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isc(裏)生徒会
トンデモ戦隊アテナレンジャー
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【千星那由多】
長いようで短かった、プライベートビーチでの日々も終わり、俺達は今何故か遊園地にいる。
事の発端は十輝央先輩だった。
勝負に付き合ってくれているお礼、と言われて渡されたのが人数分の遊園地のチケット。
どうやら神功系列の遊園地らしく、最近オープンしたばかりらしい。
楽しい時間を邪魔してしまったからとかなんとか言っていたが、もちろんその日も習字の勝負を挑まれたのは言うまでもない。
本当にあの人の勝負はいつまで続くのだろうか。
遊園地の名前はアースプラネット。
園内の案内ブックレットを見る限り、宇宙を題材にした乗り物なんかがあるみたいだ。
もちろん俺はジェットコースターは乗れないし、人の多い場所は苦手なので、あまり遊園地は好きではない。
客層は大人から子供まで幅広く、夏休み中の学生やカップルなどでも賑わっていた。
「ゆーえんち!!!!」
もちろん一番はしゃいでいたのは純聖だ。
そりゃあ海の次は遊園地、となるとこの年齢なら嬉しくて仕方ないだろう。
「中々広くていいネ~何乗る何乗る??」
そして何故か副会長もはしゃいでいた。
海ですっかり焼けた肌が目立つ。
それでなくても男が多い団体と言うのは少し恥ずかしいのに、この人がいると余計に恥ずかしさが増す気がする。
こうやって連日遊ぶと言うのは中々無い。
海からの筋肉痛が続いていたので、早く帰りたいがそうもいかないだろう。
キャップを目深くかぶると、ぬるいペットボトルのジュースを口に含んだ。
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【純聖】
遊園地…!
名前には何度か聞いていたけど初めて来たぜ!!!
こういうときにクキはノリがいい。
那由多とは大違いだ。
と、言うか那由多はどこにいっても駄目だな本当。
「あれあれ!!あの、スペースシャトルとか言うやつ!!!」
俺はナユタの手を持ちグイグイと引っ張っていく。
勿論、嫌がらせだ。
後からクキもついてくるし、なんだかんだ言いながら皆ついてきてくれてる。
左千夫は幸花の手を握って走ってくる。
「一番叫んだやつがアイス奢りな!!」
スペースシャトルとはその名の通り、スペースシャトルがぐるんぐるん何回転もする乗り物だ。
それに無理矢理ナユタを押しこんで行く。
早く全てののりものに乗ってしまわねーといけない。
だって、午後からあの、アニマルレンジャーの舞台があるんだ!!
それまでに乗り物、特に絶叫系は全て制覇するって俺は決めてる。
ちゃんと、ルートまで書いてきた。
俺はネットから印刷して貰った色々書いたブックレットをナユタの横で広げながら椅子に座り足をパタパタと揺らしていた。
“まもなく発射します。皆さん、よい旅を”
そんな放送が入った後にスペースシャトルが動き出した。
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【九鬼】
女の子とは何度も遊園地には行ったことはあるが、こうやって仲間と来るのは初めてだ。
変な新鮮さがある。
こういう時は楽しまなくては損なので、先導して列を率いていった。
絶叫系が苦手なのはなゆゆぐらいか。
こういう時に苦手な奴を無理矢理乗せるのが楽しいので、とにかく絶叫系は全て乗っておきたい所だ。
あとお化け屋敷ね。
コースターが動き出すと、なゆゆの絶叫しか聞こえなかった。
あとはおチビくんの楽しそうな声。
最後の方になるとなゆゆの叫びは聞こえなくなり、降りた時にはまるで魂が抜けてしまったかのように青い表情をしていた。
「これでもまだレベル1くらいなんだけどネ~♪次いこ!次!!」
それからは言うまでもなく、絶叫系コースターのオンパレードだ。
子供向けの軽いものもあったが、それには目もくれない。
逆さになったまま走るコースター、後ろから90度で落ちて行くもの、どれもこれも楽しすぎて子供に戻ったような感覚だった。
小さい頃は遊園地なんか来た事無かったけど。
「も……無理…です……吐きそ……」
なゆゆは完璧におチビくんに引きずられて歩いている状態だった。
多分あれ本当に吐くな。
「じゃあちょっと休憩しよっか♪涼しいところで」
そう言ってボクが先導して行った先は、休憩所でもなんでもなく、お化け屋敷だった。
左千夫クンが後ろの方で立ち止まったのが見えた。
「宇宙がテーマのお化け屋敷だって!宇宙人に改造されちゃうとかかナ♪」
「なにそれ!!そいつら倒してもいいのか?」
「だめだよ、純聖くん」
微笑ましくやっているのは、純聖、ゆずず、ボクぐらいだった。
うーん、盛り上がりに欠ける。
おチビちゃんと手を繋いで立ち止まっている左千夫クンの空いている手を引っ張ると、そのままお化け屋敷に直行した。
その時だった。
お化け屋敷から出て来たであろう2組のカップルの揉めている声が聞こえた。
「ちょっと!!あんたなんなの!?ヤス君もなんとか言ってよ!!」
「あんたこそタツヤのなんなの!?ヤス君って誰よ!?人違いでしょ!!」
「ゆかり…タツヤは俺だよ……」
「はぁ!?何よキモイあんた!!」
なんだ?カップル同士の喧嘩か?
少しワクワクしながらその光景を横目に、お化け屋敷へと入ろうとした。
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【日当瀬晴生】
ったく。
ラディエンシークルセイド最中だってのにガキのおもりかよ。
正直疲れるぜ。
絶叫つっても全然怖くねーし。
千星さんはガキに取られるし。
煙草も所定の場所以外は吸っちゃ駄目だとか言われて正直俺のテンションは激下がりだった。
次はお化け屋敷らしい。
そこなら確かに涼しいなと思いながら俺は後方を歩いていた。
いや、それよりも後ろにいつの間にか会長がチビと一緒に居たが。
九鬼が会長を引っ張ろうとしたその時、男女の言いあいが始まった。
…いつもならなんて無いのに、俺はその時に違和感を感じた為に直ぐに携帯を展開した。
「…会長。あれ、どうやら、能力絡みっぽいですよ。」
俺のテリトリーに入った言い合っている男女を分析していく。
女は二人ともヤスと言う男性に向かってタツヤやヤスと違った名前を言っていた。
俺の能力を介してみると、ヤスと言う人物をタツヤと言っている女性には確かに彼がタツヤに見えている。
いや、見せられていると言った感じだ。
そして、タツヤと言う奴がヤスに見えているようだ。
仲の悪い奴の仲が良くなる、中身が入れ変わる。
多分そう言った能力の一種だろう。
「それはいけませんね、さっさと解決してしまわないと。早くしないと純聖が楽しみにしていたショーも始まってしまいますしね。」
いつもの笑顔で会長はそう言ったがいつもよりもかなり嬉しそうに俺は感じた。
んなにオバケ屋敷がいやだったのか…?
俺はこの能力の解除方法を探るために更に意識を集中した。
そして、溜息を吐くことになる。
この能力の解除方法がまたキス、だったからだ。
しかも、勘違いした人物とのキス。
間違いなく修羅場になる。
それが分かるなり俺は全員へとその情報を伝えた。
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【幸花】
どうやら能力にかかっている人がいるみたい。
ハルキの話を聞く限りでは、解くことはできるみたいだけど、それがキスという事だった。
キス……思わず左千夫の顔を見つめる。
どんな感触なんだろう。
もちろん私はしたことがない。
左千夫と視線が合ってしまうと、思わず俯く。
早く大人になりたい、そんな事を考えながら地面を見つめた。
「これまた嫌な能力だネ~キスとかしたら揉めるの確実じゃん!」
「そこは僕の幻術でなんとかしましょう。とにかく今は目の前のカップルを。
そして急いで園内を回りましょう」
左千夫がそう言うと辺りに甘い香りが漂った。
左千夫の幻術が発動したんだと思う。
心地よい空間。
テリトリー内にいるといつも感じるこの空気が私は好きだ。
そうこうしている内に先ほどまで揉めているカップルが静かになった。
そして徐に能力のかかっていた女が、タツヤと呼んでいたヤスという人物へとキスをする。
…のを見れると思ったんだけど、それは左千夫の少し冷たい手に視界を覆われて見る事ができなかった。
「うおぉ……」
「濃厚だネー」
周りの声だけが聞こえる。
私はまだ大人の一員になれないのかとため息をついた。
視界が明るくなると、そこには元の鞘に戻ったカップルがいた。
起きていたこともすっかり忘れ、それぞれのカップルは楽しそうにこの場を後にする。
うまく行ったみたい。
「では、少々骨が折れますが行きましょうか。お化け屋敷は残念ですがまた今度ですね」
そう言った左千夫は何故か嬉しそうだった。
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【天夜巽】
どうやら会長が当たり障りなくキスをする雰囲気に持っていきキスをさせては能力で記憶を混乱させていっているようだ。
しかし、それが出来るのは会長と三木さんだけ。
俺達はしらみつぶしにおかしくなった人たちを探すことしかできない。
色んな人が居た。
小学生の男の子が女の子二人に引っ張られていたり。
おじいさんが若い女の人のことをおばあさんと呼んでいたり。
小さな女の子が宇宙人を模した人形にママとしきりに言っていたり。
小さな女の子と被りものをしている人形のキスは誰にも迷惑が掛らなさそうだったので俺と那由多と日当瀬でキスさせておいた。
後は会長に任せようと連絡を入れて置く。
「日当瀬、能力の発動源分からないの。」
「分かったら其処に向かってるつーの!なんつーか、不安定見たいでよ、感じたり、感じられなかったりすんだよ。
只でさえ、遊園地はうるせーからな、気が散って仕方ねーんだよ。
…っと、観覧車の近くでもめてるみたいです、千星さん。」
結局犯人が分からないまま僕達は能力に感染した人たちを正していった。
一通り遊園地を一周すると騒ぎは収まったようだ。
「取り合えず、騒ぎは収まった様ですね。
能力の発動源が分からない以上、これ以上は手の出し様がありません。
昼食後は…純聖、あれが見たかったのでしょ?」
そう言って会長は遊園地にある舞台を指差した。
其処にはでかでかと“アニマルレンジャー参上!!”と垂れ幕がしてある。
なるほど。確か、純聖君はアニマルレンジャーの大ファンだ。
これ以上手が打てないなら遊園地を楽しみながら目標の人物を探すのが良いのかもしれない。
俺達はファーストフードを買いに行った後、舞台の客席へ腰かけてそれを食べ始めた。
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【千星那由多】
結構な人数が能力の餌食になっていたので、だいぶ時間がかかった。
発動元がわからないままだったが、気づいた人たちはなんとか元に戻せたので一応は大丈夫だろう。
しかしそれよりも……気分が悪い。
ジェットコースターばかり乗らされていたので、正直俺の体力は殆ど無くなっていた。
皆がファーストフードを食べている横で、一人何も食わずにがっくりと項垂れる。
「大丈夫ですか、千星さん」
「うぅー…休んだら…多分いける……」
冷たい水を持って来てくれた晴生の顔も見ずに、呻き声のような返事を返した。
昼からアニマルレンジャーのショーを見るであろう親子達が、続々とステージの観客席へと集まり始めている。
それをただぼーっと眺めていると、一組の親子が視界に入った。
「アンナちゃん、アニマルレンジャーショー楽しみだね」
「……」
「ま、魔女っ娘なゆちゃんの方が…いいのかな?」
「……」
「こらアンナ、アニマルピンク大好きでしょ、返事ぐらいしなさい」
魔女っ娘なゆちゃんと言う言葉に一瞬身体が強張る。
あれって子供にも人気あんのか。
アンナと呼ばれる少女は駄々を捏ねているのか、父親らしき人物をフル無視していた。
嫌われてんなあ、父ちゃん。
そんなことを考えながら大きく息をつく。
アニマルレンジャーショーが始まるまであと15分ほど。
純聖はいち早く飯を食べ終わると、キラキラとした眼差しでずっと舞台を見つめていた。
暫くだらだらと時間が過ぎるのを待っていると、何やら舞台脇が騒がしくなってきていた。
スタッフが集まって何やら相談しているが、全員慌てている様子が見える。
その行動をずっと目で追っていると、突然園内アナウンスが流れた。
「13時からより予定しておりました、アニマルレンジャーショーは、諸事情により中止となりました」
その園内放送が流れたと同時に、子供たちの声が上がる。
なんで?だのどうして?だの、泣き出す子供もいた。
何か運営側で不手際でもあったのだろうか。
会長の横で呆然と立ち尽くしている純聖が見え、少し心が痛んだ。
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【神功左千夫】
これはかなり痛い事態だ。
折角純聖が楽しみにしていた舞台が無くなるとは。
しかも、こんなにギリギリになって、いったいどういうことなのだろう。
純聖はてっきり駄々をこねるものだと思って居た。
しかし、茫然と立ち尽くした後、「まー、仕方ねーよな。ヒーローって忙しいし」と、言うだけだった。
けなげな姿を見てしまうとどうにかしてやりたいと思う気持ちが募ってくる。
やれやれ、本当に僕は身内には甘いですね。
余り権力と言うものを私用で使いたくは無いのだが、僕はそのまま舞台袖へと歩いていった。
「すいません。少し、ここの責任者とお話をしたいのですが。」
中の人間は訝しそうに眉をひそめていた。
きっと、クレーマーだと思われたのだろう。
誰もクレーマーを相手にしたくないので早々に責任者を呼びに行ってくれる。
勿論、責任者となれば僕の顔を知っている人物になる。
「こ、これはこれは、神功の御子息殿ではないですか…!もしかして、レンジャーを楽しみにしていらっしゃいましたか?」
「いえ、僕では無いんですが、友達が…、それよりどうかされたんですか?」
「誠に申し訳ありません、こちらの手筈違いで、ショーに出演する演者との契約日が間違っておりまして…」
なるほど、手配ミスか。
そう言いながら責任者は僕に深々と頭を下げていた。
いつの間にか横に九鬼が居た、そして、いつから居たのかイデアまで居る。
「これはやるしかないね、左千夫クン。」
「やるしカないナ、左千夫。」
二人が一斉に僕の肩を片方ずつ掴んだ。
なんとなく予想できた展開だが気が重い。
僕はさらに責任者を説得するようにと代わりのショーの提案をした。
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【千星那由多】
会長が関係者と話をしに行ったので、近くのベンチに腰をかけて待っていた。
暫くすると、何故かイデアだけが帰って来る。
なんだか嫌な予感がする。
「ジュンセイとサチカ以外、今すぐ来イ」
そう言い放ったイデアの後を、純聖と幸花だけを置いてついて行く。
何故か関係者以外立ち入り禁止の控室へと連れていかれると、そこには会長と副会長がいた。
「い、一体なん……」
「今からワタシタチはアテナレンジャーにナル」
アテ…ナ…レンジャー?
アニマルレンジャーじゃなくて?
なんだそれは。
つーか状況が飲み込めない。どういう意味だ。
「台本ハ全て全員のブレスレットへと送ってオイタ。
衣装は九鬼が用意シテクレテいる」
そう言って副会長がじゃーんと言いながら取りだしたのは、戦隊ヒーローが着る全身タイツのようなスーツとヘルメットだった。
それで全て合点がいった。
俺達がヒーローショーに出るという事だ。
「はぁああああ!!!???」
「そう言う事になりました」
会長もしぶしぶ巻き込まれてしまったという様子で、小さくため息をついていた。
副会長はすでに衣装に袖を通し始めている。
「い、いや…中止になったからって、なにも俺達がやることない……」
「クチゴタエするナ。これも修行の内だと思エ。時間がナイ、早くシロ」
そう言ったイデアもやる気マンマンなのか、赤いスーツを身に纏い始めていた。
俺に渡されたスーツは青、会長は黒で、副会長は白。
巽は黄色、晴生は緑、そして三木さんはピンクだ。
「おチビくんもせっかく楽しみにしてたのに、大人の手違いで中止になってかわいそうでしょ?
