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isc(裏)生徒会
なかよしこよし
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【笠井 美由紀】
女子って、妙に些細なことで喧嘩したりする。
沸点が低いと言うより、意味がわからないことが多い。
私はあまりそういうのが好きじゃなくて、いつも間に挟まれてしまうのだけれど、今回もそうだった。
昨日まで仲の良かった友達が、いがみ合ったり、無視しあったりするのはやっぱり辛い。
あっちでは誰かの悪口、こっちでは違う子の悪口、それに振り回されるのも正直嫌だった。
「皆が仲良くなれる魔法があればなぁ…」
そんなことを一人呟いていた帰り道だった。
あの男の子が私の前に現れたのは。
「あるよ、試してみる?」
私の後ろでそんな声がした。
そこに居たのは、金髪で長い前髪をセンターで分けている外人の男の子だった。
「…僕、どうしたの?迷子かな?」
「あんたの言ってる魔法があるよ、って言ってるんだよ」
日本語はうまく喋れるみたいだけど、ちょっと言葉遣いが悪いのが気になる。
どうやらこの子は私の呟いた言葉を聞いて「ごっこ」を始めたみたいだ。
「そんなのあったらいいなぁ、知ってるなら教えてくれる?」
そう言うと男の子は子供らしくない笑顔で笑った。
その表情に背筋がゾッとしたけど、腕を引っ張られてしまい、どこかへと導かれていく。
私はこの時、本当に「仲良くなれる魔法」を手に入れることができるとは、思いもしなかった。
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【三木 柚子由】
「おはようございます、左千夫さ……左千夫様?」
「嗚呼、柚子由、おはようございます。
もう、そんな時間ですか?」
朝、自分のクラスに行く前にいつものように(裏)生徒会室に寄った。
そこでは目を瞠る光景が繰り広げられていた。
左千夫様が朝食のパンケーキを小さく切り、しかも、左千夫様が嫌いなマスタードを塗って、一つずつフォークで刺してクッキーさんの口に運んで行ってる。
いつもなら、制服もピシっと来ているのにまだ、カッターシャツを着ているだけだった。
「すいません、柚子由。僕はもう少し、九鬼と友好を深めてから行きますので、今日は先に行っておいてもらえますか?」
「あ。はい。」
思わず生徒会室の扉を閉めてしまった。
それにしても、おかしい。
距離も有りえないほど近かった。
その後はクッキーさんのネクタイまで閉めてあげていた。
今も中から笑い声が聞こえる。
私は(裏)生徒会室に続く扉を完全にロックすると教室へと向かった。
廊下でも普段は見られない光景が広がっている。
確か、美化委員長と体育委員長は仲が悪かった筈。
なのに、手を繋いで廊下を歩いていた。
他にも国語の先生と数学の先生はライバル視していた筈、それなのに仲睦まじく肩を寄せ合っていた。
目に分かるほどスキンシップが激しくなった人が多い。
男同士か、女同士ばかりなので、友情がちょっと激しくなったのかな。
そうして、私は自分のクラスに着いた。
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【千星 那由多】
「僕はね、なゆたの癖っ毛がすきなんだ。」
「天夜いいこと言うな!おれも、千星さんのあの髪の質感がたまらねぇ。」
「だよね!やっとわかりあえたね、俺たち!」
どういうことだ。
今目の前にいる人物二人…巽と晴生がありえないくらい仲良く寄り添って楽しそうに会話している。
言わなくてもわかるくらいに二人は仲が悪い。
大体二人でいれば喋らないか、晴生が苛立っているかのどちらかなんだが、今は何故か、ハグまで交わす始末だ。
今日いつも通り二人が俺を迎えに来た、そこまではいつもの風景だった、そこまでは。
俺が玄関先で、熱く語らっている二人を見て固まっていると、いつも以上に俺の手を引いて、引きずり出される。
「ああ、那由多が真ん中じゃ日当瀬と手を繋げない」
「想定外だ……でも、俺達そんなことしなくてもわかり合えてるじゃねぇか!」
………正直気持ち悪い。
結局二人は俺を挟んだ状態で、楽しそうに語り合っていた。
時折目の前で握手が交わされる。
男三人が並んで手を繋ぎながら歩く姿に、すれ違う生徒達は好奇な物を見る目で見ていた。
今の二人は俺の髪の毛がストレートになるくらいにありえない。
何かの嫌がらせか?…いや、巽がしたとしても、晴生が俺に対してそんなことをするとは思えない。
まぁ仲が良ければそれはそれでいいんだけど、これはこれで疲れて仕方がない。
周りにもチラホラと仲が良さげな二人組を見かけた。
しかもその全員が同性で、カップルというわけではない。
みんな楽しそうに笑顔で歩いている。
教室に着くまで散々「俺の良さ」を二人の口から聞かされ、早々に帰りたくなっていた。
席に着いても巽と晴生は熱の籠った会話を続けている。
とにかく、何か変だ。
昨日までこんなことはなかった。
クラスのことはあまり気にしていないからわからないけど、校内生徒のほぼ半数が「なかよしこよし」になっているのは確かだ。
もしかしたら誰かの特殊能力の影響かもしれない。
そう言った介入が無ければ、巽と晴生の仲が良くなるわけがない。
次の休み時間に、三木さんに連絡をとってみよう。
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【三木 柚子由】
クラスでも少し様子がおかしかった。
確か、彼女と彼女は数日前から喧嘩していた筈。
それについて調度友達から相談を受けていたから間違いない。
でも、仲直り出来たのなら良かったかも。
それにしても仲が良くなり過ぎな気がする。
他にもいつもは険悪なムードな人たちが今日はなんだかすごい。
手を握るは普通で、抱き合ってる人達も居る。
一部の女の子には見られる行為だけど、男子までだから、少し変だ。
そのまま一時間目が過ぎた時に千星君がやってきた。
私が慌てて廊下に向かうとその後ろには見慣れない光景が広がっていた。
「天夜君……と、日当瀬君?」
違う人かと思うくらい二人は仲良く。
何度も握手したり抱き合ったりしていた。
そう言えば左千夫様も今朝はこんな感じだった。
それから千星君から、これは誰かの特殊能力が介入していないかと告げられた。
私は左千夫様の上体を話した、すると千星君は驚いていたみたい。
昼休みに(裏)生徒会に集まる約束をして、ここではひとまず分かれた。
イデアちゃんに聞けば少しは何かが分かるかな?
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【千星 那由多】
どうやら会長と副会長も巽と晴生のようになっているらしい。
想像ができない上にあの二人がベタベタしてるのはあまり考えたくなかった。
三木さんは特に変化も無いようだったので、それだけが救いだった。
昼休憩が始まると、飯も食わずに相変わらず熱い友情をさらけ出している巽と晴生を引きずりながら(裏)生徒会室へと向かう。
扉を開けると、そこには未知なる世界が広がっていた。
「逃げないでください、九鬼」
「ダメだヨ左千夫クン!これ以上近づかないで…」
「いいじゃないですか、僕と貴方は親友なんだから…」
「左千夫クン…そんなに近くにいると…ボク恥ずかしいヨ!」
目の前で会長と副会長がイチャイチャしている。
副会長が座っている膝の上に会長が座っている状態だ。
ありえなさすぎて思考が停止してしまう。
三木さんの言っていることは本当だった。
いくら会長と副会長がイケメンと言えども、デカイ男二人がぎゅうぎゅうにくっつきあってるのは…さすがに気持ちが悪い。
その光景を無言で見つめていると、奥からいつもの無表情でイデアが出てくる。
「ナユタとユズユは無事ナノカ。…タツミとハルキは…予想ドオリだナ」
その手にはカメラが握られていた。
四人のありえない光景を写真に収めながら、「研究材料に」などと呟いていた。
「悠長だなおまえ……これ、一体どういうことなんだよ?
