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isc(裏)生徒会
辛いもの、甘いもの
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【千星 那由多】
スタンプラリーは無事終了した。…いや、無事ではない。
俺のパンツが没収されてしまったからだ。
会長が貸してくれると言ったが、またブリーフなのだろうかとちょっと心配になった。
いや、でも降って来たパンツは確か黒のボクサーパンツだったはずだ。
そんなことはどうでもいい、とりあえず気を抜いてはいけなさそうな状況になった。
こんな所まで来て任務か…とちょっと切なくなったりもしたが、もしあの内容が本当なのであれば、救えるのは多分、俺達(裏)生徒会だけだ。
スタンプラリーが終了すると、一度テントまで戻る。
時刻は15時ぐらいになっていたが、そこからすぐに飯盒炊飯の準備にとりかかった。
1年と2年の班が合同でカレーを作るらしい。
メンバーはまだわからなかったが、もうミラクルで会長や副会長と当たることはないだろう。
と思っていた。
飯盒炊飯をするための広い施設へと向かうと、俺達が使用するテーブルで待ち構えていたのは、会長と副会長のグループだった。
これもイデアの差し金なのだろうか。
いや、もうさすがに他人が関与しているから地獄のカレーバトルとかそういうのは無いだろう。
「またなゆゆと巽と一緒かーよろしくネー♪」
副会長が白いエプロン姿でイタズラに笑っていた。
カレーを作るのにめちゃくちゃ汚れそうなエプロンだ。
そう言えば副会長は辛いものが大好きなわけだが、そんな相手とカレーを作るなんてちょっと色々嫌なことが起きるかもしれない。
気を取り直して色々と準備をし始めた所で、隣の班から声がかかった。
その声の主は三木さんだった。
彼女はにわとりが胸元に描かれたピンク色のエプロンを着ていた。
エプロン姿がより一層魅力を引き立てている。
その後ろから晴生が見えた。
どうやら二人の班は隣で飯盒炊飯らしい。
「三木さん、晴生…大丈夫ですか…」
「うん、なんとか…」
困ったように笑っていたが、多分なんとかなってなさそうなのは大体見た雰囲気でわかった。
本当にあいつ俺達以外には協調性がないというかなんというか…。
お互い準備をしながらそんな話をしていると、突然副会長の声があがった。
「いーこと思いついた!!!カレー対決しない?」
「え?」
その言葉に、周りにいたみんなが副会長へと視線を向けた。
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【日当瀬 晴生】
俺の班には三木が居た、後は俺のクラスメイトと三木のクラスメイト。
もう名前も忘れちまった。
カレーは二年の班と合流らしいので、言ってみると、●●、●●、そして、ブラックオウルの薮塚莉子と後はしらねぇ奴。
と、なんとも懐かしいメンバーだった。
まぁ、千星さんが居ない時点で俺には既にやる気は無いので関係ねぇ。
薮塚の奴は雰囲気ががらっと変わって、少し大人しくなってやがる。
なんだか顔もずっと赤いし、ちらちらしかこっちを見ない。
「いーこと思いついた!!!カレー対決しない?」
そう思っていると九鬼の声が響く。
隣の班は千星さんが居る班な筈、ちらりとそちらを見ると、九鬼がこちらを見て指をさしていた。
「二班合同で!罰ゲームは……そーだナ、後片付け!ちなみにジャッジは先生に行って貰うから公平だヨ♪」
「他にいい案有ったら言ってね!」的な笑顔を両班に振りまいている。
そうしている間に千星さんと、巽、良く見たら新井、後はしらねぇ奴がこっちに押されてきて、二年が連れて行かれる。
……って、これは願ってもねぇ!!
千星さんと一緒に飯が食える。
仕方ねぇな、と、言う体を装いながら俺は頷いた。
千星さんが近くに来るなり、俺はそっちに寄って行く。
やはり、彼が居るだけで自ずとテンションも上がる訳で。
そこから、色々話し合った結果。
母が居酒屋を営んでいる天夜が主体となり、カレーを作ることになった。
そんなやつより、俺の方が絶対うまくできます!と、内心思ったが、取り合えず今は千星さんとの野菜剥きが出来ることの喜びに酔い痴れた。
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【千星 那由多】
副会長のせいで、なぜか1年VS2年でカレー対決になってしまった。
別に俺はそれはそれでもかまわなかったが、ただひとつ、会長の笑みがいつも以上に冷ややかで怖かった。
多分周りの普通の生徒は気づいていないだろう。
巽は昔から居酒屋の手伝いをやっていたせいか、料理がうまい。
カレーは食べたことはないけど、あのかーちゃんの息子となると、多分かなりいい線をいっているのではないだろうか。
巽がテキパキと指示を出していき、渡されたジャガイモの皮むきを晴生と共に頼まれた。
なにせ人数が増えるため量が多い。
そして、俺はもちろん、皮むきなんてできるわけがなかった。
きゅうりぐらいなら切れるんだけど…。
包丁とジャガイモを見つめる。
隣で晴生はするすると皮を繋げたままで器用に剥いていっていた。
負けてはいられないと、包丁をザクっとじゃがいもに突き刺しゆっくりゆっくりと皮を剥いていく。
なぜ巽は、包丁を俺に渡したのか…。
近距離でジャガイモと刃を見つめ、指を切らないように注意して皮を剥いていると、誰かに肩を叩かれた。
晴生か巽か?と思い後ろを振り向くと、そこには会長達と同じ班だった二年生の先輩がいた。
「神功君、ボ、ボクの…ピーラー…使う?」
少し小太りのその先輩は、おどおどと俺に話しかけてきたようだったが、呼んでいる名前が明らかに違う。
神功…?会長かのことか?
