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isc(裏)生徒会

七不思議

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【神功 左千夫】


ここは神功家本邸。
先程まで僕の誕生日パーティがとり行われていた。

僕の養父が海外に出張に出かけていたので日にちが遅れて開催されたのだ。
別に養父が居なくてもいいや、いっそのことパーティが無くてもいいと言ったのだが、それは養父によって却下された。
こういうところは父上は頑固だ。

そして、今はシャワーも浴び部屋に戻るところだ。

「左千夫さん、左千夫さん。よかったわね、沢山プレゼント貰えて。これなんてほら、真っ赤で素敵な宝石が付いているわよ。」 

後ろから煩わしい声が聞こえる。
振り返ると、養母、即ち柚子由の本当の母親が居た。
顔はそっくりだが髪は甘栗色、前髪は目の辺りで切りそろえ、ふわっとカールしたロングヘアー、いかにも男性が好みそうな髪形をしている。 

「良かったら、母上に差し上げますよ。」

「え、本当に?本当に左千夫さんはいい子ね。後ね――――。」

そう言って彼女は僕に贈られたプレゼントの中から宝石類、高額なものを根こそぎ強請って行く。
面倒だったので彼女に催眠術を掛けた。
彼女が見ている僕は、彼女の要望に全て応えているだろう。
プレゼントなんて、父と十輝央兄さん、後は懇意にしている者からの分だけあれば十分だった。
それは、既に私室に運んである。

僕が本邸に余りかえらない理由は彼女だ。
彼女は僕に会うと直ぐにセックスを求めてくる。
一度父にも相談したんだが、酷く頭を抱えた結果、僕の好きなようにしてくれとのことだった。
結局はうまくかわすことにしているが、断り過ぎると発狂するのでそのときは幻術で抱いてやった。
正直触りたくも無いのだけど。

十輝央兄さんも同じような目にあっているらしいが、僕ほど頻繁ではないので、執事がうまくやっているようだ。

彼女はこの後用事があると言っていたので、今日は幻術で抱く必要はないであろうが。


父の唯一の汚点は彼女を二番目の正妻にしたことだと僕は思うが、彼女も初めからそうではなかったのであろう。
一般人が財閥に入ると言うこと、それはかなりの重圧がかかることを覚悟しなければならない。
彼女はそれに押し潰されてしまったいい例だ。
有りもない噂が流れ、常に監視されているかのような視線を浴びせられ、妬み、嫉妬。
そんな毎日は当たり前だ。
その中で生きていけないのなら、僕は妻になる資格はないと思うのだが、そこは個人の自由だからなにも言わない。

そんなことを考えている間に部屋についた。
僕の一番奥の角部屋に行くまでには検問の様な場所が有るので鍵は閉めない。
これは、父からの僕への気遣いだ。
養父は僕が研究材料だったことを知っている。
なので、休む場所は徹底的に警備を強めてくれている。
僕が少しでも寛げるようにと。

部屋に入るといつものように服を脱ぎ捨てる。
この姿が一番落ち着くからだ。
そのまま流れる様にしてベッドへと飛び込んだ。 


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【神功 十輝央】


今日は左千夫の誕生日パーティがあった。
彼はこういうのは余り好きじゃないと言っていたけど、彼がこの家へ来てからの恒例行事だ。
それに父はやると言ったことは絶対にやりきるタイプなので、日を遅らせてでも毎年きちんと行われていた。


パーティが終わって部屋でくつろいでいると、左千夫が自分の部屋に帰ってきた音がした。
彼はあまりこの家にいないので、今日はちゃんとこの家で寝るのかと思い久々に話しでもしようかと彼の部屋へと向かった。

「左千夫ー入っていい?」

「どうぞ」

数回ノックをしてから返事があったのでドアノブを回す。

「今日は久々だね、部屋で――――ってうわああ!!!!」

扉を開けた先には、ベッドの上に生まれたままの姿で寝転んでいる彼がいた。
思わず僕は彼女でもいるのかと辺りを見回すが、誰もいない。

「もーまた!?全然どうぞじゃないよ!ちゃんと服着て!服!風邪ひくよ!」

そう言うとボクは自分の羽織りを彼へと投げつける。
部屋に入ると彼が裸の状態ということは結構あった。
別に左千夫の部屋だからどんな格好をしていようが彼の自由なのだが、風邪をひかないかが心配だった。

彼は自分のがあるからと言ってボクに羽織りを返すと、ガウンを羽織ってベッドへと座りなおした。
僕もその隣へと腰をかける。

「ね、この間の僕と似てた……千星君…だっけ?結構仲良さそうだったけど、後輩?左千夫って部活とか入ってたっけ?」

「募金愛好会に入っています。彼はそこの後輩ですよ」

「…募金愛好会?そんなのあったっけ…?
まぁ愛輝凪高校って部活も愛好会も多いし、ボクが知らないだけかな」

それから暫く他愛のない話が続く。
久々に左千夫とたくさん喋る気がした。
林間学校の時はなんだかんだで色々あったからそんなに話すこともできなかったし。

母親の事や、学校での授業の事、恋愛の話なんかも出してみたけど、左千夫は彼女がいないそうだ。
僕と違ってすごくカッコいいし性格もいいのに。
僕が女性だったら絶対に惚れてる気がする。 


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【神功 左千夫】


十輝央兄さんが入ってきた。
その後に服を着ていないことを思い出した。
彼はいつも僕の心配をする。

逆に僕は何か着ていると落ち着けないのだが。
余りにも兄さんが恥ずかしそうにするのでガウンを羽織る。

座って色々話していると眠気を催してきた。
多分これは父によってそうされたのであろう、僕はこの部屋に居ると直ぐに眠くなる。
ここは外敵が居ない寛げる場所なのだ。
この部屋には十輝兄さんと父しか入って来れない。
父の執事もよっぽどの事が無い限り決まった時間に入っては来ない。

「そう言う十輝央兄さんは彼女、居ないんですか?」

少し悪戯に笑みをつくって兄を見上げた。
彼は苦笑していたので居ないのだろう。
変な女に引っかかるよりは居ない方がよっぽどマシだが。

僕はベッドに寝転ぶと自分の横をポンポンと叩いて彼に寝転ぶようにと示した。
髪も伸ばした状態で置いてあったのでそれが自然とシーツに流れる。
それから兄の髪に手を伸ばし、くるっと巻かれたその髪を撫でたり、伸ばしたり。
柔らかそうな頬を撫でたり、軽く指先で押したりする。
兄は困った顔をするがなにも言わない、これがまた楽しみでもある。
確かに那由多君と似ているな、と、思いジッとその双眦を見つめた。

