あなたのタマシイいただきます!

さくらんこ

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isc(裏)生徒会

エーテル襲撃

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【幸花】

地区聖戦の予選が終わった。
愛輝凪高校は2位で予選通過することができたのは、やっぱり左千夫がいるから。
私たちの役目は終わってしまったので、左千夫と会う時間がまた減ってしまうのは寂しい。

今日は左千夫と柚子由が、私達のお疲れ様会のようなものを開いてくれる。
他にアホナユタとか瘤がついてくるのが嫌だけれど。
結局あいつは何も結果を出せていない。
私が高校生だったら、あんな奴辞任させて私が書記になるのに。

ああ、考えてたらイライラしてきた。

「純聖、何してるの」

「んーここにな!なんかいんの!」

待ち合わせ場所へと向かおうとしている時、純聖は溝の中をしきりに眺めていた。
純聖と行動すると、寄り道するから好きじゃない。

「……そんな事してたら、遅れる」

「まだ時間大丈夫だろーうるさいなー」

「…………」

イライラしているせいもあってか、溝を覗き込んでいる純聖へと近づくと、背中を思い切り蹴り飛ばした。
落としてやるつもりだったけど、溝の端に手を付き耐えたので、舌打ちを落とす。

「…じゃあ一生溝の中に住めばいい」

それだけ低く告げると踵を返した。

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【純聖】

「うおッ!!」

もーなんだよ!幸花の奴!!

危うく落ちそうだったけど、溝の端を持つことで何とか体を支えた。
俺は幸花の後姿を睨んだが、俺が激しく手をついたおかげが俺の顔面に何かがくっついた。

「ぬぉおおおお!!…ぉ、ぉおお!!?カエルじゃん!しかも、アマガエルじゃねー!!でけー!!!」

慌ててそいつを顔から外すと、それは一匹のヒキガエルだった。
俺はこんな時の為に用意していたビニールの袋をポケットから出す。

そのカエルは俺の手の上でジッとしていた。
なんか目に傷があるし、あんま元気無いのかもしんねー。

「ちょっと待ってろよ!!」

そう言って俺は袋をがむしゃらに草の上で振り回す、こうすることによって小さい虫がかってに捕まってくれる。
それから、水をそこにちょっと入れて、酸素ができるくらいに袋を縛った。

「待てよー!!幸花!!見て見ろコレコレ!!」

俺はかなりの興奮状態で幸花の後を走って行った。
因みに幸花はもう、俺が目視出来な程先に進んでいたのは言うまでも無い。

今日も暑い。
そして、せみの泣き声もうるさい。
でも、左千夫に会えるだけで俺は元気になれた。

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【神功十輝央】

地区聖戦の予選が終わった次の日、僕は電話で「羅呪祢高校に来てください」と錦織に呼び出された。
昨日から何故か錦織に絶対外に出るなと言われていたんだけど…何かあったのだろうか。

僕と錦織は地区聖戦の予選だけの契約だったので、羅呪祢にはもう用事はないし、左千夫にも決勝には出ないと言っている。
まぁ、最後の挨拶もしていなかったので、それも兼ねて行く事には問題ないかと思い、家を後にした。

羅呪祢高校につくと、女副会長の煤孫楼亜さんが校門で待っていてくれた。
軽くお辞儀をしてくると、何も言わずにそのまま(裏)生徒会室へと連れて行かれる。
……と思ったのだが、何故か別の空き教室へと案内された。

室内には、副会長の釈迦戸君ともう一人男がいた。
ここの上層部としか顔を合わせていないので、もう一人の男は顔見知りではないが、ここに居るという事は(裏)生徒会と関係のある人物なんだろう。
そして、この二人の後ろに錦織がいた。
副会長の釈迦戸君へと視線を向けると、笑みを零す。

「羅呪祢高校にはお世話になりました。とてもいい経験になったよ。
で……何か用事があるのかな?」

静かな部屋に扉が閉まった音が響く。
なんだか無性に嫌な予感がするけど、錦織がここにいる以上変に行動は起こせない。
僕の言葉の後、釈迦戸君が何か用紙を机へと差し出してきた。

「地区聖戦の決勝への出場をお願いしたい」

その用紙は、地区聖戦の決勝に出るための申請用紙だった。
視線を落とした後、すぐに釈迦戸君へと視線を戻す。

「……僕らは予選だけだ。それは最初から決めていたし変えるつもりもないよ」

「錦織君は了承してくれましたよ。後は君だけです。」

その言葉に驚き錦織へと視線を移すと、小さく頷いた。
僕は予選だけと言っていたはずなのに、何勝手に動いているんだ?

