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isc(裏)生徒会
バトルバレー②
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【夏岡陣太郎】
やーっと俺の番が回って来た!
俺は晴生とペアだ。
タッグを組んで勝負するのは久々でわくわくしてる。
相手は会計の百合草麗華と会計補佐の黒部早紀。
百合草さんはなんか見た目がすっごいゴージャスと言うか派手と言うか…まるでキャバ嬢のようだ。
大きい胸に嫌でも目が行く。
晴生大丈夫だろうか。
黒部さんは雰囲気がほんわかしていて女の子らしく、優しそうな印象だ。
二人は対照的と言えば対照的かもしれないが、女性らしさがあって、俺は嫌いなタイプではない。
「よろしくお願いね」
そう言って綺麗なネイルが施された手を差し伸べて来た百合草さんへと、力強く握り返す様に握手をする。
「よろしくー!楽しくやろうな!!」
二人の能力は左千夫に貰った資料に書いていた。
百合草さんは情報系の能力らしい。
太一と似たような感じかと思ったが、そうでもないらしく、うまく解析できなかったと言っていた。
綺麗だけど要注意人物だ。
黒部さんは触れた物を握りつぶすと小さくしてしまうらしい。
それを聞いた時の左千夫の顔が何故が強張っていたのが印象的だった。
とにかく!
俺は全力を尽くすのみだ!
俺達のボールは、パチンコの玉だった。
めーっちゃくちゃ小さいそれを見逃すことなく打ち込まなければならない。
でもま、晴生の能力だったら小さいものも見逃すことはないだろうし、俺もそういう分野では負ける気はしない。
次の審判はイデアだ。
サーブ権のコイントスは俺達の番だったので、晴生に選んでもらったら見事にサーブ権を獲得した。
俺こういう運無いから、やってもらってよかった。
サーブは俺からやってくださいと晴生に言われたので、コートから出ると小さいパチンコ玉を眺める。
手の平に乗ると本当に小さい。
「ソレデハ、試合開始!」
その言葉と共に手始めに上へとパチンコ玉を投げた。
太陽に照らされて光ってくれるので、思った以上に見えやすいかもしれない。
「そー……れッ!!」
バレーのサーブのように相手側のコートにパチンコの玉を打ちこんだ。
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【日当瀬晴生】
久々に夏岡さんとペアを組む。
つーか、夏岡さんと組むのにこんな奴らに負けるわけねーだろ。
次は俺達からサーブだ。
あっちの能力は既に分かっている。
と、言うことは俺は能力を発動させておいたほうが良いだろう。
「解除。」
そう言うなり、俺の手首にブレスレッドが巻き付いた。
あちらさんもどうやら能力を発動したようで武器を構えている。
百合草麗華の武器は扇子、どうやら大きさは自在に変えられるようだが今は通常サイズだ。
黒部の武器は……手元に隠れて良く見えないがマジックハンドだった。
データで見たときはかなりでかいやつだったのであちらも伸縮自在なんだろう。
俺の把握能力も開放しているが、やっぱりかなりの情報を取りこんでしまうので仕分けるのが大変だ。
「そー……れッ!!」
夏岡さんの声と共にパチンコ玉が相手のコートへと弾かれる。
「流石ですね、陣太郎さん。良いサーブですね。
早紀ちゃん、行きますよ。」
そうして、黒部にパチンコ玉を扇子で打つようにして回した。
そうするとやっぱり巨大なマジックハンドだったようでそれが黒部の手元から伸びてネット際に上げた。
百合草がそこにはきちんと待っていてそれをこちらのコートに叩きこむ。
「行きますよ…ッ」
「はッ!そんな球止まって見えるぜ!」
俺は砂浜に飛び込むようにして銃の腹でパチンコ玉をはじき返す。
そこにはちゃんと夏岡さんが構えている。
「凄いですね、晴生さん、あの速い球を意図も簡単に。」
「あれくらいで速いつってたら俺らには勝てねーよ。」
そのまま夏岡さんが相手コートに打ち込んだ。
それをまた百合草が上へと綺麗に打ち上げた。
少し、ラリーが続きそうだなと俺は更に構えた。
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【夏岡陣太郎】
何度かラリーが続く。
小さいパチンコ玉が行ったり来たりする様子はなんだかおかしい。
相手の二人も中々動きがいいので、これは楽しめそうだ。
こちらに返ってきたパチンコ玉を、晴生が銃の腹トスするように高く打ち上げた。
一応俺の能力も使っておこう。
「解除!」
そう言うとブレスレットがマントへと変化し、俺の首へと巻きつく。
ぐっと地面に屈んでから地を蹴り上げると、俺は宙へと舞った。
夏のビーチで飛ぶの、ちょっと気持ちーかも。
まだ上へと上がって行くパチンコ玉と一緒に宙へと舞い、落下する地点でマントを回転するように翻した。
「い…――――ッけ!!!
固くなったマントで打ちこんだパチンコ玉は、相手コートへと急降下していき、物凄いスピードで砂浜へと潜る様に落ちた。
相手は身構えていたが、受けれないと判断したのかその場に立ち尽くしている。
「愛輝凪高校1ポイント」
「さすがです!夏岡さん!」
地上へ降り立つと晴生が寄って来たので片手同士を重ね合わせた。
それを見ていた百合草さんが、あちら側のコートで拍手をしている。
「まるでテレビの中のヒーローみたいですね。ね、早紀ちゃん」
「はぁい!空も飛べちゃうんですねっ!」
二人とも点が取られた事よりも、俺が空を飛んだことにびっくりしたみたいだった。
そっちの会長と副会長の方がペガサス出したりすごいと思うんだけどな…。
「そう?俺もこの能力好きなんだよー!まぁ空を飛ぶのが能力じゃないんだけどね。なんかほんとにヒーローになった気分でさ~!たまに地元をパトロールとかしてると…」
「ジンタロウ、無駄口をタタクナ」
ついつい喋り込んでしまいそうになった所を、イデアに止められた。
ほんとーにいつもツッコミが厳しい。
次は相手のサーブだ。
この調子なら、勝てるだろうか。
でも、なんか妙な違和感で気持ちが悪い。
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【日当瀬晴生】
確かに女にしては中々やるが俺と夏岡さんの敵ではねぇな。
このままミスに気を付けてラリーをしていれば普通に勝てる相手だろう。
この、二人とも飛び道具が無い分、この特殊なビーチバレーには向かないようだ。
よし、さっきは負けたしここはいっちょ取っとくか。
「それではサーブ行きますね!」
あっちは百合草がサーブを打ち込んでくる様だ。
それにしても…あの胸は気になるな。
上手くストールで隠してくれてるからいいものの調度視線を向けたときに、その、見えんだよな!谷間が!!
夏岡さんはそんなこと全く気にしてねぇから、なんつーか、俺がまだまだ修行不足なんだろうな。
扇で弾かれたパチンコ玉が空気を切り裂くように飛んでくる。
それを夏岡さんに向かって空高く上げてやった。
「お願いします、夏岡さん!」
「おう!決めさせて貰うぜ!」
そう言って夏岡さんは先程と同じようにマントを回転させた。
「同じ手ではやられませんよ!――きゃッ!
すいません、早紀ちゃんフォローをお願いします!」
着地点に上手く百合草が潜り込んだようだが上がったボールは見当違いの方向に飛んでいった。
これで勝ちだと思ったがそこまでは甘くなかった。
「はぁい!お姉さま!!」
黒部から巨大なマジックハンドが伸びる、そして、先端部でガチンと挟んだ。
その瞬間、パチンコ玉が消えた……ように一般人には見えるだろうけど、彼女の能力は分かっている上に俺にはこの分析能力がある。
俺は銃を構えるとネット際の一点に集中した。
「―――今だ!」
俺は銃のトリガーを引く。
けたたましい音を立てた弾が飛んでいった先でカンっと激しい音がした。
そう、パチンコ玉は黒部の能力によりかなり小さく縮小されてしまっていたのだ。
俺の銃に弾かれたパチンコ玉が麗亜コートに落ちた。
「愛輝凪高校2ポイント」
イデアさんの声が響く、そして、夏岡さんがハイタッチをしにきてくれた。
このまま楽勝だ!
と、思った俺はこの後甘さを痛感する。
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【黒部早紀】
「早紀、頑張ってちっちゃくしたのに跳ね返されちゃった~!」
なーんて…。
これも全部手の内だけどなチンカスども!!
こっから先、お姉さまの能力があれば、巻き返すことができる。
いや、勝利するためにお前らに二点取らせたようなもんなんだよ!
あーおかしくって声あげて笑っちゃいそー。
でもあたしはこの腹黒い気持ちを、絶対に顔にも言葉にも出さない。
にこにこふわふわ笑ってれば周りの男は騙されてくれるし、ちょろいもんよ。
「次は頑張りましょう!お姉さま!」
そう言うとお姉さまが髪をかき揚げ微笑む、これは能力を開始すると言う合図だ。
あたしはただフォローに回ればいい。
頭の悪そうな赤茶頭と、媚び媚び金髪野郎ぐらい、お姉さまの能力で十分ぶっ倒せんぜ。
サーブはあちらから、媚び媚び金髪野郎だ。
高くパチンコ玉が舞いあがった瞬間、お姉さまが能力を発動させる。
「そのサーブはどこに打つんですか?」
「そんなもん、向かって右の端に決まって……あれ?」
掛かった。
金髪野郎は自分が口走った通りに勢いよく打ち込んで来る。
もちろんあたしはあいつが口走った時点で、そこへと走っているので、簡単に打ち返すことができた。
大きく弧を描きながら相手コートへとパチンコ玉が向かう間、金髪野郎はおかしい、と言ったように口元を抑えていた。
「晴生何やってんだよ!」
次は赤茶髪が上に飛んで行ったパチンコ玉を舞い上がり追うと、マントをバッドの様な形に変えて打ち返そうとしていた。
だけどもう遅い。
こいつもお姉さまにやられる運命だ。
「そのパチンコ玉の行先はどこですか?」
「百合草さんの斜め右……って、えぇ!!??」
ほーらやっぱり。
そして言った通りの場所へもちろんパチンコ玉は落ちてくる。
それも難なく受け止めると相手側へと勢いよく返した。
そう、これがお姉さまの情報操作の能力。
簡単に言うと「聞き上手」と言えばいいのだろうか。
相手の動向や情報を問う事で聞きだす事ができる、素晴らしい能力だ。
もちろん聞き出せない奴もいるが、赤茶髪と金髪は、どうやら相当単純バカみたいだ。
「へっ、バーカ」
あたしはそう小さく呟いてにやりと笑った。
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【百合草麗華】
私は百合草麗華(ゆりぐされいか)、歳は18歳、身長163cm、体重秘密、胸のサイズはF。
趣味は夜のお仕事、いかがわしい方じゃないのね。
そして、これが私の特殊能力。
このからくりを私自体もきちんと理解できてはいないけれど発動にはある程度相手とコミュニケーションをとる必要があると言うこと。
それはこの二点を取られた間に行ったことで十分でしょう。
「次はどちらへ?」
「黒部の足元……ッ!?」
「今度はどこを狙っているの?」
「これはフェイントだから場外に飛ぶ……ぅおおおッ!!??」
暫く落ちるところを聞きながらラリーを続けていると陣太郎さんがそう言ってくれた。
これは有り難い情報です。
「貴重な一点、ありがとうございます、陣さん。」
更に仲を深める様に名前を縮める。
そう言った瞬間パチンコは私の頭上ギリギリを通りながらコート外へと落ちていった。
情報を聞いていなかったら間違いなく手を出していた球だろう。
「麗亜高校、1ポイント。」
ヒューマノイドさんの声が響く。
でも、もう、貴方達の高校名が呼ばれることはないのよ。
後は全て、この、麗華の言うがまま。
「それでは、早紀ちゃん、サーブをお願いしますね。」
横で私の能力を喜んでくれる早紀ちゃんの頭をいいこ、いいこと撫でてあげる。
いつも思うけど、早紀ちゃんは本当に可愛い、私は良い会計の後継を見つけたわ。
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【夏岡陣太郎】
おかしい、なんか、おかしい。
百合草さんに問われた事に絶対に答えてしまう。
完璧に俺達のやろうとしていることがバレバレだ。
というか、それを自分で喋ってしまっているという事が問題なんだ。
「どういうことこれ!!」
そう言って視線を向けた先、晴生の顔も青ざめている。
もしかして、情報系の能力ってこういうことか?
俺達は既に術中にハマってしまっているのか?