ここで待ってるチビっこたちのためにも、ひと肌脱ごうヨ♪」
そう言った副会長は、もうヘルメットをかぶって準備も万端だった。
純聖……。
確かにすっげー好きだもんな、アニマルレンジャー。
それに楽しみにしてただろうし。
青いスーツに視線を落としながら、俺は大きくため息をついた。
やるしかないか……。
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【三木柚子由】
“皆様にお知らせです。
本日アニマルレンジャーのショーは中止となりました。
振替のショーとしまして、アテネレンジャーを行います。
開演まで暫く時間がございますので、是非ステージAまでお越しください。”
私達がヒーローショーをすることになった。
開始時間が、園内に放送が入る。
と、言ってもアニマルレンジャーをしちゃうと著作権などの問題があるのでそれを捩ったアテネレンジャーと言うものだ。
舞台袖から舞台を覗くと本格的な作りだ。
高いところもあるし、池も有れば、炎も噴き出す、きっと爆発もする。
しかもイデアちゃんから貰った台本は結構過激だった。
私はイデアちゃんが作ってくれたカーテンの中で着替えた。
ぴったりと体にフィットするスーツを着込み、ヘルメットをかぶった。
外では左千夫様とくっきーさんが軽い手合わせと打ち合わせをしていた。
「武器はそのままですが、九鬼がちょっとだけ装飾してくれてます。
必殺技は出してもらって結構ですし、効果音や演出は僕の幻術で何とかします。
では、打ち合わせ通りに。」
外を覗くと結構なお客さんが入っていた。
アニマルレンジャーショーは人気のショーだったのだろう。
そのお客さんがそのまま残っている感じだ。
純聖君と幸花ちゃんは一番前の席に座っていた。
お利口にしてくれているようなのでホッとする。
“それでは間も無くアテネレンジャーショー「ホワイトの裏切り」が始まります。
皆さん、お楽しみに!”
ナレーションが終わった瞬間に効果音が流れる。
まずはイデアちゃんが作ってくれた悪役達が現れる。
初めは軽い戦闘シーン。
純聖君を喜ばせる為に頑張ろう。
私はギュッと両手を握り締めた。
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【千星那由多】
全員がヒーロースーツに着替えた。
視界はあまり良くないが、この真夏にこのぴったりとした衣装はかなり熱い。
気分の悪さが抜けきっていなかったので、正直長い事このままだったらキツいかもしれない。
そんな事を考えている暇もなく、ショーは始まった。
『ククク……平和ボケした人間どもめ……地獄を味わうがよい……』
会場にドスの低い声が響いた。
誰が出してるのかはわからないが、その声と共に空から何かが降りてくる。
観客が空を見上げ驚いた表情をしていた。
そりゃそうだ。
これはワイヤーアクションじゃない。
普通に足からロケットの様な物を噴射しながら舞台に降り立ったそれは、イデアの作った……銅像君4号だった。
「スパルタン様にかかれば、地球など一撃で火の海だ!!!!」
あの声は銅像君から出てるんだと思う。
中には誰もいないはずなんだけど…。
銅像君、いや、スパルタンが口から火を吐くと寄せ集めのスタッフだと思うが、雑魚の衣装を着て舞台袖から出て来る。
そして、観客席に向かって奇妙な動きをしながら子供たちを怖がらせていた。
ここで俺達の登場だ。
「マツんだ!!スパルタン!!キサマの好き勝手にはサセナイゾ!!」
イデアの大声は初めて聞いた気がする。
しかしイデアはどこから登場するのか……と思っていたら、場外の時計塔の上に立っていた。
スパルタンがそちらを指差すと、子供たちの視線もそちらへ向く。
会場が沸き立つと、イデアは足の先から火を放ちながら舞台へと飛んで来た。
そして舞台へと降り立つと、華麗に変身ポーズ…ではなく、棒立ちで決め台詞を叫ぶ。
「冷たい炎のサツジンマシン!アテナレッド!」
ちびっこ向けのショーに殺人とかダメだろ普通。
舞台脇でそれを見守っていたが、次はブルーの俺の番だ。
ちなみに登場シーンは、台本には「派手に華麗に」と書かれていたが、俺はそんなことできないので普通に舞台脇から出ていく。
うおお、いくらマスクをかぶっていると言えども、人前は緊張する。
すでに解除している剣を持ち、イデアの左横へと移動すると客席に向かって構えた。
派手、つってもできることが限られているので、とりあえず炎の剣を纏ってみよう。
いつも通りに火と言う字を宙に綴ると、子供達の歓声が起きた。
やっぱこういうの好きだよな、ちびっこは。
そしてそれを剣に纏うと、炎の剣が出来上がる。
「と、取り柄がないけど天然パーマは伊達じゃない!アテナブルー!」
なんつー台詞だよ。
つーか今マスクつけてんのに天然パーマとかわかるわけねえし。
一応は決まったか…と思ったが、何故か会場がざわついた。
「ブルーなのに炎なの?なんでー?」
「ブルーは水とかじゃないの?」
「炎はレッドだよー」
ちびっこたちのそんな声が聞こえてくる。
……そうか…俺、ブルーだったんだ……。
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【天夜巽】
子供からヤジがとんでいる。
どうやら、那由多がブルーなのに、炎を出したようだ。
こういうの、子供は敏感だからな。
次は日当瀬の番だ、しかし姿が見当たらないと思ったら、逆の舞台袖の喫煙場所で煙草を吹かしていた。
慌てて俺が出番だと手を振ると、「へいへい。」と言った感じで煙草を揉み消し、ヘルメットを被った。
そして、塀の上を走るかのようにセットの上を走り、銃を数発、客席の柱に跳弾させる様にカンっと言う良い音を響かせながら華麗に登場していた。
勿論ブルーの横を陣取る。
「近寄る奴は千星さん以外ぶっころす!アテナグリーン!」
決めポーズのように銃を構えた。
勿論、客席からは「せんほしって誰ー?」とか声が上がっているが跳ねかえった銃が見事にスパルタンの足元を丸く囲う様に落ちたので子供の反応は上々だ。
次は俺だね。
俺は、鎖鎌を屋根の柱へと引っ掛け、ターザンのように登場した。
勿論黄色ならではの技は使えないのでそのまま鎖を振り回す様にしてイデアちゃんの後ろに立つ。
「無自覚腹黒!アテナイエロー!」
って、何!このセリフ!!
そんなつもり無いんだけどな…。
勿論子供はガヤガヤしていたけど、パパママが少し笑ってくれたので救いとしよう。
次の瞬間舞台中に花吹雪がが舞う。
綺麗な薔薇の花びら、そして、舞台後方から舞台まで鉄パイプが二本伸びている。
それに槍の柄をクロスさせアスレチックのターザンロープの様にしてピンクとブラックが舞台に降りてくる。
先に到着したのはブラック、即座にピンクの着地にフォローするように手を差し伸べた。
「きゃっ、す、スイマセンッ」
やっぱり三木さん。
最後はばっちりブラックもとい会長に受け止められていた。
そして、僕達の両サイドで槍を持ち決めポーズをとる。
「ドジだけど許される!アテナピンク!」
「冷酷だけど甘いもの大好き!アテナブラック!」
そして、最後は彼だ。
一番ノリノリのクッキー先輩は果たしてどうやって登場するのだろうか。
子供達もノリノリになり始めているのでやってよかったなっとちょっとだけ思った。
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【九鬼】
ボク以外の全員出そろった。
次の登場はボクだ。
舞台の裏で待機していたボクは、能力を発動させ白い翼を背中に纏った。
そしてそのまま地面を蹴ると、宙へと舞い上がり翼を羽ばたかせ観客席上を飛び回る。
突如現れたボクに、ちびっこもお母さん方も大興奮だ。
舞台へと降りる前にビジンな母親を一人選び、彼女の元へと舞い降りると、ウインクをかまし、手をひき甲へとキスを落とす。
その隣の娘であろう女の子にも投げキッスをしておいた。
頬を染める母親と女の子の隣には、父親がいたようだけど気にしない。
そして舞台へと戻ると音も無く着地する。
「……とにかくチャラい!!アテナホワイト!!」
台詞はまぁアレだが、性格的にハズレではないので良しとしておこう。
ビシっと決めポーズを整えた所で、全員打ち合わせ通りで一斉にポーズを取る。
そして戦隊名を叫んだ。
「我ら、トンデモ戦隊アテナレンジャー!!!!」
確かにとんでもない戦隊なのは当たってる。
ボクらが決めポーズを決め、後ろから火薬が爆発した所で、スパルタンが発狂しはじめる。
雑魚敵が食ってかかってくるのを、一人一人見せ場を作る様に闘い始めた。
一番心配だったなゆゆも良くやっている。
まぁ本当のバトルではないから、これぐらいならなんとかなるか。
イデちゃんはロケットパンチなんかを出してるし、雑魚敵のスタッフが驚いて腰がひけてるのが面白い。
乗り気じゃなかったはるるもそれなりに頑張っている。
巽は武器がなんとも言えないが、闘い方が派手なので子供達もかなり食いついていた。
左千夫クンはゆずずとペアのような扱いだが、言わずもがな漂うフェロモン的なモノで奥様方に大人気だ。
さて、そしてそろそろこの話の見せ場でもあり、ボクの見せ場だ。
「覚悟しろスパルタン!!」
そう言って全員で食ってかかっていく瞬間に、ボクだけは少し離れた場所で見ている。
そして、全員がスパルタンへと攻撃する瞬間に、能力を発動させた。
地面へと拳を突くと、スパルタンを守る様に壁ができ、それにすべての攻撃が跳ね返される。
全員がすぐにボクの仕業だと気づき、こちらへと向いた。
そして最初に口を開くのはブラックの左千夫クンだ。
「……どういうことですか……ホワイト…」
タイトル通り、ボクはここでいきなり裏切るのだ。
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【日当瀬晴生】
かったるいが悪くねぇ。
なんつーの、奉仕精神は俺にはねーがきっちり仕事して喜ばれるならそれは結構快感なんだ。
その辺りは会長が確りマネージメントしてやがったな。
会計の俺としては運用できる金が増えるのは悪い事じゃねーしな。
それにしても、なんてホワイトだよ。
普通、こういうのってブラックとかじゃねーの?
純白のホワイトが裏切り、チャライって設定中々ねーよな。
戦隊モノに詳しくない俺でも九鬼の悪徳さに肩を落とした。
そして、俺は九鬼似に銃を向ける。
「俺は、前々からこいつがいけすかねぇ奴だと思ってたが、とうとう本性を現しやがったな。」
「止めろよ、グリーン!きっとホワイトには理由があるんだよ。」
銃を構える俺に立ちはだかる様にイエロー、天夜が出てくる。
このまま二人一緒に打ち抜いても俺はかまわねーんだけどな。
「そうだよ、は、グリーン。一度、銃を引いて。」
すかさず、ブルーの千星さんが俺の腕に片手を触れさせる。
ああ、千星さん、貴方はアテナレンジャーになってもお優しいのですね。
俺は台本通り舌打ちしてから手を下ろした。
『ひゃーはっはっはっ!!既にホワイトはスパルタン様の手に落ちたのだ、見て見ろ、真っ白だったあいつの心が黒く染まっていくのを!!!』
いつの間にかスパルタンがホワイトの後ろに移動していた。
九鬼が能力を使っているのだろうが、衣装がどんどん灰色に近くなり、黒い模様が刻まれていく。
寧ろ、今の衣装の方が九鬼にあっていると俺は思うが、白かった羽も黒く染まりスパルタンと一緒に上空へと飛んだ。
「マテ、どこにイク!!ホワイト!!」
レッドのイデアさんが棒立ちで叫ぶ。
その瞬間に九鬼は中指を立てた。
地中から土が針上になって飛んでくる、そして、煙幕や爆発音が辺りに響いた。
この攻撃が結構まじで本気で避けないといけなくて、俺と天夜が千星さんのフォローに入った。
調度良い感じにスーツが破れる。
「もう、飽きちゃったんだ、キミたちと一緒にいるのも、この地球も…僕はスパルタンの元で自由になるよ。
バイバイ、アテナレンジャー」
そう言って俺達に投げキッスを送って二人は消える。
「ホワイトー!!!!」
最後に千星さんが叫んだところで煙幕に紛れる様にして俺達も舞台袖に捌けた。
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【九鬼】
ボクが裏切り、スパルタンと消えたところで舞台は暗転しみんなが舞台袖へと引いた。
そして、敵ターンだ。
スパルタンの後を付いて敵へと寝返ったボクもステージへとあがった。
案の定ちびっこから物凄いヤジが飛んでくる。
『ホワイトよ…良く仲間になってくれた…お前がいればアテナレンジャーなど、片手で捻りつぶせる赤子同然!!』
「そう言ってくれて光栄ですヨ、スパルタン様…。
そこでひとつお聞きしたい事があるのです、スパルタン様の弱点を教えていただけないでしょうか」
『……どういう意味だ?』
「仲間となったのですから、貴方様の弱点は私がしっかりお守りするべきだと思っているのです。
ああ…でもスパルタン様には弱点などありはしないでしょうか…」
大げさな身振り手振りで舞台を歩き回りながら、スパルタンへと問いかける。
スパルタンは少し考えた所で、ボクに耳打ちをした。
これも台本通りだ。
「ありがとうございます。貴方様の弱点は決して誰にも喋ったりなどいたしません。
そして、貴方様に一生尽くし、アテナレンジャーを殺してみせます…」
二人で高らかに笑った後、ここで観客を巻き込むシーンに突入する。
良くあるちびっこを舞台に呼んで質問したり、仲間にならないかとお願いする展開だ。
「さて、ではアテナレンジャーと闘うために、優秀な人材をこの場にいる子供から選びましょう」
そう言って観客席へと視線を落とすと、品定めをするように舞台を見回す。
手を挙げている子を見て行くと、やはりそこにおチビくんもいた。
俺をぶっ倒してやると言いたげな視線に、マスクの下で思わず笑ってしまいそうになる。
ボク達が誰だかは多分気づいてはいないんだろう。
折角だから選んでおいてあげよう。
「よし、一番前にいる赤色の服を着てる男の子、あとそこのお団子の女の子と、緑の帽子かぶってる男の子……ひっとらえろ!!」
パチンと指を鳴らすと、雑魚敵のスタッフが指示した全員を捕まえてくる。
女の子はかなり嫌がっていたが、純聖と緑の帽子の男の子は抵抗しなかった。
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【純聖】
このホワイト最悪だ!!!
つーか、アテナレンジャーって聞いたことねーヒーローだったけど結構凄い奴らだな。
戦いもいかしてっしファンになっちまいそうだぜ!
ここは俺が敵の味方になると見せかけてきっと駆けつけてくるアテナレンジャーに助太刀だぜ!!
俺達は舞台へと上がった。
そして、並んで、まずは自己紹介が始まる。
女の子は「アンナ」男の子「こうたろう」と言う名前だった。
『それでは最後の優秀な戦士!君の名前はなんだ?』
「純聖…」
『おお!!純聖君と言うのかね!!格好いい名前だ!!』
俺の名前が格好いいのは当たり前だ。
なんたって左千夫が付けてくれた名前だからな。
ふふんと鼻を鳴らしていると、俺達に剣が配られる。
と言っても、ふにゃふにゃの剣だったけど、取っ手の少し上にはスパルタンの文様が刻んであって正直持つのも嫌だ。
『はーははっ!!これは強力な戦士が手に入ったぞ!!
これでアテナレンジャーだけでは無く、…世界征服も目前だ!!!!』
「待ちなさい―――!!」
どこからともなく声が響いた。
これはアテナブラックの声だ。
そして、会場が甘い香りに包まれると共にどこからともなく布に体を包んだブラックが姿を現した。
「……ホワイト…本当に裏切るのですか…」
「元からキミたちのこと一度も仲間と思ったことないよ。」
「そうですか…。」
悩ましげなブラックの声が会場に響く。
なんだよ、このブラック良い奴じゃん!ホワイトの事を思って単身でこんなとこに乗り込んできて!!
