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isc(裏)生徒会

コントローラーバトル・明雷鳴戦①

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[chapter:【ISC(裏)生徒会】83話「コントローラーバトル(明雷鳴戦①)」】]

【千星那由多】

華尻達は会長と明雷鳴の副会長のおかげでなんとかなったみたいだ。
さっきの残酷な映像がまだ頭から離れない。
でも、俺が思っているより皆強いはずだ。
きっと大丈夫。

そんな事を考えていると、次はコントローラーバトルだった事を思い出した。
色んな心配が次々に襲ってくる事と試合への緊張で、自然と胃が気持ち悪くなってくる。
そう言えば今日全然寝てねーし。

そんな俺を余所に晴生の期待の眼差しが物凄く痛い。
でも、十分すぎるほどに練習は積んだ。
それに、コントローラーを使ったゲーム自体は俺の好きな分野だ。
後はちゃんと本番でやれるかどうか…。

昼からの試合に向けて、少しだけでも仮眠を取る事にした。
宿舎の相部屋に戻ってからベッドへと倒れ込むと、泥の様に眠…………れるわけがなかった。
結局俺は緊張や色んなもやもやのせいでコントローラーバトルの始まる時間まで一睡もできず、ロビーへと集まることになった。

「おっはよー♪なゆゆ目の下すっごいくま!!
眠れなかったんでしょ?」

「ええ……まぁ…」

完徹後の副会長の声はいつも以上に頭に響く事はわかった。
こんな状態でちゃんと試合ができるのかと、大きくため息をつき項垂れていると、イデアが俺へと何かを差し出してくる。

「なに、これ?」

「飲めば目が醒める」

そう言われて胸元に押し付けられたガラスコップの中身を見つめる。
見た目はオレンジジュースの様で、匂いもそれに近かった。
だけどあのイデアが渡して来た物だ、絶対にヤバイものに違いない。

「折角だし飲んでおいたら?」

横からのほほんとした巽の声が聞こえてくる。
まぁ、確かにイデアが「目が醒める」と言うのだから、確実にそうなのだろうが。
それに、悩んでいても眠気は無くならない。
俺は意を決して飲むことにした。
口先をグラスに宛がうと、少しだけ味見する。

…………あれ、美味しい。

なぜか、飲める。
絶対に口に入れれないぐらい不味いかと思ったが、全然大丈夫だ。

「……の、飲める……」

「当たりマエダ」

全員の顔がそんな馬鹿なと言った表情をしていた。
皆多分絶対に卒倒する味だと思っていたんだろう。
しかし、異変はすぐに起きた。

「……な、なんか、すっげ……」

――――――身体が熱い!!!!
やばいやばいやばい、なんかやばい!!!!
身体中の血が沸騰するみたいに熱い!!!!

「効きはじメタみたいだナ」

そう呟くイデアの視線が俺の下半身へと落ちたのがわかった。
全員の視線も自然と俺の下半身へと向いたので、俺も同じように下へと視線を向けた――――ら。

俺の息子が目醒めていた。

「――――――!!!!????」

俺はそこからダッシュでトイレへと駆け込んだ。
目は確かにギンギンに覚めたけれど、違う所までギンギンにされてしまった俺は、トイレでひっそりと泣くしかなかった。

 [newpage]

【天夜巽】

那由多は…………。

寝れないよね。
あんなの見た後は。
そして、元気になったらだめなとこまで元気になっちゃったんだろうね。
イデアちゃん、恐るべし。

三木さんはちゃんと会長が目を塞いでいたけど、光君はびっくりしたみたいだった。
動物たちは皆興味深々だったかな。

暫くすると余計に疲れた風貌の那由多が戻ってきた。
精神力はかなり削られたみたいだけど、眠気はとんでいるようだ。

「那由多、大丈夫?」

「大丈夫な訳ないだろ…」

そんな会話をしながら会場に向かった、こういう会話をしていると昔に戻ったみたいに感じるけど今行われていることはそんな生半可なことではない。
死ぬかもしれない戦い。
明雷鳴(アライナ) 高校はそんなことはなく、高校生らしい戦いをしてくれてるけど、羅呪祢(ロシュネ) 高校はそうじゃないみたいだ。
そんなことを考えていると目的地の扉の前まで来た。

「それでは、僕と柚子由と光は羅呪祢の観戦に行きます。
那由多君、まずは緊張を克服することを目標にしましょうね。」

会長は那由多には甘い。
まるで勝たなくてもいいと言っている様な言い方だけど、これが会長なりの緊張の解し方なのかもしれない。
そして、くっきー先輩には一言も掛けず言ってしまうところもいつも通りだ。
勿論僕達の横にはやさぐれた九鬼さんが居る。

「もー、左千夫クンのクーデレさん!!リンもそう思うよね!!」

エル君は会長の方へと行きたそうだったけど、動物たちは全員こっちに残っていた。
くっきー先輩はリン君の顎を撫でていた。
動物の姿じゃなく、人間の姿のリン君の顎を撫でているので変な感じだけど。

「ま、気を取り直してー、行くよ、ミンナ♪」

くっきー先輩の言葉と共に扉が開かれる。

そこには闘技場が用意されていた。
まるでボクシングか何かがとり行われるかのように四角いリングがある。
その横に那由多がコントロールする席も用意されている。
更に天井は吹き抜けで広い空が見えた。