「あの、母親さえ居なければもう少し頻繁に帰ってきても良いんですが、中々うまくいきませんね。」 

「左千夫は母さんのこと嫌いなの?」

「いえ?どちらかと言うとどうでもいいですね。
あの女性の好きにさせている父の気持ちもわかりません。
…あれが母親かと思うと柚子由がかわいそうで仕方がありません。」

余り表情変化をさせないまま静かに言葉を紡ぐ。
兄は母さんも確り守って養って上げなければと言う、父の考えに近いが、僕は無駄なものにしか思えない。
彼女は毎月、高額なバックやジュエリー、ドレス、そんなものばかりを買っている。
彼氏も何人もいるようだし、それを許す父の気がしれない。
僕ならとっくに切り離している。

十輝央兄さんも、この前の堀口清志を助けたところを見てると余り変わらないのだろうと思いジッと見つめてしまう。
顔は触り飽きたので今度は手を繋いで置いた。 


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【神功 十輝央】


彼女はいないのかと聞かれたが、僕にはそういう子はいなかった。
もちろん告白は何度かされてはいるが、大体は僕自身を好きというよりも「神功家の息子」が好きという女性ばかりだったので、断り続けている。
まぁ…好きな子はいるんだけど……それはちょっと左千夫には言いづらい。

ベッドに寝転ぶように促されると、彼の横へと仰向けになった。
男二人で寝ても余るくらいにベッドは大きかったが、左千夫はすぐ近くにいる。
髪や頬を触られてしまうと、妙に照れてしまうが何故だかすごく落ち着いた。
男に対して言い方が悪いかもしれないが、彼の雰囲気は母親のように感じる時がある。
もちろん母親とは二人目の母ではない。
僕の本当の母親だ。

彼の長い髪を手にとり、指に絡めると甘い香りがした。

ふいに「柚子由」という名前があがり、心臓が跳ねた。
彼がとても大事にしている女性だ。
実は僕は彼女が気になっている。
顔は今の母親にそっくりなのだが、雰囲気はまったく違う。
最初会った時は思わず身構えてしまったのだが、彼女の困ったように笑う笑顔と声が、今でも鮮明に思い出されるほど忘れることができない。
左千夫は彼女がいないと言っていたから、三木さんは彼女ではないんだろう。
もし左千夫が三木さんを好きだとしたら、僕は絶対に敵わないんだろうな。

手を握られると冷えた指先に僕の熱が伝わっていった。
握り返すようにすると目を瞑る。

「いつでもここに帰って…きてよ……また……色々………話……」

そう言いながら、僕は静かに眠りへと誘われていった。 


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【神功 左千夫】


昨日は久々に良く寝ることができた。
それもこれも父上の思惑道理だと思うと少し複雑な気分だが。
養父は僕を懐柔して何かする気は全く無いから気にしないことにする。

久々に十輝央兄さんと一緒に登校した。
勿論、三年である、彼専属の秘書も一緒に居たが。
どうやら、僕は彼に良く思われていないようで、痛いほど視線を感じるが、気にはならない。 


そうして、また、いつものように授業が終わり、生徒会室に赴く。
魔女っ子なゆちゃんの事件以来変わった出来事は無いので今日も雑務をして、お茶会にしようと思っていたところで九鬼が入ってきた。
今日は珍しく遅かったなと思いながら彼を見つめる。

「おつかれー!見て見て!!こんなの目安箱に入ってたヨ!
愉しそうだから片付けちゃおっか?ね、会長?」

九鬼以外のメンバーは既に揃っていて席に着いていた。
調度柚子由が淹れてくれた紅茶が目の前に着たのでそれに手を付ける。
今日のカップは先日十輝央兄さんに頂いたものだった。
中の紅茶もそうだ。
甘いモノが好きな僕の好みを熟知している兄らしいフレーバーティだった。
上機嫌だったので上の空で九鬼の話を聞いていたのが、災いした。

「そうですね。」

「じゃ、今日の九時にまたここに集合!
懐中電灯は各自持参!
ボクは先に下調べしてくるね!」

…………は?

夜の九時?
下調べ…。

あの、九鬼が下調べするほどの投稿だったのだろうか。
そこで、僕は初めて九鬼が持ってきた意見書を見る。
そこに書かれていた内容に僕は絶句した。


“愛輝凪高校の七不思議を調べて欲しい”


もう、声すら出なかった。
取り合えず、夜集合になってしまったので皆を一時解散させる。
ここに残ってもいいし、一度帰ってもいいと告げてから、僕は私室に引き籠った。
扉を閉めた瞬間に壁に両手と額を付ける。
できれば、今夜はここから出たくない。
と、言うか、本邸に帰りたい。

何か別の任務が無いかとイデアにも尋ねてみたが特に無くて愕然とした。


そう、僕はこういった人為的な怪談話が大の苦手なんだ。 


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【千星 那由多】


今回の任務は放課後…というよりも夜に行われることになった。
珍しく副会長が色々と準備を進めていたみたいなので、俺達は9時に再び学校へ集合となった。
何故変な時間に任務を行うかはまだ聞いていないが、夜にしかできないような内容なんだろうか。

そして、あまり夜の学校に行くのは気ノリしない…。

夕食を終えてから私服に着替えて学校へと赴いた。
昼間の賑やかな学校に比べると、夜の学校は静かで、バカでかい校内に嫌な緊張感を感じた。
暗闇が重苦しく、一人でいるとパニックになってしまいそうな雰囲気だ。 

巽と晴生、三人で(裏)生徒会室へと行くと、そこにはすでに会長と三木さん、イデアがいた。
副会長だけ時間になっても来なかったが、下調べに時間がかかっているのかもしれない。

「会長、今日の任務の内容って…会長?」

俺の声に反応せずにずっと真面目な顔で空になった紅茶のカップを見つめていた。
もしかしてそんなに気を張るような任務なのだろうか。
ごくりと息を飲むと、イデアから目安箱に入っていたという今日の任務が書いた用紙を渡された。


“愛輝凪高校の七不思議を調べて欲しい”


七不思議…。
俺もこの学校に来てその話しは聞いたことがある。
愛輝凪高校には七不思議と言うものが存在し、生徒内で噂になっていることも多い。

その七不思議の内容はあまり興味がなかったので覚えていないが、良くある学校での怖い噂のようなものだった。
会長はこういう時はいつものように爽やかに笑っているはずなのだが、笑顔はひとつも溢さなかった。
きっとその中に特殊能力が関連した重大な任務があるのだと思う。
会長さえもうならせてしまうような…。

胃が痛くなってくる。
もう6月だというのに、俺の背筋に寒気が走った。 


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【神功 左千夫】


とうとう夜の九時になってしまった。
柚子由が呼びに来たので出ないわけにもいかず、僕は生徒会室の更に地下にある私室から上へと上がる。
ラフな私服に身を包み、紅茶を飲んでいたらあっという間に無くなってしまった。

