あなたのタマシイいただきます!

さくらんこ

文字の大きさ
上 下
110 / 113
isc(裏)生徒会

サバイバルゲーム愛輝凪VS明雷鳴①

しおりを挟む
[chapter:【ISC(裏)生徒会】81話「サバイバルゲーム愛輝凪対明雷鳴①」】]

【エイドス】

流石、明雷鳴では最高のメンバーだな。
二人以外成功と言ったところか。
明雷鳴高校とは探究心を満たす学校と言えばいいのか。
取り合えず、変人で趣味に没頭する人間が集まるところだ。
クイズ、雑学、数式、オタク、体を動かすこと以外に特化した学校だ。

ただし、ここの学校の体育はサバイバル演習だ。
どれだけ頭が良くてもサバイバルが出来なければ人間は死ぬ!それがこの学校の礎みたいだ。

ま、僕にとってはどうでもいいことだけど。
僕はこの明雷鳴高校という駒を使って「idealoss(イデアロス)」よりも優れていることを証明できればそれでいい。
僕の持っている感情プログラムは最高なんだ…!!

僕は司令室へと着くとプレジデントチェアへと腰を据えた。

全員のロシアンルーレットが終えたところでこのサバイバルゲームのルールが発表される。

■■電脳サバイバル■■

「赤」 明雷鳴高校
    A
B   C   D◎
E   F   G
H   I   J

10   9   8
7   6   5
4◎  3   2
    1
「青」 愛輝凪高校

●上限10名のバトルである
●各高校「赤チーム」と「青チーム」に別れ指定の迷彩服を着用とする。
●使用できるものはヘルメット、防弾チョッキ、拳銃、ナイフ、手榴弾等控え室に置いてあるもののみ
●能力の使用は認められていない。ただし、身体能力のリミッターの解除は可能
●ジャンプ力等自分自身の能力が向上するだけの能力の持ち主はその使用を許可する
●死亡した場合は死亡とは表示されない、肉体がそのままそこに屍として存在する
●ヒューマノイドとのやり取りは無線で行う、無線が壊れた地点で通信手段を失うことになる。
●戦闘は全てヒューマノイドに指示を仰ぎ、独自に決定して動く
●ヒューマノイドにはモニター映像を見ることが出来ない初めに与えられている情報にメンバーからの情報を上書きしていくものとする
●スタート地点はヒューマノイドが自分の陣地の中の番号で指定する
●先に行うロシアンルーレットで成功した(SAFE)ものは相手陣地の二列目(EFGHIJ及び5617910)も選択可能
●◎がついた地点は誰でも選択可能だが即死の可能性あり
●味方を同じ陣地に配置することは不可能
●スタートと同時に指定した陣地へと飛ばされる
●最終的に相手陣地の「Aまたは1」の制圧、制限時間終了時(翌日の正午)に多くの陣地を有していたほうの勝ちとなる。
●陣地の制圧の仕方は指定の場所に旗を掲げることである
●「Aまたは1」以外の陣地に置いては旗の差し替えが可能となる
●勝者には勝ち点「1」が入る

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

サバイバルゲームの実弾を使用したもの、と、言えばいいだろうか。
そんな感じのゲーム内容だった。
さて、まずはこちらのメンバーを割り振ることにする。
ローレンツは僕の横にずっと立ってるけど特に手伝って貰うことはない。

机の上に広がる電子地図に生徒の形をした駒を乗せて行く。

まずは、ここのメンバーは全て七三分けで眼鏡を掛けている為、背の高さや性格の違い位しか見分けを付けることができない…。
副会長…だけは別だけど。
それにしても、髪形まできっちり決めてしまって生徒は嫌じゃないんだろうか…。
まぁ、そこは僕が考えることじゃない。

明雷鳴高校裏生徒会長、通称スクウェア、本名は四門千尋(しかどちひろ)
ここ一番の頑張りは評価点が高い。
そして、責任感も強いがプレッシャーに弱く、運が無い。
周りに支えられてのリーダー向け気質。
コイツはこの後のコントローラーバトルにも出る。
なので、ここは博打に行くとするか。能力も自分に対するものなので使用できるが使用したら使用したでこっちの指示を聞かなくなるし。

「スクウェアは4ね。」

無線機で伝えると、「うええええ!!!?」とか言う悲鳴が聞こえる。
そうだよね、即死の可能性有りだもんね。
僕はクツクツと喉を揺らす。

次は反副会長、通称ラウンド、本名は鳥岡清丸(とりおかきよまる)
沈着冷静、そして、プレッシャーに強い。しかし運は無い。
スクウェアとは正反対なタイプだ。
ラウンドは失敗したので自分の陣地すなわち、A~Jしか選ぶことが出来ない。

「ラウンドはA。きっちり守ってね。」

「承知した。」と淡泊な返事が返ってくる、とても彼らしい。

正副会長、通称ウェリントン、本名坂台遥(さかだいはるか)、そしてこの学園の女神、っても男子校なんだけどね。
まぁ、この学校の精神的支えっていってもいいのかな。

平等。でも能力使用時は皆から恐れられる。
そんな感じの性格。
ウェリントンはロシアンルーレットでセーフだったので(5617910)も選択が可能だ。

「ウェリントンは7ね。その辺りに仲間固めるから、7か6で合流して。」

「うん、わかった」と男なのに可愛い声が無線から響いた。

会計、通称フォックス、本名指野義経(さしのよしつね)
コイツはなんかよくわかんないけど、常に喋ってる。
かと、思ったらいきなり正論言いだすし、未知数で扱い難いタイプ。
でもまぁ、問題は無いので。

「フォックスは6」

雑音が聞こえるだけで勿論返答は無い。
でも、聞いているから大丈夫だ。

書記、通称オーバル、本名尾春花一(おばるはないち)
こいつの協調性はぴか一、というか、ごますりがちょーうまい。
どこいっても生きていけるタイプだ。

「オーバルは5ね!確りやってよ!!」

「お任せ下さい!指揮官!」

ほら、もう、ノリノリでしょ?
僕の気分も良くなってくる。
次で最後だ。

最後は補佐、通称ボストン、本名は颯田帝(さったみかど)
こいつがこのメンバーの中では予選で一番点数を稼いでいた。
能力値が高いので裏生徒会に迎えたといったらいいのか。
まぁ、今回はサバイバルだからつかえないけどね。

「ボストンはB」

「守りだね、分かった。」

何も言わないでも分かってくれるのでとても嬉しい。

さあ、陣地が決まったので、僕は地図に駒を置く、同時にゲームの審判にも配置表を送った。

ヒューマノイドの優秀さで勝てることを証明してやる。
楽しませてあげるよ、イデア。

   [newpage]
【光】

愛輝凪高校のヒューマノイド、イデア。
純聖達から聞いていたけど、見た感じ僕と同じような年に見える。
でも、ロボット…みたいな感じなんだよな?
確かに身体のつなぎ目は良くみたらおかしいし、声も起伏が無くて感情が伝わってこない。

僕はライトニング達の指示もあるので、イデアの補佐につくように左千夫に頼まれた。
うまくできるかわからないけど、出来る限りの事はするつもりだ。

黙ってイデアの横に立っていると、イデアは電子地図にぽんぽんと駒を置いて行く。
まるで何も考えていないかのような素早い動きだ。

「クキ8地点。エルG地点。ライトニング3地点。チュマール2地点。リン1地点。
サチオはD◎地点。以上だ。
返事はYESだけでイイ。異論は認めナイ」

駒を載せきった後に、一気に全員に通達する。
左千夫がD地点ってことは…即死する可能性もある場所だけど…。
突っ込んで聞いてみようか迷っていると、それより先にイデアがぐるりと顔をこちらに向けた。

「死ぬト思うカ?」

「え?」

…多分、左千夫の事を考えていたことがバレているのだろう。
間抜けな返事を返すと、イデアはまた電子地図へと視線を落とした。

「あいつがソウ簡単ニヤられる訳がナイ。だからこの配置だ。
他の奴等もコレがベストな配置だろう。
後はまぁ……勝てればソレで十分ダ」

「……」

本当に考えてやっているのだろうか?
少し不安になってきたけど、ロボットだもんな。
普通に考えて僕なんかよりは頭がいいはずだ。

「動物共、良く聞ケ。
今からヒカルとの精神関連の通信はデキナイ。全てこの通信機から行われル。
クレグレも突拍子もナイ行動に出ないヨウに。出たらワタシに殺サレルと思エ。
ヒカル、お前も同じダ。お前の動物との精神介入は今役に立たナイと思ってイイ。
わかったナ?」