そして観客席もかなりの数が近くから遠くまで階段状に設置されている。
僕達と明雷鳴の面々がリングを挟んで並んでいた。
と言って、こちらもそうであるように、あちらも全員がそろっている訳では無いようだ。
この後にまだ三戦控えている。
敵の偵察にも行かなければならないし、休息も必要。

多分そこの戦略の立て方とかも全て勝負に含まれてるんだろうけど。

『それでは今からコントローラーバトルを行う。両者配置へ。』

日当瀬は那由多の操縦席を弄っているようだ。
色んなディスプレイが映し出されているけどその中で一番ゲーム画面に近いものを那由多の前に配置されている。

そして少し離れた観客席に近い控え室みたいな囲いのある場所で、くっきー先輩にはリンが受信機を付着させていってる。

その間にディスプレイにルールが映し出された。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

■■コントローラーバトル■■

●戦闘するものに受信機を付け、操作するものは送信機を用いる
●能力、格闘、その他動き全てはコマンド化され入力されない限り発動しない
●受信機を付けた者は操作するもののコマンド入力によって動く
●コンボ、ゲージ、必殺技等も全て表示されているメーターで発動することになる
●送信機を持てるものは一人だけである、また送信機の形態は問わない
●送信者の持つ能力を受信者に移行することができる(ただし、コマンドが複雑化する)
●フィールドに上がった全ての受信者の体力ゲージが0になると負けとなる
●勝者には勝ち点「1」が入る

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

体力ゲージを用いるところは恵芭守の戦闘方法と似てるな。
きっと、似てるんじゃなくて採用したってことなんだろうけど。
僕達の行動や能力の使い方、能力の種類を政府は監視していると会長は言っていた。
電脳サバイバルもコントローラーバトルも僕達の能力から作り上げた戦いの仕組みなんだろう。

そうしている間にくっきー先輩の準備ができたみたいだ。
向こうは誰が出てくるのかな?

 [newpage]
【九鬼】

さて、ここからはボクはなゆゆに使われる立場だ。
練習ではバーチャル形式だったので生身でコントローラーバトルは初体験になる。
ボクにとっては特に大差はないケド、一番の問題はなゆゆの気の持ち様だ。

なゆゆの方へと視線を向けると、やはりまだ緊張した面持ちだった。
まぁ頑張ってもらうしか無いので、ボクがどうこう言っても仕方ない。

視線を再び前へ戻すと、リングに現れたのはローレンツだった。

「クキ様!!どうしてここにいらっしゃるのですか!?
ジングウの奴は何処に!!」

どうやらローレンツはこのバトルで左千夫クンと闘えると思っていたらしい。
リコール決戦の時の事もあるのか、だいぶ左千夫クンに入れこんでるみたいだ。

「ボクが相手じゃ不服?」

口先を尖らせながらそう言うとローレンツは首を横に大げさに振った。

「滅相もございません!
クキ様といえど容赦は致しません……。
ジングウに囚われてしまった貴方様の…目をさまさせてあげます!」

「んーよろしく~」

だいぶ日本語うまくなったな。
ドイツに帰ってなかったなら当たり前か。
色々とめんどくさいキャラになっちゃってるみたいだケド。
それに、過去に仲間だったとは言え、闘いとなるとボクも手を抜かない。
や、実際に今動かすのはなゆゆだから、手を抜くとか抜かないとかの問題じゃないか。

そんなやり取りをしている内に、放送が入る。

『愛輝凪高校(裏)生徒会、千星・九鬼VS明雷鳴高校(裏)生徒会、スクウェア・バタフライ。
両者準備はよろしいですか。』

全員が頷くと、ボクの目の前にゲージや色んな物が表示される。
そして自然と身体がファイティングポーズを取った。
ここからボクの身体は自分の意思では動かなくなる。

『Ready………………FIGHT!!』

でかでかと視線の先に浮き出た文字が弾けると、身体がローレンツと距離を取る様に動き始めた。

 [newpage]
【バタフライ(ローレンツ)】

おのれ!ジングウ!!コントローラーバトルに出場すると豪語していたくせに!!
本当にアイツは嘘の塊のような男だな!!
はやくクキ様の目を覚まさせてあげなくては!

しかし、明雷鳴の奴らにも恩義がある。
ニホンでは大切にするものらしい。
この、ポニーテールとか言う頭も侍がしていたとかしてなかったとか。
いやそんなことはどうでもいい。

服装も基本は信号を受け取りやすいようにボディスーツなのだがワタクシの服は何やら皆が改造していたので袖とマントがついている。
スクウェア曰く、お前の単調な動きを悟らせにくくするためだ!とか言ってたな。
クキ様がファイティングポーズを取ったようだ、ワタクシは格闘タイプでは無いのでステップ程度しか踏まない。

『Ready………………FIGHT!!』

掛け声が掛った瞬間、地面が地を滑るようにしてクキ様と距離を取る。
ワタクシを動かしているのはスクウェア。
明雷鳴高校の生徒会長だ。

ワタクシもリコール戦争から何もしなかった訳ではない。
幻術は勿論、体術、基礎体力もかなり上げたつもりだ。
それに加え、このコントローラーバトルでスクウェアに操作されるようになり自分の可能性にも気付くことができた。