このままではまずい、答えない、次こそは絶対に答えない。
そう自分に言い聞かせながら、黒部さんがサーブを打ち込んで来たのを、マントを翻して待った。
寧ろもう何も考えなければいいんだ。
そしたら答える事も無い。
ただ、無心でこのパチンコ玉を打ちかえす。
それでいいんだ。
そう思い、精神を落ち着かせながら、飛んできたパチンコ玉を打ち返そうとした時だった。
「陣さんはそのパチンコ玉、打ち返せませんよね?」
「うん!打ち返せないね!!……って、あぁあああああ!!!!!!」
百合草さんの言葉に何故か頷いてしまったと同時に、パチンコ玉を打つことができずにマントは見事に空ぶった。
そのままパチンコ玉は俺の後ろへと飛んで行き、地面へと綺麗に落ちる。
「麗亜高校、1ポイント」
「ち…ちょっと!なんで!?なんでなんで!!!」
さっきまでは打ち込む場所を聞かれて素直に答えていた。
なのに、次はまるで俺を操るかのように指示を与え、それに素直に従ってしまっている。
驚愕した表情で百合草さんへと視線を向けた。
「陣さんはお優しいですね」
そう言って綺麗な微笑みを浮かべた瞬間に、ゾっと背筋に悪寒が走った。
……これは、本当にまずいかもしれない。
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【日当瀬晴生】
相手の能力は分かっていた。
それなのにかわせなかった…?
つーか、発動条件は何なんだよ!!
全くわかんねぇ!!
そうなると回避方法も分からない訳で、しかも俺の解析能力で分かる類の物でも無い。
落ち付け、俺。
要は相手の言葉に耳をかさなければいい、何も喋らずに無心で俺はサーブを打てばいいんだ。
夏岡さんは相手の言うことまで聞いてしまっているが俺がそうならなければ良い話。
落ち付け、俺。
夏岡さんに負けを付けたくないだろう!
あんな、派手な女の言いなりになる必要は無いんだ。
俺はガチガチになりながらパチンコ玉を手にサーブの場所へと歩いていく。
そして、無心と言い聞かせながらパチンコ玉を上に上げ、銃を構えた。
「そのまま外しちゃってください!晴生さん!!」
そう告げられた瞬間に打った俺の弾はパチンコ玉と全く違う方向に飛んでいった。
そして、俺の脳天にパチンコ玉が降ってくる。
俺はその場に跪いた。
……完敗だ。
「ありがとうございます晴生さん、おかげで私達が勝利させていただきました。」
『麗亜高校の勝利』
イデアさんの声が響く。
そして、愛輝凪サイドからの視線が冷たい気がする。
なんだ、これは…。
この敗北感は。
打ちひしがれている俺の頭を近づいてきた夏岡さんが撫でてくれた。
「負けちまったな!晴生!!次がんばろうぜ!」
ああ、やっぱ。
俺はこの人を尊敬してよかったと再び思った。
そして、夏岡さんに引き上げられる様にして、敵とあいさつをかわしてから自分のベンチへと戻った。
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【千星那由多】
まさか晴生と夏岡先輩が負けるとは思わなかった。
あの百合草って人の能力みたいだが、怖すぎる。
落ち込んだ様子の晴生が、元気な夏岡先輩にベンチへと連れてこられた。
「いやー負けちゃった負けちゃった!完璧言いなりだったよね俺!くっやしー!」
夏岡先輩は負けた事を悔しく思っているみたいだが、落ち込んでいる晴生を見てか逆に明るく振る舞っているようにも見えた。
飲み物を手渡すと一気に飲み干し、次の試合の弟月先輩と純聖に声をかける。
「俺達の仇とってくれよなー!」
そう言って弟月先輩と拳を重ね、純聖の頭をくしゃくしゃっと撫でている。
残る闘いは、あと二試合だ。
今の所麗亜高校には負けているが、これから巻き返すことができるだろうか。
このバトルバレー、本当に何が起こるかわからない。
自分の番が回ってくるまでの緊張感も酷かった。
暫くの間休憩を挟むと、次の試合のコールが響く。
「第四回戦。弟月・純聖ペア、電堂・不破ペア、コートへ」
弟月先輩と純聖のペアというのも何か不思議な組み合わせだが、弟月先輩ならうまくやってくれるだろう。
子供は苦手そうだが、夏岡先輩との関係を見ていると、面倒見も良さそうなので多分問題は無いはずだ。
次の試合のボールは無数の棘がついたボールだった。
刺さると痛そう…というか普通に刺さればかなりの傷を負いそうだ。
いや、ボールではないか、あれはただの凶器だ。
自分があのボールじゃなくてよかったと思いながら、次の試合が開始されるのを待った。
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【弟月太一】
「神功、勝ちに行った方が良いのか?」
「そうですね…、そうしておいて貰うと助かります。」
コートに出る前に一番後ろで見ている神功へと声を掛ける。
本当に何を考えているか分からない、この戦いも特にアドバイスをする訳でも無く後方から見て応援しているだけだった。
そして、今もいつものように笑みを浮かべながら純聖とかいう子供に手を振っている。
「左千夫ー!!俺は勝って来るからなー!」
「よろしくお願いしますね。」
その会話を聞きながら俺は眼鏡を外し、ベンチへと置くと能力を解放してからコートへと向かった。
俺達の相手は電童彌生(でんどうまよい)と不破紗耶佳(ふわさやか)。
一般生徒だった為どちらとも能力は分からない。
電童彌生、金髪の立てロール、フランス人形みたいな容姿をしているがあの髪はどうやらウィッグのようだ。
身長は148cm、赤い瞳もカラーコンタクト、眼帯をしているが目を損傷している訳ではない。
人形を抱いているところからと俺が読み取れる範囲では能力は操作系。
不破紗耶佳、くすんだ金髪のソフトリーゼント、見ためからして完璧に不良だが、どうやら中身も不良のようだ。
身長は180cm、黒い瞳に鋭い眼光。
武器はナックル、能力は拳圧。
九鬼と似たタイプになるかな、まぁ、あいつの能力は特殊だが。
分かった能力をデータ化して俺はブレスレッドから全ての仲間に情報として送った。
それから、マリアと呼ばれるヒューマノイドに歩み寄る。
「一つ質問、いいか。
その球の損傷はどこまで認められる。」
「はい。このトゲトゲボールの事ですね。周りのトゲが壊れるくらいではなんの問題も有りません。
中央の球の部分も変形するくらいなら大丈夫ですが、真っ二つに割れたり、三分の一以上かけたりするとその時点でコートにあった方が負けとなります。
ボールが損傷した場合はポイントがどちらかに入った時点で新しいボールと交換となります。」
「わかった。」
俺の銃でトゲや中心がわれることはなさそうだが純聖の能力を考えるとそれを確認しておきたかった。
それだけ聞くと俺はコートの後方へと行く。
純聖を前にする形だ。
「さっさと、やろうぜ、おっさ……ん!!?あ、あぶねー!!」
「口の聞き方には気を付けろ。」
全く、最近の子供は教育がなって無い。
神功が連れてきた奴だからマシかと思えばこの始末だ。
俺は、純聖の足元に拳銃を打ち込む。
「コイントスはお前に任せる、そして、これからは俺の指示下に入れ。
俺が取れと言ったボールは逃さず取るんだ」
「な……いや…!??」
「口答えをするなら撃つ。お前の能力発動の前に撃つことなど容易いぞ?」
表情が強張る純聖を見るとまだまだ子供だなと思った。
神功が勝てと言ったので、これは純聖を自由に使ってもいいと言うことだろう。
きっと奴はこいつの修業のつもりだろうが、俺は甘く教えてやる術を持ち合わせていない。
―――――扱いてやる。
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【電童彌生】
地区聖戦と言うものはどれほどむごたらしいことをするのかしら、と思い参加したと言うのに、大して血を見る事が無いので少し拍子抜けしていました。
今日もこんな真夏日に海だなんて馬鹿げているけれども、この隣の口の悪いヤンキー、不破紗耶佳に連れてこられてしまったので、渋々肌の露出が少ない水着を着ることになりましたの。
皆さん楽しんでいられるようですけど、アタシは正直こういう場は苦手ですわ。
特に…ああっ、目の前に男子がいるなんて考えたくもないっっ!
胸元に握りしめているフランソワーズの人形をぎゅっと抱きしめてあげながら、愛輝凪高校の先ほどまで眼鏡をかけていた白髪の男と少年に、視線を向けてすぐに逸らした。
どうやらあちらは何か不穏な空気みたいですけど。
あの白髪眼鏡……中々のドSみたいね。
そんなことはどうでもいいのよ彌生。
今はこの勝負に集中しましょう。
「がんばろーな!電童!」
そう言って伸ばしてきた不破紗耶佳の手を払いのける。
「触らないでくださるかしら…?……May God Bless You」
そう言うとフランソワーズの瞳が光る。
私の武器は大事な大事なフランソワーズ。
人形なら大抵は動かすことができるのだけど、この子が一番扱いやすいの。
「フランソワーズ…いい子ね…頑張りましょう」
そう言って頭を撫でてあげると、フランソワーズは大きく頷いた。
不破紗耶佳は見慣れているはずなのにそれを物珍しそうな目で見ている。
サーブ権はあちらからになった。
どうやら白髪眼鏡が最初に打つようだ。
武器は銃のようね。
コート外の砂地へとトゲトゲボールを置くと、銃でそれを弾き上へと上げる。
そして再び弾を放つと、こちらへとトゲトゲボールが飛んできた。
「おッきたきたー!!」
不破紗耶佳がそう言うと、展開させていた武器のナックルの両拳を合わせカチンと音を鳴らし、飛んできたトゲトゲボールへ向かって拳を振る。
直接殴るわけでは無い。この女の能力は拳圧が出せるということ。
ほんと野蛮ね。
私はその場から動かずに、不破紗耶佳がトゲトゲボールを打ち返すのをため息をつきながら見ていた。
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【純聖】
俺のパートナーの白髪眼鏡がこんなに怖い奴だったとは…!
つーか、反則じゃねぇか!この怖さ。
しかも命令口調だし、嫌なんだよなこの感じ!!くそっ!白髪眼鏡のくせに!!!
二丁拳銃で弟月が器用にサーブするとあっちも手際よく返してきた。
つーか、あれどうやって返してんだ。
あ、さっきコイツから拳圧が使えるってデータが送られてきてたっけ、ってぇぇ!!!
普通の速さだったらちょっと我慢したらトゲが痛いくらいで返すことはできる。
けど、あれ、無理、速すぎる。
あんなの素手で返したら手がぶっ壊れるし、能力使っちまうと多分球全部溶かしちまう…。
ここはこの白髪眼鏡に任せるしか…。
「行け、純聖」
は?
うっお!!拳銃撃ってくんなって!!!
白髪眼鏡の銃の弾を避けていると俺はトゲトゲボールの落下地点へと誘導された。
これ、やばくねぇか…!
「俺が、行けと言ったら、行くんだ純聖!」
物凄いスピードと回転でこっちに向かってくる球を見た瞬間俺の本能は能力を開花させた。
そして、その結果。
見事にドロドロに球を熔かしててしまった。
『麗亜高校、一ポイント。』
ヒューマノイドの声と後ろで溜息を吐く白髪眼鏡の声が聞こえた。
つーか、お前が動けよ…!!!
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【不破紗耶佳】
「おっしゃ!一点だな!!」
グっと拳を握りしめる。
運良くガキの能力でどうやらボールは溶けてしまったみたいだ。
あの能力を直接受けるのはかなりヤバイだろーけど、今はバトルバレー。殴り合いでないなら今んとこ大丈夫か。
ま、アタイには拳を重ねる競技の方が向いてっけどね。
それにあちらはどうやら揉めているようだ。
じじいみたいな頭した奴が一方的にやってるようにも見えっけど。
「サーブ、アタイらだけどどうする?電童打つか?」
そう言うと電堂じゃなく、腕に抱いてる熊のぬいぐるみが頭を横に振った。
こいつの能力、あの熊を動かせるらしいんだけど、ちょっと怖いんだよね。
電堂はアタイの事嫌いみたいだし。
「じゃ、アタイが打つよ」
そう言うとコート外へと出て、あちらのヒューマノイドが投げて来たトゲトゲボールを拳圧で浮かせる。
このボール、刺さるとアタイのナックルより痛そうだね。
浮いたトゲトゲボールに再度拳圧であちら側のコートへと打ち込む。
じじい頭の方へと行ったが、銃を何発か打ち込みこちらへと打ち返して来た。
そのボールは電堂の方へと落ちて行く。
「電堂!行ったぞ!」
「わかっているの。煩い女ね」
微動だにしない電堂が心配になり声をかけたが、動き出したのは熊の人形だった。
その人形はトゲトゲボールに自ら迫ると、熊の顔に無残にもトゲが刺さり、そのまま地面へと落ちていく。
危ない、と思ったが、地面に熊の足がつくとそのまま熊は高らかに上へと飛んだ。
ボールは地面には落ちてないからこれはセーフなのか。
けど、大事な人形の顔ズタボロなんだけど…いいのか?
