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isc(裏)生徒会
地区聖戦決勝開始
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[chapter:【ISC(裏)生徒会】80話「地区聖戦決勝戦開始」】]
【千星那由多】
次の日、いつも通り(裏)生徒会は集まった。
そして、会長の言っていた俺の活躍の場、の意味がわかることになる。
決勝で行われる「コントローラーバトル」のことだ。
言わば実在する人を格闘ゲームのように動かし闘うと言った内容だったが、確かに俺が適任と言えば適任だった。
ただ、実際ゲームを動かすのと、生身の人間を動かすのとでは全く使い勝手が違う気がする。
コントローラーに使用するものはなんでもいいと言われたので、いつも使っているゲーム機のコントローラーを使用することにした。
訓練施設でそれを特殊な装置と繋ぎ、使用できるようにする。
俺は画面に映し出された映像に視線を向け、イヤーモニターを付けるだけでよかった。
ちなみに今、画面に映っているのは会長だ。
…そう、俺は生身の会長をゲームのキャラクターのように動かさなきゃならない。
ちなみに今は練習なので、継承式の時のようなバーチャル世界を使用している。
だからこの画面にいる会長は本物であって本物ではない。
『操作は説明した通りです、とりあえず普段通り格闘ゲームをやるようにやってみてください』
そう言われたので小さく頷いた後、コントローラーの十字キーの左を押すと、その通りに会長は動いた。
本当に俺が操っているんだと思うと、なんとも変な感覚だ。
『そんな感じで大丈夫です。
では、十字キーの上を押した後、Aを二度連打してください』
「は、はい……」
『そうすれば、腕が外れてしまいます』
「!!??」
会長のその言葉に、十字キーの上を押し、Aボタンを押そうとしたところで思いとどまった。
あ、危なかった……!!
『あくまで那由多君が扱うのは生身の身体です。
ゲームのような無理な動きをこの身体ですれば、大怪我をすることになります。
その加減はプレイヤーにかかっているので、注意してください』
「……わ、わかりました……」
いや、いやいやいや、これは中々難しいぞ。
コントローラーバトルはゲームだけれどゲームではない。と言われているようなものだ。
それって結構な無茶ぶりだよな…。
『できますか?』
続いて落ちて来た会長の言葉に、俺は息を飲んだ後、画面の向こうにいる棒立ちの会長を見つめた。
「頑張ります……」
もちろん、そう返すことしかできなかったわけだが。
[newpage]
【神功左千夫】
「今は僕はバーチャルに身を置いているので好き勝手して貰って構いませんよ。
腕が外れようが死のうが現世には関係が無い。
そして、僕はバーチャルダメージの回復は早い方なので、気にしないでください。
ただし、本番はバーチャルでは有りません。
現実に行うことになりますので、それだけは肝に銘じておいてください。」
人を信号で動かすのは大変だ。
しかも、人それぞれで筋肉の付き方などもことなるので何人もこの数日で会得するのは難しいと思い、僕は那由多君の駒には九鬼と僕を選んだ。
「HPは体力ゲージになります。
これが、0になれば戦闘不能です。
後、接続により特殊な効果が発動します。
それは君の能力を操作する人間一人が扱えると言うことです。
九鬼は元から派手なので、那由多君の能力は僕がしようさせてもらいます。
そうすれば、僕は幻術と共にリアルな自然現象を使えることになりますからね。
後、特殊技もいくつかあります。
ゲージが溜まらないと解放できない技もあります。
那由多君に渡した資料のコマンドは基礎コマンドだけなので後は自力で見つけてください。」
後は那由多君次第だ。
僕が出来ること言えばこの身を差し出すことくらいだろう。
九鬼にも一緒にバーチャルに降りて来て貰っている。
巽君と晴生君は別メニューだ。
彼らにもそろそろもう一皮剥けて貰わないと雲行きが怪しくなってきた。
「さて、手合わせと行きますか。九鬼。
まずは素手でお願いします。
練習とは言え、貴方に殺されるのは嫌なので。」
本当はぼこぼこにされるのも嫌なのだが。
そこは仕方が無いので目を瞑ることにした。
九鬼は今はまだ、コントローラーとリンクされていないので普通に動いている。
僕だけが那由多君の指示を待つように棒立ちだ。
ただ、ゲームが始まると自然とファイティングポーズをとってくれるのでそこだけは助かっている。
それにしても…。
那由多君はコマンド入力ははやいほうだと思うのだが、なぜか違和感を感じる。
傾げたくても傾げられない首を持て余しながら九鬼から来た拳を僕の右手は払った。
[newpage]
【九鬼】
左千夫クンがいつもと違う動きをしているせいか、面白い。
それなりに操作はできているようだし、なゆゆも少しは役に立つな。
規則的な攻撃をしかけつつ、手はそれなりに抜いている。
が、これならもう少し本気を出してもいいかもしれない。
「よっ」
左千夫クンの拳が伸びてきたのをかわすと、彼の横へと移動する。
足払いをするように地面へしゃがみ込むと、高くジャンプした。
元々左千夫クンの身体能力の高さもあってか、行動範囲は広いようだ。
そのまま彼を追うように地面を蹴り上げると、身体を捻り彼の腹部へと少し強めに蹴り込む。
ガードの体勢を取ったまま後ろへと飛んだが、空中で体勢を立てなおすと、足を地面に擦りながら着地した。
間髪入れずにこちらに飛び掛かってくると、突きやら蹴りを繰り出し始める。
「お、うまいうまい、中々いいヨー」
暫くその繰り返しを行った所で、距離を取った。
「ゲージが溜まったようですね。
那由多君、必殺技を使ってみましょうか」
『はい』
なゆゆが返事をすると、左千夫クンの身体から覇気のようなものが発せられる。
赤い瞳が金色に変わると、たなびく黒い髪も同じように金色に染まった。
おお、ゲームっぽい。
この必殺技が何かをボクは知らない。
生身なら下手に攻撃をしかけるわけにはいかないが、今は特訓も兼ねているので、敵役のボクが突っ込むべきだろう。
間合いを詰めるように左千夫クンの元へと走り込むと、割と本気で拳を突き出す。
「あれ?」
目の前にいた左千夫クンがいない。
すぐに視線を横へとずらすと、そちらに移動している。
先ほどとは比べ物にならない程速い。
間髪入れずに彼に向かってかました回し蹴りも当たる事なく、空を切った。
また消えたと思った左千夫クンは、宙に飛んでいる。
「はっや!」
辺りの風を巻き込むように落ちてきたかかと落としを避けようかと思案する暇もなく、両手をクロスし受け止めることしかできなかった。
[newpage]
【神功左千夫】
僕とは考え方が違うせいか動き方は違う。
でも、これはこれで面白いし勉強になる。
僕、こんな動きも出来たんですね。
でも、いつもと少し感覚が違う。
やっぱり電気信号の伝達を感じてから体が動いているからか。
それでもこれだけの動きが出来れば十分だろう。
そう思っていたがそれは必殺技が繰り出された瞬間に吹き飛んだ。
僕が思ったままに体が動く。
そして、どんどん九鬼を圧していった。
視線の前にちらつく金色の髪は気になったが、那由多君が動かすままに僕は動くので思考なんて関係ない。
僕の必殺技は「反射」で動けるようになることだろう。
これなら、何のストレスも無く僕は那由多君に動かして貰える。
僕の踵落としで九鬼の腕がミシっと撓ったのは快感だった。
その時僕がほくそ笑むように口角を上げてしまったので、九鬼のスイッチが完全にはいったのは言うまでも無い。
「ぎ!ギブです!!副会長!!俺……もう、目が…!」
上方から那由多君の声が響いてきた。
かれこれ数時間戦いっぱなしだった気がする。
勿論僕も九鬼も肩で呼吸を繰り返しているので丁度いいころ合いだろう。
「それでは、一度休憩をはさんで次は九鬼を動かしてみてください。
