻作戦だ。連中、東海岸を取り戻すつもりらしい。だがオレは手痛く失敗すると思っている。それも取り返しのつかんほどの大敗北を喫してな。矢澤君、君も北米のレポートは読んだだろう。せいぜい今の戦線を維持するのが手一杯のはずだ。それなのに攻勢に出たら……ま、この先はいわずともわかるな。そうなる前にオレ達がこの戦争の主導権を握る必要がある」
「そんなまさか……連中だって莫迦じゃないでしょう? なんでまたそんなことを……?」
「国内世論に押されてやむなくというところだな。合衆国は特にそうだ。まあ無理はなかろう。国土の東半分がわけのわからん魔獣の巣にされたのだからな。彼等にとり、国土の回復は明白な命題なのさ。あとほら、特に英国はもうすぐ選挙だろう? 両国ともとかく民衆の声がでかい。その点、我が国は良くも悪くも慎ましいもんだが」
「民意が兵を殺すのですか?」
「その通り。麗しき近代国家の美徳だよ。我が国とて例外ではないぞ。何せ合衆国相手に戦争をふっかけようとしていたのだからな。君には身に染みてわかっているはずだ」
矢澤は気を落ち着かせるため、紫煙で肺を満たすと、大きくはいた。
「……作戦開始はいつなんですか?」
「今年の春だ。遅くとも4月には開始される」
矢澤は絶句した。3ヶ月もないではないか。
「わかっただろう? だから、あの大尉には人柱になってもらうほかないのさ」
=====================
【東京 世田谷 儀堂家】
翌朝、儀堂はいつもどおり6時に起床した。六反田と話をした後、御調少尉に送られて帰宅したのは零時頃だった。その後、やたらとこの世界について聞いてくるネシスを強制的に寝かしつかせたとき、時計の針は4時を回っていた。ほとんど仮眠と言って良いほどの間しかなかったが、支障は全く感じなかった。徹夜慣れしていたためだ。ひとたび護衛作戦が始まれば、三日間一睡もせずに艦橋へ詰めるなど、ざらにあることだった。横になれるだけありがたかった。
顔を洗い、身支度をすませながら儀堂は悶々と考えていた。昨夜、あの少将に押しつけられたネシスについてだった。恐らくまだ別室で寝ているはずだった。どうやら鬼にも睡眠の周期はあるらしい。
「……どうしたものか?」
率直に儀堂は困っていた。今日は海軍省へ出頭しなけらばならなかった。新たな配属先の辞令を受け取るためだ。遅れるわけにはいかなかった。
聞けば次は駆逐艦の副長職らしい。なればこそ、なおのこと早く彼は海軍省へ出向きたかった。一刻も早く次の艦の兵の練度と士気を掌握し、艦長を補佐できるよう万全に備えねばならない。EF所属ともなれば、訓練期間の間も限られるだろう。短い間に艦の戦力を高め、魔獣を殺す用意をせねばならぬ。
「せめて留守の間、誰かがあれを見張ってくれればよいのだが」
見当も付かなかった。不本意だが六反田の言うとおりだった。人外と屋根を共にするなど、常人に務まると思えなかった。幸いネシスに敵意はないようだが、あの額から突き出た角を見て平静を保てるヤツなどいないだろう。
=====================
「仕方ない。家から出るなと言い聞かせるか」
儀堂がネシスの寝床へ向かおうとしたときだった。玄関の開く音がした。
「衛士さん! 朝ご飯持ってきたよ!」
小春の声だった。儀堂は顔から血液が後退していくのを感じた。
「やあ、小春ちゃん。ありがとう。ずいぶんと早いね」
平静を装いつつ、儀堂は脳みそを全力稼働させた。一刻も早く、この羅刹の家から出て行ってもらう必要がある。
「兄貴が早起きでさ。朝から五月蠅いのなんの。なんか知らないけど新型の飛行機に今日から乗るらしいわ」
噂に聞く烈風のことだろうかと儀堂は思い、軍機を妹に開帳する友人の神経を少しばかり案じた。
「ご飯まだでしょ? 簡単だけど、作ってきたわ」
