あなたのタマシイいただきます!

さくらんこ

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isc(裏)生徒会

地区聖戦ラディエンシークルセイド

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【千星那由多】

…頭が痛い…。身体もだるい。動きたくない。
朝、巽に起こされると全裸で床に突っ伏していた。
昨日の記憶が一切ない。
確か怖い話をし始めて、蝋燭がでてきて……だめだ、そこからまったく思い出せない。

そして今日から地区聖戦だということをすっかり忘れてしまっていた。
こんな状態で誰かに挑みでもされたらまずいかもしれないが、かと言って引きこもっているわけにもいかないだろう。

「みんな良く寝てたネ!良い時間だし、お昼でも食べに行かない?ボクいいお店知ってるヨー」

副会長は一番元気そうだった。
しかしこの声…今の俺には酷く頭に響く。
皆も同じことを思っているのか眉を顰めていたが、渋々動き始めると、会長に引き止められた。

「那由多君、大事な物を忘れていますよ」

そう言って渡されたのはイヤフォンとブレスレットだった。
そうだ、今から外に出ると地区聖戦「ラディエンシークルセイド」が開始される。
これを忘れてしまっては意味がない。
それにしでもまだ地区聖戦が始まると言う実感がわかない。
本当にそんなものが行われるのだろうかという気さえしてくる。
二日酔いもプラスされて、もう全てがだるくてたまらなかった。

靴に履き替え玄関から出る。
カードキーを何度か差し込み厳重にロックをかけると、外へと出た。
ああ…夏の日差しがこんなにもうざいとは…。
冷房が効いた部屋でごろごろしてゲームしたい。

そんな事を考えながら、マンションから全員が出た所で、見慣れた顔が目の前に現れた。

「左千夫…やっと出て来た」

そこに立っていたのは、俺に似た天然パーマの男。
神功十輝央先輩だった。

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【神功左千夫】

幸か不幸か怪談話をした後の記憶が無い。
朝起きるとちゃんと毛布には包まっていたが全裸だった。
何が有ったか考えたくないので昨日のことは忘れることにして、「ラディエンシークルセイド」の準備をする。

シャワーを浴びて持ってきていた服に着替え、外に出る準備をすると調度那由多君が起きた。
そして、そのまま昼を食べに行くことになる。
和食が良いと僕が呟いたので九鬼の行きつけの店に行くことになった。

体がだるかったが、いつも正常と言うことは無いのでこういうのも慣れている。
そして、僕が嫌いな日光が自分を照らした瞬間に声が響き渡る。

「左千夫…やっと出て来た」

その声は十輝央兄さんのものだった。
僕は態と嫌そうな顔を作る。

「勝負だ左千夫!ろ―――」

「ちょっと待って下さい兄さん。
僕は能力が開花しきって無い貴方と戦うつもりはありません。
……そうですね、僕のチームの那由多君を倒せたら、勝負してあげますよ。」

十輝央兄さんを見下すように告げる。
兄さんのリミッターを外す作業はイデアに既にして貰っている。
しかし、能力開花まではいかなかったようだ。
僕と同じように今は携帯のイデアアプリで全て制御されていることだろう。
兄さんは壁を与えればその壁を必ず越えに掛る、しかも一番難し方法で。
十輝央兄さんの後ろに秘書の錦織が居た。
今回の兄さんの件は彼が一枚噛んでいるのだろう。
イデアは序に彼のリミッターも外したようだ。

「なら、仕方ないね。那由多君、君は何が得意なの?」

「え!…その、得なものは…特に無い…ですが、字は綺麗って、言われます。」

「じゃあ、決まりだね。
ロシュネ高校助っ人、神功十輝央、競技は習字。
千星那由多、――――――いざ尋常に勝負!!!!!!!」

そう言った瞬間、兄さんのブレスレッドの光が那由多君に当たる。
兄さんと那由多君のブレスレッドが光った。
イヤフォンからも何か聞こえているようだ。
そして、この辺りに結界が張られる、平和な競技なので僕達は那由多君を置いて軒下へと移動した。

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【千星那由多】

何故か神功先輩は会長に勝負を仕掛けはじめる。
そして流れのままに俺が相手をすることになってしまった。
ていうかちょっと待て。
なんで神功先輩が会長に勝負を挑んで来るんだ?(裏)生徒会の事も、地区聖戦の事も知ってるのか?

意味が分からないまま得意なことを聞かれる。
褒められた事があるのは字を書くことぐらいしか思いつかなかったので、素直にそう答えてしまった。
すると、神功先輩はさっさと話しを進めていき、「羅呪祢高校」の名前を口にした。
確か、一度違法ドラッグの囮になった時に絡んだことがある高校の名前だ。
しかも助っ人と言っている。…じゃあやっぱり神功先輩は俺達の敵になるのか…?

そんな事を考えていると、ブレスレットが光を放ち、イヤフォンから「Wait」という英語が聞こえた後、「ヒューマノイドの到着までしばしお待ちください」という機械音のようなアナウンスが流れた。

「え、あ、ちょっ…どういうこと…」

今の状況が良くわからずにテンパっていると、猛スピードで何かがこちらへ向かってくるのが見えた。
砂煙をあげながらそれが俺達のすぐ側で止まる。
風に煽られ薄く閉じた目をゆっくり開くと、デカイ板を背負った赤いワンピースの金髪の少女、イデアがそこにいた。

「ナユタが一番初めトハ…」

俺の顔を見た途端にため息をつくような仕草をする。

「悪かったな!!なんかこうなっちゃったんだよ!!」

「相手はトキオか…精々ガンバルことだナ」

嫌味のような事を言った後、イデアの瞳が更に赤く光った。

「コレヨリココノ勝負は‘イデアロス’が取り仕切る。
競技は習字、勝敗はワタシのデータに基づく」

そう言った後、背中に背負っていっていたデカイ板を地面に敷くと、俺と神功先輩の前に習字のセットを設置した。
そして座布団まで敷かれる。
本当にこの場で習字をしなければいけないらしい。
結界が張られているので、周りの人達には俺達が何をしているかはわからないだろうけど…なんか妙に恥ずかしい。
…仕方ない、これは勝負なんだから出せるだけの力を出し切ろう。
俺の字は会長のお墨付きなので、負けるわけにもいかない。
座布団へと正座すると、神功先輩が頭を下げた。

「よろしく、千星君。負けないからね!」

「あ、は、はい…」

つられて頭を下げると、お互い筆を手に取った。
……そう言えば何を書くのか決めていない。

「で、何の字書くんだ?」

イデアにそう言うと、じっと半紙に目を落としていたイデアが顔を上げた。

「そうダナ……『阿鼻叫喚』…でイクカ」

またイデアらしい四文字熟語だなと呆れた顔で笑うと、俺は筆を墨へとつけた。

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【天夜巽】

「これ、どういうことだよ。」

日当瀬が会長に聞いている。
僕も聞いておきたいどういう経緯で神功十輝央先輩が敵になったのか。

「……簡単に話すと家督争いですかね。
僕達と一緒にラディエンシークルセイドに出たいと言われたんですが、断ったので。
どうやら、羅呪祢から参加することになったみたいです。」

