あなたのタマシイいただきます!

さくらんこ

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isc(裏)生徒会

左千夫の大冒険

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【三木柚子由】

「那由多君危ない!!」

今日も浦ニ亜(うらにあ)高校と戦闘だった。
たまたま全員で一緒に居るところを狙われたので大乱闘になった。
終盤に差し掛かったところで相手の人数も少なくなり、前任から緊張がとけはじめていた。
その時茂みから妙な光線が那由多君に向かって真っ直ぐに飛んでいった。
誰も気づかない中、左千夫様が気づいた様子で、千星君を突き飛ばし。

槍でその光線を受けた筈なんだけど。

「――――!!!!?」

光線は左千夫様を包むように輝いた後消えていった。
その後左千夫様は直ぐに茂みの敵を蹴散らしていった。

「終了!!愛輝凪の勝利!!
点数を振り分けて置くぜ!それじゃーな!!」

それから直ぐに他の皆が敵を全員蹴散らしたおかげで戦闘が終了した。
各々の活躍で点数が振り分けられた。

「左千夫様…!」

「会長大丈夫ですか。」

私と千星君が同時に駆け寄る。
左千夫様は武器をブレスレッドに戻してから、自分の手足をくまなく確認していたようだが、私達が到着すると笑みを浮かべた。

「ええ、大丈夫なよう―――ッ、―――!!!!!」

そう言った瞬間に左千夫様の体が輝いた。
私も千星君も左千夫様も驚いた顔をしていた。
そして、目を開けられないほどの閃光の後、左千夫様の姿は無くなってしまった。
その場には彼が着用していた制服だけが残っていた。

「左千夫様が!!!!」「会長が!!!!!」

私達が思い思いに叫んだからか皆が寄ってくる。
左千夫様がとけて無くなってしまった。
どうしよう!どうしたら!!

私が急いでその制服をどかそうとした時に小さな声が聞こえた。

「大丈夫ですよ、柚子由、ちょっと待って下さいね。」

そう聞こえたのは制服の中だった。
そして、少し時間が経った後、ハンカチを体に巻き付けた小さな左千夫様が姿を現した。

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【九鬼】

左千夫クンが…
左千夫クンが……

左千夫クンが小さくなった!!!!

ちょこんとゆずずの手のひらに乗っているそれは、紛れもなく小さい左千夫クンだった。
大きさはビールの缶ぐらい、といったところだろうか。

「どしたのどしたのこれーーーー!!!」

ボクが大声で笑っていると、小さい左千夫クンが耳を塞いだのが分かった。
何かを喋っているようだが声が小さくて聞こえない。

「やっぱりさっきの光線のせいですかね…すいません会長…」

ゆずずの横でなゆゆが落ち込んだ表情で左千夫クンを見ていた。
多分さっきのよく分からない特殊能力のせいだろう。
彼にとってはとんだ災難だ。
浦ニ亜高校グッジョブ。

「で、どうする?このままだとまずいよネ?」

ゆずずの掌に乗っている左千夫クンを指先で突くと、小さな表情が微かに歪む。
そして何やらブレスレットをいじると、こちらを向き再び小さな小さな口が動いた。
すると、全員のブレスレットから左千夫クンらしき声が漏れる。

『一度(裏)生徒会室へ戻りましょう。…不本意ですが九鬼、あなたの胸ポケットを貸してください』

どうやらブレスレットから全員に通信ができるらしい。
これなら声がいくら小さくてもみんなに届くだろう。
ボクはニコニコと微笑みながら自分の胸ポケットを開く。
その中にハンカチを巻いた姿のまま入ってくる左千夫クンは、小さな妖精のようだった。

『いきますよ』

ブレスレットから声が響くと、ボクの乳首を服の上から思い切り蹴ったのか、チクッとした痛みが走る。

「もー小さくなっても乱暴なんだから♪」

そう言うとまた乳首を蹴られた。
暫く面白くなりそうだと、終始笑顔で(裏)生徒会室まで戻った。

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【神功左千夫】

晴生君に見て貰ったがどうやら時間が経過したら勝手に大きくなるようだ。
逆に考えると効力が無くなるまではこのままと言うことだ。
幻術も使える様だし、何といった問題は無いが、威力などは後で見て置かなければならないだろう。
地区聖戦用のブレスレッドは僕の腕に合わせて小さくなってくれたが携帯は小さく出来ない、たとえ小さくできても鉛筆ほどの槍では役に立たないだろうと肩を落とした。

『目を抉ったり…するわけにはいきませんしね。』

そう呟くと横で那由多君が青ざめていた。
小さな槍で戦うとなればそれくらいしかないだろう。
机の上の柚子由のハンカチの上に居るが取り合えず周りのものが全て大きい。
そして、純聖が手を伸ばしてきたので少し体が強張った。

「すげー、おもちゃみてぇ!!!!」

『余り強く握らないでくださいね。』

なんとなく小型犬が小さい子を怖がる理由が分かった。
後、問題がある、服が無いんだ。
僕は始終裸でも困らないんだが、柚子由が居る為それは避けたい。

そう考えているといつの間にかイデアが部屋の片隅に居た。
しかも、色とりどりの女の子の人形に着せる服を持ってきていた。

出来ればそれは遠慮したい。

「それいい。」

そう呟いたのは幸花だった。
そして、彼女の手が伸びてくる。

ま、まさかあなたまでもですか!!!