「ちょっと錦織、どういう――――」

「これはいい話ではないでしょうか?
神功家は政府と関わり合いがない、ここでもっと戦果をあげておけば将来絶対君の為になる」

僕の言葉を遮って釈迦戸君が言葉を続ける。
言ってることはごもっともなんだけど、なんだか納得がいかない。
いや、一番納得がいかないのは、錦織が勝手に行動した事実だ。
しかし、ここで嫌だと言って、錦織だけが参戦することになるのも忍びない。
…でも、左千夫には決勝には出ないって言ってしまったし…。

少し頭を悩ませた後、大きくため息をつく。

……ごめん左千夫、出ることにするよ。

ペンを手に取ると自分の名前を書き込む。
まぁこれもいい経験になると思って、前向きに考えるしかないか。
後で錦織にも何故参加することにしたのか、ちゃんと理由を聞こう。
あいつが自分勝手な行動をする時は、大体僕の事を考えての事だろうし。

サインが終わると、釈迦戸君が立ち上がり、僕の側へと寄ってくる。

「では正式に仲間になっていただけたという事で、儀式を行いたいと思います」

「儀式?」

「大丈夫、すぐに終わる」

一瞬彼から身を引くような仕草をしたが、それよりも先に釈迦戸君の手が額へと伸びて来た。
冷えた手が触れたのに、ぼんやりと思考が暖かくなっていくような感覚に、自然と瞼が落ちる。

「御仏の導きのままに…」

その言葉が何故かすごく遠くで聞こえた直後、意識が遠のいていった。

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【神功左千夫】

僕は沢山のお菓子を抱えて歩いていた。
勿論僕はお菓子に包まれているだけで幸せだった。

地区聖戦の予選も終わり、決勝までには準備期間がある。
まだ、種目は発表されていないので、今日は骨休めと、純聖と幸花のお別れ会を開くことにした。

決勝は最低五人居れば可能だときいたので、僕と九鬼と那由多君、晴生君、巽君、そして柚子由の六名で参加することにした。
いや、後、椎名優月もサインしていたな…。

彼は僕の考え通りに動く男ではないが戦力にはなるのでそのまま通しておいたが。

昨日の件は気にはなったが、兄さんも決勝に行かないと言っているし。
昨日の詳細は錦織だけに伝えておいた。
兄さんに話すと変に顔を挟みそうだったので。

錦織のことだ、そんな危ない高校には金輪際近寄らせないだろう。
錦織は兄さんが僕より強いことを証明できた、それだけで十分な筈だ。
態々危険を犯してまで決勝には出ない。

そんな時だった。
僕の携帯が震える。

「はい。どうしました、魚住さん―――ぇ…?わかりました、直ぐ向かいます。」

受話器から聞こえる声と無いように僕は一気に表情を引き締めた。
持っていたお菓子を全て近くのベンチに置く。
エーテルの近くの噴水で待ち合わせていたのだがそこに寄るよりも直接エーテルに向かったほうがはやい。

「柚子由緊急事態です。内容はテレパシーで伝えますので那由多君達に連絡をお願いします。
九鬼、貴方は僕についてきて下さい。」

純聖、幸花は既に出払っているようだ。
こんな時に、異常事態が起こるなんて…。

何か裏がありそうな自体に僕は奥歯を食いしばった。

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【千星那由多】

今日は純聖と幸花のお別れ会をするらしい。
待ち合わせ場所がゲーセンの近くだったということもあって、俺は巽と晴生と一緒に中で待つことにした。
もちろん俺はゲームをするのが目的だったわけだが。