「うん、わかった…。ライトニング達もいいね?」

イデアに返事をした後、ライトニング達にも確認をとる。
バラバラに通信機からライトニング達の返事が返ってきた。
ひとまずは大丈夫だろう。

それにしても、僕なんかがここにいてイデアの補佐なんてできるんだろうか。
僕にとって、これが初めての実戦になる。
もちろんライトニング達にとってもだ。

唇をぎゅっと噛みしめると、イデアの見ている電子地図に視線を落とした。

  [newpage]
【日当瀬晴生】

■■電脳サバイバル■■

「赤」 『明雷鳴高校』 指揮:エイドス
          A『ラウンド』
B『ボストン』   C          D◎【神功左千夫】
E          F         G【エル】
H          I          J
 
10          9         8【九鬼】
7『ウェリントン』  6『フォックス』 5『オーバル』
4◎『スクウェア』 3【ライトニング】2【チュマール】
           1【リン】
「青」 【愛輝凪高校】 指揮:イデアロス


―――――――――――――――――――――――

ディスプレイに配置表が映し出された。
俺達外の人間にはどこに誰が配置されているか分かるが、イデアさんからは自分の学校の者しか分からないんだろう。
ぱっと見る限り、エイドスは攻めの陣形、イデアさんは守りの陣形。
いや、それだけじゃなく作戦があるのかもしれないが。

◎の地点は即死地点だと言う。
もしこれで会長が生き残れたら即制圧と言ったことも可能かもしれない。
なら、攻めに人数を割くより守りに使ったほうがいいという陣形か…?

どっちにしろ、同じ陣地に振り分けられているやつはいないのでいきなり戦闘とかはなさそうだな。
後は指揮官の采配と情報伝達に掛ってる訳か。

個々を小型カメラが追っているようで、個人個人もその横のディスプレイに映っていた。
準備を終え、何やら喋っているみたいだが今は音声は切られているみたいだ。

「千星さん、お疲れ様です。ここ、どうぞ。」

千星さんがこっちにくるとすかさず自分の特等席を譲る。
ここが一番全部のディスプレイが見やすい。
そして彼にジュースをもってくると同時にその横に腰かける。
勿論天夜はその反対に。

「へー、ずいぶん、愛輝凪の陣地に固まってるね。」

「イデアさんのことだ、何か考えがお有りだろう。
に、しても、会長も動物も軽装だな…、まぁ、1の陣地に戻ってくれば武器の補充は可能だけどよ。」

千星さんは殆どサバイバルの練習ができなかったので、俺は分からないところが無いかと彼に質問した。
つーか、九鬼の背負ってんの、あれ、バズーカだよな…あれもってくのか、アイツは…。
それに比べて会長は本当に必要なものだけを持っているようだった。
動物は会長の指示だろう、全員身軽だ。

別の電脳空間で行われている、羅呪祢(ロシュネ) と麗亜(レイア)も配置を終えたようだ。
これは直ぐ横のディスプレイにその模様が映し出されていた。

あっちは博打を行わず◎の地点は両者避けているようだ。

“それではこれより一回戦、
明雷鳴(アライナ) 高校 対 愛輝凪高校
恵芭守(エバス)高校 対 羅呪祢(ロシュネ) 高校
電脳サバイバルを行います。

スタート”

ロボットに近い女性の声で放送があった後、全員の姿が武器庫から消えた。
そして、各配置に転送される。

『ぅああああああああああ!!!!息が!!血が!!!ぁあああああああッ!!』

開始直ぐだった。
4の地点に飛ばされた、明雷鳴の会長スクウェアの悲痛な叫び声が響き渡った。
しかし、ディスプレイは濃い霧に包まれておりなにが起こっているか全くわからない。

あれは…もしかして、毒ガス?
あの◎の地点は毒の温床だったってことか…?
これはマズイ、いくら会長が毒が効かない体質だといってもあの濃度は半端ない。
俺は急いで会長のディスプレイを見上げたが、スクウェア同様、濃い霧が映るだけで全く変化が無かった。

まさか…あの、会長が…?

   [newpage]
【九鬼】

試合が始まった。
それと同時にチビメガネクンの声が無線で届く。

『左千夫!大丈夫か!?左千夫!』

左千夫クンがいた地点はD◎地点だ。
ここは即死の可能性があるって聞いていたので、今何かが起きている事には違いない。
そして、左千夫クンからの無線の応答が無い。
彼がそう易々とやられるわけがないので、放っておいても大丈夫だと思うが…指揮官のイデちゃんとボク以外はそう思っていないようだ。

『サチオどうした!俺行く!助けに行く!』

『待てエル。慌てるナ自分の持ち場を――――』
『行く!!』

一番最初に発狂し始めたのはエルだった。
心配していたことがこのままでは起きてしまう。
イデちゃんの言う事を聞かない奴がいれば、それだけでこのサバイバルゲームは失敗に終わるだろう。

『……クキ、エルを止めロ』

イデちゃんの起伏の無い命令が下った。
これでエルまで通信機能を失えば、あいつが動物の中で一番何をするかわからないだろう。

「りょーかい」

それだけ告げると最初に渡された紙の全体図に目を落とし、エルのいる方角を腕時計式になっている方位磁石で確認する。
今ボク達が持たされている物はアナログなものばかりだ。
そこがまたリアルにサバイバル感が出ていておもしろい。

南東の方角にいるであろう事を確認した後、泥濘の中を走り始めた。
地点ごとの距離は直進で1kmあるかないか。
もちろん森になっている上に足場も悪く、距離はもっと遠くなるだろう。
あまり目立った行動ができないのと、能力が使えないので自分の足を使うしかない。
ボクの地点からエルの地点までは、直進で距離的に2kmは離れている。
もちろんこの茂みの中じゃ、それ以上かかる可能性はあるだろう。
しかし一番近いのはボクだ。

足場の悪い地面を蹴り上げながら、全力で駆けていく。
あまり最初から体力は使いたくなかったんだけど、仕方ナイか。

   [newpage]
【エイドス】

スクウェアの悲鳴が無線から響き渡ったので僕は両耳を塞いだ。

「まったく、必要な情報だけ寄越して後は音声切って欲しいよね。」

横に居るローレンツに告げたけど、彼はなにも言ってこなかった。
それどころか、少し心配そうに眉間に皺を寄せてる。

「まーでも、スクウェアは次のコントローラーバトルで活躍するからいいや、死体の状態でゆっくり休んでてもらお。
ウェリントン、4番ってどんな感じ?」

「ちょっと待って。」

ウェリントンの声を届けるためにマイクのスイッチを押す。
すると返答が返ってきて直ぐに他のメンバーへと声を掛けて行った。

「うん。皆いい感じに敵とは鉢合わせになって無い感じだね。
多分イデアもD◎に誰か置いてると思うんだけどな…
ボストン、DからFそしてGに向かう感じで誰もいないか確認して、確認するだけでいいから。」

「うん、分かった。」

ボストンから手短に返事が返ってくる、この辺りはサバイバル演習をしている彼らはとーっても聞きわけがいい。
なので楽だ。

「ラウンドは無線の暗号解析と盗聴、勿論自陣を優先で、567の皆はその地を制圧後そこで待機。OK?」

「「「OK」」」

他の全員の無事が確認できると僕は椅子に座りなおした。
そして、ボストンの通信を聞きながら電子地図の上の駒をCへと移動する。

「こちらウェリントン、いま4番の傍まで来たけど……
ちょっと入るの無理、目で分かるほどの毒ガス地帯だよ。
それじゃあ、僕はこの場で待機するね。」

毒ガス…か…。

そういや神功左千夫は毒には抗体があったか?
いや、でも、可視できるほどの猛毒だ、流石にアイツでも全ての抗体を持っている訳ではないだろう。
持っていない毒があればヤツも死んでいる可能性が高い。

まぁ、そこはボストンに探らせるか…。

「ボストン、用心深くいって。もしかしたら、G地点に誰かいるかもしれない。」

僕はF地点へとボストンの駒を移動させながら彼に指示を出した。

[newpage]
【エル】

サチオが大変だ。
大変な事になっている。
一番近い俺が行くしかない。
助けなきゃいけない!!