バサッと布を翻すとブラックは三叉の槍を構えた。
「これは、貴方を仲間にした僕の責任。
僕、自ら貴方の命を立ちましょう。」
「ホワイトに僕が倒せる訳ないね!それに、今は強力な戦士が仲間なんだ――!!!いけ!ちびっこ戦士たち!!!」
ホワイトがブラックを指差した。
その瞬間に体ががら空きになる。
いまだ!!!
俺はそのタイミングを逃さずホワイトを蹴り上げた。
「へん!!誰が、スパルタンの味方なんかになるかよ!!この裏切りもの!!!!」
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【千星那由多】
いてえ……!!
純聖が副会長の股間を蹴り上げた。
悶絶しているその姿を見て観客から笑いが起こっている。
その様子を舞台袖で見ながら、男性陣は全員自分の股間を押さえていた。
しかし副会長はよろよろと立ち上がると、話を進めていく。
「ふ…こ、こんなことしてもボクは痛くないもんネー……!」
多分めっちゃくちゃ痛いんだろう。
さっきまで台本にそって俺口調だったのに、今は素が出ている。
そこからは会長と副会長の闘いが始まった。
そのバトルは本気そのもので、迫力に圧倒された観客は声も出ないようだった。
会長が槍を振うと、それに合わせて副会長が能力で地面から岩の矢を放つ。
全てを跳ね返すが、会長はどんどんと押され始めていく。
……はずなんだが……。
「な、なんか長くないか…?」
「あの二人ちょっと本気入ってない?」
完璧に今の状況を忘れているわけではないだろうが、どちらも一歩も引かない。
次は俺が出て行く番なのだが、まったくタイミングが掴めない。
「シカタないな、ナユタ、もう行け」
そう言ってイデアに思い切り背中を押されると、俺は舞台へとよろめきながら登場した。
二人はそんな俺に気づいているのかいないのかはわからないが、激しい闘いは終わらない。
えっと、台本なんだったっけ。
ブレスレットへとこっそり目を落とすと、ここはピンチになったブラックをブルーが水の剣で…。
……水の剣!!!??
思わずイデアの方へと振り向いたが、無表情で親指を立てて居るだけだった。
いやいやまってまってまって。
俺それまだ会得してねーし!できるかわかんねーし!!
そんな俺の真横に、副会長が放った岩の矢が落ちてくる。
そこでやっと俺の存在に会長と副会長が気づいたようだった。
突如会長…いや、ブラックがよろめき始めると、ホワイトがグローブを嵌め直した。
「これで終わりだヨ……ブラック!!!!」
えーちょっと待って!!今ブラック助けるとかの問題じゃないし!!
ホワイトが溜めの姿勢に入る。
ギっとブラックを睨みつけた瞬間に、俺はもうやけくそで剣を振っていた。
水という文字が宙に浮かびあがる。
火の剣の時を脳内でイメージするんだ。
剣に纏う感覚、水が、この剣に……。
眉間に皺を寄せながら、目の前の宙に浮かぶ水と対峙する。
その間に、ホワイトは地を蹴りよろけているブラックへと拳を向けた。
「ま、待てぇえええええええええッッ」
――――気づけば俺はブラックとホワイトの間に居た。
目を瞑っていたせいでわからなかったが、何かがぶつかった様な感触が、持っていた剣から伝わってくる。
薄く目を開くと、そこには水が剣を包むように流動し、ホワイトがそこへと拳を突きたてていた。
「で……できた……」
驚きを隠せずにそう漏らすと、後ろにいた会長から声がかかる。
「那由多君、次は君の台詞です」
その言葉にハッとすると、ホワイトの拳を水の剣で薙ぎ払った。
「ブ、ブラック!…一人でカッコつけさせないぜ!!
俺達仲間だろ!!」
そう言うと観客から大きな歓声があがる。
安堵に小さく息を吐くと、よろめきそうになった身体を会長が支えてくれた。
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【三木柚子由】
千星君、ちょっと格好いいかも…。
左千夫を助ける様に間に入った千星君はヒーローそのものだった。
純聖君がヒーローものに熱中するのが私にも少し分かってしまった。
「そうだ!!ブルー、ホワイトなんてやっちまえー!!!」
純聖君が叫ぶ。
すると、ホワイトが自分の顔を片手で覆いながら高らかに笑った。
「くくく、ははッ、ハーハッハッハッハ!!!
お熱い友情ごっこだね、俺は、そう言うとこに虫唾が走ったんだ――!!」
ホワイトがそう叫んだ瞬間に爆発音が響き渡る。
同時にブルーとブラックの悲鳴がこだまする。
「どうして、子供を戦士に選んだと思う?こうするためさ…!!
スパルタン様!!使えないコイツ等を人質にしましょう!!」
ホワイトがそう告げた瞬間、イデアちゃんを筆頭に私達は飛び出した。
「そうはさせないゾ!」
イデアちゃん…レッドがザコ敵へと飛びかかる隙を付いて、私がアンナちゃんと言う女の子。
イエローがこうたろう君を抱き抱えながら舞台の端へと移動する。
「もう、大丈夫よ。」
泣きっぱなしだったアンナちゃんへとヘルメットの下だけど微笑みかけると彼女は泣きやんでくれた。
純聖君を日当瀬君、グリーンが助けようとしたがホワイトの土の壁によって阻まれてしまった。
「じゅ、純聖くん!」
ブルーが叫ぶ。
そして、レッドを筆頭に私達は敵に向かって陣形を取り直した。
其処でスパルタンが前に出てくる。
「小賢しいわ、アテナレンジャーども!!子供等いなくても、この、スパルタン様が地獄に送ってくれるわい!!」
舞台が煌めく。
それと同時に私達全員に爆発音が走り後方へと吹っ飛んだ。
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【九鬼】
今はアテナレンジャー劣勢シーンだ。
ボクは純聖を捕まえると、翼を生やし空へと舞いあがった。
暴れてはいるが、アテナレンジャーを信じてじっと空から全員を見下ろしている。
「ふはははは!!さぁ、スパルタン様に扱かれて死ぬんだな!アテナレンジャー!」
ボクが高らかに笑うと、それを合図にスパルタンが力を溜めはじめた。
最終必殺技だ。
その間にレッドが舞台の真ん中へと出て来る。
「ミンナ、私タチに力をクレ!応援をタノム!!」
そう言うとちびっこ達がこぞって「がんばれー!」「負けるなー!」と叫び始めた。
この時の子供の一体感はすごい。
真剣な表情や眼差しは、見てるこっちがむずかゆくなってくる。
もちろん捕まえている純聖も叫んでいた。
意外と可愛い所もあるんだなとマスクの下で笑う。
さっきは金玉蹴られたけど。
『そんな応援などきかん!』
しかしスパルタンはそんな事など物ともせず、地面を踏みつけると、地震が起き、舞台が真ん中でパックリと割れてしまった。
この修理費どうするんだろう。
『地獄へと堕ちろ!!アテナレンジャー!!!!』
スパルタンの両手へと圧縮された光が集まって行く。
あれは多分本気で撃てるんだろう。
しかし撃たせはしない。
ボクは純聖へと耳打ちをした。
何を言ったかはすぐにわかる。
純聖がそのままの言葉を今、ここから叫ぶからだ。
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【純聖】
「うわッ…!」
俺はホワイトに連れ去られてしまった。
その時にブラックの声が頭に響いた。
“ジッとしていてください、必ず助けますから。”
そう言われたのでなるべくジッとしていた。
嫌だから暴れるには暴れたけど。
でも、でも…。
ま、まけちゃいそー…。
「がんばれー!!!アテナレンジャー!!!!」
心の底から叫んでみたが皆の劣勢は変わらなかった。
スパルタンの必殺技が発動する。
だめだ、これじゃあ、負ける!!
青ざめ俺の耳にホワイトが何か言ってきた。
こいつ、仲間がこんな状態なのになに、すんだよ。
え?
俺は一度ホワイトの顔を見つめる。
そうするとホワイトが小さく頷いた。
なんだ、ホワイト。
やっぱ、良い奴じゃん。
「アテナレンジャー!!!!スパルタンの弱点はやさしさだー!!!頑張ってー!!!!」
そう言った瞬間にレッドが光り輝いた。
“バズーカモード展開…”
そのままレッドがバズーカに変身していく。
「皆!僕達に優しさを分けて下さい!
両手を合わせて、昨日したいいことでもいいし、お手伝いしたこと、勉強で良い点取ったこと、なんでも構いません。
君たちがした良いことを、綺麗な気持ちを僕達に下さい!」
ブラックが会場に向かって叫ぶと、皆が両手を合わせた。
そして、思い思いに「昨日、お母さんの肩叩いた!!!」「テストで100点取れた!!」「かけっこで一等だった!!」と皆が叫んだ。
おれは、俺は…俺がした優しい事ってなんだろ。
「お菓子いっぱい食べた…、野菜も食べた…」
「あ、アンナはおもいつかないけど……もうちょっと新しいお父さんに優しくする!!!!!!」
舞台に上がった他の子たちも思い思いに叫んでいた。
おれ、おれは…
チラッとホワイトの顔を見た。
これからすることでもいいみたいだし。
「ホワイト、裏切って無いのに、本当はいいやつなのに、蹴ってごめんなさい!!!!」
めいっぱい叫ぶとアテナレンジャー達が顔を見合わせて頷いた。
巨大なバズーカにピンクが先頭、ブラックが一番後方でトリガーを構えた。
「ホワイト、…そして、客席の皆さんの気持ち受け取りました。
行くぞ、」
「「「トンデモバズーカ、発射!!!!」」」
『スパルタン、アタックー!!!!!!』
二つの眩い光がぶつかり合う。
俺はそのまま祈りのポーズで勝利を願った。
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【幸花】
純聖は多分アテナレンジャーが左千夫達だってことに気づいてない。
それぐらい少し考えればわかるのに。
確かに普通のショーと違って左千夫達がやるからおもしろいけど…。
周りの子供達が大声で色んな事を叫んでる。
私がした良い事ってなんだろう。
考えてみたけど無かった。
私、多分ずっと良い事してない。
眩い光から視線を逸らす様に俯く。
次に顔をあげた時には、決着がついていた。
左千夫達の勝利だ。
『まさか……この私が負けるなんて……。ふっ…仕方あるまい……それも運命……。
ちびっこ達よ……君達も、その優しい気持ちを忘れるんじゃないぞ……』
途切れ途切れの言葉を零しながら、スパルタンは粉々になっていった。
中には誰も入っていなかったみたい。
そしてホワイト、いや、クキが純聖を抱えたまま舞台へと降り立つと、皆が駆け寄ってくる。
「皆お疲れ様~♪どうだった、ボクの敵になった時の演技」
「本当に貴方って人は…」
クキが左千夫に頭を叩かれている。
そして全員が笑った。
周りにいる子供や親達も、笑顔だ。
こんなショーで幸せになれるなんて、簡単な人達。
そんな事を思ったけど、ちょっとうらやましかった。
「ミンナありがとう!君達のおかげでチキュウの平和ハ守らレタ!」
どうやらショーはもう終わるみたいだ。
謎の主題歌が流れ始めると、全員が横一列に並んだ…けど。
ブルー…バカナユタの様子がおかしい。
「じゃあミンナ!アテナレンジャーをこれからもヨロシクナ!!」
イデアがそう言った時だった。
明らかにバカナユタの足元がふらついて今にも倒れそうになった。
その瞬間に甘い香りが漂う。
すると、ふらついていたバカナユタが何故か元気になった。
…左千夫の幻術だ。
多分バカナユタの事だ、疲れてぶっ倒れてしまったんだろう。
それを左千夫の幻術で何もなかったことにしている。
つくづく迷惑をかけるやつ。
最後の最後に倒れたら、ここまで積み上げてきたものが全て無くなるっていうのに。
ああ…ここで心配するのが優しさなのかな。
舞台袖へと帰って行く皆を見つめていると、純聖が帰ってくる。
煩い歓声に耳を塞ぐように、再び俯いた。
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【アンナ】
「おかーさーん!!怖かったよ!!!」
スパルタンの部下に連れて行かれた時はもうだめかと思った。
でも、アテナピンクが助けてくれた。
こういう時、新しいお父さんは役に立たないけど、ここから必死に応援してくれてるのをアンナはみてた。
新しいお父さんのことは余り好きじゃない。
だって、大好きなお母さんを取っていっちゃう気がして。
舞台ではああ言っちゃったけど、やっぱりちょっと複雑。
アンナは手を伸ばしてくれる新しいお父さんから隠れるように、お母さんの後ろに隠れた。
そうだ、手伝ったお礼に何か貰ったんだ。
袋の中にはなぜかアニマルレンジャーのグッズが入ってた。
アテネレンジャーのが欲しかったのに。
そう思ったら一つだけ、小さなマスコット人形が入っていた。
しかも、アンナの大好きなピンクだった。
“それでは今から写真撮影を行います。レンジャーと取りたいちびっこは舞台まできてくださーい!!”
そのマスコットを見つめているとそんな声がした。
勿論、写真撮りたい。
アンナはデジカメを持っているお父さんの手を引っ張った。
「アンナ、ピンクと撮りたい。」
お父さんは驚いていたけど、とても優しい笑顔に戻った。
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【神功左千夫】
どうやら那由多君は完全にノックアウトのようだ。
確かに彼は絶叫マシンで酔っていたのにくわえ、この暑さにこのスーツ、仕方ないだろう。
裏に戻るとヘルメットの目の部分だけを開く。
九鬼はしきりに扇いでそこから空気を中へとおくっていた。
「ブルーは僕の幻術で何とかしましょう。九鬼、人形を作ってください。
那由多君はソファーで休ませておいてください。
それと、柚子由、今からオマエを幻術で柚子由の姿にしておくので幸花にカメラを届けてきてあげてください。」
指示を出していると曲が流れ始める。
イデアが用意した主題歌だ。
その間に柚子由は幸花にカメラを渡し戻ってくる。
舞台袖から覗くと結構列が長くて驚いた。
僕達が手を振りながら舞台へとでる。
ブルーが其処に居る様に幻術を使い、実際は九鬼が作った人形でフォローした。
全員と一枚、そして、好きなレンジャーと一枚。
そういった感じで撮影会は行われていった。
純聖の番だ。
「俺は、ホワイトとブラックがいい!!!!」
全員写真の後にそう叫ぶと、僕達の手を引っ張る。
勿論幸花も巻き込まれてスタッフが写真を撮ってくれる。
「なーなー!ホワイト!これに声吹き込んでよ!」
そう言って、純聖がホワイトにアテナホワイトのマスコットを渡していた。
確か、渡したのはアニマルレンジャーの粗品だったはず。
九鬼が作ったんだろう、器用な能力だ。
そして、目の前の幸花が僕にブラックのマスコットを差し出してきた。
幸花は僕が誰か分かっている筈なのに、と思いながらマスクのしたで微笑んだ。
「幸花。いつも、おつかれさまです。」
録音ボタンを押してから、なるべく柔らかい声で吹き込んだ。
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【九鬼】
子供ってのもかわいいもんだ。
すっかりおチビくんはホワイトを気に入ったようで、ボクが作ったボイスレコーダー付きの人形を差しだして来た。
単純だけど、またそこが憎めないというかなんと言うか。
ま、これ今ホワイトだから慕ってくれてるんだろうケド。
何を吹き込むか…とキラキラとした眼差しを送ってくるおチビくんへと視線を向ける。
変な事言ったら多分左千夫クンにしばかれるので、差し当たりのない言葉にしておこう。
「アテナレンジャーみたいに、仲間を大切にネ!!そしたら君もヒーローだ!!」
むずかゆい言葉に自分の顔が熱くなった気がした。
仲間を大切になんて、昔のボクじゃ死んでも口にしなかっただろう。
それでもおチビクンは飛び跳ねながら喜んでくれたので、恥を捨てて正解だった。
それにしても少し疲れた。
能力使いっぱなしだったし、色んな物作りすぎてガス欠も近い。
この後舞台の修理は確実にボクの役割なので、少し休みたい所だが…。
写真撮影は長蛇の列。
ぶっ倒れれたなゆゆが少し羨ましくもなってくる。
次から次に子供達と写真撮影をしていると、ゆずずの元にマスコットを持った女の子が現れた。
「ピンクかわいい!アンナ、怖かったけど楽しかった!また見たい!」
一生懸命に話すその子は、ボクが舞台に呼んだお団子の女の子だ。
この子は顔立ちも整っていてかわいい。将来有望だろう。
「ありがとう、アンナちゃん。そのマスコット貸してくれる?