巽と晴生そっちのけで格闘ゲームで暫く一人で遊んでいると、乱入者が現れた。
向こう側に座ったので隙間から顔を覗いてみたが、片手で携帯を操作し下を向いていて顔は見えなかった。
乱入は久々な感覚だ。
受け入れ態勢に入ると、画面へと視線を戻した。

いつもの学ランキャラを使用し、相手はガタイのいいハゲの坊さんを使っている。
俺は対戦時に負けた事は一度も無いので勝つ自身があった。

Fight!!という文字が画面に大きく浮き上がると、肩の力を抜き、レバー、ボタンを柔らかく操作していく。
この瞬間がスッと自分にハマり、無心になれた時がたまらなく気持ちいい。

思った通り俺が圧倒的に相手を圧していた。
相手は初心者か?全然使いこなせて無さそうなんだけど。
複雑なコマンド入力など使用しなくても勝てそうだと思い、画面に集中していた。

が、相手の体力ゲージが半分を切ったところで、急に相手の動きが変わる。

「――――ッ!?」

バトルアゲインに覚醒コマンドのようなものはない。
ただ相手が急にむちゃくちゃ上手くなったような感じだ。
…いや、最初からこうするつもりだった、と考えるのが妥当かもしれない。

そこからは攻防戦だった。
周りの音も聞こえず、ただただ画面の中の敵と対峙する。

そして、お互いの体力ゲージが同じほどに少なくなった。
一瞬の隙も見せれない。
後一発決められれば負け、決めれば勝つ。
きっと相手も、俺と同じく最後のトドメを刺すコマンドに入っただろう。

だけど……俺は…………負けない!!

本当に少しの差だった。
俺のキャラの必殺技が相手より先に繰り出された。
KO!という文字が浮かび上がり、坊主のキャラは地面へと平伏し、俺のキャラは勝利のポーズを決めている。

「……っぶねー……」

ここまで白熱したのは初めてだ。
心臓がバクバクと脈打ち、冷や汗を拭う。

もう一度、どんな奴が相手なのかと席から離れる時にちらりと盗み見てやった。
髪の毛は茶髪で今風、そこら辺にいるような俺と同年代ぐらいの男子高校生。

しかし、そんな事よりも驚いたのは、その男は最初に俺が見た時と体勢がまったく変わっておらず、片手に携帯を持ったままレバーを握っていた。
俺が見ていた事に気づいたのか、俯いていた顔が上がり視線が絡むと、そいつは負けたくせに笑みを送ってきた。

……いや、まさか、携帯操作しながらゲームしてた…なんてことは無いよな?

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【阿弥陀来次】

こっちを覗いてきた青年は千星那由多。
今回の地区聖戦予選二位の愛輝凪高校の足手まといって言われていた、けど。

俺が愉しくなっちゃうくらいにこの子はゲームが上手かった。
そんなことを考えているとポケットの携帯が震える。
この携帯は今弄っている携帯とは別。
片手でもう一個の携帯を弄りながら通話のボタンを押した。

「んーなんですか~?あーも、わかりました、わかりました、直ぐ行きますって、アハッ♪
もー、そんな目くじら立てて怒らないでくださいよ~。綺麗な顔が台無しになっちゃう―、………もーうるさいな…わかりましたって!
俺が悪かったです!!それでは~!」

折角大好きなゲームをしてて、久々につっよい相手とも巡り合えたのに、ゲームが終わった瞬間に楼亜ちゃんから電話が掛ってきた。
ほんと、楼亜ちゃん厳し過ぎ。
俺は早々に携帯の赤いボタンを押した。

そういや、待ち合わせしてたっけ。
もー、お告げをきけるのは僕だけどなんで皆、あんな忠実に守るかは分かんないなー。
もっと、気楽に生きればいいのに…!そのほうが愉しいじゃん?