その辺りで那由多君が来たようだが、そんなことも気づくことなく僕は紅茶のカップを見つめ続ける。
と、言うか完全に頭がフリーズしていた。
出来れば怪談話を調べて行きたくなんかない、夜の学校を歩くことは怖くないのだが…。

「やっほー!遅れてごめんね!みんな揃ってる??
はい、これくじ引き!二班に分かれて行こうか、多いから皆で回ってたら大変でしょ?」

そうしていると九鬼がやってきて、僕は初めて顔を上げた。
すると那由多君も神妙な顔になっているのが見えて、もしかしたら僕の仲間かもしれないと思い真剣な表情で見つめる。 

くじ引きは箱に入っている棒を引くと言うものだった。
初めに九鬼が一本持ち、他のメンバーも一本ずつ手に持つそして一気に引き抜いた。
僕と那由多君は先が赤かったが、他のメンバーは先が白かった。
九鬼が驚いた顔をしていたのできっとまたズルをしようとして失敗でもしたのだろう。

そのおかげで、那由多君、僕。
柚子由、九鬼、巽君、晴生君と言うなんとも奇妙な班分けになった。
しかし、僕はそんなことはどうでもよかったので、九鬼が作ってくれたルート票を一枚奪ってさっさと生徒会室を出ていく。


こんなことは早く終わらせるに尽きる。 


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【千星 那由多】


会長と同じグループになったのだが、どうやら副会長の表情からして、これは想定外のグループだったらしい。
さっさと出ていってしまった会長を追う様にして走り出す。

「会長、待ってください会長!」

できれば一人にしてほしくなかったので、急いで横へと並ぶ。

「七不思議…俺達の行く場所どこですか?」

そう言うと歩きながらルート票を渡してくれた。
俺達が確かめる七不思議は


・突如現れる白フクロウ
・保健室の奇妙な声
・実習棟の触覚の生えた幽霊
・トイレの花子さん


と言った内容だった。
この内容からして完璧に怪談話しなんだが、これのどこに重大な任務があるんだろう。
相変わらず会長はあまり笑っていなかった。
俺も身を引き締めなければならない。

ただ、無言で歩いて行くのも怖かったので、紙に書かれた内容を考察してみた。

「この白フクロウって…なんですかね?」

少し声を大きめに会長に話しかける。

「…もしかしたらイデアの飼っている白フクロウの事かもしれませんね。
たまに夜中にこっそり校内で放し飼いにしている時があるようですから。」

確かにイデアのアトリエには白フクロウがいた。
この間なゆちゃんの話になって会議室から逃げ出した時にチラっとそれらしきものを見た気がする。
ひとつ解決、ということか?
イデアの存在を知らない人達にとっては白フクロウがいきなり校内に現れたら驚くだろう。
いや、イデアの存在を知ってても夜中に暗がりの校内でそんなもの見たら腰抜かすな、俺なら。

そんなことを考えているうちに、二つ目の七不思議の場所の保健室へとたどり着いた。
奇妙な声が聞こえる…という事だったが、会長がドアに手をかけるより先に俺が引き戸へと手を触れた。


「……ッ……ァ…」

「!!!!」


小さい声が聞こえる。
俺の心臓は一瞬にして飛び跳ねた。
恐怖で引き攣った顔で会長へと視線を移す。 


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【神功 左千夫】


懐中電灯と地図を手に僕は早足で歩く。
白フクロウはきっと大丈夫だ。
これは、イデアの所有物。
そう僕は自分に言い聞かす。
那由多君の言葉を聞き取るのが大変な位僕は全神経を辺りにちりばめる。

早く、早く終えてしまおう。

保健室の扉に手を掛けるのに一瞬たじろいでいると那由多君が先に引き戸に手を掛けた。


「……ッ……ァ…」


小さな声とともに那由多君がこちらを向いた、その恐怖の表情も僕には恐ろしいモノにしか見えなかった。

「――――!!」

全身の毛が先立つ、動物ならそんな感じだろう。
多分僕の表情は「無」だ。
僕は、2、3歩後退しながら、逃亡準備を始める。 


「そう言えば、聞いたことが有ります。
昔、愛し合った男女が居たそうですが、ある日その女性が暴漢に会い、処女を奪われたと。
そして、その悲しみから立ち直れず、男性の励ましも虚しく、その女性は自分を殺してくれと願ったそうです。
二人は死ぬ前に保健室で愛し合い、そして、そこにあったハサミで女性を滅多刺しにした後、
男性はそこで首つり自殺、僕が知っているのはそんな話です。」


淡々とまくしたてる様に僕はその話を口にする
僕は機械よりも正確に、一つも噛まずに話していたであろう。
と、その時。 

「………ぁ、くき…さま……くき……さま……」

保健室から良く知った名前が聞こえてきた。
しかも、この女性特有の甘い声は聞いたことがある。
これは……。

僕は那由多君の手に重ねる様にして扉を少しスライドさせる。
本当は自分が覗きたかったのだが体が硬直してそれ以上は動かなかった。
隙間から見えるのは暗い中に少しの明かり、そして、ベットがギシギシ鳴っていて、カーテンが揺れている。
横に居た那由多君が意を決したのか覗きこんでいた。


この時から僕の中で彼の株が上がった。 


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【千星 那由多】


会長に視線を送ると無表情で怖い話をしはじめる。
俺は更に恐怖で全身が強張った。
笑顔でこの話をされていた方がよっぽどマシだったかもしれない。
会長のマジな顔が余計に恐怖を煽った。

もう今すぐに家に帰りたい。

どうしようかと取っ手に手をかけたまま困惑していると、中の声はどんどんと鮮明になり始めた。
しかもその声は副会長らしき名前を呼んでいる。

「…?」

会長が取っ手にかけたままの俺の手の上に手を重ねてきた。
その冷えた手に寒気が走ったが、そのままスライドさせていくが途中で止まる。

きっと、俺に覗けと言っているんだ。
これも修行の内なのか?恐怖心を消し去る…。
ここは頑張るしかない!