なんか学校全体がこんな雰囲気で……誰かの特殊能力のせいか?」
「ソウダロウナ。しかも無差別ニ暴走シテイルようダ。
サシズメ、「仲の悪いモノ同士を仲良くサセル」能力と言ったトコロカ」
だからこの四人はこんなに仲良くなったのか。
それなら納得がいくが、早くこんなおかしな状態は治さないといけない。
仲がいいにもほどってもんがある。
四人にとっては不本意であることも間違いないだろうし…副会長を除いては。
「トニカク、この能力を使ってイル人間を探セ。
解く方法を知っているハズダ」
イデアの言葉に大きく頷くと、巽と晴生を押し付けて、三木さんとイチャイチャパラダイスな校内へと出ていった。
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【三木 柚子由】
千星君達の後をついて(裏)生徒会室に入ると朝よりも酷い光景が待っていた。
私は思わず両手で口元を覆ってしまい、頬が赤くなる。
左千夫様がこういうことをしてもけがらわしいとは思わなかった。
少し官能的に見える。
問題はしている、相手。
でも、なんだか、クッキーさんは逆に奥手になっているみたいなので良かったと肩を落とす。
イデアちゃんの見解は千星君と同じだった。
私達はイデアちゃんに四人を任せて早速外へと出た。
一番人が多い校舎を一階から歩いて行く。
イデアちゃんによると。
『能力が暴走シテイル、今。お前たちダケでも接触すれば、能力者ガわかるだろう。
取り合えず、しらみつぶしにアルケ。
そして、探せ』
だった。
日当瀬君が正常じゃない上、左千夫様もおかしくなっている今は私達は歩くしかなかった。
イデアアプリは展開させてブレスレットにしてある。
左千夫様の携帯をお借りしてきたので私の手首にはピンクと黒のブレスレットが二重になっていた。
教室、廊下、トイレ、階段、全てを回って後は屋上だけ。
校舎内はスキンシップが激しい人が居るけど、いつものように万葉先輩の「IKKIのLunch Break」が掛っていた。
喧嘩が無くて平和で、私はこの空気は少し好きかも知れない。
そして、私達は屋上へと向かう階段を上がって行った。
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【千星 那由多】
ある程度校内を周って能力者を探したけれどそれらしき人物はいなかった。
暴走している能力者とは一体どういった感じなんだろうか…。
見た目でわかるんだろうか?
自然と何かを感じ取ったりできるのか?
そんなことを考えながら三木さんと二人で屋上へと向かっていく。
扉を開けると、そこには昼休憩中で食事をとっている生徒が何人かいたが、ここにいる生徒も能力の影響か所々でベタベタしている。
女生徒はそれなりに「かわいいな」程度で見れるんだけど、男子はできることなら目を向けたくはない。
屋上へと踏み出すと一人一人の生徒を確認するように辺りを見回す。
その瞬間頭に小さな痛みが走った。
「ッ……?」
気持ちの悪い感覚だった。
自分の中に何かが無理矢理入ってくるような。
この感覚が、暴走している能力者が側にいることを示しているのだろうか。
三木さんも同じような痛みを感じたらしく、俺の方を見たのでお互い小さく頷いた。
奥へと歩いて行くと、どんどん頭の痛みが酷くなってきた。
そして、一人、屋上の端の方で佇んでいる女子を見つける。
その時点で俺の頭の中はキンキンとうるさかった。
多分、いや、絶対にあの女子生徒が能力者だ。
「……美由紀ちゃん…」
三木さんが名前を呟いた。
どうやら目の前にいる女子は三木さんの知り合いらしい。
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【三木 柚子由】
酷い耳鳴りがする。
これかな、イデアちゃんの言ってた暴走している能力者って。
千星君にも症状が有る様で二人で一緒に奥へと進んで行った。
するとクラスメイトがそこに居た。
名前は、笠井美由紀(かさいみゆき)ちゃん。
「……美由紀ちゃん…」
振り向いた美由紀ちゃんは少し顔色が悪かった。
もしかして、本当に彼女が能力者?
彼女は普通の女の子な筈。でも、特殊能力は急に開花するものだから分からない。
「あのね、柚子由ちゃん…美紀ちゃんとね、梢ちゃん、仲良くなったよ。
心配かけちゃってごめんね。」
彼女はまだ自分の能力を確りと把握していないみたい。
少し、しんどそうな表情のままそう呟いた。
「美由紀ちゃん……。」
「でもね、なんかおかしいんだ。
私の事は二人とも全く見えなくなっちゃったみたい。
元から、そんな存在だったのかもしれないけど。
後ね…なんか、周りのみんなもおかしいんだ…。
もしかして、あの男の子が言ってた魔法の力が私には有ったのかな?」
彼女から不思議な単語が飛び出した。
やっぱり、誰かが能力を開花させた様子。
そう言った彼女は眩暈を起こしたのかふらっと後ろに倒れそうになったので、慌ててその子を支えた。
「大丈夫…?美由紀ちゃん、あのね……二人がおかしくなっちゃったのはね、本当に美由紀ちゃんの魔法のせいだよ?
美由紀ちゃん、その男の子に魔法の、解除方法とか聞かなかったかな?」
少し虚ろな彼女の瞳を覗きこみながら言葉を掛けて行った。
能力を多用し過ぎての貧血かな?
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【千星 那由多】
三木さんに支えられた笠井さんへと近づく。
虚ろな表情が青ざめていて、とてもかわいそうだった。
能力が暴走すると、こんな風になってしまうのだろうか。
まだまだ特殊能力に関しては知らない事が多い。
解除方法を尋ねると、笠井さんは小さく口を開いた。
「解除方法は……その、……」
少し言いにくそうに口籠る彼女をじっと見つめる。
視線を伏せ、続けて発した言葉に、俺は耳を疑った。
「今仲良くなっている人同士……キス、を…しないといけない、の」
「「え?」」
三木さんと俺は目を丸くし、硬直する。
キ、キキキキ、キス……だとおおおおおおお!!!????