ただ、ここでは彼に動かされるままになってしまうのだがな、それは致し方ない。

クキ様が地を蹴った気配がした。
ワタクシが意図しなくてもふわりと舞う様にその拳を避ける。
マントが自動的にワタクシの体を隠し、軸を分かりにくしていると言っていたが確かに撃ち込まれる拳の軌道は少し外れている。

クキ様の拳を防御できないのをスクウェアは分かっているのか、ギリギリを呼んで避けている。
右拳を半身下げることで横にかわし、そのまま後ろに回る様にステップしてもクキ様は回し蹴りを放ってきているようだ、ワタクシの体が折れ曲がる様にしてそれを避けている。

そして、二歩ステップするように下がると懐から二本のナイフを滑らせるように押しだした。

そう、これはワタクシの新しい武器。
そのまま空中を滑るようにクキ様の元へ二本のナイフがとんでいく。

 [newpage]
【千星那由多】

遂に始まった。
練習通りうまくやれればなんとかなるはずだ。
ただ操作相手が人だという事も、生身の身体を動かすのも初めてだ。

明雷鳴でローレンツを操作しているのは会長のスクウェアさん。
資料ではかなりのゲーマーらしい。
正直少しのワクワク感はあった。
それでも緊張はまだ解れていなかったが。

とにかく考えているだけじゃなにも始まらない。
無心に、ゲームをしてるって思え。

大きく息を吸い込み吐きだすと、晴生が用意してくれたゲーム画面に似たディスプレイに目を向ける。
副会長の操作は会長と違って少しウェイトがある。
攻撃力に特化しているから、素早さはそこまで無いものの、一撃食らわせれば結構なダメージになる。
それを相手も見越しているのか、繰り出した拳をガードではなくうまく避けていた。

ローレンツから放たれたナイフが飛んでくると、ジャンプでそれを避け体勢を立て直した。
やはりこのジャンプも少し重い。
避けるよりもガードの方が楽なんだけど、そこはゲームとは違うからナイフが刺さってしまう。
副会長は体術に優れた接近戦タイプなので、飛び道具は中々に厄介だ。
ただ、この勝負で特殊能力が使えるという点では、バランスが取れていると言ってもいい。

能力発動コマンドを打ちこむと、副会長が地面に手をついた。
ローレンツの足元付近で地面が盛り上がり始める。
尖ったそれが人ぐらいの高さまで伸びたが、それは難なく避けられてしまった。
しかしこれは攻撃をするための能力発動ではない。
ローレンツが後ろに後退しようとした瞬間に、地面を蹴り距離を一気に縮める。
そしてアッパーを食らわせようと副会長が拳を下へと振り切った。

 [newpage]
【スクウェア】

神功会長…コントロールにでるつってなかったか?
あれは布石だったのか…!?
まんまとやられたな。

幻術師同士をぶつけるという楽しい戦いができるかと思ったのに。

コントローラーバトルはどうしてもバタフライ、いやローレンツが出たいと言ったので彼を出すことにした。
本当は違うメンバーを使う予定だったんだが。
何と言うか、ローレンツは遠距離に偏りまくってるキャラなのでどちらかというと俺は使い難い。
ゲームで俺が好きなキャラは筋肉肉弾戦!みたいなやつだからだ。
どっちかつーとローレンツと戦ってる九鬼副会長の方が好みだ。
……いや、俺は断じてホモではない、ローレンツとは一緒にするなよ。

コントローラーバトルは実に面白い。
その人間の全ての動きをボタン化してしまうのだからな。
なので、コマンドは多岐に渡りとても複雑だ。
それを全て頭に叩きこむだけでも普通ならかなりの時間が掛るだろう。
普通、ならな。
まぁ、これが直ぐできるようになるのは記憶力がいいか、ゲーム慣れしているかどちらだろう。
因みに俺はどっちもだ。

明雷鳴は服装、髪形等は厳しく校則で指定されてしまっているが趣味は許されている。
全寮制で持ち物チェックが激しいので趣味は直ぐばれる。
そして、趣味でも成果を出さなければいけないのだ。
ただ、毎日遊びでゲームをする訳にはいかない。
ゲームをしたいならば、ネットのランキングで1位になる、または大会で優勝する。
勿論俺はゲーム大会で何度も優勝している。
ラウンドの趣味は囲碁将棋。趣味と言うかアイツはもうプロだ。
フォックスの趣味は生け花だ。アイツはよく、官僚とかの屋敷に花を生けに行っている。
ボストンの趣味は歌だ。お子様向けの童謡を作詞作曲して売り出している。某、教養番組に採用された程だ。
ウェリントンは居るだけで学校のためになるとして、オーバルは除外だ、しいて言うならば教師すらも言いくるめられるいい訳を奴は出来る。

この学校では結果を出すか、何かを残し完成させるまですれば何でも許される。
勿論勉強の点数もキープしなければならない。
だが、それさえしていればなんでもやり放題!毎日ゲーム三昧!なハッピーな日々が待っているのだ!