声吹き込んであげるね」
「そんなことできるの!?」
嬉しそうに女の子はゆずずへとマスコットを手渡す。
そしてゆずずはボイスレコーダーのボタンを押した。
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【三木柚子由】
「アンナちゃん。無理せず、自分のペースで進んでね。」
私の声で良いのかなと、少し考えたけど、私は今はアテナピンクなりきらなくちゃ。
でも気の利いた言葉なんて思いつかないので、後ろのお父さんを見ながらそう言葉を綴った。
私は親子仲が良くない、アンナちゃんも良くないみたい。
私とは全く理由が違うんだろうけど。
そう吹き込むとアンナちゃんはとっても喜んでくれた。
握手しながらぴょんぴょん跳ねる姿はとっても可愛い。
「あ、アンナ、ピンクの事好き!!!ぴ、ピンクはアンナの事好き?
それとも、ブ、ブラックが好き?アンナ男の人には負けちゃう?」
ブラックの名前が出てきた瞬間、私はヘルメットの中で顔を真っ赤に染めた。
架空のレンジャーショーの中でもばれちゃうくらい、私態度に出してるのかな。
そんなことで困惑してると、アンナちゃんのお父さんがこっちにきた。
「バイバイ!ピンク!また会おうね!!」
ぎゅっと、最後にアンナちゃんが手を握ってくれた瞬間、ぐにゃりと視線が歪んだ。
暑い中、ずっと動きっぱなしだからかな。
その時は深く考えず私は写真撮影を終えた。
着替えてシャワーを浴びると舞台を修理している左千夫様を見つけた。
“それとも、ブ、ブラックが好き?”
アンナちゃんの声が頭の中で反芻される。
私は…。
勿論、そんなことを言う勇気は無い、舞台修理をしている左千夫様の背後からギュッと抱き付いた。
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【九鬼】
写真撮影が全て終わると、先に修理をしておこうとシャワーも浴びずに舞台へと向かった。
良く見たらだいぶ壊れてる。
そりゃあんだけ暴れてたらこうなるか。
「あーメンドーイ」
大きく伸びをするとひび割れた舞台へと手を当てる。
ボクの能力は便利すぎるな、と口先を尖らせた。
そのすぐ後だ、後ろから誰かに抱き着かれた。
左千夫クン…ではもちろんない。
この体格からして女性だ。
誰だ?ていうかなんでボクに抱き着いて――――。
「今日の左千夫様…カッコよかったです……」
その声で誰だかは確信した。
ゆずずだ。
いや、え?なんで?なんでゆずず?
しかもボクに左千夫クンカッコよかったとか言われても意味ないヨ?
困惑し固まっているが、早くなんとかしなければ。
ゆずずに手を出したら…いや、出されてるんだが、もうじきこわーい鬼が出て来るのはわかっている。
「ゆずず勘違いしてる?ボク左千夫クンじゃないヨ?」
なるべく優しく声をかけたが、腰に回ったゆずずの手は離れない。
「勘違いなんかしてません…」
「いやしてるんだって!!」
そう言って無理矢理ひっぺがそうと後ろを振り向くと、ゆずずの目が揺れた。
「左千夫様…なんで……頭、撫でて……」
やばーい。泣かれる。
いや、泣かないと思うケド、なんかすっごいボクが悪い事してるみたいな感じで気分が悪い。
どうしようかと柄にもなく慌てていると、舞台袖に背筋が凍るほどの殺気が漂った。
でた……左千夫クンが……。
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【神功左千夫】
九鬼が柚子由を泣かせている。
アテナレンジャーの盛況は凄かったようだ。
グッズが無いかと殺到したとのこと。
良かったらこの遊園地のマスコットとしてそのまま公演を続けてくれないかという話になった。
商談となれば父とも話さなければならないが、月一ならとのことで了承しておいた。
シャワーを浴び、服に着替え終わり那由多君の様子を見に行こうとした時だった、無人の筈の舞台から気配がして覗いてみると冒頭の光景が見えた。
ゆっくりと、地を踏みしめるように僕は歩いていく。
彼はその行為がどれだけ僕の激昂させるか彼は分かっていないのか。
「九鬼……」
「わー!!!僕は何もしてない!何もしてないってば!!!」
両手を胸の前で振る九鬼から柚子由を引っぺがす。
そしてかくまう様にして自分の傍に置いてから僕は携帯を取り出した。
九鬼はガス欠気味、殺るならいまだ。
「くっきー…さん?」
しかし、その思いは儚く崩れ去ることになる。
柚子由は僕に向かって九鬼と呼んだのだ、そして、逃げるように僕の傍から離れると、九鬼にぽふっと抱き付いた。
ど、どういうことだ。
九鬼は両手を上に上げ、なにもしてませんというかのように首を横に振っている。
そんなことはもう、どうでも良かった。
僕が九鬼…?
それは、もしかして…。
「柚子由……。」
「すいません、くっきーさん…、その、私は左千夫様に頭を撫でて貰いたかっただけで…」
申し訳なさそうに僕にそう言いながら、柚子由は九鬼を見上げる。
その表情は彼女が頭を撫でて欲しい時にする表情だった。
駄目だ…。
怒りが…、収まらない。
僕を保てない…。
「く……・き……」
地を這う様な低音で僕は彼の名前を呼んだ。
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【九鬼】
ボクは何もしていない。
何もしていないのに怒られるなんてのは嫌だ。
「ちょっと待ってヨほんとに!!
これ絶対今日カップルが巻き込まれてた能力だよネ?
キスしたらなお……」
そう言おうとした時の左千夫クンの顔は、鬼、いや、悪魔だった。
ここに黒い悪魔がいる。
これ以上言うと本当に殺される。
それはごめんだ。
「ゆ…ゆずず、なんか変な時なかった?体調悪くなったりとか、おかしいなって感じたとか。
そんな瞬間あれば教えてほしいナ~」
冷や汗だらだらで、未だにボクを離さないゆずずへと視線を落とす。
真っ直ぐな瞳でボクを見つめてくるゆずずは、まるで別人だ。
いや、ボクに対してこんな仕草をするのは初めてなので、これが普通なのかもしれないが。
「体調……ありました…。写真撮影の時、女の子に人形を渡されて…」
「女の子?女の子ってあのお団子の子かナ?」
「はい」
多分だけど、能力の発信元はその子だ。
とにかく時刻も夕方に差し迫ってきているので、女の子が帰ってしまう前に見つけなければいけない。
キス以外の方法が見つかるかもしれない。
「はるるー!!はるる来てー!!」
「んだよ……って……え?」
はるるを大声で呼ぶと舞台袖から不機嫌そうに顔を出した。
今のボクの状態を見て唖然としたが、説明するのもめんどうだ。
「今だいぶ遊園地も人捌けて来てるからさ、はるるの能力でお団子の女の子探せない?」
「お団子の女の子?…あー三木も能力かかっちまったのか」
「早く、早くして、早くしないとボク殺される」
別にしんでもいいけど、と言ったような視線をボクに送って来たが、小さくため息をつくとはるるは能力を発動させた。
暫く沈黙が流れるが、左千夫クンはボクから目を離さなかった。
その怒りの籠った表情は、一歩でも動くと殺してやると言いたげだった。
蛇に睨まれた蛙って、こういう状態の事言うんだろうナ。
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【日当瀬晴生】
どうやら三木が能力に掛っちまったらしい。
九鬼を会長と間違えてるつーことか。
………それって結構厄介だよな。
まぁ、いい、俺も実際に発動させている能力者を見た方が色々分かるしな。
俺は能力を展開させた。
遊園地内に神経を張り巡らせる。
三木と写真撮ってた女だよな、頭がお団子の…。
俺の中に色々な景色が流れ込んでくる。
能力らしき気配は感じられなかったが顔が分かっていた為ピンと来た。
「………観覧車の…前」
俺が呟く様に声を落とした瞬間、会長が走り出した。
んと、三木のことになると人間味が増すな、あいつは。
チラッと九鬼を見たが、厄介事には巻き込まれたくなかったので、三木をしがみつかせたまま会長を追った。
途中、同じく舞台に上がった緑の帽子を被った奴を見つけた。
舞台にも菓子を片手に上がってきたが、今も食べていた。
コイツ、そういや、俺に頼んできたんだよな、ボイス。
なんて言っていいか分からなかったので、“計画、目標、努力。それさえ、しっかりしてりゃ、大丈夫だ、こうたろう!!”と、まぁ、俺の信念を吹き込んで遣ったんだけど。
「おい、お前、さっき、一緒に舞台に上がった女の子居ただろ、頭がお団子の。この辺りで見なかったか?」
もう一度能力を発動させるのが手間だった俺はその男の子に質問した。
彼は一度首を傾げながらメリーゴーランドのほうを指差した。
「美味しそうな匂いがした子でしょ?なら、あっち。」
…美味しそう?
その意味は俺には理解できなかったが大食漢には何か分かるのかも知れねーな。
「さんきゅーな。菓子ばっか食わないで野菜食えよ、坊主。」
それだけ告げるとメリーゴーランドの方へと走り出した。
女の子の泣き声が聞こえたので嫌な予感がする。
足を速めるとそこには泣いているお団子の女の子と、怒りをあらわにしている会長が居た。
どうやら、会長はなぜ泣かれたか気付いていないらしい。
俺は会長の肩をポンと叩いてから女の子の前にしゃがんだ。
「会長、鏡見てきた方が良いぜ。
つーか、アンナちゃんちょっとだけ、このお兄さんお話したいことがあるんだ。
終わったら帰れるぜ。」
会長は我に返ったのかいつもの表情に戻っていた。
そして、辺りを結界で包む。
其処は風船だらけの柔らかい雰囲気の部屋だった。
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【アンナ】
お父さんたちとメリーゴーランドに乗ろうとしたら、物凄く綺麗な人が鬼みたいな顔でアンナの前に来た。
見ただけで怖くなって泣きだしてしまうと、その男の人もアンナの親も焦ってた。
でも、次は外人みたいなおにーちゃんが来て、アンナと目を合わせて話してくれた。
その後、不思議な空間にきちゃった、でも怖くない。
「先程はすいません。
…君は最近、不思議な体験をしませんでしたか。」
鬼みたいな顔をしていた綺麗な人が優しい顔をしていた。
ホッとしたアンナは記憶をたどってみた。
「うん、あった。金髪の男の子。
アンナが新しいお父さんにお母さん取られそうでいやだっていったら魔法を上げるよって言われたの。
でも、結局なにも、起こらなかった。
お母さんは、アンナより新しいお父さんが好きみたい」
アンナが泣きそうにしていると、金髪の頭の外人さんが溜息を吐いた。
「当たり前だろ。つーか、そもそも、そこ比べるのおかしいんだよ。」
「日当瀬君、なにも、こんな小さな女の子にそんなこと言わなくてもいいでしょう?」
「あ?最近のガキはませてんだから大丈夫だっつーの!テメェみたいに甘やかしてッとあの純聖とか言うガキみたいになんだよ。」
目の前で綺麗なお兄さんと外人さんが言いあいしてる。
学校の先生ですら当たり障りのない言葉で返してくれるだけだったのに。
「良いか、テメェ!女は男が好きなんだよ!それが自然と摂理だ!普通ってやつだ!!
んで、それといっしょで、母性つーもんがあるからな、お前のことも大好きだ。分かったか!!
両方好き、んなこといちいち気にすんな。」
金髪のお兄さんがアンナにびしっと指差して言った。
アンナは目をまんまるにして聞いてたけどなんとなく納得してしまった。
「アンナが、アニマルピンクとアテネピンクとお母さんが好きな感じかな…。」
「ちょっと、違うが、そんな感じだな。
つーか、新しいオヤジが嫌いならテメェの親に言えばいいだろう?」
ちょっと違うんだと思ったけど、それならなんとなく分かる。
そして、別に新しいお父さんは嫌いじゃない、男の人の中じゃ好きな部類だ。
なんか、すっきりしっちゃった。
すっきりした顔で二人を見上げると、今度は綺麗な人が溜息を吐いた。
「君は魔法を使えるようになってしまったのです。
それが僕の仲間に掛ってしまった…、君は魔法を解く方法を知ってますか?」
それは知らない、魔法を使えるようにしたって言ってただけだったから。
私は首を横に振る。
すると其処にもう一人現れた。
「不完全ダナ。」
金髪の小さな女の子だった。
綺麗な人がもう一度溜息を吐くとその女の子からペンダントを受け取りアンナに掛けてくれた、一緒に名刺の様なものを渡される。
「それで、君の魔法は制御できます。
ただし、使いこなしたいと思ったらここに来てください。
君の能力は他人を勘違いさせる能力、まだきちんと発動していないので訓練でどう転ぶかは分かりませんが。
そこに来るかどうかは君次第です、それでは、すいません、ご家族との時間を邪魔してしまって…」
綺麗な人が悲しそうに微笑んだ後、後ろからお父さんとお母さんの声が聞こえた。
「アンナ、どうしたの?」
「あれ、綺麗なおにいちゃんが…」
「綺麗なおにいちゃん?そんな人いなかったぞ。」
アンナ夢でも見たのかなと思ったけど、首にはペンダント、手の中には紙が入ってた。
……アンナ本当に魔法使いになっちゃったみたい。
この後はお父さんとの蟠りもとけた。
そして、アンナがこの施設に訪れるのはもう少し後のことになる。
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【千星那由多】
「副会長……」
体調も良くなり、舞台袖から出てきた所で凄い物を見てしまった。
三木さんが何故か副会長に抱き着いている。
その後必死に副会長が理由を話してくれたので、状況は飲み込めたが、俺が倒れている間に色々とあったようだ。
それにしても、会長に抱き着いている三木さんなら許せるが、副会長に抱き着いているのを見るのはさすがにもやもやした。
俺がこれだけもやもやしてるってことは、会長は多分凄い事になっているんだろう。
どうしようもできないので、あわあわしている副会長を巽と一緒に遠巻きに見ていた。
暫くすると発動元の女の子を探しに行っていた、会長と晴生が戻ってくる。
「かいちょ……う…」
その表情は曇り、視線はどこに向いているのかわからない程だった。
隣を歩いていた晴生が俺に気づくと、駆け寄ってくる。
「千星さん!体大丈夫ですか?」
「あーうん、もう大丈夫……つか…俺より会長の方が…」
「もうダメですね、あれ。ちなみに三木を戻す方法も今ん所キス以外無いみたいです」
そう言ってまだ抱き着いたままの三木さんへと視線を送ると、副会長の顔色が更に悪くなった。
なんかもう、真っ白だ。
二人のキスは、さすがにここの誰も見たくはないだろう。
俺が副会長だったら…………いや、しない!三木さんを汚すなんてありえない!!
