あなたのタマシイいただきます!

さくらんこ

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isc(裏)生徒会

天秤の間

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【神功左千夫】

このラビリンスのモンスターは幻術か機械仕掛けで出来ている。
那由多君のお陰で明かりも十分に確保できている。
後方は夏岡陣太郎と弟月太一に任せるとして僕と九鬼は那由多君のフォロー、巽君と晴生君にサイドを頼んだ。

「……っと、九鬼。貴方には幻術の攻撃は効かないかもしれませんが、那由多君には効くのでちゃんと防いでくださいね。」

九鬼は攻撃を選びながらかわしている。
彼は幻術が効きにくい体質だ。
特に彼に危害を加えるもの、攻撃系の幻術は効きにくい。

なので、どうしても機械だけを選って潰しているようだが那由多君にはそれが当たってしまう。
僕はそれをフォローするように槍で薙いで行く。

中は幻術が作りあげた複雑な迷路になっていた。
何度か外れの道を引きながらもどんどん奥へと進んで行った。

そうすると、仰々しい扉がそこに佇んでいた。

「僕が開きます。」

そう言って扉の前に立つ。
そして、扉に手を翳すとその扉は勝手に開いていった。

『ようこそ!!
ここでは、ファーストステージのクリアを掛けてゲームを行って貰う。』

そこに入った瞬間、御神圭の声が広がった。
僕達の前は崖になっていた。
そして、向こう側にも小さく陸地がありその先は崖になり、真ん中に闘技場のような形の陸地があった。

『名づけて天秤の間!!!
それでは、法花君!フィールドを展開してくれたまえ!』

御神の言葉と共に角帽にアカデミックドレスを着た小さな少女が一歩前に出る。
白に近いシルバーの長い髪を靡かせながら片手を中心にある闘技場へと翳した。

「Room of the balance」

彼女がそう告げた瞬間、僕達の前には黒い円が出来る。
そうして、真ん中にあった闘技場に無数の天秤がはえてくる。
足場だった地面は消え、天秤の底は奈落の底と言わんばかりに真っ暗だった。

『簡単にルールを説明しよう。
5対5のバトルマッチ、参加するものは前に出来た円に入ってくれたまえ。』


■■■天秤の間■■■

・5対5のゲーム
・参加ポイント1(最後まで残ってられた場合、倍になって返ってくる)
・天秤から落ちたら負け(天秤から落ちると自動的に自分の陣地に戻る仕組みになってくる)
・武器、能力の使用OK
・挑戦者チームが先に全員落ちた場合ラビリンスゲームはそこで終了する、先に恵芭守のメンバーを全員落とすと先に進むことができる。



『以上だ!何か分からないことは有るかい?』

僕達よりも少し高い位置に陣地がある恵芭守高校のメンバーはこちらを見下ろしていた。
なるほど、点数的にはこちらが少し不利なゲームになるが仕方ないか。
僕は椎名優月の方を見たが、彼は興味のなさそうな顔をしていた。
ここは出ないと言うことなのか…。

僕達は作戦を練る為一度円陣を組んだ。

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【夏岡陣太郎】

天秤があちらこちらに立つが、その下は見えない。
落ちたら死ぬわけではないだろうけど、見てるだけで不安になるような光景だった。

始まる前に全員が集まり誰を選出するか話し合いになる。
5対5、慎重に選ばないとここで負けたら終了になってしまう。

「重くなりすぎたらダメって事だよな?だったら簡単に考えたら、体重軽かったり飛べる奴のが有利ってことになるけど…」

左千夫にそう告げると、少し考えた後小さく頷いた。

「では、九鬼、夏岡、柚子由、幸花、純聖。の5人で行きましょうか。
九鬼と夏岡は周りが落ちないように極力フォローをしてください」

選ばれた五人が各々返事をすると、足元に出た円の手前へと立つ。
あちらは既に選出メンバーは決まっていたのか、すでにこちらを見ていた。
見た感じ全員胴着を着ていて、男から女、特にこれと言って偏っているわけではないようだ。

俺は武器を展開させると、マントを装着する。
九鬼も翼を背中へと生やした。
多分すぐに戦闘をしかけてくるだろうけれど、柚子由ちゃん達はまだ武器は展開していない。
あの天秤の上にどれぐらいいれるのかもまだわからないから慎重にいかないと。

「頑張ってください、夏岡さん!」

「おー頑張ってくるよ!」

晴生がぐっと拳を握ったので、そこに拳を重ねる。
先にあちらが黒い円の中へと立ったようだ。
俺達も相手に続いて円の中へと足を踏み入れる。

『Transfer starts』

その声が聞こえたと同時に、俺達の身体は天瓶の上へと移動した。
まだ試合は始まっていないみたいだ。
天秤はふわふわと均衡を保っている。

調度真横に二つのデカいモニターが出て来ると、そこに出場者の名前と顔が表示された。
相手の出場者は、御神圭、五十嵐栞子、田井雄馬、大比良樹里、Chloe Barnes、となっている。

『よく分かる様に中継モニターも用意した。
落ちれば名前は消えて行くから参考にしてくれたまえ』

確かにこのフィールドは結構広いので、誰が落ちたかとかわかんないからありがたいかも。

「っしゃーみんな頑張ろうぜー!!」

『よし、そちらも準備はいいみたいだね。
この試合、楽しんでくれ。
……では、ファーストステージ「天秤の間」ゲームスタート!!!!』

ビィイイっと警報音の様な試合開始の合図が辺りに響くと、いきなり天秤の均衡が崩れる。
軽く蹴り上げ空中へと浮くと、辺りを見回した。
皆すぐに移動してるみたいだけど、純聖、幸花の体重でもそれなりに天秤は傾くようだ。
やっぱりあんまり長くは乗ってられないみたいだな。

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【純聖】

「うお!!!あぶねー!!!」

うーん、どうやら、これはずっと乗ってたら落ちてしまうみたいだ。
ところどころ天秤に武器も用意されてる、使っても良いと言うことだろう。

取り合えず、俺は能力を解放させて置く。
俺の能力に関しては自分の体重が増えるものではないからな。

武器の置いてある天秤へと飛び乗り、その上の武器を数個落としてみた。
多分、俺の体重と釣り合う位…。

「……っと、やっぱり、釣り合ってると落ちねーンだな。」

二つの天秤、向こう側には武器の塊、こっち側には俺と少しの武器。
誰かとペアになったほうが良いのか、さっさと敵を倒した方がいいのか分からずに俺は腕を組み首を傾げた。