『やめ、やめ…』

「左千夫…下着は自分で履いて欲しいな…」

履きます、履きましょう!!
このままじゃ、巻いているハンカチを剥がされかねなかったので僕は急いで付属していた下着とシャツを着る為に空いているケーキの箱の中に入った。
そして、蓋をすれば中は見えなくなる。

そこで下着とシャツを身につけると顔を覗かせた。
幸花は布で巻く様にして僕を持ち上げてくれる。
純聖よりは優しい手つきなので安心できるがあちらではイデアが何を着せようか、純聖や九鬼、柚子由までが混じって話し合っている。


そこから数時間、僕の着せ替えが行われたのは言うまでもない。

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【千星那由多】

俺のせいで会長がちっちゃくなってしまってから数日経った。
あの身体で大変じゃないかと思っていたが、女子達に人形のような扱いをされている以外は、生活には支障はないみたいだった。
もちろん申し訳ない気持ちでいっぱいだが、俺があの光線に当たっていたらと思うとゾっとする。
すいません会長…!!

その日はグループに分かれての任務だったので、会長とは別行動だった。
俺達が一番遅かったのだが、いつも大体は一番最初に帰っているはずの会長達の姿が無い。
もちろん、小さくて見逃しているわけでもない。

「会長まだ帰ってないんですか?」

会長用の服を丁寧に小さなクローゼットに入れている三木さんに話しかける。
イデアが会長のために小さなベッドや机、家まで作り、(裏)生徒会室の一角には小さな豪邸が建てられていた。
女の子って本当にこういうの好きだよな。

「うん、まだみたい…」

そう言った瞬間に、(裏)生徒会室のドアが開いた。
噂をすれば…と思ったが、そこに居たのは会長と行動を共にしていた副会長だった。
珍しく息を切らしている。

「どうかしまし……」

「会長がいなくなった!!!!!!!!」

叫んだ副会長の言葉に、三木さんの顔が蒼白になっていくのがわかった。

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【神功左千夫】

少しマズイことになった。
どうやら僕はネコを手なづけたのと引き換えにかなり遠くまで運ばれてしまったらしい。

ことの発端は任務中に他校との戦闘に巻き込まれたこと。
九鬼がその戦闘をかって出てくれたのは良いが彼は僕をトラックの荷台に置いたのだ。
そこまでも、いい。
しかし、そのトラックにはネコが乗っていて、しかも携帯は九鬼が持ったままだった。
そうなると自力でそのネコと戦わなくてはならない。
目を合わせてしまえば簡単な催眠術は使えるので事なきを得たが、気付いたころにはトラックはその場所を離れていて、今もどこか遠くに向かって走っている。

「困りましたねぇ…」

僕を包むように寝ている黒猫の頭を撫でる。
どうやらブレスレッドもトラックに積まれてあるゴミの磁場にやられた様でうまく反応しない。
取り合えず、この場所から降りようと、信号待ちの際に茂みへと飛び移った。

住所を見る限りここは僕達の地区聖戦の校区外なので、他校に襲われる確率は低いだろう。
一緒に飛び降りてきた猫の背中に乗せて貰って移動する。
人目がついても隠れやすい堤防をあるきながらどうしようかと考えた。

体が小さくなったが特に不自由は無かった。
逆に今まで出来なかった、紅茶のプールで泳いだり、マシュマロに埋まってみたり、ケーキにダイブしてみたり。
九鬼がお菓子の家を買ってきてくれたのでそれを満悦したりと中々有意義に過ごせている。
問題と言えば格好ぐらいだろうか、今日は、妖精のような短いスカートの服を着ている。
これさえなければ特に問題は無い。

僕はポケットにしまってあったかなり小粒の金平糖を手にとって齧った。
取り合えずはこの猫が運んでくれるところまでは運んでもらおう。
そう思っていた矢先、子供の泣き声が聞こえた。

黒猫に頼んで其処に向かって貰うと小さな少女が泣いていた。

「どうかしましたか?」

僕は彼女に声を掛けたがどうやらこちらの言葉は聞こえていないらしい。

「わぁ!!妖精さんだぁ!!……あのね、ミク、おうちわかんないの…!」

そう言って彼女は僕を人形のように抱き上げた。
僕は彼女の手から逃げる様にして肩に移動する。
彼女はリュックを背負っていたのでまずはそれを確認してみるとちゃんと住所が書かれてあった。
この子の親が彼女の身を案じて書いたのだろう。
住所があればなんとなく道は分かる。

「なら、かわりに僕が案内してあげますね。」

彼女の耳元で声を出し。
小さく笑みを浮かべた。

それにしても、妖精と間違えてくれているのは都合が良い。

住所の場所へ行けば更に学校から離れることになるが仕方が無いと大きく肩を落とした。


「あー!!ここ、ミク知ってる!!!ありがとう妖精さん!!」

「ミクちゃん!!!!」


暫く川沿いに歩いていると少女の知っている場所へと出たようだ。
僕が安心した瞬間に彼女の名前を呼びながら女性が走ってきた、きっと母親だろう。
その姿を見ると僕はそっと川に続く斜面へと飛び降りた。
もう、これで大丈夫だろう。