さて、だいぶそれたが。
コントローラーバトルだったな。
これは普通の格闘ゲームとは少し違う。
格ゲーは相性はあるがキャラ同士が拮抗できるように作られている。
しかし、このコントローラーバトルではその人間の身体能力がそのままキャラ化する。
足が遅い奴は遅いままだし、力が無い奴は無いままだ。
なので、初めからキャラの格差が出来てしまう。

しかし、そのキャラの格差がそのまま出るかどうかは操作するものに掛っている。
要するにキャラがどんだけ強くても動かす奴が初心者みたいに弱かったら負けるつーことだ。
向こうに居る、神功会長や九鬼副会長のステータスは間違いなく最強レベルだろう。
ローレンツもかなりいいところまではいっているが、誰でも人間不得手がある。
しかし、愛輝凪の会長、副会長は全ステータスがMAXと言っていい、多少素早さと筋力に数値がふられているが。
それに比べてローレンツは筋力等が劣る。
ただ、全てがMAXと言うことは動かすのも大変だと言うことだ。
あの千星那由多君。彼をデータで見たところ、キャラにすればきっと最弱キャラができるだろうと言うステータスの低さだ。
そんな奴にあの九鬼副会長を動かせるのか、と、思ったが今のところいい動きをしている。

更にローレンツと九鬼副会長じゃ、キャラの相性はかなり最悪だ。
ローレンツは遠距離一本。
九鬼副会長は近距離、ただし能力は近距離~遠距離の全て。
くわえて幻術、言っちまえばローレンツの特殊能力は殆ど効かないと来た。
この時点で普通の戦いで考えるとほぼ負けなんだが、ゲーム性を高めるためだろう、体力のゲージ化、覚醒コマンド、起死回生コマンド、そして、俺の能力のキャラへの移行。

これがあれば何とか戦える。
そう、俺は九鬼副会長を倒す必要は無いんだ。
ゲージを0にすればいい。ただ、それだけだ。
それにちょっと劣勢の方が燃える!俺はそう言うタイプだ。

俺がヒューマノイドのベルに用意して貰った6つのディスプレイ、その中の必要な情報だけに視線を向けていく。
ローレンツは俺が考えるよりも拳などのスピードが少し遅い、そこをきちんと頭で補正していきながらコントロールしていく。

早速九鬼副会長の能力が発動した。
この創造能力はやっかいだ、今は地面を触ってくれたから分かりやすかったけど、視線でも出せるとの情報だ。
まぁ、そのコマンド指示を千星君が出せるかどうかは分からないが。

自然とローレンツは後ろに下がろうと意識する、それに合わせる様なコマンドを打ち込んでやると難なくその攻撃を下げたが。
続けざまに千星の指が動いているのを俺は見逃さなかった。

九鬼会長が距離を詰めてくる、そして腕を引いたのを見届けながら、俺はローレンツに本を開かせた。
幻術と言うのは不思議なもので空中に足場を作れたりするんだ。
ローレンツの髪がふわりと浮くと同時に、宙を蹴り、そのまま宙返りする。
どうやら九鬼副会長の拳は顎を掠めたようでゲージが少し減ってしまった。

片足で着地すると続けざまに拳が撃ち込まれて行く。
回避コマンドを打ち込む暇が無かった為仕方なくその本で拳を受けて行った。
するとローレンツの声が俺の耳に響いた。

「おい!スクウェア!なんだこの動きは!ワタクシの美学に反する!!」

「あー?じゃあ、なんで持ってんだよその本!無くてもつかえんだろ!!」

「本を持って幻術を使う…美しい光景だろう?」

「戦いに美しさなんていらないだろ!つーか、その本持ってるせいでお前の動きちょっとおくれんだよ!
有効利用してやってんだから、ありがたく思えよ!!」

ったく。うちは外見に個性が無い分、皆内面の個性が強いんだが。
ローレンツは見た目も内面も灰汁が強すぎたってーの。
そう言うの嫌いじゃないけどな。
でも、コントローラーバトル中は口もきけなくしてくれたらいいなって思った。

そのまま本をミシミシ言わせながら九鬼副会長の拳を受けていたが、矢張り真正面からは敵わないようでリング隅へと追いやられて行っていた。

 [newpage]
【九鬼】

なゆゆは練習通りにちゃんとボクを動かしてくれている。
ボクとは違った行動パターンを取るので、そこの所の違和感はまだまだ慣れないな。
身を委ねるっていうのも中々難しいものだ。

ローレンツの動きも中々いい。
彼は幻術師なので、あまり肉弾戦で闘っている様子を見たことが無い。
やはり操作している者の特色が出るみたいだ。

リング隅へ追いやるように重い拳を繰り出していく。
ローレンツは本でそれを受けているが、表情が歪んできている。
ガードをしてもそれなりにダメージは受けるので、少しずつ体力ゲージは削られていっているようだ。
ただ、ガードも中々うまい。
拳を撃ち出すタイミングがわかっているのだろうか。

すると突然、追い詰める攻撃をしていたボクの身体が下へとしゃがんだ。
足払いの動作に入ったが、それは読まれたのかローレンツは飛ぶように回避した。
しかし、この足払いと同時に地面に着いた右手で、なゆゆはボクの能力を発動していた。
ボクの背後から尖った地面がローレンツへと向かっていく。

ギリッギリの所でローレンツがそれを左へと避けた。
が、ボクの身体はそれより先に避けた方向へと向かっている。
少し身体がミシッと言ったが、勢いをつけるように身体が回転すると、裏拳がローレンツの右頬を目がけて飛んで行った。