「うーん……わかんねー」

“皆さん聞こえますか。”

悩んでいる最終に左千夫の声がブレスレッドから聞こえた。

「なんだよ!左千夫。」

“簡単にだが相手の能力が分かった、伝えて置く。”

次に聞こえたのはオトヅキの声だった。
こいつの声は海以来聞くだけで体が硬直する。
弟月の能力は顔を見るだけで相手の事が分かるってたな、こういう時便利だなと思い耳を傾けた。

“まず、恵芭守(エバス) 高校は武か知のスペシャリストを育てる学校だ。
道着を着てる奴らが武のスペシャリスト、逆にアカデミックドレスを着ている奴らが知のスペシャリスト。
基本的に戦闘は武のスペシャリスト、つまり道着を着ている奴が行うと思う。

まず、
五十嵐栞子、(裏)生徒会助副会長、三年、専攻は武器だ。
能力は知覚遮断。

田井雄馬、反副会長補佐、二年、専攻は体術。
能力は筋肉操作。

大比良樹里、書記補佐、三年、専攻は銃器。
能力はどんなものでも、弾に出来るようだ。

Chloe Barnes(クロエ バーンズ)会計補佐・三年、専攻は気功
能力は体重変化。

御神圭、(裏)生徒会会長、まぁ、コイツは知ってると思うが、能力は幻術だ。
この学校に居ながら特に特化しているものはないようだ。

そして、多分だが、この戦闘に置いて気を付けなければならないのは、クロエ バーンズだ。

また何か分かり次第、連絡する。”


……なんか、難しいこと言ってた。
取り合えず、クロエつーのを倒したら良いんだよな、クロエってあれだよな、あの、色黒のボインのねーちゃん。
あ、調度、あそこに跳んでんじゃね?

俺はそれを見つけるなりそっちに向かって天秤の上を跳ねていった。

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【九鬼】

「九鬼!勝負しようぜ!俺一回お前と闘ってみたかったんだよ!」

田井雄馬がさっきからしつこい。
筋肉バカとはまさにこの事か。
相手はうまく天秤の上を飛びながらこちらへ殴りかかってくる。
その攻撃の速さは見事だが、趣旨をわかってるのかが謎だ。

攻撃を飛び回りながらかわしているが、こちらもずっと翼で飛んでいられるわけではなかった。
それに周りのフォローもしたい所だし。

田井の攻撃を避けながら、仲間がどうなってるかを確認する。
ジンタロマンはマントがあるから大丈夫か。
ゆずずはさっちーがなんとかしてくれてるみたいだし。
問題はおチビく……。

「あれ!?いない!!」

さっきまでそこに居たと思ったおチビくんがいない。
無謀にもおっぱいの女の子、クロエちゃんに突っかかっていってるみたいだ。
体重変化とか言ってたよね。
多分最大の難関はクロエちゃんだが、真向でかかっていくのはちょっとボクでもごめんなんだけど。

田井をほっぽって純聖の側まで飛んで行く。
クロエちゃんは天秤の上に乗ったままだ。
と言うか軽く浮いているような状態。
便利な能力だなと思っていたら、純聖がクロエちゃんに熱の籠った手で攻撃をしようとしていた。

「わーちょっと待って待って!」

その攻撃をすり抜けるようにかわしたクロエちゃんは、隣の天秤へと宙を回転しながら飛び移る。
体重変化が能力だとしても、その身のこなしは多分ここにいる中で一番だろう。
それを何度か繰り返している途中におチビくんが落ちそうになったので、急いで彼の身体を捕まえる。

「一人で行動しなーい!もうちょっとボインの子は様子見るヨ。
先に他のアホそーな奴ヤっちゃおう」

おチビくんの身体を抱えたまま飛んでいると、正面をきって田井が拳を振り切ってくる。

「無視すんなよ!勝負しろ九鬼ー!!」

アホそうな奴。
そうだな、田井が今一番落としやすいか。
奴が天秤へと着地する寸前に、皿へと視線を向けると質量が変わるように能力を送り込む。
飛んでる時に能力使うのは骨が折れるけど、鬱陶しいしバイバイさせとこう。

「また今度ネ♪」

そう言葉にしたと同時に、田井が天秤へと足を着いた。
一瞬にしてその少しの重みが皿の重みと同化し、田井は奈落の底へとボクを指差しながら落ちていった。

一人目終了ー♪

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【Chloe Barnes】

田井君が落ちていった。
まぁ、仕方が無いですね、あの子、頭はからっきしみたいなので。

私達の陣地に出来たままの黒い円から田井君は吐き出される。
そう、この奈落の底に落ちても死ぬわけじゃない。
ただ、自分の陣地に戻ってしまうだけ。

“田井雄馬 場外によりOUT”

ナレーションの声が響くと同時にブレスレッドの通信の為に輝いた。

『加賀見君、ちゃんと田井君に指示を。』

『嫌だ。どうして僕が一回戦からそんな面倒なことをしなければならない。』

御神君と加賀君の言葉が聞こえてくる。
会長と反副会長だからかな、ここは少し仲が悪い。
勿論、御神君は気付いてないみたい。
そこが彼のイイトコロなんだけど。

『クロエ。』

「はーい。」

『君はちゃんと、法花君の言うことを聞く様に。大比良君と、栞子さんも』

ブレスレッドから各々の返事が聞こえる。
そう、ここは知と武が別れ、プロフェッショナルを育成する学校。
なので、作戦関係は知の生徒に任せる方が得策。
言われなくても私はりっちゃんを信じているので首を縦に振った。

「だって。どうしよっか、りっちゃん。」

『落ちないように、様子見で良いです。』

いつも通りそっけない言葉が帰ってくるけどそこがりっちゃんのイイトコロ。
私はその命令通りに攻めることなく、相手の様子をうかがって行く。

私は体重を自由に変えることができるので、天秤の上にジッと立っていることができる。
だから、相手が攻めてこない限り動く必要はないの。

そうしている間に他の二人が武器を手に取り始めていた。

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【幸花】

常に移動するだけでも結構体力が削られそう。
柚子由と一緒の天秤に飛び移りたいけれど、同じ皿に乗ることはできないし、反対側の皿に乗れば私は軽いので柚子由が落ちる。

「めんどくさい…」

仕方なく先に柚子由が飛んだ後を追う様にして守って行く。
どうやら相手チームの大半が柚子由狙いできてるみたい。
一応見えないぐらいに血の糸を身体に張っているので、落ちる時は一緒か助けることぐらいはできると思う。