僕が相手をしますよ。
次は武器、能力を使用してみましょうか。」
イデアに視線を送ると、送信機と受信機のリンクを切って貰った。
グーッと伸びをして肩を回す。
やっぱり自分で動くのが一番いいと思える瞬間だった。
「それにしても…良く見えますね…那由多君」
彼の動体視力はそんなに良くない筈だ。
それがゲームとなるだけで変わるのだろうか。
僕はガラス窓の外に居る那由多君を見つめ小さく息を吐いた。
これでこの競技も何とかなりそうだ。
[newpage]
【千星那由多】
それから決勝が始まるまでの間、俺の修行は殆どコントローラーバトルに費やされた。
指に豆が出来るほどコマンドを打ちこんだが、珍しく楽しく感じる事ができた修行だったので、さほど苦にはならなかった。
初めて褒めてもらえたし、気分もよかった。
もちろん疲労は蓄積されていたが、それは俺だけではないだろう。
地区聖戦決勝の参加校は、俺達「愛輝凪高校」「麗亜高校」「明雷鳴高校」「羅呪祢高校」の四校だ。
麗亜高校はもちろん何度も顔を合わせているので知っているが、明雷鳴高校の事は資料を貰っただけなのでよく知らない。
全員眼鏡をかけてるってのが印象的だった。
そして一番注意すべきなのは羅呪祢高校だろう。
そこには十輝央先輩もいるし、なにより恵芭守と幸花を酷い目に合せた奴もいる。
今回俺はそれなりに期待されているんだ。
皆を裏切らないように頑張らないと。
予選の時みたいに、足を引っ張る訳にはいかない。
思えば長いようで短かったな。
夏休みももう半ばまできている。
すっかり俺はこの非日常になじんでしまった。
「…頑張ろう……」
自分の手にできた豆を見ながら、俺は静かに決意を固めた。
こんな非日常、昔の俺だったら嫌で嫌でたまらなかったんだろうな。
そして20日。
「地区聖戦・ラディエンシークルセイド決勝戦」が幕を開けた。
[newpage]
【日当瀬晴生】
「地区聖戦・ラディエンシークルセイド決勝」が始まる。
今は開会式と言う、面倒なものが取り行われている。
と、いっても政府の重役どもは顔を出すのが嫌なのだろうか、大体はヒューマノイドが全て行っているが。
予選と違って隔離施設に行くことになり、しかも、一度はいってしまうと決勝が終わるまでは出ることが出来ないらしい。
開会式が終わると割り振られた部屋に向かうことになった。
「今日はこのままフリーだとよ、どうすんだ、会長」
「そうですね、まずは部屋で身支度をしてから明日の会場の下見に行きましょうか。
見れる場所と見れない場所があるとは思います―――」
「久しいな、ライバルたちよ。」
どこからともなく聞こえてきたのは麗亜高校の会長、鳳凰院しのぶの声だった。
「やぁ、二位通過おめでとう。
我が校との対戦は明日だな、その時はお互いに尽力をつくそう」
ここでも派手な帽子を被った麗亜の会長は、俺達の会長へと握手を求める様に手を差し出していた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
「そう言えば、羅呪祢(ロシュネ) 高校には神功さんのお兄さんが出てらっしゃるのですか?」
「………はい」
副会長の西園寺櫻子の言葉に会長は少し視線を落とした。
神功十輝央に関してはいまだいい手が見つからないのだろうな。
確かにあの側近の錦織の能力は厄介だ。
「…僕がこんなことを言うのはおかしいのですが、くれぐれも羅呪祢高校には気を付けてください。」
「噂でしたら、こちらまで届いてますよ。
あの、恵芭守を打ち破って決勝に来たんだとか。
そうであっても、麗亜高校は正々堂々と戦うのみです。
ね、しのぶさん。」
「分かってるじゃないか、櫻子。」
そんなやり取りをしている間に辺りに薔薇が飛び散ったので俺の思考は別の方へとそれた。
噂…。噂と言っても羅呪祢が恵芭守を倒したダークホース的な存在としか認識されていないのだろう。
それだけでは無いのだが。
しかし、ここは駆け引きの場、変に情報を開示してもそれを信じて貰えるかは分からない。
それを会長も分かっているのだろう。
長引きそうな話しあいに俺は煙草を咥えると火はつけないまま上下に揺らした。
[newpage]
【千星那由多】
……緊張して殆ど眠れなかった。
地区聖戦決勝の1日目が開会式だけで済んでよかった。
今日はこのまま部屋に戻ってから見学みたいなので、早く眠れるようにしよう。
会長達が麗亜の会長と話しているのを見ながら、大きな欠伸をかます。
「ちょっと、千星!!だらしないわね!もうちょっと緊張感持てないの!?」
「るっさいなー……」
俺に怒鳴り散らす声に、目を擦りながら反応する。
この耳に刺さるような声、忘れたくても忘れられない。
麗亜高校、華尻唯菜だ。
華尻は相変わらずデカイ態度で、胸を張って俺を威嚇するように睨みつけていた。
「よく決勝まで来れたわね!
あんたの予選のポイント酷かったから、(裏)生徒会クビになってるかと思ってたわ!」
「んーそだなー」
それを言うなそれを。
俺だって結構気にしてるんだから。
ぎゃんぎゃん喚いている華尻に適当に返事をしながら、辺りを見回す。
決勝に選ばれた高校の生徒がたくさんいる。
個性的な奴から地味な奴まで……様々だ。
そして、奥の方に十輝央先輩と錦織さんがいるのが見えた。
二人はこちらに見向きもしなかった。
いつもの十輝央先輩ならすぐに会長の元に駆け付けるはずなのに。
「…………」
「ちょっと聞いてるの!?――――っきゃ!!」
ずいっと俺の目の前に出てきた華尻が叫んだ。
その原因は、後ろに飛びついている堂地さんだった。
俺は咄嗟に自分の胸を両手で隠す。
「も~華尻ちゃん相変わらず素直じゃないにょ~~!」
「な、なんの事ですか堂地先輩!!」
「おーっす千星ィー後で皆で見学に行くらしいにょ~!やったな!!」
堂地さんは華尻の肩に捕まりながらピースサインをかましてくる。
この人は俺的注意人物だ。
気を抜いたらまた胸を揉まれて女にされる。
後ずさりをし距離を取ると、堂地さんは華尻の耳元で何かを囁いた。
すると、急に華尻の顔がゆでだこみたいに真っ赤になる。
「ふ、ふ、ふざけないでくださいっ!!」
華尻がいきなり怒鳴りだすと、堂地さんを背負い投げするようにこちらへと投げ飛ばしてくる。
「えッ!?ちょ…………――――――ッッ!!!!」
俺の頭に堂地さんの頭がゴチーンと漫画のような音を立てクリーンヒットすると、俺はその場に仰向けに倒れた。
[newpage]
【華尻唯菜】
もーなんてこというのよ堂地せんぱーい!!!!
我を忘れて先輩を背負い投げした結果千星は地に倒れることになる。
違うのー!唯菜!
こんなことをするために予選を死にもの狂いで頑張ったんじゃないの!!
折角、千星と会えたのにぃ!!
いや、別に、すすすす、す、すきとかそんなんじゃないからね!
気になる!位だから!
この後の見学で一緒に回れたらいいなとか、考えてないから!!
「いやー!!千星!!こんなことで、死なないでよー!!」
「にょほほほ!クリーンヒットだにゅん!」
堂地先輩が石頭なのは言うまでも無い、けど、千星打たれ弱過ぎ!
これくらいでぶっ倒れちゃうなんて…!!
「あらあら、またですか…華尻さん。
軽い脳震盪ですかね、私が医務室に付き添います…。
華尻さん、ちゃんと、愛輝凪高校の皆さんにお詫びしてくださいね。」
副会長の西園寺櫻子先輩が千星那由多を肩に担ぎあげていた。
あー!それ、私がやりたかったのに!!!
でも、私の身長じゃ、千星を運ぶなんて無理!
あっちの会長や日当瀬、天夜が、千星を受け取ろうとしていたけど、そのまま副会長が千星を医務室に連れて行ってしまった。
折角会えたのになー。
ああ、でも、二回戦では戦うから嫌でもいっぱい会えるよね。
千星が居ないのは残念だけど、私達はそのまま愛輝凪のメンバーと施設見学へと向かうことになった。
勿論、千星の犬。
日当瀬にガミガミ言われたのは言うまでも無い。
そして、天夜はこっちには全く近づいて来なかった。
そういや私、彼のお尻叩いちゃったんだっけ?
