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isc(裏)生徒会
スペル戦争(大将対決)
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【加賀見匡】
「……チッ、ここは使えない奴らばかりだな。
さっさと行くぞ田井。」
正直、僕の作った世界を汚す戦い方をする、椎名は気に食わないが、何もあんなに簡単に負ける必要はない。
彼が帰ってくるなり、擦れ違う様に僕は田井を引き連れ戦いの舞台へと向かった。
「こちらは見ての通り、僕が執行人、後ろの田井が犠牲者。
そっちはどうするんだ。」
この前あの白髪の九鬼と言う男はコテンパンにやっつけてやった。
なので、あの神功と言う、愛輝凪の会長が出てくるのだろう。
「犠牲者は僕です。」
そう告げたのは神功左千夫だった。
予想外の言葉に僕は片眉を上げる。
「本気で言っているのか?奴じゃ、僕の相手にならない。」
「それは、以前の話でしょう?
今回は少し楽しんでもらえると思いますよ」
そう言って奴は微笑んだ。
本当に食えない奴だ。
まぁ、いい。誰であろうと早々に叩きつぶすのみだ。
コイントスの結果により、あちらから攻撃することになる。
「ふん。調度良いハンデだな、九鬼。
この前のようなへなちょこさをひけらかしてポイントだけ置いて帰って貰おうか。」
はっきりってこの二人から放たれる気は半端ない。
しかし、ここは僕が作りあげたフィールドだ。
この中では僕が王様なんだ。
執行人のさらに奥に居る犠牲者を睨みつけた。
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【九鬼】
舐められたもんだ。
いや、前回の事を思えば散々な言われ方をしても仕方がない。
けど、あれからボクはこの時のために左千夫クンに鍛えられてきた。
ボクに対して彼はかなり容赦がないので、扱かれていた時の事を思い出すのはイヤだけど、それだけの成果は生まれた気がする。
「ま、へなちょこかどうかは闘ったらわかるんじゃナイ?」
分厚い辞書で自分の肩を叩きながら、からかうような表情で眼鏡君に微笑みかける。
ボクが成長したのは確かだと思うケド、加賀見はこのスペル能力の発動者だ。
それ同等、いや、それ以上の働きをしないといけないだろう。
辞書をぱらぱらと捲り、目に入った文字へ視線を落とす。
「…刃。……鉄、鋭利、殺傷、解体、断絶……。
ボクは無知な男ではなくなった。
それは愛しき者が自分の時間を犠牲にし、貢献してくれたからだ。
その時の恐怖、苦痛はいつの間にか快感に変わり、彼はボクを虜にする。
この世界の王は驕り高ぶっている。
その心が、この世界の均衡がいずれ崩れる事を意味するだろう。
そして、王の家来はいち早くそれを体感する。
地面は尖り無数の刃を愚鈍な家来の体躯に突き立てる。
それは視覚的損傷を現すものではない。
王と家来の精神的な繋がりを絶つための刃だ」
…こんなとこか。
前回のボクを思えばだいぶ喋れている方だろう。
正直だらだらと堅苦しい日本語を喋るのは好きじゃない。
さっさと片付けたい所なんだけど。
そうはいかないのだろうなと思いながら、再び辞書を閉じた。
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【神功左千夫】
九鬼のスペルが耳から入ってくる。
初期のころよりかなり改善されたその音を聞きながら彼の後ろで佇む。
それでもまだ少し突く場所が甘い気がした。
「ほう。少しはマシになったか。
どれだけパートナーに恵まれても僕には敵わない。
絶対的な王に愚民共が適う筈が無い。
王の家来は只一人。
一人しか置かないからこそ絶対的な信頼が其処にある。
それは生半可な刃で貫けるものでは無い。
我が家来の下半身に全ての力を集中させる。
下僕のスペルを使うまでも無く、僕が彼を守る言葉を口にしてやろう。
尖った土は丸くなり、まるで王座のようにこちらの地面を高くする。
高いところらか貴様達を見下ろしてやる。
まだまだ、貴様は僕の足元にも及ばない。
低脳は低脳なまま。
元より、貴様等は階級でさえ相容れない存在。
そこに絆等、存在する筈が無い。
我がしもべに刺さりもせず無駄になった土は大きく岩のように硬くなり。
この王座からの斜面を伝って、蟻の様な二人を潰すだろう。
白と黒の蟻。
仲がいいと言うなら二人一緒に潰れてしまうといい。」
さすが加賀見匡はこのワールドの王様なだけある。
精神的では無く、物理的に僕達の関係性を突いてきた。
そう、僕は会長で、彼は僕を止める為の副会長。
物理的に突くならいい場所だ。
田井雄馬にもダメージと言うダメージは与えられなかったな。
高い場所から転がってくる土はどんどん大きくなりながら僕達に向かって転がってくる。
「九鬼。この攻撃は受けます。
勿論、貴方だけ避けても構いませんが、そうですね。
次は、受け入れる・関係性、から派生させてみましょうか?」
僕達の役職が相容れないことは事実だ。
変に否定することは無い。
ここは押し潰される痛みを受け入れる。
僕は槍を構える様にして攻撃を受ける体勢を取ってから、彼に指示を与えた。
そう、執行人になるよりも後方の犠牲者の位置の方が全てを見渡せてるので僕にとっては事を運びやすかった。
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【九鬼】
上から眺められるのって胸糞悪いな。
そんな事を考えながら目の前の二人を見上げる。
どうやらこの攻撃は受けるみたいなので、特に防御スペルもいらなさそうだ。
「左千夫クンだけ攻撃受けてボクだけ受けないの、なんか嫌だし~」
と言うわけで今回の攻撃はボクも受ける。
巨大になってくる岩が斜面を下り、目の前へと突っ込んでくると、それを受け止めるような体勢になりながら左千夫クンがいる後方へと後退した。
どちらにせよ受け止めるとなるとボクが一番最初に当たっちゃうんだよネ。
左千夫クンは槍でそれを支援する。
潰されはしなかったものの、両手には鎖が巻き付いた。
そして、左千夫クンが次のスペルの提案をした。
ボク達のスペル練習法は、彼が何か単語を口にした後、それを派生させていくという形を取っていた。
とにかくこれがまた辛く、彼が気に入るまで散々喋らされ、納得いかなければボクの嫌いな甘い物を食べさせる罰も与えられていた。
思い出すだけで口の中にあの独特の甘みが…。
「はーい、受け入れる、関係性ね…」
目の前の岩を両拳を突きつけ砕くと、割れた瞬間に存在が消える。
まだ奴等は俺達を見下ろすように小高い斜面の上にいた。
「…受け入れる、ぶつかる、反発、喧嘩、和解……。
関係性…友人、主従、ライバル、仲間……。
相容れない関係、階級であったとしても、ボク達にはそんなの関係ない。
仲間である前にボク達は永遠のライバルであり、運命的に出会った関係。
一度離れた存在が、何億万の糸を手繰り寄せ、再び結ばれれば硬い絆になる。
いや、絆なんて甘い言葉にボクは自分の感情を左右されたくなどない。
糸が切れたって構わない、それでもボクは何物にも頼らず、彼を見つける事ができるだろう。
王が玉座に座ると言うのであれば、素直にその場所を奪ってやろう。
下界にいる無数の民衆は王と下僕に手を伸ばす。
それは木の根のように太く、恨みの籠った物だろう。
身体中にそれが絡みつき、お前達はこの世界に殺される。」
言い切った後で大きく息を吐く。
お堅い言葉がむず痒い。
真面目になればなるほど、とんでもない事を喋りたくなる衝動をなんとか抑え込んだ。
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【加賀見匡】
受けた…?
なるほど、司令塔を後ろに置いたと言うことか。
ならば、前から崩すより攻撃は後ろに当てることができるものに限定した方が良いか。
僕の眼鏡は辞書にもなる。
そして、相手が言った単語を記憶させることもできる。
この前には必要だとは思わなかったが今回は使っておこうと九鬼の言った単語を記憶させていく。
眼鏡の片方が電子音を立てながらディスプレイのようになって行く。
その間に木の根の様なものが僕達の足に絡みついてくる。
これは拘束に値する攻撃のようでそのまま足枷へと形を変えた。
拘束の道具は毎回ランダムに変わる。
それは僕が決めることができるものではないが、今回は異空間から鎖が伸びてきて、その先に革の手錠が付いている。
それが足首に巻き付いたがこれくらいのダメージで王は倒れない。
「おい、俺に攻撃集めても良いぜ?」
「これくらいのダメージなら構わない。」
後ろから田井が喋りかけてくる。
こいつが戦いの事を喋ると言うことは矢張り九鬼は成長していると言うことだな。
「貴様が成長していると言うことは認めてやる。
但し、愚かな民は、愚民でしか無い。
絶対的な王制の前では敵わない。
天から無数の王の兵士。
即ち、我に支配されし者が降り注ぐ、それは全て硬い氷柱のように尖り、愚民が大切にしているものに降り注ぐであろう。
王の逆鱗に触れたことを後悔させるように。
王にとっては二匹の蟻にしか見えないが。
人にとって大切なモノとは異なるもの。
貴様が我に歯向かったから、貴様の大切なものは砕かれる。
貴様が大切だと思ったから、貴様が諦めれるように串刺しになるのだ。
貴様が諦められないから、一際際立つ綺麗な容姿をしたただの民だったものが、この戦いの犠牲となる。」
スペルからして九鬼が一方的な好意を寄せて居る様に取れたのでそこを切り離してみることにした。
勿論まだまだ色々裂き方は有る。
これで潰れるなら二人ともそこまでだったと言うこと。
ただ、後ろの男の笑みを見ると、僕の背筋まで慄くのはなぜだ。
スペルが絶対のこの世界でも彼の存在、オーラは異質だと僕の体が分かってしまっているのだろう。
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【田井雄馬】
九鬼の奴いっぱい勉強したんだろうな。
俺も一回匡ちゃんに鍛えられた事あるけど、頑張れなかったんだよな。
まず俺は物覚えが悪い!!