まだちょっと動きに無理が過ぎるな。
まぁ大したことは無いけど。

 [newpage]

【ローレンツ】

あの千星那由多と言う男。
リコール宣言を行った時にはただのお荷物にしか見えなかったが。
クキ様をここまで使いこなすとは只者では無かったのかもしれない。
ただ、ワタクシには目が見えない分、彼のオーバーワークは手に取る様に分かった。

このコントローラーバトル、何も出来ない様に見えるが唯一視線だけは自由に動かすことができる。
勿論、送信者が視線のコマンドを入力してしまうとその通りになるがそれ以外は比較的にどこでも見ることができた。
それはこのゲーム性故だろう。
受信者は目を閉じていても何の問題もないからだ。
ただ、目を閉じてしまうと、よくゾンビゲームなどである受信者からの視線のディスプレイと言うのは作ることができなくなる。
スクウェアが「お前!!コントローラーバトルんとき何で目閉じるんだよ!開けよ!」と何度も練習中に言っていた。
ワタクシは目を開いても見えないので閉じている、と何度も言ってるのだが全く聞き入れて貰えない。
どうしてか分からないが明雷鳴の連中はワタクシが目が見えないことを信じてくれないのだ。

いつもは糸目で細いので目を開けているかどうかわからないだけと認識されているらしい。
そんなことは断じて無く、いつも目を閉じているのだが。
そして、コントローラーバトルになると目を閉じる、…そんな人間が居るとは思えないがワタクシはそう認識されているらしい。
何度も否定したが全く取り合って貰えないところを見ると日本語を間違って喋っているのかもしれない。

その唯一使える視線の動きを使って、クキ様の体に違和感があることを伝える。
スクウェアが分かる位に目を開き、クキ様の足へと視線を向けた後、スクウェアに視線を流す。
これが、合図だ。

勿論この間もワタクシの体は動いており。
今、目の前までクキ様の拳が迫っているのがオーラで分かる。
そしてそのまま頬を殴りつけてきた。

「―――――ッ!!」

「っだぁあああ!!!悪い!お前の動きじゃ無理だった!!」

ワタクシよりも痛そうなスクウェアの声が後ろから響く。
彼は痛くはないと思うのだが…。
諸に拳をくらったワタクシの体は吹っ飛ぶがその後のフォローコマンドは完璧だった。
彼はワタクシの体がどんな動きを出来るかを完璧に把握している。
そのまま足裏で摩擦を起こしながら場外へと滑って行く。
場外のペナルティは特に無いが、スクウェアの美学に反するのだろう、直ぐに場内へと戻った。

少し体力ゲージが減ったがまだ大丈夫だろう。

そんなことを考えている時だった。
グンっと体が軋むように前に進む、こうやってワタクシの体を無茶させるときは攻め時だと言うことだ。
クキ様を視界に入れるとなんだが禍禍しいオーラが纏われているのが分かった。

ワタクシの腕が振り被る様に軋んだ。
手の中から本が飛んでいったのが分かった。
……その本は断じて飛び道具では無い。

そう口にする暇も無く、炎の矢が形成され、先に投げた本を目隠しにするかのように真っ直ぐに飛んでいった。

  [newpage]
【千星那由多】

少し副会長の身体を酷使してしまったかもしれない。
練習では腕の骨を何度かすっぽ抜いてしまっていたが、何も言ってこないという事はまだ多分許容範囲だ。

場外に落ちたローレンツがすぐ様戻ってくる。
守備体勢ではなくなった感じから、攻撃を仕掛けて来るだろう。
と、思った矢先に本が飛んで来た。
その後方に炎の矢が潜んでいるが、俺の位置からは辛うじて見えている。

まずは本をグローブを嵌めた手で弾くように指示を出すと、バシンッと音を立てて本が飛んで行った。
そして、すぐさま身体をバク転の形に持っていくと横へと逃げるように距離を取る。
太腿あたりを少し掠めたが、体力ゲージはわずかしか減っていない。

ローレンツとの距離を取るとバク転を止め、あちらが仕掛けて来る前にひとつ技を試そうとコマンドを打ちこむ。
これは、俺の能力を副会長で使用するためのコマンドだ。
練習では何度かやったが、副会長と俺の能力の相性が悪いのか、かなり長くて複雑。
ひとつでも間違えれば失敗して何も起こらない。
けど、これだけ距離を取っていれば、なんとかなるはずだ。

集中してコマンドを打ちこみ始めると、副会長の姿勢が溜めに入った。
俺が入力している間は、この溜めの動作に入るので、ガードも何もできない。
使用することによってのリスクは大きいが、その分攻撃力も高いのでこれが決まれば一気に相手のゲージは減るんだ。

「っ……!」

手元のコントローラーを見つめながら指を動かす。
あと、少し……!!