なんにせよ。私はまた、千星に会うことができた、それだけは事実。
[newpage]
【九鬼】
隔離施設は中々広く、見学でそれなりの時間を費やした。
競技場だけではなく、息抜きの為の施設などもあり過ごしやすそうだが、この中で行われる事は普通の高校生には相応しくない内容だろう。
次の日、決勝戦の競技は午後からなので、少し早めの昼食を取り終えた後、全員がホテルのロビーに集まった。
今日の競技について雑談していると、誰かがボクの背後にいきなり突進してくる。
そのまま肩にぶら下がるようにくっついている人物は…。
「……リン!」
と言ってもこのリンは犬の姿ではなく人間だ。
この間一緒に連れて行っていたので、光の能力で人間化してしまった。
ふわふわとした高い位置で結んだポニーテールが揺れ、愛らしい丸い目でボクを見ている。
姿形はもちろん全然違うが、雰囲気はリンそのものだ。
リンは人間化しても言葉を喋らないので、始終ニコニコとボクに向かって微笑んでいた。
そして、その後すぐにチビメガネクン……光がやってきた。
少し疲れたような表情で汗を拭うと、大きくため息を吐いた。
「はぁっ……左千夫、遅くなってごめん…一応みんな連れて来たんだけど……こいつらうろうろうろうろして……」
「ここホテルか!ホテルってやつか!光!あっサチオ!サチオだ!サチオ!!」
「ふむ……中々いいホテルですね……しかしサチオ姫にはもっとゴージャスでトレビア~ンな施設が望ましいかと……」
「てめぇらうっせーんだヨ、ガキか!黙れ!」
チビメガネクンの疲労の原因は、ライトニング、エル、チュマール、リンの四人だろう。
元は動物である「四匹」を「人」とカウントしていいのかわからないが。
チビメガネクンにジュースを渡しているゆずずに自分達も催促するように群がったこの四人は、助っ人として来てもらっている。
ボク達は(裏)生徒会としての人数が少ないので、人数はできるだけいた方がいい。
ジンタロマンとおとじいはさすがに受験生だしネ。
「ちゃんと迷子にならず来れたのかナ?」
光の頭をポンポンと叩くと、酷く嫌そうな顔でその手を払い退けられた。
ボクはどうも子供には好かれない体質らしい。
左千夫クンの周りの子供、だと言うこともあるからかもしれないが。
[newpage]
【神功左千夫】
「お疲れ様です、光。」
光を決勝戦に出す予定は無かった。
勿論、光自体を決勝戦に出すことにはまだ僕は躊躇しているが、彼が人間化した動物たちには戦闘経験を積んで貰おうと思って今回は決勝への参加票へと名前を連ねて置いた。
動物なので、光だけ登録すべきか、どうか、と、いうことに迷いはしたが、一応人間化しているし、動物を参加させてはならないと言う規則はないとイデアが言っていたので、全員名前を連ねて置いた。
光だけ登録してしまうと、全員出さなければいけなくなりますしね…。
なんにせよ、人化した彼らにエーテルの守りを固めて貰わなければならない。
いつかは僕が手放しても存在していく組織にしていかなければならない。
僕も永遠ではないので。
光を自分の直ぐ前へと招き入れると、これからの事を説明していく。
「さて、もう直ぐすると一回戦の第一試合が決まります。
一回戦は明雷鳴(アライナ) 高校、二回戦は恵芭守(エバス)高校、三回戦は羅呪祢(ロシュネ) 高校です。
そして、各高校、第一試合電脳サバイバル、第二試合コントローラーバトル、第三試合は無作為バトルを三戦、以上五戦を行い、勝ち点が多い方が勝利となります。
最終的には勝ち点が一番多い高校が優勝となりますので皆さん尽力をつくしましょう。
第一試合の電脳サバイバルですが、こちらは電脳空間に飛ぶので身体的損傷はありません。
ただし、制限時間は途轍もなく長く、明日の正午まであります。
そして、午後からはコントローラーバトルと無作為バトルが時間の許す限り行われることになりますので体力の配分には気を付けてください。
まず、一回戦、第一試合の電脳サバイバルの参加者は、エル、チュマール、ライトニング、リン、九鬼、そして、僕で行きます。
那由多君はコントローラーバトル、巽君、晴生君は無作為バトルに向けて体力温存を。
特に、那由多君は電脳サバイバルの練習を殆どしてませんので、しっかりモニター観戦をお願いします。
光はイデアの補佐を、モニターを見ながら動物たちに指示を送れればいいですがきっと無理でしょう…なので、イデアの傍に居て下さい。
イデア。今回は貴方の戦略に掛ってますので、よろしくお願いしますね。」
僕の直ぐ側に居るイデアへと視線を落とした。
そう、今回キーとなるのは彼女だ。
“一回戦、明雷鳴(アライナ) 高校 対 愛輝凪高校、恵芭守(エバス)高校 対 羅呪祢(ロシュネ) 高校の電脳サバイバルの参加選手は一時間後に15番ゲートにお集まりください。”
僕の会話が終わると調度放送が流れた。
サバイバル。
それは僕の得意分野でもあるし、昔を思い出すの戦いの場でもある。
「明雷鳴(アライナ) 高校は対戦経験が無い為、余り情報がありません、おとぎ話に似た能力を使うと言うことなので気をつけて下さい。
エル、チュマール、ライトニング、リン、資料を読んで理解は出来ましたか?」
「なぁ、左千夫。サバイバルってなんだ?」
「エルくん!そんなこともわからなかったのですか……!サバイバルとは華麗な花を沢山摘むことですよ。」
「そうか!分かった!左千夫、俺、左千夫の為にいっぱい、綺麗な花を取って来るからな!!」
先が……思いやられる。
彼らは姿かたちは青年や成人だが頭の良さ等は個々の性格にもよるのだろう。
ライトニングとリンは大丈夫な様なので僕はエルとチュマールに残りの一時間で知識を叩きこんだ。
幸い、二人とも知能的には賢いので何とかなったが、今から精神力を使うというのに僕の精神は既に疲れ切っていた。
[newpage]
【バタフライ】
やっと、やっとこの日がやってきた!!
愛輝凪高校との闘いをどれだけワタクシは待ちわびた事か。
その為に、仲良くもしたくない明雷鳴の奴等と地区聖戦の予選を突破したのだ。
全てはジングウへの復讐、そして愛輝凪の副会長となり平々凡々と暮らして甘くなってしまったクキ様を取り戻すため……!
「バタフライー何してるの、行くよー」
ウェリントンのゆるい声が聞こえる。
こいつは明雷鳴高校の正副会長だ。
男の癖に女みたいなオーラを纏っていて、なんとも気持ち悪い奴だ。
バタフライ型のサングラスを押し上げ戦場へと足を進める。
後ろで高くまとめた髪が風でなびいた。
隣にいるヒューマノイド、エ……ディアドロップの殺気は、今朝から凄まじい。
愛輝凪高校のメンツが一列に並んだだろう。
オーラからして、今目の前にいるのは知らない男だ。
そいつは人間の形をしているはずだが……オーラがまるで動物のようだった。
ワタクシは目が見えない。
なのでオーラで全て判別している。
明雷鳴の奴等には見えないなんて嘘だと言われているが、見えない物は見えないのだ。
『これより、愛輝凪高校VS明雷鳴高校の試合を始める』
全員が一礼をしたが、ワタクシはしなかった。
ジングウとクキ様の殺気のする方へと視線を向ける。
相変わらず底の知れないオーラだ。
「あれ?」
クキ様の麗しい声が聞こえた。
久々に耳を刺激するその声は、明らかにワタクシに向いている。
視線を逸らすように正面へと向けると、クキ様は隣のジングウへと耳打ちをしているのか、聞き取りにくい声で何かを喋っていた。
ジングウと仲良くしているクキ様など知りたくなかった…。
いや、あの人は騙されているのだ!!
きっと今すぐにでも愛輝凪高校を破滅に追いやりたくて仕方が無いはずだ!
そうだ!そうに違いな――――。
「ローレンツ、だよネ」
クキ様から発せられた言葉にワタクシの身体は硬直した。
……なぜ……何故バレた!!!!!!!!
ワタクシの変装は完璧だ!
サングラスで閉じた瞳は誤魔化しているし、髪型も「バタフライはポニーテールが似合うね」などと周りに唆されて、変えている!
そもそもワタクシは一言も喋ってもいない!!
それなのに何故…何故ワタクシの正体がバレだのだ!!
「な、なんのコトでしょうカ……」
「やっぱローレンツだ、明雷鳴高校に入ったの?
フリーデルから帰って来てないとは聞いてたケド」
「は、……はいぃ…?」
誤魔化すように返事をするが、クキ様にはうまく逆らえないため、声が裏返る。
「それにそちらにいるのはエイドスの様ですが」
隣にいたエイドスのオーラが濁った。
何故バレたのだ、と言いたげに舌打ちをかましている。
ここは誤魔化し続けるか……。
「バタフライ、愛輝凪高校の人達と知り合いなんですか?」
隣にいたボストンの声で辺りは静まり返った。
[newpage]
【スクウェア】
我が明雷鳴(アライナ) 高校はがっちがちの進学校だ。
勿論勉強面だけでなく、雑学等のクイズにも特化している。
体育はサバイバルゲームなので僕達にこの競技は向いている!!