「ママ!あのね!妖精さんがね…あれ?」

彼女は母親に必死に妖精が案内してくれたと言っていたが信じて貰えていない。
勿論それが当り前だろう。

一安心とこの時油断したのが運のつきだった。

「なッ!!」

僕の足に何かが絡みつきそのまま川へと引き摺りこまれた。

途中で拾った棒で何とか舌を外したがその棒も折れてしまう。
呼吸も余り止めていられないので直ぐに水面へと上がった。
すると犯人が僕の目の前に居た。

それは僕の体よりもかなり大きなカエルだった。

都会にもこんなに大きなカエルがいるのかと思うと同時に僕はゴクリと喉を上下させた。

非常にマズイ。

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【薬師河悠都】

地区聖戦が始まってからと言うもの、夏休みだと言うのに多忙な日々が続いていた。
自分の用事も済ます暇もないし、身体のメンテナンスもできないし。
なので、今日はこっそりメンバーの目を盗んで抜けて来た。
後で会長に怒られるかもだけど。あいつすぐ怒るんだから。

川沿いを暫く歩いていると、少女が母親と抱き合っているのが見えた。
その光景に笑みを零すと、すぐに視線を下へと落とす。
家族と言うものは眩しすぎて僕には直視できないからだ。

その時、足元に落ちている人形に気づいた。
もしかして少女が落としたのかもと、しゃがみ込み拾い上げると、その人形は妙に温かく人形にしてはとてもやわらかかった。
背中を向いていたので顔をこちらへと向けると、その顔はボクの良く見知った顔だった。

左千夫…?

思わず驚いてしまったが、きっと特殊能力か何かでこんな姿になってしまったのだろう。
それにしてもなんでこんな所に。
しかも服はぼろぼろで、すごくべたべたしているし、今は気も失っているようだ。

とりあえずこれは少女の落としものじゃない事は確かだった。
鞄にいれていたタオルに優しく包んであげると、先に身体を綺麗にしてあげなければと頭を悩ます。
すぐ側で温かいお湯が出る所…と言うとお風呂しかないが、これぐらいの小さな身体なら少量のお湯でいいだろう。
僕はすぐ近くにあったコンビニへと向かった。

紙コップ、ハンドタオル、使い捨て用のシャンプー各種、目の細かい櫛、綿棒…使えそうなものを購入すると、彼の大好きなチョコレートも買っておいた。
紙コップにお湯を注ぐと、どこで綺麗にしてあげようかと考える。
小さい人形を扱っているシーンはさすがに見られたくないなと思い、彼を息ができるぐらいに開いた鞄の中へ入れてやると、ショッピングセンターのトイレへと向かった。
僕も用事があったし、調度いい。

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【神功左千夫】

気付くと僕はトイレの個室に居た。
ビクンと体を痙攣させるとともに起き上がろうとしたがそこらじゅうが痛い。
しかも、一糸まとわぬ姿で紙コップの風呂に入っていた。
九鬼が助けてくれたのかと思ったが目の前には見知らぬ人物が居て慌てた。

「あ、起きた?大丈夫だよ、僕も地区聖戦の関係者。しかも、君とは違う区域だしね。」

そう言って見せられたブレスレッドは僕がしていたものと形は同じだが色が異なっていた。
これは隣の地区のブレスレッドだ。

と、言うことはどうして僕がこうなったか察しがつくだろうし、襲われることもないだろう。
それよりも紙コップの湯加減が気持ち良さ過ぎて頭が回らなかった。

「待ってて、今、綺麗にしてあげるから。」

彼はそう言って、僕を隅々まで綺麗にして行った。
いつもはこんなふうに身を任せることなんてできない筈なのに、父の横に居るくらい僕の心は安らいだ。

どれくらいの時間が経っただろう。
気付くと綺麗なタオルに巻かれた状態になっていた。
そして、そのまま掬うように彼の胸ポケットにいれられる。

「さて、送っていってあげるよ。どこに行けばいい?」

「愛輝凪高校まで、お願いできますか…?」

帽子を目深に被った彼の顔はちゃんと見ることができなかったが明らかに知らない人物だ。
それなのに少し懐かしい気配がした。

それに彼がいったことには素直に答えてしまう。
情報操作系の能力者であろうか。

「いいよ。その前に、僕の用事を先に済ましていいかな?」

そう言って彼はひとかけらのチョコを僕にくれた。
勿論この人物の邪魔をしているのだから、僕は大きく頷いた。

「連絡だけいれて置いていいですか?皆、僕を探していると思うので。」

そして、彼にお願いして、(裏)生徒会の専用のアドレスに僕の無事をメールしてもらうことになった。

しかし、野生動物ほど無慈悲で残酷なものはないと今回僕は学んだ。
もとより、同じ大きさで運動神経でやつらに勝とうと思う方が間違いだったのかもしれない。
取り合えず生きていることに安堵しながら、彼のポケットで寛いでいた。