意を決して俺は少し開いた扉の隙間から中を覗いた。


「―――――ッ!!!」


慌てて奥へと引っ込む。
扉の先の光景に驚いてしまったからだ。
それと同時に顔が熱くなっていくのを感じた。

「か、会長……ッ」

次に会長に向けたのは恐怖の表情ではなかったと思う。

「な、な、なか、に……女性、がッ……そのっ…ひ、ひ、卑猥なことを…!」

これ以上はどう説明していいかわからなかった。
俺が見た光景は、保健室のベッドにいる女性は全裸で…その…まあ、欲望に乱れていたというかなんというか。
しかもその女性は電話をしているようだった。
小さな灯りで照らされたその女性の体勢や身体を思い出すだけで、いけない方向へと思考が向いて行く。
思い出してつい前かがみになってしまった。

あれは幽霊なのだろうか?
やけにリアルすぎてこんな幽霊がいたら下半身がもたない。 


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【神功 左千夫】


どうやら中で行われていることは僕の想像通りだったようで那由多君が真っ赤な顔をしてこちらを振り返った。
青ざめていないと言うことは幽霊ではないのだろう。
多分、保険の教師が夜な夜な一人セックス…いや、もしかしたら九鬼とセックスをしていたのだろう。
怪我を手当てする聖域な場所を…、と、までは言わないが、もう少し目立たないように声を抑えて貰いたい。
僕たちの前で更に行為は続いていく。


“ピー。ごめんね、麗華ちゃん!ボク、今日はキミのところに行けなくなったんだ、でも、大丈夫、ちゃんと命令してあげるからね?
あ、ほら、まだ下触ったらだーめ、ちゃんと、胸―――”


携帯電話がスピーカー設定になっているのか保健室内に九鬼の声が響き渡る。
未だかつてこんな理不尽な怒りを覚えたことは有るだろうか。
甘い声と九鬼の声にイライラが募って爆発しそうだ。
と、言うか、矢張り九鬼は殺しておくべきだったかもしれない。

僕はガラリと保健室の扉を開き、女教師に向かって闊歩していく。
もちろん、その女性は僕に痴態を見られても、アヘアヘ言ってるだけの恥女だ。
ベッド際まで行くとその女教師冷ややかに見下ろす。


「はしたない…………。」


僕を見上げた女教師と目が合う。
欲に染まったその瞳を真っ直ぐに見詰めながら、首に掛っているリングトップのネックレスを左右に揺らす。
自然と女教師の瞳が左右に揺れる。
これで完全に彼女は僕の催眠術に掛った。もう、僕の事も覚えてないだろう。

「ひぃぃぃぃぃ!!なに?なに?貴方達?あ!ぁ!!…そんな…だめぇ!!」

僕が見せたのは先程の怖い話の登場した女生徒を犯した暴漢。
まぁ、この女性ならこんなセックスも楽しんでしまうかもしれないが、取り合えずここを早く出たかった。
携帯からは録音されているのだろう九鬼の声がまだ響いている。

しかも、卑猥な単語が並びまくっている。
とてつもなく不快だったので、転げた携帯を二つにへし折ると那由多君の元へと戻る。

「さて、行きましょうか?」


僕は漸く笑えた気がした。 


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【九鬼】


背筋に悪寒が走り身体がゾクリと震えた。
これは気温に対する寒気ではないだろう、思わず口端をあげて小さく笑ってしまった。

どうやら「下準備」のせいで力を使い果たしてしまったのか、クジ引きは失敗。
左千夫クンとグループが分かれてしまった。
ボクの「下準備」に驚く彼を間近で見れないのは残念だが、そこら辺は抜かりない。
きちんとカメラも設置してあるからネ。

先に行ってしまったなゆゆと左千夫クンとは違うルートをボク、ゆずず、はるる、巽達で辿って行く。
七不思議のルート表の内容はこうだった。

・副会長(三木柚子由)を好きになると記憶が無くなる。
・ある場所へ行くと別の場所に飛ばされてしまう。
・動く銅像。

この三つの中のひとつはゆずずに関連していることだった。
これが七不思議のひとつというのもなんだか可笑しい話だけれど、ボクはなんとなく原因はわかっていた。
次のルートに行く前にゆずずへと質問を投げかける。

「この1つ目の七不思議、ゆずずに関連あるみたいだけど、何か心辺りはないの?」

暗がりを懐中電灯で照らしながら、4人の足音が廊下にひたひたと響き渡る。 


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【天夜 巽】


・副会長(三木柚子由)を好きになると記憶が無くなる。

とても奇妙なものが七不思議の中に入っているな、と、思いながら僕はリストを見つめた。
他の二つに比べてこれが一番愛輝凪高校にしか無い七不思議の内容だろう。
確かに三木さんは密かに人気が有る。

でも誰も彼女に告白しようとする輩は居ない。
それは高嶺の花の様な存在だからだと思っていたのだが他に理由が有るのだろうか。
勿論、僕たちはあの会長が怖くてと言うのも有るのだが、一般生徒の前ではそれは通用しないだろう。

と、思っていたのだけど。


「え…と、良くは分かりませんけど…。
あ、スポーツテストのことかな…。
前、天夜君が、そ、その、長座体前屈の記録取っている時に下着が丸見えだったの教えてくれた時…。」

そう言って三木さんは少し恥ずかしそうに顔を落とした。
彼女は任務や仲間が関わっている時はそういうことになる覚悟もあるのか余り恥ずかしそうにはしないが、
偶然、偶発的なことは矢張り恥ずかしい様で自分の私服のスカートを小さく握り締めていた。

そう言えば、そんなことが有ったな。
それを見る為に長座体前屈が長蛇の列で那由多の結果がとんでもなく良かった種目だ。
更に三木さんは続けて行った。

「あの次の日、私のところに大人数の男子生徒が並んで皆、土下座していったの。
すいません、ごめんなさいって、つい出来ごころでって皆は言ってた。
それからね……」

そこまで言うと三木さんはにっこりといつものように笑みを浮かべた。
それがこの暗闇だと少し怖く感じるのはきっとムードのせいだろう。


「皆、くちぐちに言うの……」


もったいぶらずに早く教えて欲しいのだが、三木さんは元からこんな話し方だ。
俺はゴクリと生唾を飲んだ。

「でも、なぜか下着の柄が思いだせないんです、三木さんのおみ足が思いだせないんです…って。
とても、綺麗な男性のぼやけた顔しか思い出せないんです…!って。
それで次の日の休憩時間が潰れてしまったから…
それで噂が大きくなったのかな…?」

その瞬間誰のせいか分かった。
それは間違いなく会長だ。
会長が数多の三木さんのパンツをみた生徒の記憶をひとつひとつ消していったのだろう。 

僕は会長の冷え切った笑みを思い出してしまい。
悪寒とともに腕を擦った。

しかし、それは序の口で他にも似たような話が有り、僕たちは目的地に着くまでに永遠と三木さんの話を聞くことになる。

三木さんだけには手を出さないようにしよう…。
ブラックオウルの時は未遂で良かった。きっと僕は殺されていただろう。
そう思うとまた悪寒が走り、改めて会長の怖さが身に沁みた。 


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【九鬼】


ゆずずが笑顔で話す内容は僕の想像をはるかに超えていた。
その「記憶を消している誰か」は確実に左千夫クンなんだけど、ゆずずはまったく気づいていないようだった。
これまた巽とはるるが「会長のせい」だと気づいて神妙な面持ちをしているのに噴き出してしまいそうになるのをぐっと堪える。