会長はいつもの笑みのまま答えていた。
それ以上は答える気が無いのか会長は腕を組んだまま那由多達を見つめている。
この競技もイデアが開始を言うまでは助太刀出来るのだが、那由多の字はおりがみつきなので、俺達が参加すると那由多の足を引っ張るだけだろう。

「まぁ、いい。どうせ、この勝負は千星さんの勝ちだろう。
アンタも兄のこと分かってるくせに酷いこと言うな。」

そう言って日当瀬はブレスレッドをパソコンの画面の様に変形させ始めた。
後ろから見る限り、近くに敵が居ないかを確認しているようだ。
これは、きっと彼だから出来るのであり僕達には出来ないだろう。

「ソレデハ、両者、筆を取れ。
いさ、尋常に、―――ショウブ!」

イデアちゃんの掛け声とともに勝負が始まる。
こうなるとこういった勝負ではもう横やりは入れることが出来ないだろう。
戦闘の場合はいつでも参加オッケーのようだが。

僕は首を伸ばす様に両者の字を見つめた。
那由多は合いからず、見やすくて綺麗な字だ。
十輝央先輩も決して悪くない。

二人ともほぼ同時に書き終わったようで、筆を置いた。

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【神功十輝央】

千星君の字がうまいという話は前々から錦織から聞いていた。
それを左千夫が認めているという事も。
小さい頃からボクも無駄に習い事をさせられていた中に書道もある。
千星君は生まれつきのものらしかったので、段も持っている以上負けたくなかった。

書き終わり筆を置くと、愛輝凪高校のヒューマノイドのイデアロスが機械音を立てながら僕達の字を判定していく。
ロボットなのでプロ並みの精巧な判定をしてくれるだろう。
夏の日差しのせいで額から伝う汗を拭うと、イデアロスが機械の様な声をあげた。

「ハンテイシュウリョウ、ケッカホウコクニウツリマス」

目の前にいる千星君も多分これが最初の競技だろう。
緊張しているのか、ガチガチに固まったままイデアロスを見つめている。

「…判定結果が出タ。二人トモ申し分ナイ字だったが……

5点差でナユタ、お前の勝ちだ」

「え、ま、マジで…?」

「マジダ」

「よかったー……」

…負けてしまった。
やっぱり左千夫が認めただけはある。僕も少し調子に乗っていたかもしれない。
千星君はそこまで喜ばず、ただ安心しているといった様子だった。

「あー負けちゃった…。無茶を聞いてくれてありがとう、千星君」

そう言うと僕は千星君に握手を求めた。
おずおずと差し出された手をしっかり掴むといつものように微笑む。

「でも、また明日来るから」

僕が続けた言葉に驚いた顔をしたが、僕だって負けたまま帰るなんて嫌だ。
このまま何度も勝負を挑んでもよかったが、さすがに左千夫に止められるだろう。
握手を交わしていた手を離すと、左千夫の方へと顔を向けた。

「負けちゃったよ、でもまた明日来るから!今日はいっぱい字の練習しなきゃね!」

そう言って立ち上がると、錦織が側に寄ってくる。

「じゃあね、千星君」

僕が立ち去るまで驚きを隠せないといった表情で彼は見送ってくれた。

……左千夫以外に負けていたら意味がない。
早く辿り着かなければ。
どんなに無駄な事でも、左千夫、君の元まで行ってみせるから。

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【日当瀬晴生】

「お疲れ様です、千星さん。」

どうやら千星さんの圧勝で幕を閉じたようだ。
五点差も有れば圧勝だろ、圧勝。

「よくやったナ、ナユタ。ブレスレットを見てみろ。」

イデアさんがそう言ったが、千星さんは良く分かって無かったようだったので俺が代わりに操作する。

「ここに、今の勝敗が表示されてます。
そして、ここで地図が出て俺達、仲間の位置が見れます。
ここはチーム成績。千星さん以外は点数、勝敗が動いてないので誰も戦ってないみたいですね。
全参加高校のランキング、個人成績も見れます。
ちなみに、上位十位は簡単に居場所が分かるようになってますね。
あと、ここの設定を変えて置くと近くに地区聖戦参加者が居ると知らせてくれますよ。」

そう言って俺は千星さんのブレスレットの設定を弄っていく。
千星さんの持ち点が11点と一点増えて表示されている。

「そういうことダ、おっと、呼び出しダ、ワタシはいく、精々頑張るんだナ。」

どうやらイデアさんは俺達の審判をするだけでは無く、近辺で戦闘が起こればその審判をしに行くようだ。
砂煙をあげながら屋根を飛び越えあっという間に去っていってしまった。

「さて、那由多君の一勝目のお祝いも兼ねて九鬼に奢ってもらいましょうか。」

会長が、お疲れさまの言葉と共に歩き始める。
九鬼は特に不満を言う訳でも無く、会長の横を道案内するように歩きだしていた。

さっきまでこちらを見向きもしなかった雑踏の視線がこっちに集まっている。
結界はかなり精巧なものだと言うことが証明された。

それにしても、地区聖戦の戦闘方式はなんでもありなんだな。
これは、くりだす課題によって大きく勝敗が左右するだろう。

俺は何で勝負を繰り出すかを考えながら店に向かった。

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【千星那由多】

よかった。勝てた。
これで負けてたらもう他の事で勝てる気がしなかったので、ほっと胸を撫で下ろした。
ブレスレットの点数が増えたのを確認したが、まだ地区聖戦というものの実感が沸かない。
本当に勝負は何でもいいんだな。
逆に相手が得意な物を提示されると不利になるってことか。
ちゃんと考えて挑戦も受けないといけないなと、色々と考えながら店へと向かった。

店はどうやら副会長のいきつけの店だった。
時刻は昼前なのだが、長い行列でだいぶ待たなければいけなさそうだ。

「やっぱり混んでたかーちょっと待ってて、先入れないか聞いてくる」

そう言うと副会長は行ってしまったので、残された俺達は道の脇の木陰で待つことにした。
今のうちにブレスレットの操作もちゃんと確認しておこうと、色々といじくってみる。
先ほどまで動きが無かった敵の点数などが、徐々に動き始めているのがわかった。
何度かボタンを押していると、急にブレスレットの光が点滅し始める。

「?」

俺だけじゃなく、全員のブレスレットが点滅している。
さっき教えてもらった内容からすると、多分これは近くに他校の生徒がいるというお知らせのようなものだろう。
顔を上げ辺りを確認すると、女子の集団がこちらを見ていた。

「…どうやら麗亜高校のようですね」

会長がそう呟き微笑むと、それに気づいた女子集団がこちらへとやってきた。
見た所女子ばっかりなんだけど……麗亜高校は女子高なのか?