脳内に嫌な光景が広がり始める。
確かに周りはキスをもしそうな勢いの奴等が多いが、それが解除方法ということは、俺達にできることは「キスを促す」ことしかない。
もちろん、女同士も男同士もしなくてはいけないんだろう。
そして、会長達もキスをするしかないという事……。
全身に寒気が走り、想像をかき消すように頭を左右に振った。
「ほ、他になにかないの!?」
「ごめんなさい…本当にこれしか……」
落ち込んだような表情を見せたので、あまり彼女を攻めたてても仕方がない。
俺は三木さんの顔を見た。
「ど、どうします…?キ、キスったって、校内全員にしてもらうなんてどうすればいいか…」
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【三木 柚子由】
「ど、どうします…?キ、キスったって、校内全員にしてもらうなんてどうすればいいか…」
千星君がどもりながらそう告げる。
どうしよっかな…、校内全身を二人で後ろから押して回る訳にもいかないし。
どうにか、全員にメッセージを届ける方法は無いのかな。
「ごめんなさい…。
ちっちゃい子が言ったのはね、二人の為に作った歌を聞かせることができたら、仲良くなるって…言われたんだけど。
だけど、私、人前で歌うのが恥ずかしくて、昨日、一輝先輩にお願いして、お昼休みの放送番組で流して貰ったんだ…。
それが、こんなことになるなんて…。」
「うん。美由紀ちゃんはただ、二人を仲良くさせたかっただけって、分かってるから。」
そう言えば昨日、聞きなれないラブソングが昼休みに流れていた。
あれは美由紀ちゃんが歌ったものだったんだ。
……そうだ、校内放送を使えば。
「千星君!放送!万葉先輩に頼んで放送を貸して貰ったらいいのかも…。
あ、あとはどうやって、き、キスにもっていくかだけど…。」
それを考えていると、私が支えていた美由紀ちゃんの顔色が更に悪くなる。
先に保健室に運んだ方がよさそうだ。
その前に私は千星君に幻術を掛ける。
これで、万葉先輩からは彼は私に見える筈。
「私、美由紀ちゃんを先に保健室に連れて行くね…
一応、万葉先輩からみても、千星君が私に見える様に幻術を掛けたから(裏)生徒会の名前を出しても大丈夫だよ。
…先輩にも良い方法が無いか相談して貰ってもいいかな……彼は協力的だから、何か良いアイデアをくれるかもしれない…。」
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【千星 那由多】
校内放送から全校生徒に向けてキスを促す…。
それなら確かに全員に向けて発信することができる。
促す方法は思いつかないが、昼休みが終わるまで時間がないので今ここで考えている暇もない。
放送委員の万葉先輩のことは昼間の放送でしか知らないが、三木さんに見える幻術もかけてもらったのであちらも疑うようなことはまずないだろう。
「わかりました…行ってきます!!」
俺は三木さんに笠井さんを頼み、放送室へと走った。
校内は万葉先輩のラジオ放送がかかっている。
今は流行の音楽が流れていた。
放送室へと辿り着くと、俺は乱れる息を整えてドアを叩く。
俺が三木さんに見えているということは、三木さんらしく振る舞わなければいけない。
返事はなかったが、扉は鍵がかかっていなかったので、中を覗くようにドアを開けた。
「あれ、三木っちじゃん」
そこには金に近い髪色のギャル男が行儀悪く座っている。
これが…万葉先輩だろうか。
放送から大体の人物像はできあがっていたが…想像以上にチャラい身なりで俺の苦手な部類だった。
「どしたの?(裏)生徒会関係?」
屈託ない笑顔で俺…いや、三木さんの姿をした俺に話しかけてくる。
急がなければと我に返ると、放送室のドアを閉め、念のため鍵もかけておいた。
「えーと…ちょっと、相談がありまして…。
校内放送をお借りして、全校生徒にキ、キスを促したいんですが…何かいい方法はありますか?」
ちょっと恥ずかしかったので、視線を逸らしながら万葉先輩に問いかける。
三木さんになりきったつもりだったが、大丈夫だったろうか。
落としていた視線を万葉先輩に向けると、目を丸くして驚いた表情をした。
やっぱりこんなこと言うのおかしいって思うよな…。
「な……何それ超面白そう!!!
今週調度恋愛特集だったからイイじゃんやっちゃって♪
キスを促すなら……そうだね、これとか読んじゃう系??」
どうやら万葉先輩は何も疑うことなく後ろの棚から本を取り出した。
なんとも適当…いや、ノリのいい人だ。
取り出した本をペラペラと捲ると、開いたまま俺に渡す。
「もう音楽終わるから、俺の合図の後にそのページ読んでみなよ、多分みんな大興奮しちゃうかも?」
背中を押され、マイクの方へと促される。
開かれたページを確認する間もないまま、流れていた音楽は終わってしまった。
そして、万葉先輩が二本の指を俺に指示し、合図を出す。
BGMがPOPな物から妖艶な雰囲気のものに変わった。
「ほら、はやくっ」
「えっ、あっはい!」
どうしていいかわからずテンパっていると、小声で本を読むように促される。
俺は大きく息を吸い、ページの文章を読み上げた。
『か、彼の吐息が首すじに触れた。僕は息を飲………むぅ!!!???』
読んだ瞬間、万葉先輩に慌てて視線を送った。
これ……官能小説じゃねえ!!!???
そんな俺の意思のこもった目を無視しながら、万葉先輩は腹を抱えて笑っている。
なんだこの人は、協力的なのはありがたいが、これは…これはないだろ!!
いや、でも、ここまで来たら、やるしか…。
俺は意を決して続きを読み始めた。
『この日をずっと、僕は待ちわびて、いた…。胸の高鳴りが彼に聞こえてしまわないだろうか。
雄二の顔が近い……か、彼の頬に手を置き、柔らかそうな薄い唇に視線を落とす……。
「ファーストキスなんだ…」そう言うと、雄二は優しく笑った……』
そこまで読み上げたところで、ドアを誰かが叩いた。
「今すぐ放送をやめなさい!!なにをしているんだ!!!!」
……先生だ…まずい。
万葉先輩は指でOKサインを出して笑っているが、気にせず続けろということだろうか。
『ゆ、雄二の唇が、吐息が、僕のくち、唇へとそっと触れる。
瞬間身体中に電気が走ったような気がした……夢中で濡れた唇を貪る、静まりかえった室内に…いやらしい音が響いた……ぼ、僕のか…か…かは……』
そこまで読み上げた所で俺は本を勢いよく閉じた。
さすがにもうこれ以上は無理だ……!!!
しかもなんで男同士でキスしてんだよ意味わかんねえ!!!
相変わらず先生は扉を叩いていたが、気にせずに万葉先輩は室内のモニターを付けた。
どうやら校内の様子が少し見えるみたいだった。
画面の中には、この放送を聞いて盛り上がってしまった生徒がキスをしていた。
「おっ♪いー感じだね~!成功じゃん?」
ビッと親指を立てた万葉先輩を正直殴り飛ばしたかった。
引き攣った笑顔を向け笑っていると、先生がスペアキーを使ったのかすごい剣幕でドアを開けて入ってきた。
「万葉!!!またお前は変な放送を!!!」
どうやら矛先は万葉先輩の方へと向かったらしい。
もしかしてこれも計算のうちだったのだろうか。
先生が万葉先輩に詰め寄っている間に、俺は放送室からこっそり抜け出し、校内の確認へと向かった。
ああ、もう、なんでこんなこっ恥ずかしいことをしなくちゃいけないんだ…。
深いため息を吐きながら、校内を駆け巡った。
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【三木 柚子由】
どうやら千星君の作戦は成功したみたい。
ベッドに横になっている美由紀ちゃんの表情に少し赤みが戻った。
もしかして、仲良くさせている間は体力を消耗したりするのかな。
特殊能力は人に寄ってバラバラな為、そこまでは私には分からなかったけど、これで彼女は大丈夫そう。
それにしても……。
千星君凄い小説読んでた……。
放送から流れる声は彼のままだと伝えるのを忘れていたけど…、大丈夫かな。
声だけで、彼だと気付く人はそんなに居ないと思うけど。
美由紀ちゃんの調子が良くなったので私は校内へと戻った。
すると逃げる様に放送室から出てきた千星君と出会った。
「お、おおお、お疲れ様、千星君…」
千星君の顔見た瞬間真っ赤になってしまった。
この事実をいえそうになくて私は黙ってしまうけど、放送室は騒がしかったので場所を移動することにした。
「この後は確認に行きますか?」
千星君から声が掛った。
確かに放送を聞いてない人も居るかもしれないのでその必要はあるだろう。
「うん…。私、幻術が使えるから人数が多い校舎、中庭、校庭を回るね。
沢山の人を幻術に掛けるのは無理だけど、数組だったら大丈夫だと思うから。
千星君は実習棟をお願いしていいかな?」
千星君は快く頷いてくれたので私達は別れることにした。
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【千星 那由多】
三木さんと再び別れると俺は実習棟へと向かう。
昼休憩もあと少ししかないので、実習棟付近にはあまり人はいないようだった。
そこに辿りつくまでにまだ能力の影響を受けている生徒が数組いたので、事故を装ってキスさせておいた。
キスをした後、暫くしてから生徒二人の叫び声があがった。
正常に戻った後はどうなるのだろうか。
更に仲が良くなるのか、それとももっと悪くなるのか。
本当に厄介な能力だ。
そして、残るは(裏)生徒会室にいる…四人。
放送を聞いてキスの流れになっていれば、俺は何もしなくてすむ。
寧ろしたくないので、もう正常に戻っていてほしい。
息を整えながら、人体模型のボタンを押した。
扉の向こうの会議室には誰もいなかった。
全員教室に戻ったのかと思ったが、どこからか巽と晴生の楽しそうな話し声が聞こえてくる。
場所は……仮眠室からだ。嫌な予感で気が重くなる。
そちらへ向かいドアの隙間から部屋を覗いた。
「そうなんだよ!那由多のあの声が!」
「良くわかってんじゃねぇか!親友!!」
もう二人は親友になってしまっているらしい。
いや、いいんだけど…いいんだけどこいつら治ってねえ!!!!