しかし俺は道に迷ってしまった。
サチオのいる場所がわからない。
それどころかさっきから同じ場所をぐるぐる回ってるような…。

「サチオ……」

小さく彼の名前を呼んだ所で、木の上から誰か降って来た。

「サチオか!?」

「セーフ!間に合った!残念、クッキーでした♪」

「なんだクキか……」

サチオとは似ても似つかない人物に肩を落とす。
クキの足元はどろどろになっていた。
クキもきっとサチオを助けに来たんだ。

「クキ、サチオどこだ?助けに行こう」

「だーめ、今左千夫クンは忙しいんだヨ、それにエル、人の話を聞けって左千夫クンと光に言われなかった?」

「そんなこと今関係ない!サチオを助けるのがユウセンだ!!」

俺の言葉にクキが大きくため息をついた。
どうやらクキは俺を止めに来たみたいだ。
どうしてサチオを助けに行ってはならない?そんなのおかしい。

「……じゃあ、エル。君は左千夫クンと出会う前の左千夫クンを知ってる?」

「…??サチオと出会う前のサチオ?……知らない」

「ボクは知ってるヨ。
そりゃあもういろーーーーーんな左千夫クンをネ♪
だから、ボクの言う事、いや、イデちゃんや光の言う事聞いてくれたら、過去の彼の事をいっぱい教えてあげるヨ♪」

過去のサチオ…。
それは俺が知らないサチオだ。
知りたい。いっぱいサチオの事が知りたい。

「……わかった、言う事聞く…」

長い前髪の向こうにいるクキをじっと見つめながら深く頷いた。
クキはトランシーバーを出すと通信を取りはじめる。

「こちら九鬼―。エル、言う事聞くってさ、どうぞ」

『……エル、そこでひとまず九鬼と待機だ。いいな?
今度言う事聞かなかったら、左千夫に怒ってもらうからな』

「それは嫌だ!」

そのあとヒカルから「じゃあ僕とイデアの言う事を聞け」と言われたので、しぶしぶと返事をする。
まぁ仕方ない。
言う事を聞けば、サチオの事をもっと知る事ができるんだ。
俺ならできる!

「ん、じゃ、ボクとエルはG地点で待機――――」

トランシーバーを口に当ててイデア達と会話していたクキの言葉が止まった。
何故止まったのかは俺の本能でもわかった。

「ごめん、誰かいるみたい」

  [newpage]
【ウェリントン】

「こちらボストン。敵に存在がばれたみたいなので、一旦Fに引く。
G地点には二人、一人はエル、もう一人九鬼。
エルも九鬼も服に泥が付着。特に九鬼はかなりの距離を移動してきたと思う。」

「こちらウェリントン。7地点制圧完了。4は先程伝えたように毒で覆われていて人の気配なし。10も見た感じは人の気配なし」
「こちらフォックス。6地点制圧完了。9地点は人気配なし、3は僅かだが人の居る気配がする。」
「こちらオーバル。5地点制圧完了。8地点は先程まで人が居た模様、足跡を発見したがサイズは大きめ、今は気配なし、2地点も人の気配ありと言うか中央に紳士っぽいオールバックが地面を物色中、把握データから言うとチュマールと認定。」

全員が一定の口調で自分の周りの情報を流して行く。
情報伝達は速やかに特徴のない喋り方でが原則。

余計なことを喋ると指揮官が混乱するからね。
次の指示はなにかな…?
取り合えず今が一番落ち付いている時なので水分補給をしておこう。
水はかなり多めに持ってきた。
いつでも捨てることができるし。

僕はゴクゴクと喉を鳴らして水分を取る。

「こちらラウンド、無線機改良に成功。これよりボストンと無線機の交換を行う、ボストンのC地点への派遣を願う。」

「ああ。いいよ、ボストンそのままC地点に後退して、ラウンドと無線機を交換して。
より敵に近い方がいっぱい情報拾えるかもしれないしね、周波数の解析はボストンに任せるね、暗号が混じってるようならそれはこっちで解析するから」

「こちらボストン、了解、C地点に移動する」

司令官のエイドスとのやり取りが終わるとホッと一息を吐いた。
今の流れを聞くと、G地点にエル、九鬼、2地点にチュマール、3地点に誰か、その存在は間違いなさそうだね。
と、なると、きっと策略は…。

「ボストン、ウェリントン、フォックス、オーバル、君たちでエルと九鬼を挟み打ちしてくれ。
あ!特攻する必要はないからね。外からじわじわ追い詰めて?仕留められなくても体力を削ぐだけでも構わない。
それと同時に10.9.8.の制圧。僕からの指示は以上。また戦況に変化があったら教えて。
後、傍受出来た情報は逐一ローレンツが流すから耳を傾けてね。

それじゃ、作戦じっこー!!」

少年の声に近い機械音が耳を擽る。
こう言った呑気な指揮官もたまにはいいなと思いながら体育の鬼教官を思い浮かべる。

うーん、まぁ、皆、なんでか僕には優しいんだけどね。
僕は自分の小柄な体格に不釣り合いなライフルを肩から掛けまずは10番の地点に向かった。

  [newpage]
【光】

九鬼から「誰かいる」という通信が入った。
この誰かいる、というのは多分敵が近くにいるという事だろう。
まだこの「誰か」が一人だけであれば、こちらは九鬼とエルの二人なので、今は大丈夫だ。

イデアは瞬きもせずに電子地図を見つめたまま、すぐに言葉を落とした。

「相手はヒトリか?」

『今んとこそうみたい』

「位置がバレたな。
仕方ない、クキ、エル、人数が増える前に3地点まで戻レ。
なるべくソイツヲ撒くヨウニシロ。
今はサチオの動きをマツ。ソレマデムダな戦闘ハヨセ
順路は、FI98523…アタリデ行くカ」

『りょーかい、行くヨ、エル』

その後九鬼とエルは移動をし始めただろう。
僕達からはその状況はわからない。

この、こちらからサバイバルの状況がわからないというのはとてつもなく不安だ。
こういう指揮を執る人って、やっぱり心が無い方がいいんだろうな。
そう考えると、ヒューマノイドは適任だ。

左千夫も(裏)生徒会の会長として、こうやって指揮を執っているんだろうか。
僕も大人になったら、こんな風にカッコいい指揮官になりたい。
その勉強のためにも、イデアをしっかりサポートしなくては。

「チュマール、ライトニング、そちらはドウダ」

『こちらは異常無しです。四葉のクローバーが中々見つかりませんが……あ!あったああああああ!!ありました!!……でも小さいですね……』

『…デカイ声を出すな、クソネズミ…俺にも聞こえてんだよ…。
こっちは待機中~なんか近くに誰かいたみたいだけど、多分どこにいるかはバレてねーよ』

「了解シタ、二人はひとマズ待機。
チュマール、そのままクローバーを探しつつ、穴を掘レ」

『了解しました!』

……わかってはいたけど…。
ライトニング達がマイペースすぎる。
特にエルとチュマールが酷い。
多分僕が直接指示を出してもここはこの調子だろう。

「…リンの確認はとらないのか?」

「ああ、イヌならウマクヤルだロウ」

「…………そ、そっか…」

さっき「こんなカッコいい指揮官になりたい」って言ったけど…案外適当なんだな…。
それぞれの力をきちんと把握しているからかもしれないけど。
でも、何が起きるかわからない状況で、こんなに適当でいいのか?

電子地図の人形の位置を単調な動きで動かしているイデアを見つめ、少しだけ眉を顰めた。

  [newpage]
【天夜巽】

■■電脳サバイバル■■

“現在地”

「赤」 『明雷鳴高校』 指揮:エイドス
          A『ラウンド』
B          C            D◎【神功左千夫】
E          F『ボストン』      G
H          I 【九鬼】【エル】    J
 
10『ウェリントン』  9            8『オーバル』
7           6『フォックス』     5
4◎『スクウェア』 3【ライトニング】    2【チュマール】
           1【リン】
「青」 【愛輝凪高校】 指揮:イデアロス

―――――――――――――――――――――――
“エイドス卓上”

「赤」 『明雷鳴高校』 指揮:エイドス
             A『ラウンド』
B            C            D◎【○●】
E            F『ボストン』      G
H            I 【九鬼】【エル】   J
 
10『ウェリントン』   9            8『オーバル』
7            6『フォックス』     5
4◎『スクウェア×』 3【○】         2【チュマール】
             1【△】
「青」 【愛輝凪高校】 指揮:イデアロス

■未使用人形
【神功左千夫】
【ライトニング】
【リン】

○…人が居ると断定
△…人が居る気配あり
×…死亡
●…不確定だが戦力外
―――――――――――――――――――――――
“イデアロス卓上”

「赤」 『明雷鳴高校』 指揮:エイドス
           A『○』
B          C           D◎【神功左千夫】
E          F           G
H          I 【九鬼】【エル】  J
 
10          9           8
7           6          5
4◎『○●』     3【ライトニング】 2【チュマール】
           1【リン】
「青」 【愛輝凪高校】 指揮:イデアロス