「フランソワーズお顔がぐちゃぐちゃ…美しいですわ…」
…どうやらああいう方が電堂の好みらしい。
アタイには一生理解できそうにない。
熊の人形は上から落下してくると、あちら側のコートへと飛んだ。
じじい頭は容赦なく人形ごとトゲトゲボールを銃で撃つので、どんどん人形はぼろぼろになっていく。
しかし、そのボールがこちらへ返ってきても、また地面へと降り立ち、さっきと同じように地面を蹴りあちら側のコートへと向かった。
ああ、早くこっちにボールこねーかな。
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【弟月太一】
サーブくらいなら返せるか…。
しかし、さっきの最高速の拳圧で繰り出された球は無理だろうな。
回転も掛ってそうだ。
銃撃により跳ねかえっていく球を見つめながら思考に耽る。
「時間を稼ぐ、次に不破からの攻撃になる前に打開策を考えろよ。」
そう純聖に告げてから、電堂にボールが向かうようにする、いや、しなくても勝手に人形が返してくる。
俺の分析の能力で首と胴体を真っ二つにすればあの人形は止まると分かったがここは時間を稼ぐために人形の手や足、胴体、顔を撃ち抜きながら相手のコートに返していく。
しかし、本当に穴があき放題で無様なぬいぐるみだ。
「返せない…!」
純聖が急にそう言葉を返した。
「返せねーよ!!あんな速い球!俺の能力じゃとかしちまうって!!
つーか、お前が返せよ、その拳銃で!!!」
「俺の拳銃じゃ、普通に撃つだけじゃあの弾は返せない。」
「な、そ、そんなのやってみねぇとわかんねぇだろ!!」
「じゃあ、見せてやる。」
それだけ告げると俺は二丁拳銃を乱射して人形を躊躇いも無く真っ二つに撃ち抜いた。
そうして、弾くようにしてトゲトゲボールを不破が構えているところに返す。
「待ってました!!掌烈破!!!!」
不破がそう言ってめいっぱい深く拳を構えてからこちらにボールを押し返してくる。
彼女もバカではない、先程純聖が返せなかったことを分かっている。
なのでその強烈なボールは純聖に向かって真っ直ぐに飛んでいった。
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【純聖】
なんだよこのえらそうな奴は!!!
やってもみないうちから返せないなんて!!
つーか、こっちにボール来たって!!!
しかし、直ぐに白髪眼鏡が銃を構えた。
どうやらヤンキーからとんできているボールを撃ってくれるらしい。
バンバンッとけたたましい銃声が響く、そして弾丸は真っ直ぐに弾に飛んでいった。
しかし、この男の言うとおりだった。
無残にも白髪眼鏡の弾はトゲトゲボールに弾かれてこっちに真っ直ぐにボールが飛んできた。
「ぃぃいいいッ―――!!!」
俺は慌ててその球を避ける。
砂浜に言葉通り砂煙を巻きあげながらそのボールは着地した、つーか俺が避けちまったんだが。
「言っただろ、普通に撃つだけではこの球は取れないと。
お前は俺の指示に従えばいい、ただそれだけだ。」
なんだろうな、これ。
「出ないと、殺す。」
冷たく俺に響く声は研究所で実験されている時そのものだった。
俺は俯いたまま両手を握り締めガクガクと震える。
その間に弟月はタイムを取ったようだが俺は気付かなかった。
そして、銃を持っている手が近づいた瞬間俺から殴りに掛ったが見事に銃のトリガーより下を利用して弾かれた。
ジュッと鉄が熔けた音がする。
「だから、子供は面倒なんだ。
まず、お前は全く何も分かって無い、俺とおまえは対等。
勝手に支配されるな。
俺に意見をしてもいいことを忘れるな。
まぁ、聞き入れてはやらないがな。」
弟月の武器の損傷は最小限だ。
それくらい速いインパクトで俺の拳は弾かれた。
そして、訳のわからないことを言う。
どういうことだ、意味わかんねーよ!
「つまり、俺はお前なら、不破のボールを返せるから返せと言ってるんだ、さっさと位置につけ、そして、今あるものを考えろ。」
それだけ俺に告げると弟月はサーブの為に俺の傍を離れていった。
今あるもの……それから俺は足元を見つめた。
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【電童彌生】
フランソワーズが死んじゃいました。
無残に打ち抜かれ首が?げてしまったフランソワーズを抱きかかえると、白髪眼鏡を見つめた。
何やら更に揉めているみたいだけど、アタシにはそんな事関係ない。
あの眼鏡の奥の鋭い瞳…何故かたまらなく胸が痛みますわ。
「おい、熊ぼろぼろじゃねーか。大事にしてたんだろ」
あちらがタイムを取っている間に不破紗耶佳が寄ってくる。
ボロボロのフランソワーズを見て少し悲しそうな顔をしていた。
「何を言っているのかしら。フランソワーズはこれが一番美しい姿なのよ」
大事だからこそ壊したい時だってあるの。
アタシは朽ち果てる時の美しさは世界で一番綺麗だと思っている。
コート外へと胴体が真っ二つになったフランソワーズを置いた。
その時に王子がいくつか人形をこちらへと放り投げてくる。
アタシは人形がダメになってしまえば使い物にならないことをはみんな知っているので、用意してくれていたみたい。
飛んできた人形の頭を撫でてあげると、ウサギやカエル、アヒルといった様々な人形達がアタシの周りを行進する。
「さぁ、一緒に踊りましょう」
その行為を見て不破紗耶佳は大きくため息をつくと、相手のサーブを待った。
次のサーブは白髪眼鏡。
銃を器用に使ってこちらへと飛んでくるトゲトゲボール。
ああ、あの銃に打ち抜かれて死んでしまいたい……。
…?…アタシは一体何を考えてるのかしら?
そんな事を考えている内にボールはこちらへと飛んできた。
アタシの身体を守るように人形達が串刺しになりながらあちらのコートへと飛んでいき、銃で撃たれる前に離れてこちらへと戻ってくる。
今の人形達はフランソワーズよりは頑丈ではないので数度銃で打たれればきっと死んでしまう。
白髪眼鏡に殺されるのなら本望………な訳はないですわ。
数度白髪眼鏡とラリーを繰り返した後、トゲトゲボールは不破紗耶佳の元へと飛んで行く。
ああ、ラリーが終わってしまった。
不破紗耶佳は両拳を合わせ腰をさげると、力を溜めるポーズを取った。
獣の様なその覇気に、人形達が怯えているのがわかる。
「……いっくぜーーー!!!……掌烈破!!!!」
そう言うと両拳を突き出しトゲトゲボールを物凄い威力の拳圧で迎え撃った。
辺りに風が巻き起こるほどの、威力。
これでも不破紗耶佳はまだ本気ではない。
巻き上がる砂に顔を顰めながら、乱れる髪を抑えた。
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【弟月太一】
不破のボールが飛んできた。
矢張り向かう先は純聖だ。
あいつは足元を見ているので多分俺のいっていることには気づいただろう。
「純聖、危ない!!」
ベンチから千星の声が聞こえる。
アイツは相変わらず優しいなと思うが俺は今は手を貸すつもりは無い。
純聖は足元の両手に掴み、トゲが手に触れる瞬間に両手を開いた。
そう、トゲと両手に間に砂を引いたのだ。
これは砂浴の応用。
熱とそれを熱するものの間に砂を敷くことでボールが熔けることを防いでる。
「っとぁ!しまった、上にあがっちまった。」
どうやら、純聖は一発で相手コートに返すつもりだったようだが其処は心配ない。
すかさず、俺が二丁拳銃でフォローしてまだ完全に体勢を立て直せてない不破の後ろにボールを撃ち落とした。
「それでいい、純聖。」
不破の弱点はあの振りのでかさ。
と、いっても次はもう少し上手く立ち回らないと難しいだろうがな。
「愛輝凪高校、1ポイント。」
ヒューマノイドの声が響く、それと同時に俺も純聖を見た。
純聖は元の輝く瞳に戻って俺に生意気に口をきいた。
「次は俺が点数を取ってやるよ。」
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【不破紗耶佳】
やべえ。
少年がコツ覚えてきてるじゃねーか。
チビのくせにやんなあ。面白い能力だし。
それにあのじじい頭、スパルタな指導だけど良く少年の事わかってるみたいだ。
愛輝凪高校、次は拳交えて闘いたいね。
次は相手からのサーブだ。
じじい頭からボールが飛んでくるが、それは電堂の所へ行く。
にしても電堂、あの場所から一歩も動いてないんだよね。
人形がいるからって余裕すぎてこっちが怖いよ。
ウサギやらカエルやらが電堂の周りを飛び跳ねながら、再び串刺しになり飛んで行く。
綿も見えてるし、足はもげてるし、あんなんじゃもうもたないだろ。
トゲトゲボールは少年の方へと飛んだが、何故かじじい頭が銃を構える。
あいつが打ち返すのかと思ったが、どうやら離れた人形を狙ったみたいだ。
ついでにこっちで飛び跳ねてる人形の首も跳ねやがった。
それでも電堂は動きもしない。
そして、トゲトゲボールは少年の元へと落ちる。
あいつなら今度はちゃんと狙って打ち込んでくるだろう。
先ほどの様に手とボールの間に砂を敷く。
そして次は触れる部分の棘だけをうまく溶かすと、勢いよく打ち返して来た。
やっぱり来たか、少年。
返されたボールの速さは勢いがある。
アタイのとこに飛んできてくれたらよかったんだけど、それは電堂の方へとぶっとんでいった。
やばい、あと残ってる人形、首千切れかけでふらふらしてるやつしかいないじゃねーか!
「電堂!!!」
まずいと思ったアタイは片手を引き軽く溜めた状態で拳圧を放った。
軌道がそれたボールは電堂の左側を掠り、眼帯の紐と金髪の縦ロールを一本切り裂いて場外へと出た。
「愛輝凪高校、1ポイント」
マリヤの声が響くと、それでも動かない電堂の元へと走った。
「おい!怪我してねぇか!?」
そう言ってこちら側へと顔を向けたが、どこも怪我はしてないようだった。
眼帯が千切れ右の真っ赤な瞳が晒されている。
「触らないでいただけるかしら…」
そう言って手を跳ねのけ右耳にかかっていた眼帯を取った。
そしてあちら側のコートへと目を向けた瞬間に、何故か電堂はその場へと蹲る。
「おい、やっぱり怪我…」
「眼帯!!眼帯を早く!!!アタシにはあの方が眩しすぎるのです……ッ」
眼帯?あの方が眩しすぎる?
そんなに眼帯が大事なんだろうか。
目ばちこでもできてる感じはなかったけど…。
そんな事を考えていると、会長から次は眼帯が飛んできた。
「彌生は恥ずかしがり屋みたいだからね」
そう言って含んだ笑みを愛輝凪のじじい頭に向けてるけど…意味が分からん。
電堂は急いで眼帯をつけると、顔を真っ赤にしていた。
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【純聖】
っできた!!
トゲの部分だけ熔かして上手く相手にボールを返せた。
しかもばっちり狙い通り。
「大丈夫か、電堂!いま、ここにある残りの人形はこれだけだ。」
麗亜サイドのベンチから王子とか呼ばれている会長が、キーホルダーのぬいぐるみや多分各役員の私物の人形を放り投げていた。
どうやら、あっちサイドは弾切れならず、人形切れらしい。
後はあの不破とかいう奴さえ撃破出来たらいいんだけど。
「中々、やるな、少年。
けど、次はこう上手くはいかねーぜ?」
不破が喋りかけてきた言葉に俺が口を開こうとした瞬間。
「黙れ。指導の邪魔だ、とっととサーブを撃ってくれ。」
うしろから白髪眼鏡の声が聞こえた。
つーか、こいつマジ怖ェ!!
実験体であった時以上に怖いもんなんて外の世界に出たらねーと思ってけど。
鬼だ!コイツは鬼だ!!
でも、その中に温かさを感じてしまうのが徹底的な違いなんだろうな。
「次はどうすんだよ。」
俺から指示を聞いてしまうと、弟月がこっそりと耳打ちしてきた。
もう、点数はくれてやれねぇ。
その作戦を耳にすると俺は再度構えた。
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【電童彌生】
ああもう…!
眼帯が外れてしまってはあの方の顔を直視できない!
アタシは男性が苦手。だから少しでも見えにくいようにとずっと眼帯をしている。
だけどあの白髪眼鏡…いえ、弟月様と言ったかしら。
あの人のドSっぷりがたまらなく好きだと気づいてしまった。
どうしましょう。試合に集中できないわ。
知らない間に二点入れられているし、このままでは負けてしまう。
しかも不破紗耶佳…弟月様に黙れだなんて言われてるではないの!
ずるい!ずるいずるいずるい!!
あの冷徹な視線、胸が苦しくて今にも息が止まってしまいそう…。
そうこうしているうちに不破がサーブを打つかと聞いて来たので、慌てていたアタシは思わず首を縦に振ってしまった。
急いで王子達が投げ入れてくれた人形を撫で、能力を送り込む。
落ち着いて彌生。
あと1点でこの試合は決着がつく。
コート外へと出ると、人形がトゲトゲボールを支えながら上へと跳ねた。
ああ、この位置からだと打ち込む方向に弟月様がいる。
こ、こちらを見ているではないですか…!恥ずかしい…!