俺は先ほどから嫌なことをさせられている苛立ちで、ドアを蹴り破るように開けた。
二人が目を丸くして俺を見た後、笑顔になり抱き着いてくる。
「今調度那由多の話ししてたんだよ!どこ行ってたの?」
「千星さん!三人で仲良く話しましょう!!」
デカイ犬が二匹いるみたいだった。何故か尻尾が見える気さえする。
俺はわなわなと震えながら、床に倒れたまま大きく怒鳴る。
「……待てっ!!!」
その声に二人は驚いた表情をすると、しぶしぶ俺から離れた。
床に座りなおすと、神妙な面持ちで二人を見据え、咳払いをした。
「……おまえら、いいか……おまえの大好きな俺からの命令だ……い、今すぐ、―――――キスをしろ!!!」
仮眠室に声が響き渡った。
もうこうなったら命令する他ない。
二人は俺の目の前で正座したまま固まっていた。
室内が静まり返った後、最初に口を開いたのは晴生だった。
「そ……そそそそそそそそんな、千星さんの前でなんて恐れ多くて!!」
「え?僕大丈夫だけど」
どうやら晴生は無理らしい。いや、俺の前で無理ということはできないわけじゃないんだろう。
それもどうなのかと思ったが、巽はというと全然余裕でできるよ、という表情だった。
それから暫く晴生をその気にさせようと奮闘したが、「無理」の一点ばりで揉めに揉めた。
「はっ…はぁ…もう……早く…しろ!!いけ!!!巽!!!」
晴生が無理なら無理矢理巽にさせるしかない。
巽は俺に笑顔を向けると、晴生を羽交い絞めにし、そのまま床へとに押し倒した。
そこからの行為は想像するだけで気持ち悪いので、一人仮眠室から出ると、そっとドアを閉めた。
暫くして晴生と巽の叫び声が響き渡ったが、正常に戻った後の事は………もう俺は知らない。
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【三木 柚子由】
校内を探し初めて直ぐに、美化委員長と体育委員長に出会った。
先程と変わらず手を繋いで歩いていたので、調度二人の真ん中にリンゴが落ちてくると言う有りえない幻術を見せる。
調度向かい合ったところで、ポンっと美化委員長の背中を押した。
ちゃんと二人の唇は合わさったようだ、けど。
その後はに、「ギャー―――!!!」と、言う叫び声が聞こえた。
でも、ばれるわけにはいかないので走り去る。
大丈夫だったかなぁ…。
その手段で数組の術を解いていく。
数学の先生と国語の先生もそのままだったので、幻術を使おうと思ったが、そろそろ私の体力も限界だった。
左千夫様無しで長時間解除しているせいもあるみたいだけど。
仕方なく、演技をすることにする。
「あ。あの……。」
「どうしたの柚子由ちゃん?」
「さっきの放送で、流れていたことってどんなことですか?」
「さっきのってあの、官能小説の事?」
「そうです…!!ど、どんなシーンか浮かばなくて、その……先生たちで実演して、頂けませんか?」
二人の女の先生は顔を真っ赤にしていたけど。
柚子由ちゃんの頼みなら仕方ないわね!
と、き、キスをしてくれた。
勿論私は二人のキスの姿を見る前に逃げてきたけど。
そして、最後に自分の教室に入る。
気力も、体力も限界だったのでここは何もなければ良いけど。
自分の教室なのにそっと後ろの扉から覗いてしまった。
「あーあ。なんで、梢とチューなんかしちゃったんだろ。」
「それはこっちのセリフだよ!!美紀!!」
「と、言うか、なんで喧嘩してたんだろね、あたしたち。」
「ほんと、それそれ!!そう言えば美由紀どこいった?
三木さん、美由紀しらない?」
ちょうど、安井梢さんと視線が有ってしまった私は目を瞬かせた。
どうやら、ここは美由紀ちゃんの能力が切れてもうまくまとまったみたい。
嬉しかった私は笑みを浮かべながら二人へと回答する。
「保健室だよ。」と、伝えると二人とも慌てて保健室に走って行った。
これで、美由紀ちゃんの悩みも解決出来たみたい。
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【千星 那由多】
巽と晴生は無事に…ではないが解決した。
次は会長と副会長だが…。
姿が見当たらないので、会長の自室へと向かった。
(裏)生徒会室には会長の自室がある。
一度も出入りしたことはなかったけど、調度アトリエに籠っていたイデアが出てきたので、案内してもらう。
更に地下へと階段を降りなければいけなかったので、イデアにはここまででいいと言って残ってもらった。
階段を降りると重そうな扉をノックする。
返事がないので、静かにドアを開け中へと入ったが、室内には誰もいなかった。
やはり二人は教室へ帰ったかもしれない。
しかし、正常に戻れているかは確信がないので、とにかくこの部屋から出ようとした時だった。
「!!」
扉が開いた先に、髪の濡れた裸の会長と、ガウンを着た副会長が立っていた。
「か、かかかかか会長!!!!!」
俺は思わず視線を下に落としたが、別に男なのだから裸を見たって構わないではないか。
いや、でも、なんか、会長の裸は見てはいけない気がする。
「な、なんですかその格好!!」
「左千夫クンはいつもこうだよ?」
副会長がそう言い放つと、二人は手を繋ぎながら室内へと入ってくる。
見た目からして多分シャワーを浴びていたみたいだが、その後の二人の行動を見ると、どうやらまだこの二人も正常には戻っていないみたいだった。
この二人は厄介そうだ…。
俺の言う事を聞いてくれる気がしない。
けれど、説得するしかない。
「会長、副会長……今、二人はおかしいんです。
特殊能力のせいでありえないくらいに仲良くなってるんです!
別に俺はそれでもかまいませんが……このままじゃ(裏)生徒会はちゃんと機能しません!!」
俺の話を聞いているのかいないのか、会長と副会長はべったりとくっついている。
「……でも、ひとつ、解決方法があります。
二人が…二人がキスをすれば、元に戻れます……!