「……よっしゃ来た!!!!」

最後のキーを入力した所で画面へとすぐ視線を戻した――――が。
何も起こらない……。

だめだ、失敗した。

目の前の副会長はまだ溜めの姿勢を保ったままだ。
失敗すればわずかながら立て直すまで時間がかかる。
やばいと思った時、ローレンツは副会長の目の前にいた。

 [newpage]
【スクウェア】

ローレンツは不思議と相手の負荷が分かるらしい。
と、言うか、筋肉が動いているオーラで相手が何を繰り出してくるか分かるから見えなくても大丈夫だとか訳のわかんねーこと言ってたな。
どうしてアイツは目の見えないアピールをあんなにするか分からない。
そういや一回アイツの耳を塞いだら、片方のひげを切られたネコみたいにふらふらしてたな。
糸目な分、耳が発達しているのかもしれない。

だから筋肉の軋みとかが分かるのか!
きっとそうだ!!今、閃いた!!

高速でコマンドを打ちながら新たなひらめきに眼鏡の裏で俺の目が見開いた。
いかんいかん、俺の思考がまた逸れた。

俺はどうしても集中しながらでも余計なことを考えてしまう。
色々考え深い年頃だからだ。

しっかし、本を破いてくれたらよかったのに弾かれたのは誤算だったな。
本を自分で破こうか悩んでいる時にディスプレイの一つ、千星の様子が映っているものに異変を感じた。
なんかわかんねーけどすっごい打ち込んでる!ボタン連打してる!!でも、九鬼副会長は構えのまま動いてない。

こ、これは…!
マズイ、と、思ったが、俺は千星が一つボタンをすかしたのを見落とさなかった。
多分、千星君は何かのコマンド入力を失敗した。

好機!

何度も連続で体を酷使させるのはあれなんだが、普通に戦ってたって攻め時は酷使するものだ。
俺はグッと九鬼副会長との距離を詰めた。
ローレンツの射程距離内に入るや否やマント裏に仕込んであった投げナイフを右手五本、左手五本と時間差で滑らせた。
九鬼副会長が溜め姿勢のままで動かないでいいことに投げナイフを追う様にローレンツを走らせ、更に片手にナイフを握らせ、九鬼先輩の体の中心の軸へとナイフを突きだした。

  [newpage]
【九鬼】

溜めの姿勢に入ったまま、動かない。
なゆゆコマンド入力失敗したな。
そんな事を考えていたが、悠長にしている場合ではない。
ローレンツから放たれたナイフが視界に入ると、慌てて声を上げる。

「なゆゆ回避回避!!串刺しになっちゃう!!」

「ま、待ってください!!」

反射的に自分の身体が動こうとするが、動くわけがない。
ギリギリに迫ってくるナイフを見つめていると、ふっと身体が軽くなった。
どうやら溜めから解放されたようだ。

ほんっとーにギリギリの所で身体がバク転すると、足を使って飛んで来たナイフを薙ぎ払う。
しかし、迫って来ていたローレンツの攻撃を避ける事はできなかった。
すかさずガード体勢に入ったが、僕の左腕にナイフが浅く突き刺さった。

「っ……!」

そこまで深く刺さらなかったが、それなりの痛みに自然と笑みが零れると、ナイフを自分の腕に刺したまま、右足がローレンツの脇腹を直撃するように動く。
ナイフから手が離れたのかそのままローレンツは吹っ飛んで行った。

「すいません副会長!!だ、…大丈夫ですか!?」

「大丈夫じゃないし、痛いよー。ちゃんと成功させてよネ!」

「すいません……!」

一応ガードはしたので思ったより体力ゲージは減らなかった。
ボクは痛いけど。
このままでも左腕は動くみたいだけど、なんとなく重い感じがする。
多分ナイフが刺さると動きが鈍るんだろう。
いや、それよりも。

「…なゆゆ、早くさっきのもう一回」

「……で、でも……腕――――」

「早く!」

なゆゆの成長も兼ねて、ここはキツく告げておく。
さっきの失敗でこれからの攻撃に勢いが無くなってしまったら元も子も無いし。
一度は自信持たせておかないとなゆゆは何かとめんどくさい。

「わかりました…」

なゆゆがそう告げると僕の身体はまた溜めの姿勢に入った。
ボクは何もできないのでただじっとそのコマンドが入力されていくのを待つ。
ローレンツがこちらへ向かってくる。
多分これ失敗したらヤバいな。
ま、こういう時に失敗するようじゃ、やっぱりなゆゆはお荷物という事だ。

そんな事を考えていると、ボクの身体が自然と動いた。

ゲームの技を放つ時のように身体が発光すると、ボクの両腕が一度大きく後ろに下がった。
手元が異様に熱い。
そして、勢いよく前へと両手が押し出されると、炎の様なものが手元から放たれた。
それはうねりながらローレンツへと向かっていく。

お、成功したみたい。やるじゃん。

 [newpage]
【ローレンツ】

「おし、入った!!!!」

スクウェアが喜びの声をあげている。
このナイフを繰り出す指示をしたのは彼だが実際クキ様を刺したのはワタクシなのだが。
ワタクシはゲームをしながら一喜一憂する輩の気持ちが分からない。

それよりもだ…!!

「…申し訳ありません、クキ様」

例えクキ様の目を覚まさせる為と言えどクキ様にナイフを刺すなど!!
しかもクキ様の大切な腕に…!!
これも、それも全てジングウのせいだ…、おのれジングウ…!ワタクシは決して貴様を許さないぞ!