そんな事を考えていると、相手に氷の柱が落ちようとしていた。
いつ聞いても匡ちゃんのスペルは、トゲトゲしいというかなんと言うか。
さて、相手はどうでるだろうか。
「一つ言いたいんだけどさ、ボク別に左千夫クンが傷ついてもなんとも思わないヨ?
甚振られてるの見るの好きだし。
ま、彼が苦痛に顔を歪めることなんて滅多にないケド~。」
九鬼はなんとなく余裕そうだ。
この闘いを楽しんでいるようにも見える。
元々ふざけた性格だけど、きっと今回は犠牲者に神功がいるからってのもあるだろう。
九鬼は神功に何か耳打ちされたようで、大きく頷いていた。
そしてスペルを放つ。
「下僕……ってホントに眼鏡君は筋肉君のコトそう思ってるのカナ?
言葉では尖った言い方してるけど、本当はすごく信頼してるんでしょ?
気持ちを言葉で表現するのが君は下手なんだネ。
素直になればいいのに。
氷の柱はボクの大切な人を傷つけるかもしれない。
まぁそれも良いだろう。
けど、君達のように王と下僕などと言う偽りの信頼関係に、彼を傷つけさせる理由も無い。
この世界で一番美しいボクの姫を助けよう。
彼が突いた槍は大地をも虜にする。
ひび割れた大地からマグマの手が伸びると、氷の柱など消し去ってしまうだろう。
そして、その熱は風に乗り、王と下僕を熱風に巻き込んで行く」
下僕…。
まぁ確かに匡ちゃんは俺の事そう言うんだけど。
別に俺はそれで構わないけど、匡ちゃんの本心は俺にはわからない。
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【神功左千夫】
「変態…。」
はっきりと甚振られてるの見るのが好きだと言われるとそう呟かざるを得ない。
僕はもっていた槍を地面へと一突きする。
先程の土の攻撃で九鬼との距離は近いままだ。
離れる理由も無いのでそのままだが、これでは結局二人とも攻撃される率が上がる。
僕に刺さった氷の刃は痛みを齎すと同時に二の腕、肩に拘束の皮のベルトが巻かれ、それに空間の狭間から伸びた鎖が繋がれる。
熱は上昇するものなので真っ直ぐに二人へと向かっている。
さて、相手はどう出るか。
「下僕には変わりない…」
加賀見匡がそう呟いた瞬間熱の風が大きくなり二人を飲みこんだ。
僕が指示をした場所は間違っていなかったようだ。
しかし、加賀見匡が続けたスペルは僕が想像しうる中で最悪なものだった。
「しかし、認めよう。
文句も言わず、暴君たる僕についてきたコイツは間違い無く僕の下僕だった。
それでも、我が期待に裏切ること無く、忠義を尽くし、時には無理な命令も、我儘を取り入れるこいつを王は評価する。
聖騎士と格上げされた田井雄馬は更なる飛躍を遂げるだろう。
まずは、その身にまとっている白い隊服が彼を熱から守る。
この時より我が片腕となった彼はその実力を全て発する。
王と同等になった彼だ、その力は王に引けを取らない。
我が右腕よ。
我が授けし、崇高な言葉の繋がりを武器とし、彼らを全て抹殺しろ。
Aの05!!」
認めたか。
矢張りこの世界の王だと言うことは伊達では無い。
こうなってしまうと彼の攻撃は更に凄さを増す。
今まで、下僕と称してあのスペルの強さだ、それが右腕になったことの向上。
田井雄馬が右こぶしを突き出すと同時にいくつものカマイタチが飛んできた。
「僕は彼の犠牲者。
彼が姫と呼び、全ての者が僕の虜になってもそれは変わらない事実。
下僕より王の右腕となった彼の攻撃は広大だ。
しかし、それは全て犠牲者により吸収される。
なぜならば僕にとって物理的な痛みとは他愛ないもの。
どれだけ鎖が巻きついても僕を完全に拘束できるものはない。
彼にだって、僕を完全に捕まえることが出来ないのに。
何も知らないお前達が、僕を捉えられる筈が無い。」
僕は一歩前に出て、その攻撃を槍を構えながら全て体で受け止めた。
普通ならば血飛沫があがりそうなものだが蜘蛛の糸に絡められたように全身に鎖と首輪が巻きついていくだけだった。
「否定してくれると楽だったのですがねぇ…」
これは本心だ。
否定したならばそこから崩れ攻撃可能だっただろうが、彼はそれを認めてしまった。
食えないなと思いながら僕は九鬼に視線を流した。
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【九鬼】
眼鏡君の「下僕じゃないのに下僕って言っちゃうとこを突いちゃおう」作戦は失敗に終わった。
あんまり人間的にできた奴じゃないと思ってたけど、それなりに精神面は強いみたいだ。
そして、威力を増した関係がスペルを強化し、その攻撃は左千夫クンが身体へと浮けた。
本当に彼は怖い物知らずだ。
「一応、大丈夫?って言っておくケド」
彼の横へと並ぶと、その顔を覗き見た。
それにしても、ジンタロマンの時の拘束もエロかったけど、今回の拘束も中々ボク好みだ。
じろじろと彼の姿を見ていると、眉を寄せたのでそれを見て口角をあげた。
「こういう拘束だったらさ、もっと雰囲気出したいよネ」
それだけ告げると拘束されている彼の前へと移動し、ネクタイへと手をかける。
引き抜くと放り投げ、ブレザーを肘辺りまで捲り降ろす。
そして、シャツへと手を伸ばし、ボタンを弾き飛ばすように一気に引っ張り、彼の胸元を露出させる。
彼が拘束されていなければ、こんな事をしたボクは多分殺されてるだろう。
「ネクタイで目とか口とか隠したいケド~、そうなると左千夫クンからのアドバイス受けれなくなるから、やめとくネ♪」
少しわかる程度に顔を歪ませている左千夫クンを見て、ぷすぷすと笑った。
次はどこを破ってやろう。
闘いも忘れて頭を悩ませていると、後方から声が響き渡った。
「貴様…何をしている!!!!」
その声は眼鏡君だった。
ああ、そう言えば次ボク達のターンだった。
「ごっめんごめん♪ボク、ムード大事にするタイプだからサ~!つい☆」
からかう様に眼鏡君にそう言うと、彼はかなり焦っているようだった。
まだまだ青いな。
さて、お遊びはここまでにして…。
ボクは落とした左千夫クンのネクタイを拾いあげた。
「……ネクタイ、拘束、恐怖心、サディズム……。
ボクは人が嫌がるような事をするのが大好きな王子だ。
手に持つネクタイは鞭となり、姫を虐めた聖騎士にお仕置きを食らわす。
君達の関係がいくら強固になっても、ボクは姫の王子だ。
王子の姫を虐めた報いはその身体でたっぷりと受けてもらう」
びっと眼鏡君と筋肉君へと握ったネクタイを向けると、暴れ回りながら先が何本にも別れ、大きく太い鞭のようになっていく。
それを徐に振りかざし、高い場所にいる彼らへと叩きつけた。
「SMは好きかナ?」
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【加賀見匡】
「破廉恥な!!!!」
前のスペルの時もそうだった。
あの時は下品と言う言葉が当てはまったがここまで変態だとは思わなかった。
そして、ここまでされても殆ど顔色を変えない神功も神功だ。
「田井!C06!!!」
これは右手の筋肉を硬化、巨大化して防御するスペルだ。
田井は一字一句間違えずそのスペルを並べてくれる。
それでも防御しきれない分は拘束となって現れるが両手足を拘束されてしまっている神功寄りはこちらはだいぶマシだ。
そう、マシだ。
神功がまるでSMのパッケージのようだなんて僕は思わないんだ…!!!