お願いです、キ、キスを……キスをしてください!!!」
二人に向かって深々と頭を下げる。
俺は一体何を真剣に頼み込んでいるんだ。
多分こんな事は二度とお願いすることはないだろう。
いや、今は冷静になった方が負けだ。
「……いいですよ」
静まり返った室内に、会長の声が響いた。
俺は下げていた頭をあげるとグッと拳を握った。
どうやら聞き入れてもらえたみたいだ。
「よかった…じゃあ、俺上に行ってますんで……って会長?」
引き受けたはずの会長は何故か副会長に向かわずに、俺へと向かってくる。
後ろへと後ずさったが、背中に壁が触れると逃げ場が無くなり顔が引き攣った。
「ちょ、ま、待ってください……」
これ、まずくないか?なんか勘違いされているような…。
会長の鼻先が俺の鼻先へと触れるギリギリまで近づいた。
明らかに俺にキスをしようとしている。
「ちが!違う!違うんです会長!!!俺じゃなくてっふくかいちょ…―――――んぶぅううう!!!!!」
そこから色々あった気はするが、俺の記憶はない。
気づけば昼休みはとっくに過ぎ、会議室のイスに座っていた。
会長も同じように紅茶を飲みながら座っている。
もしかして全部俺の夢か?…いや、そんなはずはないと思うんだが。
「おつかれさまでした」
そう言って微笑んだ会長を見て、なんとなく全部わかってしまったような気がした。
女子って、妙に些細なことで喧嘩したりする。
沸点が低いと言うより、意味がわからないことが多い。
私はあまりそういうのが好きじゃなくて、いつも間に挟まれてしまうのだけれど、今回もそうだった。
昨日まで仲の良かった友達が、いがみ合ったり、無視しあったりするのはやっぱり辛い。
あっちでは誰かの悪口、こっちでは違う子の悪口、それに振り回されるのも正直嫌だった。
「皆が仲良くなれる魔法があればなぁ…」
そんなことを一人呟いていた帰り道だった。
あの男の子が私の前に現れたのは。
「あるよ、試してみる?」
私の後ろでそんな声がした。
そこに居たのは、金髪で長い前髪をセンターで分けている外人の男の子だった。
「…僕、どうしたの?迷子かな?」
「あんたの言ってる魔法があるよ、って言ってるんだよ」
日本語はうまく喋れるみたいだけど、ちょっと言葉遣いが悪いのが気になる。
どうやらこの子は私の呟いた言葉を聞いて「ごっこ」を始めたみたいだ。
「そんなのあったらいいなぁ、知ってるなら教えてくれる?」
そう言うと男の子は子供らしくない笑顔で笑った。
その表情に背筋がゾッとしたけど、腕を引っ張られてしまい、どこかへと導かれていく。
私はこの時、本当に「仲良くなれる魔法」を手に入れることができるとは、思いもしなかった。
-----------------------------------------------------------------------
【三木 柚子由】
「おはようございます、左千夫さ……左千夫様?」
「嗚呼、柚子由、おはようございます。
もう、そんな時間ですか?」
朝、自分のクラスに行く前にいつものように(裏)生徒会室に寄った。
そこでは目を瞠る光景が繰り広げられていた。
左千夫様が朝食のパンケーキを小さく切り、しかも、左千夫様が嫌いなマスタードを塗って、一つずつフォークで刺してクッキーさんの口に運んで行ってる。
いつもなら、制服もピシっと来ているのにまだ、カッターシャツを着ているだけだった。
「すいません、柚子由。僕はもう少し、九鬼と友好を深めてから行きますので、今日は先に行っておいてもらえますか?」
「あ。はい。」
思わず生徒会室の扉を閉めてしまった。
それにしても、おかしい。
距離も有りえないほど近かった。
その後はクッキーさんのネクタイまで閉めてあげていた。
今も中から笑い声が聞こえる。
私は(裏)生徒会室に続く扉を完全にロックすると教室へと向かった。
廊下でも普段は見られない光景が広がっている。
確か、美化委員長と体育委員長は仲が悪かった筈。
なのに、手を繋いで廊下を歩いていた。
他にも国語の先生と数学の先生はライバル視していた筈、それなのに仲睦まじく肩を寄せ合っていた。
目に分かるほどスキンシップが激しくなった人が多い。
男同士か、女同士ばかりなので、友情がちょっと激しくなったのかな。
そうして、私は自分のクラスに着いた。
-----------------------------------------------------------------------
【千星 那由多】
「僕はね、なゆたの癖っ毛がすきなんだ。」
「天夜いいこと言うな!おれも、千星さんのあの髪の質感がたまらねぇ。」
「だよね!やっとわかりあえたね、俺たち!」
どういうことだ。
今目の前にいる人物二人…巽と晴生がありえないくらい仲良く寄り添って楽しそうに会話している。
言わなくてもわかるくらいに二人は仲が悪い。
大体二人でいれば喋らないか、晴生が苛立っているかのどちらかなんだが、今は何故か、ハグまで交わす始末だ。
今日いつも通り二人が俺を迎えに来た、そこまではいつもの風景だった、そこまでは。
俺が玄関先で、熱く語らっている二人を見て固まっていると、いつも以上に俺の手を引いて、引きずり出される。
「ああ、那由多が真ん中じゃ日当瀬と手を繋げない」
「想定外だ……でも、俺達そんなことしなくてもわかり合えてるじゃねぇか!」
………正直気持ち悪い。
結局二人は俺を挟んだ状態で、楽しそうに語り合っていた。
時折目の前で握手が交わされる。
男三人が並んで手を繋ぎながら歩く姿に、すれ違う生徒達は好奇な物を見る目で見ていた。
今の二人は俺の髪の毛がストレートになるくらいにありえない。
何かの嫌がらせか?…いや、巽がしたとしても、晴生が俺に対してそんなことをするとは思えない。
まぁ仲が良ければそれはそれでいいんだけど、これはこれで疲れて仕方がない。
周りにもチラホラと仲が良さげな二人組を見かけた。
しかもその全員が同性で、カップルというわけではない。
みんな楽しそうに笑顔で歩いている。
教室に着くまで散々「俺の良さ」を二人の口から聞かされ、早々に帰りたくなっていた。
席に着いても巽と晴生は熱の籠った会話を続けている。
とにかく、何か変だ。
昨日までこんなことはなかった。
クラスのことはあまり気にしていないからわからないけど、校内生徒のほぼ半数が「なかよしこよし」になっているのは確かだ。
もしかしたら誰かの特殊能力の影響かもしれない。
そう言った介入が無ければ、巽と晴生の仲が良くなるわけがない。
次の休み時間に、三木さんに連絡をとってみよう。
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【三木 柚子由】
クラスでも少し様子がおかしかった。
確か、彼女と彼女は数日前から喧嘩していた筈。
それについて調度友達から相談を受けていたから間違いない。
でも、仲直り出来たのなら良かったかも。
それにしても仲が良くなり過ぎな気がする。
他にもいつもは険悪なムードな人たちが今日はなんだかすごい。
手を握るは普通で、抱き合ってる人達も居る。
一部の女の子には見られる行為だけど、男子までだから、少し変だ。
そのまま一時間目が過ぎた時に千星君がやってきた。
私が慌てて廊下に向かうとその後ろには見慣れない光景が広がっていた。
「天夜君……と、日当瀬君?」
違う人かと思うくらい二人は仲良く。
何度も握手したり抱き合ったりしていた。
そう言えば左千夫様も今朝はこんな感じだった。
それから千星君から、これは誰かの特殊能力が介入していないかと告げられた。
私は左千夫様の上体を話した、すると千星君は驚いていたみたい。
昼休みに(裏)生徒会に集まる約束をして、ここではひとまず分かれた。
イデアちゃんに聞けば少しは何かが分かるかな?
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【千星 那由多】
どうやら会長と副会長も巽と晴生のようになっているらしい。
想像ができない上にあの二人がベタベタしてるのはあまり考えたくなかった。
三木さんは特に変化も無いようだったので、それだけが救いだった。
昼休憩が始まると、飯も食わずに相変わらず熱い友情をさらけ出している巽と晴生を引きずりながら(裏)生徒会室へと向かう。
扉を開けると、そこには未知なる世界が広がっていた。
「逃げないでください、九鬼」
「ダメだヨ左千夫クン!これ以上近づかないで…」
「いいじゃないですか、僕と貴方は親友なんだから…」
「左千夫クン…そんなに近くにいると…ボク恥ずかしいヨ!」
目の前で会長と副会長がイチャイチャしている。
副会長が座っている膝の上に会長が座っている状態だ。
ありえなさすぎて思考が停止してしまう。
三木さんの言っていることは本当だった。
いくら会長と副会長がイケメンと言えども、デカイ男二人がぎゅうぎゅうにくっつきあってるのは…さすがに気持ちが悪い。
その光景を無言で見つめていると、奥からいつもの無表情でイデアが出てくる。
「ナユタとユズユは無事ナノカ。…タツミとハルキは…予想ドオリだナ」
その手にはカメラが握られていた。
四人のありえない光景を写真に収めながら、「研究材料に」などと呟いていた。
「悠長だなおまえ……これ、一体どういうことなんだよ?