「…っそ、それは怖いネ~誰のせいだろうネ~で、パンツの色はその時何色だったの?」

「……汚らわしいです」

少し場を盛り上げようとしたのに、ゆずずはボクを睨むように見つめた。
ボクはどちらかというと会長よりゆずずの方が怖い。

とりあえず1つの七不思議は解決。
2つ目の七不思議の場所、階段下の行き止まりへとたどり着くと、ボクらは立ち止まった。

「ここか?」
「そうだと思うんだけど…」

四人で辺りを見回すが特にこれと言って変わったことは起きない。

「不思議だけで終了かナ?つまんないのー」

ボクはそう言って行き止まりの壁へともたれ掛けた。
その時だった。


「あれ?」


壁にもたれ掛けていたはずだが、その場所から数メートル離れた場所へと全員が移動していた。
ボクらが移動したわけではない、何かの力によって気づく間もなく動かされている。
全員で顔を見合わせて、再び行き止まりまで行き、壁を色々触ったが何も起きない。

「あ、これって…」

その時ゆずずが何かを思い出したように壁を触り始めた。
何かカチリと音がすると、それと同時にボクたちが立っていた床が急に抜ける。


「え?」


ゆずず以外の三人が声をあげたと同時に、全員が抜けた穴を滑るように落下していく。


…なんだか、おもしろくなってきた。 


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【日当瀬 晴生】


そんなことが有ったのか。
俺も一緒にスポーツテストをしてた筈なのに全く気付かなかったな。
千星さんが居ないので煙草をふかしながら歩く。

と、言うか、会長無駄に能力使い過ぎだろアンタ!!

そう思ったが、会長はイデアアプリを解除させなくても簡単な催眠術は使える。
それからの道のりで三木が話した内容に俺と天夜は青ざめていた。
俺でも少しその被害者たちに同情してしまうくらい徹底的な管理が執り行われている。

その時に九鬼の野郎が、し、下着の色を聞きやがった。
やっぱり、こいつを一番にやっちまうべきですよ!会長!

俺はそう思った。


そうこうしているうちにいわくつきの場所にたどり着いた。
特に何も無いと思った瞬間にワープした。

「………!?」

そして、辺りをきょろきょろ見回しているうちに落下する。


な、何なんだいったい!!!


俺達四人は難なく着地した。
その瞬間にパッっとスポットライトがついて俺達が照らされる。
まぶしさに目を眇めたが特に他に異変は無いようだ。

「これはイデアちゃんが作った侵入者退治用の罠です。
一般生徒の場合はさっきみたいに少し押し戻される仕掛けですが、更に侵入を試みるとこういったようにトラップが発動します。」

と、言うことはここはイデアさんが考えたトラップの中か…。
余り、良い予感はしないが俺は直ぐ横にある白い壁を触り始めた。

「あ!そこ!!」

と、三木が言った瞬間に槍が飛んできた。
間一髪で俺の顔の直ぐ横に刺さるだけで済んだがかなりヤバいはやさで飛んできた。
調度槍に抉られた煙草の火種が床に落ちた。

「槍が飛んできます。」

おせぇよ、三木!!
なるべく動かないようにして三木の言葉を待つ、どうやら脱出方法はうる覚えの様で、制止したように動かない。

「その、緑と青と赤のボタンを一緒に…押す?」

語尾のクエッションマークが気になったが、俺達男たちはボタンに指を掛け、せーので押した。
その瞬間三木がとんでもないことを言い始めた。

「と、水が落ちてくるんでした。」

頭上からかなりの勢いで水が落ちてきた。
俺達三人ともかわしたが水は止まることなく溜まって行く。
天井までの位置もあるのでこれは、ヤバい…、ヤバ過ぎる。
そうしているうちに暇を持て余したのか、九鬼と天谷が色々触り始めた。
俺は慌ててアプリを解除することになった。



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【九鬼】


落ちた先はイデちゃんお得意のトラップ満載の隠し部屋だった。
ヒューマノイドには確立した性格などはないが、特徴はある。
彼女はこういう人を驚かしたり嵌めたりする行為が好きなのだろう。
まぁ殺さない程度にだとは思うけど、こういう行動はエイドスでは見られなかったので、ちょっと感心してしまう。

そんなことを考えている暇はない。
頭上から流れ出ている水が天井まで溜まるとボクたちも危険だ。
辺りを見回して出口はないかと探す。

「この黄色いボタンなんだろ」

はるるの制止を聞かずにボクは勢いよくボタンを押した。
頭上からモニターが降りてくる。
そこには、あの「魔女っ娘なゆちゃん実写化」という文字が流れ始めた。
映っていたのはもちろんあの時のボクたちの映像がCMになったものだった。

「あー編集終わったんだ!もらってこないとネ!」

四人で感心しながらそのCMを見ていると、はるるがハッと我に返る。

「んなことやってる場合じゃねぇよ!」

「まだ終わってないから静かにしなよ」

天夜くんは呑気だ。
彼のこういうところがボクとちょっと似ていて好感を持てる。
いや、確かにこんなところでのほほんと鑑賞している場合ではないだろう。
CMの続きはまたイデアに見せてもらうとして…。

そこからまた辺りのボタンをとにかく押しまくった。
ボタン自体がこんにゃくだったり、あっつあつの蒸気が噴き出してきたりと、散々になりながらも最後に残ったボタンへとたどり着く。
水はいつの間にかお湯に変わっていたが、下半身を濡らすほどまで増えてきていた。
その温度が調度いい湯加減で温泉みたいな気分に浸っていると、はるるがボタンを押し渋っているボクをどかして勢いよくボタンを押す。
すると、壁の一部のドアが音を立ててスライドし水とともにボクらは外へと出ることができた。

びしょびしょに濡れてしまったので、外気に触れると少し寒い。
出て来た場所を見渡すと、校舎の外だった。

一体イデちゃんはこんなトラップを作って何がしたかったのだろうか。

二つ目の七不思議はイデちゃんのせいだということで無事に解決した。
終わったらなゆちゃん実写版のDVDを貰いに行こう。 


----------------------------------------------------------------------- 


【神功 左千夫】


散々だ。


僕と那由多君は実習棟へと向かった、までは良かった。
その道のりが最悪だった。

隣で那由多君が何か喋っていたが、それよりも辺りの気配を探ることに忙しい。

そうしていると、べたっとしたものが頬に触れる。
えらく那由多君の手がぬるついていると思ったら、手だけが僕の傍に有り頬に触れている。
瞬間、僕は青ざめ、瞬時に走り出す。
最早、声も出ない。
那由多君の存在も勿論忘れている。
100メートル走ったところで後ろから那由多君の声が聞こえた。