片手を握ってわなわなとふるえている僕の肩をポンと田井が叩いた。
それで正気にかえる。
そうだ、今はそんなことを考えている場合じゃない。
僕は眼鏡を押しあげると二人を見下ろした。
「矢張り、君たちも犠牲者が精神的要の様ですね。」
神功がゆっくりと口を開いた。
「このゲーム、犠牲者はダメージを受けるだけと思いがちですがもっと奥が深い。
犠牲者は執行人の精神面のフォローも必要とする。
加えて自分の精神を揺らしてはならない。
そして、尚好ましいのが犠牲者がどうなっても執行人がなんとも思わないこと。
でも、それでは絆が無いと言う矛盾が生じる。
君たちはそこをどうやって埋めてるのでしょうね…?」
神功がもっともなことを告げてきた。
そして、それはこのゲームの真髄を語った様なものだった。
そうだ、俺が何と言おうと、俺と田井は信頼で繋がっている。
それは田井が下僕であっても右腕であっても同じだ。
「そうだ。僕達は信頼と言う言葉のもとで繋がっている。
僕はどんな攻撃であろうとこいつなら耐えれると思っているのだ。
それより深い関係が貴様たちにあるとは思えない。
我が右腕が防いだことにより鞭の先端が切れる。
それは寄生虫のように地を這い、持ち主のもとへと帰る。
寄生虫は地を這う途中に養分を吸い取り、大きく長くなり持ち主と一体化するために体に巻きつくだろう。
そして、接した肌が熔けることで漸く持ち主のもとへと帰れるのだ。
王子が王へと姫の物を貢いだことが悲劇となる。
……僕はSMなんて興味ないんだ。」
王子と言う言葉がよりスペルを強めたのは彼がマフィアを継ぐものだからだろう。
それにしても田井をここまで拘束したのはコイツが初めてかもしれないな。
僕はチラッと後ろに視線を流した。
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【千星那由多】
傷ついた身体を巽に回復してもらいながら、会長達の試合を見ていた。
最初はいい感じで頑張っていた副会長だったが、趣味に走り出しているのは明らかだった。
会長の服を破き始めたのには驚いたが、特に二人の仲がそれで悪くなりそうもにもない。
いや、でも、これでいいのか?
このままだとあの人絶対にハメ外すぞ。
加賀見が放ったスペルは気味が悪いものだった。
まぁ、副会長のスペルも趣味が悪いけど。
まるで生き物の様に地を這うものが、会長達へと近づいて行く。
どう出るのかと静かに見守っていると、やはり副会長は副会長だった。
「どんな攻撃でも筋肉君は耐えられるって?
でも君はどうなのかな。
SMなんか好きじゃないとか言いながら、そのスペル、かなり感化されてるヨ?」
確かに…。
そう言われてみれば卑猥に見えない事もないが。
副会長は防御スペルを唱えなかった。
寄生虫が会長の身体にうねうねと巻き付いていく。
「しっかりボクの姫を見てなきゃダメだヨ、眼鏡君。
これで興奮したら君も一人前のサディストだ。
…どちらかと言うと、マゾヒストなのかな?
そもそもこのスペル戦争で拘束という手段を用いている時点で、君の心の奥にはそう言った心理が眠ってるはず♪
…寄生虫、侵入、一体化、結合…。
ボクの姫はそれを全て受け入れる。王子がそれを喜ぶからだ。
お礼に君達にプレゼントを送ろう」
副会長がそう告げると、会長の方へと振り向きベルトを抜いた。
ズボンは落ちることはなかったが、その瞬間に全員からどよめきがあがる。
「姫を纏う神の衣は、君達にとって最高の貢物。
それを王は聖騎士をキツく縛り上げることに使用する。
長く伸びたそれは聖騎士の身体のラインをより一層目立たせ、苦痛に顔を歪める。
王はそれを見て歓喜するだろう」
副会長はとてつもなく楽しそうな口調だった。
全員呆れて物も言えない状況だったが、一番前で見守っている三木さんから発せられるオーラがいつもと違うのは気のせいだろうか。
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【三木柚子由】
不潔です…。
こんなの許せません…!!
でも、左千夫様の邪魔をする訳にはいかないし。
それにしてもくっきーさんが防御スペルを唱えないので左千夫様はかなりの激痛を受けている筈。
それが形となって表れているのが拘束なんだけど…。
首にも手足にも、無数に巻きついていて、なんて言うのかな。
見ちゃ駄目な気がしてくる。
クッキーさんが服を破いたせいで普段余り目にしない左千夫様の肌も見えてるし。
いや、だめ、ちゃんと応援に集中しなきゃ…!
「僕は歓喜などしない…!!!」
向こうの加賀見さんが叫んでる。
うん、歓喜なんかしちゃ駄目だよね。
でも、あんな白い肌見せられちゃったら。
それ以上は見て居られなくて、私は俯いてしまった。
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【加賀見匡】
ど、どういうことだ…!
なぜ、あの神功と言う男は防御スペルを唱え無いんだ。
皮膚を焼いているんだぞ、僕の蟲は!!
痛みでダメージを受けて居るのに思った以上に相手の拘束が増えない。
「ほら、九鬼。
王様が焦ってますよ?」
「どうして貴様は…!今の状態に耐えることができる…!!」
こんな破廉恥な状態を晒すだけで僕なら無理だ。
しかも、パートナーにこんなことまで言われて…!
「なぜって…。
貼り付いた蟲が僕の体を溶かしてもそれは現実に起きて居ることでは無い。
そして、現実に身が焦げる痛みでも耐えれる僕にとってはこれくらいの激痛では精神を破壊されるところまでは至らない。
ただ、それだけですよ。
ダメージが拘束としてあらわれる。
それは、肉体が損傷していない証になります。
僕はその事実だけで攻撃に耐えることができる。
それに…九鬼…、彼が横に居ますしね。」
そう言って彼はこの事態を引き起こしている九鬼に向かって微笑んだのだ。
寄りにもよって笑みを浮かべたのだ。
「す、崇高な僕の…世界が…この、世界が……」
僕は田井をほったらかして頭を抱えた。
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【田井雄馬】
九鬼の攻撃がきた。
これまたなんか変なスペル使ってきやがったけど、こんなの匡ちゃんにかかればちょちょいのちょいだぜ!!
って思ってたんだけど。
俺の身体に長くなったベルトが巻き付く。
九鬼が言ったようになんか妙に身体のラインを強調される巻き方で、その上かなり締め上げられる。
でもこれくらいの圧迫感ならまだ大丈夫だ。
俺は問題無い。
それよりも問題は匡ちゃんだ。
様子がかなりおかしい。
巻き付いたベルトがそのまま鎖とベルトの拘束へと変わると、俺もだいぶ惨めな姿になってきた。
でもま、まだなんとかなる範囲だろう。
頭を抱えている匡ちゃんへと歩み寄ると、その顔を覗き込む。
「どーした?なんか様子おかしいぞ?
らしくねーじゃん!