なんか学校全体がこんな雰囲気で……誰かの特殊能力のせいか?」
「ソウダロウナ。しかも無差別ニ暴走シテイルようダ。
サシズメ、「仲の悪いモノ同士を仲良くサセル」能力と言ったトコロカ」
だからこの四人はこんなに仲良くなったのか。
それなら納得がいくが、早くこんなおかしな状態は治さないといけない。
仲がいいにもほどってもんがある。
四人にとっては不本意であることも間違いないだろうし…副会長を除いては。
「トニカク、この能力を使ってイル人間を探セ。
解く方法を知っているハズダ」
イデアの言葉に大きく頷くと、巽と晴生を押し付けて、三木さんとイチャイチャパラダイスな校内へと出ていった。
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【三木 柚子由】
千星君達の後をついて(裏)生徒会室に入ると朝よりも酷い光景が待っていた。
私は思わず両手で口元を覆ってしまい、頬が赤くなる。
左千夫様がこういうことをしてもけがらわしいとは思わなかった。
少し官能的に見える。
問題はしている、相手。
でも、なんだか、クッキーさんは逆に奥手になっているみたいなので良かったと肩を落とす。
イデアちゃんの見解は千星君と同じだった。
私達はイデアちゃんに四人を任せて早速外へと出た。
一番人が多い校舎を一階から歩いて行く。
イデアちゃんによると。
『能力が暴走シテイル、今。お前たちダケでも接触すれば、能力者ガわかるだろう。
取り合えず、しらみつぶしにアルケ。
そして、探せ』
だった。
日当瀬君が正常じゃない上、左千夫様もおかしくなっている今は私達は歩くしかなかった。
イデアアプリは展開させてブレスレットにしてある。
左千夫様の携帯をお借りしてきたので私の手首にはピンクと黒のブレスレットが二重になっていた。
教室、廊下、トイレ、階段、全てを回って後は屋上だけ。
校舎内はスキンシップが激しい人が居るけど、いつものように万葉先輩の「IKKIのLunch Break」が掛っていた。
喧嘩が無くて平和で、私はこの空気は少し好きかも知れない。
そして、私達は屋上へと向かう階段を上がって行った。
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【千星 那由多】
ある程度校内を周って能力者を探したけれどそれらしき人物はいなかった。
暴走している能力者とは一体どういった感じなんだろうか…。
見た目でわかるんだろうか?
自然と何かを感じ取ったりできるのか?
そんなことを考えながら三木さんと二人で屋上へと向かっていく。
扉を開けると、そこには昼休憩中で食事をとっている生徒が何人かいたが、ここにいる生徒も能力の影響か所々でベタベタしている。
女生徒はそれなりに「かわいいな」程度で見れるんだけど、男子はできることなら目を向けたくはない。
屋上へと踏み出すと一人一人の生徒を確認するように辺りを見回す。
その瞬間頭に小さな痛みが走った。
「ッ……?」
気持ちの悪い感覚だった。
自分の中に何かが無理矢理入ってくるような。
この感覚が、暴走している能力者が側にいることを示しているのだろうか。
三木さんも同じような痛みを感じたらしく、俺の方を見たのでお互い小さく頷いた。
奥へと歩いて行くと、どんどん頭の痛みが酷くなってきた。
そして、一人、屋上の端の方で佇んでいる女子を見つける。
その時点で俺の頭の中はキンキンとうるさかった。
多分、いや、絶対にあの女子生徒が能力者だ。
「……美由紀ちゃん…」
三木さんが名前を呟いた。
どうやら目の前にいる女子は三木さんの知り合いらしい。
-----------------------------------------------------------------------
【三木 柚子由】
酷い耳鳴りがする。
これかな、イデアちゃんの言ってた暴走している能力者って。
千星君にも症状が有る様で二人で一緒に奥へと進んで行った。
するとクラスメイトがそこに居た。
名前は、笠井美由紀(かさいみゆき)ちゃん。
「……美由紀ちゃん…」
振り向いた美由紀ちゃんは少し顔色が悪かった。
もしかして、本当に彼女が能力者?
彼女は普通の女の子な筈。でも、特殊能力は急に開花するものだから分からない。
「あのね、柚子由ちゃん…美紀ちゃんとね、梢ちゃん、仲良くなったよ。
心配かけちゃってごめんね。」
彼女はまだ自分の能力を確りと把握していないみたい。
少し、しんどそうな表情のままそう呟いた。
「美由紀ちゃん……。」
「でもね、なんかおかしいんだ。
私の事は二人とも全く見えなくなっちゃったみたい。
元から、そんな存在だったのかもしれないけど。
後ね…なんか、周りのみんなもおかしいんだ…。
もしかして、あの男の子が言ってた魔法の力が私には有ったのかな?」
彼女から不思議な単語が飛び出した。
やっぱり、誰かが能力を開花させた様子。
そう言った彼女は眩暈を起こしたのかふらっと後ろに倒れそうになったので、慌ててその子を支えた。
「大丈夫…?美由紀ちゃん、あのね……二人がおかしくなっちゃったのはね、本当に美由紀ちゃんの魔法のせいだよ?
美由紀ちゃん、その男の子に魔法の、解除方法とか聞かなかったかな?」
少し虚ろな彼女の瞳を覗きこみながら言葉を掛けて行った。
能力を多用し過ぎての貧血かな?
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【千星 那由多】
三木さんに支えられた笠井さんへと近づく。
虚ろな表情が青ざめていて、とてもかわいそうだった。
能力が暴走すると、こんな風になってしまうのだろうか。
まだまだ特殊能力に関しては知らない事が多い。
解除方法を尋ねると、笠井さんは小さく口を開いた。
「解除方法は……その、……」
少し言いにくそうに口籠る彼女をじっと見つめる。
視線を伏せ、続けて発した言葉に、俺は耳を疑った。
「今仲良くなっている人同士……キス、を…しないといけない、の」
「「え?」」
三木さんと俺は目を丸くし、硬直する。
キ、キキキキ、キス……だとおおおおおおお!!!????