小春は大きめの盆を抱えていた。鍋らしきものの取っ手が見える。
「台所借りるね。味噌汁温め直すから」
「いや、それは……大丈夫だよ。それくらい自分で――」
「もう遠慮しないでいいったら。男子厨房に入らずっていうでしょ? 男が料理なんてご法度よ」
愛らしい笑顔とともに、小春はこの世の全ての男女同権主義者へ宣戦布告すると、儀堂家に強襲上陸した。歴戦の防人の抵抗むなしく、台所へ進撃していく。
「ああ、いや、そうではなくこれからオレは出かけ――」
急いで儀堂は後を追ったが、ほどなく追いつくこととなった。小春の進撃が突然止まったからだ。彼女は会敵した。
「うるさいのう……なんの騒ぎじゃ?」
ネシスが起床してきていた。小春は5秒ほど沈黙した後に疑問を口にした。
「衛士さん……この人、なんで全裸なの?」
15の娘が発した声とは思えぬものだった。それは儀堂に生命の危険を感じさせるほど、静かな怒気を孕んだ声音だった。
=====================
海軍軍人として、儀堂はあらゆる魔獣との戦闘に立ち会った。遭遇戦、対空戦、掃討戦、対水上戦、なかでも目に見えぬ水面下の魔獣相手に神経をすり減らすような対潜戦闘を幾度もくぐり抜けてきた。彼の過去3年間は自身とその他多くの兵員、船員を肩にかけた死戦の積み重ねだった。つまり儀堂にとり、非常こそが日常であり、手慣れたはずのものだった。
彼は努めて冷静な対処を試みた。
「小春ちゃん、驚かせてすまない。これにはわけがあるんだ」
「そうでしょうねえ! 無ければおかしいわ!」
「全く道理だ」
「ギドー、妾は腹が減った」
「少し黙れ」
「黙れ? 女の子相手にそんな乱暴なこと言っちゃダメ!」
「ああ、いや、違うんだ。これとは昨日会ったばかりで――」
「これ!? これってこの子のこと……!? 人をこれ呼ばわりするなんてひどい!」
「おい、お主のそれ良い香りがする。食い物か?」
「これは衛士さんのよ! それより早く服を着なさい! なんで、あなた裸なの!?」
「妾はずっとこの格好だが?」
「なっ………!!!! 儀堂さん!!??」
誠に心外なことに小春は儀堂へあからさまな非難の視線を向けてきた。
――なぜだ? どうしてこうなった?
小春の興奮は収まる気配がなかった。ただいまにおいて、彼女は全方位に対して敵意を振りまいており、ネシスの存在がさらに輪をかけて混乱を招いていた。いや、そもそも発端はネシスなのだから、まずこれを何とかしなければならなかった。儀堂は各個撃破で対応することにした。
「ネシス、まず君は服を着るんだ。昨日、あの少尉からもらったものがあるだろう」
ネシスを呼び捨てにしたとき、小春の肩眉がぴくりと動いたが、深くは考えぬことにした。
「あのセーラーふくとかいうのはごわごわする。嫌いじゃ」
「着てくれ。頼む」
儀堂は頭を下げた。ネシスは急に気をよくしたらしい。にやりと口角を上げた。
「ほう、頼むというのなら仕方が無いのう」
ネシスは勝ち誇ったように部屋へ戻っていった。
理解不能の敗北感を味わいつつ、儀堂は次の目標に向き直った。
「小春ちゃん……」
小春は何も言わず台所へ向かった。そのまま無言で飯の支度を始めた背中に儀堂は話せる範囲で事の次第を、理性的に説明した。小春は「へえ」「そうなの」の二言で終始返事をすると、そのままそそくさと家に帰ってしまった。
=====================
「食わぬのか? せっかくあの給仕が用意したというのに」
「あの子は給仕じゃない」
居間でネシスと儀堂は食卓を囲んでいた。ネシスは箸を使えなかったため、スプーンとフォークを手渡した。めざしを口に放り込むと「まあままだな」とネシスは言った。小春がここに居なくてよかったと心底思う。
あと詫びを入れに行くべきだろうかと思った。何に対する詫びなのか全く不明だが、その方が良いと儀堂の本能が告げていた。