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【薬師河悠都】

左千夫が目を覚ました。
僕の事はわからないらしかったので、名前は告げずに彼の事を知らないフリをする。
バレてしまうと色々とややこしいしね。

僕の用事を先に済ませたいと言うと、彼は快く了承してくれた。
胸ポケットに入っている彼への振動が少ないように、身体を大きく動かさないように歩いて行く。
こんなに小さいと、姿以外の音や振動もとてつもなく大きく感じるだろう。
それにしても、ポケットから少し覗いているトサカがかわいい。

「そうだ、先に君に服を買ってあげようか。そのまま帰るともっとみんな心配するだろう?」

胸元に囁く様に言葉を落としてから、ボクはおもちゃ売り場へと向かった。

高校生男子が女の子向けの売り場にいると、さすがに視線は痛かったが、妹のために玩具を買っていると見せかけるようにしておく。
もちろん僕に妹なんていない。
色とりどりのかわいい衣装が並んでいたが、男性ものは圧倒的に少なかった。
それに彼の今の身体のサイズとなると、やはり女性人形の衣装になるだろう。

「…今の君にはこれが似合いそうかな?」

そして僕が手に取ったのは、真っ白な純白のウエディングドレスだった。
小さく口元だけ笑むと、更に言葉を続ける。

「君は小さなお姫様。そして、僕は君を救った王子様だ。王子は君に恋をする。
そして愛し合った二人は……結婚するよね?」

有無を言わさずにそれを手に持つと、小さな下着も手に取りレジへと向かった。
レジのお姉さんには何度もボクの顔を見られたが、目深に帽子もかぶっているのでばれないだろう。

「さて、すまないけど、着替える前に僕の用事を先に済ませるね、花を買いたいんだ」

そう言うと、ショッピングセンター内にある花屋へと向かった。

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【神功左千夫】

今はハンドタオルを体に巻き付けている状態だったが僕はこれでも構わない。
しかし、他の皆が心配すると言われると確かにそれはそうかもしれない。

服をどうしたかと聞かれて、野生の動物と戦って破れましたと説明するのもなんだか嫌だ。

相手の好意に甘えようとポケットでジッとしていた。
人からの視線を感じない時だけポケットから顔をだして辺りを見渡す。
そして、似合いそうだと言われた衣装を確認した途端僕は固まった。

そ、そそそれは、女性が一生に一度着るか着ないかの…!!
いや、今は二回、三回着る人も居るだろうが。

しかし、全女性のあこがれのドレスだ。
間違いなくそうだ。

女性が一生に一度着るか着ないかのものを男である僕が着ていいのか。
いや、良い訳ない。
と、言うか男の僕がそれを着る羽目になるとは思わなかった。
しかも即決のようだ。

僕が女性では無いと言うことは先程体を洗って貰ったので知っている筈なのだが…。

説得しようとしてみたが僕の声は小さい為彼がこっちを向いていないと届かないようだ。
多分彼は僕の唇の動きで言葉を読み取ってくれているのだろう。
勿論全ての言葉がスルーされ紙袋には下着とウエディングドレスが入っている。

どう表現していいか分からない気分のまま彼のポケットで過ごした。

花屋に着くと、彼はお見舞い用の花束を注文していた。
どうやら今からの用事というのは見舞いのようだ。
花束ができるまでの時間に僕を着替えさせようと言う魂胆なのだろう、ベンチの上の紙袋の中で彼は服を広げていく。
そして、僕をその中に入れた。

「手伝ってあげるね。」

なぜか彼は楽しそうに見えたし、折角買って貰ったものを無駄には出来ないと僕は仕方なく袖を通した。
流石、ウエディングドレスと言うだけ他の衣装よりも値が張ったのは確かだ。

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【薬師河悠都】

小さい彼の着替えを手伝っていく。
紙袋の中でがさがさとやっているので人の目も気にならない。

「うん、やっぱり似合うね、お姫様……いや、花嫁、かな?」

そう言って微笑むと、先ほど花屋でこっそりと購入した、小さな薔薇型のブーケを取りだし、彼に差し出す。

「本物のバラは大きいから邪魔だろうと思って。食べれるし調度いいかな?」

ちなみに他にも違う花の飴もあったけど、あえて薔薇の花にした。
彼にはきっと意味が通じるだろう。
通じなくてももちろんいいのだが。

花束ができたようなので、彼を再び胸ポケットに入れ立ち上がる。
少し膨らんで窮屈かもしれないが、入らないことはなかった。

花束を受け取り、ショッピングセンターを出ると、少し歩き小さな病院へと足を運ぶ。
僕の用事はここにあった。
受付を済ませると、慣れた足取りで3階の奥の病室へと向かう。
できれば毎日でも来たいのだけれど、暇がないのでそうもいかない。

ノックをするが、返事は無い。
これはいつもの事だ。

「入るね」

だけど僕はいつも声をかけてから入る。
静かにドアを開けると、病室のベッドにはいつもと変わらない姿の女性が眠っていた。
いや、眠っていた、という表現は少しおかしいかもしれない。
彼女は目覚めないのだから。

たくさんのチューブをつけている、健やかな寝顔の彼女へと近づく。
今日も変わりは無い。
前にお見舞いに来てから少し時間が空いてしまったので、この前もってきた花は無くなっていた。
そして、胸ポケットの中で隠れている左千夫を、服の上からとんとんと指先で突く。