しかしそんなことを思ったのもつかの間だった。
クキ様のカウンターは完璧だった。
これをコマンド入力しているのがセンボシだとは思いたくない程に。

ワタクシの体がぶっ飛ぶ。
先程から酷使しているからかスクウェアは直ぐに起き上がるコマンドを入力せず、体に負荷の掛らないコマンドで地に足を付けた。

「げ!やべ!!くるくるくるくる……!!」

スクウェアは敵であれ一度発動した技は記憶でき、センボシの手元をディスプレイで見るだけで次に来る技が予想できるらしい。
と、言ってもワタクシにはその辺りのことは見えないので余り理解はしてないのだが。
スクウェアの焦った声と同時に目の前にエネルギーの塊のようなものを感じた。

「ったぁ!…避けろ!ローレンツ!!」

スクウェアが叫ぶ声が聞こえるが、ワタクシが避けれるかどうかはスクウェアのコマンド次第なのだが。
これもぶち当たるのかなと思ったがふわりと体が浮く様にそのエネルギーの塊を避けた。
ただ、どうもマントに触れたらしい。

そこから燃え盛る炎が上がるのが分かった。

「うお!マズイ!!えーっと、幻術、幻術…ってあれ!幻術じゃ消せない…!?」

スクウェアのコマンドによりワタクシの手は幻術を作るために重ねられた。
そして水の塊ができるとともに燃えたマントへと投げつけていたがマントは燃えたままだった。

当たり前なのだが、幻術とはデリケートなものなのだ。
幻術と思いながら作っても本当の効果は全く現れない。
その辺をスクウェアはまだ分かっていない様でワタクシは溜息を吐いた。

そうしている間にマントを脱ぎ捨て、ナイフホルダが腰や胴体へと巻き付いた。

「残弾分かっちまうけど、仕方ねーよな。」

ワタクシのナイフは残りの本数が分からない様にマントの裏等に隠していた。
しかし、燃えたマントを破棄することでそれがバレバレになってしまう。
先程の炎のせいで背中に軽いやけどを負った為ゲージが減ったようだ。

ワタクシは地に降りると同時に再び単調にナイフを投げ始めた。

  [newpage]
【千星那由多】

副会長に言われるままに、再び俺は能力コマンドを入力した。
自分の身体では使用していないはずなのに、何故か感覚的には自分が能力を使ったかのような感覚になる。
しかし結局、コマンド入力は成功することには成功したが、ローレンツに大きいダメージを与えられなかった。

「なゆゆオケオケ~!」

外れたのに副会長は怒らなかった。
というか多分、成功させることに意味があったんだと思う。
ほっと肩を下げるように息を吐くと、緊張がだいぶ解れたような気がした。

この調子で一気に攻めよう。

ローレンツのマントが燃えると、それを脱ぎ捨てたので所持していたナイフが全て見えるようになった。
これでフェイクなども使えなくなるので、少しは俺の能力コマンドを使った甲斐はあったかもしれない。

ナイフが飛んでくると、それを回避したり副会長の能力で壁を作ったりしながら、徐々にローレンツへと距離を縮めていく。
その時、ふと副会長の視線がこちらに向いた。
そしてすぐに腕に刺さったままのナイフへと落ちたのを確認する。

ナイフを抜いて、使え、という事だろうか。

最後にウインクをされると、悪寒が走った。
合っているかはわからないけれど、刺さったままでは少し動きも悪いために行動に移すことにした。
痛そうだけど……すいません…!

眉を顰めながら副会長の腕からナイフを引き抜くと、綺麗に刺さっていたのか血は吹き出さなかった。
結構痛いとは思うけど、副会長の表情は全く変わらない。
引き抜いたナイフを、副会長の能力で二本に増やす。
これも練習で何度か試した。
あまり増やすと質量的にも一本の強度が落ちると聞いていたので、限界でも四本、なのでここは二本にしておく。
そしてそれをローレンツ目がけて投げつけた。

ここからも練習時、副会長から指導を受けている。
相手の武器を何らかの理由で手に入れ、使用することができた時、仮に避けられたり跳ね返される可能性は高い。
しかし、そこは副会長の能力でうまく跳ね返せと。
もしくは途中で軌道を変える。

飛んで行くナイフの行方を見ながら、能力発動のタイミングを見計らった。

 [newpage]
【スクウェア】

そんなこともできんのか。
ローレンツの武器のナイフが二つに分かれてしまった。
ホント九鬼副会長の能力ってチートだよなチート。
これで幻術がもうちっと効いてくれりゃなんとかなんだけど。
つーか、そもそもの俺が幻術を信じられてねーから威力も弱いんだよな。
幻術の仕組みがわからん!

いやいやそんな場合では無い、ナイフも綺麗に刺さっていたのだろう血も出て無いのであの腕は動くだろう。

武器を奪われた上にそれを駆使して投げ返して来られた。
って、かなり速いんすけど!!
九鬼副会長武器も使えんのか?