「会長!!!人体模型の手です!!落ち付いてくださーい!」

どうやら那由多君は走ってきたようだ、その手を片手に…。
出来れば近づけて欲しくない。
作りものと分かっていても僕は人為的な物の方が怖いんだ。
その手がもし動きだしたりしたら死んでしまう自信が有る。 

かなり青ざめて制止していたからか那由多君がその手を隠してくれた。
そうするとホッと息を吐き出せ、肩が落ちる。
が、次の瞬間僕と那由多君を割りさくように頭上から人が逆さづりになり落ちてくる。


「―――――ッ。」


僕の方には背中を向けていたが保険医の制服を着ていた彼女は僕に背中を向けていた。
どこかで見たことがあると思ったら先程の女教師だった。


「みーたーわーねー」


機械音が響く。
明らかに機械音だ。いや、機械音じゃないかもしれない。
やめろ、振り向くな、その顔は見たくない。

那由多君も驚いた様な顔をしていたので、きっと散々な顔なのだろう。

今なら謝る。
いや、謝ろうではないか、女教師にあんな幻術を掛けたことを、謝るからこっちを向くな…!!

しかし、僕の願いも悲しくその助教授の顔が180度回転した。


「―――――――――――――!!!!!」


血まみれのその顔を見た僕は目を見開いた後、その場に跪き、がっくりとうなだれる様に両手も床についた。
駄目だ、完全なる戦意喪失だ。
九鬼のオーラがするので頭では分かっているのに。
もう、顔を上げることも動くことも出来ない。 


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【千星 那由多】


結局さっきの件は九鬼副会長の仕業だったということで、七不思議のひとつは解決した。
あとは「実習棟の触覚の生えた幽霊」と「トイレの花子さん」か…。

それよりもだ。
会長が俺の喋っている言葉を聞いていない。
おかしい、何かがおかしい。

人体模型の手が出てきた瞬間は俺もびっくりしたが、会長の反応が明らかに「お化けが怖い」と言った反応だった。
まさかそんなことはないと思っていたが、物凄いスピードで逃げる会長を追った後にそれは確信に変わった。

天井からさっきの女教師がぶら下がってきたのだ。
顔はよくお化け屋敷であるような真っ白い顔に血が付き、目はひん剥いている。
声もでないほど驚いたが、その先の会長の無表情を見て我に返った。

ぐるりと会長の方へと向いた瞬間に、会長は跪く様に床へと両手をついた。


やっぱり…お化けが怖いんだ…。


なんだか変な気分になってしまう。
あの会長がお化けを、いや、この機械的な「誰かの仕掛け」を怖がるだなんて。
俺の中のクールな会長が音を立ててくずれ去っていった。
そして、俺は決心を固める。


会長を――――――――――守る!!!!


「解除!!!」


俺は無駄にアプリを解除させ携帯を展開させた。
光を放ちながら俺の手元に剣が納まる。
そして、目の前の「女教師の仕掛け」を叩き斬るように剣を振った。
やはりそれは「仕掛け」だった。
多分副会長が仕込んだものだろう。
本当にあの人は意味が分からない。副会長と言えども一発殴りたくなるくらいだ。
俺は無残に壊れた仕掛けから項垂れている会長へと視線を戻す。
手を差し出し、無理矢理会長の手をグッと強く握った。 

「先へ行きましょう……俺が会長を……守ります!!!」


お化けなんてもう怖くない、俺には守る人がいるんだから!!!! 


----------------------------------------------------------------------- 


【神功 左千夫】


項垂れて一歩も動けない僕の手を救世主が掴んだ。
顔を上げて見ると、それは那由多君だった。

「那由多君……」

那由多君によって保険医のお化けは切り刻まれていたが、あれが這って来ないか心配だ。
僕からもギュッと手を握り締めると那由多君は意を察してくれたのか、そのお化けを燃やしつくしてくれた。
これで、成仏してくれればいいが。

…いや、勿論分かっている。
これは、九鬼が作ったものだと。

それから、実習棟に向かうまでの道のりを那由多君は僕の手を持ったまま先導してくれて行った。
途中、火の玉やら、ぬりかべ、生首、数限りないお化けが姿を現したが、
そのたびに那由多君が、「大丈夫です!副会長の作りものです」と、言って僕を励ましてくれた。

僕はその作り物が怖いんだ。
怪談という類がそもそも駄目なんだ、人為的に作りあげられた、物、話がとても怖い。
更に話の通り幽霊なんてみたら本当にどうしたらいいか分からなくなる。
それでも必死になって手を握って前を歩いてくれる彼のお陰で少しだけ怖くなかった。

少し、いや、かなり彼が頼もしく思えた。
この日ばかりは彼が(裏)生徒会にいて本当に良かったと思った。

そうこうしているうちに校舎と実習棟の間の外へと出る。
この辺りは僕が夜な夜な散歩したり、基礎訓練を外でする気分の時に通る場所なのでなるべく噂で有って欲しい。

「そう言えばこの実習棟には――――。」

また、僕は無意識のうちに頭に浮かんだ怪談をそらんじんだ。
花壇の一角がガサガサと音を立てるが僕の声は言いだしたからには止まらない。
心臓が高鳴る、あそこになにか居る。
触角オバケが………!!!!


僕は那由多君の手を握り締めた。 


----------------------------------------------------------------------- 


【千星 那由多】


会長から手を握り返される。
向けた視線の先を追うと、壊れた女教師の仕掛けがあった。
どうやらまだ怖いらしい。確かにあのままの体勢で転がっているのは不気味だ。
俺はそれを火で燃やすと、会長とともに校舎を駆け抜ける。

なんだか不思議な感覚だった。
いつもなら守られる立場なのに、こんな所で会長の手を引いているなんて。
けれど会長に「お化けが怖いんですか?」という言葉をかけることはできなかった。
いつも凛と涼しい笑顔を携える会長に首を縦に振られると色んな意味で変な気分になってしまいそうだったからだ。
ギャップというものは…怖い。

先導している間も色々な仕掛けがでてきた。
これだけの仕掛けを見ると、さすがに感心してしまう。
多分能力を無駄に使ったんだろうなと、呆れさえ生まれてくる。
そのせいか、俺の恐怖は完全に消し去っていた。
ある意味「お化け」を克服できたかもしれない。

実習棟へ向かう通路で会長が再び怪談話を口にし始めた。
怖ければ言わなければいいのにとちょっと思ってしまったが、その話しを聞いている間に花壇の茂みに何かいるのに気付く。
恐怖で握られていた手に力が入ったのがわかった。