■未使用人形
『ラウンド』
『ボストン』
『ウェリントン』 
『オーバル』
『フォックス』
『スクウェア』

○…人が居ると断定
△…人が居る気配あり
×…死亡
●…不確定だが戦力外
―――――――――――――――――――――――


俺達の見えるディスプレイの地図には全員の位置がきちんと配置されている。
そして、その下に各ヒューマノイドの卓上が示されている。
流石と言うか…エイドスの卓上は全て現実通りだった。
彼は優雅に椅子に座りながら、会長の駒を手に取り片手で遊んでいる。
その得意げな姿は人間そのものだった、勿論容姿もとても整っている。

『九鬼ならびにエルの逃走ルートは、FI98523だそうだ。』

ディスプレイでローレンツがそう言葉を落としている。
通信の傍受が成功しているみたい。
でも、イデアちゃんたちはそんなこと知らないんだよね。
すっごく教えてあげたいのに、ここからは見てることしかできない。

これってちょっともどかしい。

『そうなると、皆、分かってるよね?全員準備して。』

一斉に明雷鳴(アライナ)のメンバーが動き始める。
統制された動き、と言うよりも彼らはサバイバルに慣れているようだった。
くっきー先輩とエルの行く先を読むようにして罠を仕掛け、茂みに身を隠す。

「マズイですね…このまま行くと9の地点で挟みうちにあいます。
正直、光って小僧の動物たちの使い勝手が良くない上に会長がああでは…イデアさんも苦しいかと。」

日当瀬が那由多に向かって戦況を説明している。
確かにこのままいけば9地点で四方向を囲まれてしまう。

明雷鳴(アライナ)高校は進学校なのに、こんなに皆体力があるなんて。
いや、体力があると言うよりも戦い方を心得ているのかもしれない。

電脳空間と言えど人が傷付くのを見ることしかできないのは本当にもどかしいな。

 [newpage]
【九鬼】

今、Iから9地点へと向かっている。
人の気配は駆けている途中で消えたが、まだ油断はならないだろう。
エルは地面を跳ねながらボクの後を追ってきている。
ここら辺は人間になっても蛙という本能があるのだろうか、バテないかが気がかりだが。

「こちら九鬼、今9地点に到着、どうぞ」

『了解』

9地点に入った所で、方角を確認する。
このまま突っ切れば3地点まで行けるが、迂回進路なので方位磁石へと視線を落とし、8地点への進路を確認した。
が、その瞬間に全身に鳥肌が立つ。

左・右・前の三方向……そう遠くはない距離に、誰かいる。

ここは気づいていないフリをすべきか、まだ人の気配を感じない元来た道を後退すべきか。
……いや、きっとすぐに囲まれる。
三方向の全員の距離感が均等だ。
近くも無く、遠くも無い。
これは、計画的にここで待ち伏せし、ボク達を包囲した、という事だろう。

「エル、ちょっとスト――――」

足を止め、後ろのエルへと声を掛けようとした時だった。
エルを目がけて手榴弾が飛んでくるのが見えた。

「チッ……エル!屈んで!!」

「!?」

エルが屈んだのを確認すると、両の足に装着していたバトルライフルを片方手に取る。
屈んだエルの肩へと足をつくと、銃をバッドの様に構え、遠方へと飛ばすように弾いた。
まだ宙に浮いていた手榴弾は、飛んできた方向へと飛んだ数秒後、爆発した。
風圧で軽く後ろへと後退したが、そのまま体勢を立て直しエルの手を掴むと、止まらないように促す。
そうしている内に元来た9地点にも人の気配を感じた。

「こちら九鬼、おかしなくらい見事綺麗に囲まれてるネ。
距離はまだ空いてるけど、ボク達の位置はバレバレみたい」

無線でイデアにそう伝えると、少しくぼみのできた地面へとエルと一緒に伏せた。
エルも状況が本能的にわかったのか、ボクと反対側へと岩場から覗き込むようにして辺りを確認している。

「クキ、さっきのなんだ?爆発した!」

「さっきのは手榴弾だヨ、爆発に巻き込まれたら死ぬからネ」

「わかった!!」

こういう武器を見るのももちろん初めてなのだろう。
使い方は一応教わったみたいだが、実戦で見せてみないと理解は難しいか。

「あ、あんまりそこから顔出しちゃダメ――――」

「うわぁっ!!」

岩場から顔を乗り出そうとしているエルに注意を促そうとした途端に、銃声が響く。
岩から煙が上がり、それを見てエルは呆然としていた。
それを合図に四方からこちらに向かって銃が放たれ始める。
…エルを従えながらの銃撃戦は骨が折れそうだ。

「こちら九鬼、あんまりここでうだうだしてらんないかも」

ため息交じりにトランシーバーへと言葉を落とした後、弾が飛んで来た方向へとバトルライフルを構えた。

 [newpage]
【オーバル】

「フォックス、爆風の被害は大丈夫ですか…!!?」

『問題ない………元からそう言うことに備えて穴を掘って置いた。そこに身を隠したのだがら当たり前…ブツブツ』

「ですよね。なんたってフォックスですもんね!」

僕はオーバル。
本名は尾春花一。
フォックスは話しだすと長い。
別にそれは構わないんだけど、今は無線だから聞きとりにくかったりする。

とりあえず、九鬼ってのとエルってのは反射神経良好。

彼らは9地点の中央に居ると推測。

『こちらエイドス。敵は9地点中央だと推測。ボストン到着したか?』

『こちらボストン。I地点に到着』

『了解。それでは作戦を実行してねー。まぁ、ここは無理しない程度に!』

エイドスの声が無線から響いた瞬間ライフルを手にした。

「『了解』」

無線から声が響くのと同時に僕達は走り出した。
元より作っていた簡易な塹壕や濃くした茂みを利用しながら四方から一斉に九鬼達に近づいた。
彼らは只の岩に隠れているだけなのでこの四方攻撃は効くだろう。

そのときにひょこっと見えたヘルメットを狙ったんだけど。

「んー、当たらないですか…そうですか…」

攻め込もうかなとも思ったけど作戦的には戦力を削げたらって感じでいいみたいなので、僕はまた手榴弾のピンを引き抜いて彼らの頭上目掛けて投げた。
狙ったのは木。
破壊された木片が上手く落ちてくれればラッキー。
あの岩陰から出てきてくれたらもっといいけどねー。

 [newpage]
【エル】

『どうやら通信を傍受サレタヨウダな、少し待て、先に暗号形式にカエル』

無線機からイデアの声が聞こえる。
ツウシンヲボウジュ?よくわからないけど、多分俺達は今ヤバイってことか?
銃の操作はなんとなくサチオに教えてもらった。
岩から頭を出したら撃たれるんだな、隠れながら撃てばいいのか…。
人間ってすごいおもしろいことするんだな。

銃を触りながら色々と確かめていたら、何かがこちらに飛んで来た。
あれはさっきクキに教えてもらった、「シュリュウダン」っていうやつだ。
当たったら死ぬ。

しかしそれは俺の方角ではなく、真上の木の幹に飛んで行っていた。
あそこで爆発したら…木が壊れる。
そしたら、木は落ちてくる?
落ちて来た木は俺とクキを下敷きにする?

頭で考えが繋がったと同時に、俺は九鬼をタックルするように抱え上げた。

「うぇえッ!?」

「危ないから飛ぶ!!」

変な声をあげたクキにそれだけ告げると、両足を軸にし思い切り地面を蹴り上げた。
真上にあった木より高く飛び跳ねると、下で爆発音が響く。

「木、壊れた!下敷きになるところだった!」

「あ~……っていや!これじゃ狙い撃ちされるって!!」

身体が落下していくと同時に、クキが俺の肩の上で暴れている。
ネライウチ?どういう事だ?

