あなたのタマシイいただきます!

さくらんこ

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isc(裏)生徒会

恵芭守高校(裏)生徒会

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【三木柚子由】

遊園地から千星君達と別れて私達は一度生徒会室に戻った。

なぜか皆が左千夫様をクッキーさんだと言う。
私の目の前に居るのは間違いなく左千夫様なのに。

「左千夫様、…今日は一緒に寝ていいですか。」

「それは…少し、困ります。」

初めて否定されて私は目を大きく開いた。
左千夫様は私がこう言った時は必ず寝るまで傍にいてくれるのに。

「左千夫様、私、何か悪いことしましたか…?」

今日は不思議と左千夫様を取り巻いている神々しいオーラが薄い。
それに甘えて抱きついてしまう。
そして、私に対しての態度が露骨に違う。
不安になる私はどうしても左千夫様にひっついてしまうのだけど、左千夫様は私を遠ざける。
それだけでなく、純聖君、幸花ちゃん、くっきーさんまで私を左千夫様から離そうとする。

いつもこんなことには無関心なくっきーさんが必死だ。

「そんなことしちゃいけないよ、ゆずず!」

いつもにない真剣なまなざしで見つめられた。
意味が分からなくて瞳に涙が溜まった。

「……どうして…。」

皆が慌てているのが分かる。
泣いちゃ駄目なのに涙が止まらない。
周りの反応も全て違うし、私だけのけものにされているようだった。

結局その夜は全員で雑魚寝することになった。
勿論、私は左千夫様の横を陣取った。

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【九鬼】

この日は一睡もできなかった。
ゆずずが寝ているその隣に左千夫クンがいたせいだ。
向こう側に淡紅色の目が光り、じっと睨みつけられていたので寝るにも寝れなかった。
寝返りをうったりなんかした時には、多分目からビームとか出たヨ、あれ。

「はぁ……」

「左千夫様…大丈夫ですか…?」

ゆずずが紅茶を持ってくる。
やはり次の日になっても、ゆずずはボクを左千夫クンだと思いこんでいる。
つまりは治らなかった、そういうことだ。
紅茶に落とされる角砂糖を見ながら、眉間に皺を寄せた。

「駄目でしたね」

巽が困った様に笑いながら小さく呟いた。
さっきからこの部屋には沈黙が続いている。
左千夫クンは相変わらずボクから目を離さなかった。

「もう窮屈だヨ……多分ボク死んじゃう…」

「左千夫様?やっぱり体調が悪いのですか?」

何か口にすれば、ゆずずの表情が曇った。
それの繰り返しばかりだ。
左千夫クンの真似をすればいいんだろうけど、もうそんな気力もボクには無かった。
けど、ゆずずをまた泣かすわけにもいかない。

「だ、大丈夫、心配しなくていいヨ」

引き攣った笑顔を返したが、やはりそれでも心配そうな表情は消えなかった。
甘い紅茶の香りが漂う。
余計に気分が悪くなるその香りに、また大きくため息をついた。

「やっぱもう最終手段しかねーんじゃねぇの」

はるるがその言葉を口にした瞬間、左千夫クンがいきなり立ち上がった。
全員が驚きそちらへと視線を向ける。
項垂れた頭と垂れた髪が、更に恐怖を底上げさせていた。

「さ、左千夫クン…?」

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【神功左千夫】

柚子由は治らなかった。
精神介入も拒否された。
僕を九鬼だと思っているからだろうか。

打つ手が無い。
それに、柚子由をこのままにしておくと能力発動者に負担が掛る。
あの、ペンダントでは暴走までは食い止めることが出来ない。

僕は頭を抱えた。
しかし、万策は尽きた。
時間も無い。

柚子由は僕の前にお茶を出してくれる。
その横にいつも九鬼が愛用している香辛料が並べられた。
それは、九鬼の横にあったものをわざわざこちらに移動してきたのだ。

「やっぱもう最終手段しかねーんじゃねぇの」

最終手段。
それは即ち、九鬼と柚子由のキス…!

僕はガタンと大きく椅子を後ろに倒しながら立ち上がった。
キス、キス、キスキスキスキスキスキス…!