俺は一礼をしながらそんなことを考えていた。
バタフライは助っ人だ。
しかし、どうしても決勝戦に出たいと言われて、俺達は部員も少ないので出て貰うことにしたが…。
「そうか、知り合いだったのか!それはきちんと挨拶しないとならないな!」
「もしかして、バタフライ、神功さんに会いたくて予選頑張ったの?」
俺の横に居るウェリントンの鈴の鳴る様な声が響いた。
ああ、今日も彼の声は美しい。
明雷鳴(アライナ) 高校は男子高の上におしゃれ禁止、恋愛禁止。
その中でウェリントンは女神のような存在だ…!
全員が同じ髪形を規制されていると言うのにこの麗しさ!
くるっと丸まった前髪!!
小さな唇!
愛らしい姿!!
全てがパーフェク……ごほん、話がそれた。
俺はバタフライにあいさつを促す様に彼の背中を押した。
「そうだ!ワタクシはローレンツだ!!
ジングウ!お前に復讐をするためにここにいるのだ!!
そしてクキ様……貴方の本当の心を救うために…!」
バタフライもとい、ローレンツは急に神功を指差し怒号を飛ばし始めた。
俺達は進学校と言うこともあり、コードネームを使って地区聖戦に出ている。
まぁ、しかし、エイドス(ディアドロップ)とローレンツ(バタフライ)は容姿が容姿なのでバレバレだと思うんだがな。
って、オイ!失礼だろ!
しかも、ホモだったのかよおまえは!
目が見えないとか嘘吐くし!
本当に、得体が知れない奴だな、コイツ!
「こらぁああ!!バタフライ!!もういい!お前はさっさと、補佐に行け!
本当にすいません!!!アイツちょっと頭おかしくて!いえ、貴方がたのほうが知っているかもしれませんが!!
おい、ディアドロップ!お前はこっちだろ!」
「なんで……?今回、僕が司令塔だよ。」
は?は?
コイツはヒューマノイドらしいが、俺達にはベルと言う、おとぎ話に出てくる妖精の様なヒューマノイドがちゃんといる。
今回はベルが指揮を取るは……ず…
「負けないから、イデア…。
君より、僕の方が優秀なんだ…
鉄くずなんかに負けない…」
びしっと、ディアドロップは向こうのヒューマノイドのイデアさんを指差し颯爽と去って行った……さって、いった…?
「うおおおお!!!んと、すいません!!うちの助っ人の奴らが!!
こら、ディアドロップ!ちゃんとあやまらんかい!!!」
まぁ、そんなこと言ってもコイツ等には届かない。
スタスタと歩いて二人は出て行った。
先が……思いやられる…。
[newpage]
【九鬼】
ローレンツがドイツに帰らなかった理由はわかった。
根に持つタイプなのは知ってたケド、できればオースタラ(裏)生徒会に戻って欲しかったんだよネ。
こんな所でボク達と闘った所で、フリーデル達との確執が無くなるわけじゃないし。
今回の勝負で決着がつけばいいんだけど。
こちらの司令塔はイデちゃん。
補佐をチビメガネクンが担当する。
あちらは見てわかるように、エイドスが司令塔でローレンツが補佐。
エイドスもかなりイデアには悪い意味で入れ込んでいる。
オースタラの会長をやっていた時も思っていたが、ヒューマノイドとしては珍しく感情の起伏が酷い。
しかし、その感情プログラムをバネにするのがエイドスだ。
イデちゃんとゆずずが指揮官室へと行くのを見届けた後、音声が響く。
『それでは、これより第一試合「サバイバルゲーム」ロシアンルーレットを開始します』
サバイバルゲームの前に行われるのはロシアンルーレット。
配置や陣地決めの優先権を得るための勝負。
ルールは至極簡単で、リボルバー式拳銃に空砲を一つのこして、他は全て実包を装填し、適当にシリンダーを回転させてから自分のこめかみに向け引き金を引く。
空砲は一発だけなので、かなりの運を要するだろう。
『全員配置についてください。
1番手、愛輝凪高校会長、神功左千夫。前へ。』
試合の審判をする人物、いや、政府側が用意したヒューマノイドだろう。
イデちゃんのように子供の容姿では無く、大人の女性の形をしている。
と言っても、ほぼロボットに近い形状をしているので、ヒューマノイドほど人間には見えない。
審判ヒューマノイドが拳銃を左千夫クンへと渡した。
[newpage]
【神功左千夫】
手渡された拳銃を手に取る。
バーチャルと言えど、現実と何一つ変わらない。
僕は現実でこのゲームを何度も行っている。
慣れた手つきでシリンダーを回転させていく、手元に視線を落とさなくても回転する音や重さでどこが空砲か僕には分かってしまう。
ほんの数秒後に僕はシリンダーを止める。
その時に違和感を感じた。
僕は溜息を吐いた後、拳銃をこめかみに押しつけた。
パスが存在しないのは痛いな。
バンっとけたたましい音がした後、僕の姿がその部屋から消失した。
“神功左千夫 OUT”
そう、僕は失敗したのだ。
幸いバーチャル度が高かったのだろう、痛みなどは無かった。
そして、次に目を開くと、そこはサバイバル用品が置いてある準備室だった。
もう、ここからはイデアの姿は見えない、無線機で交信ができるだけだった。
「すいません、イデア、失敗しました。多分、九鬼も失敗しま―――」
「あっれ!おかしい!ボクちゃんと空砲に止めたのに!!左千夫クンもとめたよね!!」
そう言っている間に九鬼の姿が直ぐ横に現れた。
九鬼の話では向こうの副会長は成功したようだった。
こっちの残りはリン、ライトニング、チュマール、エルだ。
この四人は手段を用いないので大丈夫だろう、後は運に掛けるのみだが。
“空砲に止めようとする思考を読まれたナ。どうやら、そう言った、実力モ、ずるとみなされるようだナ。
仕方ない、それに、サチオのポディションは決まってイル。”
イデアの声がイヤフォンから響いた。
どうやら、僕は成功しても失敗しても行く場所は同じだった様だ。
迷彩柄の服に着替え、ライフルや散弾銃、手榴弾、サバイバルナイフ、水、携帯食料など、必要なものを身に付けて行った。
「左千夫クン、武器なにもっていくの?」
「僕はナイフがあれば、基本は事足りますよ。九鬼は?」
「……うーん、バズーカとか、どうかなって思ってる。」
本気なのか嘘なのか…。
分からなかったので、僕は無言で準備を進めた。
[newpage]
【エル】
サチオとクキがダメだった。
二人でダメなら俺もダメな気がしてならない。
相手側は一番最初の奴は成功、二番目の奴は失敗した。
そして、リンが銃を渡される。
リンは喋らずにすぐ銃をこめかみに当てた。
というか、リンが喋っているのを俺は聞いた事がないけど、あいつは喋れるんだろうか。
カチッと引き金を引いた音がした。
しかし、何も起こらない。
『リン SAFE』
リンは成功したみたいだ。微笑んでいる表情を崩さない。
そのまま姿が消えてしまうと、次は相手側に銃が回った。
それからは、ライトニングは成功。
「お前らあんま細かい事考えんなよ」とか俺達に言いながら消えていった。
ライトニングは口が悪いけど、結構いい奴だ。
俺に色々人間世界の事を教えてくれる。
相手側の三人目は失敗、四人目は成功。
そして、チュマールの番がきた。
「ふふふ…どうやらこれは運が決め手のようですね…。
実力など関係ない、そう言いたいのでしょう?」
チュマールは審判の人に微笑みかけながらウインクをしている。
でも審判は人間じゃないみたいなので、反応が全く無い。
こいつは本当に変な奴だなあ。
なんて言うんだっけ、確か光が言ってた。
……そうだ、「たらし」って言うんだ。
「みたらしだんご」っていう食べ物みたいでうまそうだなって思ってたから、俺は覚えてる。
「私の運……見せてあげますよ!!!!」
そう言いながらチュマールは引き金を引いた。
しかし、その言葉の後すぐに大きな発砲音が響くと『OUT』の放送が響き、チュマールは悲惨な顔をしたまま消えていった。
あいつって頭いいのに、なんかアホだ。
残った奴らに笑われてた。
相手側の5人目が成功すると、ついに俺に銃がまわってくる。
ライトニングが言ってた何も考えない、っていうのはちょっと難しい。
蛙の時だって、色々考えてたし。
今日は空が綺麗だなあとか、雨が降らないなあとか。
でも、俺の運はいい気がする。
だって、サチオと出会えたし、こうやって人間にもなれた。
これって、普通の蛙じゃ経験できないことだ。
頭に銃をあてると、一気に引き金を引いた。
……銃声は鳴らず、カチッと乾いた音がした。
『エル SAFE』
「やったー!」
両腕を大きくあげた所で、俺の身体が消えて行く。
気づくと目の前にサチオがいた。
「サチオー!俺成功した!運良かった!!褒めろ!!」
ガバーッと抱き着くと思い切りサチオを抱きしめた。
【千星那由多】
次の日、いつも通り(裏)生徒会は集まった。
そして、会長の言っていた俺の活躍の場、の意味がわかることになる。
決勝で行われる「コントローラーバトル」のことだ。
言わば実在する人を格闘ゲームのように動かし闘うと言った内容だったが、確かに俺が適任と言えば適任だった。
ただ、実際ゲームを動かすのと、生身の人間を動かすのとでは全く使い勝手が違う気がする。
コントローラーに使用するものはなんでもいいと言われたので、いつも使っているゲーム機のコントローラーを使用することにした。
訓練施設でそれを特殊な装置と繋ぎ、使用できるようにする。
俺は画面に映し出された映像に視線を向け、イヤーモニターを付けるだけでよかった。
ちなみに今、画面に映っているのは会長だ。
…そう、俺は生身の会長をゲームのキャラクターのように動かさなきゃならない。
ちなみに今は練習なので、継承式の時のようなバーチャル世界を使用している。
だからこの画面にいる会長は本物であって本物ではない。
『操作は説明した通りです、とりあえず普段通り格闘ゲームをやるようにやってみてください』
そう言われたので小さく頷いた後、コントローラーの十字キーの左を押すと、その通りに会長は動いた。
本当に俺が操っているんだと思うと、なんとも変な感覚だ。
『そんな感じで大丈夫です。
では、十字キーの上を押した後、Aを二度連打してください』
「は、はい……」
『そうすれば、腕が外れてしまいます』
「!!??」
会長のその言葉に、十字キーの上を押し、Aボタンを押そうとしたところで思いとどまった。
あ、危なかった……!!