こんなのパーっと返してパーっとやっつけちゃうのが匡ちゃんだろ?」
彼の背中をバシバシと叩き、いつものように笑ってみせた。
いつもクールぶってるけど、たまにこういう所を見せられると、支えてやらなきゃなと思う。
俺が支えになるかはわかんねーけど。
「なんか真面目に考えすぎじゃね?もっと気楽にいこーぜ!!」
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【神功左千夫】
結局、こちらの方向へと来てしまった。
元より九鬼の得意分野でもあるので仕方が無いかと思い肩を竦める。
そのおかげで加賀見匡がぐらりと揺れたのは間違い無いようだが。
かなり痛い代償だな。
しかし、こちらも後が無いのでゆずる訳にはいかない。
どんな手を使っても、だ。
この先をどうするか考えていると、田井によって励まされた加賀見匡が唇を開いた。
「我が聖騎士を見世物にした罪は重い。
王と聖騎士の契りはお前たちのように不純なものでは無い。
他の者たちの前で楽しむものでは無い。
こんなもので王を誑かそうなど言語道断。
騎士が地面を踏みしめることにより無数の小石が跳びはねる。
我がスペルは重力もろとも支配する。
ただの小石も僕達に掛れば、鋭利な武器となる。
それに全てのGを掛けて、この上から彼らに落とそう。
既にボロボロの姫の体を貫通させ、生き血を我に捧げよ!」
高低差がある為、かなりの重力、そして、スピードで無数の石粒がこちらに向かってとんでくる。
それよりも、だ。
体を這う虫みたいなものが気持ち悪くて仕方が無い。
しかも、分泌する粘液で体を溶かすときている。
九鬼が服を肌蹴させたせいで余計なダメージを貰った。
この戦いが終われば思う存分九鬼に怒りをぶつけてやろう。
「さぁ、九鬼。
貴方の得意分野で存分に対抗してください。
どうやら玉座の王は何も知らない無知な男の様です。
僕達の幻影のように美しい愛を見せびらかせてあげて下さい。」
僕は九鬼に向かって満面の笑みを向けた。
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【九鬼】
楽しい。楽しすぎる。
やっぱりボクにはこういう方向性が向いている。
それにどうやら眼鏡君は思った以上に純粋なようだ。
そして、左千夫クンもそれに気づいているのか、ボクの行動に更に拍車をかけてきた。
その中に「幻影」という言葉が混じっていたが、これは多分「幻術を使え」という意味だろう。
「存分にって言われた、ボクもヤらないわけにはいかないよネ♪
…王はボク達の愛の大きさを知らない。
それは性別をも超える。
放たれた石など、ただ目を背けたいだけの子供が石を投げつけているような物だ。
そんなものでは、大人のボク達に傷一つつけることはできない。
…永遠の愛、恋人、重なる心、交わり合う肉体……。
美しい姫の幻影は、真実を映し出す。
荒い息遣いが聞こえたのなら、耳をすませ。
ぶつかり合う身体が纏う体液は、二人を永遠に繋ぎ合わせる。
この世の何よりも美しい本能的な行為。
純真無垢な王を大人へと成長する手助けをしてやろう」
石粒は威力を失い、少し痛いぐらいの小石へと変化するとパラパラと振ってくるだけだった。
隣にいる左千夫クンの頬へと手を伸ばすと、眼鏡君と筋肉君に見せつけるように唇を重ねていく。
そして、ズボンへと手をかけ、ゆっくりと彼の下半身を晒すように降ろしていった。
いや、これは左千夫クンの幻術だ。
キスをするシーンから膝蹴りを腹にお見舞いされたので、残念ながらできなかった。
そこからは眼鏡君の童貞妄想によるが、幻術のボクと左千夫クンは、お子ちゃまにとっては刺激の強すぎる物を見せつけているだろう。
痛む腹を撫でながら、口角をあげ彼らを見上げた。
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【加賀見匡】
キスしている…。
目の前で男同士がキスしている…!!
確かに神功は姫と表現してもいいくらい綺麗だ。
それは認めよう。
しかし、彼は男なのだ。
いや、もしかしたら女なのか…!!?
僕の頭が混乱する。
眼鏡が作りあげたディスプレイには派生した言葉も映る。
キス、接吻、口付け、性交、セックス、エッチ…。
その瞬間神功の下半身が露わになった。
付いてる!!確かに僕達と同じものが付いてる…!!!
と、言うことは神功は間違いなく男だ。
その男と九鬼が…九鬼が。
神功が九鬼に足を絡みつけ向かいあう様にして体を寄せ合う。
その狭間から、あれは…、九鬼の……九鬼の……
僕の眼鏡を押さえる手がガクガクと震える。
入ってる…、確実にあれが、あれに入ってる!!!!
「落ち付けって、匡ちゃん。
セックスなんてそんな、大したことねーって。
アナルセックスつーのも、あるし。」
大 し た こ と な い … !!
「な!!田井!貴様はせせせせせっくすをしたことがあると言うのか…!!?」
「あ?その、あれだぜ!匡ちゃんと離れてる時の話だけどな…、匡ちゃん?匡ちゃん…?」
これは何と言うのだろう、色んな感情が僕の中に溢れてきた。
そして、その思考を邪魔するように神功の甲高い声が耳に入る。
「ぼ、僕の、神聖な世界が―――!!!!!」
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【田井雄馬】
やばい、これはちょっと、やばい。
見てる光景は別に何とも思わない。
良くクラスの奴等と見てたりするし。
生で男同士でヤってんのは初めて見るけど、相手が綺麗なら結構許されるもんだな。
いや、そこの話じゃなくって……ヤバイのは匡ちゃんだ。
明らかに動揺、と言うよりもう発狂しそうな勢いだ。
ここはなんとか元気づけてあげなければ。
「だ、大丈夫だって!!俺らの年で童貞なんてまだいっぱいいるし!
なんなら女の子紹介してやろっか?」
「…………貴様ッ!!!!」
あれ?
なんか俺突くとこ間違った?
自分が童貞だってこと気にしてたんじゃねーの?
どうしようもできずに慌てていると、絡み合っている九鬼が言葉を放った。
「こんなに気持ちいいこと知らないなんて、まだまだお子ちゃまだネ♪
んじゃ、今のうちにターンいただこっかナ!」
やっべー!!まずい!!どうしたらいいんだ俺!
えっと、スペル…俺も唱えたら…………う、うわああああ何言っていいのかわかんねえ!!!!
いっつもコマンドだったからわかんねえ!!!!
「王と聖騎士の絆は脆く儚い。
姫と王子の愛を見せつけられた王は、跪き、地面にひれ伏した。
ボク達を穢れていると思うのは、王の心も身体もまだ幼いからだ。
木々たちはボク達の愛を祝福し、踊り始める。
そしてそれは絆を絶たれた聖騎士の元へと向かい、彼の身体を弄ぶだろう」
嫌味のように九鬼がウインクすると、辺りの木がまるで人のように踊り狂い始めた。
そして、俺達の元へと来る。
「匡ちゃん!匡ちゃん!!しっかりしてよ!!」
項垂れて耳を塞いでいる匡ちゃんの肩をガクガクと揺らしながら、声をかけるが反応が無い。
あっという間に木に周りを囲まれると、伸びて来た枝で身体を弄繰り回される。
それと同時に拘束もどんどん増えて行った。
「匡ちゃんんんんんんんんッッ!!!!!」
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【神功左千夫】
案外呆気なかったな。
最後は僕の見せた幻術と九鬼のスペルによって簡単に完全拘束されてしまったようだ。
田井雄馬は全身を革の拘束ベルトで結ばれた上から鎖が巻きついている。
あれを解くのは大変だろうと思いながら異空間から鎖が解き放たれると革手錠を外し、服装を正していく。
「やったね!左千夫クン!!祝福のキッスは!!」
そう言いながら横に居た九鬼がこちらに来た。
このまま顔面を殴ってやろうかと思ったが、僕は彼の首に腕を巻きつかせ、その頬にキスをしてやる。
「褒美ですよ。よく頑張りましたね。」
実際、女好きの九鬼にとって男にキスされても何の喜びも無いと思うが。
寧ろ、嫌がっても面白いなと思っていると案の定九鬼はその場で固まっていた。
いつもいつもふざけたことを言っている割には彼も初心だと、少し上機嫌になりながら僕は自分の陣地へと戻った。
“Congratulations!!
愛輝凪高校は全てのステージをクリアしました。
よって、参加の10ポイント、および戦利品の10ポイントを贈呈します。
出口は奥の赤い扉になってますのでご自由にお帰り下さい。”
機械音が部屋に響き渡る。
そして、ブレスレッドにも光が灯る。
向こうでは御神圭が目を覚ましたらしく、五十嵐の肩を借りてこちらへと向かってきた。
「いい勝負だったよ、神功君。
今度は決勝で会おう、恵芭守高校はもう充分に得点を稼いだので表からは下がってこのラビリンスに篭ることにするよ。
ここの難しさは君たちが一番よくわかっただろう。」
彼が片手を出してきたので僕はその手を握った。
そう。ここはまず、入場料が10ポイント必要だ。
更に途中の戦いでも相手にポイントが取られる。
最終的にクリアすれば20ポイント帰ってくることになるが中の戦いでよほど有利に進めない限り、あまり得点的には伸びないのだ。
「流石、文武両道の学校ですね。
考えることも違います。それでは、柚子由も戻ったので僕達は失礼しますね。」
しかし、実戦は少なかったが精神的にいい修業になったな。
椎名優月には少しだけ感謝しようと僕達はその場を去った。
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【九鬼】
後半はノリノリだった。
こういう闘い方ならいくらでもしてやってもいい。
拘束でぐるぐる巻きになった筋肉君と、落ち込みっぷりの酷い眼鏡君は、見ているだけでおもしろかった。
そしてなによりこの闘いで得た一番の物。
左千夫クンからの祝福のキッス!!だ。
冗談だったので、あの真面目な彼がしてくれるとは思っていなかった。
いつもならノリノリで仕返すところなんだが、驚きの方が大きく、躊躇ってしまったのは言うまでもない。
ゆずずからは多分見えていなかったと思う。
ただ、合流した時に闘い方に対して「不潔です!」と言われたケド。
とにかく、長いようで短い1日は終わった。
愛輝凪の(裏)生徒会に入って、意外と楽しくやれてる自分にも驚くな。
ボクもどこか、最初の頃と変わっているのだろうか。
ラビリンスを出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。
先を行く左千夫クンの後を追うと、横へと並ぶ。
「ね、ね、今度から闘いに勝ったらちゅーしてヨ♪」
満面の笑みを向けると、彼も一瞬微笑んだのでOKなのかと思いきや、ボクの足を思い切り踏んづけたので、多分答えは「NO」なんだろう。
「……チッ、ここは使えない奴らばかりだな。
さっさと行くぞ田井。」
正直、僕の作った世界を汚す戦い方をする、椎名は気に食わないが、何もあんなに簡単に負ける必要はない。
彼が帰ってくるなり、擦れ違う様に僕は田井を引き連れ戦いの舞台へと向かった。
「こちらは見ての通り、僕が執行人、後ろの田井が犠牲者。
そっちはどうするんだ。」
この前あの白髪の九鬼と言う男はコテンパンにやっつけてやった。
なので、あの神功と言う、愛輝凪の会長が出てくるのだろう。
「犠牲者は僕です。」
そう告げたのは神功左千夫だった。
予想外の言葉に僕は片眉を上げる。
「本気で言っているのか?奴じゃ、僕の相手にならない。」
「それは、以前の話でしょう?
