あなたのタマシイいただきます!

さくらんこ

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isc(裏)生徒会

奇妙な組み合わせ

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【純聖】

ラディエンシークルセイドが始まって数日経ったけど敵もザコばっかでつまんなかった。
しかも、今日は俺達が登校日の時に麗亜高校から貰って来たメンバーの能力を解析するとかで左千夫も相手をしてくれない。

「そこのと、そこの、後、純聖、お昼買ってきて。」

幸花が(裏)生徒会室でダラダラしていた、俺となゆたと九鬼を指差してお金を放り投げてきた。

「はぁ!!なんで俺がそんなこ―――」

「役立たずだから。」

幸花はくい気味に俺の言葉に重ねてきた。
た、確かに俺は解析とかそんなことできなけど!!
ここに居たって暇だけど、なんだか嫌な言い方だ!

でも、反論できなくて俺はその金を手に取った。

「ナユタ!おっさん!!いくぞ!!」

そう言って俺は裏生徒会室を飛び出した。
くそ!幸花のやつ!俺より分析能力が高いからって!!いつか絶対ぎゃふんと言わせてやる。

校舎の外に出たけど、この辺りでどこがうまいとか俺は知らない。
左千夫はあんまし食わないので出来ればうまいものを食わしてやりたい。

「なぁ、ナユタ、この辺で左千夫が好きな店はどこだよ。」

俺は後から息を切らせながら追いかけてきている那由多を振り返った。
九鬼もちゃんとついてきている。

あー、しかもどうしてこのメンバーなんだよ!!

ナユタはたよんなし!
九鬼は俺のことをバカにするし、左千夫より強いとか嘘をつくから嫌いだ。

ナユタの後ろの九鬼をジトっと睨んでから視線を逸らした。

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【千星那由多】

地区聖戦が始まって三日目。
初日に神功先輩が来てから、毎日晴生の家から出て来ると待ち伏せして俺に習字で挑んできていた。
今の所俺は三勝している。
が、他校との対決で負けていることの方が多いので、この勝利はあまり意味がなかった。
別の意味でも、神功先輩と闘う理由が俺にあるのかと聞かれると、無い気もする。
それでも神功先輩は、「また明日も来る」と言って聞かなかった。
これは一体いつまで続くのだろうか…。

今日は任務が無かったので、麗亜高校の能力の解析だとかで俺と副会長はのけ者にされていた。
俺はそういうの苦手だし、副会長はみんなの邪魔をするので、厄介払いされるように昼の買い出しを頼まれた。
暇だったから調度よかったけど。
しかし、副会長プラス、純聖も一緒だというのがまた辛い。
奇妙で最悪な組み合わせで学校から出ると、商店街の方へと向かって行った。

先に距離を取る様に歩いていく純聖達を追いかけていると、会長の好きな店はどこだと聞かれた。
どこって言われても…俺会長とご飯なんてそんなに食べたことないし。
すると、後ろの副会長がスキップをしながら俺の横に並んだ。

「ボク知ってるヨ~♪ちょっと遠いけどどうせ早く帰っても終わってないでしょ?いこっか♪けってーい!」

勝手に自分で言って自分で決めている。
本当にマイウェイだ、この人は。
そして、横にいた俺の腕と純聖の頭を掴んで、引きずる様に歩いて行った。

純聖がぎゃーぎゃー暴れていると、全員の腕のブレスレットのアラームが突然鳴り響いた。
こんな時に他校か、とブレスレットへと視線を落とすと、すぐそこのラーメン屋にいるのが確認できた。
そちらを見ると、調度制服を着た男子生徒が数人出て来る。
どうやらあちらも俺達を狙ってタイミング良く出て来たみたいだ。

「愛輝凪高校かよ…そっち順調みたいじゃん?」

ブレスレットで高校名を確認すると、すぐ近くの西高校の(裏)生徒会と表示されている。
西高校は所謂ヤンキー校で有名で、頭の悪い奴等は大体そこに入学する。
俺も愛輝凪高校を受ける前は、その高校じゃないと無理だと先生に言われたこともあった。

「お、なんだなんだ?愛輝凪はガキが助っ人なのかよ?お遊びじゃねーんだぞ?」

どうやら純聖を見て言っているみたいだった。
明らかに横で不機嫌になるのが態度でわかる。

「おこちゃまは帰ってママのおっぱいでもちゅーちゅーしときなちゃいね~♪」

挑発してくるスキンヘッドが前に出てきた。
……どうなっても俺、知らねーぞ。

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【純聖】

「おこちゃまは帰ってママのおっぱいでもちゅーちゅーしときなちゃいね~♪」

プッチーン。
もうゆるさねぇ!丸焦げにしてやる!!
あー、こがしちゃ駄目なのか!ミディアムだな、ミディアム!!
こんな弱そうななりしやがって実力をわきまえろつーの!!

「愛輝凪高校助っ人、純聖。そこにいる、西高の奴ら全員に勝負を挑む。競技は喧嘩!!いざ、尋常に勝負!!」

俺がブレスレッドの光を西高の奴らに当てると挑発するようにあっちもブレスの光を当ててきやがった。
まぶしいつーの!!