急に話しかけられたのと、どう反応していいかわからずに軽くテンパっていると、二年生のチームから再び声がかかった。
「堀口君、もしかして僕と間違えてる?」
そう言って振り向いた先には、俺と同じような髪色で天然パーマの先輩がいた。
ということは、彼が神功…?会長と同じ名前だ。同性なのか?
訳がわからずにその先輩をよくよく見てみると、少し俺と似てるかもしれない。
自分ではあまりわからないが。
堀口という先輩はその言葉に俺と神功先輩を交互に見つめた
「えっ!?あ!うわ!ご、ごめん!すごい似てたから…ほんとごめん…っ!!」
そう言った堀口先輩は顔を真っ赤にして俺にも神功先輩にもペコペコとお辞儀をしていた。
「いやいやそんなに謝らないでよ、言われてみたら確かに似てるかもね。
君、名前は?僕は神功十輝央。
左千夫と知り合いなら、なんとなくわかるかもしれないけど、一応左千夫とは義理の兄弟みたいな感じ」
「せ…千星那由多です…」
差し出された握手を包丁を机に置いてから軽く握った。
会長と義理の兄弟だということは、この人は神功家の本当の息子…とかなのだろうか。
顔が似ていると言えど、明らかに俺と人種が違うんだろうなと、少し戸惑ったような笑みを浮かべた。
「あ、その困ったような顔、似てるかも!ね、左千夫、似てるー?」
ふわりと笑った後に半ば無理矢理に肩を掴まれ並ぶと、会長へと問いかけた。
初対面でなくてもこの近距離はかなり苦手なので、引き攣った笑みを浮かべ会長へと視線を送った。
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【神功 左千夫】
神功十輝央、十輝央兄さんが僕を呼んでいる。
僕はこの時調度米を炊いていた。
二年は、結局九鬼の意見が押し通されスパイシーなカレー、僕が最も嫌いとするカレーになった。
なぜだか分からないが、九鬼は専門的なスパイスまで持ってきた居た。
平等なようにと一年の班にも貸し出していたがあれを中々使いこなせるものは居ないだろう。
僕は、甘口が好きだ、なんとかの王子様ぐらいお子様向けでもいいくらいだ。
しかし、作られたカレーは食べなければならない。
酷く憂鬱だった。
勿論、表情には出ていなかっただろうが。
十輝央兄さんの方を向くとなぜか那由多君と並んでいた。
嗚呼。確かに似ている。
と、言うか見た目だけならそっくりな部類だ。
多少表情の変化や育った環境が出ているが形成されているパーツは一緒なのではないかと思うくらい似ている。
僕が那由多君を書記に即決した理由はここにも有ったのかもしれない。
「なるほど…。確かに似てますね。
内面が全く違うので気付きませんでした。」
マジマジと二人を見ていると野次馬が集まる、と、言っても、晴生君、巽君、九鬼、位だが。
「全然似てないよ。那由多のほうが…」や、「こんな奴と千星さんを一緒にすんな!」と、色々な声が飛ぶが九鬼は僕に賛同してくれているようだ。
そもそも、巽君と、晴生君は那由多君の内面を重視しているので那由多君は那由多君なのだろう。
彼らにとって千星那由多は唯一無二の存在なのだろう。
「そっか、じゃあ、似てないのかもね。」
十輝央兄さんが気を使ったのか、そう言ってその場は収まった。
そして、彼は自分のピーラーを那由多君に渡す様に告げてから、また持ち場に戻って行った。
はっきり言って、後姿だけなら見分けがつかない位似ていた。
そうこうしているうちに、米が炊け、僕たちは両班ともカレーが仕上がった。
真ん中にライスを盛り、右側に一年のルーを左側に二年のルーを流し込む。
なんだか、二年のルーは色からして凶悪に見えた、これを本当に食べないといけないと思うと僕は心底ナイーブになった。
最後に一つ多めに作った先生の分で、僕たちの班はカレーもご飯も綺麗に無くなった。
それをもった九鬼が先生の方へと走って行く背中を恨めしそうに僕は見つめるしたか無かった。
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【九鬼】
とっきー、こと神功十輝央が誰かに似ていると思っていたら、それはなゆゆだった。
雰囲気はまったく違うんだけど、あまり知らない人が彼らを見たら見間違うぐらいには似てる。
正直ボクもそう言われてから意識してしまうと、とっきーがなゆゆに見えてきてしまった。
そんなやり取りを終えると、1年と2年のカレー作りはほぼ同時に終了した。
スパイシーカレーで押し切っただけはあるぐらいのおいしさになっているだろう。
実の所、これを左千夫クンに食べさせたいがために作りたかっただけなんだけど。
ボクたちの担任の先生は心良く食べるのを承諾してくれた。
みんなの目の前で食して感想を言ってもらう。
「…1年のカレーうまいな!なんだか物凄く懐かしい味がして、昔大好きだったカレー屋の味を思い出したよ」
その言葉に1年組が沸いた。
確かに巽主導のカレーはとてもおいしそうだった。
庶民的で普通のカレーなんだけど、先生ぐらいの年齢にはウケそうな感じだ。
だけど、負けるつもりはない。
ボクらが作ったカレーを先生が口にする。
「………ッ!!!!!」
先生は1口食べた後、すぐに水を一気に飲み干した。
額から汗が流れでて悶絶している。
ここまではボクの想像通りだ。
だけど、ここからだ。
先生の手はそれから止まらない、食べては水、食べては水、を繰り返している。
その光景に辺りは静まり返った。
全て間食しきった後で一息ついて先生は感想を述べた。
「……なんだ…これは!!!!
世界中の辛さと辛さがぶつかりあい…それでも相殺されないこの辛さ!!!