「お、落ちてくださいっ!」

自分の身体より大きな銃、まるで大砲のような物を持った女が、飛んだ状態で大きな弾を撃ってきた。
それは柚子由は避けきったが、すぐさま女はその大砲を捨てると次はライフル銃を手にしていた。
鎖を女へと向けて放つと、銃へと絡みつかせる。
奪う様にそれごと女の身体を引っ張ったが、すぐに手を離されて落とすことはできなかった。

「……ちッ…」

左千夫に柚子由を守れって言われてる。
純聖は今九鬼に抱えられている状態だ。
これ以上柚子由を狙ってこられるとこちらとしても困る。

ある程度の攻撃はもちろん柚子由も避けることができるけど、あちらは闘う事に関しては多分私より上を行くのは確かだ。
そこがまた辛いとこ。

飛んでくる弓や弾をなんとか避けながら天秤から天秤へと乗り移る。
私の事が気になるのか、柚子由は何度も後ろを振り返っていた。

「気にしなくていい…柚子由は前だけ見てて」

そう言った所で、柚子由と私の間に割り入って、目の前に御神が現れた。
いや、多分これは幻術だ。
本体は今ここにはいない。

天秤の皿の上を交互に飛び跳ね、落ちないようにバランスを取る。

「邪魔、どいて」

すぐにわかる幻術など私には通用しない。
ロザリオナイフで右腕を切ると、その血を刃のように硬く尖らせ、目の前の御神を切るようにして次の天秤へと乗り移った。

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【御神圭】

僕は御神圭。
春に(裏)生徒会の全貌を暴こうとして転校にまで追い込まれた。
しかし、今は彼らを恨んではいない。
いや、逆に感謝すらしている。

この恵芭守(エバス)高校に転校出来たおかげで新しい人生を送ることができたのだから。

僕は記憶を消されそうになったときに自分の傷に爪を立てることでそれを阻止した。
彼らにそれがばれていたのかばれていなかったかは分からないが。

だから、千星君のことも、日当瀬君のことも、三木君のことも覚えている。

「大比良君、その調子で三木君を追い詰めてくれ。」

女性を全員で狙うのは卑怯だとも思うが、これは学校の名誉を掛けたゲーム。
僕は(裏)生徒会長として勝たなければならない身分なのでそんなことも言ってられない。
僕の幻術で作った分身を飛ばしたがそれは幸花君と言う少女に消されてしまったようだ。

「クロエ以外は僕についてきたまえ、総攻撃と行こうか。知の皆、それでいいかい?」

この学校は基本、知を専攻したものと武を専攻したものが二人一組になって普段の生活をおくっている。
裏生徒会も同様だ。
ただ、僕はこの学校では例外なのでずっと一人なのだが。

作戦を練るのは知のグループなので彼らに確認を取る。
加賀見君は僕に反抗的だが、他のメンバーは異論を唱えることは少ない。
幸い、田井君は落ちてしまっているので、加賀見君も何も言わないであろう。
全員の頷く声をブレスから聞くと僕達は三木君に総攻撃を掛けた。

勿論、僕を筆頭にだが。

胡桃色の髪を靡かせ、邪魔な仮面を相手に向かって投げつける。
その瞬間に幻術を発動させ、僕の分身を何体も作りあげた。

そして、それを目隠しにしながら大比良君に銃を撃って貰う。

近くに居る、幸花君が邪魔だな。
そう思った僕はそちらへと向かっていった。

フライスウェイターを振り上げると無数の針がねの様な糸を流れる様にウェーブさせた。

「ブルームプロフュージョン!!!!」

さて、彼女が幻術に掛ればこれで何かが起こるはずだが。

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【幸花】

キリがない。
クキとナツオカもこちらに気づいて参戦してくれているけど、正直この幻術が鬱陶しい。
それでなくてもこの場所は元々ミカミの幻術で、フィールドも相手が作り上げてる。
ちょっと気を抜くと騙されてしまいそう。

弾をうまく弾き落としながら、天秤の上を跳ねて行く。
血の糸も範囲外に出ると切れてしまうので、できれば柚子由とあまり離れたくはない。

ミカミの分身を切り刻んで行く。
しかし一体妙な動きをした。
そして、何かを口走る。
武器を振り降ろしてくるこの感覚、多分目の前にいるミカミは本物だ。
そう思ってしまったのが失敗だった。
ハエタタキのようなものを振りかざし、針金のような糸がこちらを目がけて襲ってくる。
後退するしかない。

身を翻しながら後ろの天秤に乗り移る。
それでも針金はついてくる。
幻術だとわかっているのに、さっきミカミを本物と認識してしまったせいか、それはとてもリアルだった。

「…最悪……」

柚子由からどんどん離れて行ってしまう。
でも、逃げてるだけじゃダメ、幸花。

天秤に足を着くと、重力の勢いで飛び跳ね、その針金へと向かっていく。
一度刺さればその感覚で幻術だと身体が気づくかもしれない。
強行突破だけど、切り刻まれるのは慣れてる。

飛び込んで行った私の身体に、うねるようにして針金が無数に突き刺さった。

「……ッく……!!」

痛い。全身に穴を空けられたような感覚。
でも、違う、こんなの本当の痛みじゃない。
もっともっと、痛いもの。
切り刻まれて最後の一滴ギリギリまで血を搾り取られる感覚。
あの痛みとは全然違う。

「……だって、血が出ないもの…」

そう呟くと、私の身体にささっている無数の針金は消えて行った。
天秤に落ちるように着地したけれど、すかさずバランスを保ち、少し離れた先のミカミを睨む。
体力はだいぶ削られてしまったけれど、意識は保っている。
幻術だと頭と体が理解してくれたからもう大丈夫だ。

「カクゴして、ミカミ……」

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【御神圭】

流石、愛輝凪の(裏)生徒会のメンバーに選ばれた事だけのことはある。
こんな小さな子なのに凄い能力だ。

普通なら幻術のフライスウェイターでも人を切り刻むことくらい容易いのに目の前の少女を切り刻むことができなかった。
僕も天秤の上には長居出来ないので、柔らかく跳びはねながら体勢をキープする。

どうやら、僕が本物だってことにも気付かれてしまったようだ。

「仕方が無いね。麗しのレディー、君から落としてあげるよ。」

ふさっと後ろ髪の裾を払ってから、フライスウェイターを構え直す。
このフライスウェイターは本物だ、それを大きくしていくと彼女を捕まえる為に網を広げる。

「今度は本物だからね、気を付けたまえ――ッ!」

天秤を強く蹴ると、幸花君のもとへと飛んでいく。
僕が足場にした天秤はバランスを崩しけたたましい音と共に奈落の底へと落ちていった。
そうすると支えていた中央の柱も崩れて無くなってしまう。