顔を隠すように俯くと、人形達は勝手にあちら側へサーブを打ち込んだ。
小さなキーホルダーについたくまは、トゲトゲボールに刺さったまま弟月様の所へ飛んで行く。
届いて…アタシの愛…。
しかし無残にも人形ごと弟月様はトゲトゲボールへと銃を放つ。
コート外から華尻唯菜の悲痛な声が聞こえた。
あのキーホルダー、華尻唯菜のモノだったみたいね。
そんな事よりも弟月様…素敵。アタシの身体もその銃で蜂の巣にしてください…。
うっとりとした表情で彼を眺めていると、ボールは不破紗耶佳の方へと飛んで行く。
不破は既に力を溜める姿勢を取っていた。
片手に力を集中しているのか、ほんのり右手だけが淡く光っている。
「んじゃ、第二弾お見舞いしてやっか………風掌烈破…序!!!」
そう言って片手を突き出すと、いつもなら握ったまま拳圧が飛ぶけれど、指先を開くと目に見える波動のような物が飛び出す。
不破紗耶佳の第二の必殺技みたいなもの。
それがトゲトゲボールに当たると弾き飛ばされるかのような音と共に、掌烈破よりも強い威力で少年の元へと飛んで行く。
あれが返せるなら少年はかなりの力があるでしょう。
それよりもボールではなく、少年を真剣に見つめている弟月様の瞳……抉らせて欲しい…。
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【純聖】
なんて言うか…首がもげた人形があちこちに落ちているのも結構グロいな。
俺はこういうの大丈夫だけど、普通女子って駄目なんじゃねーの。
俺はチラッと自分の席の柚子由を見つめたが大丈夫そうだった。
でも、その上の左千夫の顔が青ざめてる。
相変わらず優しいな、左千夫。
勿論、俺は左千夫がお化けが嫌いとか知らない為にそう勘違いしながら試合へと戻った。
不破の方からボールが帰ってくる。
それは間違いなく先ほどよりも速いがこれなら行ける。
「へっ!これなら大丈夫だぜ!太一!!――次はこれだ!」
俺は最初に熔かしたボールの破片から長い棒を作りあげるとそれで思いっきり撃ち返した。
棒はまっ二つに折れる様に弾け飛んだが無事にコートには返った。
これより速い球じゃマズイかもしれない。
そのまま不破の後ろに落とす様にと狙ったが、のこりのぬいぐるみが縦一列に並んでボールに直撃していっている。
……なんつーか、痛々しい。
そして、麗亜サイドからも痛々しい悲鳴が響いてる。
あれ、私物なんかな?
そのおかげで球威が落ちてしまい、調度不破が立っている位置へとボールが落ちてしまう。
ヤンキーは先程までは片手だったのに今度は両手を引いて構えを取っていた。
「いくよー!!これがアタイの最終奥義さ!……ッ風掌烈破・急!!!」
その声と共に両手を前へと突き出す。
そして、トゲが接触する瞬間に五指を突き出す様に開いた。
俺まで引き込まれそうな程不破は周りの風を吸収し、トゲトゲボールへと全てその威力を注いだ。
流石にこれは返せねぇ…。
「純聖、用意しておけ…」
そう、さっき太一が言ってくれたんだ。
さっきの球より速い球が来たら俺がどうにか遅くするって。
それを信じて俺は砂を両手に握り姿勢を低くした。
超高速でボールがネットを越えようとしたその時、太一が二丁拳銃を片方ずつでは無く両方を同時にリズムよく放っていった。
「―――――………ッ!!!」
つーか、神業に近いんじゃねぇ!これ!
太一は回転するボールのトゲの個所を確り分かっている様子で二つの弾丸を左右対称のトゲの端に当てることで威力を削いで行っていた。
それを俺に到達するまでに何十回と繰り返したおかげで威力だけが先程のようになる。
「いっっけー!!ヒートヒュージョン!!!」
俺が拳を突き出すと同時に太一は不破と電堂を牽制するように何発も足元に向かって銃を撃っていた。
コイツ、本当に全部完璧だ。
自分が出来ることを全てしている、そんな感じがした。
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【不破紗耶佳】
あれはアタイの最終奥義だったわけだが…。
二人の連係プレイに飛んで行ったトゲトゲボールは威力を失い、そして少年の技でこちらへと勢いよく飛ばされてくる。
防ぎに行きたいが、じじい頭の銃のせいで必殺技の溜めを行う事もできずに、蒸気を放つようにしてボールは砂地へと勢いよく落ちた。
そして暫くするとどろりと溶け始め、あの少年の能力のすさまじさを知る。
「麗亜高校3ポイント獲得。勝者弟月・純聖ペア。」
その声と共に少年が嬉しそうにジャンプした。
じじい頭は終わったか、と言いたげに息を吐いている。
「あー!負けちまった!くっそー!」
頭をガシガシを掻きながら地面を踏む。
でもま、負けたけど悪い気分じゃないね。
久々にお遊びでも楽しめた。
相手に握手を求めようとあちら側のコートへと向かうと、それよりも先に全然動くことのなかった電堂がじじい頭の方へと走って行く。
なんだ?腹でも立てたか?
その光景を見守っていると、電堂は大事にしていた首が?げた熊の人形を、じじい頭へと差し出していた。
「……これ、フランソワーズと言いますの。アタシだと思って大事にしてください」
もじもじとしながらそれを無理矢理手渡すと、顔を覆いながらさっさとベンチへと戻ってしまった。
「…やべー!太一!気に入られてんじゃん!」
少年が笑い転げながらそう言うと、じじい頭は全く意味がわからないといったような表情をして人形を眺めていた。
あ、なんだ、電堂こいつの事が好きなのか。
「おーあんたも隅に置けないねぇ!…電堂、好きになったら地獄まで追いかけていくぜ?」
そうこっそり告げてやると、顔を引き攣らせたまま硬直しているのを見て思わず吹き出してしまった。
ま、アタイも強い男は好きだけどね。
さて、次の出番までゆっくりすっかな。
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【神功左千夫】
また、どうしてそれを貰ってくる。
弟月太一が持って帰ってきたのは一番初めに朽ちた、熊の人形だ。
そう、こいつは一番初めに頭がもげて地面に落ちてからずっとこちらを見てるんだ。
今だって、弟月太一の手の中にあるのに顔はこっちに向いている。
正直それ以上こっちに来て欲しくない。
「左千夫ー勝ったぜー!!!左千夫、左千夫!!!」
そんなことばかり考えていた為純聖の言葉をスルーしてしまっていた。
僕は慌てて屈むと純聖の頭を撫でようとした、その時、純聖が熊の人形を持っていた。
そのまま、僕は硬直する。
笑った!今、確かに、その人形が、笑った!!
「ちぇ!!なんだよ、左千夫のばかー!!俺頑張ったのに。
なー、柚子由、コイツなおんねーの?」
褒めて貰えないと思ったのか純聖は柚子由の方へといってしまった。
確か、あった、夜、勝手に動く人形の話が…。
「そう、その、人形はナイフを持って――――――」
僕がブツブツと言っているところに弟月太一が来たようだ、残念ながら僕はそれにすら気付かず怪談話を続ける。
「神功、あれで、よかっ―――。」
「そう、あの、人形の首が繋がれば、きっと、貴方は殺される。」
その瞬間弟月は慌てて柚子由と、いつの間にか混ざっていた夏岡の集まりに走っていた。
そして、直さなくていいと必死に言っていた。
ああ、きっと彼はその能力で僕の思考を読んでしまったのだろう。
そんなことをしている間にコールが流れる。
『最終試合。千星・天夜ペア、華尻・秋葉ペアコートへ』
「頑張ってください、千星さん!」
晴生君の声で僕はやっと正気に戻った。
そして、ちらっと柚子由の方を見ると、また、その熊と目があったので僕はそそくさと九鬼の後ろに隠れた。
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【千星那由多】
さすが弟月先輩だ。
最初はちょっと純聖見ててハラハラしたけど、無事に勝利をものにした。
俺もがんばんないと。
コート内に入ると巽が側に寄ってくる。
少し作戦をたてようと言われたので、話を聞いているとあちら側のコートにいる華尻と秋葉さんが見えた。
華尻の事はもちろん知ってるけど、秋葉と言う子は食事の時に見ただけで会話はしたことない。
なんか地味な子だし、あんまり男と喋るのも好きなタイプではなさそうだ。
たまに目が合うが、独特の笑みを浮かべた後、何やらノートに色々と書き込んでいるようだった。
視察でもしてるんだろうか。
それにしても華尻…。
あいつ本当に胸無いのな。
麗亜祭の時にも思ったが、あれが所謂まな板って奴か。
他の女子だと水着姿なんて3秒と持たないが、華尻は別に見ててもなんとも思わない。
俺が見ていた事に気づいた華尻がいつもの様に睨んでくると、胸元を隠したのを見て、俺は思わず笑ってしまった。
無いのに隠すなよ。
「那由多、聞いてる?」
「あ、ごめん、なんだっけ」
巽の話へと戻ろうとした時だった。
何かがこちらへと飛んでくるような音が聞こえた。
そちらへと視線を向けた瞬間、それが華尻の武器、布団叩きだと気づいた。
一瞬試合が始まったのかと思ったが、イデアはコールしていない。
「ちょ、おい何飛ばして……巽危ない!!!」
しかし俺の言葉より先に、布団叩きは相手のコートに背中を向けていた巽の尻へとぶち当たった。
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【華尻唯菜】
アイツ、今、絶対笑ったぁぁぁ!!!
なんなのよ!なんなのよ!!いったい、もー、ムカつく!!
そう思ってあたしは情動を押さえきれなくて布団叩きを投げた。
それがまさかこんなことになるなんて。
殺気も何も篭って無かったからかその布団叩きは天夜の尻に直撃した。
あー……マズイ、かもしれない。
「おい!大丈夫かよ巽!!巽!?」
「ん?大丈夫だよ、那由多、布団叩きが当たったくらいで、ちょっと返してくるね。」
そう言って彼はこちらに来た。
も、もしかして、なんともないパターンか。
私の能力はたまに不発に終わる。
もしかしたら今回もそのパターンかもしれない。
「ご、ごめんなさい、て、手が滑っちゃって…」
「うん、構わないよ。次からは素ぶりもいいけど、気をつけて―――」
そう言った瞬間に天夜巽の瞳が豹変する。
ああ、これはあたしの能力に操られた証拠…。
「もうしわけありません、華尻様。
貴方に勝負を挑もうなんて思った僕がバカでした。」
天夜があたしの前で土下座を始める、マズイ!まだ勝負のコールすらしてないのに。
「お、おい!!何してんだよ…たつ……!?」
土下座していた天夜が顔を上げた。
それを見た千星が固まってる。
そして、そのまま天夜はこっちをみた。
「――――ッ!!!!ご、ごめんさい!!!!」
それはあたしが思わずその場に土下座してしまう程の空恐ろしい笑顔だった。
多分あたしの能力に抗っているのだろうけどそれは出来ない。
『愛輝凪戦闘不能、よって麗亜、勝利。』
ヒューマノイドの声が海岸に響いた。
皆からの視線がかなり痛い。
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【千星那由多】
な…なんてことをしてくれた!!
華尻の布団叩きが巽の尻に当たった。
あれの威力は見たことがあるから知っている。
当たってから暫く反応がなかったので大丈夫かと思ったが、土下座する巽を見た瞬間に血の気が引いた。
そしてそれに抗おうとしている巽の表情が、もんのすごく恐ろしい。
結局闘わずにであちらが勝利する形で終わってしまう事が一番最悪だった。
華尻はかなり反省しているようだったが、本人ではこの能力は解除できないらしく、いつ治るかもわからないらしい。
厄介すぎる。
その場でまだ土下座をしている巽を副会長と夏岡先輩が引っ張りながら、次の試合を始める前に一旦ベンチへと連れて行った。
イデアと麗亜高校のヒューマノイド達がコートを片付け始めると、何やら次の競技をする準備をしていた。
麗亜高校のみんなは、こちらの状況を心配そうに見ている。
巽をベンチに無理矢理を抑えつけ座らせた後、副会長がため息をついた。
「どーするこれ、治せなかったら次巽闘え無いヨ?」
「そうですね……あれも一応攻撃の部類に入りますし、自己回復をしてみてはどうでしょうか。
できますか?巽君」
会長が巽を見下ろしながらそう言うと、まるで機械のようにギギギと首を縦に振り、自分の尻へと手を翳した。
表情が怖いままなので、物凄く滑稽なその行為に晴生と純聖は笑っていた。
手元で黄色の淡い光が灯ると、抑えつけなければいけない程強張っていた巽の身体から力が抜けていく。
「はぁー……治った……」
そう言ってほっとした表情を向けた巽は、いつもの巽に戻っていた。
回復で治るのはありがたいが、これ、回復要因がいなかったらめちゃくちゃ悲惨な能力だよな。
麗亜高校の方へと視線を向けると、華尻は何度も巽に向けてペコペコと頭を下げていた。
そんなにさっきの顔が怖かったのだろうか。
何もしないまま試合は終わってしまった訳だが……とにかく次、頑張ろう……。
やーっと俺の番が回って来た!