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【神功左千夫】

麗亜高校の集団がこちらに向かってくる、どうやらいきなり仕掛けてくる訳ではなさそうなのでこちらも宣言は控える。
と、言うか僕はお腹が空いていたので好んで戦う気分ではなかった。

「初めまして、僕は神功左千夫、愛輝凪高校の(裏)生徒会長です。
あなたは麗亜高校の副会長の西園寺櫻子(さいおんじさくらこ)、さんですね。」

西園寺櫻子、とある名門のご令嬢だ。
成績優秀、スポーツ万能。
水色の髪をワンレンでふわっとしたウエーブを掛けていていかにも品が良い。
髪は長く背中が隠れるくらいだ。
そう言って手を差し出すと彼女は整った笑みを浮かべて僕の手を握り返してくれた。

「こちらこそ、噂はかねがね聞いております、神功さん。
今日は私たちは食事に来たので決闘はまたの機会にしたいと思っているのですが…」

「それは話が早い、今、僕の仲間が席の確保に向かってますので良ければご一緒しませんか?」

戦うにしろ戦わないにしろ、敵の情報は速く掴んでおいたほうが良い。
九鬼のことだ、別室に案内して貰う手筈ならそこはかなり広いスペースを有しているだろう。
そう告げると彼女は一瞬困ったような笑みを見せるが、実力も自身もあるのだろう、僕の誘いに首を振った。

「それは助かります。この、行列に少し参ってましたので。
メンバーの自己紹介がまだでしたね。

彼は園楽あたる、私と同じく麗亜では副会長を務めています。」

女性ばかりかと思っていたが奥から男性が現れた。
園楽あたる、170センチ位の細身の男性だ。
髪も瞳も黒色で特に目立った特徴は無い。
容姿も居たって普通のどこにでもいそうな高校生だ。

「彼女は華尻唯菜(けじりゆな)、役職は書記です。」

小柄な女性を手で示しながら西園寺櫻子は続けた。
華尻唯菜、140センチくらいの女性でオレンジの髪をツーサイドアップにしている。
そばかすが特徴的でこちらを威嚇する様な視線で見つめている。

「そして、同じく書記補佐の秋葉文子(あきばあやこ)」

160センチの女性。
なんと言うか身なりは余り気にしていないようす。
引っ込み思案なのか視線が合わない、眼鏡で顔がよく見えない。
黒髪を後ろの下の方で一つくくりしている。

「そして、前会長の堂地保菜美(どうじほなみ)です、以後お見知りおきを」

150センチの女性だが童顔なのだろう小学生くらいに見える。
しかも、「ほよー」や「ふよー」と奇妙な声を上げている。
前会長と言うことは夏岡陣太郎と同じ立場かと思うとかなり違って見えてきた。

個性豊かなメンバーだが今のところ五人しかいない、最低でも後五人はいるようだが今日は別行動のようだ。

「なぁ、麗亜(レイア)高校ってどんな高校だ?」

「麗亜(レイア)高校、十年前は二位だった高校です。
今回も一位を狙える実力を持ってるみたいですが、…千星さんの敵じゃありませんよ!」

後ろで那由多君が晴生君に色々聞いたいた。
晴生君が僕達が集めた情報を那由多君に伝えてくれるのは良いがどうやらその言葉が敵の一人に聞こえていたようだ。

「ちょっと!あんた失礼ね!!私達がそんなちじれた頭の奴に負ける訳ないでしょ!!」

書記の華尻唯菜が那由多君をびしっと指差し、一色触発ムードだ。
その時に九鬼が調度走ってきた。

「会長ー!席確保できたよー!わ!なになに!ナンパ!もう、会長も隅に置けないんだか――!!!」

取り合えず足を思いっきり踏んでから僕はメンバーを紹介した。

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【千星那由多】

女子ばかりかと思ったら男子生徒も一応いたようだ。
俺以上に空気で存在感がかなり薄い。
それにしても生意気そうな女子がいる。
俺の髪をちぢれた頭だとかなんとか言って、もちろん第一印象は最悪だ。
苛立ちが先だったが晴生も相手を睨んでいたので、制止するように肩に手を置いた。
女子と闘うのは苦手だけど、どうやら今はなにも仕掛けてこないようだった。

会長が俺達の紹介をしていく間に、踏まれた足を庇いながら店へと入る副会長へとついていった。

店内はにぎわっていたが、更に奥の部屋へと連れて行かれると、広々とした和風な個室へと案内される。
VIPルームか何かみたいだが、こういうことをされると、副会長もすごい所の家系なんだなと改めて実感した。

「さ、どぞどぞ~座って座って~♪料理はもうコース料理頼んでるから」

副会長が率先して麗亜高校の生徒を座らせている。
俺達も促されるままに相手と対面するように座った。

「ちぢれ毛が目の前なんて、ご飯が不味くなるじゃない」

俺の目の前に座ったのは、さっき俺をバカにした華尻という女子生徒だった。
嫌そうな顔で俺を睨みつけている。
つーか考えてみたら、俺別になんもしてなくね?
会長の前には女副会長の西園寺櫻子、晴生の前には前会長の堂地保菜美、巽の前には書記補佐の秋葉文子。
そして男副会長の前には園楽あたるが座った。

「なんでボクの目の前男なの!!!」

「最後に座ったあなたが悪いんです」

泣きつくような声をあげガックリと項垂れる。
その光景をみて園楽さんは頭を掻きながら笑っていた。

暫く自分の高校の話や、残りのメンバーの話しなどで盛り上がる。
麗亜高校の女副会長、西園寺さんは落ち着いた物腰の人だった。
会長と話をしているとものすごく絵になる。
麗亜高校は昔は女子高だったみたいだが、去年から共学に変わったため、男子生徒は一応いることにはいるらしいが、人数は少ないらしかった。
園楽さんが「女の子ばっかりで困るよ、俺間違って受験しちゃったんだよね…」と言うと室内が笑いに包まれた。
副会長はムスっとしていたが。

一部を除いて終始円満な雰囲気で話を進めていると、食事が運ばれてくる。
どうやら会長の要望通り和食のコース料理のようだった。

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【華尻唯菜】

あーもー最悪最悪!!
ランチが美味しい和食の店があるって櫻子ちゃんが言うからついてったけど、この炎天下の下ちょー行列!!
しかも、ランチなのにちょー高いの!
一般庶民にはきついよ!!