だが手が止まらない!!美味すぎる…!!!こんな美味いカレー先生食べたことないぞ!!!」
その言葉に辺りが更に静まり返る。
ボクだけニコニコと微笑んで左千夫クンの方へと視線を送ったが、彼は目を合わせようともしない。
「……これは…二年の勝ちだな…1年もおいしかったんだがな……このカレーには負ける…」
汗を拭きながら先生はボク達2年生が作ったカレーを勝ちとした。
そんな感じでカレー対決の結果は出たけど、ボクはこれからが一番の楽しみだった。
どちらのカレーもあるわけだが、もちろんスパイシーカレーもみんな食べなければならない。
あの辛い物が大嫌いな左千夫クンもだ。
ボクはわざわざ彼にカレーをついであげた。
ちなみにちょっとスパイシーカレーのルーを多くしてやった。
「はい、左千夫クン」
みんなの前で無理矢理手渡せば、優等生の彼は投げつけたり落としたりなどはしないだろう。
ボクはイタズラな笑みを彼に送り続けた。
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【神功 左千夫】
先生の様子を見ているだけで僕は吐き気を催した。
二年が勝ったようだが、もう、そんなことどうだっていい。
これから、あれを食べるのかと思うと既に汗が噴き出している。
顔以外、だが。
九鬼からカレーの皿を貰った。
なんだか、スパイシーカレーの量が多いことに抗議したくなったが、そんなこと優等生の僕が許さない。
「ありがとう……ございます。」
ゴクリと喉が上下する。
いかにもからそうなカレーだ、これを今からうまいと言いながら食べなければならないのか…。
どの任務よりも僕にとっては酷だ。
取り合えず、余り賑わっている席には座りたくなかったので隅っこの席を探す様に視線を彷徨わせた。
調度堀口君が一人で座っているのが見えた。
「堀口君、ご一緒していい――――堀口君?」
良く見ると彼は真っ青な表情でスプーンを握り締めていた。
そして、地面には無残にもカレーがぶちまけられていた。
彼の視線の先を追うといかにもやんちゃそうなグループが談笑していた。
彼らに落とされたのだろうか…?
堀口君が僕の存在に気づいた様子で、はっとしてこちらを見上げた。
「あ…あ、ご、ごめんなさい、ボ、ボク…聞いてなくて…カ、カレーも落としちゃった…し。」
確かカレーは調度人数分しか無かった。
もう、彼の落とした分を補える予備は無いだろう、そして、今が絶好のチャンスだ。
ちらりと九鬼を見やると、調度、薮塚梨子と話をしていた今がチャンスだ、僕は自分で陰を作りながらスッと、堀口清の前にカレーを差し出す。
「どうぞ、食べて下さい。」
勿論彼は慌ててそれを返してこようとするここからが腕の見せ所だ。
僕は中腰になって彼の耳元に唇を寄せ、ヒソヒソと会話をし始める。
「実は僕、カレーがとても苦手でして…特に辛いカレーが…。
しかし、僕のポリシーとして人様に作っていただいたものを残すわけにはいかないので…」
どうやら、優等生である、僕が弱みを見せている姿に彼はぐらっときているようだ、後一歩と思い僕は一番いい笑みを浮かべた。
「君が食べてくれるなら、僕も助かるんです。
くれぐれも皆には秘密でお願いしますね…?」
にっこりと笑んだ僕になぜか顔を赤らめながら彼は頷いた。
これで、カレーを食べなくて済む。
一食位抜いたって僕は何の問題も無い。
さて、後片付けは一年がやってくれる手筈になってますし、僕は先にテントに戻って風呂の準備でもしましょうか。
一年と二年がカレーで騒いでいる間にばれないようにそっと抜ける。
イデアのメモの件も気になったので、それについてももう少し洗ってみることにした。
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【千星 那由多】
結局1年組は負けてしまったが、巽のカレーは文句なしにうまかった。
ただ、それ以上に二年組のカレーは凄まじかった。
辛い、ただただ、辛い。
だけど本当に食べる勢いが止まらない。
俺の班と晴生達の班のメンバー達はほぼ全員が、がっつくようにカレーを食べていた。
多分他の生徒から見たら異様な光景だろう。
ただ、会長がこれを完食したのかは謎だった。
1年だけで食事の後片付けが終わると、日もすっかり暮れていた。
晴生と三木さんと再び別れてから、俺達は風呂の準備をするためにテントへと戻った。
準備をしていると、そう言えばパンツが返ってこなかったことに気づく。
会長が貸してくれると言っていたが、忘れているだろうか。
二年のテントにまで取りに行くのも申し訳ないので、明日も今日のパンツを履くか…とそんな決意を固めた所で、目の前の薮から会長がいきなり姿を現した。
「うわ!!!」
急に沸き出てきた会長に驚き、俺は思わず声をあげてしまう。
会長はそんな俺を見て微笑みながら、何かを手渡した。
それは黒いボクサーパンツだった。
どうやら貸すと言ったことは覚えてくれていたみたいだ。
そして、渡されたパンツがブリーフじゃなかったことに俺はほっと胸を撫で下ろした。
「あ、ありがとうございます…」
おずおずと手を差出し、それを受け取ると、会長は周りの誰にも聞かれない程度に小さく呟いた。
「昼間の件ですが、僕と同じ班だった堀口清志君を要チェックしておいてください」
そう言うとまた薮の中へと消えて行った。
会長と同じ班の堀口清志…、多分俺と神功十輝央先輩を間違った人だ。
あの人があの文章を投函したかもしれないということだろうか。
とにかくこの事をきちんと巽にも伝えておこう。
俺は、綺麗に畳まれたボクサーパンツをポケットの中へと仕舞い込み、巽のいるテントへと戻った。