俺は慌ててコマンドを入力した。
しかし、回避のコマンドを入力したのが間違いだった。
ローレンツの背後に壁が出来る。
それは、俺が回避入力をした方向だった。
ローレンツの背中が壁に触れてしまうと逃げれなくなる上に、その壁が大きすぎて俺の視界を塞いだ。
慌てて違うディスプレイに視線を動かすが、それではコマンド入力が間に合わなかった。

「―――ぐっ!!」

ローレンツの声が上がる。
これは謝っている場合では無い。
一本目は左太腿を掠めただけだったが続けざまに二本目が来る、壁に刺さったナイフの柄を足場にしながら宙を回転するように大きくとんだ。
しかし、それも間違いだった。

地面から突出した壁が一本目のナイフを弾き飛ばした。
それが、まともに宙を舞っているローレンツに向かって飛んでいったのだ。
同時に俺の目を、ディスプレイの映像を塞ぐように幾つもの壁が突出していく。

これはマズイなと思いながらローレンツの手の甲でナイフを刺す様に受けた。

 [newpage]
【九鬼】

なゆゆ頑張ってるな。
いつもバトルがゲームだったら中々やるとは思うけど。
ま、実戦で使えないのであれば、まだまだなゆゆは伸ばして行かなければいけない。

そんな事を考えながらも身体は勝手に動く。

突出した壁に隠れるようにしながら動いていくのは、多分ローレンツの操作をしているスクウェアっちに動きがバレにくいようにだろう。
操作される側、つまりボクとローレンツの視界は操作側の画面に映っている。
だけど、ローレンツは目が見えないので壁で覆ってしまえばスクウェアっちには見えなくなる。
身体的な差がフェアではない気もするが、それはローレンツを使っている明雷鳴側のミスだ。
ローレンツが言う事を聞かなかっただけなんだろうケド。

ローレンツをすっかり取り囲んでしまうようにそびえ立った壁を目がけて拳が唸った。
派手な音を立てて壁を破壊すると、宙を舞っていたローレンツが降りて来た所に鉢合わせる。
そのままボクは突っ込んで行った。
ここからはもう、身体は気持ちいいくらいに攻撃を繰り返した。
ガードする隙も与える暇もなく、ゲームで言えばコンボが続いて行く感じだ。

壁を突き破りながら、ローレンツへ繰り出される拳は止まらない。
そのままお互い場外へと出ると、宙へと蹴り上げたローレンツの身体が浮いた。
足を掴み取ると、地面へと投げ飛ばすように放り投げる。

近くの破壊された壁へと着地すると、必殺技ゲージが溜まっていることに気づいた。
このゲージは攻撃を与えた回数や、自分が受けた回数などで徐々に溜まって行く。
これがMAXということは、必殺技が使えると言うわけだ。

「なゆゆーいっちゃおっか♪」

「わかりました!」

さて、ドーンとかます瞬間がやってきた。
あちら側ももうかなり体力ゲージは減っている。
もちろん相手も必殺技ゲージは溜まっているのかもしれないが、それならさっさと先手を打つべきだ。

ボクの片腕が上へと上がる。
そうすると指の先から白いグローブ、銀の髪、白のバトルスーツが黒へと染まっていった。
ボクがこの必殺技を使用する時は、全身が左千夫クンみたいに真っ黒になる。

見開いている目も多分漆黒に染まっているだろう。
ボクの周辺が風を巻き込むようにうねり始めると、掲げていた手が払うように手前へと伸びた。

「派手なのいっくヨーーーー♪」

ウインクをかましたと同時に、ボクの背後から白く輝いた大きな龍が生まれる。
その龍の雄たけびのような声で空気が揺れると、地面にいるローレンツ目がけて白い龍が放たれて行った。

「華昇白龍殺撃破☆」

うーん、やっぱり必殺技は派手なのに限るよネ♪

 [newpage]
【ローレンツ】

「だー!!!!見えねぇ!!ローレンツ!目、開けろ!目!!!!」

開けても見えないのだと何度言えば分かるのだろうか。
にしても、クキ様の拳は流石としか言いようが無かった。
重い衝撃が体へと走って行く。
そして、背筋が慄く様な殺気に自然と体が萎縮するが、不思議と昔ほどでは無い。
クキ様が衰えたのではないだろう、昔以上にお強くなられている。

この時のワタクシはこの感情がまだ理解できなかったが。

ゲームで言えば完全なハメ技が決まってしまった感じだろう。
ワタクシの体は人形のように宙を舞った。

「ぐ、ぁああああッ!!」

「ローレンツ!!!」

スクウェアの痛ましい声が響く。
今、悲鳴を上げているのはワタクシで実際に痛いのもワタクシなのだが。
無残に地面に転げるころにはワタクシを覆う壁は無くなったようだ。
しかし、目の前に物凄い気の塊が集中している。

「華昇白龍殺撃破☆」

その声と共にその固まりがワタクシへと向かってくる。
速さから考えると避けるのは無理だろう。

「すまん、ローレンツ!!」

どうやら、スクウェアは防御コマンドを打ち込んだようだ。
ワタクシの体はその場に座り両手をクロスするようにして、その向かってくるエネルギーの塊と対峙した。
ただ、一本のナイフが指の間に握られており、その意図はワタクシには分からなかった。

「ぁああああああああ゛!!!!!」

苦痛の声がワタクシの唇から迸る。
そうしてワタクシはその場にうつ伏せに倒れた。
流石クキ様。
本当にお強い。

「待ってろ、今…助けてやるからな。」

そう、これで終わりでは無い。
最後の切り札がまだ残っている。
それが決まるかどうかはスクウェア次第だが。
 
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