脳内に嫌な光景が広がり始める。
確かに周りはキスをもしそうな勢いの奴等が多いが、それが解除方法ということは、俺達にできることは「キスを促す」ことしかない。
もちろん、女同士も男同士もしなくてはいけないんだろう。
そして、会長達もキスをするしかないという事……。
全身に寒気が走り、想像をかき消すように頭を左右に振った。
「ほ、他になにかないの!?」
「ごめんなさい…本当にこれしか……」
落ち込んだような表情を見せたので、あまり彼女を攻めたてても仕方がない。
俺は三木さんの顔を見た。
「ど、どうします…?キ、キスったって、校内全員にしてもらうなんてどうすればいいか…」
-----------------------------------------------------------------------
【三木 柚子由】
「ど、どうします…?キ、キスったって、校内全員にしてもらうなんてどうすればいいか…」
千星君がどもりながらそう告げる。
どうしよっかな…、校内全身を二人で後ろから押して回る訳にもいかないし。
どうにか、全員にメッセージを届ける方法は無いのかな。
「ごめんなさい…。
ちっちゃい子が言ったのはね、二人の為に作った歌を聞かせることができたら、仲良くなるって…言われたんだけど。
だけど、私、人前で歌うのが恥ずかしくて、昨日、一輝先輩にお願いして、お昼休みの放送番組で流して貰ったんだ…。
それが、こんなことになるなんて…。」
「うん。美由紀ちゃんはただ、二人を仲良くさせたかっただけって、分かってるから。」
そう言えば昨日、聞きなれないラブソングが昼休みに流れていた。
あれは美由紀ちゃんが歌ったものだったんだ。
……そうだ、校内放送を使えば。
「千星君!放送!万葉先輩に頼んで放送を貸して貰ったらいいのかも…。
あ、あとはどうやって、き、キスにもっていくかだけど…。」
それを考えていると、私が支えていた美由紀ちゃんの顔色が更に悪くなる。
先に保健室に運んだ方がよさそうだ。
その前に私は千星君に幻術を掛ける。
これで、万葉先輩からは彼は私に見える筈。
「私、美由紀ちゃんを先に保健室に連れて行くね…
一応、万葉先輩からみても、千星君が私に見える様に幻術を掛けたから(裏)生徒会の名前を出しても大丈夫だよ。
…先輩にも良い方法が無いか相談して貰ってもいいかな……彼は協力的だから、何か良いアイデアをくれるかもしれない…。」
-----------------------------------------------------------------------
【千星 那由多】
校内放送から全校生徒に向けてキスを促す…。
それなら確かに全員に向けて発信することができる。
促す方法は思いつかないが、昼休みが終わるまで時間がないので今ここで考えている暇もない。
放送委員の万葉先輩のことは昼間の放送でしか知らないが、三木さんに見える幻術もかけてもらったのであちらも疑うようなことはまずないだろう。
「わかりました…行ってきます!!」
俺は三木さんに笠井さんを頼み、放送室へと走った。
校内は万葉先輩のラジオ放送がかかっている。
今は流行の音楽が流れていた。
放送室へと辿り着くと、俺は乱れる息を整えてドアを叩く。
俺が三木さんに見えているということは、三木さんらしく振る舞わなければいけない。
返事はなかったが、扉は鍵がかかっていなかったので、中を覗くようにドアを開けた。
「あれ、三木っちじゃん」
そこには金に近い髪色のギャル男が行儀悪く座っている。
これが…万葉先輩だろうか。
放送から大体の人物像はできあがっていたが…想像以上にチャラい身なりで俺の苦手な部類だった。
「どしたの?(裏)生徒会関係?」
屈託ない笑顔で俺…いや、三木さんの姿をした俺に話しかけてくる。
急がなければと我に返ると、放送室のドアを閉め、念のため鍵もかけておいた。
「えーと…ちょっと、相談がありまして…。
校内放送をお借りして、全校生徒にキ、キスを促したいんですが…何かいい方法はありますか?」
ちょっと恥ずかしかったので、視線を逸らしながら万葉先輩に問いかける。
三木さんになりきったつもりだったが、大丈夫だったろうか。
落としていた視線を万葉先輩に向けると、目を丸くして驚いた表情をした。
やっぱりこんなこと言うのおかしいって思うよな…。
「な……何それ超面白そう!!!
今週調度恋愛特集だったからイイじゃんやっちゃって♪
キスを促すなら……そうだね、これとか読んじゃう系??」
どうやら万葉先輩は何も疑うことなく後ろの棚から本を取り出した。
なんとも適当…いや、ノリのいい人だ。
取り出した本をペラペラと捲ると、開いたまま俺に渡す。
「もう音楽終わるから、俺の合図の後にそのページ読んでみなよ、多分みんな大興奮しちゃうかも?」
背中を押され、マイクの方へと促される。
開かれたページを確認する間もないまま、流れていた音楽は終わってしまった。
そして、万葉先輩が二本の指を俺に指示し、合図を出す。
BGMがPOPな物から妖艶な雰囲気のものに変わった。
「ほら、はやくっ」
「えっ、あっはい!」
どうしていいかわからずテンパっていると、小声で本を読むように促される。
俺は大きく息を吸い、ページの文章を読み上げた。
『か、彼の吐息が首すじに触れた。僕は息を飲………むぅ!!!???』
読んだ瞬間、万葉先輩に慌てて視線を送った。
これ……官能小説じゃねえ!!!???
そんな俺の意思のこもった目を無視しながら、万葉先輩は腹を抱えて笑っている。
なんだこの人は、協力的なのはありがたいが、これは…これはないだろ!!
いや、でも、ここまで来たら、やるしか…。
俺は意を決して続きを読み始めた。
『この日をずっと、僕は待ちわびて、いた…。胸の高鳴りが彼に聞こえてしまわないだろうか。
雄二の顔が近い……か、彼の頬に手を置き、柔らかそうな薄い唇に視線を落とす……。
「ファーストキスなんだ…」そう言うと、雄二は優しく笑った……』
そこまで読み上げたところで、ドアを誰かが叩いた。
「今すぐ放送をやめなさい!!なにをしているんだ!!!!」
……先生だ…まずい。
万葉先輩は指でOKサインを出して笑っているが、気にせず続けろということだろうか。
『ゆ、雄二の唇が、吐息が、僕のくち、唇へとそっと触れる。
瞬間身体中に電気が走ったような気がした……夢中で濡れた唇を貪る、静まりかえった室内に…いやらしい音が響いた……ぼ、僕のか…か…かは……』
そこまで読み上げた所で俺は本を勢いよく閉じた。
さすがにもうこれ以上は無理だ……!!!
しかもなんで男同士でキスしてんだよ意味わかんねえ!!!
相変わらず先生は扉を叩いていたが、気にせずに万葉先輩は室内のモニターを付けた。
どうやら校内の様子が少し見えるみたいだった。
画面の中には、この放送を聞いて盛り上がってしまった生徒がキスをしていた。
「おっ♪いー感じだね~!成功じゃん?」
ビッと親指を立てた万葉先輩を正直殴り飛ばしたかった。
引き攣った笑顔を向け笑っていると、先生がスペアキーを使ったのかすごい剣幕でドアを開けて入ってきた。
「万葉!!!またお前は変な放送を!!!」
どうやら矛先は万葉先輩の方へと向かったらしい。
もしかしてこれも計算のうちだったのだろうか。
先生が万葉先輩に詰め寄っている間に、俺は放送室からこっそり抜け出し、校内の確認へと向かった。
ああ、もう、なんでこんなこっ恥ずかしいことをしなくちゃいけないんだ…。
深いため息を吐きながら、校内を駆け巡った。
-----------------------------------------------------------------------
【三木 柚子由】
どうやら千星君の作戦は成功したみたい。
ベッドに横になっている美由紀ちゃんの表情に少し赤みが戻った。
もしかして、仲良くさせている間は体力を消耗したりするのかな。
特殊能力は人に寄ってバラバラな為、そこまでは私には分からなかったけど、これで彼女は大丈夫そう。
それにしても……。
千星君凄い小説読んでた……。
放送から流れる声は彼のままだと伝えるのを忘れていたけど…、大丈夫かな。
声だけで、彼だと気付く人はそんなに居ないと思うけど。
美由紀ちゃんの調子が良くなったので私は校内へと戻った。
すると逃げる様に放送室から出てきた千星君と出会った。
「お、おおお、お疲れ様、千星君…」
千星君の顔見た瞬間真っ赤になってしまった。
この事実をいえそうになくて私は黙ってしまうけど、放送室は騒がしかったので場所を移動することにした。
「この後は確認に行きますか?」
千星君から声が掛った。
確かに放送を聞いてない人も居るかもしれないのでその必要はあるだろう。
「うん…。私、幻術が使えるから人数が多い校舎、中庭、校庭を回るね。
沢山の人を幻術に掛けるのは無理だけど、数組だったら大丈夫だと思うから。
千星君は実習棟をお願いしていいかな?」
千星君は快く頷いてくれたので私達は別れることにした。
-----------------------------------------------------------------------
【千星 那由多】
三木さんと再び別れると俺は実習棟へと向かう。
昼休憩もあと少ししかないので、実習棟付近にはあまり人はいないようだった。
そこに辿りつくまでにまだ能力の影響を受けている生徒が数組いたので、事故を装ってキスさせておいた。
キスをした後、暫くしてから生徒二人の叫び声があがった。
正常に戻った後はどうなるのだろうか。
更に仲が良くなるのか、それとももっと悪くなるのか。
本当に厄介な能力だ。
そして、残るは(裏)生徒会室にいる…四人。
放送を聞いてキスの流れになっていれば、俺は何もしなくてすむ。
寧ろしたくないので、もう正常に戻っていてほしい。
息を整えながら、人体模型のボタンを押した。
扉の向こうの会議室には誰もいなかった。
全員教室に戻ったのかと思ったが、どこからか巽と晴生の楽しそうな話し声が聞こえてくる。
場所は……仮眠室からだ。嫌な予感で気が重くなる。
そちらへ向かいドアの隙間から部屋を覗いた。
「そうなんだよ!那由多のあの声が!」
「良くわかってんじゃねぇか!親友!!」
もう二人は親友になってしまっているらしい。
いや、いいんだけど…いいんだけどこいつら治ってねえ!!!!