今年は地区聖戦とか言う戦いがあるからって学校に合宿になってしまった。
アタシの青春の夏休みを返して!と、思ったけど其処は仕方ない。
これでいい成績を取れば学校の皆が良いところにいけるんだもん、生徒会として頑張んなくちゃ。
しかも、麗亜は十年前は準優勝だったらしい。
わざわざ先輩達が雪辱を果たす為扱きに来てくれた。

そんなときに姿を現したのが愛輝凪高校。
ここのメンバー全員を知っている訳ではないけど、会長の「神功左千夫」、副会長の「九鬼」は要注意人物として会議でも名前が挙がっていた。
神功ってやつはなんか、優男っぽし、九鬼ってやつもチャラくてどこがすごいんだか分からなかったけど、隙は無かった。

てーか、この、目の前の青い髪の男がなんかムカツク!
しかも、金髪がこいつにごますってんのも見てて腹立たしい。
だって、全く強くなさそうだもん、隙だらけだし。

敵同士だっていうのに和やかに時間が流れていってる。
運ばれてきたのはコース料理だった。
お金足りるかなって、思ったけど、どうやら九鬼って人の奢りらし。

「なゆゆの初勝利記念~♪」なんて言ってたけど、本当にこの男が一勝したの?

「ふーん…あんたに負けるなんて、よっぽど弱い奴を選んで戦ったのね、この、腰抜け。」

コース料理の中に入っているなすびすら目の前の千星那由多が思い浮かんできてまずそうに見えてきた。
っていうか、もとからなすびは嫌いなんだけど。
そう思いながら、ご飯に箸を付け始めた。

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【千星那由多】

う、うまい…!
和食なんて家で出る物や、巽の店でしか食べた事がない。
コース料理なんて見た目だけだろと思ってたけど、食べやすいしとにかくおいしかった。
神功先輩との闘いに勝ってよかったと思いながら箸を進めていく。

その間にも目の前の華尻は俺にぶつくさ文句を言っていた。
初対面なのになんだこの女は…。
まぁ確かに俺が弱いのは自分でも認めているが、俺のこをと何も知らないのに決めつけられるのはやはり腹が立った。
周りは結構和やかなムードなんだけど、俺と華尻の間は不穏な空気が漂っていた。

あーなんかむかついてきた!!

イライラするのでトイレにでも行こうと立ち上がると、目の前の華尻も同時に立ち上がる。

「なによあんた!?きもいんだけど!」

「……はぁ!?俺のが先に立っただろうが!!さっきからいちいちうざいのはお前だろ!?」

女と言い合いをするなど、妹ぐらいしか経験したことがないが、さすがにもう黙ってはいられなかった。
お互いぎゃんぎゃん喚くのを周りに制止させられると、息を切らしながら室内を出る。
どうやら華尻もトイレに行くようだ。
なんで妙な所で気が合うんだ。
同じ方向なので先に進む華尻の後ろを歩いていても、「ついてこないで」だの「変態」だの意味のわからないことを言われる。
言い返そうとした時、華尻の前に三人の男が現れた。
見るからにガラが悪そうな茶髪の男達だ。

「ちょーっと待ってよ、華尻ちゃん?」

「…なに?…って東高の(裏)生徒会じゃない、どいてよ」

どうやら華尻と顔見知りのようだったが、華尻は無視して男達の間をすり抜けようとする。
しかし、腕を掴まれてしまった。
なんだ?もしかして勝負挑まれんのか?こんな所で?
俺はとにかくトイレに行きたかったのだが、さすがにムカつく女と言えども、男三人に絡まれているのを放っておくわけにもいかないので、その光景を暫く傍観する。
すると、中々腕を離してもらえない華尻は、大きくため息をつくと、徐に相手の男の股間を蹴り上げた。

「!!!??」

痛そうに悶絶する男と一緒に俺も思わず股間を押さえる。
お…女怖い…!
これなら大丈夫そうかと思ったが、側にいた男が華尻の行為に対し怒りが心頭したのか、先に拳を食らわそうと大きく腕を後ろへと引いた。
当の華尻は相手を睨みつけたまま動かない。

これは、ちょっと、まずいだろ!!

そう思った瞬間に俺の手は華尻の腕を掴んでいた。
こちら側に引き寄せるようにすると、後ろへと庇うように移動させる。
女の手なんて三木さん以外引いたことないが…華尻はなんとも思わなかった。

「あんだ?てめぇも麗亜の(裏)生徒会か?」

「違う、けど勝負もしかけずに急に女襲うのなんて無しだろ」

ここまで来たら引き下がれない。
華尻の手を掴んだまま、俺は先にこいつらに勝負を挑んでしまおうかと考えていた。

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【華尻唯菜】

料理の味が最高だったので私の気分は上昇し始めていた…のに。

どうして一緒に立ちあがるの!!
もー、ホントこの男ピンポイントでアタシの地雷踏んでくる!!

カリカリしてるのに、更にイライラすることが起こった私を東高の生徒会が囲んでる。
他に人が居なかったのでブレスレッドも小さく光っていた。
今は戦う気ないんだけどな。
取り合えず、退いて欲しくてそのままの言葉を口にしたけど聞いて貰えなかった。

こうなりゃ実力行使だ!

アタシは一人の男性の股間を蹴り上がる。
蹲るのを見やると言いざまだと見下ろした瞬間、千星がアタシの手を引っ張った。

「ちょ……!!!」

その後ろを拳を握り締めた男が擦りぬける。

な、なによ、も、もももも、もしかして助けてくれたの!

衝撃だった。
生まれて初めて男子に助けられた。
と、言うのも私は私立の幼稚園、小学校、中学校はキリスト系の女子校だった。
高校は共学になったが女子高に近い。

だから、不覚に顔が赤くなってしまった。

「違う、けど勝負もしかけずに急に女襲うのなんて無しだろ」

何その格好いいセリフーーーーーーー!!!!!!!
アタシの心臓はバクバクしてもう駄目だ。
こんなの、こんなの!しかも、こんなこんな!

「触るな!!陰毛頭ーーー!!!
麗亜高校、華尻唯菜!東高の(裏)生徒会に勝負を挑む。競技は決闘!いざ尋常に勝負!」

私はブレスレッドの光を東高の奴らに灯す。
元はと言えばこいつらが悪いんだ!!