『暗号化カンリョウ、クキ、そちらはどうだ』

無線機からイデアの声が響く。
俺はトランシーバーを口に当てると、こう答えた。

「今飛んでる!!」

[newpage]
【九鬼】

まずいな。
このままエルがボクを抱えて逃げ切れればそれでオッケーなんだけど、遠距離戦で四方を囲まれた状態じゃ多分無理だ。

落下しながらエルは呑気にイデアに返事をしていた。
もうちょっといい案考えたかったけど、最終手段しか無いか…。

『飛んデル?どういうイミだ』

イデちゃんから返事が返ってくると、エルのトランシーバーを手に取り返事をする。

「こちら九鬼!今から強行突破に移る!イデちゃん、新しい進路!」

『ナントナク状況はワカッタ……進路は先ほどと変更無し。3地点ではなく、1地点を目指せ』

「了ー解っ!エル、そのままボクの事抱えといてヨ!
なるべく弾は避けて…って言っても無理だろうから、着地したらソッコー右方向に思い切り飛んで!」

地面が抱えられたまま背中のバズーカを外すと、弾を一つ装填し、ひとつは口へと咥える。
そして、エルに飛べと言った反対側の方向へとバズーカを構えるように肩へと乗せた。

銃声が響き渡り身体の周りを掠めている。
ボク達二人の落下速度が思ったより速いので、宙に浮いている間はまだ致命傷は免れそうだ。

生い茂った木の間をすり抜けるように落ちると、エルの足が大きな音を立てて地面に着いた。

「ミギッ!!!!」

そう言いながらエルはボクの言った通りの方向へと両足を跳ねさせ飛び上がった。
構えていたバズーカの引き金へと指をあてると、飛び上がった方向とは逆方向に照準を合わせ一気に指を引いた。

   [newpage]
【エイドス】

『こちらウェリントン。
完全に四方を包囲完了。』

『こちらオーバル。
九鬼、エルの頭上の木を破壊―――ッ!!?
目標、跳びました。人間の常識を超える高さで落ちてくる木を突破。』

『こちら、ラウンド。
無線の内容が暗号化された。直ぐ解析を開始する。
ローレンツ手を貸せ。』

的確に状況を伝えてくるので指揮はとてもやりやすかった。
暗号解析は直ぐに終わるだろう、それを待つ間も無く僕は皆の声に耳を傾ける。

「とんだ?……うーん、エルってのは人間じゃないのかな。
それなら、キメラかな…?あっちには神功の研究所があるから何が来ても不思議じゃないし…。」

『こ、こちら、オーバル、九鬼のバズーカ所持を確認。
あ、危ないウェリントン!!』

『わぁあああ!!あ、危なかった…!な、なんであんな遠距離武器持って走ってんの?
こ、こちら、ウェリントン、怪我は無し。
引き続き銃での攻撃を持続―――。
オーバル気を付けて、そっちに、エルが九鬼を肩車したまま向かってる!タコツボに居るのバレるよ!!』

タコツボとは少し穴を掘っただけの壕のことだ。
確かにエルと九鬼となるとかなり高いところから見下ろされることになるな。
そうすると色々バレルと言う訳か。

「オーバル。その場所を放棄して、罠は仕掛けてあるよね?
Jに後退して、その後にまた追尾できそうな追尾。

愛輝凪は進路変わらず、1まで後退ってとこかな。
それじゃあ、深追いせず、4と1以外の陣地を全部、明雷鳴高校に染めようかな。」

『こここここちら、オーバル、ひぃ!んとに撃ってきたよぉ!!!……離脱しますッ!!うぉぉぉぉ!!!…流石バズーカ!爆風ヤバいっす!!
今、転がるようにJに後退ちゅっ、ぐふ!!』

オーバルの通信の最後に雑音が入った。
きっと木にでもぶつかったんだろうな。
ま、オーバルだったら大丈夫だろ。

僕は頬杖をついたまま、テーブルの上の駒を動かす。

「んー。つまんない。このまま占拠しといたら終わるよねー。」

はぁ、と、大きく溜息を吐く。
どーして、あんな木偶の坊が僕より気にいられるのか。

イデアロスの顔が頭に浮かぶと僕は一気に眉を寄せた。

 [newpage]
【九鬼】

「クキ!その武器凄い!みんなぶっとぶ!!」

バズーカの勢いとエルのジャンプ力で一気に強行突破した。
二度目に撃ちこんだバズーカの勢いが思った以上に強く、敵陣は引いたみたいだった。
やっぱり武器は派手なのに限るネ♪

このままの勢いで8地点を突破して、5、そして2のチュマールと一度合流か。

「こちら九鬼、強行突破成功☆
敵陣は今の所引いたみたい。このままさっきのルート通り行きマースどうぞー」

『了解シタ。
2地点にチュマールがイル。
穴を掘ってるダロウから気をツケロ』

「りょーかいっ!
エル、もう降ろしていーヨ」

エルに肩車をされたままだったので、ヘルメットを叩くと降ろすように指示する。
両足で跳ねながら茂みの中を突っ切るエルが、足を止めようと地面へ両足を着こうとした時だった。

右下方向。
調度エルの右足辺りで爆発音が響いた。

「――――――!!??」

その爆発の勢いでエルは横方向へと倒れ込んだ。
ボクは咄嗟に肩から離脱すると、前方へと転がりながら倒れたが、すぐに体勢を立て直す。

「エル!?」

「…………っ、あ゛ぁ……痛い……何が…あった……?」

エルは倒れたまま身を丸めるようにして、右足を押さえようと手を伸ばしていた。
その部分のズボンは裂け、血が流れ出している。
爆発のあった部分に、見えにくい透明のテグスのようなものが落ちていた。
……罠だ。

すぐ様エルに駆け寄ると、血まみれになったズボンを破いた。
足が吹っ飛ばなかっただけまだマシだが、この傷は軽傷ではない。

『クキ、ドウシタ』

「ごっめん、エル怪我しちゃった。これじゃ走れないし飛べないかナ…。
軽傷じゃないからちょっと止血だけしてからボクが担いで動くヨ」

自分の服の袖を破くと、エルの足の付け根へと巻き付けていく。
一応簡単な医療用キットは持ってはいるが、大量出血となると少し厳しいものがある。
とりあえず背中に備え付けていた小さな鞄から使えるものを漁った。

「……ごめんクキ……俺、迷惑かけてばっかり」

エルが蹲りながら小さく言葉を落とす。
一応迷惑って言葉も知っているのかと思わず笑ってしまいそうになった。
鞄の中から綺麗な厚手の布と、医療用キットから包帯を取りだす。ついでにボトルの水と。
そして、落ち込んだ様子のエルの顔に水を持っていくと、顔にどばっとかけてやった。
元々が蛙なので、エルは水が好きだ。
今元気にさせてやるのにも、言葉よりご褒美の方がいいだろう。

「そういうのはネ、最後全部終わってから言えばいーの」

それだけ告げると、エルの傷口へと視線を落とし止血を始める。

「……うん……わかった……」

弱々しい震えた声が、まるで小さな子供の様だ。
別にここで放置して行っても現実で死ぬわけじゃないから、死亡として離脱させてしまえばこんな手間はかからない。
どっちかと言えばエルは足手纏いだ。
でも、殺さなければいけない確固たる理由も無いし、多分そんな事をしたら左千夫クンに怒られる。
とんだ大きな子供を抱えてしまったな、と思いながら、黙々と手を進めて行った。

  [newpage]
【日当瀬晴生】

九鬼の野郎…あんな重いもん抱えて走ってたがったのかよ…。
それを持ち上げるカエルもたいしたもんだな。

場合によっては重すぎる武器を抱えて走るのは良くねぇ。
足跡がくっきりと残るからだ。

そんなことを考えながら見ていると“罠”と言う言葉が俺の耳に入る。
今、現状で戦況の無線のやり取りをきちんと把握できているのは俺だけだと思う。
雑音混じりでかなり聞こえにくいし、敵味方が別れて喋っているのが同時に流れてくるのでかなり聞き取りづらい。

俺がヤバいと思った次の瞬間だった。
エルの足元で手榴弾が爆発した。
ピンに貼ってあった糸にエルが足を掛けたんだ。
手榴弾の威力が小さいものだったのだろう足がぶっ飛ぶことは無かったが、あれはかなりの痛手だ。

『こちらウェリントン、8方向に爆発を確認、罠、作動しました。』

『りょかーい。それなら、そのまま全員で尾行して、仕留めれそうならよろしくねー。』

エイドスとか言うヒューマノイドの声が響いている。
全て暗号を用いて言っているので聞いているだけでは一般人にはチンプンカンプンだろうが、そこは政府の施設。
直ぐに暗号が解読されてテロップとして表示されている。

そして、俺は戦況のマップ図に視線を移した。

■■電脳サバイバル■■

“現在地”

「赤」 『明雷鳴高校』 指揮:エイドス
          A『ラウンド』
B          C            D◎【神功左千夫】
E          F『ボストン』      G
H          I             J
 
10          9『ウェリントン』     8『オーバル』
7           6『フォックス』     5【九鬼】【エル】 
4◎『スクウェア』 3【ライトニング】    2【チュマール】
           1【リン】
「青」 【愛輝凪高校】 指揮:イデアロス

―――――――――――――――――――――――
“エイドス卓上”

「赤」 『明雷鳴高校』 指揮:エイドス
             A『ラウンド』
B            C            D◎【○●】
E            F『ボストン』      G
H            I             J
 