勝手に携帯が展開される。
僕は三叉の槍を手に持った。

「………そんなことをさせるくらいなら、お前を殺して僕も死ぬ。」

入れ変わっている対象が二人とも居なくなる。
そうなれば柚子由だって正気に戻るだろう。
矢張り、あの時に殺っておけばよかった。

誰も近寄れない負のオーラを纏い、槍を九鬼に向かって構えた。

「だめーーー!!!!
くっきーさん、酷すぎます!!
最悪です!!大嫌いです!!!!」

其処に入ってきたのは紛れもなく柚子由だった。
彼女は涙ながらに僕の事を嫌いだと言った。

僕のことだ嫌いだと…。

膝を付く様に項垂れているとどこからともなく兄の声が聞こえた。

「千星君!!今日も、勝負だ!!!!」

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【千星那由多】

タイミングが悪いと言うか良いと言うか。
会長が発狂したと同時に十輝央先輩が入って来た。

「え…どうして柚子由さんが泣いてるの…?
左千夫?左千夫が泣かせたのか?」

と言うか、こっちはどうしてこの場所を知っているのかが聞きたい。
十輝央先輩は訳がわからないと言った表情で、二人の顔を何度も見ている。
会長は三木さんに「大嫌い」と言われたのが余程ショックだったのか、十輝央先輩が来ていてもそちらを振り向こうとはしなかった。

「あーえっと…実は三木さんが能力にかかってしまって…」

それから今まであったことを全て説明していった。
理解力が早いので、俺の説明でもすぐにきちんと状況を把握してくれたようだった。

「それは大変だね…。
でもさすがにキスは僕もこま……いや、なんでもない。
とにかく柚子由さんも左千夫も落ち着いて。左千夫もらしくないよ」

十輝央先輩が来てくれてよかったかもしれない。
俺達には会長をどうすることもできないので、対等かつ親身になってくれる人がいれるだけでだいぶ空気も違う。

十輝央先輩が、副会長の前に立ったまま動かない三木さんへと近づいた。

「十輝央さん…」

「柚子由さん、気をしっかりもって。
君が左千夫を間違えるわけなんかない、だけど、今は違うんだ。
しっかり現実を見て。
そうしたら、大事な人が誰だか柚子由さんにはわかるはずだよ……って、こんなこと言っても無駄かな」

芯の通った声で三木さんに優しく語りかけると、肩を優しく叩いていた。
まぁ確かにこんな事で戻るなんてことはありえない。

「あー…勝負は落ち着いてからの方がいいかな?」

困った様に十輝央先輩が笑ってこっちを見た瞬間だった。
ありえない、と思っていたことが起こった。

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【三木柚子由】

大事な人…?

私の大事な人は左千夫様。
今、直ぐ側に居る左千夫様。

十輝央さんが肩を叩いた瞬間電気が流れたような衝撃が体に走った。
それと同時に私の視界には、十輝央さんと左千夫様が映った。

…おかしい、左千夫様は私の後ろに居た筈だ。
そうして、後ろを見ると其処に居たのはくっきーさんだった。

「……くっきーさん?」

彼は前に居て、後ろには左千夫様が居た筈なのに反対になっている。
どうしてか分からないが先程までくっきーさんが項垂れていたのに、今度は左千夫様が項垂れていた。

私はそっと左千夫様に近づいた。

「左千夫様……」

「ゆ…柚子由……?」

力のない声で左千夫様が私の名前を呼ぶ。
こんなに儚い左千夫様の声は初めて聞く。
しゃがみこみ彼の顔を覗きこむと蒼白な顔をしていた。

「私のせいですいません、私なら、なんでもしますから、そんなに嘆かないでください。」

にっこりと笑った瞬間だった。
左千夫様が私の肩をガシッと掴んだ。

「もう一度僕の名前を呼んでください。」

「さ、左千夫…様」

「では、あれは、誰ですか。」

「くっきー……さん。」

その後、ホッとしたように破顔した後左千夫様はもう一度その場に項垂れた。
大きく安心しきった呼吸が漏れる音が聞こえたけど、私は良く分からず首を傾げるだけだった。

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【神功十輝央】

柚子由さんにかかっていた能力が急に解けた。
何が起こったんだ。
さっぱりわからない。
でも、無事に元通りになれてよかった。
さすがに九鬼君とキスはして欲しくなかったし。