「お花花瓶に移すから、出てきても大丈夫だよ」

そう言うと、覗いた彼を胸ポケットから出してあげると、ベッド脇の机へと乗せた。

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【神功左千夫】

飴のブーケまで貰ってしまった。
普通は薔薇は女性へと贈るものだ。
なんといっても愛を代表する花だからだ。

ブーケとドレスの裾が邪魔だが何とか胸ポケットには入った。
気を使って歩いてくれてるのだろう、九鬼よりも振動が少なくて楽だった。
いや、勿論九鬼も気を使ってくれていたのだろうが。

彼が入った病室の女性は眠ったままで言葉を発さない。
所謂植物人間という状態だ。
どういう経緯でこうなってしまったか分からないが、外傷などは特に見受けられない。

彼が花の水を変えに行っている間、僕は机から彼女の様子を観察する。
こういう症状の人間は沢山見てきた。
しかし、少し違和感がある。

なんというか…魂が掛けている、と、表現したらいいのか。

この少女が柚子由の様な体質を少しでも持っていれば僕が精神介入することは可能かもしれない。
しかし、魂がこの状態では余り長くは生きられないかもしれないが、この女性はこのまま寝たきりか、再びこの世を生きるか、どちらが良いのだろうか。

「僕が考えるより聞く方がはやいですね。」

介入できない場合だって沢山ある。
今僕は携帯が無いので特殊能力も少ない。
しかし、精神介入はどちらかというと元から持っていたようなものなので使えるには使えるだろう。
考えているより行動に移した方が速いな、と思い僕はその机の上に寝転がった。
そしてそのまま直ぐに眠りに堕ちていく。



「暗い。……彼女の本体はどこにあるのでしょうか。」

どうやら彼女の意識にはうまく潜り込めたようだが本体が見つからない。
余り長い間は居たくない、本体ががら空きになるか…そう言えば、一緒に居たあの男が敵なら殺されるかもしれないな。
いつもなら直ぐに考えることが欠落していることに溜息を吐いたがこうなれば時間がかかろうが掛るまいが一緒だ、僕は水中のようになっている暗闇の中を泳ぐ。

すると、一か所だけ明かりがともった場所が有った。

其処にはストレートの黒髪で赤茶色の瞳がぱちりとした少女が居た。
病室で見た体よりも若いがこれが彼女の本体だろう。
精神は植物人間になった時代のまま止まっているのだろう。

「だれ?……妖精さん?花嫁さん?」

そう言われて自分の格好をはじめて確認した、ばっちりウエディングドレスを着てる。
精神体になってまできていると言うことはよほど衝撃的だったのだろう。
彼女にあって初めて分かったがサイズもミニマムのままだ。

「どちらでもありませんし、どちらでもあるかもしれません。」

「…難しいね。」

「貴方はここから出たいですか?でも、出ても長くは生きられないかもしれませんが。」

「私、今、どうなっているの?」

「貴方は病室でずっと寝たきりですよ。」

「そうですか…。
実はね、貴方に会う前にももう一人妖精さんにあったの。
その妖精さんはね、毎日毎日私に謝ってばかりだった。
彼に会うためにはもう一度起きないといけないよね?」

「そうですね。」

「でも、出口が分からないの…」

彼女の話はとても抽象的で何を示しているのかすら分からなかったが、ここからは出たい様子だった。
そして、哀しそうに肩を動かした姿は柚子由と少し似ていた。

「僕が連れて行ってあげますよ。
ああ、でもその前に…」

僕は彼女の額に自分の小さな額を付き合わせる、そして魂が欠落していることを体が感じないようにと催眠術を掛ける。
はっきりってこれは体を騙しているにすぎないが、人間には気力というものがある。
それが強ければ僕の騙しが現実になって長く生きることができるだろう。
柚子由と同じように。

「さて、行きましょうか。
あ、先程余り生きられないって言ったのは嘘ですからね、貴方が目覚めたいか確かめたのです。」

「…そうなの?意地悪な花嫁さん。」

上品に笑った彼女はとても可愛い人だと思った。
彼女を外に連れて行く間に、植物人間になってからかなりの月日が経っていること。
今日は有る人物と見舞いに来たこと、きっとその男性はこまめに見舞いに来ているだろうことを話したが僕も容姿を見ていないこともありうまく伝わらなかった。

上に光のリングが見えてくる。
あそこが出口だ。

「それでは。」

「貴方とはもうあえないの?」

「貴方が長く生きればどこかで会えるかもしれませんね。」

「…分かった。ありがとう。また、ちゃんとお礼言わせてね。」



そう言って彼女は光に包まれて消えていった。
いや、あるべき場所に戻って行った。



そして、僕も目覚めた。
病室の天井が視界に入る、かと思ったが、視界に入ったのは僕を拾ってくれた男性だった。

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【薬師河悠都】

「よかった…死んじゃったのかと思った」

花を花瓶に入れ替えている内に、彼が机の上で寝たまま動かなくなっていた。
この姿のままでいたせいかと何度も名前を呼んだが返事はなく、やっと目覚めた時には30分以上時間が経っていた。

安堵の息を吐くと、彼の頭を指先で撫でてあげる。

「何をしてたの?」

「少し彼女と会話していました」

そう言うとベッドで寝ている彼女へと視線を向ける。
視線をずっと外さないので、僕も彼女の姿を見つめた。
会話をしていた、とはどう言う事だ?
彼女は一生目覚めないだろうと言われている。
そんな状態の彼女と会話?