一人で妄想して顔を真っ赤にしていると、会長が重い口を開いた。
「…とにかく…明日まで様子を見ましょう。それで治らなかったら…」
その言葉の先を言う前に自ら両手で口を塞いだ。
うわあ…ほんと会長が一番危ないんじゃないかこれ。
それからは三木さんをどうにか説得し、副会長から離れてもらった。
それでもいつもは会長の横を歩いているはずの三木さんが、ずっと副会長の側に居る。
明日、治らなかったら本当にどうなるんだろうか…。
ヒーローショーの片付けが全て終わると、俺達は遊園地を後にした。
長いようで短かった、プライベートビーチでの日々も終わり、俺達は今何故か遊園地にいる。
事の発端は十輝央先輩だった。
勝負に付き合ってくれているお礼、と言われて渡されたのが人数分の遊園地のチケット。
どうやら神功系列の遊園地らしく、最近オープンしたばかりらしい。
楽しい時間を邪魔してしまったからとかなんとか言っていたが、もちろんその日も習字の勝負を挑まれたのは言うまでもない。
本当にあの人の勝負はいつまで続くのだろうか。
遊園地の名前はアースプラネット。
園内の案内ブックレットを見る限り、宇宙を題材にした乗り物なんかがあるみたいだ。
もちろん俺はジェットコースターは乗れないし、人の多い場所は苦手なので、あまり遊園地は好きではない。
客層は大人から子供まで幅広く、夏休み中の学生やカップルなどでも賑わっていた。
「ゆーえんち!!!!」
もちろん一番はしゃいでいたのは純聖だ。
そりゃあ海の次は遊園地、となるとこの年齢なら嬉しくて仕方ないだろう。
「中々広くていいネ~何乗る何乗る??」
そして何故か副会長もはしゃいでいた。
海ですっかり焼けた肌が目立つ。
それでなくても男が多い団体と言うのは少し恥ずかしいのに、この人がいると余計に恥ずかしさが増す気がする。
こうやって連日遊ぶと言うのは中々無い。
海からの筋肉痛が続いていたので、早く帰りたいがそうもいかないだろう。
キャップを目深くかぶると、ぬるいペットボトルのジュースを口に含んだ。
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【純聖】
遊園地…!
名前には何度か聞いていたけど初めて来たぜ!!!
こういうときにクキはノリがいい。
那由多とは大違いだ。
と、言うか那由多はどこにいっても駄目だな本当。
「あれあれ!!あの、スペースシャトルとか言うやつ!!!」
俺はナユタの手を持ちグイグイと引っ張っていく。
勿論、嫌がらせだ。
後からクキもついてくるし、なんだかんだ言いながら皆ついてきてくれてる。
左千夫は幸花の手を握って走ってくる。
「一番叫んだやつがアイス奢りな!!」
スペースシャトルとはその名の通り、スペースシャトルがぐるんぐるん何回転もする乗り物だ。
それに無理矢理ナユタを押しこんで行く。
早く全てののりものに乗ってしまわねーといけない。
だって、午後からあの、アニマルレンジャーの舞台があるんだ!!
それまでに乗り物、特に絶叫系は全て制覇するって俺は決めてる。
ちゃんと、ルートまで書いてきた。
俺はネットから印刷して貰った色々書いたブックレットをナユタの横で広げながら椅子に座り足をパタパタと揺らしていた。
“まもなく発射します。皆さん、よい旅を”
そんな放送が入った後にスペースシャトルが動き出した。
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【九鬼】
女の子とは何度も遊園地には行ったことはあるが、こうやって仲間と来るのは初めてだ。
変な新鮮さがある。
こういう時は楽しまなくては損なので、先導して列を率いていった。
絶叫系が苦手なのはなゆゆぐらいか。
こういう時に苦手な奴を無理矢理乗せるのが楽しいので、とにかく絶叫系は全て乗っておきたい所だ。
あとお化け屋敷ね。
コースターが動き出すと、なゆゆの絶叫しか聞こえなかった。
あとはおチビくんの楽しそうな声。
最後の方になるとなゆゆの叫びは聞こえなくなり、降りた時にはまるで魂が抜けてしまったかのように青い表情をしていた。
「これでもまだレベル1くらいなんだけどネ~♪次いこ!次!!」
それからは言うまでもなく、絶叫系コースターのオンパレードだ。
子供向けの軽いものもあったが、それには目もくれない。
逆さになったまま走るコースター、後ろから90度で落ちて行くもの、どれもこれも楽しすぎて子供に戻ったような感覚だった。
小さい頃は遊園地なんか来た事無かったけど。
「も……無理…です……吐きそ……」
なゆゆは完璧におチビくんに引きずられて歩いている状態だった。
多分あれ本当に吐くな。
「じゃあちょっと休憩しよっか♪涼しいところで」
そう言ってボクが先導して行った先は、休憩所でもなんでもなく、お化け屋敷だった。
左千夫クンが後ろの方で立ち止まったのが見えた。
「宇宙がテーマのお化け屋敷だって!宇宙人に改造されちゃうとかかナ♪」
「なにそれ!!そいつら倒してもいいのか?」
「だめだよ、純聖くん」
微笑ましくやっているのは、純聖、ゆずず、ボクぐらいだった。
うーん、盛り上がりに欠ける。
おチビちゃんと手を繋いで立ち止まっている左千夫クンの空いている手を引っ張ると、そのままお化け屋敷に直行した。
その時だった。
お化け屋敷から出て来たであろう2組のカップルの揉めている声が聞こえた。
「ちょっと!!あんたなんなの!?ヤス君もなんとか言ってよ!!」
「あんたこそタツヤのなんなの!?ヤス君って誰よ!?人違いでしょ!!」
「ゆかり…タツヤは俺だよ……」
「はぁ!?何よキモイあんた!!」
なんだ?カップル同士の喧嘩か?
少しワクワクしながらその光景を横目に、お化け屋敷へと入ろうとした。
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【日当瀬晴生】
ったく。
ラディエンシークルセイド最中だってのにガキのおもりかよ。
正直疲れるぜ。
絶叫つっても全然怖くねーし。
千星さんはガキに取られるし。
煙草も所定の場所以外は吸っちゃ駄目だとか言われて正直俺のテンションは激下がりだった。
次はお化け屋敷らしい。
そこなら確かに涼しいなと思いながら俺は後方を歩いていた。
いや、それよりも後ろにいつの間にか会長がチビと一緒に居たが。
九鬼が会長を引っ張ろうとしたその時、男女の言いあいが始まった。
…いつもならなんて無いのに、俺はその時に違和感を感じた為に直ぐに携帯を展開した。
「…会長。あれ、どうやら、能力絡みっぽいですよ。」
俺のテリトリーに入った言い合っている男女を分析していく。
女は二人ともヤスと言う男性に向かってタツヤやヤスと違った名前を言っていた。
俺の能力を介してみると、ヤスと言う人物をタツヤと言っている女性には確かに彼がタツヤに見えている。
いや、見せられていると言った感じだ。
そして、タツヤと言う奴がヤスに見えているようだ。
仲の悪い奴の仲が良くなる、中身が入れ変わる。
多分そう言った能力の一種だろう。
「それはいけませんね、さっさと解決してしまわないと。早くしないと純聖が楽しみにしていたショーも始まってしまいますしね。」
いつもの笑顔で会長はそう言ったがいつもよりもかなり嬉しそうに俺は感じた。
んなにオバケ屋敷がいやだったのか…?
俺はこの能力の解除方法を探るために更に意識を集中した。
そして、溜息を吐くことになる。
この能力の解除方法がまたキス、だったからだ。
しかも、勘違いした人物とのキス。
間違いなく修羅場になる。
それが分かるなり俺は全員へとその情報を伝えた。
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【幸花】
どうやら能力にかかっている人がいるみたい。
ハルキの話を聞く限りでは、解くことはできるみたいだけど、それがキスという事だった。
キス……思わず左千夫の顔を見つめる。
どんな感触なんだろう。
もちろん私はしたことがない。
左千夫と視線が合ってしまうと、思わず俯く。
早く大人になりたい、そんな事を考えながら地面を見つめた。
「これまた嫌な能力だネ~キスとかしたら揉めるの確実じゃん!」
「そこは僕の幻術でなんとかしましょう。とにかく今は目の前のカップルを。
そして急いで園内を回りましょう」
左千夫がそう言うと辺りに甘い香りが漂った。
左千夫の幻術が発動したんだと思う。
心地よい空間。
テリトリー内にいるといつも感じるこの空気が私は好きだ。
そうこうしている内に先ほどまで揉めているカップルが静かになった。
そして徐に能力のかかっていた女が、タツヤと呼んでいたヤスという人物へとキスをする。
…のを見れると思ったんだけど、それは左千夫の少し冷たい手に視界を覆われて見る事ができなかった。
「うおぉ……」
「濃厚だネー」
周りの声だけが聞こえる。
私はまだ大人の一員になれないのかとため息をついた。
視界が明るくなると、そこには元の鞘に戻ったカップルがいた。
起きていたこともすっかり忘れ、それぞれのカップルは楽しそうにこの場を後にする。
うまく行ったみたい。
「では、少々骨が折れますが行きましょうか。お化け屋敷は残念ですがまた今度ですね」
そう言った左千夫は何故か嬉しそうだった。
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【天夜巽】
どうやら会長が当たり障りなくキスをする雰囲気に持っていきキスをさせては能力で記憶を混乱させていっているようだ。
しかし、それが出来るのは会長と三木さんだけ。
俺達はしらみつぶしにおかしくなった人たちを探すことしかできない。
色んな人が居た。
小学生の男の子が女の子二人に引っ張られていたり。
おじいさんが若い女の人のことをおばあさんと呼んでいたり。
小さな女の子が宇宙人を模した人形にママとしきりに言っていたり。
小さな女の子と被りものをしている人形のキスは誰にも迷惑が掛らなさそうだったので俺と那由多と日当瀬でキスさせておいた。
後は会長に任せようと連絡を入れて置く。
「日当瀬、能力の発動源分からないの。」
「分かったら其処に向かってるつーの!なんつーか、不安定見たいでよ、感じたり、感じられなかったりすんだよ。
只でさえ、遊園地はうるせーからな、気が散って仕方ねーんだよ。
…っと、観覧車の近くでもめてるみたいです、千星さん。」
結局犯人が分からないまま僕達は能力に感染した人たちを正していった。
一通り遊園地を一周すると騒ぎは収まったようだ。
「取り合えず、騒ぎは収まった様ですね。
能力の発動源が分からない以上、これ以上は手の出し様がありません。
昼食後は…純聖、あれが見たかったのでしょ?」
そう言って会長は遊園地にある舞台を指差した。
其処にはでかでかと“アニマルレンジャー参上!!”と垂れ幕がしてある。
なるほど。確か、純聖君はアニマルレンジャーの大ファンだ。
これ以上手が打てないなら遊園地を楽しみながら目標の人物を探すのが良いのかもしれない。
俺達はファーストフードを買いに行った後、舞台の客席へ腰かけてそれを食べ始めた。
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【千星那由多】
結構な人数が能力の餌食になっていたので、だいぶ時間がかかった。
発動元がわからないままだったが、気づいた人たちはなんとか元に戻せたので一応は大丈夫だろう。
しかしそれよりも……気分が悪い。
ジェットコースターばかり乗らされていたので、正直俺の体力は殆ど無くなっていた。
皆がファーストフードを食べている横で、一人何も食わずにがっくりと項垂れる。
「大丈夫ですか、千星さん」
「うぅー…休んだら…多分いける……」
冷たい水を持って来てくれた晴生の顔も見ずに、呻き声のような返事を返した。
昼からアニマルレンジャーのショーを見るであろう親子達が、続々とステージの観客席へと集まり始めている。
それをただぼーっと眺めていると、一組の親子が視界に入った。
「アンナちゃん、アニマルレンジャーショー楽しみだね」
「……」
「ま、魔女っ娘なゆちゃんの方が…いいのかな?」
「……」
「こらアンナ、アニマルピンク大好きでしょ、返事ぐらいしなさい」
魔女っ娘なゆちゃんと言う言葉に一瞬身体が強張る。
あれって子供にも人気あんのか。
アンナと呼ばれる少女は駄々を捏ねているのか、父親らしき人物をフル無視していた。
嫌われてんなあ、父ちゃん。
そんなことを考えながら大きく息をつく。
アニマルレンジャーショーが始まるまであと15分ほど。
純聖はいち早く飯を食べ終わると、キラキラとした眼差しでずっと舞台を見つめていた。
暫くだらだらと時間が過ぎるのを待っていると、何やら舞台脇が騒がしくなってきていた。
スタッフが集まって何やら相談しているが、全員慌てている様子が見える。
その行動をずっと目で追っていると、突然園内アナウンスが流れた。
「13時からより予定しておりました、アニマルレンジャーショーは、諸事情により中止となりました」
その園内放送が流れたと同時に、子供たちの声が上がる。
なんで?だのどうして?だの、泣き出す子供もいた。
何か運営側で不手際でもあったのだろうか。
会長の横で呆然と立ち尽くしている純聖が見え、少し心が痛んだ。
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【神功左千夫】
これはかなり痛い事態だ。
折角純聖が楽しみにしていた舞台が無くなるとは。
しかも、こんなにギリギリになって、いったいどういうことなのだろう。
純聖はてっきり駄々をこねるものだと思って居た。
しかし、茫然と立ち尽くした後、「まー、仕方ねーよな。ヒーローって忙しいし」と、言うだけだった。
けなげな姿を見てしまうとどうにかしてやりたいと思う気持ちが募ってくる。
やれやれ、本当に僕は身内には甘いですね。
余り権力と言うものを私用で使いたくは無いのだが、僕はそのまま舞台袖へと歩いていった。
「すいません。少し、ここの責任者とお話をしたいのですが。」
中の人間は訝しそうに眉をひそめていた。
きっと、クレーマーだと思われたのだろう。
誰もクレーマーを相手にしたくないので早々に責任者を呼びに行ってくれる。
勿論、責任者となれば僕の顔を知っている人物になる。
「こ、これはこれは、神功の御子息殿ではないですか…!もしかして、レンジャーを楽しみにしていらっしゃいましたか?」
「いえ、僕では無いんですが、友達が…、それよりどうかされたんですか?」
「誠に申し訳ありません、こちらの手筈違いで、ショーに出演する演者との契約日が間違っておりまして…」
なるほど、手配ミスか。
そう言いながら責任者は僕に深々と頭を下げていた。
いつの間にか横に九鬼が居た、そして、いつから居たのかイデアまで居る。
「これはやるしかないね、左千夫クン。」
「やるしカないナ、左千夫。」
二人が一斉に僕の肩を片方ずつ掴んだ。
なんとなく予想できた展開だが気が重い。
僕はさらに責任者を説得するようにと代わりのショーの提案をした。
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【千星那由多】
会長が関係者と話をしに行ったので、近くのベンチに腰をかけて待っていた。
暫くすると、何故かイデアだけが帰って来る。
なんだか嫌な予感がする。
「ジュンセイとサチカ以外、今すぐ来イ」
そう言い放ったイデアの後を、純聖と幸花だけを置いてついて行く。
何故か関係者以外立ち入り禁止の控室へと連れていかれると、そこには会長と副会長がいた。
「い、一体なん……」
「今からワタシタチはアテナレンジャーにナル」
アテ…ナ…レンジャー?
アニマルレンジャーじゃなくて?
なんだそれは。
つーか状況が飲み込めない。どういう意味だ。
「台本ハ全て全員のブレスレットへと送ってオイタ。
衣装は九鬼が用意シテクレテいる」
そう言って副会長がじゃーんと言いながら取りだしたのは、戦隊ヒーローが着る全身タイツのようなスーツとヘルメットだった。
それで全て合点がいった。
俺達がヒーローショーに出るという事だ。
「はぁああああ!!!???」
「そう言う事になりました」
会長もしぶしぶ巻き込まれてしまったという様子で、小さくため息をついていた。
副会長はすでに衣装に袖を通し始めている。
「い、いや…中止になったからって、なにも俺達がやることない……」
「クチゴタエするナ。これも修行の内だと思エ。時間がナイ、早くシロ」
そう言ったイデアもやる気マンマンなのか、赤いスーツを身に纏い始めていた。
俺に渡されたスーツは青、会長は黒で、副会長は白。
巽は黄色、晴生は緑、そして三木さんはピンクだ。
「おチビくんもせっかく楽しみにしてたのに、大人の手違いで中止になってかわいそうでしょ?