次の七不思議は「実習棟の触覚の幽霊」…。
思わず立ち止まってしまった俺達はその先を恐怖の眼差しで見つめた。


しかし、ザッと音を立てて出て来たのは、一本の弧を描いた触角のついた校内で飼っている鶏だった。 

「………」


……触角お化け………。


「鶏ですか…お化けじゃなかったんですね」

会長はほっとしたのか笑顔を零すと鶏へと近づいた。
俺も胸を撫で下ろし、安堵の息を吐くと会長の後姿が目に映る。
会長の頭には鶏と同じような弧を描くような髪……所謂触角がついている。
その頭を見て俺は悟ってしまった。


……この七不思議………本当は会長のことだろ……。


もちろんそんな事を本人に言えるわけがなかった。

とりあえず三つ目の七不思議は「鶏だった」ということで解決しておこう。
残る最後は「トイレの花子さん」だ。 


----------------------------------------------------------------------- 


【三木 柚子由】


さっきの七不思議はイデアちゃんトラップで片付いたので次は銅像に向かう。
銅像は校舎の真ん中が調度空洞の様な庭になっていて、そこに時計塔が有る。
その直ぐ側に立っている銅像だった。

その形は服を着ていない、裸の幼児が肩を怒らせ、片足を上げて、まるで文句を言っているような格好だ。
外人をモチーフにしているようでほりが深いので昼間見ても少し怖い佇まいをしている。

そこに到着するなり三人でぺたぺたその銅像を触り始めるが何も起きない。

「んー…デマかな?」

クッキーさんがそう呟いた。
私もそう思ったんだけど、不意に銅像の後ろにボタンを見つけた。
なにも言わずにそれを押してみる。


“システム 起動シマス ターゲット確認”


急に銅像から音が出た、そしてその瞳が輝いた。
その時調度目の前にはクッキーさんが居たので。
幼児の銅像は彼をターゲットと認識したようでいきなり殴りかかった。

そう言えば、イデアちゃんにまた誰かに追いかけられることが有ったらこのボタンを押す様に言われてったけ…。
確か名前は…。


「銅像君一号…」


クッキーさんに殴りかかった拳が時計塔へとぶつかる。
高らかに鐘が辺りに鳴り響いた。 


----------------------------------------------------------------------- 


【九鬼】


「動く銅像」というのはなんとも滑稽な容姿だった。
ここにこれを建てた人物のセンスを疑う。
ポーズも表情も意味がわからない。
とにかく触ってみたけれど特に動くような様子はなかった。

「んー…デマかな?」

まずこんな銅像が動き始めたら怖いどころではない、ボクなら笑ってしまう。
そんなことを呟くとゆずずが何かに気づいたようだった。
途端にその変な銅像から機械音声が聞こえた。
するとその銅像はいきなりボクへと殴りかかってくる。
重い拳がギリギリ顔を掠めたが、なんとか避けることはできた。
辺りに鐘の音がうるさく響き渡る。

「…ゆずず……なに、したの…」

再び銅像がボクを目がけて殴りかかってきたので、後ろにバク転しながら避けたが、中々の動きで容赦なく立ち向かってきた。
こんなのを作れるのはイデちゃんの仕業としか思えなかった。
計算外だ。左千夫クンのルートの仕込みに気を取られて、自分のルートはあまりきちんと確認していなかった。
なぜボクがこんな所で変な銅像に襲われなければいけないんだ。

「…ボクは襲われるより襲う方が好きなんだけど、なッ!」

銅像の顔面を拳で叩き割ると、石の顔が崩れたが、それでも攻撃は止まることはない。
他の三人は特に手助けをしてくる様子もなかった。
なんて薄情な。副会長が襲われているというのに。

どうしようかと考えていると、銅像君の片目が赤く光る。
途端にビームのようなものがボクの方へと飛んできた。

「うわっ!!」

足元へと落ちたそれは地面を溶かす様に穴を空けていた。
……シャレにならない。

銅像君へと視線を戻すと、グッと足へと力を入れるような体勢を取りそのまま地を蹴りボクへと駆け込んできた。
もちろん片目からはビームが降り注いでくる。

「もー!こんなの聞いてないし!!」

そう叫ぶとボクは巽とはるるを巻き込み、銅像君に追いかけられながら校舎内へと逃げて行った。

「動く銅像」の七不思議も結局はイデちゃんの仕業ということで、解決、かな。 


----------------------------------------------------------------------- 


【日当瀬 晴生】


どうやらこれもイデアさんの仕業だったようで、九鬼が銅像に追っかけられている。
しかし、なんと、センスのある銅像だ。

幼児の均整された体のバランス。
あの、なんとも言えない表情。
そして、髪が無い斬新さ。

俺は煙草に火を点け、煙を燻らせながら九鬼が追いかけまわされたのを見つめていた。
横では天夜も一緒に見守っている。

三木だけ少しあわあわとしていたが、追いかけられているのはあの、九鬼だ。
問題無いだろう。


「……停止ボタン、あるのかな…私、イデアちゃんに聞きに行ってくるね!」


そう言って三木は慌てて走って行ってしまった。
結局、俺達の回った七不思議はイデアさんが(裏)生徒会を守るために作ったものだった。

二人で呑気に九鬼の様子を眺めていると、突如こっちにもうダッシュしてくる。

ヤバい…。

俺の煙草の灰がポロリと落ちた。
その瞬間俺も天夜も踵を返して校舎へと走り出す。
銅像よりも何よりも、九鬼が俺達の方に向かってくる顔の方が怖かった。 


----------------------------------------------------------------------- 


【千星 那由多】


トイレの花子さん、というのは実習棟のあまり使用されないトイレに出没するらしかった。
女子トイレというのがちょっと行きにくいが、俺は会長の手を引いたままその場所へと向かった。
途中鐘の音が鳴り響き驚いたが、多分副会長たちの仕業だろう。

トイレ前へとたどり着くと、確かに嫌な雰囲気が漂っていた。

「ど、どうしましょうか…」

中に入らないといけないが、会長はこの先にまた副会長の仕掛けがあると考えると立ち止まってしまっていた。
踏み入ろうかと息を飲んだ時、遠くから複数の足音と声が聞こえる。
その内のひとつの足音は、重い何かが地面を駆けているようなものだった。

また何かきた…。

俺は剣を構え会長の前へと出ると、薄暗い廊下の奥から近づいてくる物に剣先を構える。


「――…ゆ―――!」

「……?」

「―――なゆゆ助けてー!」


微かな声が助けを求めていたので少し驚いてしまったが、その声と呼び方は明らかに副会長だった。
暗闇の先に懐中電灯を当てると、そこには何かから逃げてきてる副会長、巽、晴生がいた。
副会長は助けを求めているはずなのに笑っていた。
その笑顔が暗闇に浮かび上がり不気味だった。
巽は笑ってこちらに手を振り、晴生は俺を見ていつものように目がキラキラ輝いている。

問題は三人の後ろだ。
怒り狂った表情の銅像のようなものが、三人を追いかけまわしていた。
もしかしてあれも七不思議のひとつなんだろうか。

三人と銅像はこちらに向かって走ってきてるけど…あれを俺にどうしろと!?