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【堀口清志】
僕は昔からずっといじめられてきた。
小さい頃から体型のことやどんくさいこと勉強ができないこと、…色んなことで周りにケチをつけられてきた。
そんなのも成長すればきっと変わっいくのだろうと思ってずっとずっとこの17年間耐えて生きてきた。
でもそれは変わることはなかった。
僕は頑張って勉強して入った愛輝凪高校でもずっといじめられている。
もちろんその事に先生は気づいていないし、周りの人たちだって興味はない。
こんな人生に少し飽きてしまうぐらい、僕にとっていじめられることは当たり前のことだった。
「堀口くーん」
そう言って名前を呼ぶのは大体いじめてくる奴等だ。
この林間学校でも人目がつかない場所で、何度も暴行や酷い行為をされた。
僕が返事をしないでいると、一人の男子が腹を殴る。
もちろんこいつの名前なんて知らない、知りたくもない。
「な、お前神功家の二人とテントおんなじなんだって?すげー偶然だよなーレアじゃね?」
「……」
「あいつら金持ってるだろ、ちょっと貰ってきてくんないかなー」
神功左千夫君と神功十輝央君はとても優しかった。
そんな二人とこんな僕が同じ班だなんて、嬉しかったけど嫌だった。
こういうことが起きると思っていたからだ。
いつもなら言われた通りにやってしまうんだけど、この時ばかりは返事をしたくなかった。
「聞いてんの?なあ?」
男子は返事をしない僕の髪を掴んで、近くの水たまりへと身体ごと放り投げる。
ジャージが泥水で汚れたが、僕は立ち上がらなかった。
「チッ…うぜえ……じゃあさ、スタンプラリーのC地点で俺彼女に貰った指輪忘れてきたんだよねー。
それ取って来てくんない?暗くて行くの怖くってさー」
周りの男子たちがドッと笑った。
意味がわからない。でも、これもいつもの事だ。
別の男子が泥水に遣っている僕の横顔に蹴りを入れる。
そのまま手を付く様に上半身も倒れ込むと、何かをかけられた。
生ぬるいそれは小便だった。
「うわっなにやってんの!くせーのが余計臭くなるじゃん」
全員が笑いながら、数人同じ行動をする。
どうせ、お風呂に入るからいい。ジャージの着替えも持って来てる。
「じゃ、頼んだから。5秒数える間に行けよ、いーち、にー」
数字を数えだしたので立ち上がった。
これも染みついてしまった本能的なものだった。
抵抗なんてしない、無駄だから。
彼らの指示にただ従うだけ。
小さくなっていく笑い声を背中に感じながら、僕は真っ暗な森の中へと消えていった。
ああ、こんな終わった人生、つまらない。
やっぱりもう、死んでしまおうか。
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【天夜 巽】
俺のカレーが負けて一年が後片付けになってしまった。
でも、確かにクッキーさんのカレーは誰も真似できないような本格的なもので俺の腕もまだまだだと思った位美味しかった。
二年が終わったので、俺達一年に風呂の番が回ってきた。
それも問題なく終わって、辺りも気にしてるけど特に目立ったことは無い。
そう思った矢先、神功十輝央さんが僕たちの元に走ってきた。
「あ。千星くーん!あ、天夜君も…。堀口君見なかった?お風呂の前位から見かけなくてさ…。もう直ぐ消灯だから気になっちゃって…」
彼とは食事の時間色々話したのでその時に全員自己紹介している。
僕の名前を覚えてくれていたことに笑みが浮かんだ。
「いえ。僕たちはあれから見てませんけど…。」
「おかしいな…山の中に入っていったような影を見たって子が居るんだけど…、何か探しものかな…、ありがとう、僕もう少し探してみるね。」
その言葉を聞いた瞬間、僕は後ろに居た那由多に視線を合わせた。
那由多も何か感づいた様で深く頷いていた。
調度風呂上がりの日当瀬が居たので事情を説明し、一緒に来てもらう。
「メールは打っといたが、会長は今、連絡がつかねぇ…。
取り合えず、俺達だけで探しましょうか。」
俺と那由多と日当瀬は山の中へと入ることにした、点呼を取ってから先生の目を盗んで山の中に入る。
日当瀬が人数分の懐中電灯を持ってきてくれたがそれにしたって暗い。
「解除…。」
日当瀬が携帯を展開させる。
そうして、直ぐにブレスレットへと形態を変えた。
彼は特殊能力で堀口先輩の居場所を探そうと試みるようだ。
その時に電話が掛ってきた様子で舌打ちをしてから、自分の目の前にディスプレイのようなものを作りあげた。
本当に日当瀬はイデアアプリを使いこなしている、俺はまだ、あそこまで行かない。
『遅くなりました。目安箱の紙が彼のものかは分かりませんが、堀口君はいじめられている。それは間違いなさそうです。
今は彼はスタンプラリーのC地点に向かっている…。彼をいじめている者たちの証言によれば…ですが。』
スピーカのようにディスプレイから会長の声が響いた。
会長が語尾を濁したのはもし、自殺をしに向かっているのならどこにいるか分からないと言うことだろう。
「取り合えず、C地点に向かおう?やみくもに探すよりもマシかもしれない。」
俺がこういうと那由多も日当瀬も頷いてくれた。
『わかりました、僕たちも直ぐ、合流しますね。』
それだけ告げると会長は携帯の電源を切ったようだ。
俺も那由多も携帯を取り出すと展開させて行った。
山の中は本当に真っ暗で、ひんやりとして寒い。
自分の直ぐ前になにが有るかも分からない位だ。今日は不運なことに雲が多く月も顔を出したり隠したりしている。
きっと彼はこんな中、懐中電灯も持たず、一人で奥へと向かったんだろう。
その、孤独を考えると無意識に僕の体は震えてしまった。