「あらあら、けじりちゃん、気が早いわね。うちの高校じゃ一番乗りよ。」

どこからともなく、シスターの姿をした子供が現れた。
そう、彼女が私達のヒューマノイド。

「私はヒューマノイドのマリア。ここの戦闘は私が取り持つわ。
それでは、皆様に神の御加護を―――。


戦闘開始!!!」

その合図とともに首のロザリオを腕に巻きつける。
東高の奴らは助太刀制度を使って戦闘に仲間が介入してきた。
でも、そんなの関係ない、こんなへなちょこアタシ一人で十分。

「May God Bless You…!」

その言葉と共に私のロザリオは武器に変化する。
この、千星の前でこの武器は披露したくなかった。
なんたって私の武器は………布団叩きなのだから。

それを見た瞬間東高のやつらが高らかに笑い始める。

「ははははは!!なんだよそれ!やっぱ、データ通りだぜ!尻なだけあるな、華尻ちゃん!!」

その言葉で私の堪忍袋の緒が切れた。
素早い動きで三人の生徒の後ろに回る。
そして、布団叩きで思いっきり尻を叩いてやった。

「いってーな!!ブス!!なにすんだよ!」

一人が武器だろう剣を掲げるがもう関係ない。

「平伏せ!下衆!!そして、負けを認めなさい!!」

そう言った瞬間に三人が跪く。
どうやら、今回も私の言うことを聞くで能力が発動したしたらしい。
アタシの能力は尻を叩くか触ると大体の人間はアタシに逆らえなくなる。
たまに妙なことにもなるみたいだけど、ほとんどはこれで統一されている。

「勝者、けじりちゃん!やったわね!一気に三ポイントよ!」

マリアが喜んでいたけど、アタシはもう、どうでもよかった。
ロザリオを掛け直すと其処に千星がまだ立っていて、アタシの顔は赤くなる!

「ちょっと、何見てんのよ!さっさと、その陰毛頭直してきたないよ!」

そういって、アタシはトイレに駆け込んだ。

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【千星那由多】

何で挑んでやろうかと考えていると、後ろにいた華尻がいきなり叫び始めた。

「触るな!!陰毛頭ーーー!!!
麗亜高校、華尻唯菜!東高の(裏)生徒会に勝負を挑む。競技は決闘!いざ尋常に勝負!」

いんも…っ!?はぁ!!???
ちぢれた頭と言われる方が何万倍もマシだ。
驚いた表情を隠せずにいると、掴んでいた手を引っぺがされ、相手の男達に勝負を挑み始めた。
展開についていけずに、華尻の後ろへ行かされると、あっという間に男をひれ伏せさせている。
なんだあの布団叩き…。
尻を叩いたらいきなり従順になったぞ?
あれがこいつの武器で、能力は相手を従わせる的なものか?

…ぜ、…絶対に叩かれたくない!!!

背筋に悪寒が走ると共に、闘いは華尻の勝利で幕を閉じた。
唖然とした表情で、布団叩きを元に戻した華尻を見つめると、また何故か陰毛頭と叫ばれる。
結界が解けてしまった後なので、通りすがりの客に変な目で見られた。

「…お、おまえに陰毛頭って言われる筋合いねーよ!!!この尻毛!!!!」

思わずそう叫んでしまった途端に、華尻の顔は更に真っ赤になり、目に涙が浮かんだのが見えた。
それと同時に頬を思いっきりひっぱたかれると、華尻はトイレへと逃げ込んで行く。

……女って、怖い。


用を足した後、みんなのいる個室へと戻ったが、華尻はまだ帰っていなかった。

「近くで他校の反応があったようですが…何かありましたか?」

席に着くと同時に会長に尋ねられる。

「…なんか華尻が勝手に挑んで勝手に勝ってました」

そう言うと全員が意味が分からないと言った表情をしていた。
俺の方が意味わかんねーよ…。

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【堂地保菜美】

こりゃこりゃ、大変なことになったにゅ。

千星くんに続いて返ってきた華尻ちゃんは顔が真っ赤だった。
これはきっと恋…!!
保奈美は抜けてるって言われるけど、こういうとこは鋭いんだぬ。
さてさて、それが分かっところでどうするか。

皆が食べ終わったところで櫻ちゃんは会計のお礼を九鬼さんに言いに行ったみたい。
他の皆も外に出る準備をし始めてる。
華尻ちゃんはいつもよりおどおどしたままだ。

一応最年長の三年として応援してあげたい気持ちがあるけど。
どうすればー。
そういえば、華尻ちゃん、男の人とあんまり触れ合ったこと無いっていってたぬん。
ってことは、女の子にしちゃおうか。

「ごちそーさま!千星なゆたー!抱きつかせろー!!」

私はロザリオを握り締めてから、斜め前に座っている千星くんに飛び付いた。
背中には手を回さずに保奈美は千星くんの胸に飛び込んだ。

ガタン、と、後ろで音がした。

「な、なななななにしてんですか、堂地先輩!!もう!陰毛のくせして、先輩に触らないで―!!!」

そう言って華尻ちゃんの手が伸びてくる。
その前に千星くんの胸を満足いくまで揉んでおいた。

「ほうほう、これはなかなかの美乳だのう」

「も―!先輩止めて下さい!!」

そう言った華尻ちゃんに引き剥がされて下駄箱へと連れて行かれる。

「またな、皆の衆~」

保奈美が手を振ると天夜くんと、神功会長が手を振ってくれた。
敵ながら優しい奴らだのう。

あれ、保奈美、なにか重要なこと忘れている気がするのん?

-----------------------------------------------------------------------

【千星那由多】

「ひいいいいい!!!」

意味がわからないまま、麗亜高校の元会長、堂地保菜美にいきなり抱き着かれ、しきりに胸を揉まれた。
女性に抱き着かれるというだけで身体が硬直してしまうのに、無い乳を揉まれると鳥肌がたった。
周囲が驚いている中、華尻が堂地さんを引きはがしたが、まるで何かを失ってしまったような気分になる。

やっぱり女って…怖い!!!!

店から出ると、落ち込んでいる俺を慰めるように、巽が背中を擦った。
なんだか気分も悪くなってくる。

「…あれ?…那由多ってこんな……」

巽が俺の背を擦っている手を止めて何かを言おうとしたが、それは副会長の言葉でかき消された。

「お腹もいっぱいになったことだし、これからどうする?狩りに行く?」

「先に(裏)生徒会室へ戻りましょう。柚子由達と合流します」

というわけで一旦学校へ行くことになった。
ここからはそう遠くはない距離だったが、夏の日差しは暑い。
いや、それ以上に汗が出ている気がする。
冷や汗が額から伝うと、全身が痛むような感覚に襲われた。

「千星さん?どうしました?」

俺の顔色が優れないのか、晴生が心配そうに声をかけてきた。

「ん、なんか…ちょっと気分悪い…」

少し声もおかしい気がする。
もしかしたら風邪でもひいただろうか。
俺のタイミングの悪さは自分でも呆れるほどだ。

「裸で寝てたからネ~!風邪ひいても仕方ないない!」

そう言えば冷房の効いた部屋で裸で寝てたな…。
これは自業自得としか言えない…いや、悪いのは酒持ってきた副会長だろ!!
じとっとした視線を向けるが、もうそれさえも疲れる。
早く学校に着かないかなと、縺れそうになる足を進めた。

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【三木柚子由】

今日は表生徒会との打ち合わせだった。
裏では「ラディエンシークルセイド」が開催されてるけど、表は至って平和だった。
今日の依頼はまたいつもの迷い猫の捜索くらい。

純聖君と幸花ちゃんと一緒だったので少し恥ずかしかったけど。
知り合いの子だって言ったら皆歓迎してくれてたのでよかった。

「柚子由、お疲れ様です。」

(裏)生徒会室でお茶の準備をしていると左千夫様達が入ってきた。
皆次々に私服からここに置いてある予備の制服に着替えていく。
その中でも千星君だけちょっと具合が悪そうだった。

あれ、千星君とこんなに目線近かったっけ?