そうすると、愛輝凪にまだ近かったからか、左千夫のとこのヒューマノイドが走ってきた。
いつみても獣じみた速さだ。
左千夫が一目置くだけある。

あっちは総勢五名、こっちは三名。
全員助太刀申請をしたので、三対五。

俺一人でも大丈夫なのにと思いながらペンダントを握り締めた。

「解除!」

「なんだよ、このガキ!武器も持たせてもらえてねーの!!はっはー!お前さては愛輝凪の弾よけだな、弾よけ!
弾よけは大人しく、弾に当たってな!!!」

そう言うとスキンヘッドの男が俺を目掛けて日本刀を振りかざしてきた。
鉄の武器なんて俺には効かないのに。

「ヒートヒュージョン…」

刀に片手を広げて触れさせると、どろりと刀の部分が融解していく。
ヒィ…、化け物…と、おののく声が上がった。
化け物じゃなくて人間なんだけど。

まぁ、いいや。こんなザコさっさとやっつけて、左千夫に弁当買って帰ろう。

そう言って俺が構え直した瞬間、呑気な声が後ろから聞こえた。

「だあー!!何してんですか!副会長!!」

「だって、イデちゃんたまに、鬼畜問題だすんだもん!!なゆゆ、これなんて読むの?
あれ、なゆゆもまだ、イデアアプリ解除出来てないじゃん。」

ナユタと九鬼の声が聞こえて後ろを振り返った。
なぜか二人とも携帯に向かって叫んでいた。
つーか、ナユタ武器どうしたんだよ、武器…!!

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【九鬼】

おチビちゃんが闘っている後ろで、イデアアプリが解けずになゆゆと二人で苦戦していた。
たまーにこのアプリ、ものすごく鬼畜な問題を出してくる。
期末テストで国語100点を取ってから、何故かそれが極端に多い気がする。
多分左千夫クンあたりが、イデちゃんにもっと難しくしてって言ったんだとは思うケド。

「解けたーーー!!解除!!!」

先になゆゆが問題を解いた。
彼に負けるのはなんだか悔しい。
頭を掻きながら問題の答えをあれこれ打っていくがまったく合わない。
暫く苦戦してやっとの思いで解けたころには、おチビちゃんが西高の奴等を全員ぶっ倒していて、スキンヘッドの頭を足蹴にしていた。

「おっさん意外と頭悪いんだなー」

憎たらしい笑みを浮かべて笑うおチビちゃんにイラっとしたが、ボクは大人なので態度には出さない。

「そういうおチビちゃんもこの間の算数のテスト、何点だったのかナ~?」

「…な、なんでおっさんがそれ知ってんだよ!!!」

「大人はなんでも知ってるものサ♪」

イタズラに笑ってやると、おチビちゃんはスキンヘッドの頭に足跡がつくほどにグリグリと押し付けていた。
こどもはからかい甲斐があって、かわいいなァ。

またイデアアプリが解けなかったら嫌なので、ブレスレットにすると、西高の奴等をそのままにしてボク達は目的の場所へと向かった。
その間に雑魚っぽい奴等を幾度も倒していく。
たまになゆゆに譲ってあげたりした。
ボクとおチビちゃんは今の所負け無しで点数もそれなりにあるけど、なゆゆはもうほぼ0に近かった。
トッキーとの習字勝負が無ければ、確実にマイナス領域に達しているだろう。

それにしても、今まで闘ってきた敵は、どいつもこいつも骨のない奴ばかりで、地区聖戦ってあんまり楽しくないなと正直ガッカリしていた。

「まだつかないんですか?お店」

30分以上は歩いただろうか。
なゆゆが疲れを露わにした表情でボクに声をかけてきた。

「もーそこだヨ、ほら、あそこの店!あのケーキ屋さん左千夫クン好きなんだ」

「ケーキって…お昼ご飯じゃないじゃないですか…」

「左千夫クンが好きな店、っておチビちゃんが言ったから仕方ないでショ?
どっちにしろ彼はデザートが主食みたいなモンだヨ。
ま、ボクは甘いの無理だからー…隣の中華料理屋さんの限定激辛特性弁当買って帰るヨ♪」

そう言ってボクだけ中華料理屋へと入っていった。

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【純聖】

お菓子か!!確かに左千夫はお菓子が好きだ!
俺が分けてやるといつもニコニコしている。

鼻歌を歌いながらショップに入ろうとしたら、なゆたに止められた。

「なんだよ、ナユタ。」

「俺はそこの隣の弁当屋で普通の昼飯買ってくる、ケーキはお前に任せていいか?」

そう言ってナユタは俺からお金を取って隣へと入っていった。

一人金を持ったまま店の前で佇む。

―――!!!俺、一人でケーキ買うの初めてかもしれねぇ!!
誕生日とか、いや、いつ生まれたかなんてちゃんとしらねーけど、左千夫が決めてくれた誕生日とかは左千夫が買ってくるし。
他は柚子由が買ってくる。

そもそも駄菓子くらいしかかったことねぇよ、俺!!