『あくまで那由多君が扱うのは生身の身体です。
ゲームのような無理な動きをこの身体ですれば、大怪我をすることになります。
その加減はプレイヤーにかかっているので、注意してください』
「……わ、わかりました……」
いや、いやいやいや、これは中々難しいぞ。
コントローラーバトルはゲームだけれどゲームではない。と言われているようなものだ。
それって結構な無茶ぶりだよな…。
『できますか?』
続いて落ちて来た会長の言葉に、俺は息を飲んだ後、画面の向こうにいる棒立ちの会長を見つめた。
「頑張ります……」
もちろん、そう返すことしかできなかったわけだが。
[newpage]
【神功左千夫】
「今は僕はバーチャルに身を置いているので好き勝手して貰って構いませんよ。
腕が外れようが死のうが現世には関係が無い。
そして、僕はバーチャルダメージの回復は早い方なので、気にしないでください。
ただし、本番はバーチャルでは有りません。
現実に行うことになりますので、それだけは肝に銘じておいてください。」
人を信号で動かすのは大変だ。
しかも、人それぞれで筋肉の付き方などもことなるので何人もこの数日で会得するのは難しいと思い、僕は那由多君の駒には九鬼と僕を選んだ。
「HPは体力ゲージになります。
これが、0になれば戦闘不能です。
後、接続により特殊な効果が発動します。
それは君の能力を操作する人間一人が扱えると言うことです。
九鬼は元から派手なので、那由多君の能力は僕がしようさせてもらいます。
そうすれば、僕は幻術と共にリアルな自然現象を使えることになりますからね。
後、特殊技もいくつかあります。
ゲージが溜まらないと解放できない技もあります。
那由多君に渡した資料のコマンドは基礎コマンドだけなので後は自力で見つけてください。」
後は那由多君次第だ。
僕が出来ること言えばこの身を差し出すことくらいだろう。
九鬼にも一緒にバーチャルに降りて来て貰っている。
巽君と晴生君は別メニューだ。
彼らにもそろそろもう一皮剥けて貰わないと雲行きが怪しくなってきた。
「さて、手合わせと行きますか。九鬼。
まずは素手でお願いします。
練習とは言え、貴方に殺されるのは嫌なので。」
本当はぼこぼこにされるのも嫌なのだが。
そこは仕方が無いので目を瞑ることにした。
九鬼は今はまだ、コントローラーとリンクされていないので普通に動いている。
僕だけが那由多君の指示を待つように棒立ちだ。
ただ、ゲームが始まると自然とファイティングポーズをとってくれるのでそこだけは助かっている。
それにしても…。
那由多君はコマンド入力ははやいほうだと思うのだが、なぜか違和感を感じる。
傾げたくても傾げられない首を持て余しながら九鬼から来た拳を僕の右手は払った。
[newpage]
【九鬼】
左千夫クンがいつもと違う動きをしているせいか、面白い。
それなりに操作はできているようだし、なゆゆも少しは役に立つな。
規則的な攻撃をしかけつつ、手はそれなりに抜いている。
が、これならもう少し本気を出してもいいかもしれない。
「よっ」
左千夫クンの拳が伸びてきたのをかわすと、彼の横へと移動する。
足払いをするように地面へしゃがみ込むと、高くジャンプした。
元々左千夫クンの身体能力の高さもあってか、行動範囲は広いようだ。
そのまま彼を追うように地面を蹴り上げると、身体を捻り彼の腹部へと少し強めに蹴り込む。
ガードの体勢を取ったまま後ろへと飛んだが、空中で体勢を立てなおすと、足を地面に擦りながら着地した。
間髪入れずにこちらに飛び掛かってくると、突きやら蹴りを繰り出し始める。
「お、うまいうまい、中々いいヨー」
暫くその繰り返しを行った所で、距離を取った。
「ゲージが溜まったようですね。
那由多君、必殺技を使ってみましょうか」
『はい』
なゆゆが返事をすると、左千夫クンの身体から覇気のようなものが発せられる。
赤い瞳が金色に変わると、たなびく黒い髪も同じように金色に染まった。
おお、ゲームっぽい。
この必殺技が何かをボクは知らない。
生身なら下手に攻撃をしかけるわけにはいかないが、今は特訓も兼ねているので、敵役のボクが突っ込むべきだろう。
間合いを詰めるように左千夫クンの元へと走り込むと、割と本気で拳を突き出す。
「あれ?」
目の前にいた左千夫クンがいない。
すぐに視線を横へとずらすと、そちらに移動している。
先ほどとは比べ物にならない程速い。
間髪入れずに彼に向かってかました回し蹴りも当たる事なく、空を切った。
また消えたと思った左千夫クンは、宙に飛んでいる。
「はっや!」
辺りの風を巻き込むように落ちてきたかかと落としを避けようかと思案する暇もなく、両手をクロスし受け止めることしかできなかった。
[newpage]
【神功左千夫】
僕とは考え方が違うせいか動き方は違う。
でも、これはこれで面白いし勉強になる。
僕、こんな動きも出来たんですね。
でも、いつもと少し感覚が違う。
やっぱり電気信号の伝達を感じてから体が動いているからか。
それでもこれだけの動きが出来れば十分だろう。
そう思っていたがそれは必殺技が繰り出された瞬間に吹き飛んだ。
僕が思ったままに体が動く。
そして、どんどん九鬼を圧していった。
視線の前にちらつく金色の髪は気になったが、那由多君が動かすままに僕は動くので思考なんて関係ない。
僕の必殺技は「反射」で動けるようになることだろう。
これなら、何のストレスも無く僕は那由多君に動かして貰える。
僕の踵落としで九鬼の腕がミシっと撓ったのは快感だった。
その時僕がほくそ笑むように口角を上げてしまったので、九鬼のスイッチが完全にはいったのは言うまでも無い。
「ぎ!ギブです!!副会長!!俺……もう、目が…!」
上方から那由多君の声が響いてきた。
かれこれ数時間戦いっぱなしだった気がする。
勿論僕も九鬼も肩で呼吸を繰り返しているので丁度いいころ合いだろう。
「それでは、一度休憩をはさんで次は九鬼を動かしてみてください。
僕が相手をしますよ。
次は武器、能力を使用してみましょうか。」
イデアに視線を送ると、送信機と受信機のリンクを切って貰った。
グーッと伸びをして肩を回す。
やっぱり自分で動くのが一番いいと思える瞬間だった。
「それにしても…良く見えますね…那由多君」
彼の動体視力はそんなに良くない筈だ。
それがゲームとなるだけで変わるのだろうか。
僕はガラス窓の外に居る那由多君を見つめ小さく息を吐いた。
これでこの競技も何とかなりそうだ。
[newpage]
【千星那由多】
それから決勝が始まるまでの間、俺の修行は殆どコントローラーバトルに費やされた。
指に豆が出来るほどコマンドを打ちこんだが、珍しく楽しく感じる事ができた修行だったので、さほど苦にはならなかった。
初めて褒めてもらえたし、気分もよかった。
もちろん疲労は蓄積されていたが、それは俺だけではないだろう。
地区聖戦決勝の参加校は、俺達「愛輝凪高校」「麗亜高校」「明雷鳴高校」「羅呪祢高校」の四校だ。