跳びかかった幸花君には上手くかわされてしまい、僕は天秤ではなく、中央の柱に足を付くことになる。

「―――ッ!!!」

びりっ!と電流が全身に走る。
中央部に乗ることが出来ない様な仕掛けになっているので仕方が無い。
その電流から逃れる為に直ぐに幸花君のもとへと飛んでいく。

出来れば道連れにと思いながら、電流が流れているフライスウェイターを彼女へと振りかぶった。

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【幸花】

どうやらあの柱の真ん中に立つと電流が流れるみたい。
それでも目の前のミカミは物怖じせずに、大きくなったハエタタキをこちらに振りかぶってくる。

捕まる――――。

……訳にはいかない。

右腕に硬化させていた血の刃をゆるい液状にすると、それを網状にし先に自分を包み込む。
すぐに大きくなったハエタタキは、その血の網の上へと覆いかぶさり、私の身体を包もうとした。
血液から電流が伝わってくる感覚に表情が歪む。
しかし怯んでいる暇はない。
このまま押し付けられると天秤が落下する。

右腕の傷を更に抉ると、血液を送り込みその網を太く強くした。

「私はハエじゃない……っ」

その言葉と同時に、ハエタタキに血の網を密着させると、飛び上がる反動でハエタタキをミカミの方へと返した。
私の血が付着したものは、繋がっている血液の糸が切られるか、私の血が全て無くなるまで操る事ができる。

次はミカミが捕まる番。
血で操られたハエタタキが奴の身体に覆いかぶさった瞬間に、身動きを封じるように鎖で締め上げた。
袋の紐を締めるような感覚だ。

そのまま一気に自分の身体に引き寄せるように、鎖を引っ張った。
私もこの状態じゃミカミと一緒に落ちてしまう。
道連れしかないか…柚子由の事は心配だけど、純聖に任せよう。
そう思った瞬間に、ミカミと一緒に落下しそうになった身体を誰かに抱えられた。

「大丈夫!そのまま御神落として!」

それはナツオカだった。
私の身体はミカミをぶら下げたまま宙で止まる。
武器の鎖が今ここで無くなるのは痛いけれど、それしか方法はないみたい。

掴んでいた鎖を離し、血の網を繋いでいた糸を切り離すとミカミは暗闇へと落ちていった。

ああ、少し疲れた。

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【葛西知穂】

流石麗亜、総合順位トップ5以内に居るだけのことはある。
神功は政府でも名前の通った有力者だ、しかし、他のメンバーもかなりのもの。

私は敵サイドの控えメンバーを見下ろした。
それに気付いた様に神功がこちらを見て微笑む。
…抜け目のない奴だ。

そうしている間に御神様が帰ってきた。

「お疲れ様です、御神様。」

「なんだ、もう帰ってきたのか。口ほどにも無いな。」

加賀見が眼鏡を押しあげながら言葉を口にする。
田井なんて、もっと早く落ちたくせに。

「すまない、一人くらい道連れに出来ると思ったのだがな。この天秤フィールドに関してはまだまだ修行が必要な様だ。」

御神様は相手の能力効果が切れたフライスウェイターをもとにと戻し、服を払われていたが締め付けられた痕は生々しい。

「少しお休みください。指示は私が出します。」

「うむ。頼んだ。」

そう私に告げると御神様は、小鷹安治のところへと向かった。
彼の能力は回復。
と言っても、どんな場所でも治療、手術ができると言ったほうが良いかもしれない。
細胞を活性化させたりする訳ではない。

式を任された私は、ブレスレッドに口を近づけた。

「小鷹が治療に入った。大比良も私の指示に従って欲しい。
栞子様は今まで通りお願いいたします。
これからの作戦だが、御神様が幸花と言う少女の体力をかなり削いでくださった。
後は、純聖と言う少年と、九鬼、夏岡だが、九鬼・夏岡に関しては飛行能力がある為深追いは避け、純聖を狙うことにする。
クロエはそのまま、里津の指示を仰いでくれ。」

私達の目的は敵を落とすことではない、それが分からない限り相手に勝ち目はないと思うが。
それにしても、抜け目のない男達だ。
観戦グループも的確に私達の能力をあらって行っている。
気を引き締める様にアカデミックドレスを正すと、戦闘モニターへと視線を移した。

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【大比良樹里】

御神会長様が落ちてしまった。
今現在、こちらは二人脱落。
相手側はなんとか持ちこたえている。
飛べる人がいるのはちょっとずるいけど…でも能力なんだから仕方がない。
いくらクロエがこのフィールドに特化していたとしても、樹里達がお荷物になってたら意味ないもの。

天秤の上のライフルを手に取ると、純聖という少年へと構える。
ポケットの中の消しゴムを取りだし、能力を発動させそれを弾へと返ると、宙に浮いた状態で照準を少年に定めた。
狙うのは足元。
ゴムだから痛みはあっても、貫通することは無い。
怪我をさせるつもりはないから。

勢いよく放たれた弾は、少年の元に飛んでいく。
しかし、それは少年が翳した手に触れると当たる前にどろりと溶けてしまった。

「えぇっ?!」

ああ、あの少年は熱を操ったりできるんだっけ。
これだと何を撃っても溶かされたりするかもしれない。

「ど、どうしよぉ……」

天秤から天秤へと乗り移りながら、おろおろと辺りを見渡す。
でも、何もしないよりはきっとマシだ。
とにかく樹里はみんなのフォローをすればいい。

次はハンドガンを両手に構えると、用意しておいた煙弾を装着した。
目隠しになればいいんだけど。
そして、純聖くんがいる方向へ向かって何発も打ち込む。

樹里、役に立てるかなあ…。

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【神功左千夫】

実に興味深い高校だ。
完全に戦闘を得意とするものと、作戦を練るものが別れているのか。
かと言って、作戦が練るものが偉い訳では無く、そこは人格が物を言っているようだ。

御神圭。
確か、整理した書類の中に彼の名前は有ったが僕はそこまで彼の事は記憶にない。
今の戦闘を見ている限り、御神は戦闘メンバーの中では劣っているようだ。
なのに、なぜ会長になれたのか。