九鬼君も机に突っ伏すようにして大きく息を吐いていた。
昨日からずっと左千夫の目から逃れられなかったんだろうし、やっと肩の荷がおりたと言った感じだろうか。
それにしても、二人とも同じような反応をしていて面白い。

「元通りになれてよかったね、時間の問題だったのかな。
じゃあ、落ち着いた所で…僕の勝負、受けてくれるよね、千星君!」

そう言って千星君へと微笑むと、引き攣った笑みを返された。
今の所全て僕が負けている。
どんなに頑張って毎日筆を持っても、彼の字には敵わない。
彼は訓練も何もしていないというのに、本当に驚いてしまう。
でも楽しかった。
今まで誰かに負けっぱなし、という事はあまりなかった。
わくわくするんだ。壁があるという事が。
そして、それを乗り越えるために使う時間、努力、全てが楽しい。

元々左千夫に挑むための勝負だったけれど、たくさんのことを地区聖戦で学ばせて貰っている気がする。

「今度こそ負けないよ!さぁ!今日はどんな字にしようか!」

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【神功左千夫】

柚子由の件は一件落着し。
今、那由多君と兄さんの勝負が終わったところだ。

勝敗は那由多君の勝利。
十輝央兄さんは毎日那由多君にポイントを運んでくれて正直助かっている一面もある。

「また、負けた…!また、練習してくるね!それじゃ、また明日!千星君!!」

兄さんは勝つまでするだろう。
たとえ地区聖戦を終えても。
そして、彼は那由多君との勝負以外は全勝しているようだ。
流石としか言いようが無い。

これから、任務をしようと思った矢先だった僕の携帯が震える。

「なんですか?」

「ちょ!左千夫!お化けだ、オバケ!!!取り合えず来てくれ!!」

「………いやです。」

僕はそれだけ告げると携帯を切った。
しかし、また直ぐに掛ってくる。

「切るなよ!!!違うって、あいつがいんだよ、椎名が居るんだって…!!はやくこい、つーか、九鬼を連れてこい!!」

椎名…優月。
前の副会長の名前か。
好戦的な性格で僕も何度も手合わせしたことがある。

「全員、僕についてきて下さい。」

そう言って早足に携帯が示す夏岡陣太郎の場所へと向かった。

僕は九鬼を見つめて唇を開いた。

「椎名優月が見つかったそうですが。」

そう、彼は九鬼が殺した筈。
いや、しかし、そうは言っていなかったかもしれない。

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【千星那由多】

十輝央先輩との勝負が終わった後、夏岡先輩から会長に電話がかかってきた。
電話から漏れる声を聞いていたが、椎名優月という人物が現れた、との事だった。
薄らとした記憶しかないが、その名前はリコール決戦前に聞いた事がある。
確か前副会長で、それを副会長が倒したとかなんとか言っていたような…。

「え、そなの?どこほっつき歩いてたんだろうネ~。
ちなみにボク殺したとか一言も言ってないヨ♪」

会長について行きながら、副会長が笑顔でそう答えた。
そう言えばあの時は「いなくなった」と言っていた気がする。
でも確実にあの緊迫した状況では「殺した」と言う表現に取れた。

夏岡先輩のいる場所に近づき始めると、他校の生徒がいることがブレスレットに表示された。
名前がたくさんあったが、そこには椎名という男の名前は存在しなかった。

そして、その場所へたどり着くと結界内に入ったのか、吹っ飛ばされた男が目の前を通過し、壁へと激突する。
誰が闘っているんだ、と視線を向けようとしたが、それより先に夏岡先輩の声が聞こえた。
どうやら弟月先輩も一緒みたいだ。

「やっときたー!こっちこっち!!ほら、あれ!あれ見て!優月のお化け!!九鬼お前殺したんじゃないのかよ!!」

夏岡先輩が指を指した先には、他校の生徒をボコっている男がいた。
砂煙で良く顔は見えないが、薄い金髪でパーマがかかった細身の男がそこにいる。

あれが、前副会長、椎名優月…?