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【千星 那由多】
会長に注意しておけと言われていた堀口清志がいなくなった。
俺達は携帯を解除し武器をブレスレットにしてからC地点へと向かう。
懐中電灯の灯りでさえ頼りないほどに辺りは暗かった。
一人でこんな森の中を歩いていたらどうにかなってしまいそうだ。
完全な孤独…もしあの文章の投函者が堀口先輩なら、もしかしたら最悪な結果になってしまうかもしれない。
死にたいと本気で思うことは、どういう感覚なんだろうか。
ずっとずっと助けを求めて、彼はこんな風に心の暗闇をずっと彷徨ってきていたんだろうか。
冷える身体をぎゅっと抱えながら道を進んで行く。
すると、先頭に立っていた晴生が急に立ち止まった。
「…いる……」
その言葉に一瞬お化けでも出たのかと冷やっとしたが、堀口清志のことだろう。
俺は辺りを懐中電灯で照らして見渡すが、人影のようなものは見当たらない。
「上…」
晴生がそう口にした方向へと懐中電灯を三人で向ける。
そこには絶壁があり、その上に人影がチラリと光に照らされた。
それはぼんやりとした表情の堀口清志だった。
「…堀口先輩!!」
名前を呼んで懐中電灯で顔も照らしたけれど、まったく俺達には気づいていないといった感じだった。
ふらふらとした足取りはどんどん崖の方向へと近づいている。
真下は小さな池だ。
落ちてしまったら助けることもできるかもしれないが、この絶壁の高さを考えると一溜まりも無い気がする。
走り出して止めに行こうかとも思ったが、上に回っている暇なんてもちろんない。
すると晴生が空気砲を堀口先輩の足元へと撃ち込んだ。
足元の崖が下へと崩れ落ち、池へとパラパラ、と音を立てて落ちる。
その音で堀口先輩は我に返ったのか、その場に立ち止まったのが見えた。
とりあえずは大丈夫かもしれない。
急いで崖上へ回ろうと動き始めた時、誰かの声が響いた。
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【日当瀬 晴生】
特殊能力のお陰で俺は暗闇でも余り苦労しないようだ。
全神経を集中させながら歩いて行く。
獣の気配、木が揺れる音、虫が鳴く声、風が吹き抜ける感覚、川の流れ、全てが自然と調和する音を発しているのに一つだけ異音が聞こえる。
人が地面を踏みつける音だ。
「…いる……上…」
少し遠いながらターゲットを発見出来た。
しかし、奴は今にもそこから谷底へと飛び降りそうなくらい意識が確りしていない。
「……っち!」
千星さんの呼びかけにも応えない様子に業を煮やし、最終手段だがブレスレットを元の形に戻し空気砲を撃ち込む。
崖が砕ける音。それがぱらぱらと水面に向かって落ちる音で彼は正気に戻ったようだ。
その後はその場に立ち止まったのできっと死にたい欲より恐怖が勝ってしまったんだろう。
俺達が上に上がろうとしたその時だった透き通った声が響き渡る。
「堀口くーん!!…あ!堀口君!」
「く、来るなぁぁぁぁ―――!!!」
マズイ、また堀口の奴がテンパッたようだ。
どうやら、彼の名を呼んだのは神功十輝央、会長の義理の兄だった。
一番良くない展開だ、今急いで上がっても逆効果か…
それならここで落ちるのを待ち受ける作戦を練った方がいいか。
そうこうしているうちに俺の携帯の発信器を辿って会長と副会長が訪れた。
崖の上の二人を見た瞬間、瞬時に場を把握したようだった。
「状況は思わしくないようですね……。十輝央兄さんが居ては迂闊に近づけませんし…
少し様子を見ましょう。最悪は九鬼に一緒にダイブしてもらいます。」
そう言って彼は副会長を見て、いつもの通り笑ったが想像以上に冷ややかな笑いで俺すら背筋が凍った。
当の九鬼は、ボクと言うかのように自分を指差していたが会長の笑みのせいかそれ以上なにも言わなかった。
いったい何が有ったのか分からねぇが…、取り合えず、九鬼が会長に余計なことをしたっつーことだろう。
「どうして、どうして…ボ、ボクと同じ班なんかになったんだよ!」
声を荒げる堀口の内容は完全なやつあたりだった。
ここに来るまでに川に嵌ったり、こけたりと散々だったのであろう、全身びしょぬれで、生傷も多い。
「…どうしたの堀口君。ごめん、そんなに僕と一緒の班が嫌なら、先生に言ってかえて貰うから、取り合えず帰ろう?
そんな姿じゃ風邪ひいちゃうよ?」
「だ、誰も!!ボクと組みたいわけないだろ…!!もう、ボクはここで死ぬんだ!…構わないでくれ!!」
神功兄の声も虚しく一方通行に響くだけだ。
じりじりと背後の崖へと向かって足を進めて行っている。
しかし、矢張り神功財閥の息子だけある、彼はおどおどしながら堀口を刺激しない範囲でゆっくりと距離を詰めていた。
「堀口君。なにがあったの?僕が力に慣れることならなるから、死ぬなんて言わないで?」
「じ、神功君には分からないよ!!金持ちの息子の神功君にはボクの気持ちなんて絶対わからない――――!!」
なんて自分勝手なやつだ。
こんな奴の気持ちなんて分かりたくも無い。
俺はその時それで頭がいっぱいだった。
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【堀口清志】
そう、僕のことなんて神功君には絶対にわからないんだ。
生きてきた人生がまったく違う。
彼は、お金持ちの家に生まれて、みんなに愛されて、親しまれて…僕とはまったく真逆の人生を送ってきている。
神功君を見ながら崖の方へと後ずさって行く。
このまま正面をみないで落ちれば、怖くもないだろう。
僕はここで死ぬ。
死ぬ。
死ぬんだ!!!!