俺は晴生とペアだ。
タッグを組んで勝負するのは久々でわくわくしてる。
相手は会計の百合草麗華と会計補佐の黒部早紀。
百合草さんはなんか見た目がすっごいゴージャスと言うか派手と言うか…まるでキャバ嬢のようだ。
大きい胸に嫌でも目が行く。
晴生大丈夫だろうか。
黒部さんは雰囲気がほんわかしていて女の子らしく、優しそうな印象だ。
二人は対照的と言えば対照的かもしれないが、女性らしさがあって、俺は嫌いなタイプではない。
「よろしくお願いね」
そう言って綺麗なネイルが施された手を差し伸べて来た百合草さんへと、力強く握り返す様に握手をする。
「よろしくー!楽しくやろうな!!」
二人の能力は左千夫に貰った資料に書いていた。
百合草さんは情報系の能力らしい。
太一と似たような感じかと思ったが、そうでもないらしく、うまく解析できなかったと言っていた。
綺麗だけど要注意人物だ。
黒部さんは触れた物を握りつぶすと小さくしてしまうらしい。
それを聞いた時の左千夫の顔が何故が強張っていたのが印象的だった。
とにかく!
俺は全力を尽くすのみだ!
俺達のボールは、パチンコの玉だった。
めーっちゃくちゃ小さいそれを見逃すことなく打ち込まなければならない。
でもま、晴生の能力だったら小さいものも見逃すことはないだろうし、俺もそういう分野では負ける気はしない。
次の審判はイデアだ。
サーブ権のコイントスは俺達の番だったので、晴生に選んでもらったら見事にサーブ権を獲得した。
俺こういう運無いから、やってもらってよかった。
サーブは俺からやってくださいと晴生に言われたので、コートから出ると小さいパチンコ玉を眺める。
手の平に乗ると本当に小さい。
「ソレデハ、試合開始!」
その言葉と共に手始めに上へとパチンコ玉を投げた。
太陽に照らされて光ってくれるので、思った以上に見えやすいかもしれない。
「そー……れッ!!」
バレーのサーブのように相手側のコートにパチンコの玉を打ちこんだ。
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【日当瀬晴生】
久々に夏岡さんとペアを組む。
つーか、夏岡さんと組むのにこんな奴らに負けるわけねーだろ。
次は俺達からサーブだ。
あっちの能力は既に分かっている。
と、言うことは俺は能力を発動させておいたほうが良いだろう。
「解除。」
そう言うなり、俺の手首にブレスレッドが巻き付いた。
あちらさんもどうやら能力を発動したようで武器を構えている。
百合草麗華の武器は扇子、どうやら大きさは自在に変えられるようだが今は通常サイズだ。
黒部の武器は……手元に隠れて良く見えないがマジックハンドだった。
データで見たときはかなりでかいやつだったのであちらも伸縮自在なんだろう。
俺の把握能力も開放しているが、やっぱりかなりの情報を取りこんでしまうので仕分けるのが大変だ。
「そー……れッ!!」
夏岡さんの声と共にパチンコ玉が相手のコートへと弾かれる。
「流石ですね、陣太郎さん。良いサーブですね。
早紀ちゃん、行きますよ。」
そうして、黒部にパチンコ玉を扇子で打つようにして回した。
そうするとやっぱり巨大なマジックハンドだったようでそれが黒部の手元から伸びてネット際に上げた。
百合草がそこにはきちんと待っていてそれをこちらのコートに叩きこむ。
「行きますよ…ッ」
「はッ!そんな球止まって見えるぜ!」
俺は砂浜に飛び込むようにして銃の腹でパチンコ玉をはじき返す。
そこにはちゃんと夏岡さんが構えている。
「凄いですね、晴生さん、あの速い球を意図も簡単に。」
「あれくらいで速いつってたら俺らには勝てねーよ。」
そのまま夏岡さんが相手コートに打ち込んだ。
それをまた百合草が上へと綺麗に打ち上げた。
少し、ラリーが続きそうだなと俺は更に構えた。
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【夏岡陣太郎】
何度かラリーが続く。
小さいパチンコ玉が行ったり来たりする様子はなんだかおかしい。
相手の二人も中々動きがいいので、これは楽しめそうだ。
こちらに返ってきたパチンコ玉を、晴生が銃の腹トスするように高く打ち上げた。
一応俺の能力も使っておこう。
「解除!」
そう言うとブレスレットがマントへと変化し、俺の首へと巻きつく。
ぐっと地面に屈んでから地を蹴り上げると、俺は宙へと舞った。
夏のビーチで飛ぶの、ちょっと気持ちーかも。
まだ上へと上がって行くパチンコ玉と一緒に宙へと舞い、落下する地点でマントを回転するように翻した。
「い…――――ッけ!!!
固くなったマントで打ちこんだパチンコ玉は、相手コートへと急降下していき、物凄いスピードで砂浜へと潜る様に落ちた。
相手は身構えていたが、受けれないと判断したのかその場に立ち尽くしている。
「愛輝凪高校1ポイント」
「さすがです!夏岡さん!」
地上へ降り立つと晴生が寄って来たので片手同士を重ね合わせた。
それを見ていた百合草さんが、あちら側のコートで拍手をしている。
「まるでテレビの中のヒーローみたいですね。ね、早紀ちゃん」
「はぁい!空も飛べちゃうんですねっ!」
二人とも点が取られた事よりも、俺が空を飛んだことにびっくりしたみたいだった。
そっちの会長と副会長の方がペガサス出したりすごいと思うんだけどな…。
「そう?俺もこの能力好きなんだよー!まぁ空を飛ぶのが能力じゃないんだけどね。なんかほんとにヒーローになった気分でさ~!たまに地元をパトロールとかしてると…」
「ジンタロウ、無駄口をタタクナ」
ついつい喋り込んでしまいそうになった所を、イデアに止められた。
ほんとーにいつもツッコミが厳しい。
次は相手のサーブだ。
この調子なら、勝てるだろうか。
でも、なんか妙な違和感で気持ちが悪い。
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【日当瀬晴生】
確かに女にしては中々やるが俺と夏岡さんの敵ではねぇな。
このままミスに気を付けてラリーをしていれば普通に勝てる相手だろう。
この、二人とも飛び道具が無い分、この特殊なビーチバレーには向かないようだ。
よし、さっきは負けたしここはいっちょ取っとくか。
「それではサーブ行きますね!」
あっちは百合草がサーブを打ち込んでくる様だ。
それにしても…あの胸は気になるな。
上手くストールで隠してくれてるからいいものの調度視線を向けたときに、その、見えんだよな!谷間が!!
夏岡さんはそんなこと全く気にしてねぇから、なんつーか、俺がまだまだ修行不足なんだろうな。
扇で弾かれたパチンコ玉が空気を切り裂くように飛んでくる。
それを夏岡さんに向かって空高く上げてやった。
「お願いします、夏岡さん!」
「おう!決めさせて貰うぜ!」
そう言って夏岡さんは先程と同じようにマントを回転させた。
「同じ手ではやられませんよ!――きゃッ!
すいません、早紀ちゃんフォローをお願いします!」
着地点に上手く百合草が潜り込んだようだが上がったボールは見当違いの方向に飛んでいった。
これで勝ちだと思ったがそこまでは甘くなかった。
「はぁい!お姉さま!!」
黒部から巨大なマジックハンドが伸びる、そして、先端部でガチンと挟んだ。
その瞬間、パチンコ玉が消えた……ように一般人には見えるだろうけど、彼女の能力は分かっている上に俺にはこの分析能力がある。
俺は銃を構えるとネット際の一点に集中した。
「―――今だ!」
俺は銃のトリガーを引く。
けたたましい音を立てた弾が飛んでいった先でカンっと激しい音がした。
そう、パチンコ玉は黒部の能力によりかなり小さく縮小されてしまっていたのだ。
俺の銃に弾かれたパチンコ玉が麗亜コートに落ちた。
「愛輝凪高校2ポイント」
イデアさんの声が響く、そして、夏岡さんがハイタッチをしにきてくれた。
このまま楽勝だ!
と、思った俺はこの後甘さを痛感する。
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【黒部早紀】
「早紀、頑張ってちっちゃくしたのに跳ね返されちゃった~!」
なーんて…。
これも全部手の内だけどなチンカスども!!
こっから先、お姉さまの能力があれば、巻き返すことができる。
いや、勝利するためにお前らに二点取らせたようなもんなんだよ!
あーおかしくって声あげて笑っちゃいそー。
でもあたしはこの腹黒い気持ちを、絶対に顔にも言葉にも出さない。
にこにこふわふわ笑ってれば周りの男は騙されてくれるし、ちょろいもんよ。
「次は頑張りましょう!お姉さま!」
そう言うとお姉さまが髪をかき揚げ微笑む、これは能力を開始すると言う合図だ。
あたしはただフォローに回ればいい。
頭の悪そうな赤茶頭と、媚び媚び金髪野郎ぐらい、お姉さまの能力で十分ぶっ倒せんぜ。
サーブはあちらから、媚び媚び金髪野郎だ。
高くパチンコ玉が舞いあがった瞬間、お姉さまが能力を発動させる。
「そのサーブはどこに打つんですか?」
「そんなもん、向かって右の端に決まって……あれ?」
掛かった。
金髪野郎は自分が口走った通りに勢いよく打ち込んで来る。
もちろんあたしはあいつが口走った時点で、そこへと走っているので、簡単に打ち返すことができた。
大きく弧を描きながら相手コートへとパチンコ玉が向かう間、金髪野郎はおかしい、と言ったように口元を抑えていた。
「晴生何やってんだよ!」
次は赤茶髪が上に飛んで行ったパチンコ玉を舞い上がり追うと、マントをバッドの様な形に変えて打ち返そうとしていた。
だけどもう遅い。
こいつもお姉さまにやられる運命だ。
「そのパチンコ玉の行先はどこですか?」
「百合草さんの斜め右……って、えぇ!!??」
ほーらやっぱり。
そして言った通りの場所へもちろんパチンコ玉は落ちてくる。
それも難なく受け止めると相手側へと勢いよく返した。
そう、これがお姉さまの情報操作の能力。
簡単に言うと「聞き上手」と言えばいいのだろうか。
相手の動向や情報を問う事で聞きだす事ができる、素晴らしい能力だ。
もちろん聞き出せない奴もいるが、赤茶髪と金髪は、どうやら相当単純バカみたいだ。
「へっ、バーカ」
あたしはそう小さく呟いてにやりと笑った。
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【百合草麗華】
私は百合草麗華(ゆりぐされいか)、歳は18歳、身長163cm、体重秘密、胸のサイズはF。
趣味は夜のお仕事、いかがわしい方じゃないのね。
そして、これが私の特殊能力。
このからくりを私自体もきちんと理解できてはいないけれど発動にはある程度相手とコミュニケーションをとる必要があると言うこと。
それはこの二点を取られた間に行ったことで十分でしょう。
「次はどちらへ?」
「黒部の足元……ッ!?」
「今度はどこを狙っているの?」
「これはフェイントだから場外に飛ぶ……ぅおおおッ!!??」
暫く落ちるところを聞きながらラリーを続けていると陣太郎さんがそう言ってくれた。
これは有り難い情報です。
「貴重な一点、ありがとうございます、陣さん。」
更に仲を深める様に名前を縮める。
そう言った瞬間パチンコは私の頭上ギリギリを通りながらコート外へと落ちていった。
情報を聞いていなかったら間違いなく手を出していた球だろう。
「麗亜高校、1ポイント。」
ヒューマノイドさんの声が響く。
でも、もう、貴方達の高校名が呼ばれることはないのよ。
後は全て、この、麗華の言うがまま。
「それでは、早紀ちゃん、サーブをお願いしますね。」
横で私の能力を喜んでくれる早紀ちゃんの頭をいいこ、いいこと撫でてあげる。
いつも思うけど、早紀ちゃんは本当に可愛い、私は良い会計の後継を見つけたわ。
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【夏岡陣太郎】
おかしい、なんか、おかしい。
百合草さんに問われた事に絶対に答えてしまう。
完璧に俺達のやろうとしていることがバレバレだ。
というか、それを自分で喋ってしまっているという事が問題なんだ。
「どういうことこれ!!」
そう言って視線を向けた先、晴生の顔も青ざめている。
もしかして、情報系の能力ってこういうことか?
俺達は既に術中にハマってしまっているのか?
このままではまずい、答えない、次こそは絶対に答えない。
そう自分に言い聞かせながら、黒部さんがサーブを打ち込んで来たのを、マントを翻して待った。
寧ろもう何も考えなければいいんだ。
そしたら答える事も無い。
ただ、無心でこのパチンコ玉を打ちかえす。
それでいいんだ。
そう思い、精神を落ち着かせながら、飛んできたパチンコ玉を打ち返そうとした時だった。
「陣さんはそのパチンコ玉、打ち返せませんよね?」
「うん!打ち返せないね!!……って、あぁあああああ!!!!!!」
百合草さんの言葉に何故か頷いてしまったと同時に、パチンコ玉を打つことができずにマントは見事に空ぶった。
そのままパチンコ玉は俺の後ろへと飛んで行き、地面へと綺麗に落ちる。
「麗亜高校、1ポイント」
「ち…ちょっと!なんで!?なんでなんで!!!」
さっきまでは打ち込む場所を聞かれて素直に答えていた。
なのに、次はまるで俺を操るかのように指示を与え、それに素直に従ってしまっている。
驚愕した表情で百合草さんへと視線を向けた。
「陣さんはお優しいですね」
そう言って綺麗な微笑みを浮かべた瞬間に、ゾっと背筋に悪寒が走った。
……これは、本当にまずいかもしれない。
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【日当瀬晴生】
相手の能力は分かっていた。
それなのにかわせなかった…?