俺は先ほどから嫌なことをさせられている苛立ちで、ドアを蹴り破るように開けた。
二人が目を丸くして俺を見た後、笑顔になり抱き着いてくる。
「今調度那由多の話ししてたんだよ!どこ行ってたの?」
「千星さん!三人で仲良く話しましょう!!」
デカイ犬が二匹いるみたいだった。何故か尻尾が見える気さえする。
俺はわなわなと震えながら、床に倒れたまま大きく怒鳴る。
「……待てっ!!!」
その声に二人は驚いた表情をすると、しぶしぶ俺から離れた。
床に座りなおすと、神妙な面持ちで二人を見据え、咳払いをした。
「……おまえら、いいか……おまえの大好きな俺からの命令だ……い、今すぐ、―――――キスをしろ!!!」
仮眠室に声が響き渡った。
もうこうなったら命令する他ない。
二人は俺の目の前で正座したまま固まっていた。
室内が静まり返った後、最初に口を開いたのは晴生だった。
「そ……そそそそそそそそんな、千星さんの前でなんて恐れ多くて!!」
「え?僕大丈夫だけど」
どうやら晴生は無理らしい。いや、俺の前で無理ということはできないわけじゃないんだろう。
それもどうなのかと思ったが、巽はというと全然余裕でできるよ、という表情だった。
それから暫く晴生をその気にさせようと奮闘したが、「無理」の一点ばりで揉めに揉めた。
「はっ…はぁ…もう……早く…しろ!!いけ!!!巽!!!」
晴生が無理なら無理矢理巽にさせるしかない。
巽は俺に笑顔を向けると、晴生を羽交い絞めにし、そのまま床へとに押し倒した。
そこからの行為は想像するだけで気持ち悪いので、一人仮眠室から出ると、そっとドアを閉めた。
暫くして晴生と巽の叫び声が響き渡ったが、正常に戻った後の事は………もう俺は知らない。
-----------------------------------------------------------------------
【三木 柚子由】
校内を探し初めて直ぐに、美化委員長と体育委員長に出会った。
先程と変わらず手を繋いで歩いていたので、調度二人の真ん中にリンゴが落ちてくると言う有りえない幻術を見せる。
調度向かい合ったところで、ポンっと美化委員長の背中を押した。
ちゃんと二人の唇は合わさったようだ、けど。
その後はに、「ギャー―――!!!」と、言う叫び声が聞こえた。
でも、ばれるわけにはいかないので走り去る。
大丈夫だったかなぁ…。
その手段で数組の術を解いていく。
数学の先生と国語の先生もそのままだったので、幻術を使おうと思ったが、そろそろ私の体力も限界だった。
左千夫様無しで長時間解除しているせいもあるみたいだけど。
仕方なく、演技をすることにする。
「あ。あの……。」
「どうしたの柚子由ちゃん?」
「さっきの放送で、流れていたことってどんなことですか?」
「さっきのってあの、官能小説の事?」
「そうです…!!ど、どんなシーンか浮かばなくて、その……先生たちで実演して、頂けませんか?」
二人の女の先生は顔を真っ赤にしていたけど。
柚子由ちゃんの頼みなら仕方ないわね!
と、き、キスをしてくれた。
勿論私は二人のキスの姿を見る前に逃げてきたけど。
そして、最後に自分の教室に入る。
気力も、体力も限界だったのでここは何もなければ良いけど。
自分の教室なのにそっと後ろの扉から覗いてしまった。
「あーあ。なんで、梢とチューなんかしちゃったんだろ。」
「それはこっちのセリフだよ!!美紀!!」
「と、言うか、なんで喧嘩してたんだろね、あたしたち。」
「ほんと、それそれ!!そう言えば美由紀どこいった?
三木さん、美由紀しらない?」
ちょうど、安井梢さんと視線が有ってしまった私は目を瞬かせた。
どうやら、ここは美由紀ちゃんの能力が切れてもうまくまとまったみたい。
嬉しかった私は笑みを浮かべながら二人へと回答する。
「保健室だよ。」と、伝えると二人とも慌てて保健室に走って行った。
これで、美由紀ちゃんの悩みも解決出来たみたい。
-----------------------------------------------------------------------
【千星 那由多】
巽と晴生は無事に…ではないが解決した。
次は会長と副会長だが…。
姿が見当たらないので、会長の自室へと向かった。
(裏)生徒会室には会長の自室がある。
一度も出入りしたことはなかったけど、調度アトリエに籠っていたイデアが出てきたので、案内してもらう。
更に地下へと階段を降りなければいけなかったので、イデアにはここまででいいと言って残ってもらった。
階段を降りると重そうな扉をノックする。
返事がないので、静かにドアを開け中へと入ったが、室内には誰もいなかった。
やはり二人は教室へ帰ったかもしれない。
しかし、正常に戻れているかは確信がないので、とにかくこの部屋から出ようとした時だった。
「!!」
扉が開いた先に、髪の濡れた裸の会長と、ガウンを着た副会長が立っていた。
「か、かかかかか会長!!!!!」
俺は思わず視線を下に落としたが、別に男なのだから裸を見たって構わないではないか。
いや、でも、なんか、会長の裸は見てはいけない気がする。
「な、なんですかその格好!!」
「左千夫クンはいつもこうだよ?」
副会長がそう言い放つと、二人は手を繋ぎながら室内へと入ってくる。
見た目からして多分シャワーを浴びていたみたいだが、その後の二人の行動を見ると、どうやらまだこの二人も正常には戻っていないみたいだった。
この二人は厄介そうだ…。
俺の言う事を聞いてくれる気がしない。
けれど、説得するしかない。
「会長、副会長……今、二人はおかしいんです。
特殊能力のせいでありえないくらいに仲良くなってるんです!
別に俺はそれでもかまいませんが……このままじゃ(裏)生徒会はちゃんと機能しません!!」
俺の話を聞いているのかいないのか、会長と副会長はべったりとくっついている。
「……でも、ひとつ、解決方法があります。
二人が…二人がキスをすれば、元に戻れます……!
お願いです、キ、キスを……キスをしてください!!!」
二人に向かって深々と頭を下げる。
俺は一体何を真剣に頼み込んでいるんだ。
多分こんな事は二度とお願いすることはないだろう。
いや、今は冷静になった方が負けだ。
「……いいですよ」
静まり返った室内に、会長の声が響いた。
俺は下げていた頭をあげるとグッと拳を握った。
どうやら聞き入れてもらえたみたいだ。
「よかった…じゃあ、俺上に行ってますんで……って会長?」
引き受けたはずの会長は何故か副会長に向かわずに、俺へと向かってくる。
後ろへと後ずさったが、背中に壁が触れると逃げ場が無くなり顔が引き攣った。
「ちょ、ま、待ってください……」
これ、まずくないか?なんか勘違いされているような…。
会長の鼻先が俺の鼻先へと触れるギリギリまで近づいた。
明らかに俺にキスをしようとしている。
「ちが!違う!違うんです会長!!!俺じゃなくてっふくかいちょ…―――――んぶぅううう!!!!!」
そこから色々あった気はするが、俺の記憶はない。
気づけば昼休みはとっくに過ぎ、会議室のイスに座っていた。
会長も同じように紅茶を飲みながら座っている。
もしかして全部俺の夢か?…いや、そんなはずはないと思うんだが。
「おつかれさまでした」
そう言って微笑んだ会長を見て、なんとなく全部わかってしまったような気がした。
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