なんて、いってると間違いなくしばきまわされるので、…主に楼亜ちゃんに。
俺は待ち合わせ場所へと向かうべく席を立った。

まだ、那由多くんはこっちみてたので、ヒラヒラと手を振って置いた。

「愉しかったですよ。今度は本気で戦ってくーださい、ね?」

それだけ言うと俺は踵を返し、元から弄っていた携帯へと視線を落とす。
そろそろ、難しくなってきたんだよな、こっちのゲームも。

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【幸花】

「幸花ー!見て見て!蛙!!いいだろ!」

純聖を放って先に待ち合わせ場所まで向かっていたけど、すぐに走って追いついてくると蛙を見せびらかして来た。
溝の中にいたのはそれか、と思いながら純聖の手の平に乗っている異様に大きな蛙を見つめた。

ちょっとかわいい、と思ってしまったけど口には出さない。

純聖の頭をグーで殴ると、大きくため息を落とす。

「無闇にエーテルに生き物増やしたらだめ…それでなくても――――ッ!」

言葉を続けようとした時、目の前から来た男とぶつかった。
純聖の身体にもたれ掛るような体勢になったけど、男は一言も謝らずにそのまま走って行ってしまった。
……イライラがMAXに差し掛かりそう。

「大丈夫か?」

「……うるさい」

純聖から離れると、歩く速度を速めた。

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【純聖】

カエルを見せびらかしてたら幸花に殴られた。
つーか、もっと手加減してくれてもいいと思う。
仕方なく俺はカエルを袋の中に直した。

これで、ナユタをビビらしてやろう!!

それを考えるだけでヒッヒと俺は二ヤけてしまった。
幸花はぶつかられたのとかでイライラがMAXに近い。

これ以上殴られると俺の頭が割れそうなので少し離れて歩いた。

左千夫はカエルって嫌いだったっけ?
まぁ、左千夫は俺が上げたらなんでも喜んでくれるから大丈夫だと思うけど。

そういや…アイツも動物好きだった。

幸花にはエーテルにいきもの増やすなっつてるけど、どうせならコイツはアイツに持って帰ってやろう。
あんな奥底にずっと引きこもって立って面白いこともなんも無いもんな。

俺はエーテルに居る奴のことを思ってうんうんと深く頷いた。
そろそろ待ち合わせ場所が見えてきたのでこれ以上は殴られないだろう。
アイツ、左千夫が居たら機嫌いいからな。

しかし、そこに到着する前になぜか幸花がこっちを向いた。

「おー、どうした幸―――ッ!!!!?」

次の瞬間だった。
呑気に声を上げた俺の直ぐ目の前にナイフの刃があった。
これは、幸花が能力を使うためにペンダントに備え付けられているナイフ、だ。
俺はギリギリで体を逸らしてそれを避けた。

避けきれないそれは俺の頬を掠めていく。

「―――ッ!!!おい、幸花!どういうつもり……ッ!」

その時俺がみた幸花の表情は今も忘れられない。

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【光】

今日は左千夫達がエーテルでパーティだかなんだかをやるらしい。
例の地区聖戦の予選絡みだろう。
他にも(裏)生徒会のメンバーも来るらしい。
僕は人が苦手なので、あまり深い関係を築けない。
だから、このエーテルに知らない誰かが来るのも正直嫌だった。

「やだな……」

そんな事を呟きながら、水槽にいる金魚を見つめる。
左千夫たちや、魚住さん、一葉とは別に気兼ねなくできるんだけど…。

大きくため息をつくと、地区聖戦の事が頭を過った。
僕は左千夫に選ばれなかった。その変わり、純聖と幸花が選ばれたんだ。
左千夫は僕に地区聖戦の「ち」の字も言ってこなかったけど、純聖が口を滑らせた時に、あいつにハッキリと言われた。
「俺と幸花以外に声がかからなかった理由がわかるだろ?」と。
それは、純聖と幸花以外のみんな、もちろん僕も…まだうまく能力が制御できないからだ。
その通りだったから、納得せざるを得なかった。
僕はまだ……出来損ないだ……。

『光』

そんな事を考えていると、背後から僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。
キャットドアから顔を出したそいつは、口に何かを咥えている。