そして左千夫と一緒にじっと彼女を見つめていた、その時だった。

彼女の指先が微かに動いた気がした。
見間違いかと思い、数度瞬きをしてもう一度彼女の指先へと視線を送る。
――――やはり指が動いている。

それは見落としてしまいそうなぐらいに、ほんの微かなものだった。
だけど、今までこんな事一度も無かったんだ。
暫く見つめていたが、それからはまた動かなくなってしまった。

「…何か、したの…?」

「少し」

少し?
左千夫が精神的な能力者だという事は知っている。
その能力で彼女の精神に入り込んだのか?
だから彼女と会話した、そう言う事なのか?

驚き戸惑いながら左千夫を見つめていると、彼は机の上に乗っていたボールペンを両手で支えながら、メモに何かをゆっくりと書きだしていく。

「出来ればここに転院してください。ここよりも設備はいいですし、彼女の回復は彼女次第かもしれませんが、目覚める可能性は高いと思います」

小さい身体を使って病院の住所を書き切ると、メモを引きちぎろうとしているのか、一生懸命な彼を見て少し笑ってしまった。
それを手伝うように一緒に千切ってやると、彼へと笑みを零す。

「ありがとう……さ」

左千夫。と思わず言ってしまいそうになったことにハッとすると、ごまかす様にメモを鞄の中へと閉まった。

「さぁ、じゃあそろそろ行こうか。
彼女の事は担当医師に伝えておく。
君がどんな力を使ったかは詳しくは聞かないよ。でも、とっても素敵な力だね」

今日、小さな彼を川で拾ったのも運命なのだろうか。
僕は左千夫を再び胸ポケットへと入れると、椅子から立ち上がった。

「じゃあ、また来るね、ほたるちゃん」

彼女の名前を呼ぶと、病室を後にした。

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【神功左千夫】

彼は僕の力を素敵だと言った。
実用的だとか、強力だとか、使い勝手がいい、戦闘向き。
このような称賛は良く聞いたが素敵と言われたのは初めてかもしれない。
いや、過去には有ったかもしれないがもう遠い昔だ。

今日彼女の中に潜れたのはこの小さな体だったからかもしれないな。
取り合えず、本体と会えたのだから彼女が意識を取り戻す確率は高い。
そして、僕が彼に伝えた病院は実験などで仮死状態や植物人間になった子が大勢いる病院だ。
僕の父が建ててくれた病院なので秘密も守られるだろう。

再び彼のポケットに入ると用事も済んだようなので愛輝凪へ向かうのかと思ったが、彼は驚きの言葉を落とす。

「もう少し、僕とデートしよっか?」

デート?それは女性とするものではないのか。
この男は九鬼と同種なのだろうか。
それにしては気遣いというものが出来ている。
と、言うか先程の病室の女性は恋人とかいうオチでは無いのか。
そんな色々な疑問が頭に沸いたが彼はさっさと目的地に歩いていく。

それはこじんまりとした個人経営のカフェだった。
僕がばれないように一番奥の人目のつかない席へと彼は座る。

「紅茶はティーポットで悪いけど、カップ二つ用意して貰ってもいいかな。
あと、チョコレートパフェとパンケーキ、シロップは大めでね?
あ、マスター悪いんだけどパフェを平皿に盛ってくれるかな?」

いつもこの取り合わせを頼むだろうか。
いや、でも店のマスターが珍しいねと言っている。
だって、それは僕の好み、ど真ん中のチョイスだ。

もしかして僕のことを知っているのかとも思ったが、僕は政府では有名なので甘糖だと言う情報くらいは流れているのかも知れない。
全ての注文が机に並ぶとメニューをうまく目隠しに使って僕を机の上に下ろした。
それから、パフェと言うか、お皿に盛られたデザートを僕の前に置いて紅茶用のスプーンを差し出してくれた。

「好きなだけ食べていいよ。今日付き合ってくれたお礼。」

「ありがとう、ございます。」

寧ろお礼を言わないといけないのはこちらなのだがと思いながらも大好物を目の前にすると興奮を抑えきれなかった。
僕はスプーンを手にするとパフェを食べ始める。
味も格別に美味しい。
紅茶に入れる様の角砂糖も、珍しい黒糖だった為、それにも齧りつくと彼が笑っていた。
そんなに笑うことじゃないと思うのだが…。

世話やきな性格なのか、パンケーキも一口サイズに切って僕の口へと運んでくれている。
調度お腹がすいていたので僕はかなりのスピードで平らげて行った。

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【薬師河悠都】

小さい左千夫が甘い物を平らげて行く姿は、なんともかわいかった。
小動物的なかわいさというか、幼い子供を見ているような感覚にもなる。

「いっぱい食べたね、じゃあ行こうか」

彼の髪についたクリームを紙ナプキンでふき取ってあげると、再びポケットの中へと入れてあげた。
勘定を済ますと、マスターに挨拶をし、店を出る。
夏なので日はまだ高いが、時刻も夕方に差し掛かって来ていた。
これ以上彼といることを引き延ばしてもダメかと思い、少し寂しいが愛輝凪高校へと向かう事にする。