麗亜高校はもちろん何度も顔を合わせているので知っているが、明雷鳴高校の事は資料を貰っただけなのでよく知らない。
全員眼鏡をかけてるってのが印象的だった。
そして一番注意すべきなのは羅呪祢高校だろう。
そこには十輝央先輩もいるし、なにより恵芭守と幸花を酷い目に合せた奴もいる。
今回俺はそれなりに期待されているんだ。
皆を裏切らないように頑張らないと。
予選の時みたいに、足を引っ張る訳にはいかない。
思えば長いようで短かったな。
夏休みももう半ばまできている。
すっかり俺はこの非日常になじんでしまった。
「…頑張ろう……」
自分の手にできた豆を見ながら、俺は静かに決意を固めた。
こんな非日常、昔の俺だったら嫌で嫌でたまらなかったんだろうな。
そして20日。
「地区聖戦・ラディエンシークルセイド決勝戦」が幕を開けた。
[newpage]
【日当瀬晴生】
「地区聖戦・ラディエンシークルセイド決勝」が始まる。
今は開会式と言う、面倒なものが取り行われている。
と、いっても政府の重役どもは顔を出すのが嫌なのだろうか、大体はヒューマノイドが全て行っているが。
予選と違って隔離施設に行くことになり、しかも、一度はいってしまうと決勝が終わるまでは出ることが出来ないらしい。
開会式が終わると割り振られた部屋に向かうことになった。
「今日はこのままフリーだとよ、どうすんだ、会長」
「そうですね、まずは部屋で身支度をしてから明日の会場の下見に行きましょうか。
見れる場所と見れない場所があるとは思います―――」
「久しいな、ライバルたちよ。」
どこからともなく聞こえてきたのは麗亜高校の会長、鳳凰院しのぶの声だった。
「やぁ、二位通過おめでとう。
我が校との対戦は明日だな、その時はお互いに尽力をつくそう」
ここでも派手な帽子を被った麗亜の会長は、俺達の会長へと握手を求める様に手を差し出していた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
「そう言えば、羅呪祢(ロシュネ) 高校には神功さんのお兄さんが出てらっしゃるのですか?」
「………はい」
副会長の西園寺櫻子の言葉に会長は少し視線を落とした。
神功十輝央に関してはいまだいい手が見つからないのだろうな。
確かにあの側近の錦織の能力は厄介だ。
「…僕がこんなことを言うのはおかしいのですが、くれぐれも羅呪祢高校には気を付けてください。」
「噂でしたら、こちらまで届いてますよ。
あの、恵芭守を打ち破って決勝に来たんだとか。
そうであっても、麗亜高校は正々堂々と戦うのみです。
ね、しのぶさん。」
「分かってるじゃないか、櫻子。」
そんなやり取りをしている間に辺りに薔薇が飛び散ったので俺の思考は別の方へとそれた。
噂…。噂と言っても羅呪祢が恵芭守を倒したダークホース的な存在としか認識されていないのだろう。
それだけでは無いのだが。
しかし、ここは駆け引きの場、変に情報を開示してもそれを信じて貰えるかは分からない。
それを会長も分かっているのだろう。
長引きそうな話しあいに俺は煙草を咥えると火はつけないまま上下に揺らした。
[newpage]
【千星那由多】
……緊張して殆ど眠れなかった。
地区聖戦決勝の1日目が開会式だけで済んでよかった。
今日はこのまま部屋に戻ってから見学みたいなので、早く眠れるようにしよう。
会長達が麗亜の会長と話しているのを見ながら、大きな欠伸をかます。
「ちょっと、千星!!だらしないわね!もうちょっと緊張感持てないの!?」
「るっさいなー……」
俺に怒鳴り散らす声に、目を擦りながら反応する。
この耳に刺さるような声、忘れたくても忘れられない。
麗亜高校、華尻唯菜だ。
華尻は相変わらずデカイ態度で、胸を張って俺を威嚇するように睨みつけていた。
「よく決勝まで来れたわね!
あんたの予選のポイント酷かったから、(裏)生徒会クビになってるかと思ってたわ!」
「んーそだなー」
それを言うなそれを。
俺だって結構気にしてるんだから。
ぎゃんぎゃん喚いている華尻に適当に返事をしながら、辺りを見回す。
決勝に選ばれた高校の生徒がたくさんいる。
個性的な奴から地味な奴まで……様々だ。
そして、奥の方に十輝央先輩と錦織さんがいるのが見えた。
二人はこちらに見向きもしなかった。
いつもの十輝央先輩ならすぐに会長の元に駆け付けるはずなのに。
「…………」
「ちょっと聞いてるの!?――――っきゃ!!」
ずいっと俺の目の前に出てきた華尻が叫んだ。
その原因は、後ろに飛びついている堂地さんだった。
俺は咄嗟に自分の胸を両手で隠す。
「も~華尻ちゃん相変わらず素直じゃないにょ~~!」
「な、なんの事ですか堂地先輩!!」
「おーっす千星ィー後で皆で見学に行くらしいにょ~!やったな!!」
堂地さんは華尻の肩に捕まりながらピースサインをかましてくる。
この人は俺的注意人物だ。
気を抜いたらまた胸を揉まれて女にされる。
後ずさりをし距離を取ると、堂地さんは華尻の耳元で何かを囁いた。
すると、急に華尻の顔がゆでだこみたいに真っ赤になる。
「ふ、ふ、ふざけないでくださいっ!!」
華尻がいきなり怒鳴りだすと、堂地さんを背負い投げするようにこちらへと投げ飛ばしてくる。
「えッ!?ちょ…………――――――ッッ!!!!」
俺の頭に堂地さんの頭がゴチーンと漫画のような音を立てクリーンヒットすると、俺はその場に仰向けに倒れた。
[newpage]
【華尻唯菜】
もーなんてこというのよ堂地せんぱーい!!!!
我を忘れて先輩を背負い投げした結果千星は地に倒れることになる。
違うのー!唯菜!
こんなことをするために予選を死にもの狂いで頑張ったんじゃないの!!
折角、千星と会えたのにぃ!!
いや、別に、すすすす、す、すきとかそんなんじゃないからね!
気になる!位だから!
この後の見学で一緒に回れたらいいなとか、考えてないから!!
「いやー!!千星!!こんなことで、死なないでよー!!」
「にょほほほ!クリーンヒットだにゅん!」
堂地先輩が石頭なのは言うまでも無い、けど、千星打たれ弱過ぎ!
これくらいでぶっ倒れちゃうなんて…!!
「あらあら、またですか…華尻さん。
軽い脳震盪ですかね、私が医務室に付き添います…。
華尻さん、ちゃんと、愛輝凪高校の皆さんにお詫びしてくださいね。」
副会長の西園寺櫻子先輩が千星那由多を肩に担ぎあげていた。
あー!それ、私がやりたかったのに!!!
でも、私の身長じゃ、千星を運ぶなんて無理!
あっちの会長や日当瀬、天夜が、千星を受け取ろうとしていたけど、そのまま副会長が千星を医務室に連れて行ってしまった。
折角会えたのになー。
ああ、でも、二回戦では戦うから嫌でもいっぱい会えるよね。
千星が居ないのは残念だけど、私達はそのまま愛輝凪のメンバーと施設見学へと向かうことになった。
勿論、千星の犬。
日当瀬にガミガミ言われたのは言うまでも無い。
そして、天夜はこっちには全く近づいて来なかった。
そういや私、彼のお尻叩いちゃったんだっけ?