多分、変わりものばかりのこの高校では彼が一番普通でまともなのだろう。

「作戦を伝えなくていいのか。」

弟月がこちらに話しかけてきた。
どうやら落ちても自分の陣地に戻ってくるだけのようなので、特に指示をすることはない。

「特に。夏岡陣太郎と九鬼が居ますからね、彼らに任せますよ。
ただ、無理せず、酷く怪我しそうなら落ちる様にと伝えて置いて下さい。」

幸花が痛手を負っているのが気になる。
これ以上負傷する様なら早めに落ちて貰いたい。
なんと言ってもこちらには回復できるものが居ない。

見たところ怪我はそのまま蓄積されてしまうようだ。

弟月が通信を入れた後、相手からの攻撃が激しさを増していた。

大比良樹里は色々な銃器や仕掛け武器、手榴弾を操りながら、五十嵐栞子は槍、弓、ナイフなどを投げて全員の体力を削っていっている。
特に、上空の夏岡と九鬼の体力を削っているようだ。
余り、長引くとこちらが不利になるだろう。

この時期にポイントを恵芭守に持っていかれるのはつらいものがあるのだが、ここは仕方ない。

『あー!!!もう、まどろっこしいぜ!!!俺、行く!!!クキ、邪魔すんなよ!!!』

動かない戦況に業を煮やしたのは純聖だった。
他に策も無いので純聖が動くことで何かが変わるかもしれない。

「純聖には武器は効きませんしね。」

そう言っている間に純聖は二人の元へと天秤を跳びはねながら単独で近づいていっていた。
凶とでるか吉と出るか、それは分からないが今は只見守ることにした。

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【五十嵐栞子】

最初に仕掛けて来たのは純聖という少年だった。
あの子は身体の熱を自在に操る。
……私と少し似ている。

少年が距離を取ってくるのを槍を構えて間合いを取る。

「近づきすぎない方がいいですよ」

後方の天秤へと飛び跳ねながら、威嚇するように槍を振った。
それでも少年はこちらへと攻撃を仕掛けてくる。
彼の手に触れたと同時に槍が溶け始めたので、すぐにその武器を離すと、次の武器を探しに辺りを見渡した。
武器が頼りにならないのは正直辛い。
武術でもそれなりに攻撃することはできるけれど、相手のすばしっこさを考えるとこちらが不利になるのは目に見えてる。

だけど、先に落ちた皆のため、御神様のためにもこの子は私が落とさなければ。

「よそ見してんなよ!!」

少年が間合いを詰め、こちらに飛び掛かってくる瞬間に樹里がその間を割る様に弾を放つ。
相手がほんの少し怯んだ瞬間に、真上へと飛び、少年の後ろの天秤へと乗り移った。
そこにある巨大なハンマーを手に取ると、相手の後ろに飛びつくように襲いかかったが、それも振り向きざまに溶かされる。

そのまま腹に一発拳を撃ちこまれると、その勢いで後方上空へと飛んでしまった。
腹の部分の胴着が焼けるように溶けていく。
けれど、私の身体には効かない。

私の能力は、感覚を0にすることができるからだ。
だから彼の攻撃は熱くも無いし、痛くもない。

場外へと落下しそうになった身体を捻り、なんとか天秤の上へと着地する。
ゆっくりと跳ねながら、皿の上に乗っていた刀を手に取り、少年へと刃先を向けた。

「君と私の能力は相性が悪い…大人しく落ちてください!!」

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【純聖】

当たった!!
これで、道着の髪が長いほうのねーちゃんは腹を抱えながら痛がる…!!!!!
と、思ったけど普通だった。

「うえ!!なんで、なんで!!!?」

浅かったのかと、殴った腹を見てみたけど、道着は熔けて腹も薄らやけどした痕がある。
そういや、感覚ゼロとか言ってたっけ…?
つーことは熱くねーの?
ん?でも、やけどはすんの?

刃先をこっちに向けられていることよりも俺の頭は色んなハテナマークでいっぱいだった。
そうしている間にポニーテールのねーちゃんが刀を振り回しながらこっちに跳んでくる。

はっきり言って、こいつ等の動きタダものじゃない。
今まで戦ったザコとは格が違い過ぎる。

俺の能力は相手を殺す危険もある為手加減するのが大変なんだ。
差し込んでくる刀を熔かすと、もう片方で持っていたナタを振りおろしてくる。
それも熔かすと同時に再び掌底を相手の腹に撃ち込む。

次は、入った。

その感覚があったのに、ポニーテールのねーちゃんはくるりと宙で回転すると、天秤の上に足を付いた。
俺がギョッとしたその瞬間の隙を付いて、銃器を振り回していた筈のねーちゃんが頭上にと現れていた。

ヤバい、あの銃で殴る気かよ!!

咄嗟に俺は頭上に両手を掲げ、その銃を熔かすと共に、そのねーちゃんの手首を掴んで奈落の底に放り投げる。

「ぁあああッ…ッ!!!!」

ねーちゃんが熱そうな悲鳴を上げて落ちていく、そう、これが普通の反応。
この一瞬の隙をついてポニーテールのねーちゃんが俺に薙刀を突きこんできた。
寸前で、それを熔かした…が、どうやらそれが狙いでは無かったようだ。

グッとポニーテールのねーちゃんが俺の乗っている天秤に体重を掛ける。
そうすると、一気に傾いた天秤が奈落の底に崩れていく。

「―――――ィ!!!!!!!」

慌ててジャンプしようとした俺の足を更にそのポニーテールのねーちゃんが掴んだ。
ジュッと肉の焦げる音がする。
普通なら離す、離すか、力が緩むのに全く変わらない力で俺の足を掴んだ。

「おチビちゃん!!!」

上から九鬼の声が聞こえて俺は手を伸ばそうとした。
が、駄目だ、足だけ熱くして手を冷ますなんて芸当、まだ俺は瞬間的には出来ない。

九鬼の手を掴むことが出来ないまま俺は落下していった。
このまま死んでしまうような気がしたけど、一瞬真っ暗闇に包まれた後、開いた瞼の先には左千夫がいた。

「お疲れ様です、純聖。」

どうやら、俺はまた負けてしまったらしい。

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【九鬼】

“純聖、五十嵐栞子、大比良樹里 場外によりOUT”

あーおチビちゃん落ちちゃった。
でもまぁ二人道連れだから上々だ。
こっちは残り四人、相手は厄介そうなクロエちゃんのみ。
四人いればなんとかなるだろう。

天秤の上ぎりぎりまで足をつけると、翼をはためかせる。
少し離れた場所にいるクロエちゃんを見つめた。

「さ、そっちもう一人だヨ?四人全員落とせるかナ?」

口角を上げると、クロエちゃんも同じように笑った。
しかし、次の瞬間、そこに居た彼女が居なくなる。

「!?」

すぐ横に気配を感じると、身体に物凄い圧力がかかり、ボクは真横へと吹っ飛んだ。
回転し翼を上手く利用しながら空中で止まると、先ほどまでボクが居た場所にクロエちゃんがいる。
相変わらず足は天瓶の上についているが、その天秤はまったく動いていない。