そこまで区域は離れていないので、あえて電車ではなく徒歩で彼と他愛ない話をしながら歩いていた。
どこのケーキがおいしいとか、お互いの区域の地区聖戦についてとか。
けれど、肝心の名前や自分の話などをすることはなかった。

そして、もうすぐ僕の区域を出る調度その時。
不穏な空気を感じると共に、ブレスレットが淡く光った。

「よぉ、ノーフェイスさん」

他校の(裏)生徒会が数人。
人数は10人にも満たないが、僕の行く道を阻む。
ちなみにノーフェイスと言うのは僕のハンドルネームだ。
地区聖戦は素性を知られたく無い人も多々いるので、本名でなくても良い。
この時名前が呼ばれていたら、左千夫に僕が誰だか完璧にバレていただろう。

「区域外に行って、逃げるつもりか?」

「違うよ、ちょっと用事があるだけ。それに今、僕、デート中なんだ」

そう言うと、全員が顔を見合わせて大声で笑う。
まぁ、ポケットに人がいるなんて思わないだろうし、仕方ないんだろうけど。

「一人でデート?逃げる言い訳にもなんねーよ!!
狩理央(カリオ)高校、佐伯達矢、絶有主高校ノーフェイスに勝負を挑む!!
競技は決闘、いざ尋常に勝負!!!」

ブレスレットの光が僕を照らす。
どうやら周りの奴等もこの決闘に参加の様だ。
大人数で一人を相手とはしょうも無い。
群れる事は悪いとは言わない、けど正直僕はそういうのが苦手だ。

今日一日は地区聖戦に参加したくなかったんだけど、申し込まれた以上受けなければいけないかと、小さくため息をついた。

「ちょっと揺れるかもだけど、ごめんね」

胸ポケットの左千夫へと言葉を落とすと、佐伯という男に自分のブレスレットの光を翳した。
すぐ近くに居たであろう、黒い肌の少年ヒューマノイドがスケボーに乗って走ってくる。

「この戦闘は俺が受け持つよん♪さっさとキメちゃってね!
じゃ、決闘スタート!!」

ヒューマノイドが指を鳴らすと同時に、目の前の男達がそれぞれ武器を持ち殴りかかってくる。
武器は特に大した物も無さそうなので、所謂雑魚だろう。
わざわざ自分の武器を晒す事もないか。

軽い身のこなしで攻撃を避けて行く。
あまり時間をかけて闘いたくないので、気絶させる勢いで攻撃していたが、まだ今の自分の力加減が少しわからない。

「うーん…まだ慣れないなぁ」

余り力みすぎると自分の腕まで折れてしまいそうだ。
だからと言って力が無さすぎると相手を仕留められない。
そのせいか、いつもならこの位の能力者、これぐらいの人数であれば武器を使わずとも仕留められるのに、中々うまくいかなかった。

「どーしたぁ?武器出せよ武器ィ!!」

「君達ぐらいであれば、わざわざ出したくないかな。まだピッタリこないんだ」

「はぁ!!??意味わかんねー事言ってんじゃねーよ!!!」

呑気に相手の言葉に答えながら敵の攻撃を避けて行った。

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【神功左千夫】

絶有主高校。
それは僕が以前居た高校の名前だった。
そして、全国でも最も政府が注目している高校の名前だ。

もしかして、知り合いなのかと相手を見て見るが、矢張りこんな顔は知らない。
それに、知り合いならそう告げてくれるかと小さく肩を竦めた。

僕が絶有主に居たころは(裏)生徒会の存在すら知らなかった、いや、見向きもしていなかったなと改めて過去を振り返った。

そうしているうちに戦闘に入る。
この男ならば楽勝かと思ったがどうやら余り調子が良くなさそうだ。
地区外の事なので助太刀しようかどうか悩んだが、このサイズだどうとでもいい訳は出来るだろう。
それに携帯が無い今僕に出来ることは限られている。

殴られたらたまったもんじゃないですしね。

そう、今僕は彼の胸ポケットにいるので、殴られる可能性だってあるんだ。
自己防衛だと言い聞かせると顔をひょこっとポケットから出す。
敵の人数を確認すると自分の髪を抜き、ふぅっと息を吹きかける様にして各敵に飛ばしていく。

「the flames of hell」

調度髪が各個体に触れた瞬間言霊を口にする。
その瞬間に髪が業火へと変わり、炎が各人物を呑みこんで行く。

「なるほど、矢張り言霊にすると便利ですね。」

イデアアプリを使用しなくてもこれほどの威力が出ることを彼の胸ポケットから見届けた。

「僕の花嫁はなんでもできるんだね。」

特に驚いた風も無く彼は僕に笑みを向けた。
流石絶有主高校と言ったところか。

その後は、「よし来た。」と、彼が一言述べてから僕の幻炎に包まれている敵高の奴らを体術で簡単にのしていった。
柔らかな動きだった為振動もそれほどなく、綺麗な身の振りをしていると感心してしまった程だ。