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【神功左千夫】

「椎名優月…」

僕のブレスレッドが作った画面には“moon”とだけ記されている。
これが地区聖戦での彼の名前だろう。
全く音沙汰が無かったのでてっきり死んだと思ってた、それくらいコイツは戦闘狂だ。

ウエーブが掛った薄い金髪、夏なのに長い黒いコート、それに道化師の様な風貌。
間違いなく椎名優月、本人だった。

「てっきり死んだと思ってましたよ。」

「まさか。その子には副会長の座を上げただけだよ。
ナツオカは退いちゃうし、ジングウは遊んでくれないしね、つまらなかったから武者修行に行ってただけ。」

クスクスと空気を震わせながら彼は笑った。
そして、僕に向かって地区聖戦のブレスレッドを突き出した。

「ちょうどいいや、戦ろうか、ジングウ。」

「待つんだ!!椎名!!」

その時だった、僕達と椎名を隔てる様に仮面を被った人物が入ってくる。
それに引き攣られるようにぞろぞろとメンバーが現れた。

「困るよ、椎名!勝手なことされちゃ、僕達はこれから籠城を行うと言っただろう?」

ブレスレッドを見ると、恵芭守と表記されている。
そうか、椎名優月は恵芭守高校の助っ人か。

恵芭守とは地区聖戦上位に食い込んできている高校の名前だ。

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【千星那由多】

椎名優月と呼ばれる男の雰囲気は独特だった。
掴みどころの無さそうなそいつは、勝手に話しを進めて行く。

しかし、そこで別の男が現れた。
仮面で顔を隠しているなんとも奇妙な奴だ。
後から出て来る奴等へと視線を向けると、見知った顔が二人。
副会長と純聖が闘っていた、恵芭守高校の奴がいる。

「本当に君は…いつも勝手な行動ばかり…」

仮面を被った男は椎名優月を指差しながら怒っている。
なんか…この声、聞いた事あるんだよな。
どこかで会った事があるのかと、ブレスレットの名前を確認するために視線を落とした瞬間だった。

「君は……せんぼ…し……!!」

「え?」

「千星那由多!!!!」

仮面の男が俺の名前を叫ぶ、やっぱりどっかで会ったことあるんだ。
でも誰だか思い出せない。

「てめぇ、千星さんを馴れ馴れしく呼ぶんじゃねェ!」

「ひ、日当瀬晴生!!!!それに…三木柚子由!!!!」

間を割って晴生が入ってくるが、仮面の男は何故か晴生と三木さんの名前も呼んだ。
俺と晴生、三木さんは多分、同じような表情をしていると思う。

こいつが誰だかわからない。

「おっと…久しぶりに取り乱してしまった……。覚えていないのも無理ないか…この仮面じゃあね…」

そう言うと仮面の男は仮面を取った。
その下の顔は右半分がひん曲がり、火傷痕で悲惨な事になっている。

「思い出したかな…?」

しかしその顔を見てもまったく思い出せない。

「み、三木さんわかります?」

「えっと……わかんない…」

「つーかなんで俺ら三人だけ知ってんだよ」

こそこそと三人で会話をしていると、仮面の男は仮面を地面へと叩きつけた。
そして、その後叫んだ名前に、俺達は驚愕する。

「ッ……御神…御神圭……愛輝凪高校で、風紀委員長だったんだよ……僕は!」

風紀委員長御神圭。
…そうだ、そんな名前の奴、いた。
確かあれだ、俺の初めての戦闘任務だ。
そんで確か俺があいつの顔ぶっ叩いた。
すっげえヤな奴だったんだよ確か。
そう、いたいた。
んで、こいつが御神圭……。

「「「……えええええええええッッ!!!!??」」」

俺と晴生、三木さんの声が同時に辺りへと響いた。

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【三木柚子由】

御神圭君…。

それは千星君が(裏)生徒会に入って一番最初の少し大変な任務だった。
まだ、千星君が左千夫様に認められていなかったことの話。
風紀委員長である彼が(裏)生徒会を暴こうとしたので彼らに制裁をした。