でも、ナユタに一緒についてこいなんて恥ずかしくていえねぇ!!

俺はグッとお札を握り締め、店に入る。
チリンっと音を立てながら扉が開いた。
するとディスプレイには色とりどりのケーキが並んでいた。
不覚にも俺の心はときめいてしまう。

な、なんとなく、今左千夫の気持ちが分かったぜ。

しかし、店内は女ばっかでなんか恥ずかしい。
さっさと帰ろうと先に会計用の皿にお金を置く。

「適当に九個くれ……。」

どれがうまそうとか余り分からなかった。
左千夫はなんでもうまそうに食うし、九鬼はいらないだろうし。
なので店員に任せることにしたけど…。
店員は少し困った顔をしてから、「オススメの順にしときますね」と、言っていてれくれた。

こういう触れ合いはまだ慣れないのが正直なところ。
おつりとケーキを受け取って外に出たところで、なゆたがこっちに走ってきた。

「今、作ってるから、ちょっと時間掛るって。」

両手で箱を持っていた、俺になゆたから言葉が掛る。
そして、那由多はまた弁当屋へと戻っていった。

その時だったブレスレットから音が響き渡る。

「ちぇ!なんで、昼飯がケーキなんだよ!!」

「僕にじゃんけんで負けたのだ。仕方がないであろう。
ただ、僕の気分がケーキだった、それだけだ。」

「あーはいはい。しっかし、ずっと二人こうどうつーのも、かったりぃなぁ!!」

「仕方が無かろう。お前はアホ過ぎる。」

私服だがブレスレッドとイヤフォンを付けた二人組が出てきた。
一人は本を片手に知的そうな男、もう一人はなんつーか見るからにヤンキー…。
ブレスには恵芭守(エバス)高校と記されていた。
恵芭守は十年前の優勝校だ。
今回もいい成績なので、左千夫が気を付けろといっていたが、こんなの俺の敵じゃない。

「ほう。愛輝凪か…。こことは一回戦ってみたかった。神功は敏腕だと聞いているからな。」

眼鏡を押しあげながらインテリ系の男が俺を見下げながら言葉にする。
左千夫のことよく分かってるじゃないか!と、思ったがなんかムカつく。

「おちびちゃーん!ちゃんと、一人で……って、あれ、他校?」

こんな時に九鬼が戻ってきた。
俺一人でもこんな奴倒せるのにな、と、俺がブレスを向けようとした瞬間、あちらからブレスが向けられた。

「恵芭守高校、加賀見匡(かがみただし)、愛輝凪高校に勝負を挑む。
競技は我が特殊能力によるスペル戦争、よって二対二の特殊戦闘となり、助太刀の場合も人数が合わなければ不可となる。
いざ、尋常に勝負。

set deployment Spelling World」

「恵芭守高校、田井雄馬(たいゆうま)、加賀見匡のペアとして参戦する。」

…………?????
これ、なんだ、初めての形式が。
国語で勝負とか、数学で勝負とか、そんな感じは左千夫に教科書を用意して貰ってるので速読でヒューマノイドが来るまでに覚えたらなんとでもなる。
このまえの、算数は、ちょ、ちょっとだけ失敗したんだい!!
でも、スペル戦争ってなんだ、そして、俺と九鬼は確実に巻き込まれてしまった。

「なぁ、スペル戦争ってなんだよ。」

俺は九鬼を見上げながらそう呟いた。

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【九鬼】

浮かれた表情で弁当屋から出てくると、おチビちゃんが他校に絡まれていた。
どうやら十年前の地区聖戦優勝校の恵芭守高校のようだが、奥にいる胴着を着ている金髪頭、田井雄馬の事は知ってる。
とある裏の大会で顔を見たぐらいだったが、あいつ恵比寿高校だったのか。

そしてなにやら今からスペル戦争というものをしなければならないみたいだ。
しかもおチビちゃんとペアで。
「スペル戦争」が何なのかと聞かれたが、名前は聞いたことがあるけれどやり方はまったく知らない。

「ね、ちゃんと詳しく教えてヨ、意味わかんないまま戦えないし」

目の前の二人へと尋ねる。
丸メガネの黒髪、加賀見匡が喋ろうとしたのを遮るように、田井雄馬が説明を始めた。

「スペル戦争とはその名の通り、言葉での戦争。
殴る、蹴るの行為を必要としない戦争だ。

まずは、犠牲者と執行人に別れる。
犠牲者はただただ攻撃を受けるだけといった簡単な役割だが忍耐が必要だ。
逆に執行人はスペルを持って攻撃をする。

簡単な話、炎の矢よ、佇む小さな敵を貫けと言えば、炎の矢が出来て、そこの子供に飛んでいくと言う話だ。

あくまでもこれは俺のテリトリーで起きている話。
ダメージは数値化されて、犠牲者の体力がゼロになった時点で負けとなる。
その場合現実世界では何もダメージはくらっていないが、精神的ダメージは皆無とは言えない。