そう思いながらも左千夫様に今日の報告を促されたので私は言葉を綴っていく。

「そうですか。ありがとうございます。
それでは全員で迷い猫を捕まえてさっさと終わりましょうか。
くれぐれも他校には気を付けて下さいね。」

そう言って左千夫様は(裏)生徒会室を出ていく。
続いて、クッキーさんも。
私は、純聖君達と探すことになっているし、千星君は巽君達と。
いつものグループでいつも通り解散した。

この時はあんなことになるとは思わなかった。
まさか、千星君が……あんなことに…。

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【千星那由多】

地区聖戦があると言うのに任務もちゃんとこなさなければならない。
何もない日は自由行動でいいんだろうけど、それも地区聖戦があるので自由はない。
どちらにせよいつも通りであることには変わりがなかった。

制服に着替え終わると、猫探しが始まる。
相変わらず調子が悪かったが、巽と晴生と一緒に校内をある程度回ることにした。
猫は黒猫で鈴のついた首輪をつけていて、名前は「にゃんごろう」というらしい。

夏休みだけれど部活動をしている生徒で賑わっているグラウンドを横切りながら、猫がいそうな高い場所や狭い場所をくまなく探していく。

それにしても着替えた制服がなんだか小さい気がするんだが。
高校に入って多忙なせいで痩せたのか、サイズを間違ったのか。
動きにくいズボンの裾や袖をまくり上げながら猫探しを続けた。

数時間経っただろうか、三人とも暑さで汗だくになりながらひとまず休憩を取ることにした。
日陰に入ると心地よい風のお陰で、少し汗がひいた気がしないでもない。
晴生が近くの自販機で飲み物を買っている間、暑すぎるので制服の上着を脱いでもいいかと思い、ネクタイを緩め、ボタンを外していく。

「あぢーもう校内に猫いないんじゃね?」

「どうだろうね…涼しい所とかにいるかも……!!って…那由多?なに…それ?」

突然巽が俺の胸元を見て、何かを指摘してきた。
何かついているのかと思い視線を下げようとすると、晴生の声が聞こえた。

「猫!!千星さん!!そっち!!」

すぐに晴生の方へと顔を向けると、黒猫がこっちへと向かってきている。
赤い鈴の音を響かせながら、俺の横を通り抜けようとした。

「にゃんごろう、みっけたあああああ!!!!」

逃がす隙をあたえず、飛び掛かるように猫を捕らえると、胸元へとぎゅっと抱きしめる。
なんだかふにふにとした感触があるが、猫ってこんなにやわらかかったっけ?
にゃんごろうは特に暴れる様子もなく、大人しく小さな声をあげていた。

おしおし、これで任務は……ん?
ん???

んんんんんんんん!!!!!?????

視線を胸元の猫にさげると、ありえない物が見えた。
胸の谷間だ。
肌蹴たシャツの間から、美しい胸の谷間が覗いている。
なんだこれは。俺にこんなものがついてるはずがない。

「やりましたね!千星さ……!!!!!」

皆の視線が猫、いや、俺の谷間に集中した。
晴生はすぐに後ろを向いたが、巽はじっと俺の谷間と顔を交互に見つめている。

「お、おおお…み、見るな見るな見るなあああ!!!!」

にゃんごろうで胸元を隠しながら後ろへ後ずさる。

「やっぱり。那由多、女の子になってる」

はぁ!!!???

なんで、なんで俺が女になってんだよ!!!!!!!!!!!

パニック状態に陥った俺は、後ろの花壇へと仰向けに落ちた。

-----------------------------------------------------------------------

【日当瀬晴生】

ネコを無事捕獲したのは良いが、千星さんが女になってしまった。
勿論見れる筈もなく、千星さんに上着の着用を頼んだ。

隠れていると何とか見れるが、なんというか…、男の姿はものすごく格好いいのに、女になった途端華奢で可愛らしい。
体格も女性の様に丸みを帯び、身長が縮んでしまったせいで制服がブカブカだ。

取り合えず、会長たちと合流することにした。
ここから一番近い学校へ移設の公園の水上休憩所に俺達は向かった。
夏でもあそこなら涼しいし、今は夏休みなので人も居ない上、結界が張ってある部分もある。

天夜と二人で千星さんを守る様にして休憩所の結界の中に着いた。
先に他のメンバーは集まっていた様で会長がこちらに気づき腰を上げた、瞬間固まっていた。

「また、…可愛らしくなってしまいましたね、那由多君。」

「ふ、ふざけないでください!会長!」

千星さんは声まで女の人だった。
三木も興味深々な様子で近づいてきた。

「なになに?ナユタ、女になったのか?パンツずらしてみ――ぐへ!!」

純聖は相変わらずだったので、幸花に殴られていた。
寧ろ殴らなかったら俺が殴っていたとことだ。

「……データベースでみたような。…取り合えず、僕はイデアに話してきます。
心当たりも有りますので対処法も探してきましょう。
晴生君、君の能力でも解除方が無いかあらって置いてくれますか。
九鬼、柚子由、後はお願いしますね。」

全員思い思いに首を縦に振る。
俺は能力を解放して千星さんを見つめた…かったが、直視できない。
視線を逸らしたり、向けたりしている為情報が纏めきれない。
触れれば更に分かるのだが…触れれるか…俺。

俺は手を出したりひっこめたりしていると、九鬼がその腕を後ろから掴んだ。

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【九鬼】

これまた見事になゆゆが女の子になってしまった。
ぶかぶかな制服の胸元をしきりに気にする姿がまたかわいい。
左千夫クンがイデちゃんの所へ行ってしまったので、これはチャンスだと思い、能力を解放してあわあわしているはるるの腕を無理矢理掴んだ。

「触った方がわかるよネー!!」

そう言うと徐にはるるの手をなゆゆの胸へとあててやる。
声にならない声をあげている二人の隙をついて、ここぞとばかりに自分の手をもう片方の胸へと伸ばし、揉みしだいてやった。