その、制裁の後が御神君の顔には残っている。
そして、彼は愛輝凪から転校していった。

でも、…何か雰囲気が違う。
あの時の様な嫌な感じは全くしなかった。
どちらかというと心が入れ変わった様な。

「な、なんだよ!!あの時の仕返しをしに来たのか!!」

千星君が叫んだ。
そう、もしかしたらそうかもしれない。
私達はこういう活動が多いので恨まれることも多々ある、しかし彼は首を振った。

「いいや。仕返しなんて思ってないさ、寧ろ僕はこの傷を与えてくれた、千星君。
君に感謝している。
君のお陰で、僕は、僕自身に気付けた。
こんなお飾りの顔なんて無くても、人から愛されることができると言うことを。」

そう言って、御神君は横に居た、青み掛る程黒い髪をした女性の腰を抱き寄せた。
その、凛とした綺麗な女性は少し頬を染めた。

それって…もしかして。

私は真っ赤になった顔を両手で覆った。

「そんなこと、どうでもいいよ。」

その会話に横やりを入れたのは椎名さんだった。
そして、三節棍で左千夫様を指す。

「神功、夏岡、久しぶりに勝負しようよ。
ラディエンシークルセイド、少しは楽しめるとおもったんだけどね、腑抜けばっかりだ。」

夏岡先輩は青ざめ、御神君は「駄目だっていってるだろ!」と、椎名さんを叱っていた。
当本人の左千夫様は長く溜息をついた後。

「断ります。」

そう、はっきりといった。
…左千夫様も戦いは嫌いじゃない筈なのに珍しい。
そう言うと椎名さんの眉がぴくっと動いたのがここからでも分かった。

「ふーん。じゃあ、仕方ないな…。ミカミ。籠城にきた奴は戦ってもいいんダロ?」

椎名さんが唇を舌で舐めた瞬間に、左千夫様が臨戦態勢に入った。
それに驚いた私は目を見開いたが次の瞬間私は椎名さんの腕の中に居た。

「遅いよ。」

「……そうでしたね。貴方の能力を忘れてました。
柚子由を返していただけませんか。」

私のせいでと思い暴れようとしたけど、椎名さんと目が合った瞬間私は一歩も動けなくなった。
威圧感が他の人の非じゃない…。

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【九鬼】

ボクは椎名の事は良く知らないが、相変わらず闘う事しか頭にないのは初めて対峙した時と変わりなかった。
ずっと左千夫クン達の様子を傍観していたが、ゆずずが捕らえられた。
このままだとここで戦闘にもなりかねない。

ボクは椎名と闘ったことはない。
副会長の座を貰い受けたのも、相手が闘う気がなかったので、すんなりとなることができた。
あの時はそれはそれでよかったが、今闘ったとして、勝てるのかどうかはわからない。
もちろん闘ってみたい気持ちはあるんだけど。

「やめるんだ、優月!三木をそちらに返せ!」

あの御神とか言う男は会長のようだが、完全に椎名に振り回されているようだった。

「うるさいな……返さないよ。
返して欲しかったら、恵芭守高校まで来てよね。じゃ」

そう言って嫌な笑みを浮かべた椎名はその場から消えた。
あれも彼の力だろうか。
初めてみたが、どういった能力なのかが気になる。
同時に、一度は手合せをしてみたい気持ちが沸き上がってきた。

「あーもう………はぁ……。
すまない、神功君。こうなったら君達を僕達の高校に連れていかなくてはならないね。
会長として恥ずかしいよ…。
今から案内する。手間をかけるが申し訳ない」

御神という男は深々と頭を下げ謝罪をした。
そして、ボク達は恵芭守高校へと向かった。

これから久々に骨のある奴等と闘えるのだろうか。
恵芭守にはあの時の借りもあるし、左千夫クンが望まない戦闘だったとしても、楽しみなことには変わりない。
椎名の殺気ににあてられたのか、身体の震えを抑えるように自分の腕に爪を立てた。