後、負けた方は完全拘束されることを覚えていて欲しい。
まぁ、負けて見れば分かる話だな。
ちなみに俺は犠牲者、匡ちゃんは執行人、そっちはどうする?」

ふむふむ、なんかゲームみたいな話だ。
新しくて面白いかもしれないと思いながら、おチビちゃんへと視線を落とした。

「んーなんか良くわかんないから俺犠牲者?攻撃受ける方でいい。忍耐ならおっさんよりありそーだし」

「言うねェ?じゃ、ボクしっこうにーん」

正直やってみないと良くわからないが、骨のありそうな相手なので、少しぐらいは楽しめるかもしれない。
場所の移動などは無いまま、辺りに結界が張られると、「執行人」の加賀見匡が前へと出てくる。
その後ろに「犠牲者」の田井雄馬がいる。
ボク達も同じような立ち位置になると、二人へ向けてイタズラに笑った。

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【純聖】

俺は九鬼の後ろに立つことになった。

九鬼がでかいからあんまり前が見えない。
それから、ヒューマノイドが走ってきた。
今回は普通の男の子の容姿をしていた。
どうやら、相手の加賀見ってやつの能力のお陰で結界は既に形成しているらしい。

加賀見は黒髪で眼鏡を掛けているおかっぱ。
田井は金髪で道着を着ていてなんだか、ゲームに出てきそうなキャラだ。
きちんと覚えておいたほうが後で左千夫に報告しやすい、けど、ここで倒しまえば報告することもないか。

「ソレデハ、イマヨリ、トクシュセントウヲハジメル」

「手始めにそちらから。
僕は優しいので先攻を譲ってあげるよ。」

上から見下げたように加賀見が言った。
こういうこと言う奴は嫌いだけど、左千夫は貰ったチャンスはものにしろと言っていたので考えないことにする。

「えーっと…とにかく何か言えばいいんだよネ?金髪ムキムキ君にすっごい炎よ飛んでけー♪みたいな?」

そう言った瞬間に炎の丸い弾が出来て、田井に向かって飛んでいく。
すげー!!アニメみてぇだ!!
俺はわくわくして見ていたが直ぐに加賀見は言葉を綴った。

「察しが良いな。その回転の良さは尊敬に値する。
しかし、そんなちんけな炎では僕の下僕には届かない。
一つの炎では届かない。
逆に無数の燃え盛る矢となり、ここに存在する一番小さな標的を打ち抜け!」

加賀見は眼鏡を持ち上げながら返答した。
そして、指を鳴らした瞬間、飛んでいっていた炎が更に大きな炎に呑みこまれてこっちに飛んでくる。
加賀見の後ろで「もー、下僕つーなよ!!」と、田井が騒いでいたけど間違いなく炎はこっちに飛んできた。

「うわッ!!」

「跳ね返されちゃったー。おチビちゃん大丈夫?」

「大丈夫じゃねーちょーあちぃ!なんであちいんだよ!俺、能力つかえねー!!?」

俺は炎が当たる部分の熱を上げようとしたが何も起きなかった。
はっきりってめちゃくちゃ熱いがやけどはしていない。
しかし、炎が当たった部分に黒い革製の手錠みたいなものが嵌められている、これがダメージをあらわしていると言うことか?

「言い忘れたが、能力にもスペルが必要だ。」

加賀見が俺を見つめながら言った。
ど、ど、ど、どういうことだよ!手熱くなれとかそんなんかよ!!!!

理解が及ばない戦闘に俺は頭を抱えた。

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【加賀見匡】

このスペル戦争になると大体の奴等は戸惑うが、僕は容赦などしない。
慣れてくればそれなりにスペルが上達するだろうが、目の前の銀髪の男はどうだろうか。
続いてその男が考えるような仕草を取った。
さあ、見せて見ろ。
どうせ僕には勝てんだろうがな。

「次はそうだなァ…。
ボクってあんまり炎ってイメージないしなあ……やっぱ透き通るような綺麗な水って感じだよネ!
金髪ムキムキ君に、ビンビンに尖った氷の雨が降り注げ―!」

そう言うと、空から大量の氷の雨が降ってくる。
しかしスペルに関しては凄まじいほどに幼稚だ。
それに気持ちの悪い悪意が籠っていて、それがスペルの邪魔をしている。
ため息をつくと、眉を顰めながら九鬼を睨みつけた。

「貴様の言葉は幼稚過ぎる、流石異国の民だな。
そんなもので、僕の持ち物を犠牲に出来る訳が無いだろう?
にぎやかな囚人たちよ、巻き起こる竜巻によって四肢を分断されたまえ。
風の聖霊よ、凍てつく氷ごと、我が敵をのみほせ!!」

スペルを口にすると、激しい竜巻が氷の雨と共に相手を巻き込んでいく。
もちろん雄馬にはダメージは皆無だ。
こんなもので下僕に傷をつけられたら、たまったものではない。

両手をクロスして竜巻の風を受けているが、そんなものは無意味だ。
確実に目の前の子供の身体にはダメージが与えられ、更に拘束されていく。
子供をこんな事に巻き込む趣味は無いが、地区聖戦に出ている以上そんな甘い事は言ってられない。