10            9            8
7            6『ウェリントン』    5『オーバル』『フォックス』 
4◎『スクウェア×』 3【○】         2【チュマール】【九鬼】【エル】
             1【△】
「青」 【愛輝凪高校】 指揮:イデアロス

■未使用人形
【神功左千夫】
【ライトニング】
【リン】

○…人が居ると断定
△…人が居る気配あり
×…死亡
●…不確定だが戦力外
―――――――――――――――――――――――
“イデアロス卓上”

「赤」 『明雷鳴高校』 指揮:エイドス
           A『○』
B          C           D◎【神功左千夫】
E          F           G
H          I            J
 
10          9『○』        8
7           6『○』        5『○』
4◎『○●』     3【ライトニング】 2【チュマール】【九鬼】【エル】
           1【リン】
「青」 【愛輝凪高校】 指揮:イデアロス


■未使用人形
『ラウンド』
『ボストン』
『ウェリントン』 
『オーバル』
『フォックス』
『スクウェア』

○…人が居ると断定
△…人が居る気配あり
×…死亡
●…不確定だが戦力外
―――――――――――――――――――――――


イデアさんは現状を捕らえ始めているがそれ以上にエイドスの駒を動かす速さは早かった。
イデアさんはジッと何かを待つかのように地図を見つめていたが、重い口を開いた。

『クキ、エルを2に放置シロ、じゃないと、全員やられる。
エルは擬態だ。
チュマール、手榴弾を投げまくれ、とにかく煙幕を張れ。

エルは後で回収する。動くなよ。
ライトニングはその場で待機のままダ、エル以外が1へ待機シダイ、一気に引ク。』

おおお、流石イデアさん!斬新だぜ!
一気に1まで引いちまう作戦か…。
確かに不利にはなるが立て直すには良い。と、言うよりもイデアさんは会長を待ってるのか。
会長を映すカメラはいまだに動かない。
敵の死亡と推定しているスクウェアと全く同じ映りだ。

アイツがんなにはやくくたばるとは思えないが…待ってるだけ無駄な率の方が高ぇ…。
この情報を伝えられない歯痒さに、俺はグッと拳を握り締めた。

[newpage]
【チュマール】

うーん、中々素敵な四葉のクローバーが見つからない。
サチオ姫に似合う、麗しく広大な心を現すようなモノを探しているのだが……。

「うーん駄目ですね…」

どろどろになった顔を拭いながら穴から顔を出す。
私は汚れるのは大嫌いだが、サチオ姫の為ならどんな汚い仕事でも引き受けれる自信があった。
今も、彼の為に四葉のクローバー探しながら、穴を掘っている。
……ん?何か私は重大な事を忘れているような…。

はて、と顎に手をかけ考えた所で、イデアからの通信が入った。

『チュマール、手榴弾を投げまくれ、とにかく煙幕を張れ。』

はっ!そうでした!今私はサバイバルゲームの途中!
もちろん四葉のクローバーを探すのが最優先ですが、イデアの命令は聞けとサチオ姫にもヒカルにも言われていましたね。
集中してしまうとすぐに何かを忘れてしまうのは、悪い癖だ。

「了解しました」

それだけ告げると、腰に巻きつけた手榴弾を手に取る。
あまりこう言った下劣な武器は好きではないのですが、仕方ないでしょう。
ゴーグルをかけると、煙幕を張る様に手榴弾のピンを引き抜き放り投げて行く。
馬鹿でかい爆発音の度に、穴に入っては顔を出す、という行為を繰り返していた
そして爆発で巻き上がった砂煙の中を、一度ぐるりと見渡す。
その時だった。

「!!!!」

あんな所に……!四葉のクローバーが…!!

何故私は気づかなかったのでしょうか。
少し遠い所ではあるが、木の根元にそれはそれは大きな四葉のクローバーが生えている。
凛としたその姿は、まるでサチオ姫を見ているかのような……!!

私はじっとしていられなかった。
穴から這い出すと、そのクローバーへと駆け寄って行く。
そして、手で掬う様にしてそのクローバーを優しく丁寧に千切り取る。

ああ、とても麗しい。
サチオ姫もきっと受け取ってくれるに違いない。
なんと言ってくれるだろうか。
頬を染めながら、私に愛を誓ってくれるだろうか。
ああ!!そんな!!
滅相もありません!!
サチオ姫と永遠を共にできるのであればこのチュマール、恋人など贅沢な事は言いません!!
せめてあなた様の色々なお世話をさせていただくだけでいい!!

「ふふ……サチオひ…………」

手に取ったクローバーを見つめ、うっとりと微笑んだ瞬間。

私の頭に風穴が空いた。

 [newpage]
【オーバル】

『こちらウェリントン、地点は6。
木に登ったところ、6から2を狙撃出来るポイントを発見。
スコープを用いてもポイント2は煙幕が激しくどうなってるかは分からない。
目標を発見できれば狙撃する。』


ウェリントンは僕達の中で一番狙撃が上手い。
天使の様なウェリントンの声を聞きいているとスキップしたくなる…!!
そう、ウェリントンは僕達の女神…!!
そして、僕達全員が不可侵条約を結んでいる…!

女神を侵害しちゃ駄目だからね。
で、でも!いつか、僕に振り向いてくれると……!!

「ふ、ははははははははは!!!!!」

「ヒィー!!すいません!!すいません!!そんなウェリントンと不埒なこととか考えてません、考えて……って、え?」

フォックスが急に笑ったので僕は慌てて謝罪した。
でも、僕の頭の中がばれていた訳では無くて、いつもの急に笑う病が発生しただけだった。
なんだ、謝って損した。
その後にフォックスが「皆殺し、皆殺し…」と、ブツブツ言っていたので、きっと敵が近いんだろう。

『映った!こちら、ウェリントン。敵影を確認。先程と違う人物、よってチューマルと断定。
狙撃に入る。
目標、焦点合いました……3.2.1―――………。頭部に命中、即死率90%』

『よし、いけ。オーバル、フォックス。』

エイドスの声が無線から響いた。

「ハーイ!勿論了解でーす!いってきま……げほげほッ……すご……煙、凄ッ!!しかもなにこれ、穴も凄!タコツボこんなに必要ないじゃん!」

俺とフォックスは同時に2の地点に突入した。
そこは5とは比べ物にならないほどの煙の量で、態と煙幕を張ったのだろうか。
罠が作動したので血のにおいがしてもいいと思ったんだけど、粉塵や火薬のにおいのせいで全く分からなかった。
取り合えず、俺は近くの木に隠れようと思ったんだけど、その時に穴に足を取られた。

タコツボ…弾避けの穴かっと思ったけど、それにしたって多すぎる。
トラップかなとも思ったけど、特に変わった様子は無かった。


…………分からない。


「こちらフォックス。2地点は煙で全く前が見えない上、無数の穴が存在している。ただ、チューマルの死体は発見。動きは今のところ無い。」

横のフォックスが現状を報告していた。
ここはきっと待機でゆっくり進んで行く感じだな。
間違いなくエルは僕の罠で怪我をした、なら、そんなに速く進めないだろう。
肝心の仲間もウェリントンが殺った。ここは、急く必要はない。

『それじゃあ、気を付けながら進めるだけ、すすんでみて?無理はしないよう。』

「ですよね~、流石エイドス様!」

無線だから見えないと言うのに俺はごますりをしてします。
これは癖だから仕方ない。
そして、ゆっくりと進み始めた。

[newpage]
【光】

……チュマールが死んだ……と思う。
左千夫の名前を呼んだ後、何かが倒れる音とそれから通信が通じなくなっている。
電子地図に視線を落としているイデアは、最初は何度かチュマールの名前を呼んだが、応答が全く無いので、死んだと確定したのだろう。
チュマールの駒を弾き飛ばすと、壁にぶち当たってそれが割れた。

お、怒ってる…?
いや、ヒューマノイドに感情は無いはずだ。
怒ったりとか、そんな事はないと思う。
見た目ではわからないが、なんとなく機嫌が悪いような気がする。
多分それは、僕がそう思っているからそう見えるだけなんだろうけれど。

「クキ、チュマールは死ンダ、そのまま1地点までイケ。
ライトニングも1地点マデ後退。リンと合流シロ」

『りょーかーい』
『了解ー』

二人の返事が返ってくると、イデアは九鬼とライトニングの駒を進めた。

「……思った以上に、役立たずだったね…ごめん。
もっと僕がちゃんと言い聞かせてれば…」

「気にスルナ。チュマールが帰って来たラ、死ぬヨリツライ地獄を味あわセテヤル」

こちらに振り向く事なく、起伏のない声で言葉を落とすイデアは怖かった。
死ぬより辛い地獄って……思わず研究所の事が頭を過った。
いや、イデアならなんとなく僕が思っている以上の苦痛を与えそうだ。