儀堂は小さくため息をつくと、ネシスに向き直った。聞かなければならないことがある。
「君、角はどうしたんだ?」
ネシスの頭部から生えていた角が綺麗に無くなっていた。もし、あの角があれば小春もっと別の反応を示していただろう。
「角? ああ、あれなら隠した」
「隠しただと?」
長さにして、30センチはあろうかという角だ。隠しきれるものではないだろう。
「いったい、どうやって? よもや着脱可能というわけではあるまい」
ネシスは眼を丸くすると、笑い転げた。
「そんなわけがなかろう。要はお主らの眼に映らなければよいのであろう? ならば、そのように計らうまでだ」
ネシスは指先をこめかみに当てると何かを呟いた。すると、先ほどまで見えなかった角がたちまち現れた。そのあまりの奇天烈さに、儀堂は呆気にとられてしまった。
「どういう仕組みだ? なにかの妖術か?」
魔獣の類いならば、怪しげな術を使役できてもおかしくはないだろう。
「妖術とはいささか品位に欠ける言いぐさじゃな。まあよい。そのようなものだと心得るがいい」
――考えてもみれば、あの魔獣の群れを繰り出すような輩だ。今さら驚くほどのことではないか
儀堂は改めて目前の少女が人外であることを思い返した。
「君はいったい何者だ? なぜあんなことをしたのだ?」
味噌汁をすくうネシスの手が止まった。
「わからぬ……」
苦しげとも悲しげともとれる表情だった。
「妾が自分が何をしたのかはわかる。それははっきりと覚えておる。しかし、妾が何者で、なぜあれをしなければならなかったのか。全くわからぬのじゃ」
「ずいぶんと都合の良い記憶喪失だな」
「信じぬのも無理はない。ならば妾を拷問にかけてみるか?」
ネシスは挑戦的な笑みを浮かべた。
「私は無駄なことはしない。銃弾を食らいながら、平然としているものを痛めつけて、何かを得られるとは到底思えないな」
「そうか……ならば良い」
「食い終わったら、食器は台所へ運んでおいてくれ」
儀堂は立ち上がった。
「どうしたのだ?」
「外へ出る。君はここにいろ。私は用事があるのだ」
そろそろ家を出なければ、海軍省が示した出頭時刻より遅れてしまう。役所、とりわけ軍隊は期限に神聖な価値観を抱いている。
「昼までには戻るつもりだが、勝手に外へ出るなよ」
「妾もついていってやろう」
「だめだ」
「遠慮するな」
「拒否する」
「嫌でも付いていく」
「迷惑だ。大人しくしていろ」
「迷惑にならぬ。むしろ妾はお主の役に立つぞ」
「余計なお世話だ。私はこれから仕事なんだ。子どもが来て良いところではないんだ」
ネシスは眉間にしわ寄せた。
「無礼者。妾を子ども扱いするでない。お主よりも長く生きておる」
「記憶は無いのに年齢は覚えているのか? いくつなんだ? 言ってみろ」
「……断る。女子に歳を聞くとは無粋にもほどがあろう」
「埒が明かんな。とにかく君はここにいてくれ」
「わかった。勝手についていく」
「そうか、わかった。やはり首と胴を離しておくべきだったな」
儀堂は念のため持ってきていた軍刀へ手をかけた。
「ほう、よかろう。ただし妾とて今度はただでは済まさぬぞ」
ネシスの眼が一際赤く輝いた。
沈黙が居間が包んだときだった。玄関のベルが鳴った。
今日はやけに来客が多い。
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四、ロシアは東清鉄道の内、旅順-長春間の南満洲支線と、付属地の炭鉱の租借権を日本へ譲渡する。
五、ロシアは関東州(旅順・大連を含む遼東半島南端部)の租借権を日本へ譲渡する。
六、ロシアは沿海州沿岸の漁業権を日本人に与える。
そして、1907年7月30日のことである。
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