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【純聖】

「うお!!おっさん!!ガードしろよ!!こっちに直攻撃くるつーの!!いてーんだよ!!特に風系は俺防ぎようね―つーの!!!」

俺は両手を盾にして受けたが痛い上にそれもダメージとして蓄積されていく。
両手にグルグルと幾つもの皮のバンドが巻き付いた。
勿論外そうと思っても外れない。
最後は少し大きめの皮バンドで両手を拘束された形になる。
こうなってきたら俺は身動きが取れなくなる。

「ガード?あ、そっか、そういうこともできるんだネー。次はちゃんとやるから頑張って耐えて♪」

耐えれるかぁ!!!!
全く違う。
痛いのとかは耐えれるんだけど拘束になってきてダメージが目に見えるから自然と恐怖が襲ってくるんだ。
このまま拘束されたらまたどこかに売り飛ばされるかもしれない。
そんな、トラウマの恐怖。

勝手に息が荒くなる。
勿論、九鬼にそんなこと言えない。

「幼稚って言われてもさぁ…ボクこういう非現実的な事あんまり好きじゃないんだよネー。」

九鬼が頭を掻きながら言葉を練っている。
前の眼鏡の男は暇そうに冷たい目のままだ。
しかも、初めから読んでいる本は閉じられず開いたままだ。
これはヤバいかもしれない。

俺はこの時不安を感じていた。
このゲームは執行人と犠牲者の絆が大切だとか、そんなことまで考えてないし。
この、九鬼とか言う得体のしれない男を信じることもできなかった。

「次何にしよっかなー……電流とかいいかもネ。
…空から降ってくる高圧電流がー…ムキムキ君の身体を超痛い感じにビリビリにしちゃってー!特に大事な部分!!」

悠長な言葉が空気中にとけていった。

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【加賀見匡】

なんなんだあの男は。
大事な部分とはなんだ?遊びで闘っているのか?
先ほどから言葉の端々に特有の気持ち悪さを感じる。
不真面目で不潔。僕が一番嫌いな人種だ。

眉間の皺を更に深くすると、眼鏡を指先で正す。

「…空から降ってくる高圧電流、即ち雷など我が下僕には効かない。
なぜなら強靭な肉体を持っているからだ。
我が下僕よ、僕が授けたEの58のスペルを駆使し、愚民どもの攻撃を防げ!
そして、その力をそのまま駆使し、低能な民を切り裂け」

下僕、すなわち雄馬に対するスペルコマンドを口にする。
雄真も大概の筋肉馬鹿だ。
なので高等スペルは彼に直接言わせるのではなく、全てコマンドに割り振っている。
これを口にすれば、雄真は自然と攻撃体勢へと入る様になっている。

するとすぐに雄真は口を開いた。

「加賀見より授けられし、高等なスペル。
我が特殊能力を駆使してそれを膨大なものにする。
雷よ、我が右手に堕ちろ。
そして、我が右手の水分は移動し、その分の筋繊維を増やせ。
雷の力を逃がすと共に、地面を這いながらその力を相手に返せ。」

雄真の特殊能力は筋肉操作。
スペル戦争は、「犠牲者」もスペルを言う事で自分の特殊能力が使えるようになっている。
それをうまく利用し、奴等に攻撃を与えるのもまた攻撃の一種だ。

雷が雄真の右手に堕ちると、筋肉が増強する。
そして強力な落雷の力が地面を這いながら九鬼と子供へと放たれて行った。

「絆が無い、貴様たちが、深い鎖で結ばれた我らに勝てる訳が無い。
その、絆の無さの通りに身を裂かれるが良い。」

冷めた表情で目の前の二人を見つめる。
スペル戦争に絆は必須だ。
わざわざ攻撃を受ける中心を「犠牲者」と名付けているのもそれを示唆している。
信頼関係の無い奴等に、このスペル戦争で勝利を手にすることなどできない。

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【田井雄馬】

匡ちゃんのコマンドスペルは難しいものばかりだ。
ちなみに戦闘中は匡ちゃんつーとすっげぇ怒られるから加賀見っていってるんだけど。

それにしてもあの銀髪、九鬼だよな。
一時期地下闘技場を騒がしていた奴だ。
俺は直接手合わせしたことねーけど、確かすげー強い筈。
まぁ、実際、喧嘩の実力が高くてもスペル戦争で勝てるかつーっとそう言う訳ではねーからな。
しかたねーんだけど、色んな意味で酷過ぎて匡ちゃんがこえーよ。

「ぎゃ!!」

「いたたたああ!!!け、…結構これ効くネ…ボクに対しても攻撃できるのかーこのままだとまずそうだネ♪」

地を這う雷が二人を攻撃した。
基本的には犠牲者の俺達が攻撃をくらう。
勿論、執行人にした攻撃も俺達が賄うことができるが、まかない切れなかった場合、絆が浅い場合は執行人にもダメージが行く。
それは犠牲者として一番しちゃならない、だって攻撃の手が鈍ったら相手倒せないだろ?