白と黒の斑猫。
こいつの名前はライトニング。
大切で大好きな相棒だ。

そう、僕は動物の言葉が聞けたり、操れたりするっていう能力を持っている。

「ライトニング……どうしたの、それ…」

『見つけたんだよ、道端に転がってた、食っていいか?』

ライトニングが口に咥えていたのは、大きな鼠だった。
片足がなく、もう死んでるかのように見えたけど、顔がこちらにゆっくりと向いた。
まだ生きているみたいだ。

「だめだよ、ライトニングが猫なのはわかるけど、その子は食べちゃだめ。
命は粗末にしたらいけないって、いつも言ってるじゃないか」

手を差し伸べると、ライトニングはしぶしぶと手の平へ鼠を置いた。
だいぶ弱っているようだ。
誰かにいじめられたんだろうか。
元気を取り戻せるかはわからないけど、せめて手当ぐらいはしてあげたい。

医療道具を引き出しから取り出すと、手当を始める。
軽いことしか僕にはできないので、後で左千夫が帰ってきたら見てもらおう。

そんな時だった。

けたたましい警報音がエーテル内に響く。
耳慣れないその音に、ライトニングが警戒するように毛を逆立たせる。

『おいおい……お客サンか……?』

「…誰かが……左千夫の幻術を破って、侵入してきたんだ……!」

左千夫も柚子由も今は、いない。
どうしたらいい?どこにいけば?

身体が恐怖で震えるのを、僕は抑える事ができなかった。

-----------------------------------------------------------------------

【純聖】

おいおいおいおいおいおーーーーい!!
どうなってんだよ!!
つーか、これ、幸花本気だよな!本気!!
うお、やべー、チョー人目集めてる。

「おい!幸花!何してんだよ!!」

「わ、分からない……体が……」

暴走かとも思ったけど、どうやらそうじゃないらしい。
俺達って暴走したら基本自我を失う。
まぁ、もう、なにやってんのか分からなくなるつーやつだな。

でも、今の幸花はみる限り、自我があるのに、体の言うことが聞かない。
そんな感じだった。
取り合えずカエルを近くの茂みに離す。
こんなの持ったままじゃ間違えなく殺されちまうからな。

その時、俺の携帯が鳴った。

「ちょーどよかった!!!え?なに、エーテル?今無理ー!!!俺、死に掛けてる!…?幸花がバグったの!!ちょっと、柚子由、幸花になんか言って!!」

掛けてきたのは柚子由だった。
もしかして、俺がカエルをごり押しし過ぎて何かがプッツンしたのかもしれない。
そう思った俺は、携帯の向こうで、「え?え?」とうろたえている柚子由に気にすることなくスピーカにした。

『幸花ちゃん…?どうしたの?何かあった?嫌なことあった?』

柚子由が懸命に幸花に話しかけていた。
すると、幸花の動きがゆっくりになり、こちらに向かって歩いてくる。
お、これは戻ったかも!!とか、思った次の瞬間には血液で作った剣を俺に振りかざしてきた。

まぁ、言うまでもなくばっちり油断してたので、携帯は真っ二つ、俺の後ろに有ったベンチも真っ二つ。けど、俺は無傷。

この時ばかりは自分のすばしっこさに感謝したけど、今はそれどころじゃない。

取り合えず、ここから離れよう。
俺は壊れたベンチからなっがい、鉄の棒を作って、それで幸花の血の剣を受け止めながら近くの裏路地へと引き込んでいった。

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【千星那由多】

さっきの男はなんだったんだろう。
捨て台詞なんか吐いていきやがった。
変な奴がいるもんだ。
そいつが出て行ったのを見送ると、別の格闘ゲームへと移動する。
巽と晴生の姿が見当たらないが、別のゲームで暇を潰してるんだろう。

椅子へと腰かけ、財布を出そうとポケットへと手にかけた時だった。

外、背後から鈍く低い音が響く。
ゲーセンにいるせいかその音はかなり小さく聞こえたが、何か事故でもあったような音だ。
調度ドア側にいたので、外へと視線を向ける。
小さい人影が二人……。
純聖と幸花だ。

もうそこまで来てるのか、と思ったのと同時に、二人が事故に巻き込まれたのではないのかと心配になった。
すぐに立ち上がると自動ドアを抜け、日差しのきつい外へと出る。

……?