なんにせよ。私はまた、千星に会うことができた、それだけは事実。
[newpage]
【九鬼】
隔離施設は中々広く、見学でそれなりの時間を費やした。
競技場だけではなく、息抜きの為の施設などもあり過ごしやすそうだが、この中で行われる事は普通の高校生には相応しくない内容だろう。
次の日、決勝戦の競技は午後からなので、少し早めの昼食を取り終えた後、全員がホテルのロビーに集まった。
今日の競技について雑談していると、誰かがボクの背後にいきなり突進してくる。
そのまま肩にぶら下がるようにくっついている人物は…。
「……リン!」
と言ってもこのリンは犬の姿ではなく人間だ。
この間一緒に連れて行っていたので、光の能力で人間化してしまった。
ふわふわとした高い位置で結んだポニーテールが揺れ、愛らしい丸い目でボクを見ている。
姿形はもちろん全然違うが、雰囲気はリンそのものだ。
リンは人間化しても言葉を喋らないので、始終ニコニコとボクに向かって微笑んでいた。
そして、その後すぐにチビメガネクン……光がやってきた。
少し疲れたような表情で汗を拭うと、大きくため息を吐いた。
「はぁっ……左千夫、遅くなってごめん…一応みんな連れて来たんだけど……こいつらうろうろうろうろして……」
「ここホテルか!ホテルってやつか!光!あっサチオ!サチオだ!サチオ!!」
「ふむ……中々いいホテルですね……しかしサチオ姫にはもっとゴージャスでトレビア~ンな施設が望ましいかと……」
「てめぇらうっせーんだヨ、ガキか!黙れ!」
チビメガネクンの疲労の原因は、ライトニング、エル、チュマール、リンの四人だろう。
元は動物である「四匹」を「人」とカウントしていいのかわからないが。
チビメガネクンにジュースを渡しているゆずずに自分達も催促するように群がったこの四人は、助っ人として来てもらっている。
ボク達は(裏)生徒会としての人数が少ないので、人数はできるだけいた方がいい。
ジンタロマンとおとじいはさすがに受験生だしネ。
「ちゃんと迷子にならず来れたのかナ?」
光の頭をポンポンと叩くと、酷く嫌そうな顔でその手を払い退けられた。
ボクはどうも子供には好かれない体質らしい。
左千夫クンの周りの子供、だと言うこともあるからかもしれないが。
[newpage]
【神功左千夫】
「お疲れ様です、光。」
光を決勝戦に出す予定は無かった。
勿論、光自体を決勝戦に出すことにはまだ僕は躊躇しているが、彼が人間化した動物たちには戦闘経験を積んで貰おうと思って今回は決勝への参加票へと名前を連ねて置いた。
動物なので、光だけ登録すべきか、どうか、と、いうことに迷いはしたが、一応人間化しているし、動物を参加させてはならないと言う規則はないとイデアが言っていたので、全員名前を連ねて置いた。
光だけ登録してしまうと、全員出さなければいけなくなりますしね…。
なんにせよ、人化した彼らにエーテルの守りを固めて貰わなければならない。
いつかは僕が手放しても存在していく組織にしていかなければならない。
僕も永遠ではないので。
光を自分の直ぐ前へと招き入れると、これからの事を説明していく。
「さて、もう直ぐすると一回戦の第一試合が決まります。
一回戦は明雷鳴(アライナ) 高校、二回戦は恵芭守(エバス)高校、三回戦は羅呪祢(ロシュネ) 高校です。
そして、各高校、第一試合電脳サバイバル、第二試合コントローラーバトル、第三試合は無作為バトルを三戦、以上五戦を行い、勝ち点が多い方が勝利となります。
最終的には勝ち点が一番多い高校が優勝となりますので皆さん尽力をつくしましょう。
第一試合の電脳サバイバルですが、こちらは電脳空間に飛ぶので身体的損傷はありません。
ただし、制限時間は途轍もなく長く、明日の正午まであります。
そして、午後からはコントローラーバトルと無作為バトルが時間の許す限り行われることになりますので体力の配分には気を付けてください。
まず、一回戦、第一試合の電脳サバイバルの参加者は、エル、チュマール、ライトニング、リン、九鬼、そして、僕で行きます。
那由多君はコントローラーバトル、巽君、晴生君は無作為バトルに向けて体力温存を。
特に、那由多君は電脳サバイバルの練習を殆どしてませんので、しっかりモニター観戦をお願いします。
光はイデアの補佐を、モニターを見ながら動物たちに指示を送れればいいですがきっと無理でしょう…なので、イデアの傍に居て下さい。
イデア。今回は貴方の戦略に掛ってますので、よろしくお願いしますね。」
僕の直ぐ側に居るイデアへと視線を落とした。
そう、今回キーとなるのは彼女だ。
“一回戦、明雷鳴(アライナ) 高校 対 愛輝凪高校、恵芭守(エバス)高校 対 羅呪祢(ロシュネ) 高校の電脳サバイバルの参加選手は一時間後に15番ゲートにお集まりください。”
僕の会話が終わると調度放送が流れた。
サバイバル。
それは僕の得意分野でもあるし、昔を思い出すの戦いの場でもある。
「明雷鳴(アライナ) 高校は対戦経験が無い為、余り情報がありません、おとぎ話に似た能力を使うと言うことなので気をつけて下さい。
エル、チュマール、ライトニング、リン、資料を読んで理解は出来ましたか?」
「なぁ、左千夫。サバイバルってなんだ?」
「エルくん!そんなこともわからなかったのですか……!サバイバルとは華麗な花を沢山摘むことですよ。」
「そうか!分かった!左千夫、俺、左千夫の為にいっぱい、綺麗な花を取って来るからな!!」
先が……思いやられる。
彼らは姿かたちは青年や成人だが頭の良さ等は個々の性格にもよるのだろう。
ライトニングとリンは大丈夫な様なので僕はエルとチュマールに残りの一時間で知識を叩きこんだ。
幸い、二人とも知能的には賢いので何とかなったが、今から精神力を使うというのに僕の精神は既に疲れ切っていた。
[newpage]
【バタフライ】
やっと、やっとこの日がやってきた!!
愛輝凪高校との闘いをどれだけワタクシは待ちわびた事か。
その為に、仲良くもしたくない明雷鳴の奴等と地区聖戦の予選を突破したのだ。
全てはジングウへの復讐、そして愛輝凪の副会長となり平々凡々と暮らして甘くなってしまったクキ様を取り戻すため……!
「バタフライー何してるの、行くよー」
ウェリントンのゆるい声が聞こえる。
こいつは明雷鳴高校の正副会長だ。
男の癖に女みたいなオーラを纏っていて、なんとも気持ち悪い奴だ。
バタフライ型のサングラスを押し上げ戦場へと足を進める。
後ろで高くまとめた髪が風でなびいた。
隣にいるヒューマノイド、エ……ディアドロップの殺気は、今朝から凄まじい。
愛輝凪高校のメンツが一列に並んだだろう。
オーラからして、今目の前にいるのは知らない男だ。
そいつは人間の形をしているはずだが……オーラがまるで動物のようだった。
ワタクシは目が見えない。
なのでオーラで全て判別している。
明雷鳴の奴等には見えないなんて嘘だと言われているが、見えない物は見えないのだ。
『これより、愛輝凪高校VS明雷鳴高校の試合を始める』
全員が一礼をしたが、ワタクシはしなかった。
ジングウとクキ様の殺気のする方へと視線を向ける。
相変わらず底の知れないオーラだ。
「あれ?」
クキ様の麗しい声が聞こえた。
久々に耳を刺激するその声は、明らかにワタクシに向いている。
視線を逸らすように正面へと向けると、クキ様は隣のジングウへと耳打ちをしているのか、聞き取りにくい声で何かを喋っていた。
ジングウと仲良くしているクキ様など知りたくなかった…。
いや、あの人は騙されているのだ!!
きっと今すぐにでも愛輝凪高校を破滅に追いやりたくて仕方が無いはずだ!
そうだ!そうに違いな――――。
「ローレンツ、だよネ」
クキ様から発せられた言葉にワタクシの身体は硬直した。
……なぜ……何故バレた!!!!!!!!
ワタクシの変装は完璧だ!
サングラスで閉じた瞳は誤魔化しているし、髪型も「バタフライはポニーテールが似合うね」などと周りに唆されて、変えている!
そもそもワタクシは一言も喋ってもいない!!
それなのに何故…何故ワタクシの正体がバレだのだ!!
「な、なんのコトでしょうカ……」
「やっぱローレンツだ、明雷鳴高校に入ったの?
フリーデルから帰って来てないとは聞いてたケド」
「は、……はいぃ…?」
誤魔化すように返事をするが、クキ様にはうまく逆らえないため、声が裏返る。
「それにそちらにいるのはエイドスの様ですが」
隣にいたエイドスのオーラが濁った。
何故バレたのだ、と言いたげに舌打ちをかましている。
ここは誤魔化し続けるか……。
「バタフライ、愛輝凪高校の人達と知り合いなんですか?」
隣にいたボストンの声で辺りは静まり返った。
[newpage]
【スクウェア】
我が明雷鳴(アライナ) 高校はがっちがちの進学校だ。
勿論勉強面だけでなく、雑学等のクイズにも特化している。
体育はサバイバルゲームなので僕達にこの競技は向いている!!
俺は一礼をしながらそんなことを考えていた。
バタフライは助っ人だ。
しかし、どうしても決勝戦に出たいと言われて、俺達は部員も少ないので出て貰うことにしたが…。
「そうか、知り合いだったのか!それはきちんと挨拶しないとならないな!」
「もしかして、バタフライ、神功さんに会いたくて予選頑張ったの?」
俺の横に居るウェリントンの鈴の鳴る様な声が響いた。
ああ、今日も彼の声は美しい。
明雷鳴(アライナ) 高校は男子高の上におしゃれ禁止、恋愛禁止。
その中でウェリントンは女神のような存在だ…!