弾避けは全部の弾に当たらなきゃならないんだ。

「…おっさん、俺もう、やべぇーぜ。」

「えー頑張りなヨ!」

どうやら、ちびっこい方が先に精神的に駄目なようだ。
黒い皮ベルトが両手足に巻きついて、最後は大きめのベルトが手足を動かせないように前で結んでいる。
頑張れる状態ではないだろう。

「そうだなー眼鏡君とムキムキ君の足元の地面が割れて、そこからあっつ~いマグマが溢れ出てきちゃう!!!」

九鬼がそう言った瞬間俺達の勝ちは決まったようなもんだ。
九鬼も片手を拘束されている。
そして、ここは土では無い、ただの道路だ。
非現実でもいいが、理にかなわないといけない、非現実なら非現実を貫かなければならない。
それを彼は行えていないのだ。

前の匡ちゃんから不穏な空気を感じる。
そうだよな、弱過ぎても機嫌悪くなるもんな、匡ちゃん。

「いい加減にしろ、この愚民が!!そのような、低脳なスペルを用いて、この世界の王である我を倒せるとでも思っているのか。
我が地面は割れない、ここは只の道路だ。
そこからマグマが噴き出る筈が無い。
紛い物の言った言葉に世界が屈する筈が無い。
我がしもべ、雄馬よ、その拳を前に突き出しこの二人を圧せよ。
強靭な力を持って、二人をなぎ倒せ。」

そうそう、ここは匡ちゃんが作った世界だから王様。
それに対抗してくる相手は市民。
それは理に適ってる。
そして、打ち消しでマグマを消しちゃった為ひび割れそうになった地面は元に戻っていった。
ターン攻撃に近いからこんなことは余りないんだけど、多分今回は相手が弱過ぎるんだ。

そして、これもコマンドスペルだ、俺の腕はさっきのコマンドで筋肉が集まっているからこれを突き出せば終わりだ。

辺りの風が腕に集まってくる。
そして、捻りを咥えてやると幾つものカマイタチが起こり二人へと飛んでいった。

「うぁぁぁあああああああ!!!」

おちびちゃんが黒で覆われていく。
目隠しをされ、黒い皮ベルトで全身をぐるぐる巻きにされている。
これが、完全拘束。
そして、こちらが勝利したと言うあかしだった。

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【九鬼】

かまいたちの強烈な痛みに顔が歪んだ。

まずい、多分これは負け確定だ。
おチビちゃんは姿が見えない程に拘束されてしまっている。
ボクも手足が少しばかり拘束されているが、比にならないほどおチビちゃんはグルグル巻きだった。

「んもーなんでもありなんじゃないのー!?」

「なんでもありだからこそ、貴様の幼稚な文章を打ち消せる。
逆に僕の文章が劣るなら、打ち消されずダメージが残るんだよ。」

眼鏡クンはイラついた表情でボクにそう告げた。
全然意味がわからない。
なんでもできると思っていたのに、理に適っていなければ無理、という様な事を言われると、口先を尖らせた。
おチビちゃんはまったく動かない。
どうやら体力数値も0になってしまったようだった。
直接攻撃できないので、ボクにとっては物足りない闘いだったが、負けは負けだ。

「ふん…愚民め……」

眼鏡君に愚民と言われると片眉が動いた。
しかし仕方ない、ボクらの負けだ。
ブレスレットから音が鳴ったので目をやると、ポイントが差し引かれていた。
初めての負けがこんな風に訪れるとは、ああ、ムカつく。
身体がざわつく感じがしたが、再戦する気力は無かった。

スペル戦争が終わり、辺りの結界が無くなると同時に、ボクとおチビちゃんの拘束が解けた。
側に弁当を持ったまま立ち尽くしているなゆゆが現れる。

「た、…闘ってたんですか?結構長かったですけど……」

結界内に居なかったので状況がわからないのだろう。
おどおどと、ボクとそこに倒れているおチビちゃんを交互に見つめる。

「うん、負けちゃったー」

口角だけあげたが、目は多分笑ってないのがなゆゆの表情で分かった。
眼鏡クンとムキムキクンは、勝利したことは当たり前だという雰囲気を醸し出していた。
負けた事実を感じることを長引かせたくもないので、相手側に声もかけずにさっさと帰ろうと地面に落ちている弁当を手に取る。
すると、なゆゆの声が聞こえた。

「純聖?…どうした……?」

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【純聖】

どうなったんだろ、俺は…。
ここどこだ。
真っ暗で何も見えないし、手も動かない。

誰かの声が聞こえるなんて言っているかまではわからないけど。

そして次の瞬間、俺の瞳に光が入ってきた。
どんどん手足も動く様になっていく。

外?
逃げれる?
捕まった?

色々なクエスチョンマークが頭の中に浮かぶ。
そうなれば俺の本能が顔出す。

殺せ。
殺さなければ生きることが出来ない。
殺して初めて一人前だ。

殺せ、殺せ、殺せ、殺せ。

「…………ろせ、コロセ、コロセ、コロセ…」

俺は真っ直ぐに恵芭守の二人を見た。

そうだ、こいつ等殺さなきゃ。
俺が殺される。
大丈夫、今までだってちゃんと殺してきただろ。
二人くらい簡単に殺せる。

頬を伝う汗が掌に堕ちた。
じゅっと音を立ててその水分は蒸発していく。
そう、俺の手は今考えられないほどの高温を有している。
立ち上がるが、足もとがおぼつかない。

ああ、でも、殺らなきゃ、殺られる…。

「……純聖!!!!」

その瞬間、俺は何かに体を包まれた。
俺の直ぐ横に顔が有る。
ナユタだった。

ナユタ?