気功、だったかな。
触れずに攻撃されるから中々厄介だ。
地上戦ならもっとマシに闘えるのに。

「あくまでも好戦的ってわけだネ」

間合いを取る様に彼女の周りを飛び回る。
普通に攻撃するだけでは多分逃げられる。
間合いをできるだけ取っても、あの気功がどこまでの威力なのかもまだわからない。

ただ、こちらはまだ幻術が使えるゆずずもいるし、ジンタロマンもいる。
問題はさっちーなんだけど…。

飛び回りながらさっちーへと視線を落とす。
だいぶ体力も削られてるし、狙われたらアウトだな。

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【Chloe Barnes】

私の能力は体重変化。
今は羽のように軽い。
空を飛ぶ能力と違ってこの能力は体力、精神力の消費が少ない。

なので、飛行能力を使う相手の方が体力が先に尽きるのは明白です。

「りっちゃん。どうしたらいいかな。」

『……現状維持で、人数を減らすです。』

口数少なくりっちゃんから指示が入る。
現状維持は長期戦のことでしょう。
人数を減らすとなると、今負傷している子か弱い子。

先に飛行能力者を落としておきたいところだけど、…骨が折れそうですしね。

音なく天秤を蹴ると私は三木さんに向かって行った。
そうすると幸花さんが間に入ってくる。

うん、これを狙ってたの。

にっこりと微笑むと幸花さんは血液の鎖を私に向かって投げてきた。
でも、私は気の膜で覆われているのでそれくらいの攻撃ではきかない。

自分の体重を一気に落とすことで空気抵抗を利用してふわりと体を浮かせる。
そして、空中を蹴った瞬間に体重をもとに戻し、かなりのスピードで幸花さんの懐に入り込んだ。

私の片手には既に気の塊を用意してある。
それを彼女の腹へとそのまま押し付けてあげる。

直ぐに九鬼さんと夏岡さんが応戦してきたけど、手を後ろに組みながら羽のように回転して避けていく。
避けることだけなら、気功使いの私にとっては容易い。
武器も拳も私の体には届かないから。

二人との間合いが空いた瞬間に気を練り、二人へと衝撃派を飛ばした。

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【幸花】

お腹にぶち当たった衝撃波が痛い。
そのまま後方へとぶっ飛ぶと、血の糸を使って自分の身体が場外へ飛ぶのを止めた。
勢いで飛び上がっている間に、女がクキとナツオカに衝撃波を放っているのが見えた。

あの女は体力を消費してる私を狙ってる。
今、私は足手まといだ。
出来る事なら助けに来て欲しくない。
って言ってもあの二人は多分助けに来る。
そうなると、余計にあの二人の体力も削いでしまう。

このまま落ちれば……。

いや、ダメ。
私は柚子由を守るの。

体勢を立て直している間に、女は柚子由へと手を構えた。
今はナツオカもクキも距離的には遠い。

「ッ……!」

血の糸を女へと飛ばさずに、天秤の真ん中の柱へと巻き付け、回転を利用し天秤がぐらつくと同時に切り離す。
電流の痛みに身体が強張るけれど、遠心力を使ってそのまま女へと体当たりを仕掛けた。

けれど、それも難なく避けられると、女は柚子由へと衝撃波を放つ。

「柚子由!逃げて!!」

急いで飛んでいる身体を軌道修正するように、近くの天秤へと血の糸を伸ばす。
柚子由は天秤から天秤へと乗り移っているけれど、それ以上に女の気功のスピードの方が速かった。
柚子由が着地した天秤が傾く。

「……ッ!!」

それと同時に私も柚子由の方向へと引っ張られた。
まだ、柚子由に繋いでいる血の糸は切れていない。
二人同時に落下していく最中、ナツオカとクキの姿が見えた。

あの二人に、託そう。

女は最後に私へと衝撃波を放ってくる。
その衝撃が私の身体に到達する前に、柚子由を繋いでいる血の糸を思い切りひっぱると、ナツオカとクキがいる方向へと投げた。
そして、糸を切る。

身体に大きい衝撃が走ると、私はそのまま暗闇へと落下していった。
柚子由は、二人のどちらかが受け止めてくれたと、思う。

左千夫……褒めてくれるかな。

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【三木柚子由】

「幸花ちゃんッ!!!」

幸花ちゃんが私を庇って落ちてしまった。
現状で一番足手まといは私なのに。

慌てて左千夫様が居る場所を見ると、左千夫様が幸花ちゃんを抱きかかえていた。
こちらを見て微笑んでくれたので少しホッとした。

今、私はくっきーさんに抱えられている状態だ。

なんだか妙にクッキーさんがそわそわしている気もするけど。

その直ぐ側に夏岡さんも来た。

「大丈夫か三木!!!
さて、どうする?触れられないんじゃ辛いな…」

そう、あのクロエさんには触れることが出来ないんだ。
全身に何か薄い膜がある様に触れることが出来ない。

「あの……私を…落として下さい…!!!」

その方が絶対二人にとってはいい。
そう思って私は声を上げたが二人に全否定された。

「ムリムリムリムリ、ボク殺されちゃう!!」
「駄目だ、幸花と純聖の心意気を無駄にしちゃ!!」

二人とも理由は違うようだったけど取り合えず、落としては貰えないようだ。

何にせよ少しでも軽い方が有利。
それは変わらない。

「じゃあ………。」

そう言って私は服のボタンへと手を掛けた。

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【九鬼】

「待って!!ゆずずダメ!ダメ!!」
「女の子が男の前でそんな事しちゃ駄目!!」

何故か服を脱ぎだしたゆずずをジンタロマンと二人で制止させる。
多分、服を脱げば少しでも軽くなると思っているんだろうけど、脱がれたらボク本当に左千夫クンに殺される。
なんとか手を止めてくれたが、それでも悩ましげなゆずずの表情は変わらなかった。

どうするか。
クロエちゃんと距離を取りつつ、何かいい方法はないかと思案する。
そして、先に口を開いたのはジンタロマンだった。

「……俺達と、相手には決定的な違いが一つある!!」

「?」

腕を組み、びっと指を差し出したジンタロマンへと、ゆずずと共に視線を向けた。

「チームだ!相手は一人、俺達は三人!
そこが相手の弱味になることは確かだ!
一本の矢は折れても三本になると折れないとか太一が言ってた!!
無理矢理折ればいいじゃんって言ったら邪道だって言われてさ~…。あの時は確か一年ま…」