-----------------------------------------------------------------------

【日当瀬晴生】

厄介なやつに捕まった。
御神のことは正直全くと言うほど記憶にない。
千星さんの華麗な活躍なら記憶にあるが。

それより問題は椎名だ。
あいつは夏岡さんと一緒に(裏)生徒会をしているときに何度か手合わせしたことがある。
正直、……何度も殺されるかと思った。
しかし、奴の興味は夏岡さんにしか向いていなかった。
だから助かった様なものだ。

会長に代わってからもアイツは何度か勝負に挑んでいたが。
会長が本気ですると無事では済まないと察していたのだろう、いつもある程度で引いていた。

それほどの実力者だ。

会長は三木を攫われても焦ることは無かった。
アイツの性格を熟知しているからだろう。
椎名は三木に危害を加えることは無いだろう。
それは、俺達が行けば、の話だが。

「会長、急がなくていいんですか?」

「大丈夫です、椎名は柚子由を傷つけたりしません。
彼は自分と同等に戦えるものにしか、興味はありません。
……出来れば、この勝負受けたくなかったのですがね。」

そうだ、恵芭守高校は籠城すると言っていた。
と、言うことは高校自体にかなり仕掛けがあると考えてもいい。
千星さんや天夜が不思議そうに会長を見つめていた。

「恵芭守高校は現在上位です、ここのポイントを奪えるのは嬉しいですが、正直リスクが高い。」

「確かに俺も椎名に勝てる自信はねーな。」

夏岡さんまでもそうおっしゃる。
そして、今は目の前の人物たちも相手にしなきゃなんねぇ。

「一つ言い忘れたが、きっと優月は僕達が作ったキャッスルに居る。
その城に入ってしまうと僕達とポイントをゲーム掛けてたゲームをしてもらうことになる。
それだけは了承しておいてくれ。
君たちが全てをクリアするか、君たちが負けるか、勝敗が付かない限りそのゲームは終わらないからね。」

恵芭守高校のキャッスルの話は聞いている。
しかし、そこに自分たちから行くことになるとは思わなかった。

「さて、もう後の祭りですしね。
椎名の能力については少し話しておきます。」

恵芭守高校の後ろについていきながら彼らには聞こえない程度の声で話を進めた。

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【千星那由多】

御神が恵芭守高校の(裏)生徒会にいるのには驚いたが、あいつは俺が思うような嫌な奴ではなくなっていた。
いや、そのことはいい。
それよりもとんでもないことになった。
椎名優月に三木さんが捕らえられ、結局俺達はこれから恵芭守高校へと行く事になってしまった。

高校へと向かう途中に会長から椎名の能力の話を聞く。
簡単に言うと、椎名の能力は「ブラックホール」であった。
異空間が現れ、そこから色んな物が出てきたり吸い込まれたり…。
想像するだけでかなり怖いんだが。
多分ブラックオウルの時にレゲネが使用していたものに似ているのかもしれない。
なんにせよ、きちんと奴の闘いを見て見ないことには分からないだろう。

そうこうしている内に恵芭守高校へとたどり着いた。
ここも結構デカイ高校として有名だ。
文武両道、プロフェッショナルを育てる、とかいう話をきいたことがある。
愛輝凪よりもガチガチな進学校と言った感じか。

御神達の後についていくと、使用はしていなさそうな古びた体育館の前へと連れていかれる。
そこには先に椎名がいた。
だが……三木さんはいない。
それに気づいた御神が、低い声を放つ。

「椎名、三木はどこだ」

「もう中に入れちゃったよ。大丈夫、ジングウ達が中に入ればいいことだから」

質問した御神の事は見ずに、会長を見つめながら、クスクスと椎名は笑った。

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【三木柚子由】

さっきは椎名さんの発した殺気に竦んじゃったけど、別に悪い人って訳では無いみたい。
ここに着くなり、古びた体育館に入れられた。

「奥に進んじゃ駄目だよ、危ないからね。」

彼はニコニコしながらそれだけ告げると姿を消してしまった。

“ようこそ、ラビリンスゲームへ!
おひとり様ですか?”