今回は少し楽しんでもらえると思いますよ」
そう言って奴は微笑んだ。
本当に食えない奴だ。
まぁ、いい。誰であろうと早々に叩きつぶすのみだ。
コイントスの結果により、あちらから攻撃することになる。
「ふん。調度良いハンデだな、九鬼。
この前のようなへなちょこさをひけらかしてポイントだけ置いて帰って貰おうか。」
はっきりってこの二人から放たれる気は半端ない。
しかし、ここは僕が作りあげたフィールドだ。
この中では僕が王様なんだ。
執行人のさらに奥に居る犠牲者を睨みつけた。
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【九鬼】
舐められたもんだ。
いや、前回の事を思えば散々な言われ方をしても仕方がない。
けど、あれからボクはこの時のために左千夫クンに鍛えられてきた。
ボクに対して彼はかなり容赦がないので、扱かれていた時の事を思い出すのはイヤだけど、それだけの成果は生まれた気がする。
「ま、へなちょこかどうかは闘ったらわかるんじゃナイ?」
分厚い辞書で自分の肩を叩きながら、からかうような表情で眼鏡君に微笑みかける。
ボクが成長したのは確かだと思うケド、加賀見はこのスペル能力の発動者だ。
それ同等、いや、それ以上の働きをしないといけないだろう。
辞書をぱらぱらと捲り、目に入った文字へ視線を落とす。
「…刃。……鉄、鋭利、殺傷、解体、断絶……。
ボクは無知な男ではなくなった。
それは愛しき者が自分の時間を犠牲にし、貢献してくれたからだ。
その時の恐怖、苦痛はいつの間にか快感に変わり、彼はボクを虜にする。
この世界の王は驕り高ぶっている。
その心が、この世界の均衡がいずれ崩れる事を意味するだろう。
そして、王の家来はいち早くそれを体感する。
地面は尖り無数の刃を愚鈍な家来の体躯に突き立てる。
それは視覚的損傷を現すものではない。
王と家来の精神的な繋がりを絶つための刃だ」
…こんなとこか。
前回のボクを思えばだいぶ喋れている方だろう。
正直だらだらと堅苦しい日本語を喋るのは好きじゃない。
さっさと片付けたい所なんだけど。
そうはいかないのだろうなと思いながら、再び辞書を閉じた。
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【神功左千夫】
九鬼のスペルが耳から入ってくる。
初期のころよりかなり改善されたその音を聞きながら彼の後ろで佇む。
それでもまだ少し突く場所が甘い気がした。
「ほう。少しはマシになったか。
どれだけパートナーに恵まれても僕には敵わない。
絶対的な王に愚民共が適う筈が無い。
王の家来は只一人。
一人しか置かないからこそ絶対的な信頼が其処にある。
それは生半可な刃で貫けるものでは無い。
我が家来の下半身に全ての力を集中させる。
下僕のスペルを使うまでも無く、僕が彼を守る言葉を口にしてやろう。
尖った土は丸くなり、まるで王座のようにこちらの地面を高くする。
高いところらか貴様達を見下ろしてやる。
まだまだ、貴様は僕の足元にも及ばない。
低脳は低脳なまま。
元より、貴様等は階級でさえ相容れない存在。
そこに絆等、存在する筈が無い。
我がしもべに刺さりもせず無駄になった土は大きく岩のように硬くなり。
この王座からの斜面を伝って、蟻の様な二人を潰すだろう。
白と黒の蟻。
仲がいいと言うなら二人一緒に潰れてしまうといい。」
さすが加賀見匡はこのワールドの王様なだけある。
精神的では無く、物理的に僕達の関係性を突いてきた。
そう、僕は会長で、彼は僕を止める為の副会長。
物理的に突くならいい場所だ。
田井雄馬にもダメージと言うダメージは与えられなかったな。
高い場所から転がってくる土はどんどん大きくなりながら僕達に向かって転がってくる。
「九鬼。この攻撃は受けます。
勿論、貴方だけ避けても構いませんが、そうですね。
次は、受け入れる・関係性、から派生させてみましょうか?」
僕達の役職が相容れないことは事実だ。
変に否定することは無い。
ここは押し潰される痛みを受け入れる。
僕は槍を構える様にして攻撃を受ける体勢を取ってから、彼に指示を与えた。
そう、執行人になるよりも後方の犠牲者の位置の方が全てを見渡せてるので僕にとっては事を運びやすかった。
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【九鬼】
上から眺められるのって胸糞悪いな。
そんな事を考えながら目の前の二人を見上げる。
どうやらこの攻撃は受けるみたいなので、特に防御スペルもいらなさそうだ。
「左千夫クンだけ攻撃受けてボクだけ受けないの、なんか嫌だし~」
と言うわけで今回の攻撃はボクも受ける。
巨大になってくる岩が斜面を下り、目の前へと突っ込んでくると、それを受け止めるような体勢になりながら左千夫クンがいる後方へと後退した。
どちらにせよ受け止めるとなるとボクが一番最初に当たっちゃうんだよネ。
左千夫クンは槍でそれを支援する。
潰されはしなかったものの、両手には鎖が巻き付いた。
そして、左千夫クンが次のスペルの提案をした。
ボク達のスペル練習法は、彼が何か単語を口にした後、それを派生させていくという形を取っていた。
とにかくこれがまた辛く、彼が気に入るまで散々喋らされ、納得いかなければボクの嫌いな甘い物を食べさせる罰も与えられていた。
思い出すだけで口の中にあの独特の甘みが…。
「はーい、受け入れる、関係性ね…」
目の前の岩を両拳を突きつけ砕くと、割れた瞬間に存在が消える。
まだ奴等は俺達を見下ろすように小高い斜面の上にいた。
「…受け入れる、ぶつかる、反発、喧嘩、和解……。
関係性…友人、主従、ライバル、仲間……。
相容れない関係、階級であったとしても、ボク達にはそんなの関係ない。
仲間である前にボク達は永遠のライバルであり、運命的に出会った関係。
一度離れた存在が、何億万の糸を手繰り寄せ、再び結ばれれば硬い絆になる。
いや、絆なんて甘い言葉にボクは自分の感情を左右されたくなどない。
糸が切れたって構わない、それでもボクは何物にも頼らず、彼を見つける事ができるだろう。
王が玉座に座ると言うのであれば、素直にその場所を奪ってやろう。
下界にいる無数の民衆は王と下僕に手を伸ばす。
それは木の根のように太く、恨みの籠った物だろう。
身体中にそれが絡みつき、お前達はこの世界に殺される。」
言い切った後で大きく息を吐く。
お堅い言葉がむず痒い。
真面目になればなるほど、とんでもない事を喋りたくなる衝動をなんとか抑え込んだ。
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【加賀見匡】
受けた…?
なるほど、司令塔を後ろに置いたと言うことか。
ならば、前から崩すより攻撃は後ろに当てることができるものに限定した方が良いか。
僕の眼鏡は辞書にもなる。
そして、相手が言った単語を記憶させることもできる。
この前には必要だとは思わなかったが今回は使っておこうと九鬼の言った単語を記憶させていく。
眼鏡の片方が電子音を立てながらディスプレイのようになって行く。
その間に木の根の様なものが僕達の足に絡みついてくる。
これは拘束に値する攻撃のようでそのまま足枷へと形を変えた。
拘束の道具は毎回ランダムに変わる。
それは僕が決めることができるものではないが、今回は異空間から鎖が伸びてきて、その先に革の手錠が付いている。
それが足首に巻き付いたがこれくらいのダメージで王は倒れない。
「おい、俺に攻撃集めても良いぜ?」
「これくらいのダメージなら構わない。」
後ろから田井が喋りかけてくる。
こいつが戦いの事を喋ると言うことは矢張り九鬼は成長していると言うことだな。
「貴様が成長していると言うことは認めてやる。
但し、愚かな民は、愚民でしか無い。
絶対的な王制の前では敵わない。
天から無数の王の兵士。
即ち、我に支配されし者が降り注ぐ、それは全て硬い氷柱のように尖り、愚民が大切にしているものに降り注ぐであろう。
王の逆鱗に触れたことを後悔させるように。
王にとっては二匹の蟻にしか見えないが。
人にとって大切なモノとは異なるもの。
貴様が我に歯向かったから、貴様の大切なものは砕かれる。
貴様が大切だと思ったから、貴様が諦めれるように串刺しになるのだ。
貴様が諦められないから、一際際立つ綺麗な容姿をしたただの民だったものが、この戦いの犠牲となる。」
スペルからして九鬼が一方的な好意を寄せて居る様に取れたのでそこを切り離してみることにした。
勿論まだまだ色々裂き方は有る。
これで潰れるなら二人ともそこまでだったと言うこと。
ただ、後ろの男の笑みを見ると、僕の背筋まで慄くのはなぜだ。
スペルが絶対のこの世界でも彼の存在、オーラは異質だと僕の体が分かってしまっているのだろう。
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【田井雄馬】
九鬼の奴いっぱい勉強したんだろうな。
俺も一回匡ちゃんに鍛えられた事あるけど、頑張れなかったんだよな。
まず俺は物覚えが悪い!!