つーか、発動条件は何なんだよ!!
全くわかんねぇ!!
そうなると回避方法も分からない訳で、しかも俺の解析能力で分かる類の物でも無い。
落ち付け、俺。
要は相手の言葉に耳をかさなければいい、何も喋らずに無心で俺はサーブを打てばいいんだ。
夏岡さんは相手の言うことまで聞いてしまっているが俺がそうならなければ良い話。
落ち付け、俺。
夏岡さんに負けを付けたくないだろう!
あんな、派手な女の言いなりになる必要は無いんだ。
俺はガチガチになりながらパチンコ玉を手にサーブの場所へと歩いていく。
そして、無心と言い聞かせながらパチンコ玉を上に上げ、銃を構えた。
「そのまま外しちゃってください!晴生さん!!」
そう告げられた瞬間に打った俺の弾はパチンコ玉と全く違う方向に飛んでいった。
そして、俺の脳天にパチンコ玉が降ってくる。
俺はその場に跪いた。
……完敗だ。
「ありがとうございます晴生さん、おかげで私達が勝利させていただきました。」
『麗亜高校の勝利』
イデアさんの声が響く。
そして、愛輝凪サイドからの視線が冷たい気がする。
なんだ、これは…。
この敗北感は。
打ちひしがれている俺の頭を近づいてきた夏岡さんが撫でてくれた。
「負けちまったな!晴生!!次がんばろうぜ!」
ああ、やっぱ。
俺はこの人を尊敬してよかったと再び思った。
そして、夏岡さんに引き上げられる様にして、敵とあいさつをかわしてから自分のベンチへと戻った。
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【千星那由多】
まさか晴生と夏岡先輩が負けるとは思わなかった。
あの百合草って人の能力みたいだが、怖すぎる。
落ち込んだ様子の晴生が、元気な夏岡先輩にベンチへと連れてこられた。
「いやー負けちゃった負けちゃった!完璧言いなりだったよね俺!くっやしー!」
夏岡先輩は負けた事を悔しく思っているみたいだが、落ち込んでいる晴生を見てか逆に明るく振る舞っているようにも見えた。
飲み物を手渡すと一気に飲み干し、次の試合の弟月先輩と純聖に声をかける。
「俺達の仇とってくれよなー!」
そう言って弟月先輩と拳を重ね、純聖の頭をくしゃくしゃっと撫でている。
残る闘いは、あと二試合だ。
今の所麗亜高校には負けているが、これから巻き返すことができるだろうか。
このバトルバレー、本当に何が起こるかわからない。
自分の番が回ってくるまでの緊張感も酷かった。
暫くの間休憩を挟むと、次の試合のコールが響く。
「第四回戦。弟月・純聖ペア、電堂・不破ペア、コートへ」
弟月先輩と純聖のペアというのも何か不思議な組み合わせだが、弟月先輩ならうまくやってくれるだろう。
子供は苦手そうだが、夏岡先輩との関係を見ていると、面倒見も良さそうなので多分問題は無いはずだ。
次の試合のボールは無数の棘がついたボールだった。
刺さると痛そう…というか普通に刺さればかなりの傷を負いそうだ。
いや、ボールではないか、あれはただの凶器だ。
自分があのボールじゃなくてよかったと思いながら、次の試合が開始されるのを待った。
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【弟月太一】
「神功、勝ちに行った方が良いのか?」
「そうですね…、そうしておいて貰うと助かります。」
コートに出る前に一番後ろで見ている神功へと声を掛ける。
本当に何を考えているか分からない、この戦いも特にアドバイスをする訳でも無く後方から見て応援しているだけだった。
そして、今もいつものように笑みを浮かべながら純聖とかいう子供に手を振っている。
「左千夫ー!!俺は勝って来るからなー!」
「よろしくお願いしますね。」
その会話を聞きながら俺は眼鏡を外し、ベンチへと置くと能力を解放してからコートへと向かった。
俺達の相手は電童彌生(でんどうまよい)と不破紗耶佳(ふわさやか)。
一般生徒だった為どちらとも能力は分からない。
電童彌生、金髪の立てロール、フランス人形みたいな容姿をしているがあの髪はどうやらウィッグのようだ。
身長は148cm、赤い瞳もカラーコンタクト、眼帯をしているが目を損傷している訳ではない。
人形を抱いているところからと俺が読み取れる範囲では能力は操作系。
不破紗耶佳、くすんだ金髪のソフトリーゼント、見ためからして完璧に不良だが、どうやら中身も不良のようだ。
身長は180cm、黒い瞳に鋭い眼光。
武器はナックル、能力は拳圧。
九鬼と似たタイプになるかな、まぁ、あいつの能力は特殊だが。
分かった能力をデータ化して俺はブレスレッドから全ての仲間に情報として送った。
それから、マリアと呼ばれるヒューマノイドに歩み寄る。
「一つ質問、いいか。
その球の損傷はどこまで認められる。」
「はい。このトゲトゲボールの事ですね。周りのトゲが壊れるくらいではなんの問題も有りません。
中央の球の部分も変形するくらいなら大丈夫ですが、真っ二つに割れたり、三分の一以上かけたりするとその時点でコートにあった方が負けとなります。
ボールが損傷した場合はポイントがどちらかに入った時点で新しいボールと交換となります。」
「わかった。」
俺の銃でトゲや中心がわれることはなさそうだが純聖の能力を考えるとそれを確認しておきたかった。
それだけ聞くと俺はコートの後方へと行く。
純聖を前にする形だ。
「さっさと、やろうぜ、おっさ……ん!!?あ、あぶねー!!」
「口の聞き方には気を付けろ。」
全く、最近の子供は教育がなって無い。
神功が連れてきた奴だからマシかと思えばこの始末だ。
俺は、純聖の足元に拳銃を打ち込む。
「コイントスはお前に任せる、そして、これからは俺の指示下に入れ。
俺が取れと言ったボールは逃さず取るんだ」
「な……いや…!??」
「口答えをするなら撃つ。お前の能力発動の前に撃つことなど容易いぞ?」
表情が強張る純聖を見るとまだまだ子供だなと思った。
神功が勝てと言ったので、これは純聖を自由に使ってもいいと言うことだろう。
きっと奴はこいつの修業のつもりだろうが、俺は甘く教えてやる術を持ち合わせていない。
―――――扱いてやる。
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【電童彌生】
地区聖戦と言うものはどれほどむごたらしいことをするのかしら、と思い参加したと言うのに、大して血を見る事が無いので少し拍子抜けしていました。
今日もこんな真夏日に海だなんて馬鹿げているけれども、この隣の口の悪いヤンキー、不破紗耶佳に連れてこられてしまったので、渋々肌の露出が少ない水着を着ることになりましたの。
皆さん楽しんでいられるようですけど、アタシは正直こういう場は苦手ですわ。
特に…ああっ、目の前に男子がいるなんて考えたくもないっっ!
胸元に握りしめているフランソワーズの人形をぎゅっと抱きしめてあげながら、愛輝凪高校の先ほどまで眼鏡をかけていた白髪の男と少年に、視線を向けてすぐに逸らした。
どうやらあちらは何か不穏な空気みたいですけど。
あの白髪眼鏡……中々のドSみたいね。
そんなことはどうでもいいのよ彌生。
今はこの勝負に集中しましょう。
「がんばろーな!電童!」
そう言って伸ばしてきた不破紗耶佳の手を払いのける。
「触らないでくださるかしら…?……May God Bless You」
そう言うとフランソワーズの瞳が光る。
私の武器は大事な大事なフランソワーズ。
人形なら大抵は動かすことができるのだけど、この子が一番扱いやすいの。
「フランソワーズ…いい子ね…頑張りましょう」
そう言って頭を撫でてあげると、フランソワーズは大きく頷いた。
不破紗耶佳は見慣れているはずなのにそれを物珍しそうな目で見ている。
サーブ権はあちらからになった。
どうやら白髪眼鏡が最初に打つようだ。
武器は銃のようね。
コート外の砂地へとトゲトゲボールを置くと、銃でそれを弾き上へと上げる。
そして再び弾を放つと、こちらへとトゲトゲボールが飛んできた。
「おッきたきたー!!」
不破紗耶佳がそう言うと、展開させていた武器のナックルの両拳を合わせカチンと音を鳴らし、飛んできたトゲトゲボールへ向かって拳を振る。
直接殴るわけでは無い。この女の能力は拳圧が出せるということ。
ほんと野蛮ね。
私はその場から動かずに、不破紗耶佳がトゲトゲボールを打ち返すのをため息をつきながら見ていた。
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【純聖】
俺のパートナーの白髪眼鏡がこんなに怖い奴だったとは…!
つーか、反則じゃねぇか!この怖さ。
しかも命令口調だし、嫌なんだよなこの感じ!!くそっ!白髪眼鏡のくせに!!!
二丁拳銃で弟月が器用にサーブするとあっちも手際よく返してきた。
つーか、あれどうやって返してんだ。
あ、さっきコイツから拳圧が使えるってデータが送られてきてたっけ、ってぇぇ!!!
普通の速さだったらちょっと我慢したらトゲが痛いくらいで返すことはできる。
けど、あれ、無理、速すぎる。
あんなの素手で返したら手がぶっ壊れるし、能力使っちまうと多分球全部溶かしちまう…。
ここはこの白髪眼鏡に任せるしか…。
「行け、純聖」
は?
うっお!!拳銃撃ってくんなって!!!
白髪眼鏡の銃の弾を避けていると俺はトゲトゲボールの落下地点へと誘導された。
これ、やばくねぇか…!
「俺が、行けと言ったら、行くんだ純聖!」
物凄いスピードと回転でこっちに向かってくる球を見た瞬間俺の本能は能力を開花させた。
そして、その結果。
見事にドロドロに球を熔かしててしまった。
『麗亜高校、一ポイント。』
ヒューマノイドの声と後ろで溜息を吐く白髪眼鏡の声が聞こえた。
つーか、お前が動けよ…!!!
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【不破紗耶佳】
「おっしゃ!一点だな!!」
グっと拳を握りしめる。
運良くガキの能力でどうやらボールは溶けてしまったみたいだ。
あの能力を直接受けるのはかなりヤバイだろーけど、今はバトルバレー。殴り合いでないなら今んとこ大丈夫か。
ま、アタイには拳を重ねる競技の方が向いてっけどね。
それにあちらはどうやら揉めているようだ。
じじいみたいな頭した奴が一方的にやってるようにも見えっけど。
「サーブ、アタイらだけどどうする?電童打つか?」
そう言うと電堂じゃなく、腕に抱いてる熊のぬいぐるみが頭を横に振った。
こいつの能力、あの熊を動かせるらしいんだけど、ちょっと怖いんだよね。
電堂はアタイの事嫌いみたいだし。
「じゃ、アタイが打つよ」
そう言うとコート外へと出て、あちらのヒューマノイドが投げて来たトゲトゲボールを拳圧で浮かせる。
このボール、刺さるとアタイのナックルより痛そうだね。
浮いたトゲトゲボールに再度拳圧であちら側のコートへと打ち込む。
じじい頭の方へと行ったが、銃を何発か打ち込みこちらへと打ち返して来た。
そのボールは電堂の方へと落ちて行く。
「電堂!行ったぞ!」
「わかっているの。煩い女ね」
微動だにしない電堂が心配になり声をかけたが、動き出したのは熊の人形だった。
その人形はトゲトゲボールに自ら迫ると、熊の顔に無残にもトゲが刺さり、そのまま地面へと落ちていく。
危ない、と思ったが、地面に熊の足がつくとそのまま熊は高らかに上へと飛んだ。
ボールは地面には落ちてないからこれはセーフなのか。
けど、大事な人形の顔ズタボロなんだけど…いいのか?