「あ…いえ…その」

頭上のスピーカから声が落ちてくる。
一人と聞かれれば一人だし、後から左千夫様達が来るかもしれないし。
オドオドとしていると後ろの扉が再び開いた。

「いいえ、僕達も参加します。」

後ろから左千夫様の声と共に愛輝凪の皆が入ってきた。

“畏まりました。十名様ですね、それではルールを説明します。”

■■■ラビリンスゲーム■■■

・参加費として一チーム10ポイントを支払う。
・途中棄権の場合はこのポイントは恵芭守高校のものとなる、クリアした場合は10ポイント付加して返還される。
・ファーストステージ、セカンドステージ、サードステージで構成される。
・そのステージの最後に恵芭守高校の各能力者が用意したステージで戦闘し、勝利すれば次のステージに進める。
・最後の戦いの参加者はファーストステージは1ポイント、セカンドは2ポイント、サードは3ポイントを支払い、勝利すれば倍になって返ってくる。
・各ステージの最後の戦いでOUTとなった場合、ポイントは奪われるが挑戦者のチームが誰か一人でも生存すれば次のステージに行くことができる。
・その場合、物理的な怪我は治らないが、能力によっておこった現象は無くなっている。
・リタイアと叫ぶ、死亡した場合、その他卑怯な行いをした場合は失格となり、参加費は返ってこない。


“簡単には以上です。それでは、また分からないことがあればお呼びください。”

ガシャンと大きな音を立てて扉の鍵が締まった。
そして、私達の前には複雑な迷路が立ちはだかった。

「……すいません、私のせいで。」

こんな時足を引っ張ってばかりだと肩を落としたが左千夫様はいつものように微笑んだ。

「どうせ戦わなくてはならなかった相手です。
それでは、点数を奪ってくるとしますか。」

そう告げた瞬間全員のブレスレッドが光る、参加費のチームとして10ポイント、なので、一人1ポイントずつが引かれてしまった。

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【千星那由多】

三木さんは無事だった。
それはいいが、結局俺達はこのラビリンスゲームに参加することになってしまった。
見た感じ、中は古い洋館のような作りになっており、体育館の中なのにかなり広そうだ。
幻術の類で作られているのだろうか。
道はほぼ一本道で、ゲームのRPGのような雰囲気だ。
歩いて行く度に、壁にある燭台の火が付き、薄暗い道を照らしていた。

全員が先に武器を展開している。
恵芭守の奴等は一緒には中に入って来ていない。
このままどこかに辿り着くまで、何も出てこないのだろうか。

「暗いなー皆離れんなよー」

夏岡先輩がそう言った時だった。
目の前から何かが近づいて来る。
戦闘に入るのかと思い全員が武器を構えると、光に照らされたそこには、四足歩行のデカイ蜘蛛みたいなものに、人間の顔がついているモンスターがいた。
気づいた途端にそいつらはかなりの量いることに気づく。

「きもーい」

一番後ろにいた副会長がそう言うと、どうやら後方からも何かが近づいているようだった。

「戦闘開始と行きますか」

会長のその言葉を合図に、晴生の銃声が響き渡る。
目の前の蜘蛛人間を撃ったようだったが、それは真っ二つに分裂すると、二体に増えてしまった。
ゲームで良くあるパターンのようだ。

「強行突破しかないみたいですね。全員離れないように」

走らなきゃいけない、ってことか。
全員が頷くと、何故か会長が俺の腕を引っ張り先頭に立たせる。

「ぅ、え?」

「調度いい火を作れるので、那由多君は先頭をお願いします。後ろからサポートしますので」

冷や汗が流れた。
これって、俺は灯り担当、っつーことだよな…。
しかしそんな事を考えている間にも、蜘蛛人間はこちらへとにじり寄ってくる。

「わ、わかりました…」

しぶしぶ炎の剣を作り上げると、息を飲み走り始める。
後ろから援護されながら道を切り開いてもらうと、蜘蛛人間を分裂させないように炎で燃やしていった。
襲いかかってくる敵は全員がフォローしてくれつつ、俺は灯り担当をしっかりとこなしていた。 





   


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「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

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