「勝者!ノーフェイス!!
じゃねー!これから、デートなんだ♪」

どうやら僕の助太刀は問題が無かったようで肩を落とした。
スノーボードで回転をしながらコールがなされた。
ヒューマノイドも製作者の色が出ているから面白いなと思いながら僕はまた彼のポケットへと戻って行った。

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【薬師河悠都】

左千夫の能力は本当にすごい。
今はきっと特殊能力も使えないのに、あれだけの事ができる。
彼とボクの決定的な違いはそこだ。
だから、あの時も―――いや、あまり昔の事は思い出さないでおこう。

「助かったよ、ありがとう。
今日は一日僕の用事に付きあわせちゃったね。早く帰ろうか」

このまま、過去も今も忘れてどこかに行けたら、そんな事が頭に過り、馬鹿げているなと小さく笑みを零した。

地区聖戦の区域外に入ったので、ここからは闘う事は心配しなくてもいい。
愛輝凪高校へと続く道を、胸に彼の温もりを感じながら歩いて行く。
調度その時、見慣れた銀髪の頭が見えた。
背も高い上、特徴的なその容姿は遠くから見てもすぐにわかる。
周りにも数人生徒がいたが、狭い隙間を覗いたりと、明らかに左千夫を探しているようだった。
会長、と名前を呼んでいる声も聞こえる。
その声に左千夫が胸ポケットから頭を出した。

「目の前にいるのが、愛輝凪高校の(裏)生徒会のメンバーです」

「君の事ずっと探してたみたいだね。連れていってあげる」

そう言うと彼を胸ポケットから出してあげ、手の平へと乗せた。
近づいて行った僕に一番最初に気づいたのは九鬼だった。

「…さ、左千夫クン!!???」

その声に全員が僕の方向へと向く。
手の平にちょこんと座っている左千夫を見て、全員が気の抜けた声をあげた。

「心配したんですよ会長…!!副会長が絶対猫に食べられたとか言うからもう…!」

「だってそれしか考えられないでしょ!!!」

パーマの少年、彼は確か千星那由多君だ。
ただ、僕が彼らの事を知っているのは不振に思われるだろうと思い、知らないフリをする。

「調度川に居たのを僕が見つけたんだ。ちょっと時間かかっちゃったけど無事に会えてよかった。
あ、僕、ここの区域じゃない(裏)生徒会のメンバーだから、こういう特殊能力の事はわかってるから安心して」

そう言って微笑んだ瞬間に、さっきまで泣きそうな表情をしていた九鬼の表情が変わった。
やはり彼にはバレたか。絶対バレないと思ったのに。
本当、妙に勘がするどいんだから。
目深くかぶっていた帽子のつばを落とすと、左千夫へと視線を落とした。

「じゃあ、花嫁との物語はこれでおしまいだ。デート楽しかったよ。
またいつでも僕の高校においで。次は大きくなった姿でね」

そう言って彼の頭へと軽くキスを落とした。
その光景に周りの全員は固まっただろうか。

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【神功左千夫】

僕の地区に入っていく。
幸いなことに僕のブレスが故障している上にこのサイズだ他校に見つかることは無かった。
それに、直ぐに僕の生徒会メンバーに巡り合うことができた。

メールしたのですがね…。

きっと全員が慌てて、僕が無事を知らせる為に打ったメールなど見ていなかったのだろう。
確かにネコが食べやすいサイズだとも思う。
それにしても探し方があんまりだなとその光景を見つめた。

僕を拾ってくれた男の手の上で彼に礼を言う為に向きあうと、キスを落とされた。
最近良くキスされるな、と、思いながら自分の額を擦る。

「お世話になりました。」

短く言葉を掛けると小さく頭を下げた。
その後、彼の手を蹴って九鬼の肩へと乗る。
妙に動きにくいなと思ったら衣装がウエディングドレスだと言うことを再認識した為さっさと九鬼の胸ポケットに入った。

なんだか、九鬼からの視線が痛いが気にしないことにする。

僕を拾ってくれた男を見送った後は(裏)生徒会室に戻り、もう少しマシな衣装に着替えたいと言ったが、柚子由と幸花が気に行ったようで、着替えさせて貰うことはできなかった。
一緒に貰った飴のブーケはまだ食べずに置いてある。

いつもの僕なら真っ先に齧りつくのだがなんだか食べようとは思わなかった。
その日の任務は終了していたのでいつも通りの時間を過ごし。
小さい姿だからこそできることを満喫しておいた。

どうしてもトイレや風呂は危険が伴うので緊張したが。

そして、次の日。
僕は元の大きさに戻った。
小さい間にした体験は夢のようだったが周りの人物が、戻った、戻ったと言うので現実にあったのだろう。
彼から貰った薔薇のブーケを象った飴は小さなままだ。
彼とはまた会える気がする。

ほたると呼ばれていた女性は、僕が案内した病院に移動したようで、数日後関係者から意識を取り戻したとの連絡を受けた。
彼は喜んでいるだろうかと思ったが連絡を取る気は無かった。
勿論、ほたると呼ばれた女性のところに見舞いに行くつもりもない。
僕は関係者にリハビリには尽力を尽くす様にだけ連絡し、またいつもの日常へと戻った。 





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