少し遠くて良く見えないが、幸花に純聖が……攻撃してる?
二人はこちらに向かってくる様子もなく、純聖の後を追う様に幸花が裏路地へと消えて行った。

少し、様子がおかしい。
もしかしてあいつら喧嘩してんじゃねえのか?

「……ったく……」

俺は巽と晴生に何も告げないまま、純聖と幸花の後を追った。

-----------------------------------------------------------------------

【純聖】

「おい、どうしちまったんだよ!幸花…!!」

「わからない……。」

幸花はあんま表情が変わらないので何を思っているのかわかんにくかったけど、多分ちょっと焦ってる。
鉄パイプで裏路地まで押しきったはいいけど、このパイプはもう駄目。
幸花の血が付いたものは基本つかえねぇ。
なので、それは直ぐ幸花に向かってぶん投げる。

案の定、幸花の血液の糸に寄って、俺が作ったパイプは宙に浮く。
これで、あれは幸花の武器になっちまった訳だ。

俺はめんどくささに髪の毛をグルグル掻きまわした。

「ぁあああ!!!!!なにがどうなって、俺はどうすりゃいいん…だ!!エーテルの皆も暴走してるって柚子由から電話あったし!
……おい、どこいくんだよ…。」

急に幸花は走り出した、俺の横をすり抜ける様に。

「純聖!止めて!」

その時、めったに声を上げない幸花が声を上げた。
これは従わなければならないと思い、俺はそのままバク宙して幸花の前に出る。
血液に直接触れると終わりなので、地面の石を取って幸花の剣を受けた。

そして、そのまま背後にぶっ飛ばされた。

「っって!!!」

一回転して華麗に着地する筈だったのに、俺は何かに背中から思いっきりぶつかった。

-----------------------------------------------------------------------

【幸花】

急に身体がまったく言うことを効かなくなった。
それどころか純聖に攻撃している。
意味がわからない。
そして、私の身体はどこかへ向かおうとしていた。
暴走ではない、意識は……ちゃんとある。

「純聖!止めて!」

今止められるのは純聖しかいない。
言葉が喋れるだけマシだった。
このままでは、私は色んなものを傷つけてしまう。

「お、おい、どうした?喧嘩か?」

目の前で私を止めようとした純聖を突き飛ばしてしまうと、純聖がふっとんだ先にアホナユタがいた。
こんな時に、一番場を掻き乱しそうな奴が来たのがショックだった。
せめて、ハルキかタツミがよかった…。

「ちっげーよ!幸花がおかしーんだよ!!」

「え?幸花が悪いのか?」

アホナユタは状況さえも飲み込めていない。
私の身体は止まる事無く元来た道を戻る様に歩み始めると、再び純聖が鉄パイプを持って殴りかかりに来る。
それを先ほど奪った鉄パイプでいなしながら、もう片方の手が血液を純聖に付着させようと動く。
純聖の身のこなしなら避けれる、けれど、私の動きも容赦がない。

「おい、お前ら、本当にやめろって!!危ないだろ!!」

私達の攻防を見ながら、時折挟んで来るアホナユタの声に苛立ちが募っていく。
でも考えたって仕方ない、こいつはバカでアホなんだから。

「……やめたいのに止めれない……誰かに操られてる……」

その言葉にハッとしたのか、那由多は一度押し黙った。

「……おい、それってもしかして――――」

「純聖くん!幸花ちゃん!!」

何かに気づいた那由多の言葉を遮って、私の背後に柚子由の声が響いた。
まずい、今、柚子由がここに来たら……。

「柚子由来ちゃダメ!!!!」

この後の私の行動に気づいたであろう純聖が柚子由の元へと行く前に、私は自分の血液を鋭利な刃物にした。
いやだ、やめて、だめ、傷つけてはいけない。
一番、傷つけてはいけない人だ。