「前置きはいいから何か案あるの?」

話しが長くなりそうだったので断ち切ると、ジンタロマンは近くに寄りこそこそと話をし始める。
どうやら彼なりに考えた作戦のようだ。
まぁ今の所この案に頼るしか現状打破は無いだろう。

「もし失敗したら、多分もう後は無い。でも頑張ろう。
ここで俺達が負けたらそこで終わっちゃうしな。そんなの楽しくないだろ?
皆のために三人で協力しようぜ!!」

まるで重ねろと言わんばかりに拳を突き出したが、生憎ボクはゆずずを両手で抱えている。
ゆずずは苦笑しながらジンタロマンと拳を重ねていた。

この天真爛漫、無鉄砲さが元会長だった事を納得させる。
まぁ、おとじい達は苦労したんだろうけどネ。

そんな事を考えていると、クロエちゃんの方角から衝撃波が飛んで来た。
ゆずずを抱えたままそれを避けると、ジンタロマンが目で合図を送ってくる。
ボクはこのままゆずずと一緒に行動になるわけだが…。
左千夫クンの方へと視線を向けると、微笑んではいたが黒いオーラが漂っていた。

「ゆずず……ボクが死んだらお葬式派手にやってネ…」

その言葉に、ゆずずは不思議そうな顔をしていた。

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【Chloe Barnes】

何を揉めているのかと思ったらどうも女の子が服を脱ごうとしたみたい。
それくらいのことで変わらないのに。

それでもそれを行動してしまえるのは凄いこと。
差し詰め彼女は愛輝凪の勝利の女神ですね。
それは向こうサイドの控えの愛輝凪の(裏)生徒会長の様子を見れば一目瞭然だった。

涼しい顔をしているが彼女の事は気に掛けている様子です。

彼女の意志を最大限尊重しながら彼女を擁護する。
そんなタイプの性格なのですかね、彼は。

それとも、周りにはそう思われたくないのにバレてしまっているのかもしれません。

私の衝撃派は避けられてしまったので天秤を蹴る様にして進もうとしたその時。

「――――ッ!!!!」

九鬼さん、夏岡さん、三木さんが沢山現れた。
いえ、これは三木さんの幻術でしょう。
ただし、ここはもとから幻術で作られた世界に、私達がフィールドを展開させているのでこれを見破るのは難しい。
そうなると殺気で見分けていくしかないのですが。

私は天秤の上に立ち、精神を集中しようと思った。

その時です。

「―――――なにっ!!」

天秤から突起物が私に向かって飛んできた。
それも無数に。

体を捻る様に全てを避けようとしたが裂け切れず、仕方なく手の甲で防いで行った。
そうして、次の天秤へと乗り移るが全て同じこと。

どうやらこれは九鬼さんの能力のよう。

彼の能力は威力が高いことはデータで知っていたけど。
予想以上の攻撃に私は攻撃をかわしながら呼吸を整えた。

そして、一気に宙を蹴り、まずは手が塞がっている九鬼さんへと飛んでいく。
足場になる天秤がかなり無くなっているけどそれで不利になるのは相手も同じでしょう。

私もいざとなれば空を跳ぶことができますから。

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【九鬼】

ゆずずの幻術は目くらましくらいにしかならないようだ。
それでも、これだけ邪魔があれば、少しくらいは相手も疲れるだろうか。

翼を使用したまま、目だけで能力を発動するのは骨が折れるけど、ジンタロマンの指示なので仕方ない。
天秤がクロエちゃんを追撃するが、うまくかわされて行く。
さすがと言ったところか。

ゆずずを抱えたまま、幻術に紛れてフィールド内を飛行していたが、どうやらクロエちゃんは本物のボク達に気がついたようだ。
気を引くために殺気を出す様にしておいたけど、思ったよりも気づくのが早かったな。

「ゆずず、ちゃんと捕まってて」

なるべくジンタロマンから気を逸らせるように、更に飛行スピードを速める。
放ってくる衝撃波を交わしつつ、天秤で攻撃していった。

……そろそろか?

左千夫クンには悪いけど、ゆずずを前で強く抱えるようにし、クロエちゃんに背中を向ける。
一応これはゆずずに当たらないようにしてるだけだから。
と、少しだけ視線を彼へと向けた。

そして、衝撃波を自分の背中に直撃させた。

「――――ッ!!」

身体にビリビリと衝撃が走る。
ゆずずが心配そうな顔をしたが、これぐらいは平気だ。
それよりも、ゆずずを抱えている腕を離した時の方が死に一歩近づくだろう。

ボクはそのまま気力を失ったかのように下へふらふらと落下していった。

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【Chloe Barnes】

もう、殆ど足場と言える天秤は存在しなかった。
私の衝撃派をくらって九鬼さん達は落下していく。
まだ、このままでは戻ってくるだろうと追い打ちの一発を撃ち込もうとした時、幻術ではない気配を感じました。

夏岡さんの気配です。

私は急降下の為に増やしていた体重を一気に軽くすることで空気抵抗を生み出す。
目の前の天秤から跳ねる様にしてこちらに向かってきた夏岡さん。

拳を握って私に殴りかかってきましたがどうやら本当の狙いはそうではない様子。

彼は飛べる筈なのになぜか、天秤を蹴って私に跳びかかってきた。
そして、後ろではためくマントの様子がおかしい。

私は攻撃の体勢から直ぐに避ける体勢へと変えた。

夏岡さんの拳をかわす。
そして、その次に私を包もうと大きく広がったマントも体をくねらす様にしてかわした。

このマントが夏岡さんに戻ってしまうと彼はまた飛べてしまう。

でも…。

「残念でしたね、夏岡さん。」

そう言って私は夏岡さんのマントに指先を突き付けるようにして二つに裂いた。

これで彼は飛べない。
そして、もう足場になる天秤は無い。

彼は私の足を掴もうと手を伸ばしてこられたが、それを撃墜するように掌底を突き出そうとした。
その時、私の視界に何かの影が入った。

-----------------------------------------------------------------------

【夏岡陣太郎】

下から飛び掛かると拳は難なく避けられる。
マントで捕まえようと翻したが、それさえも千切られてしまった。

俺はもう、飛べない。
足場にしてきた天秤も、九鬼が攻撃に使用したため、全て崩れ落ちて行っている。
このままクロエを目の前にして、俺はもう落ちていくしかない。
最後の最後に、足を掴もうと手を伸ばした瞬間、クロエの拳も突き出された。