「うーん良い感触!Cカップくらいかな?
でもこれじゃホントに女の子かわかんないネ~下も見せてもら……」

青ざめているなゆゆに笑顔を向けた途端、後ろで凄まじい殺気を感じた。
左千夫クンと似ているが…違う、これはゆずずだ。

「汚らわしい…です……」

胸を揉んだまま後ろを振り向くと、ゆずずがこちらを冷めた目で見ている。
側にいたおチビくんとさっちゃんも距離を置くほどの殺気だった。
即座になゆゆからはるるの腕を話し離れる。
多分あのまま続けてたら、不潔ですアタックで死んでただろう。

「ごめんごめん!じょーだんじょーだん…」

そう言った所で、ゆずずの後ろに男が数人立っているのが見えた。
この学校の生徒ではないし、今ここは結界の中なのにボク達に気づいている。
という事は、他校の(裏)生徒会か。

「お楽しみの所わりーなぁ…千星ってのは…どいつだ?」

主将格らしき背の高い男がバッドのような物を肩に掲げ、全員を見渡した。
おチビくんとさっちゃんがゆずずを連れてこちら側へ来る。
こんな時に敵かと大きくため息をついた。
しかも超雑魚そうだ。

「この子この子」

「!!ちょ!!副会長!!」

ボクはなゆゆの腕を持ち手を挙げてやった。

「…女ぁ?俺は男だって聞いてたんだがな?嘘つくんじゃねーよ」

どうやらこの高校の奴等はなゆゆに用事があるらしかった。
一体何をしたのかは知らないが、なゆゆにとっては大ピンチだろう。
ちょっとおもしろくなってきた。

-----------------------------------------------------------------------

【天夜巽】

日当瀬が自分の両手を見たまま固まっている。

触ったのは片手だけなんだけど…。
あれじゃ、暫くはデータ分析も難しいだろう。

そんなことをしている間に敵が現れる。
ブレスレッドを翳すと東高と個人名が架空ディスプレイに現れた。
どうも、東高は血の気が多い奴が(裏)生徒会に固まっているようだ。
いや、地区聖戦用にそう言う人物を入れたのかもしれないが。

副会長には悪いけど、女の子になった那由多を一人で戦わす訳にはいかない。
そう思って那由多の前に出ると、それよりも更に前に三木さんが出てきた。

「千星那由多かどうかはブレスレッドを見れば分かります。…もしかして、扱い方、知りませんか?」

真っ直ぐに東高を見つめる彼女はいつも会長の傍に居るからかどんどん風格が出てきている。
と、言うか会長そっくりになってきている様な気がする。

「ええ―い煩い!!俺は東高の東条満!競技は決闘!千星那由多!いざ、尋常に勝負!!」

一人の男がそう言った途端周りが一斉にガサガサし始めた。
ざっと二十人は居るだろう。
俺達は東高の生徒に囲まれてしまった。

そして、全員が一斉に助太刀宣言をする。

「愛輝凪高校三木柚子由、この戦闘に介入します。」

三木さんのその言葉に続いて、僕、純聖君、幸花ちゃん、皆から睨まれてくっきー先輩が参戦する。
日当瀬は使い物にならなさそうだったのでそっとしておいた。

そうすると見たこともない侍の様な格好をした小柄な少年、いや、あの脚力はヒューマノイドか…。
なんにしろ、審判員が走ってきた。

「この勝負は拙者が受け持つ。
宣言者は東高の東条満!彼が倒れた時点で決闘は終了となり活躍に応じて点数が配分される。

いざ、尋常に勝負!!」

さぁ、久々の戦闘だ。
今までの訓練の結果を存分に…発揮できそうな程強くは無いかもしれないが、とにかく数だけは多い、気を抜かないで置こう。

「「解除!」」

仲間たちの声がこだました。

-----------------------------------------------------------------------

【千星那由多】

胸を揉まれた喪失感に打ちひしがれていると、どうやらさっきの東高の奴等が来たみたいだ。
別に俺何もしてないのに。
あっという間に戦闘に入ってしまうと、このままではいけないと思い、ゆるくなったズボンのベルトを締めた。
少し遅れて携帯を解除すると、剣をいつもの様に掴む。

「う、お?」

なんだ?いつもより重い。
…まさかとは思うが力も女子になったのか?
細っこい腕で持つ剣の重みは片手では持つ事はできず、両手で柄を強く握った。

数十人近くいる男達を、巽達が蹴散らしていく。
俺なんかいなくても大丈夫そうだが、喧嘩を売られているのは俺なのだから、少しでも参戦しなくては。
一人の男に向けて走り出すと、足がもつれそうになる上に胸が揺れるのが気になる。
あああもう!!動きにくい!!

男の後ろから剣を振りかぶったが重みで自由に扱う事ができない。
うまく横へと避けられると、金髪の男はにぃっと笑った。

「よわそーな女みーっけ」

そいつがそう言い放つと、容赦なくバッドを俺へと振り切った。
もちろん俺は、それをかわそうとする。
けれど、自分の感覚と身体の動きが上手く合わない。
振り切られたバッドの先には刃物のような物が生え、俺の胸元を掠めた。
これぐらいの動きなら、男の俺なら避けれそうなものだけど、ついていないものがついているので距離感がまったくわからない。

「女はすっこんでろよ!!」

即座にバッドを再び振ろうとしたので、剣で受け止めようとした途端、鎖の様な物が目の前に伸びて来た。

「ナユタ……引っ込んで」

後ろから声が聞こえたが、それは幸花だった。
その鎖は男に攻撃するのかと思ったが、絡まったのは俺の身体で、そのまま後ろへ引っ張られるとまだ放心している晴生の元へと移動させられる。

「戦えない女は、邪魔」

幸花は後ろも振り向かずにそう告げると、チェーンを手元に戻していた。
…どうやら俺はいつも以上に役に立ちそうにないみたいだ。

-----------------------------------------------------------------------

【神功左千夫】

イデアが審判員として飛び回っているので捕まえるのに苦労した。
イデアのデータベースと照合した結果、僕の記憶通り、麗亜の前会長の能力だった。
解除方法までは書かれていなかったが多分、本人で無いととけないだろう。

麗亜には明日行くとの交渉をした。
今日の食事会の甲斐あってか先方は快く承諾してくれた上、謝罪までしてくれたので、悪意でなされた訳ではないのだろう。
それにしても、本当に那由多君はイレギュラーなことに巻き込まれる。