「フランソワーズお顔がぐちゃぐちゃ…美しいですわ…」
…どうやらああいう方が電堂の好みらしい。
アタイには一生理解できそうにない。
熊の人形は上から落下してくると、あちら側のコートへと飛んだ。
じじい頭は容赦なく人形ごとトゲトゲボールを銃で撃つので、どんどん人形はぼろぼろになっていく。
しかし、そのボールがこちらへ返ってきても、また地面へと降り立ち、さっきと同じように地面を蹴りあちら側のコートへと向かった。
ああ、早くこっちにボールこねーかな。
-----------------------------------------------------------------------
【弟月太一】
サーブくらいなら返せるか…。
しかし、さっきの最高速の拳圧で繰り出された球は無理だろうな。
回転も掛ってそうだ。
銃撃により跳ねかえっていく球を見つめながら思考に耽る。
「時間を稼ぐ、次に不破からの攻撃になる前に打開策を考えろよ。」
そう純聖に告げてから、電堂にボールが向かうようにする、いや、しなくても勝手に人形が返してくる。
俺の分析の能力で首と胴体を真っ二つにすればあの人形は止まると分かったがここは時間を稼ぐために人形の手や足、胴体、顔を撃ち抜きながら相手のコートに返していく。
しかし、本当に穴があき放題で無様なぬいぐるみだ。
「返せない…!」
純聖が急にそう言葉を返した。
「返せねーよ!!あんな速い球!俺の能力じゃとかしちまうって!!
つーか、お前が返せよ、その拳銃で!!!」
「俺の拳銃じゃ、普通に撃つだけじゃあの弾は返せない。」
「な、そ、そんなのやってみねぇとわかんねぇだろ!!」
「じゃあ、見せてやる。」
それだけ告げると俺は二丁拳銃を乱射して人形を躊躇いも無く真っ二つに撃ち抜いた。
そうして、弾くようにしてトゲトゲボールを不破が構えているところに返す。
「待ってました!!掌烈破!!!!」
不破がそう言ってめいっぱい深く拳を構えてからこちらにボールを押し返してくる。
彼女もバカではない、先程純聖が返せなかったことを分かっている。
なのでその強烈なボールは純聖に向かって真っ直ぐに飛んでいった。
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【純聖】
なんだよこのえらそうな奴は!!!
やってもみないうちから返せないなんて!!
つーか、こっちにボール来たって!!!
しかし、直ぐに白髪眼鏡が銃を構えた。
どうやらヤンキーからとんできているボールを撃ってくれるらしい。
バンバンッとけたたましい銃声が響く、そして弾丸は真っ直ぐに弾に飛んでいった。
しかし、この男の言うとおりだった。
無残にも白髪眼鏡の弾はトゲトゲボールに弾かれてこっちに真っ直ぐにボールが飛んできた。
「ぃぃいいいッ―――!!!」
俺は慌ててその球を避ける。
砂浜に言葉通り砂煙を巻きあげながらそのボールは着地した、つーか俺が避けちまったんだが。
「言っただろ、普通に撃つだけではこの球は取れないと。
お前は俺の指示に従えばいい、ただそれだけだ。」
なんだろうな、これ。
「出ないと、殺す。」
冷たく俺に響く声は研究所で実験されている時そのものだった。
俺は俯いたまま両手を握り締めガクガクと震える。
その間に弟月はタイムを取ったようだが俺は気付かなかった。
そして、銃を持っている手が近づいた瞬間俺から殴りに掛ったが見事に銃のトリガーより下を利用して弾かれた。
ジュッと鉄が熔けた音がする。
「だから、子供は面倒なんだ。
まず、お前は全く何も分かって無い、俺とおまえは対等。
勝手に支配されるな。
俺に意見をしてもいいことを忘れるな。
まぁ、聞き入れてはやらないがな。」
弟月の武器の損傷は最小限だ。
それくらい速いインパクトで俺の拳は弾かれた。
そして、訳のわからないことを言う。
どういうことだ、意味わかんねーよ!
「つまり、俺はお前なら、不破のボールを返せるから返せと言ってるんだ、さっさと位置につけ、そして、今あるものを考えろ。」
それだけ俺に告げると弟月はサーブの為に俺の傍を離れていった。
今あるもの……それから俺は足元を見つめた。
-----------------------------------------------------------------------
【電童彌生】
フランソワーズが死んじゃいました。
無残に打ち抜かれ首が?げてしまったフランソワーズを抱きかかえると、白髪眼鏡を見つめた。
何やら更に揉めているみたいだけど、アタシにはそんな事関係ない。
あの眼鏡の奥の鋭い瞳…何故かたまらなく胸が痛みますわ。
「おい、熊ぼろぼろじゃねーか。大事にしてたんだろ」
あちらがタイムを取っている間に不破紗耶佳が寄ってくる。
ボロボロのフランソワーズを見て少し悲しそうな顔をしていた。
「何を言っているのかしら。フランソワーズはこれが一番美しい姿なのよ」
大事だからこそ壊したい時だってあるの。
アタシは朽ち果てる時の美しさは世界で一番綺麗だと思っている。
コート外へと胴体が真っ二つになったフランソワーズを置いた。
その時に王子がいくつか人形をこちらへと放り投げてくる。
アタシは人形がダメになってしまえば使い物にならないことをはみんな知っているので、用意してくれていたみたい。
飛んできた人形の頭を撫でてあげると、ウサギやカエル、アヒルといった様々な人形達がアタシの周りを行進する。
「さぁ、一緒に踊りましょう」
その行為を見て不破紗耶佳は大きくため息をつくと、相手のサーブを待った。
次のサーブは白髪眼鏡。
銃を器用に使ってこちらへと飛んでくるトゲトゲボール。
ああ、あの銃に打ち抜かれて死んでしまいたい……。
…?…アタシは一体何を考えてるのかしら?
そんな事を考えている内にボールはこちらへと飛んできた。
アタシの身体を守るように人形達が串刺しになりながらあちらのコートへと飛んでいき、銃で撃たれる前に離れてこちらへと戻ってくる。
今の人形達はフランソワーズよりは頑丈ではないので数度銃で打たれればきっと死んでしまう。
白髪眼鏡に殺されるのなら本望………な訳はないですわ。
数度白髪眼鏡とラリーを繰り返した後、トゲトゲボールは不破紗耶佳の元へと飛んで行く。
ああ、ラリーが終わってしまった。
不破紗耶佳は両拳を合わせ腰をさげると、力を溜めるポーズを取った。
獣の様なその覇気に、人形達が怯えているのがわかる。
「……いっくぜーーー!!!……掌烈破!!!!」
そう言うと両拳を突き出しトゲトゲボールを物凄い威力の拳圧で迎え撃った。
辺りに風が巻き起こるほどの、威力。
これでも不破紗耶佳はまだ本気ではない。
巻き上がる砂に顔を顰めながら、乱れる髪を抑えた。
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【弟月太一】
不破のボールが飛んできた。
矢張り向かう先は純聖だ。
あいつは足元を見ているので多分俺のいっていることには気づいただろう。
「純聖、危ない!!」
ベンチから千星の声が聞こえる。
アイツは相変わらず優しいなと思うが俺は今は手を貸すつもりは無い。
純聖は足元の両手に掴み、トゲが手に触れる瞬間に両手を開いた。
そう、トゲと両手に間に砂を引いたのだ。
これは砂浴の応用。
熱とそれを熱するものの間に砂を敷くことでボールが熔けることを防いでる。
「っとぁ!しまった、上にあがっちまった。」
どうやら、純聖は一発で相手コートに返すつもりだったようだが其処は心配ない。
すかさず、俺が二丁拳銃でフォローしてまだ完全に体勢を立て直せてない不破の後ろにボールを撃ち落とした。
「それでいい、純聖。」
不破の弱点はあの振りのでかさ。
と、いっても次はもう少し上手く立ち回らないと難しいだろうがな。
「愛輝凪高校、1ポイント。」
ヒューマノイドの声が響く、それと同時に俺も純聖を見た。
純聖は元の輝く瞳に戻って俺に生意気に口をきいた。
「次は俺が点数を取ってやるよ。」
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【不破紗耶佳】
やべえ。
少年がコツ覚えてきてるじゃねーか。
チビのくせにやんなあ。面白い能力だし。
それにあのじじい頭、スパルタな指導だけど良く少年の事わかってるみたいだ。
愛輝凪高校、次は拳交えて闘いたいね。
次は相手からのサーブだ。
じじい頭からボールが飛んでくるが、それは電堂の所へ行く。
にしても電堂、あの場所から一歩も動いてないんだよね。
人形がいるからって余裕すぎてこっちが怖いよ。
ウサギやらカエルやらが電堂の周りを飛び跳ねながら、再び串刺しになり飛んで行く。
綿も見えてるし、足はもげてるし、あんなんじゃもうもたないだろ。
トゲトゲボールは少年の方へと飛んだが、何故かじじい頭が銃を構える。
あいつが打ち返すのかと思ったが、どうやら離れた人形を狙ったみたいだ。
ついでにこっちで飛び跳ねてる人形の首も跳ねやがった。
それでも電堂は動きもしない。
そして、トゲトゲボールは少年の元へと落ちる。
あいつなら今度はちゃんと狙って打ち込んでくるだろう。
先ほどの様に手とボールの間に砂を敷く。
そして次は触れる部分の棘だけをうまく溶かすと、勢いよく打ち返して来た。
やっぱり来たか、少年。
返されたボールの速さは勢いがある。
アタイのとこに飛んできてくれたらよかったんだけど、それは電堂の方へとぶっとんでいった。
やばい、あと残ってる人形、首千切れかけでふらふらしてるやつしかいないじゃねーか!
「電堂!!!」
まずいと思ったアタイは片手を引き軽く溜めた状態で拳圧を放った。
軌道がそれたボールは電堂の左側を掠り、眼帯の紐と金髪の縦ロールを一本切り裂いて場外へと出た。
「愛輝凪高校、1ポイント」
マリヤの声が響くと、それでも動かない電堂の元へと走った。
「おい!怪我してねぇか!?」
そう言ってこちら側へと顔を向けたが、どこも怪我はしてないようだった。
眼帯が千切れ右の真っ赤な瞳が晒されている。
「触らないでいただけるかしら…」
そう言って手を跳ねのけ右耳にかかっていた眼帯を取った。
そしてあちら側のコートへと目を向けた瞬間に、何故か電堂はその場へと蹲る。
「おい、やっぱり怪我…」
「眼帯!!眼帯を早く!!!アタシにはあの方が眩しすぎるのです……ッ」
眼帯?あの方が眩しすぎる?
そんなに眼帯が大事なんだろうか。
目ばちこでもできてる感じはなかったけど…。
そんな事を考えていると、会長から次は眼帯が飛んできた。
「彌生は恥ずかしがり屋みたいだからね」
そう言って含んだ笑みを愛輝凪のじじい頭に向けてるけど…意味が分からん。
電堂は急いで眼帯をつけると、顔を真っ赤にしていた。
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【純聖】
っできた!!
トゲの部分だけ熔かして上手く相手にボールを返せた。
しかもばっちり狙い通り。
「大丈夫か、電堂!いま、ここにある残りの人形はこれだけだ。」
麗亜サイドのベンチから王子とか呼ばれている会長が、キーホルダーのぬいぐるみや多分各役員の私物の人形を放り投げていた。
どうやら、あっちサイドは弾切れならず、人形切れらしい。
後はあの不破とかいう奴さえ撃破出来たらいいんだけど。
「中々、やるな、少年。
けど、次はこう上手くはいかねーぜ?」
不破が喋りかけてきた言葉に俺が口を開こうとした瞬間。
「黙れ。指導の邪魔だ、とっととサーブを撃ってくれ。」
うしろから白髪眼鏡の声が聞こえた。
つーか、こいつマジ怖ェ!!
実験体であった時以上に怖いもんなんて外の世界に出たらねーと思ってけど。
鬼だ!コイツは鬼だ!!
でも、その中に温かさを感じてしまうのが徹底的な違いなんだろうな。
「次はどうすんだよ。」
俺から指示を聞いてしまうと、弟月がこっそりと耳打ちしてきた。
もう、点数はくれてやれねぇ。
その作戦を耳にすると俺は再度構えた。
-----------------------------------------------------------------------
【電童彌生】
ああもう…!
眼帯が外れてしまってはあの方の顔を直視できない!
アタシは男性が苦手。だから少しでも見えにくいようにとずっと眼帯をしている。
だけどあの白髪眼鏡…いえ、弟月様と言ったかしら。
あの人のドSっぷりがたまらなく好きだと気づいてしまった。
どうしましょう。試合に集中できないわ。
知らない間に二点入れられているし、このままでは負けてしまう。
しかも不破紗耶佳…弟月様に黙れだなんて言われてるではないの!
ずるい!ずるいずるいずるい!!
あの冷徹な視線、胸が苦しくて今にも息が止まってしまいそう…。
そうこうしているうちに不破がサーブを打つかと聞いて来たので、慌てていたアタシは思わず首を縦に振ってしまった。
急いで王子達が投げ入れてくれた人形を撫で、能力を送り込む。
落ち着いて彌生。
あと1点でこの試合は決着がつく。
コート外へと出ると、人形がトゲトゲボールを支えながら上へと跳ねた。
ああ、この位置からだと打ち込む方向に弟月様がいる。
こ、こちらを見ているではないですか…!恥ずかしい…!