「そうだね、結局人の気持ちなんてわからないかもしれない」
神功君の声はやわらかかった。
そのままのトーンで彼は言葉を続けていく。
「だから僕は君と同じクラスになって、同じ班になっても、君が何をされて苦しんでいるかってことにもまったく気づかなかったんだ。
だけどね、僕の気持ちも君にはわからないだろう?
周りの友達はみんな笑った仮面をつけて寄ってくるだけ…本当の友達なんて周りには一人もいない。
僕はただの『神功家の息子』でしかない。
…この言葉を今言わなければ、そんなことも君はきっと気づかないままだったね。
だから、もう少し話をしよう。いや、僕は君と話がしたい。
もしかしたら、友達になれるかもしれないから…その可能性をここで失ってしまうのは僕は悲しいよ」
「……友達になんて…なれるわけないだろ!!」
「そうかもね、なれなかったらどうしよっか、親友にでもなる?」
「……!!」
何を言ってるんだ、神功君は。
こんな僕が君と対等に話ができるわけがない、友達になんて、親友になんて…。
「傷つけ方なんていっぱいあるんだよ、それがどれだけ辛いかなんてのも、傷つけられた人にしかわからない。
だから、君の傷を僕に教えてよ、一緒に話をしよう」
「……」
僕は気づいたらその場に泣き崩れていた。
そうだ、結局僕は周りが助けてくれるのを待っていた。自分から助けを求めることもせずに。
周りを恨んで、呪って、変わってくれるのを待っていた。
僕自信が変わらなければいけなかったのに。
神功君が僕の側へと近づいてきて手を差し伸べる。
「寒いから、帰ろう。
幸い僕たちは同じテントだね、今までの出来事を話する時間は今夜だけじゃ足りないかな?」
差し出されたては冷え切っていたが、彼の言葉で僕の心はとても温かかった。
今まで堪えていたものを吐きだす様に大声で泣いた。泣きじゃくった。
僕は、死ななくていいんだ。
生きていて、いいんだ。
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【神功 左千夫】
堀口清志の泣き崩れる様子がここからでも分かった。
どうやらうまく十輝央兄さんが説得したようだ。
本当に親子揃って情が深いと言うか、要らないものを拾いやすいと言うか。
「僕には無駄にしか思えませんがね…」
小さく呟きを落としてから九鬼を見た。
彼も十輝央兄さんのように特殊な環境で育っただろう、少しは兄さんの言葉に共感が持てるかもしれない。
それよりも九鬼はどうやら谷底に飛び込まなくて良くなったことに喜びを感じているようで、いつもにも増してニコニコしていた。
彼に同情を求める方が間違っていたのかもしれない。
取り合えずこの件は(裏)生徒会が関与しなくてもどうにかなりそうだ。
あの投稿が彼かどうかは帰ってからイデアに筆跡鑑定をお願いしよう。
「さて、戻りましょう。後は彼に任せて置けば問題ないでしょう。
ああ見えても、神功財閥の御曹司です、その辺の輩とは出来が違います。」
皆にそう声を掛けて僕は踵を返す。
僕たちの不在を先生に気付かれないように僕の幻術ではぐらかすのももう限界だろう。
先程は不良に幻術を掛けて場所を聞き出しただけだったが、
神功十輝央が絡んできたら不良たちにもお仕置きをしておかなくてはならないな、と思いその内容を考える。
きっと今までにない位僕の笑みをたのしそうだっただろう。
しかし、その楽しみは無残にも打ち砕かれることになった。
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【九鬼】
神功十輝央。
ボクは前から彼の事を知ってはいたけど、とんだ優男だな。
それが神功財閥らしさと言えばそうなのかもしれないが。
ただ、少しだけ、彼の生き方には共感できる部分がある。
友達、親友…ボクには今までそんなものがいなかった。
きっと彼もそうな人生を送ってきたんだろう。
少し気になることがあったので、帰る左千夫クン達にはついていかずに、楽しそうな道程を辿る堀口とトッキーの後をつけていった。
案の定それは正解だった。
キャンプ場が見えてきたぐらいだろうか、調度そこにトイレで堀口をいじめていた奴等が待ち構えていた。
まぁまたゾロゾロと汚い顔が並ぶこと。
「あれ?堀口くーん、なんで神功君と一緒にいるわけ?」
にたにたと笑う男子が堀口とトッキーの前へと立ちはだかる。
「…なに?君達。もう僕たち帰りたいんだけど、どいてくれないかな?」
そう告げながら彼らの横を通り抜けようとした時、後ろを歩いていた堀口が足をひっかけられた。
本当にどんくさいな、と思いながら彼らの様子を木の影からうかがう。
「だっせ、こけてやんの!つーか堀口ぃ、言ってたもん取ってきてくれたわけ?」
「………とって……きてない…」
「はぁ!?マジで!?最悪なんですけど!!」
堀口はただただ震えていたが、あのトイレの時と違うのは、彼らに反論していたことだろう。
トッキーは彼を起こすと、真っ直ぐな目で男子たちを見つめた。
「もしかして君達があんな所へ堀口君を一人で行かせたのか?感心しないな」
「あ?ぼっちゃんにはかんけーねーだろ?俺達の問題なんだよ、無駄な正義感出さないでくれる?」
「おい、やめとけって、神功に関わったら…」
数人の男子はどうやらトッキーがいることに恐怖を感じているようだ。
確かにトッキーに手を出せば、神功財閥は黙っていないだろう。
親の財力で喧嘩を仕掛けてきた奴の人生を狂わせるぐらいにはできてしまうはずだ。
まぁ、そんな惨い事をトッキーの親父がするかはわからないけれど。
「ちょーどいいわ、神功、金置いてってよ、そしたら堀口君見逃してやっからさ~」
そんなことを言う男子に何も言わずにただ神功は見つめているだけだった。