「大丈夫、終わったから!!
……負けちゃったけど、取り合えず終わったから!!」

終わった?

「殺さなくても、いいの?俺は殺されない…?」

掠れる様な声が落ちただけだった。

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【千星那由多】

俺が店から出て来たら副会長と純聖が闘いに入っているようだった。
最初はどこかへ行ってしまったのかと思ったが、ブレスレットで居場所を確認すると、しっかりとこの場所に副会長と純聖の名前と、恵芭守高校の二人の名前が載っていた。
俺は結界の外にいるので、どういった奴等とどんな戦いをしているのかもわからなかった。

長い間その場で立ち尽くしていただろうか。
結界が解けたかと思うと、目の前に身体をぐるぐる巻きに拘束された純聖と副会長が出て来てぎょっとした。
相手だったであろう二人は、まったく拘束はされていない。
副会長が負けたと告げた時にその拘束の意味がなんとなくわかった。
そして、何やら副会長の機嫌が悪そうだ。

そんなことより、と、慌てて純聖に駆け寄り、皮の拘束を解いていく。

「…………ろせ、コロセ、コロセ、コロセ…」

そう呟いているのが聞こえて背筋に悪寒が走る。
拘束が解けた純聖の目は、見たこともないほど恐ろしい眼差しだった。
その先には、恵芭守高校の二人がいる。
非常に今の純聖が危ないのはすぐにわかった。

どうすればいいかなんて考える暇も無く、俺は純聖を止めるように抱きしめていた。
小さな身体が微かに熱い。
闘いは終わったと告げた後、純聖からこぼれ落ちた言葉に、胸が締め付けられる。

過去にこいつに色々あったのは知っている。
でも、何をされたまでは知らない。
それがさっきの闘いか、もしくは今の拘束で蘇ったのだろうか。
俺にはそんなこいつの気持ちを、この場で解消してやることなんてできやしない。
歯がゆさと悲しさに、更に強く抱きしめてやる。

「大丈夫、殺されないし、殺さなくていいから…みんな、お前を守ってくれるから…」

そう言うと純聖の身体が冷えはじめたのが分かった。
俺の背中に回ろうとしていた手の熱も無くなると、抱きしめたまま安堵の息を吐いた。

「純せ…――――へぶっっっ!!!!!」

「きもちわりー!!!何すんだよナユタ!!おまえそーいう趣味持ってんのかよ!!」

完全に我に返ったのか、純聖は俺を押し飛ばすと大声で叫び始めた。
ちょ、待て、人が見る人が見る!勘違いされる!!!
持ち直したのであろう純聖は、地面に落ちているケーキの箱を持つと、そのまま恵芭守高校の二人の間を割り裂くように「次は負けねー!!」と叫びながら走って行った。

取り残されてしまった俺も、すぐに二人を追うように走り始める。
不敵に笑う眼鏡の男と、胴着を着た金髪の男は俺に何も言う事は無かった。

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【神功左千夫】

イデアの地下のアトリエを借りて麗亜の能力を使っている際のDVDを貰ったのでデータを分析していたのだが…。

「負けたー!!!まけた!まけた!!」

純聖が騒ぎながら帰ってきた。
こうやって騒いでるときは何か聞いて欲しい時だ、触れて欲しくない時はムスっとして帰ってくる。
まぁ、どちらで帰ってきたとしても何かしらフォローは入れて置かないといけないのだが。

その後ろをついてきた九鬼も機嫌の悪そうなオーラを出していたので、お前もかと思ってしまい、僕は瞬いた。

「取り合えず、一度休みましょうか。」

時計を見るとお昼など当に越えていたので、アトリエの一角にあるテーブルの上を片付けた。
幸花は純聖に情けない、等罵っている。
まぁ、あれはあれでいい治療になるので置いときたいところだが。

「純聖、九鬼、那由多君、ブレスレッドを僕の物に翳して下さい。」

戦闘はここに記憶されるようになっている為取り合えずデータだけでも見て置きたいと思った。
あの九鬼が負けたのだ。
二人とも怪我は無いので普通の戦闘では無いと思うが。

「あ、俺、参加してません…」

那由多君がそう告げてきたので特殊戦闘の色が濃くなった。

「他の高校との戦闘記録も一度回収しておきたいので構いませんよ。」

彼らの記録を僕と晴生くんのブレスレッドに移動させて置く。
それからは昼食だ、まずは那由多君が買ってきてくれた弁当を広げて各々好きなモノを取っていく。
意外にこのみが別れているので僕は最後まで待っていても好きなモノが残っている。
誰かさんも、負けたのがよほど悔しいのか悪戯をしてくる気配もないし。