そんな事を考えていると、相手に氷の柱が落ちようとしていた。
いつ聞いても匡ちゃんのスペルは、トゲトゲしいというかなんと言うか。
さて、相手はどうでるだろうか。
「一つ言いたいんだけどさ、ボク別に左千夫クンが傷ついてもなんとも思わないヨ?
甚振られてるの見るの好きだし。
ま、彼が苦痛に顔を歪めることなんて滅多にないケド~。」
九鬼はなんとなく余裕そうだ。
この闘いを楽しんでいるようにも見える。
元々ふざけた性格だけど、きっと今回は犠牲者に神功がいるからってのもあるだろう。
九鬼は神功に何か耳打ちされたようで、大きく頷いていた。
そしてスペルを放つ。
「下僕……ってホントに眼鏡君は筋肉君のコトそう思ってるのカナ?
言葉では尖った言い方してるけど、本当はすごく信頼してるんでしょ?
気持ちを言葉で表現するのが君は下手なんだネ。
素直になればいいのに。
氷の柱はボクの大切な人を傷つけるかもしれない。
まぁそれも良いだろう。
けど、君達のように王と下僕などと言う偽りの信頼関係に、彼を傷つけさせる理由も無い。
この世界で一番美しいボクの姫を助けよう。
彼が突いた槍は大地をも虜にする。
ひび割れた大地からマグマの手が伸びると、氷の柱など消し去ってしまうだろう。
そして、その熱は風に乗り、王と下僕を熱風に巻き込んで行く」
下僕…。
まぁ確かに匡ちゃんは俺の事そう言うんだけど。
別に俺はそれで構わないけど、匡ちゃんの本心は俺にはわからない。
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【神功左千夫】
「変態…。」
はっきりと甚振られてるの見るのが好きだと言われるとそう呟かざるを得ない。
僕はもっていた槍を地面へと一突きする。
先程の土の攻撃で九鬼との距離は近いままだ。
離れる理由も無いのでそのままだが、これでは結局二人とも攻撃される率が上がる。
僕に刺さった氷の刃は痛みを齎すと同時に二の腕、肩に拘束の皮のベルトが巻かれ、それに空間の狭間から伸びた鎖が繋がれる。
熱は上昇するものなので真っ直ぐに二人へと向かっている。
さて、相手はどう出るか。
「下僕には変わりない…」
加賀見匡がそう呟いた瞬間熱の風が大きくなり二人を飲みこんだ。
僕が指示をした場所は間違っていなかったようだ。
しかし、加賀見匡が続けたスペルは僕が想像しうる中で最悪なものだった。
「しかし、認めよう。
文句も言わず、暴君たる僕についてきたコイツは間違い無く僕の下僕だった。
それでも、我が期待に裏切ること無く、忠義を尽くし、時には無理な命令も、我儘を取り入れるこいつを王は評価する。
聖騎士と格上げされた田井雄馬は更なる飛躍を遂げるだろう。
まずは、その身にまとっている白い隊服が彼を熱から守る。
この時より我が片腕となった彼はその実力を全て発する。
王と同等になった彼だ、その力は王に引けを取らない。
我が右腕よ。
我が授けし、崇高な言葉の繋がりを武器とし、彼らを全て抹殺しろ。
Aの05!!」
認めたか。
矢張りこの世界の王だと言うことは伊達では無い。
こうなってしまうと彼の攻撃は更に凄さを増す。
今まで、下僕と称してあのスペルの強さだ、それが右腕になったことの向上。
田井雄馬が右こぶしを突き出すと同時にいくつものカマイタチが飛んできた。
「僕は彼の犠牲者。
彼が姫と呼び、全ての者が僕の虜になってもそれは変わらない事実。
下僕より王の右腕となった彼の攻撃は広大だ。
しかし、それは全て犠牲者により吸収される。
なぜならば僕にとって物理的な痛みとは他愛ないもの。
どれだけ鎖が巻きついても僕を完全に拘束できるものはない。
彼にだって、僕を完全に捕まえることが出来ないのに。
何も知らないお前達が、僕を捉えられる筈が無い。」
僕は一歩前に出て、その攻撃を槍を構えながら全て体で受け止めた。
普通ならば血飛沫があがりそうなものだが蜘蛛の糸に絡められたように全身に鎖と首輪が巻きついていくだけだった。
「否定してくれると楽だったのですがねぇ…」
これは本心だ。
否定したならばそこから崩れ攻撃可能だっただろうが、彼はそれを認めてしまった。
食えないなと思いながら僕は九鬼に視線を流した。
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【九鬼】
眼鏡君の「下僕じゃないのに下僕って言っちゃうとこを突いちゃおう」作戦は失敗に終わった。
あんまり人間的にできた奴じゃないと思ってたけど、それなりに精神面は強いみたいだ。
そして、威力を増した関係がスペルを強化し、その攻撃は左千夫クンが身体へと浮けた。
本当に彼は怖い物知らずだ。
「一応、大丈夫?って言っておくケド」
彼の横へと並ぶと、その顔を覗き見た。
それにしても、ジンタロマンの時の拘束もエロかったけど、今回の拘束も中々ボク好みだ。
じろじろと彼の姿を見ていると、眉を寄せたのでそれを見て口角をあげた。
「こういう拘束だったらさ、もっと雰囲気出したいよネ」
それだけ告げると拘束されている彼の前へと移動し、ネクタイへと手をかける。
引き抜くと放り投げ、ブレザーを肘辺りまで捲り降ろす。
そして、シャツへと手を伸ばし、ボタンを弾き飛ばすように一気に引っ張り、彼の胸元を露出させる。
彼が拘束されていなければ、こんな事をしたボクは多分殺されてるだろう。
「ネクタイで目とか口とか隠したいケド~、そうなると左千夫クンからのアドバイス受けれなくなるから、やめとくネ♪」
少しわかる程度に顔を歪ませている左千夫クンを見て、ぷすぷすと笑った。
次はどこを破ってやろう。
闘いも忘れて頭を悩ませていると、後方から声が響き渡った。
「貴様…何をしている!!!!」
その声は眼鏡君だった。
ああ、そう言えば次ボク達のターンだった。
「ごっめんごめん♪ボク、ムード大事にするタイプだからサ~!つい☆」
からかう様に眼鏡君にそう言うと、彼はかなり焦っているようだった。
まだまだ青いな。
さて、お遊びはここまでにして…。
ボクは落とした左千夫クンのネクタイを拾いあげた。
「……ネクタイ、拘束、恐怖心、サディズム……。
ボクは人が嫌がるような事をするのが大好きな王子だ。
手に持つネクタイは鞭となり、姫を虐めた聖騎士にお仕置きを食らわす。
君達の関係がいくら強固になっても、ボクは姫の王子だ。
王子の姫を虐めた報いはその身体でたっぷりと受けてもらう」
びっと眼鏡君と筋肉君へと握ったネクタイを向けると、暴れ回りながら先が何本にも別れ、大きく太い鞭のようになっていく。
それを徐に振りかざし、高い場所にいる彼らへと叩きつけた。
「SMは好きかナ?」
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【加賀見匡】
「破廉恥な!!!!」
前のスペルの時もそうだった。
あの時は下品と言う言葉が当てはまったがここまで変態だとは思わなかった。
そして、ここまでされても殆ど顔色を変えない神功も神功だ。
「田井!C06!!!」
これは右手の筋肉を硬化、巨大化して防御するスペルだ。
田井は一字一句間違えずそのスペルを並べてくれる。
それでも防御しきれない分は拘束となって現れるが両手足を拘束されてしまっている神功寄りはこちらはだいぶマシだ。
そう、マシだ。
神功がまるでSMのパッケージのようだなんて僕は思わないんだ…!!!