ここで待ってるチビっこたちのためにも、ひと肌脱ごうヨ♪」
そう言った副会長は、もうヘルメットをかぶって準備も万端だった。
純聖……。
確かにすっげー好きだもんな、アニマルレンジャー。
それに楽しみにしてただろうし。
青いスーツに視線を落としながら、俺は大きくため息をついた。
やるしかないか……。
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【三木柚子由】
“皆様にお知らせです。
本日アニマルレンジャーのショーは中止となりました。
振替のショーとしまして、アテネレンジャーを行います。
開演まで暫く時間がございますので、是非ステージAまでお越しください。”
私達がヒーローショーをすることになった。
開始時間が、園内に放送が入る。
と、言ってもアニマルレンジャーをしちゃうと著作権などの問題があるのでそれを捩ったアテネレンジャーと言うものだ。
舞台袖から舞台を覗くと本格的な作りだ。
高いところもあるし、池も有れば、炎も噴き出す、きっと爆発もする。
しかもイデアちゃんから貰った台本は結構過激だった。
私はイデアちゃんが作ってくれたカーテンの中で着替えた。
ぴったりと体にフィットするスーツを着込み、ヘルメットをかぶった。
外では左千夫様とくっきーさんが軽い手合わせと打ち合わせをしていた。
「武器はそのままですが、九鬼がちょっとだけ装飾してくれてます。
必殺技は出してもらって結構ですし、効果音や演出は僕の幻術で何とかします。
では、打ち合わせ通りに。」
外を覗くと結構なお客さんが入っていた。
アニマルレンジャーショーは人気のショーだったのだろう。
そのお客さんがそのまま残っている感じだ。
純聖君と幸花ちゃんは一番前の席に座っていた。
お利口にしてくれているようなのでホッとする。
“それでは間も無くアテネレンジャーショー「ホワイトの裏切り」が始まります。
皆さん、お楽しみに!”
ナレーションが終わった瞬間に効果音が流れる。
まずはイデアちゃんが作ってくれた悪役達が現れる。
初めは軽い戦闘シーン。
純聖君を喜ばせる為に頑張ろう。
私はギュッと両手を握り締めた。
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【千星那由多】
全員がヒーロースーツに着替えた。
視界はあまり良くないが、この真夏にこのぴったりとした衣装はかなり熱い。
気分の悪さが抜けきっていなかったので、正直長い事このままだったらキツいかもしれない。
そんな事を考えている暇もなく、ショーは始まった。
『ククク……平和ボケした人間どもめ……地獄を味わうがよい……』
会場にドスの低い声が響いた。
誰が出してるのかはわからないが、その声と共に空から何かが降りてくる。
観客が空を見上げ驚いた表情をしていた。
そりゃそうだ。
これはワイヤーアクションじゃない。
普通に足からロケットの様な物を噴射しながら舞台に降り立ったそれは、イデアの作った……銅像君4号だった。
「スパルタン様にかかれば、地球など一撃で火の海だ!!!!」
あの声は銅像君から出てるんだと思う。
中には誰もいないはずなんだけど…。
銅像君、いや、スパルタンが口から火を吐くと寄せ集めのスタッフだと思うが、雑魚の衣装を着て舞台袖から出て来る。
そして、観客席に向かって奇妙な動きをしながら子供たちを怖がらせていた。
ここで俺達の登場だ。
「マツんだ!!スパルタン!!キサマの好き勝手にはサセナイゾ!!」
イデアの大声は初めて聞いた気がする。
しかしイデアはどこから登場するのか……と思っていたら、場外の時計塔の上に立っていた。
スパルタンがそちらを指差すと、子供たちの視線もそちらへ向く。
会場が沸き立つと、イデアは足の先から火を放ちながら舞台へと飛んで来た。
そして舞台へと降り立つと、華麗に変身ポーズ…ではなく、棒立ちで決め台詞を叫ぶ。
「冷たい炎のサツジンマシン!アテナレッド!」
ちびっこ向けのショーに殺人とかダメだろ普通。
舞台脇でそれを見守っていたが、次はブルーの俺の番だ。
ちなみに登場シーンは、台本には「派手に華麗に」と書かれていたが、俺はそんなことできないので普通に舞台脇から出ていく。
うおお、いくらマスクをかぶっていると言えども、人前は緊張する。
すでに解除している剣を持ち、イデアの左横へと移動すると客席に向かって構えた。
派手、つってもできることが限られているので、とりあえず炎の剣を纏ってみよう。
いつも通りに火と言う字を宙に綴ると、子供達の歓声が起きた。
やっぱこういうの好きだよな、ちびっこは。
そしてそれを剣に纏うと、炎の剣が出来上がる。
「と、取り柄がないけど天然パーマは伊達じゃない!アテナブルー!」
なんつー台詞だよ。
つーか今マスクつけてんのに天然パーマとかわかるわけねえし。
一応は決まったか…と思ったが、何故か会場がざわついた。
「ブルーなのに炎なの?なんでー?」
「ブルーは水とかじゃないの?」
「炎はレッドだよー」
ちびっこたちのそんな声が聞こえてくる。
……そうか…俺、ブルーだったんだ……。
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【天夜巽】
子供からヤジがとんでいる。
どうやら、那由多がブルーなのに、炎を出したようだ。
こういうの、子供は敏感だからな。
次は日当瀬の番だ、しかし姿が見当たらないと思ったら、逆の舞台袖の喫煙場所で煙草を吹かしていた。
慌てて俺が出番だと手を振ると、「へいへい。」と言った感じで煙草を揉み消し、ヘルメットを被った。
そして、塀の上を走るかのようにセットの上を走り、銃を数発、客席の柱に跳弾させる様にカンっと言う良い音を響かせながら華麗に登場していた。
勿論ブルーの横を陣取る。
「近寄る奴は千星さん以外ぶっころす!アテナグリーン!」
決めポーズのように銃を構えた。
勿論、客席からは「せんほしって誰ー?」とか声が上がっているが跳ねかえった銃が見事にスパルタンの足元を丸く囲う様に落ちたので子供の反応は上々だ。
次は俺だね。
俺は、鎖鎌を屋根の柱へと引っ掛け、ターザンのように登場した。
勿論黄色ならではの技は使えないのでそのまま鎖を振り回す様にしてイデアちゃんの後ろに立つ。
「無自覚腹黒!アテナイエロー!」
って、何!このセリフ!!
そんなつもり無いんだけどな…。
勿論子供はガヤガヤしていたけど、パパママが少し笑ってくれたので救いとしよう。
次の瞬間舞台中に花吹雪がが舞う。
綺麗な薔薇の花びら、そして、舞台後方から舞台まで鉄パイプが二本伸びている。
それに槍の柄をクロスさせアスレチックのターザンロープの様にしてピンクとブラックが舞台に降りてくる。
先に到着したのはブラック、即座にピンクの着地にフォローするように手を差し伸べた。
「きゃっ、す、スイマセンッ」
やっぱり三木さん。
最後はばっちりブラックもとい会長に受け止められていた。
そして、僕達の両サイドで槍を持ち決めポーズをとる。
「ドジだけど許される!アテナピンク!」
「冷酷だけど甘いもの大好き!アテナブラック!」
そして、最後は彼だ。
一番ノリノリのクッキー先輩は果たしてどうやって登場するのだろうか。
子供達もノリノリになり始めているのでやってよかったなっとちょっとだけ思った。
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【九鬼】
ボク以外の全員出そろった。
次の登場はボクだ。
舞台の裏で待機していたボクは、能力を発動させ白い翼を背中に纏った。
そしてそのまま地面を蹴ると、宙へと舞い上がり翼を羽ばたかせ観客席上を飛び回る。
突如現れたボクに、ちびっこもお母さん方も大興奮だ。
舞台へと降りる前にビジンな母親を一人選び、彼女の元へと舞い降りると、ウインクをかまし、手をひき甲へとキスを落とす。
その隣の娘であろう女の子にも投げキッスをしておいた。
頬を染める母親と女の子の隣には、父親がいたようだけど気にしない。
そして舞台へと戻ると音も無く着地する。
「……とにかくチャラい!!アテナホワイト!!」
台詞はまぁアレだが、性格的にハズレではないので良しとしておこう。
ビシっと決めポーズを整えた所で、全員打ち合わせ通りで一斉にポーズを取る。
そして戦隊名を叫んだ。
「我ら、トンデモ戦隊アテナレンジャー!!!!」
確かにとんでもない戦隊なのは当たってる。
ボクらが決めポーズを決め、後ろから火薬が爆発した所で、スパルタンが発狂しはじめる。
雑魚敵が食ってかかってくるのを、一人一人見せ場を作る様に闘い始めた。
一番心配だったなゆゆも良くやっている。
まぁ本当のバトルではないから、これぐらいならなんとかなるか。
イデちゃんはロケットパンチなんかを出してるし、雑魚敵のスタッフが驚いて腰がひけてるのが面白い。
乗り気じゃなかったはるるもそれなりに頑張っている。
巽は武器がなんとも言えないが、闘い方が派手なので子供達もかなり食いついていた。
左千夫クンはゆずずとペアのような扱いだが、言わずもがな漂うフェロモン的なモノで奥様方に大人気だ。
さて、そしてそろそろこの話の見せ場でもあり、ボクの見せ場だ。
「覚悟しろスパルタン!!」
そう言って全員で食ってかかっていく瞬間に、ボクだけは少し離れた場所で見ている。
そして、全員がスパルタンへと攻撃する瞬間に、能力を発動させた。
地面へと拳を突くと、スパルタンを守る様に壁ができ、それにすべての攻撃が跳ね返される。
全員がすぐにボクの仕業だと気づき、こちらへと向いた。
そして最初に口を開くのはブラックの左千夫クンだ。
「……どういうことですか……ホワイト…」
タイトル通り、ボクはここでいきなり裏切るのだ。
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【日当瀬晴生】
かったるいが悪くねぇ。
なんつーの、奉仕精神は俺にはねーがきっちり仕事して喜ばれるならそれは結構快感なんだ。
その辺りは会長が確りマネージメントしてやがったな。
会計の俺としては運用できる金が増えるのは悪い事じゃねーしな。
それにしても、なんてホワイトだよ。
普通、こういうのってブラックとかじゃねーの?
純白のホワイトが裏切り、チャライって設定中々ねーよな。
戦隊モノに詳しくない俺でも九鬼の悪徳さに肩を落とした。
そして、俺は九鬼似に銃を向ける。
「俺は、前々からこいつがいけすかねぇ奴だと思ってたが、とうとう本性を現しやがったな。」
「止めろよ、グリーン!きっとホワイトには理由があるんだよ。」
銃を構える俺に立ちはだかる様にイエロー、天夜が出てくる。
このまま二人一緒に打ち抜いても俺はかまわねーんだけどな。
「そうだよ、は、グリーン。一度、銃を引いて。」
すかさず、ブルーの千星さんが俺の腕に片手を触れさせる。
ああ、千星さん、貴方はアテナレンジャーになってもお優しいのですね。
俺は台本通り舌打ちしてから手を下ろした。
『ひゃーはっはっはっ!!既にホワイトはスパルタン様の手に落ちたのだ、見て見ろ、真っ白だったあいつの心が黒く染まっていくのを!!!』
いつの間にかスパルタンがホワイトの後ろに移動していた。
九鬼が能力を使っているのだろうが、衣装がどんどん灰色に近くなり、黒い模様が刻まれていく。
寧ろ、今の衣装の方が九鬼にあっていると俺は思うが、白かった羽も黒く染まりスパルタンと一緒に上空へと飛んだ。
「マテ、どこにイク!!ホワイト!!」
レッドのイデアさんが棒立ちで叫ぶ。
その瞬間に九鬼は中指を立てた。
地中から土が針上になって飛んでくる、そして、煙幕や爆発音が辺りに響いた。
この攻撃が結構まじで本気で避けないといけなくて、俺と天夜が千星さんのフォローに入った。
調度良い感じにスーツが破れる。
「もう、飽きちゃったんだ、キミたちと一緒にいるのも、この地球も…僕はスパルタンの元で自由になるよ。
バイバイ、アテナレンジャー」
そう言って俺達に投げキッスを送って二人は消える。
「ホワイトー!!!!」
最後に千星さんが叫んだところで煙幕に紛れる様にして俺達も舞台袖に捌けた。
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【九鬼】
ボクが裏切り、スパルタンと消えたところで舞台は暗転しみんなが舞台袖へと引いた。
そして、敵ターンだ。
スパルタンの後を付いて敵へと寝返ったボクもステージへとあがった。
案の定ちびっこから物凄いヤジが飛んでくる。
『ホワイトよ…良く仲間になってくれた…お前がいればアテナレンジャーなど、片手で捻りつぶせる赤子同然!!』
「そう言ってくれて光栄ですヨ、スパルタン様…。
そこでひとつお聞きしたい事があるのです、スパルタン様の弱点を教えていただけないでしょうか」
『……どういう意味だ?』
「仲間となったのですから、貴方様の弱点は私がしっかりお守りするべきだと思っているのです。
ああ…でもスパルタン様には弱点などありはしないでしょうか…」
大げさな身振り手振りで舞台を歩き回りながら、スパルタンへと問いかける。
スパルタンは少し考えた所で、ボクに耳打ちをした。
これも台本通りだ。
「ありがとうございます。貴方様の弱点は決して誰にも喋ったりなどいたしません。
そして、貴方様に一生尽くし、アテナレンジャーを殺してみせます…」
二人で高らかに笑った後、ここで観客を巻き込むシーンに突入する。
良くあるちびっこを舞台に呼んで質問したり、仲間にならないかとお願いする展開だ。
「さて、ではアテナレンジャーと闘うために、優秀な人材をこの場にいる子供から選びましょう」
そう言って観客席へと視線を落とすと、品定めをするように舞台を見回す。
手を挙げている子を見て行くと、やはりそこにおチビくんもいた。
俺をぶっ倒してやると言いたげな視線に、マスクの下で思わず笑ってしまいそうになる。
ボク達が誰だかは多分気づいてはいないんだろう。
折角だから選んでおいてあげよう。
「よし、一番前にいる赤色の服を着てる男の子、あとそこのお団子の女の子と、緑の帽子かぶってる男の子……ひっとらえろ!!」
パチンと指を鳴らすと、雑魚敵のスタッフが指示した全員を捕まえてくる。
女の子はかなり嫌がっていたが、純聖と緑の帽子の男の子は抵抗しなかった。
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【純聖】
このホワイト最悪だ!!!
つーか、アテナレンジャーって聞いたことねーヒーローだったけど結構凄い奴らだな。
戦いもいかしてっしファンになっちまいそうだぜ!
ここは俺が敵の味方になると見せかけてきっと駆けつけてくるアテナレンジャーに助太刀だぜ!!
俺達は舞台へと上がった。
そして、並んで、まずは自己紹介が始まる。
女の子は「アンナ」男の子「こうたろう」と言う名前だった。
『それでは最後の優秀な戦士!君の名前はなんだ?』
「純聖…」
『おお!!純聖君と言うのかね!!格好いい名前だ!!』
俺の名前が格好いいのは当たり前だ。
なんたって左千夫が付けてくれた名前だからな。
ふふんと鼻を鳴らしていると、俺達に剣が配られる。
と言っても、ふにゃふにゃの剣だったけど、取っ手の少し上にはスパルタンの文様が刻んであって正直持つのも嫌だ。
『はーははっ!!これは強力な戦士が手に入ったぞ!!
これでアテナレンジャーだけでは無く、…世界征服も目前だ!!!!』
「待ちなさい―――!!」
どこからともなく声が響いた。
これはアテナブラックの声だ。
そして、会場が甘い香りに包まれると共にどこからともなく布に体を包んだブラックが姿を現した。
「……ホワイト…本当に裏切るのですか…」
「元からキミたちのこと一度も仲間と思ったことないよ。」
「そうですか…。」
悩ましげなブラックの声が会場に響く。
なんだよ、このブラック良い奴じゃん!ホワイトの事を思って単身でこんなとこに乗り込んできて!!