それから、僕は昼食を取りながら小型のノートパソコンで純聖と九鬼の戦闘を見た。

「完敗ですね。」

内容は恵芭守高校との特殊戦闘だった。
なるほど、スペルを用いた戦争か、これになるとこの二人は勝てないだろう。
しかも思い思いスペルで争う訳では無く、相手の犠牲者をどれだけはやく壊せるかというものになっている。
攻撃の仕方もターンせいだ。
色々とややこしいルールが付きまとっている。

「そうなんだよ!!こんなややこしいのズルイヨネ!!負けちゃった~キスして慰めて~!!」

いつものように九鬼が絡んでくるがいつもとは少し様子が違った。

「……キスして機嫌が直るならしてあげますよ?」

こう装ってはいるが彼もプライドが高い。
僕にこう言われるのは一番嫌な返答だろう。
後ろから纏わりついていた九鬼の様子が一変した。
そして、僕から無言で離れていき自分の席へと戻った。

「治らないからいいヨ、その代わり勝ったらキスして。」

いつもより少し静かな声音で彼は告げていた。
そして、自分だけ別に買ってきたのだろう弁当を開いている。
打たれ強そうに見えるが、こんな繊細な面もあるのかと改めて思い知らされて少し笑ってしまう。
一通り録画を見終わると、まだご飯を口にしていたない純聖を膝の上に呼ぶ。
要らないと言う彼にご飯を食べさせていく。

「九鬼は少しスペルの練習をしないといけませんね、純聖は調度いい。
もし、こんどあったら幸花と組みなさい。」

「えー!!ボク、左千夫クンと組むなら絶対犠牲者でしょ?なら、練習なんていらない。」

そう言う簡単なゲームでは無いのだ。
これは。

とても複雑な成り立ちをしてるゲームに僕は溜息を吐いた。

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【千星那由多】

みんな買って来たお弁当に手をつけていく。
会長は先に純聖を食べさせてから食べるのか、ケーキの箱は机の上に置かれていたままだった。

副会長と純聖はスペル戦争、という特殊戦闘をしていたらしい。
話を聞いていると、なんだかゲームっぽくておもしろそうだったが、どんどん頭がこんがらがってきたので多分俺には向かない気がする。

「えー!!ボク、左千夫クンと組むなら絶対犠牲者でしょ?なら、練習なんていらない。」

「そう言う訳ではないんです。 このゲームは執行人がしっかりしていれば成り立ちそうですが。
確りしていなければならないのは犠牲者の方。 犠牲者が、執行人を操るゲームです。」

純聖の口へと食事を運びながら、淡々と会長が告げて行く。
確かに名前だけだと犠牲者より執行人の方が偉い気がするし、執行人がスペルを言うのだから絶対的支配者なのかと思っていたが、そうでもないらしい。

「えーでも眼鏡クンとムキムキクンはそんな感じなかったヨ?」

「人は見かけでは分かりませんからね。一番の要はこの後ろにいる方ですよ」

副会長は会長の言葉に納得できてないような表情をしたが、簡単な相槌を打つと、二個目の弁当の蓋を開けていた。
暫くして、弁当を全員が平らげると、三木さんがケーキの箱を手に取る。

「ここ、左千夫様の好きなケーキ屋さんですね。
味もおいしいですけど、宝石みたいに綺麗なケーキで有名ですよね。」

そう言うと会長のとさかがピンと立った気がした。
昼飯にケーキというのもなんだが、俺達は食後のデザートになるのでいいとしよう。

「俺が買ったんだ!種類わかんなかったから適当に選んでもらったけど…柚子由開けて!」

純聖が嬉しそうに机の上に乗り上げると、座っていた会長に抱え上げられていた。
元気もあるし、戦闘の後にあった事はもう大丈夫そうだ。
机の真ん中にケーキの箱を置くと、三木さんがそれを開いていく。
そして全員がどんなに綺麗でおいしそうなケーキなのかと覗き込んだ。

が。

無残にケーキはぐちゃぐちゃで、苺は散乱し、クリームたちがバトルし合い箱の内側にくっついていたりと、「宝石の様に綺麗なケーキ」は「戦場の様に悲惨なケーキ」になっていた。
純聖の顔が蒼白になる。
もちろん全員の顔も引き攣っていた。
そういやあいつ結構振り回して持って帰ってた気が…。
注意しとけばよかった……。

「ぐっちゃぐちゃ、最低純聖」

幸花のぼそりと呟いた声が静かな部屋へと響く。

「戦闘したんだぞ!け、結構遠かったし!量も、あったし………………ごめん、左千夫…」

最初は威勢よく反論していたが、後半はしゅんとなり俯いて会長に謝っている。
しかし会長は特に怒ることなどもせず、純聖の頭を撫でてあげていた。

「口に入ってしまえばなんでも一緒です。ありがとう、純聖」

そう言うと純聖はたちまち笑顔になった。
本当にこいつは会長と俺達への態度がまったく違うな、とも思ったが、それほど会長を信頼していて大好きなんだろう。

その後、ぐちゃぐちゃになったケーキは取りだす事も難しそうなので、全員でケーキの箱の中身を直接突きながら、今後の事について話を進めていった。 


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