片手を握ってわなわなとふるえている僕の肩をポンと田井が叩いた。
それで正気にかえる。
そうだ、今はそんなことを考えている場合じゃない。
僕は眼鏡を押しあげると二人を見下ろした。
「矢張り、君たちも犠牲者が精神的要の様ですね。」
神功がゆっくりと口を開いた。
「このゲーム、犠牲者はダメージを受けるだけと思いがちですがもっと奥が深い。
犠牲者は執行人の精神面のフォローも必要とする。
加えて自分の精神を揺らしてはならない。
そして、尚好ましいのが犠牲者がどうなっても執行人がなんとも思わないこと。
でも、それでは絆が無いと言う矛盾が生じる。
君たちはそこをどうやって埋めてるのでしょうね…?」
神功がもっともなことを告げてきた。
そして、それはこのゲームの真髄を語った様なものだった。
そうだ、俺が何と言おうと、俺と田井は信頼で繋がっている。
それは田井が下僕であっても右腕であっても同じだ。
「そうだ。僕達は信頼と言う言葉のもとで繋がっている。
僕はどんな攻撃であろうとこいつなら耐えれると思っているのだ。
それより深い関係が貴様たちにあるとは思えない。
我が右腕が防いだことにより鞭の先端が切れる。
それは寄生虫のように地を這い、持ち主のもとへと帰る。
寄生虫は地を這う途中に養分を吸い取り、大きく長くなり持ち主と一体化するために体に巻きつくだろう。
そして、接した肌が熔けることで漸く持ち主のもとへと帰れるのだ。
王子が王へと姫の物を貢いだことが悲劇となる。
……僕はSMなんて興味ないんだ。」
王子と言う言葉がよりスペルを強めたのは彼がマフィアを継ぐものだからだろう。
それにしても田井をここまで拘束したのはコイツが初めてかもしれないな。
僕はチラッと後ろに視線を流した。
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【千星那由多】
傷ついた身体を巽に回復してもらいながら、会長達の試合を見ていた。
最初はいい感じで頑張っていた副会長だったが、趣味に走り出しているのは明らかだった。
会長の服を破き始めたのには驚いたが、特に二人の仲がそれで悪くなりそうもにもない。
いや、でも、これでいいのか?
このままだとあの人絶対にハメ外すぞ。
加賀見が放ったスペルは気味が悪いものだった。
まぁ、副会長のスペルも趣味が悪いけど。
まるで生き物の様に地を這うものが、会長達へと近づいて行く。
どう出るのかと静かに見守っていると、やはり副会長は副会長だった。
「どんな攻撃でも筋肉君は耐えられるって?
でも君はどうなのかな。
SMなんか好きじゃないとか言いながら、そのスペル、かなり感化されてるヨ?」
確かに…。
そう言われてみれば卑猥に見えない事もないが。
副会長は防御スペルを唱えなかった。
寄生虫が会長の身体にうねうねと巻き付いていく。
「しっかりボクの姫を見てなきゃダメだヨ、眼鏡君。
これで興奮したら君も一人前のサディストだ。
…どちらかと言うと、マゾヒストなのかな?
そもそもこのスペル戦争で拘束という手段を用いている時点で、君の心の奥にはそう言った心理が眠ってるはず♪
…寄生虫、侵入、一体化、結合…。
ボクの姫はそれを全て受け入れる。王子がそれを喜ぶからだ。
お礼に君達にプレゼントを送ろう」
副会長がそう告げると、会長の方へと振り向きベルトを抜いた。
ズボンは落ちることはなかったが、その瞬間に全員からどよめきがあがる。
「姫を纏う神の衣は、君達にとって最高の貢物。
それを王は聖騎士をキツく縛り上げることに使用する。
長く伸びたそれは聖騎士の身体のラインをより一層目立たせ、苦痛に顔を歪める。
王はそれを見て歓喜するだろう」
副会長はとてつもなく楽しそうな口調だった。
全員呆れて物も言えない状況だったが、一番前で見守っている三木さんから発せられるオーラがいつもと違うのは気のせいだろうか。
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【三木柚子由】
不潔です…。
こんなの許せません…!!
でも、左千夫様の邪魔をする訳にはいかないし。
それにしてもくっきーさんが防御スペルを唱えないので左千夫様はかなりの激痛を受けている筈。
それが形となって表れているのが拘束なんだけど…。
首にも手足にも、無数に巻きついていて、なんて言うのかな。
見ちゃ駄目な気がしてくる。
クッキーさんが服を破いたせいで普段余り目にしない左千夫様の肌も見えてるし。
いや、だめ、ちゃんと応援に集中しなきゃ…!
「僕は歓喜などしない…!!!」
向こうの加賀見さんが叫んでる。
うん、歓喜なんかしちゃ駄目だよね。
でも、あんな白い肌見せられちゃったら。
それ以上は見て居られなくて、私は俯いてしまった。
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【加賀見匡】
ど、どういうことだ…!
なぜ、あの神功と言う男は防御スペルを唱え無いんだ。
皮膚を焼いているんだぞ、僕の蟲は!!
痛みでダメージを受けて居るのに思った以上に相手の拘束が増えない。
「ほら、九鬼。
王様が焦ってますよ?」
「どうして貴様は…!今の状態に耐えることができる…!!」
こんな破廉恥な状態を晒すだけで僕なら無理だ。
しかも、パートナーにこんなことまで言われて…!
「なぜって…。
貼り付いた蟲が僕の体を溶かしてもそれは現実に起きて居ることでは無い。
そして、現実に身が焦げる痛みでも耐えれる僕にとってはこれくらいの激痛では精神を破壊されるところまでは至らない。
ただ、それだけですよ。
ダメージが拘束としてあらわれる。
それは、肉体が損傷していない証になります。
僕はその事実だけで攻撃に耐えることができる。
それに…九鬼…、彼が横に居ますしね。」
そう言って彼はこの事態を引き起こしている九鬼に向かって微笑んだのだ。
寄りにもよって笑みを浮かべたのだ。
「す、崇高な僕の…世界が…この、世界が……」
僕は田井をほったらかして頭を抱えた。
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【田井雄馬】
九鬼の攻撃がきた。
これまたなんか変なスペル使ってきやがったけど、こんなの匡ちゃんにかかればちょちょいのちょいだぜ!!
って思ってたんだけど。
俺の身体に長くなったベルトが巻き付く。
九鬼が言ったようになんか妙に身体のラインを強調される巻き方で、その上かなり締め上げられる。
でもこれくらいの圧迫感ならまだ大丈夫だ。
俺は問題無い。
それよりも問題は匡ちゃんだ。
様子がかなりおかしい。
巻き付いたベルトがそのまま鎖とベルトの拘束へと変わると、俺もだいぶ惨めな姿になってきた。
でもま、まだなんとかなる範囲だろう。
頭を抱えている匡ちゃんへと歩み寄ると、その顔を覗き込む。
「どーした?なんか様子おかしいぞ?
らしくねーじゃん!