それにしても本当にチュマール、そしてエルが役に立っていない。
僕が指示をきちんと与えて、それを聞いて貰えるように育てなければ、左千夫にも悪い。
後はライトニングとリンか…。
二人なら大丈夫な気がするけど、イデアはさっきからリンの行動はほったらかしだ。
それ以前にこちらは全く成果を出せていない。
それに左千夫の事もすごく気になる。

大丈夫なのかな……。

込み上げる不安を押し殺しながら、眼鏡を押し上げた。

[newpage]
【エイドス】
“エイドス卓上”

「赤」 『明雷鳴高校』 指揮:エイドス

             A『ラウンド』
B            C               D◎【○●】
E            F               G
H            I               J
 
10            9               8
7            6               5
4◎『スクウェア×』   3『ボストン』『ウェリントン』 2【チュマール×】【エル】『オーバル』『フォックス』 
             1【九鬼】【ライトニング】【○】
「青」 【愛輝凪高校】 指揮:イデアロス

■未使用人形
【神功左千夫】
【リン】


○…人が居ると断定
△…人が居る気配あり
×…死亡
●…不確定だが戦力外
―――――――――――

ま、僕にかかればざっとこんなもんだ。
僕には感情プログラムというものが組み込まれている。
なので、研究者の間では僕に対する評価は様々だ。
イデアには感情プログラムは組み込まれていない、これを冷静に物事が判断でき、優れていると称する研究者もいる。
と、言うか、ふざけていることにその方が多い。

僕はできそこないの人間だと奴らは罵る。
そこらにいる人間よりも僕の方が数百倍賢いのによく言うよね。

1以外の拠点。
すなわち、ABCDEFGHIJ1098765432は全て明雷鳴高校が制圧した。
これはもう勝ったも同然だろう。

『こちらウェリントン、1地点にライトニングと思わしき後ろ姿が入っていく姿を確認』

『こちらオーバル、す、すいません!エイドス様!九鬼、エル完全に見失った模様!確認できる範囲では2地点人影はありません!
本当に、クズで申し訳ないです!!ただ、まだ煙は完全に晴れてません、というか木が鬱蒼とし過ぎていて完全に晴れるのは無理そうです!』

「こちら、エイドス。オーバル、フォックス、多分その地点にエルが居る、ただ深追いは必要ないよ。自害されて巻き込まれたら困るしね!
なので、1地点を注意しつつ待機。もし、何かが動く気配があれば遠慮なく手榴弾投げてね。
ボストン、ウェリントンも待機。ラウンド、ちゃんと休めた?」

『こちらラウンド、休息は取った。』

「もう少し休んどいてだいじょうぶだよー。」

きっとイデアは僕がこの勢いに乗って1を攻めると思ってる。
でも、そんなことはしない。
1の旗を取らなくても明日の正午まで時間稼ぎするだけで僕らは勝つ。
4地点は使えないんだ、それならば3と2を守るだけでいい。

イデアのプログラムは優秀だ、とんでもない作戦を考え付くことは知っている。
だけど、それはこちらが動くからの話だ。
動かない、その選択肢を取れば彼らは何も出来なくなる。

「取りあえず、簡単な罠の設置はお願いねー。」

この時の僕はほぼ勝利を確信し、手の中駒を回していた。

 [newpage]
【リン】

こんな物かな…。

粗方仕掛け終わった罠を木の上から見渡す。
イデアから特に指示が無いので、黙々と罠を張る作業をやってたんだけど…。

その間にエルが負傷して、チュマールが死んだ。
元々彼らはこういった事に慣れてないだろうし、「生の戦闘現場」を見てきてないので良く分からない事も多いんだと思う。
僕はご主人様とずっと一緒にいたから、闘う感覚と言うのがなんとなくはわかる。
もちろんそれは野生で培われた物ではないけれど、人間の闘い方は嫌ってほど目にしてきた。

ぼけっと木の上で三角座りをしながら、ご主人様とライトニングが来るのを待った。
すると、遠くから茂みをかき分けてくる音が聞こえた。
この足音の感じは知っている。
ご主人様が来た。

木の上から下の様子を覗き込むと、調度僕が張った罠の前に二人が立っている。
あ、そこちょっとマズイな。

「リーン来たよー」

「あいつどこだ?気配全くしねぇぞ、逃げたか?」

ご主人様とライトニングが1地点へと侵入してくる。
だめだめ、ご主人様、そこは……。

声を出そうとした瞬間に、罠が作動した。

張り巡らされた糸にご主人様とライトニングが引っ掛かる。
そこは確か、捕獲用の罠だったかな。

「!!!!」

二人のいる地面から網が出てくると、咄嗟に二人は飛び退くように後ろに下がった。
さすがご主人様、反応が早い。
でも逃げる事を予想して、後方の位置にも罠が張ってある。
割と浅い落とし穴だけど、地面に地雷を埋め込んでいるので、落ちたら多分死ぬ。

「二人ともー危ないよー。
左横の木に飛び移った方がいいかな」

僕が木の上から小さく声を出すと、耳のいいライトニングがすぐに上方を見上げた。

「てっめ!声かけんのおせぇんだよ!!
つーか喋れんのかよ!!!!」

ライトニングは機嫌悪そうに告げながら、ご主人様を抱きかかえるようにして、横の木へと乗り移った。
しなやかな身のこなしは、さすが猫だなぁ。

「リンが罠張ったの?偉いネ!」

サバイバルゲームが始まって久しぶりに見るご主人様の顔に、自然と笑みが零れる。
褒められると思わず、ワンッと吠えてしまった。
人間の言葉を喋るのは簡単だけれど、どうしても犬の時の癖が抜けないな。

 [newpage]
【ライトニング】

あー!!!!!
よく見ると罠だらけじゃねーか!!
しかも、かなり高度ときてる。
こうなると見つけるの大変なんだよな。

「おい、リン!罠の場所、教えろよ!!」

しかも九鬼は結構重い、その体を抱えたまま木の上に登るのは骨が折れたので途中で枝の上に押し上げる。
そして、俺もその横へと登った。
そうすると隣の木にリンが居た。
また、犬のように、ワンと言いながら尻尾振ってるけど、こいつ今喋ったよな…。

こいつの主人は主人で罠に掛って死にそうになってんのにリンの事褒めてやがるし。

その時だった。
1地点の入口から爆発音がした。

「うぉおお!!罠か!!ビビった。」

どうやら敵がリンが作った罠を発動させたらしい。
しかし彼らも俺達同様に罠を避けやがった、このサバイバルと言う戦いに慣れているだけはある。
チュマールやエルとは大きな違いだ。

直ぐにリンが銃を構えたけど、敵は一目散に退避していった。
どうやら、今直ぐに特攻と言う訳では無いらしい。

「おい、リン、無闇に撃つなよ。
てめーが仕掛けた、鬱陶しい罠が壊れる。」

リンが仕掛けた罠が鬱陶しいことに変わりはないが、ここのポイントを制圧されれば終わってしまう。
なら、この仕掛けた罠を有効活用するしかない。

と、思った矢先だった。

ドーン!!!!!とけたたましい音が鳴り響く。
その方角を見たが人影は誰も無く、地面に大きな穴があいているのみだった。
そして、リンが作った罠が破壊されている。

これは…間違いなく敵が手榴弾を投げてきた。
そして、直ぐに下がったのだろう。
なるほど、アチラさんは長期戦を仕掛けるようだ。

「こちら、ライトニング。3人そろったぜ。で、ここは罠だらけなことに敵も気付いた。
んで、今、手榴弾放り投げては、下がるを繰り返してやがる。
どうすんだ?」

特にいい案が浮かばなかったのでヒューマノイドに指示を仰いで置く。
なんたって、あそこには光も居るからな!
俺の強い味方だ!