バサッと布を翻すとブラックは三叉の槍を構えた。
「これは、貴方を仲間にした僕の責任。
僕、自ら貴方の命を立ちましょう。」
「ホワイトに僕が倒せる訳ないね!それに、今は強力な戦士が仲間なんだ――!!!いけ!ちびっこ戦士たち!!!」
ホワイトがブラックを指差した。
その瞬間に体ががら空きになる。
いまだ!!!
俺はそのタイミングを逃さずホワイトを蹴り上げた。
「へん!!誰が、スパルタンの味方なんかになるかよ!!この裏切りもの!!!!」
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【千星那由多】
いてえ……!!
純聖が副会長の股間を蹴り上げた。
悶絶しているその姿を見て観客から笑いが起こっている。
その様子を舞台袖で見ながら、男性陣は全員自分の股間を押さえていた。
しかし副会長はよろよろと立ち上がると、話を進めていく。
「ふ…こ、こんなことしてもボクは痛くないもんネー……!」
多分めっちゃくちゃ痛いんだろう。
さっきまで台本にそって俺口調だったのに、今は素が出ている。
そこからは会長と副会長の闘いが始まった。
そのバトルは本気そのもので、迫力に圧倒された観客は声も出ないようだった。
会長が槍を振うと、それに合わせて副会長が能力で地面から岩の矢を放つ。
全てを跳ね返すが、会長はどんどんと押され始めていく。
……はずなんだが……。
「な、なんか長くないか…?」
「あの二人ちょっと本気入ってない?」
完璧に今の状況を忘れているわけではないだろうが、どちらも一歩も引かない。
次は俺が出て行く番なのだが、まったくタイミングが掴めない。
「シカタないな、ナユタ、もう行け」
そう言ってイデアに思い切り背中を押されると、俺は舞台へとよろめきながら登場した。
二人はそんな俺に気づいているのかいないのかはわからないが、激しい闘いは終わらない。
えっと、台本なんだったっけ。
ブレスレットへとこっそり目を落とすと、ここはピンチになったブラックをブルーが水の剣で…。
……水の剣!!!??
思わずイデアの方へと振り向いたが、無表情で親指を立てて居るだけだった。
いやいやまってまってまって。
俺それまだ会得してねーし!できるかわかんねーし!!
そんな俺の真横に、副会長が放った岩の矢が落ちてくる。
そこでやっと俺の存在に会長と副会長が気づいたようだった。
突如会長…いや、ブラックがよろめき始めると、ホワイトがグローブを嵌め直した。
「これで終わりだヨ……ブラック!!!!」
えーちょっと待って!!今ブラック助けるとかの問題じゃないし!!
ホワイトが溜めの姿勢に入る。
ギっとブラックを睨みつけた瞬間に、俺はもうやけくそで剣を振っていた。
水という文字が宙に浮かびあがる。
火の剣の時を脳内でイメージするんだ。
剣に纏う感覚、水が、この剣に……。
眉間に皺を寄せながら、目の前の宙に浮かぶ水と対峙する。
その間に、ホワイトは地を蹴りよろけているブラックへと拳を向けた。
「ま、待てぇえええええええええッッ」
――――気づけば俺はブラックとホワイトの間に居た。
目を瞑っていたせいでわからなかったが、何かがぶつかった様な感触が、持っていた剣から伝わってくる。
薄く目を開くと、そこには水が剣を包むように流動し、ホワイトがそこへと拳を突きたてていた。
「で……できた……」
驚きを隠せずにそう漏らすと、後ろにいた会長から声がかかる。
「那由多君、次は君の台詞です」
その言葉にハッとすると、ホワイトの拳を水の剣で薙ぎ払った。
「ブ、ブラック!…一人でカッコつけさせないぜ!!
俺達仲間だろ!!」
そう言うと観客から大きな歓声があがる。
安堵に小さく息を吐くと、よろめきそうになった身体を会長が支えてくれた。
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【三木柚子由】
千星君、ちょっと格好いいかも…。
左千夫を助ける様に間に入った千星君はヒーローそのものだった。
純聖君がヒーローものに熱中するのが私にも少し分かってしまった。
「そうだ!!ブルー、ホワイトなんてやっちまえー!!!」
純聖君が叫ぶ。
すると、ホワイトが自分の顔を片手で覆いながら高らかに笑った。
「くくく、ははッ、ハーハッハッハッハ!!!
お熱い友情ごっこだね、俺は、そう言うとこに虫唾が走ったんだ――!!」
ホワイトがそう叫んだ瞬間に爆発音が響き渡る。
同時にブルーとブラックの悲鳴がこだまする。
「どうして、子供を戦士に選んだと思う?こうするためさ…!!
スパルタン様!!使えないコイツ等を人質にしましょう!!」
ホワイトがそう告げた瞬間、イデアちゃんを筆頭に私達は飛び出した。
「そうはさせないゾ!」
イデアちゃん…レッドがザコ敵へと飛びかかる隙を付いて、私がアンナちゃんと言う女の子。
イエローがこうたろう君を抱き抱えながら舞台の端へと移動する。
「もう、大丈夫よ。」
泣きっぱなしだったアンナちゃんへとヘルメットの下だけど微笑みかけると彼女は泣きやんでくれた。
純聖君を日当瀬君、グリーンが助けようとしたがホワイトの土の壁によって阻まれてしまった。
「じゅ、純聖くん!」
ブルーが叫ぶ。
そして、レッドを筆頭に私達は敵に向かって陣形を取り直した。
其処でスパルタンが前に出てくる。
「小賢しいわ、アテナレンジャーども!!子供等いなくても、この、スパルタン様が地獄に送ってくれるわい!!」
舞台が煌めく。
それと同時に私達全員に爆発音が走り後方へと吹っ飛んだ。
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【九鬼】
今はアテナレンジャー劣勢シーンだ。
ボクは純聖を捕まえると、翼を生やし空へと舞いあがった。
暴れてはいるが、アテナレンジャーを信じてじっと空から全員を見下ろしている。
「ふはははは!!さぁ、スパルタン様に扱かれて死ぬんだな!アテナレンジャー!」
ボクが高らかに笑うと、それを合図にスパルタンが力を溜めはじめた。
最終必殺技だ。
その間にレッドが舞台の真ん中へと出て来る。
「ミンナ、私タチに力をクレ!応援をタノム!!」
そう言うとちびっこ達がこぞって「がんばれー!」「負けるなー!」と叫び始めた。
この時の子供の一体感はすごい。
真剣な表情や眼差しは、見てるこっちがむずかゆくなってくる。
もちろん捕まえている純聖も叫んでいた。
意外と可愛い所もあるんだなとマスクの下で笑う。
さっきは金玉蹴られたけど。
『そんな応援などきかん!』
しかしスパルタンはそんな事など物ともせず、地面を踏みつけると、地震が起き、舞台が真ん中でパックリと割れてしまった。
この修理費どうするんだろう。
『地獄へと堕ちろ!!アテナレンジャー!!!!』
スパルタンの両手へと圧縮された光が集まって行く。
あれは多分本気で撃てるんだろう。
しかし撃たせはしない。
ボクは純聖へと耳打ちをした。
何を言ったかはすぐにわかる。
純聖がそのままの言葉を今、ここから叫ぶからだ。
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【純聖】
「うわッ…!」
俺はホワイトに連れ去られてしまった。
その時にブラックの声が頭に響いた。
“ジッとしていてください、必ず助けますから。”
そう言われたのでなるべくジッとしていた。
嫌だから暴れるには暴れたけど。
でも、でも…。
ま、まけちゃいそー…。
「がんばれー!!!アテナレンジャー!!!!」
心の底から叫んでみたが皆の劣勢は変わらなかった。
スパルタンの必殺技が発動する。
だめだ、これじゃあ、負ける!!
青ざめ俺の耳にホワイトが何か言ってきた。
こいつ、仲間がこんな状態なのになに、すんだよ。
え?
俺は一度ホワイトの顔を見つめる。
そうするとホワイトが小さく頷いた。
なんだ、ホワイト。
やっぱ、良い奴じゃん。
「アテナレンジャー!!!!スパルタンの弱点はやさしさだー!!!頑張ってー!!!!」
そう言った瞬間にレッドが光り輝いた。
“バズーカモード展開…”
そのままレッドがバズーカに変身していく。
「皆!僕達に優しさを分けて下さい!
両手を合わせて、昨日したいいことでもいいし、お手伝いしたこと、勉強で良い点取ったこと、なんでも構いません。
君たちがした良いことを、綺麗な気持ちを僕達に下さい!」
ブラックが会場に向かって叫ぶと、皆が両手を合わせた。
そして、思い思いに「昨日、お母さんの肩叩いた!!!」「テストで100点取れた!!」「かけっこで一等だった!!」と皆が叫んだ。
おれは、俺は…俺がした優しい事ってなんだろ。
「お菓子いっぱい食べた…、野菜も食べた…」
「あ、アンナはおもいつかないけど……もうちょっと新しいお父さんに優しくする!!!!!!」
舞台に上がった他の子たちも思い思いに叫んでいた。
おれ、おれは…
チラッとホワイトの顔を見た。
これからすることでもいいみたいだし。
「ホワイト、裏切って無いのに、本当はいいやつなのに、蹴ってごめんなさい!!!!」
めいっぱい叫ぶとアテナレンジャー達が顔を見合わせて頷いた。
巨大なバズーカにピンクが先頭、ブラックが一番後方でトリガーを構えた。
「ホワイト、…そして、客席の皆さんの気持ち受け取りました。
行くぞ、」
「「「トンデモバズーカ、発射!!!!」」」
『スパルタン、アタックー!!!!!!』
二つの眩い光がぶつかり合う。
俺はそのまま祈りのポーズで勝利を願った。
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【幸花】
純聖は多分アテナレンジャーが左千夫達だってことに気づいてない。
それぐらい少し考えればわかるのに。
確かに普通のショーと違って左千夫達がやるからおもしろいけど…。
周りの子供達が大声で色んな事を叫んでる。
私がした良い事ってなんだろう。
考えてみたけど無かった。
私、多分ずっと良い事してない。
眩い光から視線を逸らす様に俯く。
次に顔をあげた時には、決着がついていた。
左千夫達の勝利だ。
『まさか……この私が負けるなんて……。ふっ…仕方あるまい……それも運命……。
ちびっこ達よ……君達も、その優しい気持ちを忘れるんじゃないぞ……』
途切れ途切れの言葉を零しながら、スパルタンは粉々になっていった。
中には誰も入っていなかったみたい。
そしてホワイト、いや、クキが純聖を抱えたまま舞台へと降り立つと、皆が駆け寄ってくる。
「皆お疲れ様~♪どうだった、ボクの敵になった時の演技」
「本当に貴方って人は…」
クキが左千夫に頭を叩かれている。
そして全員が笑った。
周りにいる子供や親達も、笑顔だ。
こんなショーで幸せになれるなんて、簡単な人達。
そんな事を思ったけど、ちょっとうらやましかった。
「ミンナありがとう!君達のおかげでチキュウの平和ハ守らレタ!」
どうやらショーはもう終わるみたいだ。
謎の主題歌が流れ始めると、全員が横一列に並んだ…けど。
ブルー…バカナユタの様子がおかしい。
「じゃあミンナ!アテナレンジャーをこれからもヨロシクナ!!」
イデアがそう言った時だった。
明らかにバカナユタの足元がふらついて今にも倒れそうになった。
その瞬間に甘い香りが漂う。
すると、ふらついていたバカナユタが何故か元気になった。
…左千夫の幻術だ。
多分バカナユタの事だ、疲れてぶっ倒れてしまったんだろう。
それを左千夫の幻術で何もなかったことにしている。
つくづく迷惑をかけるやつ。
最後の最後に倒れたら、ここまで積み上げてきたものが全て無くなるっていうのに。
ああ…ここで心配するのが優しさなのかな。
舞台袖へと帰って行く皆を見つめていると、純聖が帰ってくる。
煩い歓声に耳を塞ぐように、再び俯いた。
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【アンナ】
「おかーさーん!!怖かったよ!!!」
スパルタンの部下に連れて行かれた時はもうだめかと思った。
でも、アテナピンクが助けてくれた。
こういう時、新しいお父さんは役に立たないけど、ここから必死に応援してくれてるのをアンナはみてた。
新しいお父さんのことは余り好きじゃない。
だって、大好きなお母さんを取っていっちゃう気がして。
舞台ではああ言っちゃったけど、やっぱりちょっと複雑。
アンナは手を伸ばしてくれる新しいお父さんから隠れるように、お母さんの後ろに隠れた。
そうだ、手伝ったお礼に何か貰ったんだ。
袋の中にはなぜかアニマルレンジャーのグッズが入ってた。
アテネレンジャーのが欲しかったのに。
そう思ったら一つだけ、小さなマスコット人形が入っていた。
しかも、アンナの大好きなピンクだった。
“それでは今から写真撮影を行います。レンジャーと取りたいちびっこは舞台まできてくださーい!!”
そのマスコットを見つめているとそんな声がした。
勿論、写真撮りたい。
アンナはデジカメを持っているお父さんの手を引っ張った。
「アンナ、ピンクと撮りたい。」
お父さんは驚いていたけど、とても優しい笑顔に戻った。
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【神功左千夫】
どうやら那由多君は完全にノックアウトのようだ。
確かに彼は絶叫マシンで酔っていたのにくわえ、この暑さにこのスーツ、仕方ないだろう。
裏に戻るとヘルメットの目の部分だけを開く。
九鬼はしきりに扇いでそこから空気を中へとおくっていた。
「ブルーは僕の幻術で何とかしましょう。九鬼、人形を作ってください。
那由多君はソファーで休ませておいてください。
それと、柚子由、今からオマエを幻術で柚子由の姿にしておくので幸花にカメラを届けてきてあげてください。」
指示を出していると曲が流れ始める。
イデアが用意した主題歌だ。
その間に柚子由は幸花にカメラを渡し戻ってくる。
舞台袖から覗くと結構列が長くて驚いた。
僕達が手を振りながら舞台へとでる。
ブルーが其処に居る様に幻術を使い、実際は九鬼が作った人形でフォローした。
全員と一枚、そして、好きなレンジャーと一枚。
そういった感じで撮影会は行われていった。
純聖の番だ。
「俺は、ホワイトとブラックがいい!!!!」
全員写真の後にそう叫ぶと、僕達の手を引っ張る。
勿論幸花も巻き込まれてスタッフが写真を撮ってくれる。
「なーなー!ホワイト!これに声吹き込んでよ!」
そう言って、純聖がホワイトにアテナホワイトのマスコットを渡していた。
確か、渡したのはアニマルレンジャーの粗品だったはず。
九鬼が作ったんだろう、器用な能力だ。
そして、目の前の幸花が僕にブラックのマスコットを差し出してきた。
幸花は僕が誰か分かっている筈なのに、と思いながらマスクのしたで微笑んだ。
「幸花。いつも、おつかれさまです。」
録音ボタンを押してから、なるべく柔らかい声で吹き込んだ。
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【九鬼】
子供ってのもかわいいもんだ。
すっかりおチビくんはホワイトを気に入ったようで、ボクが作ったボイスレコーダー付きの人形を差しだして来た。
単純だけど、またそこが憎めないというかなんと言うか。
ま、これ今ホワイトだから慕ってくれてるんだろうケド。
何を吹き込むか…とキラキラとした眼差しを送ってくるおチビくんへと視線を向ける。
変な事言ったら多分左千夫クンにしばかれるので、差し当たりのない言葉にしておこう。
「アテナレンジャーみたいに、仲間を大切にネ!!そしたら君もヒーローだ!!」
むずかゆい言葉に自分の顔が熱くなった気がした。
仲間を大切になんて、昔のボクじゃ死んでも口にしなかっただろう。
それでもおチビクンは飛び跳ねながら喜んでくれたので、恥を捨てて正解だった。
それにしても少し疲れた。
能力使いっぱなしだったし、色んな物作りすぎてガス欠も近い。
この後舞台の修理は確実にボクの役割なので、少し休みたい所だが…。
写真撮影は長蛇の列。
ぶっ倒れれたなゆゆが少し羨ましくもなってくる。
次から次に子供達と写真撮影をしていると、ゆずずの元にマスコットを持った女の子が現れた。
「ピンクかわいい!アンナ、怖かったけど楽しかった!また見たい!」
一生懸命に話すその子は、ボクが舞台に呼んだお団子の女の子だ。
この子は顔立ちも整っていてかわいい。将来有望だろう。
「ありがとう、アンナちゃん。そのマスコット貸してくれる?