こんなのパーっと返してパーっとやっつけちゃうのが匡ちゃんだろ?」
彼の背中をバシバシと叩き、いつものように笑ってみせた。
いつもクールぶってるけど、たまにこういう所を見せられると、支えてやらなきゃなと思う。
俺が支えになるかはわかんねーけど。
「なんか真面目に考えすぎじゃね?もっと気楽にいこーぜ!!」
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【神功左千夫】
結局、こちらの方向へと来てしまった。
元より九鬼の得意分野でもあるので仕方が無いかと思い肩を竦める。
そのおかげで加賀見匡がぐらりと揺れたのは間違い無いようだが。
かなり痛い代償だな。
しかし、こちらも後が無いのでゆずる訳にはいかない。
どんな手を使っても、だ。
この先をどうするか考えていると、田井によって励まされた加賀見匡が唇を開いた。
「我が聖騎士を見世物にした罪は重い。
王と聖騎士の契りはお前たちのように不純なものでは無い。
他の者たちの前で楽しむものでは無い。
こんなもので王を誑かそうなど言語道断。
騎士が地面を踏みしめることにより無数の小石が跳びはねる。
我がスペルは重力もろとも支配する。
ただの小石も僕達に掛れば、鋭利な武器となる。
それに全てのGを掛けて、この上から彼らに落とそう。
既にボロボロの姫の体を貫通させ、生き血を我に捧げよ!」
高低差がある為、かなりの重力、そして、スピードで無数の石粒がこちらに向かってとんでくる。
それよりも、だ。
体を這う虫みたいなものが気持ち悪くて仕方が無い。
しかも、分泌する粘液で体を溶かすときている。
九鬼が服を肌蹴させたせいで余計なダメージを貰った。
この戦いが終われば思う存分九鬼に怒りをぶつけてやろう。
「さぁ、九鬼。
貴方の得意分野で存分に対抗してください。
どうやら玉座の王は何も知らない無知な男の様です。
僕達の幻影のように美しい愛を見せびらかせてあげて下さい。」
僕は九鬼に向かって満面の笑みを向けた。
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【九鬼】
楽しい。楽しすぎる。
やっぱりボクにはこういう方向性が向いている。
それにどうやら眼鏡君は思った以上に純粋なようだ。
そして、左千夫クンもそれに気づいているのか、ボクの行動に更に拍車をかけてきた。
その中に「幻影」という言葉が混じっていたが、これは多分「幻術を使え」という意味だろう。
「存分にって言われた、ボクもヤらないわけにはいかないよネ♪
…王はボク達の愛の大きさを知らない。
それは性別をも超える。
放たれた石など、ただ目を背けたいだけの子供が石を投げつけているような物だ。
そんなものでは、大人のボク達に傷一つつけることはできない。
…永遠の愛、恋人、重なる心、交わり合う肉体……。
美しい姫の幻影は、真実を映し出す。
荒い息遣いが聞こえたのなら、耳をすませ。
ぶつかり合う身体が纏う体液は、二人を永遠に繋ぎ合わせる。
この世の何よりも美しい本能的な行為。
純真無垢な王を大人へと成長する手助けをしてやろう」
石粒は威力を失い、少し痛いぐらいの小石へと変化するとパラパラと振ってくるだけだった。
隣にいる左千夫クンの頬へと手を伸ばすと、眼鏡君と筋肉君に見せつけるように唇を重ねていく。
そして、ズボンへと手をかけ、ゆっくりと彼の下半身を晒すように降ろしていった。
いや、これは左千夫クンの幻術だ。
キスをするシーンから膝蹴りを腹にお見舞いされたので、残念ながらできなかった。
そこからは眼鏡君の童貞妄想によるが、幻術のボクと左千夫クンは、お子ちゃまにとっては刺激の強すぎる物を見せつけているだろう。
痛む腹を撫でながら、口角をあげ彼らを見上げた。
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【加賀見匡】
キスしている…。
目の前で男同士がキスしている…!!
確かに神功は姫と表現してもいいくらい綺麗だ。
それは認めよう。
しかし、彼は男なのだ。
いや、もしかしたら女なのか…!!?
僕の頭が混乱する。
眼鏡が作りあげたディスプレイには派生した言葉も映る。
キス、接吻、口付け、性交、セックス、エッチ…。
その瞬間神功の下半身が露わになった。
付いてる!!確かに僕達と同じものが付いてる…!!!
と、言うことは神功は間違いなく男だ。
その男と九鬼が…九鬼が。
神功が九鬼に足を絡みつけ向かいあう様にして体を寄せ合う。
その狭間から、あれは…、九鬼の……九鬼の……
僕の眼鏡を押さえる手がガクガクと震える。
入ってる…、確実にあれが、あれに入ってる!!!!
「落ち付けって、匡ちゃん。
セックスなんてそんな、大したことねーって。
アナルセックスつーのも、あるし。」
大 し た こ と な い … !!
「な!!田井!貴様はせせせせせっくすをしたことがあると言うのか…!!?」
「あ?その、あれだぜ!匡ちゃんと離れてる時の話だけどな…、匡ちゃん?匡ちゃん…?」
これは何と言うのだろう、色んな感情が僕の中に溢れてきた。
そして、その思考を邪魔するように神功の甲高い声が耳に入る。
「ぼ、僕の、神聖な世界が―――!!!!!」
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【田井雄馬】
やばい、これはちょっと、やばい。
見てる光景は別に何とも思わない。
良くクラスの奴等と見てたりするし。
生で男同士でヤってんのは初めて見るけど、相手が綺麗なら結構許されるもんだな。
いや、そこの話じゃなくって……ヤバイのは匡ちゃんだ。
明らかに動揺、と言うよりもう発狂しそうな勢いだ。
ここはなんとか元気づけてあげなければ。
「だ、大丈夫だって!!俺らの年で童貞なんてまだいっぱいいるし!
なんなら女の子紹介してやろっか?」
「…………貴様ッ!!!!」
あれ?
なんか俺突くとこ間違った?
自分が童貞だってこと気にしてたんじゃねーの?
どうしようもできずに慌てていると、絡み合っている九鬼が言葉を放った。
「こんなに気持ちいいこと知らないなんて、まだまだお子ちゃまだネ♪
んじゃ、今のうちにターンいただこっかナ!」
やっべー!!まずい!!どうしたらいいんだ俺!
えっと、スペル…俺も唱えたら…………う、うわああああ何言っていいのかわかんねえ!!!!
いっつもコマンドだったからわかんねえ!!!!
「王と聖騎士の絆は脆く儚い。
姫と王子の愛を見せつけられた王は、跪き、地面にひれ伏した。
ボク達を穢れていると思うのは、王の心も身体もまだ幼いからだ。
木々たちはボク達の愛を祝福し、踊り始める。
そしてそれは絆を絶たれた聖騎士の元へと向かい、彼の身体を弄ぶだろう」
嫌味のように九鬼がウインクすると、辺りの木がまるで人のように踊り狂い始めた。
そして、俺達の元へと来る。
「匡ちゃん!匡ちゃん!!しっかりしてよ!!」
項垂れて耳を塞いでいる匡ちゃんの肩をガクガクと揺らしながら、声をかけるが反応が無い。
あっという間に木に周りを囲まれると、伸びて来た枝で身体を弄繰り回される。
それと同時に拘束もどんどん増えて行った。
「匡ちゃんんんんんんんんッッ!!!!!」
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【神功左千夫】
案外呆気なかったな。
最後は僕の見せた幻術と九鬼のスペルによって簡単に完全拘束されてしまったようだ。
田井雄馬は全身を革の拘束ベルトで結ばれた上から鎖が巻きついている。
あれを解くのは大変だろうと思いながら異空間から鎖が解き放たれると革手錠を外し、服装を正していく。
「やったね!左千夫クン!!祝福のキッスは!!」
そう言いながら横に居た九鬼がこちらに来た。
このまま顔面を殴ってやろうかと思ったが、僕は彼の首に腕を巻きつかせ、その頬にキスをしてやる。
「褒美ですよ。よく頑張りましたね。」
実際、女好きの九鬼にとって男にキスされても何の喜びも無いと思うが。
寧ろ、嫌がっても面白いなと思っていると案の定九鬼はその場で固まっていた。
いつもいつもふざけたことを言っている割には彼も初心だと、少し上機嫌になりながら僕は自分の陣地へと戻った。
“Congratulations!!
愛輝凪高校は全てのステージをクリアしました。
よって、参加の10ポイント、および戦利品の10ポイントを贈呈します。
出口は奥の赤い扉になってますのでご自由にお帰り下さい。”
機械音が部屋に響き渡る。
そして、ブレスレッドにも光が灯る。
向こうでは御神圭が目を覚ましたらしく、五十嵐の肩を借りてこちらへと向かってきた。
「いい勝負だったよ、神功君。
今度は決勝で会おう、恵芭守高校はもう充分に得点を稼いだので表からは下がってこのラビリンスに篭ることにするよ。
ここの難しさは君たちが一番よくわかっただろう。」
彼が片手を出してきたので僕はその手を握った。
そう。ここはまず、入場料が10ポイント必要だ。
更に途中の戦いでも相手にポイントが取られる。
最終的にクリアすれば20ポイント帰ってくることになるが中の戦いでよほど有利に進めない限り、あまり得点的には伸びないのだ。
「流石、文武両道の学校ですね。
考えることも違います。それでは、柚子由も戻ったので僕達は失礼しますね。」
しかし、実戦は少なかったが精神的にいい修業になったな。
椎名優月には少しだけ感謝しようと僕達はその場を去った。
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【九鬼】
後半はノリノリだった。
こういう闘い方ならいくらでもしてやってもいい。
拘束でぐるぐる巻きになった筋肉君と、落ち込みっぷりの酷い眼鏡君は、見ているだけでおもしろかった。
そしてなによりこの闘いで得た一番の物。
左千夫クンからの祝福のキッス!!だ。
冗談だったので、あの真面目な彼がしてくれるとは思っていなかった。
いつもならノリノリで仕返すところなんだが、驚きの方が大きく、躊躇ってしまったのは言うまでもない。
ゆずずからは多分見えていなかったと思う。
ただ、合流した時に闘い方に対して「不潔です!」と言われたケド。
とにかく、長いようで短い1日は終わった。
愛輝凪の(裏)生徒会に入って、意外と楽しくやれてる自分にも驚くな。
ボクもどこか、最初の頃と変わっているのだろうか。
ラビリンスを出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。
先を行く左千夫クンの後を追うと、横へと並ぶ。
「ね、ね、今度から闘いに勝ったらちゅーしてヨ♪」
満面の笑みを向けると、彼も一瞬微笑んだのでOKなのかと思いきや、ボクの足を思い切り踏んづけたので、多分答えは「NO」なんだろう。
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