「ちょ、わ、こっちくんなあああーーー!!!」


正直暗闇で走ってくる全員が怖い。
巽と晴生は別の意味で怖い。
副会長は顔が怖い。
銅像はなんで走ってんのか意味がわからないから怖い。

「う、うわあああああああ!!!!」

目を閉じて思い切り剣を振りかぶると、鈍い音と共に何かが吹っ飛んだような気がした。
足音が止まったので目を開けるとそこには倒れた副会長と銅像がいた。
銅像は妙な機械音を放ちながら停止したようだったが、どうやら俺は副会長の腹に剣を打ち込んでしまったらしい。

「ひ、酷いよなゆゆ……」

「す…すいません!!」

口では謝っていたが、ちょっと気分がスッキリしたのは内緒だ。 


----------------------------------------------------------------------- 


【神功 左千夫】


那由多君に手を引かれながら歩いて行く途中、大きな鐘の音が鳴り響いた。
こんな時間になる鐘は無い。
と、言うか、非常識だ。
しかし、那由多君が「また、副会長ですね」と告げてくれたので、恐怖より 腹立たしさが増した。
しかし、嫌な予感は付きまとう。

トイレまで来たが僕はその場から一向に動けなかった。
覗きたくても足が進まない。
こんな怪談の代名詞でもある場所に足を踏み入れたくなかった。
九鬼がどんな罠を仕掛けているかもわからないし。

那由多君の言葉に返せないまま立ち尽くしていると、妙な足音が聞こえる。
固まっていた僕の硬直が更に酷くなるが、聞こえた声は九鬼の声だった。


九鬼…でしたか、これは、お仕置きを―――。


そう思っていた矢先だった。
九鬼たちの方を振り向くと一番後ろから走ってきているのは、間違いなく、 柚子由ではない。
柚子由はあんなに、ほりが深くないし、髪の毛もある、更にちゃんと服を着 ていた。
そして、そんな銅像みたいな体をしていない。

僕はそのまま後退り、壁へと背中を付けるように凭れかかった。
繋がっていた那由多君の手が離れてしまった。

その後は目の前のやり取りをただただ脳が覚えているだけだった。
僕が動き出せたのは、その銅像が機械だと気づけた瞬間だった。
ガクッとうなだれるように長く息を吐く。

その瞬間背筋に嫌な悪寒が走った。
トイレの奥が仄かに明るんでいたんだ。


「そういえばこのトイレにはこんな話があります。
昔、このあたりで行方不明になった異国の女の子の遺体が未だに出てこないと。
先に犯人が捕まったのですが、その犯人は女児の死体をバラバラにしてトイレに流した…と。
そのトイレが愛輝凪高校のこのトイレの場所と調度同じ位置にあり。
毎年、その女児が殺された日に彼女はこのトイレに現れ、『助けて…助けて…』すすり泣くそうです。
そして、彼女をここから連れ出そうとしたものは一緒に黄泉の世界に連れて行かれると…」


あまりの恐怖から僕の口はまた怪談話を喋っていた。
嗚呼、僕の視界に良からぬものが見える。
このまま気絶できない自分を心底呪った。 


----------------------------------------------------------------------- 


【九鬼】


なゆゆに腹を殴られた。
思ってもみなかった行動だったので、すっかり気を抜いていた。
あの銅像も一緒に壊れたのでよかったかもしれないが、少しこのルートでイタズラをしすぎたかもしれない。

「あー痛かった」

そう言って立ち上がると、項垂れている左千夫クンが急に怪談話をし始めた。
それよりも彼の淡々と喋る表情が無表情だったのが一番怖かった。
もちろんその怪談話はどうせ誰かが作ったものだろう。
ボクはお化けなんてもちろん信じないし怖くない。
寧ろいるならお目にかかりたいくらいだ。

「……なにか…いない……?」

怪談話の後、なゆゆがそう言ったのでみんながトイレの奥へと目をやった。
微かに明るくなっている。
ここには特にそういった仕掛けはしなかったけど、誰かが電気でも消し忘れたのだろうか。
その時、赤い服を着た女の子が視界に入った。
ぼんやりと浮かび上がるそれに、みんなが息を飲む。


「……あれ、イデちゃんじゃない?」


そこにいたのは金髪の少女だった。
顔は暗くてよく見えないけれど、姿形からして多分イデちゃんだ。
ボク達を驚かすつもりだったんだろうか。 

ボクの言葉にみんなが安堵の息を吐いた後、イデちゃんはトイレの中へと消えた。
…ヒューマノイドもおしっこするのか。

「さ、最後の七不思議もわかったことだし、任務終了だネ。帰ろっか」

それなりに楽しめたことだし、ボクは笑顔で(裏)生徒会室へと戻っていった。 


----------------------------------------------------------------------- 


【神功 左千夫】


「……あれ、イデちゃんじゃない?」


は…?
イデア…?
そうか、彼女は確かにこういう悪戯が好きだ、ここに居ても全くおかしくない。
そう自分に言い聞かせて僕は拳を握り締めた。

皆がぞろぞろと帰り始めた。
その一番後ろから僕はついていく。
これはいつもの事だ。


「イデア、帰りますよ。」


トイレの奥から再び顔を出した彼女に僕は声を掛ける。
それも、いつものことだった。
そして、彼女は小さく微笑んだ。


九鬼が一番に(裏)生徒会に着くと、そこには柚子由、そして、既にイデアが居た。
それは、不思議な光景では無い。
彼女はありとあらゆる裏ルートを有しているからだ。


「あれ?イデアちゃん、さっきトイレに居なかった?」 


巽君が尋ねた。
きっと、イデアはいつも通り回答すると思い、僕は自分の席へと向かう。


「イイヤ。」

「イデアちゃん、私とずっと一緒にいた…けど?」


そう、柚子由と…。
柚子由と…?

しかも、イデアは否定した。
それだけならば彼女の悪戯かと思うが、柚子由までもイデアはトイレに居なかったと言う。
彼女が嘘をついている表情には見えなかった。

「……じゃあ、さっきの」

那由多君が青ざめて呟く。
やめてくれ、それを今思い出させないでくれ。


『そして、彼女をここから連れ出そうとしたものは一緒に黄泉の世界に連れて行かれると…』


僕の頭に、自分で紡いだ怪談話がリピートされた。
どうしてあの時気付かなかったんだ。
イデアは感情の無いヒューマノイドだ。
微笑む筈が無いんだ。


僕はそのまま自分の席に脱力するように座るとそのまま机にしな垂れかかった。 




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