小さくため息をつき、男子から目を離しポケットの中へと手を入れた。
その瞬間、奥で見ていた一人の男子がトッキーに少し大きめの石を投げつける。
一瞬避けるような仕草を見せたが、堀口に当たると思ったのだろうか、彼は避けずにそのまま背中へと石をくらった。
ぐらっと重心が前に傾いたが、彼は何も言わない。
「神功君!」
「大丈夫だよ、お金渡したらいこっか」
その言葉に男子たちは徐々に動き始めた。
「やっぱりお金持ちは金で解決ですかー?いやー違うねー頼もしいねー。
…それがまた…うざいんだよ!!!」
そう言うと太い木の棒で更に殴りかかろうとする行動を見せる。
ボクは大きくため息をつくと、トッキーと男子生徒の間に割り込むように舞い込んだ。
地面に着地した衝撃で落ち葉が辺りに舞い、そこに見え隠れするボクの姿を見た他の生徒は驚いたように目を瞠った。
その瞬間を狙って腹に一撃おみまいすると、白目をむいて木の棒を掲げていた男子はその場に倒れ込む。
「あ、ちょっと力入れ過ぎた」
「てめえ…!なんだ!!」
「ただの通りすがりだヨ~」
そう言って手をひらひらさせたと同時にその男子の目元へと指を突き出す。
指先が眼球ギリギリの所でとまり、少しでも彼が動けば突き刺さることになるだろう。
その光景に辺りが静まり返る。
「じゃんけんで絶対に勝つ方法知ってる?後出しするんだヨ。
だから、先に手を出しちゃった君の負け」
口角を高めにあげそのままにーっと笑顔を向けた。
このまま眼球を突き刺してしまってもよかったんだけど、さすがに左千夫クンにバレたら怒られてしまいそうなのでやめておく。
「次、先に出したら、抉るから」
笑顔をふっと無くすと、目の前の男子が恐怖で顔が引き攣っていくのがわかった。
小さな恐怖の声が周りであがり始めると同時に、二本の指をグーに戻すと、そのまま眉間へと一突きする。
男子は後ろへと倒れ込むと周りにいた男子生徒も散るように走り去って行った。
こういうのは性にあってない。
口先を尖らしながらため息をつくと、ボクを驚いた表情で見つめるトッキーたちへと視線を戻した。
「ちょっとそこの茂みで女の子と気持ちいいことしてたらサ~君達が見えちゃって。
邪魔された腹いせにやっちゃったけど悪かったかナ?」
首をふるふると横に振るトッキー達を見てイタズラに笑うと、テントの方へと歩み出す。
後ろの方で堀口の「ありがとう」という小さな声が聞こえたが、ボクは聞こえないフリをしてその場を去って行った。
ちゃんとありがとうが言えるなら、もう大丈夫か。
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【神功 左千夫】
その後色々と偽造工作をしてから不良達の元に向かうと既に九鬼が手を出していた。
あれで十分なお仕置きになっただろうと渋々手を引くことにした。
沼の主に無残に食い殺される幻術を掛けるつもりだったんですがねぇ…。
それよりも自分の義兄で有る。
きっと財布ごと差しだすつもりだったのだろう。
人が良いにもほどが有る。
そんなことを思っているとイデアからからメールが入った。
『A地点で待つ。
24時前に来るように。』
彼女らしい淡泊な内容だった。
矢張り、彼女はこの合宿に来ていたようだ。
那由多君へのメッセージを読んだ時からなんとなく感づいては居たが。
まだ、少し時間が有ったので堀口君の筆跡が分かるものを拝借してから時間少し前にスタンプラリーのA地点に向かった。
面倒だったので懐中電灯も持って来なかった。
見事に真っ暗な中を進んでいく。
夜目になってしまえばこれくらいは特に問題ない。
が…。少し気になる噂が有ったので自然と体が萎縮する。
その瞬間僕の目の前に真っ白な髪をした何かがにゅっと姿を現した。
「―――――――――――――――っぅ!!!」
思いっきりその顔面向かって殴りかかるとうまくかわされてしまった。
なんて素早い幽霊なんだ。
どうにかして僕の前から姿を消して貰わないと、と、携帯を懐から取り出した時に声が掛る。
「わわわわ!!ボクだよ、左千夫クン!」
聞き覚えのある声がするので良く見てみると、そこには顔をライトで照らしている九鬼が居た。
いかにも下からライトアップしているその、嫌がらせに一発蹴りを喰らわせておく。
「どうしてこんなところに居るんですか?
僕はイデアから呼ばれてきたのですが…。
もしかして、全員呼び出しが掛っていたのですか?」
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【九鬼】
危うく左千夫クンに殺されかけるところだった。
だけどいいものを見てしまったことに、僕は静かに口角をあげた。
どうやら彼はお化けが苦手みたいだ。
自分は幻術を使えばお化けと同じような存在になれるくせして…なんとも矛盾している。
蹴りを入れられた部分を撫でながら、彼の質問に答える。
「ん?そーだネ、どうなんだろうネ~。
それより今ボク達こんな暗闇で二人きりだヨ?なんか…いつもと違った一面を見せてくれたりとかナイの?」
彼に歩み寄って、顎をぐっと持ち上げた。
じとっとした目で汚らわしいものを見るかのように見つめてくる。
この目がまたたまらない。
一人で身体を震わせていると、茂みの中から声が上がった。
「汚らわしいです!!!」
それはゆずずだった。
まだ彼女は登場の時間ではない。
ボクが隠れて隠れてと手を上下に動かした所でハッとした彼女は再び茂みの中へと入っていった。
「……どういうことですか…」
ボクの手を薙ぎ払うようにすると、ゆずずが出現したところへと左千夫クンが向かっていく。
あーあ…折角の計画が……ってこれはボクのせい?