だけど、俺は彼女を見据えて小さく笑った。

「……飛ぶつもりなんて最初からないけどね!」

クロエの向こう側に俺のマントが見える。
そう、これが本物だ。
俺が身に付けていて破られてしまったマントは、柚子由ちゃんの幻術が作った偽物。
飛んでいるイメージが強かったのを利用し、辺りの幻術に本物のマントを紛らわさせてもらった。
元々それで捕まえる予定だったんだ。
うまく作戦通りに事が進んでくれた。

クロエが後ろを振り向くよりも早く、背後に忍んでいたマントは大きくなり、そのまま俺と彼女の身体を包み込んだ。
そして、鋼の様に硬化させ重力をかける。

「やっと捕まえた!!」

辺りは暗闇に包まれ、身体が落下していく感覚に目を瞑る。
うまく行ってよかった、二人の協力のおかげだ。
小さく息を吐いた時には、俺の目の前は明るくなり、瞼を上げた先には左千夫達がいた。

“夏岡、Chloe Barnes、場外によりOUT。――――勝者、愛輝凪高校”

その言葉を聞いた瞬間に、後ろを振り向き、フィールド内にいた九鬼と柚子由ちゃんにピースサインを送った。

-----------------------------------------------------------------------

【三木柚子由】

勝った。

“夏岡、Chloe Barnes、場外によりOUT。――――勝者、愛輝凪高校”

夏岡さんのピースに微笑んだ後、目の前が真っ暗になる。
次に明かりが見えると前に居た左千夫様に受け止められていた。
どうやらもとの場所に戻ったみたい。

「お疲れさまでした。」

左千夫様の声に私は真っ赤になってしまう。
私は足手まといでしか無かったけど、何とか勝てて良かった。

「柚子由ちゃんのおかげだよ!ありがとう。」

夏岡さんにそう言われて私は思いっきり首を横に振った。

「wonderful!!流石だね、僕がもといた高校なだけある。
それでは、愛輝凪の諸君。
そちらは二人のこっていたので、二人だけこちらで手当てすることができる。
勿論、そちらで手当てしてもいいが、確か、そちらには回復できるメンバーが居ないのでは?」

どうやら、ステージクリアの褒美は怪我人の手当、の様だ。
そう言われて一番に幸花ちゃんに視線が行く。
彼女はかなりの怪我を負っている。

皆、意見は一緒の様でまだ意識がおぼつかない幸花ちゃんと一番初めに落ちた純聖君の手当を頼んだ。

見るからにがたいの良い男の人がこちら側に降りてきた。

な、何をされるのかな。

その人が幸花ちゃんに近づいていったので、私は慌てて止めようとしたけど、逆に左千夫様に止められた。
私は戦闘中だったので見て無かったけどどうやら彼が幸花ちゃんの治療をしてくれるらしい。

ドキドキしながら私はその様子を見つめた。

-----------------------------------------------------------------------

【千星那由多】

色々ひやひやしたけど、勝つことができた。
これで俺達は先に進める。
その前に傷ついた仲間の手当てをしてくれるということだった。

幸花と純聖に近づいて来た大きい男は、小鷹安治という男だった。
見るからに戦闘向きなその体型だが、天秤フィールドで闘っていなかったと言う事は、こいつは戦闘要員ではないようだ。

小鷹安治は幸花の前に肘をつくと、絨毯のようなものを広げた。
それはわずかに浮いてる。
その絨毯の上に幸花を乗せると、両肘を後ろへと突き出した後、制止する。

「……?」

「完了だ」

数秒も経たないうちに小鷹安治はそう告げた。
何も起きていない。
何も起きていないはずなのに、虚ろだった幸花の瞳に光が戻る。
自分で身体を起こし起き上がると、小鷹安治に小さくお辞儀をした。

「え、今、何もしてないよな…?」

こそこそと隣にいた巽に話しかけると、首を横に振った。

「すごい速さだったからね、なんとなくは見えてたけど、ちゃんと治療してたよ」

つまり、止まって見えるほどに小鷹安治の治療スピードは速い、ということだ。
まぁ俺以外は見えていたのかもしれないけど、俺には何もしていないように見えた。
でも、確かに幸花の傷は全て癒えている。

その後同じように純聖の怪我も治すと、小鷹安治は何も喋らずに深々とお辞儀をし、恵芭守側に合流した。
すごい奴がいるもんだ。

「さて、治療も終わったようだし、次のステージへと進んでもらおうか。僕達は次のステージで待っているよ」

御神がそう言うと、恵芭守のメンバーがいる場所へと一本道が現れる。
恵芭守のメンバーが奥の大きな扉を開き行ってしまうと、俺達は全員顔を見合わせた。

「では、行きますか」

会長のその言葉を合図に、俺達は歩み始めた。
次は俺も闘わなければならないかもしれない。
気を引き締めて行かないと。

-----------------------------------------------------------------------

【純聖】

巨人みたいなにーちゃんは変わった能力だった。
体力が戻っている訳でも、細胞が活性化した訳でも無い。
ただたんに、治療してくれただけ。

でも、ちょっとした切り傷でも手術をするかのように皮膚を縫いつけたくれた。
それを糸と針じゃなくて、能力と素手で行ってる感じ。

手当てが速いからか体にも響いてないみたいだ。

元から何もなかった様に戻った体に視線を落とした。

左千夫がこちらはゲームに参加するときにポイントを消費し、落下したら戻ってこない。
あっちは、落下してもポイントを失うことが無いのでその不平等を埋める為の治療だろうと言っていた。
難しいことはわかんねーけど、取り合えず怪我が治って良かった。

更に続く道は天秤で全て出来ていた。

皆一緒に乗っちまうと落ちるので、左千夫と夏岡の指示で俺達は天秤へと飛び乗っていく。

「おい。九鬼、なんでとばねーんだよ。」

「んー?無駄に使いたくないからネ。」

どうやら先の戦いで九鬼は精神力をかなり消費したようだ。
やっぱり、こいつは弱い!
絶対左千夫の方が強い!

「よわっちーの」って言ったら、落とされそうになったので慌てて天秤の端にしがみついた。
笑顔でやってくるから容赦ないっていっつも思う。

幸花の怪我も大丈夫そうで、俺を見て舌打ちしたから跳ねて行った。
なんか、この中にいるとちょーしでねーな。 





   

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