 [newpage]
【光】

ライトニング達が合流した。
ここは安心して見守っていられるけど、それ以上にイデアの作戦が気がかりだった。

「何トカ攻撃ハ耐えろ。罠を崩すのニモ時間がカカルだロウ。
その場で待機。この指示は変えるナ。
エル、そちらの状況はドウダ」

慌てる様子も無く、ライトニング達に「待機命令」を出すと、エルへと通信をする。
こちらをちらりと見て来たので、多分イデアにはゲコゲコとしか聞こえてないんだろう。
動物時の声を通訳できるのは僕しかいないので、インカムへと耳を傾けた。

「…大丈夫、状況変化無し。…湿った地面に今いるから、気持ちいい…って…」

「了解。エルもその場デ待機。
これから先おマエは無線ノ電源ヲ切っテオケ。音で位置がバレるからナ。」

イデアは淡泊にそれだけ返事を返す。
だ、大丈夫なのかな。全員待機命令って。
今攻め込まれそうになってるのは1地点。即ちここを落とされたら僕らの負けだ。
ここからどうやって巻き返すつもりなんだ?
僕から見たら今の状況は劣勢としか思えない。
それなのになんで動かない?

心臓がバクバクと早くなっていき、目頭が熱くなってくる。

僕達負けちゃうのかな。
きっと僕のせいだよね。
もっとエルやチュマールが使えてたら、こんな事にはならなかったと思う。

そんな時に無線機の向こうからけたたましい爆発音が聞こえてきた。
身体がビクリとその音に反応すると、いよいよ目尻に涙が溜まり始める。
ああ、駄目だ。
僕は自分の思考から逸れた状況になると、つい泣いてしまう癖がある。
必死でそれを堪えながら、電子地図に視線を落としているイデアへと声をかけた。

「イ、イデア…作戦変えない?
このままじゃライトニング達やられちゃうよ…!
九鬼って強いんだろ?あいつならなんとか今の状況を――――」
「次期に夜が来ル。
攻め込まれナイようにだけ気をつケロ。
それまで体力を温存スルようニ」

完璧に無視された……。

ああ、どうしよう左千夫。
僕、どうしたらいいのかわからないよ…。

 [newpage]
【ウェリントン】

総攻撃で潰してしまうと思ったけど、違うんだ。
感情を持ったヒューマノイド、でも、なんか思ったより保守的。
でも、こういうサバイバルでは何が正しいかなんて分からない。
結果が全て、そして、指揮官に従うことが最優先。

それにしてもいつもはエアーガンだから実弾が入った銃は緊張する。
重さとか、そう言うのは本物に合わせて作られてるから大丈夫だけど。
この、電脳空間と言うのが本格的に採用されたら僕達の体育はこれになるんだ。

考えるだけで少し気が重くなった。
まやかしだって分かってるけど人を撃つのは気が引ける。
特に僕が得意なのは遠距離射撃だから自分が傷つかず、機械に頼って攻撃してる。
人を殺した感覚が少ないんだ。

確り自分で意識するようにしてるけど。

「おかえり、ボストン。敵の基地はどうだった?」

「たっだいま~。うーん、凄い罠なんだよね。
しかも木の上に居るのか、土の中に居るのか、はたまた藪の中に居るのか、敵の姿は見えないよ。
だから、余り近づけない、次はまた10分後に手榴弾投下だね、それまで休んでていいよ。
攻め込むとしても日が暮れてからだろうし、もしかしたら、それも無くてこのまま待機し続けるかもしれないしね。」

「うん、ありがとう。」

ボストンが携帯食料を僕に差し出してきた。
この中では僕が一番小柄なので迷惑を掛けない様にしないといけない。
こういう殺伐としている時はやっぱり仲間の声が安心できる。

「オーバルの奴、さっき罠に引っ掛かり掛けて、騒いでたよ。アイツらしいよね。
フォックスは相変わらずなのかな…。
それにしても、地点の2ってまだ、エルって奴が潜んでるかもしれないんだろ?
しかも、煙で視界も悪いままらしいし、大丈夫かなー、あの二人。
まぁ、エルって奴は負傷してるからそんなに動けないかな…。」

「うーん…、でも、あの二人が見つけれないなら能力かもしれないよね。
身体的なのは使っていいんでしょ?
あ、でも、あっちの、リンとエルとチュマールとライトニングってなんかキメラ…?とか、エイドス君が言ってたよね。
ってことは、動物的な何かもあるのかなー。
エルって子、あの大きい九鬼って子を担いでたし。

まぁ…、陣取り合戦だから敵を深追いする必要はないよね。
現地点で僕達の方が沢山陣地を取ってる訳だし、このまま維持でも十分だよね。」

僕はにこっとボストンに微笑みを向けた。
なんだか、顔が赤くなった様な気がしたけど、彼は水筒に口をつけながら頷いていた。
そろそろ日が暮れる、辺りが暗くなり始めてきた。
また、戦況が変わる前に休もうと僕は木に凭れかかった。

  [newpage]
【千星那由多】

うーん。
サバイバルゲームだと思えばまだ指揮に従っていれば大丈夫だけど、これを現実で行わなければいけないのが辛い。
しかもゲームと違って一度やられれば死ぬわけだし。

画面を見つめながら今の状況を眺める。
俺から見ても今の状況は劣勢だ。
このまま1地点を攻め込まれたらアウトだし。
だけどイデアは副会長達に待機命令しか出していない。

こちらの時刻は19時に差しかかろうとしている。
画面の横に表示されている時間も同じ時刻を示しているので、サバイバルゲームの中の時間もこちらと同じみたいだ。
こっちの外の景色は真夏なのでまだ明るいが、サバイバルゲームの世界はだいぶ辺りは暗くなっているようだった。
それでなくても木の茂みなどで相当暗いとは思うが。

このまま均衡状態が続くのだろうか、と思った所で料理が運ばれて来た。
調度腹も減ってたのでありがたい。
しかし、バーチャルと言えど画面上で人が死ぬのに……肉料理だった。
そこらへんの配慮はないのか…。

溜息をつくと、ナイフを分厚いステーキに刺しこみ、再び画面へと視線を映す。

副会長達の状況が映っている画面の横には、イデア達の状況が見える。
そちらへと視線を移すと、光の様子が明らかにおかしかった。

『ね、ねぇ、やっぱり、イデア、作戦を変えよう!
ライトニング達にはちゃんと指示を出すし、あいつらなら今の状況を変えてくれるよ!
ね、イデア……』

光はさっきから数分ごとにこの言葉ばかりイデアに伝えている。
俺も作戦を変えた方がいいと思うが、イデアは光が何を言ってもフル無視だった。
泣きそうな光の顔が画面に映る度に、あいつの補佐は大変だろうな…と気の毒に思ってしまう。
俺だったら自分から補佐断ってるな…。

それにしても、イデアはこのまま動かないつもりなんだろうか。
何か策があるとは思うけど……どこかで打開しなければ今の所勝ち目があるようには思えない。
イデアとは正反対に、エイドスは余裕そうな表情を浮かべている。
いや、元々イデアには表情ってものがなかった。
だから余計に何を考えてるのかわからない。
切り終えた肉を口の中へと運び、光のイデアを呼ぶ声を聞きながら、じっと画面を見つめた。

 [newpage]
【エイドス】

「うーん、どうしよっかなー。
攻めて、失敗して変に駒を無くしても困るしー。
武器も特殊なものはなにも用意されてないしー。
細菌兵器とかあったら即占領だったんだけどな…」

最後の決め手が無い。
何て言ったってあっちの1の地点には九鬼が居る。
僕は九鬼の強さだけは認めている。
だって、オースタラで一緒に戦ったから。
その時の彼はお世辞抜きで強かった。

単純に駒の戦闘力だけを取れば僕の駒よりも九鬼の方が上だ。
そこで必要になるのが作戦なんだけど。
それにしても、あんないい駒持ってるのに使わないなんて勿体無いなー、イデア。
感情が無いだけじゃなく、知能も無いんじゃないのって思えちゃう。
あー、…どうしてマスターはアイツがあんなにも好きなんだろ。

僕の手の中に有った、神功の駒がミシっと音を立てて砕け散った。
あーあ、やっちゃった。
どうしてもマスターのことを考えるとこうなる。
ま、いいや、神功もこれだけの時間経過しても出て来ないってことは死んでるだろうし。
もし、違う地点に潜んでるとしても動くのはもう少し後だろうし。
ここで感情に任せて1は攻めて上げないよ、イデア。

「ボストン。そろそろ、手榴弾尽きてきたでしょ?一回A地点まで戻ってラウンドと交代して。
ラウンドは、ウェリントン、オーバル、フォックスの分もちゃんと用意しといてねー。」

『こちらラウンド、既に完了している。』

『こちらボストン、今から直線距離で戻るね。』

ま、手駒の戦闘能力では劣るけど、戦闘経験では確実に勝ってるもんね。
本当に使いやすい駒だよ、皆。

僕は頬杖を付いたまま笑みを浮かべた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

兄になった姉

廣瀬純一
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

奇妙な日常

廣瀬純一
大衆娯楽
新婚夫婦の体が入れ替わる話

処理中です...