全員が同じ髪形を規制されていると言うのにこの麗しさ!
くるっと丸まった前髪!!
小さな唇!
愛らしい姿!!
全てがパーフェク……ごほん、話がそれた。
俺はバタフライにあいさつを促す様に彼の背中を押した。
「そうだ!ワタクシはローレンツだ!!
ジングウ!お前に復讐をするためにここにいるのだ!!
そしてクキ様……貴方の本当の心を救うために…!」
バタフライもとい、ローレンツは急に神功を指差し怒号を飛ばし始めた。
俺達は進学校と言うこともあり、コードネームを使って地区聖戦に出ている。
まぁ、しかし、エイドス(ディアドロップ)とローレンツ(バタフライ)は容姿が容姿なのでバレバレだと思うんだがな。
って、オイ!失礼だろ!
しかも、ホモだったのかよおまえは!
目が見えないとか嘘吐くし!
本当に、得体が知れない奴だな、コイツ!
「こらぁああ!!バタフライ!!もういい!お前はさっさと、補佐に行け!
本当にすいません!!!アイツちょっと頭おかしくて!いえ、貴方がたのほうが知っているかもしれませんが!!
おい、ディアドロップ!お前はこっちだろ!」
「なんで……?今回、僕が司令塔だよ。」
は?は?
コイツはヒューマノイドらしいが、俺達にはベルと言う、おとぎ話に出てくる妖精の様なヒューマノイドがちゃんといる。
今回はベルが指揮を取るは……ず…
「負けないから、イデア…。
君より、僕の方が優秀なんだ…
鉄くずなんかに負けない…」
びしっと、ディアドロップは向こうのヒューマノイドのイデアさんを指差し颯爽と去って行った……さって、いった…?
「うおおおお!!!んと、すいません!!うちの助っ人の奴らが!!
こら、ディアドロップ!ちゃんとあやまらんかい!!!」
まぁ、そんなこと言ってもコイツ等には届かない。
スタスタと歩いて二人は出て行った。
先が……思いやられる…。
[newpage]
【九鬼】
ローレンツがドイツに帰らなかった理由はわかった。
根に持つタイプなのは知ってたケド、できればオースタラ(裏)生徒会に戻って欲しかったんだよネ。
こんな所でボク達と闘った所で、フリーデル達との確執が無くなるわけじゃないし。
今回の勝負で決着がつけばいいんだけど。
こちらの司令塔はイデちゃん。
補佐をチビメガネクンが担当する。
あちらは見てわかるように、エイドスが司令塔でローレンツが補佐。
エイドスもかなりイデアには悪い意味で入れ込んでいる。
オースタラの会長をやっていた時も思っていたが、ヒューマノイドとしては珍しく感情の起伏が酷い。
しかし、その感情プログラムをバネにするのがエイドスだ。
イデちゃんとゆずずが指揮官室へと行くのを見届けた後、音声が響く。
『それでは、これより第一試合「サバイバルゲーム」ロシアンルーレットを開始します』
サバイバルゲームの前に行われるのはロシアンルーレット。
配置や陣地決めの優先権を得るための勝負。
ルールは至極簡単で、リボルバー式拳銃に空砲を一つのこして、他は全て実包を装填し、適当にシリンダーを回転させてから自分のこめかみに向け引き金を引く。
空砲は一発だけなので、かなりの運を要するだろう。
『全員配置についてください。
1番手、愛輝凪高校会長、神功左千夫。前へ。』
試合の審判をする人物、いや、政府側が用意したヒューマノイドだろう。
イデちゃんのように子供の容姿では無く、大人の女性の形をしている。
と言っても、ほぼロボットに近い形状をしているので、ヒューマノイドほど人間には見えない。
審判ヒューマノイドが拳銃を左千夫クンへと渡した。
[newpage]
【神功左千夫】
手渡された拳銃を手に取る。
バーチャルと言えど、現実と何一つ変わらない。
僕は現実でこのゲームを何度も行っている。
慣れた手つきでシリンダーを回転させていく、手元に視線を落とさなくても回転する音や重さでどこが空砲か僕には分かってしまう。
ほんの数秒後に僕はシリンダーを止める。
その時に違和感を感じた。
僕は溜息を吐いた後、拳銃をこめかみに押しつけた。
パスが存在しないのは痛いな。
バンっとけたたましい音がした後、僕の姿がその部屋から消失した。
“神功左千夫 OUT”
そう、僕は失敗したのだ。
幸いバーチャル度が高かったのだろう、痛みなどは無かった。
そして、次に目を開くと、そこはサバイバル用品が置いてある準備室だった。
もう、ここからはイデアの姿は見えない、無線機で交信ができるだけだった。
「すいません、イデア、失敗しました。多分、九鬼も失敗しま―――」
「あっれ!おかしい!ボクちゃんと空砲に止めたのに!!左千夫クンもとめたよね!!」
そう言っている間に九鬼の姿が直ぐ横に現れた。
九鬼の話では向こうの副会長は成功したようだった。
こっちの残りはリン、ライトニング、チュマール、エルだ。
この四人は手段を用いないので大丈夫だろう、後は運に掛けるのみだが。
“空砲に止めようとする思考を読まれたナ。どうやら、そう言った、実力モ、ずるとみなされるようだナ。
仕方ない、それに、サチオのポディションは決まってイル。”
イデアの声がイヤフォンから響いた。
どうやら、僕は成功しても失敗しても行く場所は同じだった様だ。
迷彩柄の服に着替え、ライフルや散弾銃、手榴弾、サバイバルナイフ、水、携帯食料など、必要なものを身に付けて行った。
「左千夫クン、武器なにもっていくの?」
「僕はナイフがあれば、基本は事足りますよ。九鬼は?」
「……うーん、バズーカとか、どうかなって思ってる。」
本気なのか嘘なのか…。
分からなかったので、僕は無言で準備を進めた。
[newpage]
【エル】
サチオとクキがダメだった。
二人でダメなら俺もダメな気がしてならない。
相手側は一番最初の奴は成功、二番目の奴は失敗した。
そして、リンが銃を渡される。
リンは喋らずにすぐ銃をこめかみに当てた。
というか、リンが喋っているのを俺は聞いた事がないけど、あいつは喋れるんだろうか。
カチッと引き金を引いた音がした。
しかし、何も起こらない。
『リン SAFE』
リンは成功したみたいだ。微笑んでいる表情を崩さない。
そのまま姿が消えてしまうと、次は相手側に銃が回った。
それからは、ライトニングは成功。
「お前らあんま細かい事考えんなよ」とか俺達に言いながら消えていった。
ライトニングは口が悪いけど、結構いい奴だ。
俺に色々人間世界の事を教えてくれる。
相手側の三人目は失敗、四人目は成功。
そして、チュマールの番がきた。
「ふふふ…どうやらこれは運が決め手のようですね…。
実力など関係ない、そう言いたいのでしょう?」
チュマールは審判の人に微笑みかけながらウインクをしている。
でも審判は人間じゃないみたいなので、反応が全く無い。
こいつは本当に変な奴だなあ。
なんて言うんだっけ、確か光が言ってた。
……そうだ、「たらし」って言うんだ。
「みたらしだんご」っていう食べ物みたいでうまそうだなって思ってたから、俺は覚えてる。
「私の運……見せてあげますよ!!!!」
そう言いながらチュマールは引き金を引いた。
しかし、その言葉の後すぐに大きな発砲音が響くと『OUT』の放送が響き、チュマールは悲惨な顔をしたまま消えていった。
あいつって頭いいのに、なんかアホだ。
残った奴らに笑われてた。
相手側の5人目が成功すると、ついに俺に銃がまわってくる。
ライトニングが言ってた何も考えない、っていうのはちょっと難しい。
蛙の時だって、色々考えてたし。
今日は空が綺麗だなあとか、雨が降らないなあとか。
でも、俺の運はいい気がする。
だって、サチオと出会えたし、こうやって人間にもなれた。
これって、普通の蛙じゃ経験できないことだ。
頭に銃をあてると、一気に引き金を引いた。
……銃声は鳴らず、カチッと乾いた音がした。
『エル SAFE』
「やったー!」
両腕を大きくあげた所で、俺の身体が消えて行く。
気づくと目の前にサチオがいた。
「サチオー!俺成功した!運良かった!!褒めろ!!」
ガバーッと抱き着くと思い切りサチオを抱きしめた。
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