「…………いや、だ……!!」

頬に何かが伝った気がした。
それが何なのかもわからないまま、私は柚子由に向かって血のナイフを投げつけていた。

-----------------------------------------------------------------------

【純聖】

あーもう!なんでナユタがいんだよ!!
ナユタが嫌いなわけじゃない、当初に比べたらだいぶ好きになった。
それでも、俺の邪魔であることには変わりない。

そして、最悪なことに幸花の後ろから柚子由の声が聞こえた。

距離、幸花の武器を生成するスピード、俺の速さ。

答えは出てた。
柚子由は助からない。

それでも俺の足は地を蹴り、幸花と柚子由の間に割って入った。
幸花に背中を向けながら、俺が割り入るよりも速く飛んでいく血のナイフへと手を伸ばす。

けれど、その、血のナイフは俺の手に触れることなく、目の前の柚子由の腹を貫通していった。

間に合わなかった…。

その後も無数のナイフが俺の腕を掠り、柚子由の腕を掠り、さらに向こうへと飛んでいく。
ただ、俺の背中に飛んできた物は、俺の能力により凍った服へと突き刺さった。
俺は急いで服の前を破る様にして脱ぎ捨てる。

それから、人形のように倒れる柚子由を支える様にして地面に寝かせた。
俺の身長じゃ、柚子由を抱きとめることができないのがもどかしかった。
出来るだけ丁寧に地面に下ろす。

しかし、次の瞬間、幸花はまた血のナイフを投げつけてきた。
俺は脱ぎ捨てた服を凍らせて、大きな壁を作った。
血のナイフはそこに刺さって行く。

柚子由の血液は地面にどんどん広がって行った。
腹を貫かれた激痛で意識も無い。

今の状態じゃ確実に、柚子由は死ぬ。

「幸花……なんてこと、すんだよ……」

俺は目に涙を溜めながら幸花を睨んだ。
でも、その幸花の瞳から流れる涙に俺は息を飲んだ。

操られている。

その言葉が頭の中を反芻した。

-----------------------------------------------------------------------

【千星那由多】

目の前の光景にただただ言葉が出なかった。
幸花は、操られている。
その言葉から、恵芭守で起きた事が脳裏に走った。

心臓が大きく跳ね、今どうすべきなのか頭がついてこない。
下手に動けば、余計に被害が拡大する。

幸花の小さな背中の向こう側に、対峙している純聖が見えた。
いつも明るい純聖とはかけ離れた表情に、胸が抉られる。

純聖が作った氷の壁に、幸花は自分の血液を付着させるように手を振った。
そこから伸びた血の糸が、氷の壁を持ち上げ、純聖との隔たりを奪い、俺の元へと飛んでくる。

「――――ッ!!」

なんとか避けたそれは地面にぶつかり大きな音を立て割れた。
幸花は純聖から視線を外すことなく、再び大量の血のナイフを形成する。
俺はブレスレットから武器を展開させると、この状況に乱れる息を整えるように肩を上下させた。

「………して………」

何かを呟きながら、一本ずつ、まるで子供が駄々を捏ねて玩具を投げるように、血のナイフが純聖へと飛んでいく。
三木さんを守る様に立っていた純聖は、その場所から動こうとしない。

「っ………て……純聖……」

詰まった息を必死で吐くような、掠れた幸花の言葉が聞き取りにくい。
全ての血のナイフが純聖を一直線に狙うように宙に浮くと、幸花が何を言っているのかがわかった。

「……殺して、純聖……」

その言葉に耳を疑った。
そして、目の前の純聖は一瞬表情を崩した後、小さく頷く。
幸花を見つめる目が光を失った。
二人はきっと、覚悟した。

幸花は死ぬことを、純聖は幸花を殺すことを。

……こんな事、あっていいはずがない。
俺には、わからない。
死ぬとか……殺すとか……。
そんな二人を、このまま受け入れていいはずがない。

「――――駄目だ!!!!」

俺は二人を否定した。
それと同時に土と言う文字を宙に綴ると、幸花と血のナイフを完璧に覆う様にドームを形成する。
そして、純聖の元へと走る様に地を蹴った。 





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