声吹き込んであげるね」
「そんなことできるの!?」
嬉しそうに女の子はゆずずへとマスコットを手渡す。
そしてゆずずはボイスレコーダーのボタンを押した。
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【三木柚子由】
「アンナちゃん。無理せず、自分のペースで進んでね。」
私の声で良いのかなと、少し考えたけど、私は今はアテナピンクなりきらなくちゃ。
でも気の利いた言葉なんて思いつかないので、後ろのお父さんを見ながらそう言葉を綴った。
私は親子仲が良くない、アンナちゃんも良くないみたい。
私とは全く理由が違うんだろうけど。
そう吹き込むとアンナちゃんはとっても喜んでくれた。
握手しながらぴょんぴょん跳ねる姿はとっても可愛い。
「あ、アンナ、ピンクの事好き!!!ぴ、ピンクはアンナの事好き?
それとも、ブ、ブラックが好き?アンナ男の人には負けちゃう?」
ブラックの名前が出てきた瞬間、私はヘルメットの中で顔を真っ赤に染めた。
架空のレンジャーショーの中でもばれちゃうくらい、私態度に出してるのかな。
そんなことで困惑してると、アンナちゃんのお父さんがこっちにきた。
「バイバイ!ピンク!また会おうね!!」
ぎゅっと、最後にアンナちゃんが手を握ってくれた瞬間、ぐにゃりと視線が歪んだ。
暑い中、ずっと動きっぱなしだからかな。
その時は深く考えず私は写真撮影を終えた。
着替えてシャワーを浴びると舞台を修理している左千夫様を見つけた。
“それとも、ブ、ブラックが好き?”
アンナちゃんの声が頭の中で反芻される。
私は…。
勿論、そんなことを言う勇気は無い、舞台修理をしている左千夫様の背後からギュッと抱き付いた。
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【九鬼】
写真撮影が全て終わると、先に修理をしておこうとシャワーも浴びずに舞台へと向かった。
良く見たらだいぶ壊れてる。
そりゃあんだけ暴れてたらこうなるか。
「あーメンドーイ」
大きく伸びをするとひび割れた舞台へと手を当てる。
ボクの能力は便利すぎるな、と口先を尖らせた。
そのすぐ後だ、後ろから誰かに抱き着かれた。
左千夫クン…ではもちろんない。
この体格からして女性だ。
誰だ?ていうかなんでボクに抱き着いて――――。
「今日の左千夫様…カッコよかったです……」
その声で誰だかは確信した。
ゆずずだ。
いや、え?なんで?なんでゆずず?
しかもボクに左千夫クンカッコよかったとか言われても意味ないヨ?
困惑し固まっているが、早くなんとかしなければ。
ゆずずに手を出したら…いや、出されてるんだが、もうじきこわーい鬼が出て来るのはわかっている。
「ゆずず勘違いしてる?ボク左千夫クンじゃないヨ?」
なるべく優しく声をかけたが、腰に回ったゆずずの手は離れない。
「勘違いなんかしてません…」
「いやしてるんだって!!」
そう言って無理矢理ひっぺがそうと後ろを振り向くと、ゆずずの目が揺れた。
「左千夫様…なんで……頭、撫でて……」
やばーい。泣かれる。
いや、泣かないと思うケド、なんかすっごいボクが悪い事してるみたいな感じで気分が悪い。
どうしようかと柄にもなく慌てていると、舞台袖に背筋が凍るほどの殺気が漂った。
でた……左千夫クンが……。
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【神功左千夫】
九鬼が柚子由を泣かせている。
アテナレンジャーの盛況は凄かったようだ。
グッズが無いかと殺到したとのこと。
良かったらこの遊園地のマスコットとしてそのまま公演を続けてくれないかという話になった。
商談となれば父とも話さなければならないが、月一ならとのことで了承しておいた。
シャワーを浴び、服に着替え終わり那由多君の様子を見に行こうとした時だった、無人の筈の舞台から気配がして覗いてみると冒頭の光景が見えた。
ゆっくりと、地を踏みしめるように僕は歩いていく。
彼はその行為がどれだけ僕の激昂させるか彼は分かっていないのか。
「九鬼……」
「わー!!!僕は何もしてない!何もしてないってば!!!」
両手を胸の前で振る九鬼から柚子由を引っぺがす。
そしてかくまう様にして自分の傍に置いてから僕は携帯を取り出した。
九鬼はガス欠気味、殺るならいまだ。
「くっきー…さん?」
しかし、その思いは儚く崩れ去ることになる。
柚子由は僕に向かって九鬼と呼んだのだ、そして、逃げるように僕の傍から離れると、九鬼にぽふっと抱き付いた。
ど、どういうことだ。
九鬼は両手を上に上げ、なにもしてませんというかのように首を横に振っている。
そんなことはもう、どうでも良かった。
僕が九鬼…?
それは、もしかして…。
「柚子由……。」
「すいません、くっきーさん…、その、私は左千夫様に頭を撫でて貰いたかっただけで…」
申し訳なさそうに僕にそう言いながら、柚子由は九鬼を見上げる。
その表情は彼女が頭を撫でて欲しい時にする表情だった。
駄目だ…。
怒りが…、収まらない。
僕を保てない…。
「く……・き……」
地を這う様な低音で僕は彼の名前を呼んだ。
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【九鬼】
ボクは何もしていない。
何もしていないのに怒られるなんてのは嫌だ。
「ちょっと待ってヨほんとに!!
これ絶対今日カップルが巻き込まれてた能力だよネ?
キスしたらなお……」
そう言おうとした時の左千夫クンの顔は、鬼、いや、悪魔だった。
ここに黒い悪魔がいる。
これ以上言うと本当に殺される。
それはごめんだ。
「ゆ…ゆずず、なんか変な時なかった?体調悪くなったりとか、おかしいなって感じたとか。
そんな瞬間あれば教えてほしいナ~」
冷や汗だらだらで、未だにボクを離さないゆずずへと視線を落とす。
真っ直ぐな瞳でボクを見つめてくるゆずずは、まるで別人だ。
いや、ボクに対してこんな仕草をするのは初めてなので、これが普通なのかもしれないが。
「体調……ありました…。写真撮影の時、女の子に人形を渡されて…」
「女の子?女の子ってあのお団子の子かナ?」
「はい」
多分だけど、能力の発信元はその子だ。
とにかく時刻も夕方に差し迫ってきているので、女の子が帰ってしまう前に見つけなければいけない。
キス以外の方法が見つかるかもしれない。
「はるるー!!はるる来てー!!」
「んだよ……って……え?」
はるるを大声で呼ぶと舞台袖から不機嫌そうに顔を出した。
今のボクの状態を見て唖然としたが、説明するのもめんどうだ。
「今だいぶ遊園地も人捌けて来てるからさ、はるるの能力でお団子の女の子探せない?」
「お団子の女の子?…あー三木も能力かかっちまったのか」
「早く、早くして、早くしないとボク殺される」
別にしんでもいいけど、と言ったような視線をボクに送って来たが、小さくため息をつくとはるるは能力を発動させた。
暫く沈黙が流れるが、左千夫クンはボクから目を離さなかった。
その怒りの籠った表情は、一歩でも動くと殺してやると言いたげだった。
蛇に睨まれた蛙って、こういう状態の事言うんだろうナ。
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【日当瀬晴生】
どうやら三木が能力に掛っちまったらしい。
九鬼を会長と間違えてるつーことか。
………それって結構厄介だよな。
まぁ、いい、俺も実際に発動させている能力者を見た方が色々分かるしな。
俺は能力を展開させた。
遊園地内に神経を張り巡らせる。
三木と写真撮ってた女だよな、頭がお団子の…。
俺の中に色々な景色が流れ込んでくる。
能力らしき気配は感じられなかったが顔が分かっていた為ピンと来た。
「………観覧車の…前」
俺が呟く様に声を落とした瞬間、会長が走り出した。
んと、三木のことになると人間味が増すな、あいつは。
チラッと九鬼を見たが、厄介事には巻き込まれたくなかったので、三木をしがみつかせたまま会長を追った。
途中、同じく舞台に上がった緑の帽子を被った奴を見つけた。
舞台にも菓子を片手に上がってきたが、今も食べていた。
コイツ、そういや、俺に頼んできたんだよな、ボイス。
なんて言っていいか分からなかったので、“計画、目標、努力。それさえ、しっかりしてりゃ、大丈夫だ、こうたろう!!”と、まぁ、俺の信念を吹き込んで遣ったんだけど。
「おい、お前、さっき、一緒に舞台に上がった女の子居ただろ、頭がお団子の。この辺りで見なかったか?」
もう一度能力を発動させるのが手間だった俺はその男の子に質問した。
彼は一度首を傾げながらメリーゴーランドのほうを指差した。
「美味しそうな匂いがした子でしょ?なら、あっち。」
…美味しそう?
その意味は俺には理解できなかったが大食漢には何か分かるのかも知れねーな。
「さんきゅーな。菓子ばっか食わないで野菜食えよ、坊主。」
それだけ告げるとメリーゴーランドの方へと走り出した。
女の子の泣き声が聞こえたので嫌な予感がする。
足を速めるとそこには泣いているお団子の女の子と、怒りをあらわにしている会長が居た。
どうやら、会長はなぜ泣かれたか気付いていないらしい。
俺は会長の肩をポンと叩いてから女の子の前にしゃがんだ。
「会長、鏡見てきた方が良いぜ。
つーか、アンナちゃんちょっとだけ、このお兄さんお話したいことがあるんだ。
終わったら帰れるぜ。」
会長は我に返ったのかいつもの表情に戻っていた。
そして、辺りを結界で包む。
其処は風船だらけの柔らかい雰囲気の部屋だった。
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【アンナ】
お父さんたちとメリーゴーランドに乗ろうとしたら、物凄く綺麗な人が鬼みたいな顔でアンナの前に来た。
見ただけで怖くなって泣きだしてしまうと、その男の人もアンナの親も焦ってた。
でも、次は外人みたいなおにーちゃんが来て、アンナと目を合わせて話してくれた。
その後、不思議な空間にきちゃった、でも怖くない。
「先程はすいません。
…君は最近、不思議な体験をしませんでしたか。」
鬼みたいな顔をしていた綺麗な人が優しい顔をしていた。
ホッとしたアンナは記憶をたどってみた。
「うん、あった。金髪の男の子。
アンナが新しいお父さんにお母さん取られそうでいやだっていったら魔法を上げるよって言われたの。
でも、結局なにも、起こらなかった。
お母さんは、アンナより新しいお父さんが好きみたい」
アンナが泣きそうにしていると、金髪の頭の外人さんが溜息を吐いた。
「当たり前だろ。つーか、そもそも、そこ比べるのおかしいんだよ。」
「日当瀬君、なにも、こんな小さな女の子にそんなこと言わなくてもいいでしょう?」
「あ?最近のガキはませてんだから大丈夫だっつーの!テメェみたいに甘やかしてッとあの純聖とか言うガキみたいになんだよ。」
目の前で綺麗なお兄さんと外人さんが言いあいしてる。
学校の先生ですら当たり障りのない言葉で返してくれるだけだったのに。
「良いか、テメェ!女は男が好きなんだよ!それが自然と摂理だ!普通ってやつだ!!
んで、それといっしょで、母性つーもんがあるからな、お前のことも大好きだ。分かったか!!
両方好き、んなこといちいち気にすんな。」
金髪のお兄さんがアンナにびしっと指差して言った。
アンナは目をまんまるにして聞いてたけどなんとなく納得してしまった。
「アンナが、アニマルピンクとアテネピンクとお母さんが好きな感じかな…。」
「ちょっと、違うが、そんな感じだな。
つーか、新しいオヤジが嫌いならテメェの親に言えばいいだろう?」
ちょっと違うんだと思ったけど、それならなんとなく分かる。
そして、別に新しいお父さんは嫌いじゃない、男の人の中じゃ好きな部類だ。
なんか、すっきりしっちゃった。
すっきりした顔で二人を見上げると、今度は綺麗な人が溜息を吐いた。
「君は魔法を使えるようになってしまったのです。
それが僕の仲間に掛ってしまった…、君は魔法を解く方法を知ってますか?」
それは知らない、魔法を使えるようにしたって言ってただけだったから。
私は首を横に振る。
すると其処にもう一人現れた。
「不完全ダナ。」
金髪の小さな女の子だった。
綺麗な人がもう一度溜息を吐くとその女の子からペンダントを受け取りアンナに掛けてくれた、一緒に名刺の様なものを渡される。
「それで、君の魔法は制御できます。
ただし、使いこなしたいと思ったらここに来てください。
君の能力は他人を勘違いさせる能力、まだきちんと発動していないので訓練でどう転ぶかは分かりませんが。
そこに来るかどうかは君次第です、それでは、すいません、ご家族との時間を邪魔してしまって…」
綺麗な人が悲しそうに微笑んだ後、後ろからお父さんとお母さんの声が聞こえた。
「アンナ、どうしたの?」
「あれ、綺麗なおにいちゃんが…」
「綺麗なおにいちゃん?そんな人いなかったぞ。」
アンナ夢でも見たのかなと思ったけど、首にはペンダント、手の中には紙が入ってた。
……アンナ本当に魔法使いになっちゃったみたい。
この後はお父さんとの蟠りもとけた。
そして、アンナがこの施設に訪れるのはもう少し後のことになる。
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【千星那由多】
「副会長……」
体調も良くなり、舞台袖から出てきた所で凄い物を見てしまった。
三木さんが何故か副会長に抱き着いている。
その後必死に副会長が理由を話してくれたので、状況は飲み込めたが、俺が倒れている間に色々とあったようだ。
それにしても、会長に抱き着いている三木さんなら許せるが、副会長に抱き着いているのを見るのはさすがにもやもやした。
俺がこれだけもやもやしてるってことは、会長は多分凄い事になっているんだろう。
どうしようもできないので、あわあわしている副会長を巽と一緒に遠巻きに見ていた。
暫くすると発動元の女の子を探しに行っていた、会長と晴生が戻ってくる。
「かいちょ……う…」
その表情は曇り、視線はどこに向いているのかわからない程だった。
隣を歩いていた晴生が俺に気づくと、駆け寄ってくる。
「千星さん!体大丈夫ですか?」
「あーうん、もう大丈夫……つか…俺より会長の方が…」
「もうダメですね、あれ。ちなみに三木を戻す方法も今ん所キス以外無いみたいです」
そう言ってまだ抱き着いたままの三木さんへと視線を送ると、副会長の顔色が更に悪くなった。
なんかもう、真っ白だ。
二人のキスは、さすがにここの誰も見たくはないだろう。
俺が副会長だったら…………いや、しない!三木さんを汚すなんてありえない!!
一人で妄想して顔を真っ赤にしていると、会長が重い口を開いた。
「…とにかく…明日まで様子を見ましょう。それで治らなかったら…」
その言葉の先を言う前に自ら両手で口を塞いだ。
うわあ…ほんと会長が一番危ないんじゃないかこれ。
それからは三木さんをどうにか説得し、副会長から離れてもらった。
それでもいつもは会長の横を歩いているはずの三木さんが、ずっと副会長の側に居る。
明日、治らなかったら本当にどうなるんだろうか…。
ヒーローショーの片付けが全て終わると、俺達は遊園地を後にした。
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