顔を隠すように俯くと、人形達は勝手にあちら側へサーブを打ち込んだ。
小さなキーホルダーについたくまは、トゲトゲボールに刺さったまま弟月様の所へ飛んで行く。
届いて…アタシの愛…。
しかし無残にも人形ごと弟月様はトゲトゲボールへと銃を放つ。
コート外から華尻唯菜の悲痛な声が聞こえた。
あのキーホルダー、華尻唯菜のモノだったみたいね。
そんな事よりも弟月様…素敵。アタシの身体もその銃で蜂の巣にしてください…。
うっとりとした表情で彼を眺めていると、ボールは不破紗耶佳の方へと飛んで行く。
不破は既に力を溜める姿勢を取っていた。
片手に力を集中しているのか、ほんのり右手だけが淡く光っている。
「んじゃ、第二弾お見舞いしてやっか………風掌烈破…序!!!」
そう言って片手を突き出すと、いつもなら握ったまま拳圧が飛ぶけれど、指先を開くと目に見える波動のような物が飛び出す。
不破紗耶佳の第二の必殺技みたいなもの。
それがトゲトゲボールに当たると弾き飛ばされるかのような音と共に、掌烈破よりも強い威力で少年の元へと飛んで行く。
あれが返せるなら少年はかなりの力があるでしょう。
それよりもボールではなく、少年を真剣に見つめている弟月様の瞳……抉らせて欲しい…。
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【純聖】
なんて言うか…首がもげた人形があちこちに落ちているのも結構グロいな。
俺はこういうの大丈夫だけど、普通女子って駄目なんじゃねーの。
俺はチラッと自分の席の柚子由を見つめたが大丈夫そうだった。
でも、その上の左千夫の顔が青ざめてる。
相変わらず優しいな、左千夫。
勿論、俺は左千夫がお化けが嫌いとか知らない為にそう勘違いしながら試合へと戻った。
不破の方からボールが帰ってくる。
それは間違いなく先ほどよりも速いがこれなら行ける。
「へっ!これなら大丈夫だぜ!太一!!――次はこれだ!」
俺は最初に熔かしたボールの破片から長い棒を作りあげるとそれで思いっきり撃ち返した。
棒はまっ二つに折れる様に弾け飛んだが無事にコートには返った。
これより速い球じゃマズイかもしれない。
そのまま不破の後ろに落とす様にと狙ったが、のこりのぬいぐるみが縦一列に並んでボールに直撃していっている。
……なんつーか、痛々しい。
そして、麗亜サイドからも痛々しい悲鳴が響いてる。
あれ、私物なんかな?
そのおかげで球威が落ちてしまい、調度不破が立っている位置へとボールが落ちてしまう。
ヤンキーは先程までは片手だったのに今度は両手を引いて構えを取っていた。
「いくよー!!これがアタイの最終奥義さ!……ッ風掌烈破・急!!!」
その声と共に両手を前へと突き出す。
そして、トゲが接触する瞬間に五指を突き出す様に開いた。
俺まで引き込まれそうな程不破は周りの風を吸収し、トゲトゲボールへと全てその威力を注いだ。
流石にこれは返せねぇ…。
「純聖、用意しておけ…」
そう、さっき太一が言ってくれたんだ。
さっきの球より速い球が来たら俺がどうにか遅くするって。
それを信じて俺は砂を両手に握り姿勢を低くした。
超高速でボールがネットを越えようとしたその時、太一が二丁拳銃を片方ずつでは無く両方を同時にリズムよく放っていった。
「―――――………ッ!!!」
つーか、神業に近いんじゃねぇ!これ!
太一は回転するボールのトゲの個所を確り分かっている様子で二つの弾丸を左右対称のトゲの端に当てることで威力を削いで行っていた。
それを俺に到達するまでに何十回と繰り返したおかげで威力だけが先程のようになる。
「いっっけー!!ヒートヒュージョン!!!」
俺が拳を突き出すと同時に太一は不破と電堂を牽制するように何発も足元に向かって銃を撃っていた。
コイツ、本当に全部完璧だ。
自分が出来ることを全てしている、そんな感じがした。
-----------------------------------------------------------------------
【不破紗耶佳】
あれはアタイの最終奥義だったわけだが…。
二人の連係プレイに飛んで行ったトゲトゲボールは威力を失い、そして少年の技でこちらへと勢いよく飛ばされてくる。
防ぎに行きたいが、じじい頭の銃のせいで必殺技の溜めを行う事もできずに、蒸気を放つようにしてボールは砂地へと勢いよく落ちた。
そして暫くするとどろりと溶け始め、あの少年の能力のすさまじさを知る。
「麗亜高校3ポイント獲得。勝者弟月・純聖ペア。」
その声と共に少年が嬉しそうにジャンプした。
じじい頭は終わったか、と言いたげに息を吐いている。
「あー!負けちまった!くっそー!」
頭をガシガシを掻きながら地面を踏む。
でもま、負けたけど悪い気分じゃないね。
久々にお遊びでも楽しめた。
相手に握手を求めようとあちら側のコートへと向かうと、それよりも先に全然動くことのなかった電堂がじじい頭の方へと走って行く。
なんだ?腹でも立てたか?
その光景を見守っていると、電堂は大事にしていた首が?げた熊の人形を、じじい頭へと差し出していた。
「……これ、フランソワーズと言いますの。アタシだと思って大事にしてください」
もじもじとしながらそれを無理矢理手渡すと、顔を覆いながらさっさとベンチへと戻ってしまった。
「…やべー!太一!気に入られてんじゃん!」
少年が笑い転げながらそう言うと、じじい頭は全く意味がわからないといったような表情をして人形を眺めていた。
あ、なんだ、電堂こいつの事が好きなのか。
「おーあんたも隅に置けないねぇ!…電堂、好きになったら地獄まで追いかけていくぜ?」
そうこっそり告げてやると、顔を引き攣らせたまま硬直しているのを見て思わず吹き出してしまった。
ま、アタイも強い男は好きだけどね。
さて、次の出番までゆっくりすっかな。
-----------------------------------------------------------------------
【神功左千夫】
また、どうしてそれを貰ってくる。
弟月太一が持って帰ってきたのは一番初めに朽ちた、熊の人形だ。
そう、こいつは一番初めに頭がもげて地面に落ちてからずっとこちらを見てるんだ。
今だって、弟月太一の手の中にあるのに顔はこっちに向いている。
正直それ以上こっちに来て欲しくない。
「左千夫ー勝ったぜー!!!左千夫、左千夫!!!」
そんなことばかり考えていた為純聖の言葉をスルーしてしまっていた。
僕は慌てて屈むと純聖の頭を撫でようとした、その時、純聖が熊の人形を持っていた。
そのまま、僕は硬直する。
笑った!今、確かに、その人形が、笑った!!
「ちぇ!!なんだよ、左千夫のばかー!!俺頑張ったのに。
なー、柚子由、コイツなおんねーの?」
褒めて貰えないと思ったのか純聖は柚子由の方へといってしまった。
確か、あった、夜、勝手に動く人形の話が…。
「そう、その、人形はナイフを持って――――――」
僕がブツブツと言っているところに弟月太一が来たようだ、残念ながら僕はそれにすら気付かず怪談話を続ける。
「神功、あれで、よかっ―――。」
「そう、あの、人形の首が繋がれば、きっと、貴方は殺される。」
その瞬間弟月は慌てて柚子由と、いつの間にか混ざっていた夏岡の集まりに走っていた。
そして、直さなくていいと必死に言っていた。
ああ、きっと彼はその能力で僕の思考を読んでしまったのだろう。
そんなことをしている間にコールが流れる。
『最終試合。千星・天夜ペア、華尻・秋葉ペアコートへ』
「頑張ってください、千星さん!」
晴生君の声で僕はやっと正気に戻った。
そして、ちらっと柚子由の方を見ると、また、その熊と目があったので僕はそそくさと九鬼の後ろに隠れた。
-----------------------------------------------------------------------
【千星那由多】
さすが弟月先輩だ。
最初はちょっと純聖見ててハラハラしたけど、無事に勝利をものにした。
俺もがんばんないと。
コート内に入ると巽が側に寄ってくる。
少し作戦をたてようと言われたので、話を聞いているとあちら側のコートにいる華尻と秋葉さんが見えた。
華尻の事はもちろん知ってるけど、秋葉と言う子は食事の時に見ただけで会話はしたことない。
なんか地味な子だし、あんまり男と喋るのも好きなタイプではなさそうだ。
たまに目が合うが、独特の笑みを浮かべた後、何やらノートに色々と書き込んでいるようだった。
視察でもしてるんだろうか。
それにしても華尻…。
あいつ本当に胸無いのな。
麗亜祭の時にも思ったが、あれが所謂まな板って奴か。
他の女子だと水着姿なんて3秒と持たないが、華尻は別に見ててもなんとも思わない。
俺が見ていた事に気づいた華尻がいつもの様に睨んでくると、胸元を隠したのを見て、俺は思わず笑ってしまった。
無いのに隠すなよ。
「那由多、聞いてる?」
「あ、ごめん、なんだっけ」
巽の話へと戻ろうとした時だった。
何かがこちらへと飛んでくるような音が聞こえた。
そちらへと視線を向けた瞬間、それが華尻の武器、布団叩きだと気づいた。
一瞬試合が始まったのかと思ったが、イデアはコールしていない。
「ちょ、おい何飛ばして……巽危ない!!!」
しかし俺の言葉より先に、布団叩きは相手のコートに背中を向けていた巽の尻へとぶち当たった。
-----------------------------------------------------------------------
【華尻唯菜】
アイツ、今、絶対笑ったぁぁぁ!!!
なんなのよ!なんなのよ!!いったい、もー、ムカつく!!
そう思ってあたしは情動を押さえきれなくて布団叩きを投げた。
それがまさかこんなことになるなんて。
殺気も何も篭って無かったからかその布団叩きは天夜の尻に直撃した。
あー……マズイ、かもしれない。
「おい!大丈夫かよ巽!!巽!?」
「ん?大丈夫だよ、那由多、布団叩きが当たったくらいで、ちょっと返してくるね。」
そう言って彼はこちらに来た。
も、もしかして、なんともないパターンか。
私の能力はたまに不発に終わる。
もしかしたら今回もそのパターンかもしれない。
「ご、ごめんなさい、て、手が滑っちゃって…」
「うん、構わないよ。次からは素ぶりもいいけど、気をつけて―――」
そう言った瞬間に天夜巽の瞳が豹変する。
ああ、これはあたしの能力に操られた証拠…。
「もうしわけありません、華尻様。
貴方に勝負を挑もうなんて思った僕がバカでした。」
天夜があたしの前で土下座を始める、マズイ!まだ勝負のコールすらしてないのに。
「お、おい!!何してんだよ…たつ……!?」
土下座していた天夜が顔を上げた。
それを見た千星が固まってる。
そして、そのまま天夜はこっちをみた。
「――――ッ!!!!ご、ごめんさい!!!!」
それはあたしが思わずその場に土下座してしまう程の空恐ろしい笑顔だった。
多分あたしの能力に抗っているのだろうけどそれは出来ない。
『愛輝凪戦闘不能、よって麗亜、勝利。』
ヒューマノイドの声が海岸に響いた。
皆からの視線がかなり痛い。
-----------------------------------------------------------------------
【千星那由多】
な…なんてことをしてくれた!!
華尻の布団叩きが巽の尻に当たった。
あれの威力は見たことがあるから知っている。
当たってから暫く反応がなかったので大丈夫かと思ったが、土下座する巽を見た瞬間に血の気が引いた。
そしてそれに抗おうとしている巽の表情が、もんのすごく恐ろしい。
結局闘わずにであちらが勝利する形で終わってしまう事が一番最悪だった。
華尻はかなり反省しているようだったが、本人ではこの能力は解除できないらしく、いつ治るかもわからないらしい。
厄介すぎる。
その場でまだ土下座をしている巽を副会長と夏岡先輩が引っ張りながら、次の試合を始める前に一旦ベンチへと連れて行った。
イデアと麗亜高校のヒューマノイド達がコートを片付け始めると、何やら次の競技をする準備をしていた。
麗亜高校のみんなは、こちらの状況を心配そうに見ている。
巽をベンチに無理矢理を抑えつけ座らせた後、副会長がため息をついた。
「どーするこれ、治せなかったら次巽闘え無いヨ?」
「そうですね……あれも一応攻撃の部類に入りますし、自己回復をしてみてはどうでしょうか。
できますか?巽君」
会長が巽を見下ろしながらそう言うと、まるで機械のようにギギギと首を縦に振り、自分の尻へと手を翳した。
表情が怖いままなので、物凄く滑稽なその行為に晴生と純聖は笑っていた。
手元で黄色の淡い光が灯ると、抑えつけなければいけない程強張っていた巽の身体から力が抜けていく。
「はぁー……治った……」
そう言ってほっとした表情を向けた巽は、いつもの巽に戻っていた。
回復で治るのはありがたいが、これ、回復要因がいなかったらめちゃくちゃ悲惨な能力だよな。
麗亜高校の方へと視線を向けると、華尻は何度も巽に向けてペコペコと頭を下げていた。
そんなにさっきの顔が怖かったのだろうか。
何もしないまま試合は終わってしまった訳だが……とにかく次、頑張ろう……。
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