水上休憩所にイデアから預かったものを手に戻ると戦闘の跡が有った。
今、勝敗が決したと言わんばかりにまだ砂煙がたっている。

「大丈夫でした………か?……増えてる。」

其処に駆け寄ったまでは良かったが。
思わず敬語が取れた。
明らかに女性の数が増えている。
那由多君に加え、晴生君、九鬼が女になっていた。

「すいません、会長。晴生が言うには…どうも、む、胸を揉むと伝染する様です。」

那由多君が申し訳なさそうに告げた。
と、言うことは晴生君と九鬼は、揉んだのだろう、胸を。

晴生君は分かる、が、九鬼…。

僕は彼にこの場を任せたことを後悔するように女になった、彼、否、彼女を睨みつけた。
しかし、なってしまったものはしょうがない。
また仕返しにあってもいけないのでこの場を去ろう。

「一旦、生徒会室に戻りましょう、話はそれからです。
コジロウさん、お疲れ様です。」

倒れた東高の生徒の介抱をしているヒューマノイドに一言掛けて僕達はその場を立ち去った。

-----------------------------------------------------------------------

【九鬼】

東高の奴等はあっという間に蹴散らしたが、何故かボクとはるるも女の子になってしまった。
どうやらなゆゆのおっぱいを揉んでしまったのが原因みたいだ。
こんなに胸って重い物なんだなとしきりに自分の胸を揉みし抱いていたが、左千夫クンに睨まれてしまったので止めておいた。
背も低くなってしまったし、身体もやわらかい。
この容姿で男をどれだけ落とせるかと考えてみたが、男に襲われる趣味は無い。

(裏)生徒会室へとつくと、左千夫クンに全員の胸の採寸を頼まれたので口角をあげた。

「はぁ~いなゆちゃ~んはるちゃ~ん、おっぱいのおっきさ測りましょ~ネ♪」

男だと安易に女性の胸の採寸などできない。
この身体だからこそできることがある!!
ボクがなゆゆに後ろから抱き着きに行くと、思い切り暴れられてしまう。

「もう!じっとしてよなゆゆ!!」

「ひいいい!!やめてください!!副会長に採寸とか嫌です!!か、会長ーーー!!!」

なゆゆが何故か左千夫クンに助けを求めると、後ろから思い切り頭を小突かれた。

「いたぁ~い!会長女の子に暴力振るう~~!!」

「もういいです、僕が測ります」

ボクの女らしい演技も左千夫クンには効かない。
というかフル無視だ。
はるるはどっちにしろ嫌がっていたが、このままノーブラでいいのかと言われて大人しく採寸されていた。
採寸後、イデちゃんにサイズを通達し、下着を買ってもらうことになった。
できれば全員セクシーな下着にしてと耳打ちをしておく。
服が手に入るまでは、スポーツブラのようなものと、男子の制服のサイズが合わなかったので女子の制服を着る事になった。

「や~ん♪九鬼ちゃん女の子の制服似合うんじゃない?」

きゃぴっとしたポーズを取ったが、誰も相手にしてくれない。
唯一巽だけは「かわいいですね」と笑ってくれた。
それにしてもこの姿のままじゃ色々とめんどくさそうだ。
服で圧迫されている大きな胸を見ながら、口先を尖らせた。

-----------------------------------------------------------------------

【日当瀬晴生】

やっぱり迂闊に触るんじゃなかった。
つーか、九鬼のせいだ、あの野郎。

会長にバストサイズまで測られる結果になっちまったし。
確かにブラジャーが無いと服を着てもなんつーか、透けるつーか心もとねぇ。
女ってこんなんなんだな、と、肩を落とした。

暫くするとイデアさんが戻ってきた。

「買ってきてやったゾ。後は、左千夫、頼んだ。」

イデアさんは忙しいんだろう。
それだけ告げて各々にピンク袋を渡した後走って行った。
出来れば中を覗きたくないのに副会長はその袋をひっくり返していた。

「見て見てカイチョー!ボクの白!純白だよ!じゅんぱ…!」

九鬼は会長に口を塞がれて仮眠室に押し込まれていた。
そして、会長は俺を給湯室、千星さんを奥の部屋へと連れていっていた。

俺も袋の中を恐る恐る覗いた。

其処には未知の世界が広がっていた。
薄い緑の下着はなんと言うか淫猥だった。
ショーツなんてこんな薄っぺらい布でどうにかなんのか!ってものだった。
流石に下着は履けずにブラジャーだけ装着する。
中に付け方みたいな説明書が入ってたので俺はそれで何とかなったけど、女って毎日こんなことしてるかと改めて怖い生き物だと認識した。

-----------------------------------------------------------------------

【千星那由多】

副会長に採寸されずに済んだはいいが、次は下着をつけなければいけない。
奥の部屋へと連れて行かれると、下着の入った袋を渡される。
中を覗くと青色のすっけすけな下着が入っていた。
思わず喉が鳴るが、これを俺がつけなければいけないんだ。

服を脱ぐと、自分の身体をあまり見ないようにし、下着を取りだす。
とりあえずトランクスもぶかぶかだったので、先にさっさと下を履きかえてしまった。
鏡があるが見ると変な気分になりそうだったので、背中を向けたまま先にスカートも履いてしまう。

さて、次は上だ。これを胸にあてるのか?
向きはこれでいいのか?
肩に紐をかけて……背中のホック?…む、難しい…。

10分は経っただろうか。
全然ホックをひっかけられない。
外で副会長が俺を呼ぶ声がした。
まずい、このままじゃ付けれないまま時間が過ぎる。
誰かに手伝ってもらうにしろ、副会長と晴生、巽は除外。
三木さんなんてもっての外だ。
…やっぱりここは一番頼りになりそうな会長にしよう。

急いでカッターを羽織ると、ドアから顔だけを出す。

「か、会長……あの…その…」

ドアの隙間からもじもじと会長を見つめる。

「わかりました」

それだけで察してくれたのか、会長が中へと入って来てくれた。
俺の身長が小さくなったせいで、背の高い会長は威圧感がある。
小さい女性から見た男の人って結構怖いんだな、と思ったが、会長はにこやかにほほ笑むと、後ろへと周ってくれた。
恥ずかしかったがシャツを脱ぐと、すぐにホックをかけ、肩ひもも調節してくれる。
何も言わずとも察してくれるなんて、俺が女だったら惚れて……いやいやいや!俺は今女だけど心は男だ!!!

「できましたよ」

頭をぽん、と大きな手で撫でられると少しドキっとした。
いやいやいや!!心は男だから!!!

女の身体は慣れないけれど、明日麗亜高校に行くまでこのままだ。
今日は任務も終わったので、着替えや替えの下着も受け取り解散となると、晴生の家へと帰ることになる。
帰り際、巽は副会長に「女の子二人と同じ屋根の下なんて羨ましいなー」なんて言われていたが、巽は特に俺達が女になった事も気にもとめていなかった。
モテる男は違う…というか、男だった俺達に変な気を起こす方がどうかしているだろう。

それにしても…何度はいてもやっぱりスカートは慣れない。 





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