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【千星 那由多】
堀口先輩の件がひと段落してから、俺達は予てから会長に内緒で計画していたことを実行に移す。
イデアに会長へと連絡を入れてもらい、A地点へと呼び出してもらうと、会長は一人でその場所へとやってきた。
もちろん俺達は先にその場所へ来て気配を消し待ち構えている。
ただ、気配を消している俺達に気づいてしまうのが会長なので、先に副会長に気を逸らす様に出ていってもらうことになっていた。
副会長はうまく…いや、うまくないけど、なんとか気をそらしてもらっていたが、
彼の行動に居ても立ってもいられなかった三木さんが開始合図前に顔を出してしまった。
慌てて引っ込んでいたが、会長はこの不穏な空気にすぐに気づいたようだった。
そりゃ気づくか。
イデアの合図は何をするかわからなかったが、それが起こるまで俺達は姿を出す事ができない。
茂みの中で息をこらしていると、心臓が早くなっていく。
会長に今の段階でバレたら全てが台無しだ。
「どうしたの会長~今なにか出た?気のせいだよ!ゆずずなんてそこにいないよ!!」
必死で会長を押さえつけるように三木さんがいる場所へ行くのを阻止しているが、これも時間の問題だろう。
イデア…早く…!!
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【神功 左千夫】
なんだこの奇妙なはぐらかし方は、いったい何を考えている。
そして、何が行われようとしている。
顎を掴まれるのは不快だったがそれよりも真意を見たくてずっと九鬼を見据えてやる。
そうすると、柚子由の声がした。
今まで、九鬼に気を取られていたがよくよく辺りに気を配るとちょこちょこ隠し切れていない気配が有る。
どういうことか柚子由に聞こうと思って彼女の声がした場所へと向かう、彼女は僕には隠し事が出来ないからだ。
そう思った矢先に背後にひゅーっと音がした、慌てて振り返るとドーンと大きな音が立ち花火が打ちあがる。
直ぐそこで打ち揚げているのかそれは今にも僕達に降りかかってきそうなほど近くで迫力が有った。
こんな、綺麗な花火は今まで見たことが無い。
その後、藪から一斉に皆がにょきっと生えてきた、一瞬たじろいだが、その後の言葉に僕は呆気に取られた後。
破顔してしまうことになる。
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【千星 那由多】
空に高らかに花火が打ちあがった。
こんな夜更けに季節外れの打ち上げ花火…一瞬その光景にたじろいでしまったが、あれがイデアの合図なのだと気づいた俺達は茂みから全員顔を出した。
「た、誕生日おめでとうございます!」
全員が同じ言葉を言っていたが、揃っていない声が辺りに響く。
遠くで、花火に驚いたのか、キャンプ場の生徒や教師達がざわついている声が聞こえた。
そう、6月8日は会長の誕生日。
多分日付も変わった頃合いだろう。
イデアの花火は派手にやりすぎだと思うが、絶対に他の生徒に何のための花火なのかバレることはないと思う。
会長は数度瞬いた後優しい笑顔を俺達に向ける。
こんな夜中に派手なことをして怒られてしまうのではないかと思ったが、どうやら大丈夫なようだ。
俺達は茂みから出ると会長に近づいて行き、一人一人プレゼントを手渡す。
「今日、会長の誕生日だって三木さんに聞いて…内緒で進めてました、驚かしてすいません。
これ、ほんっとーにつまらないモノなんですけど、俺からの誕生日プレゼントです…」
俺はチョコでコーティングされた棒状のお菓子が詰まったドデカイ袋を手渡した。
正直学生で小遣い生活の俺にはこんなものしかあげれなかった。
喜んで貰えるかわからなかったが、甘い物なら大丈夫だろうか。
その後副会長が有名店のマカロンを大きな箱で手渡す。
透明なケースから覗いた色とりどりのマカロンには、九鬼の顔が印刷されていた。
見た目はどうであれ、かなりお高く手に入れるのも難しいらしいそれは、明らかに俺との格差を見せつけられているようで少し落ち込んでしまった。
いや、いいんだ……別に…。
マフィアの息子に勝てるなんて思ってないし…。
どうせ俺は庶民だよ…庶民…。
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【神功 左千夫】
24時を超えた今、今日は6月8日、17歳の僕の誕生日だ。
勿論忘れていたわけでは無い。
近々神功財閥でも僕の誕生日会が有るから帰ってくるようにと父の執事から言われていた。
ただ、そんなに気に留めることでも無かった。
まさかのメンバーからのサプライズに僕は自然と笑みを浮かべてしまった。
那由多君からのチョコ菓子はいかにも彼らしくて少し笑ってしまう。
九鬼からのプレゼントは散々な見た目だが、ここのマカロンは格別に美味しいので渋々受け取った。
巽君からはお金の形をしたチョコをどっさりもらった。
晴生君からは某高級チョコメーカーの詰め合わせを。
そして、柚子由が手作りだろうケーキを持って奥に佇んでいた。
きっと、イデアと協力したのだろうが林間学校までそれを持ってくるのは大変であっただろう。
「ありがとうございます。全部、美味しく頂きますね。」
自然に漏れる笑顔を他人に惜しげもなく晒すなんていつ振りだろうか。
そう思いながら柚子由の持っているレアチーズケーキの蝋燭の火を消した。
上にブルーベリーが乗っている僕が大好物のケーキだ。
それから、木でできた机の上にケーキを置き、水筒に入った紅茶を紙コップで飲むと言った感じのアウトドアパーティが始まる。
余所余所しいパーティよりこっちの方がよっぽど性に合っている気がした。
柚子由の作ったケーキはとても美味しく半分位は僕一人で平らげてしまった。
その後は、皆がワイワイしだしたのでいつも通り傍から見守るポジションに戻る。
いつの間にかイデアが僕の横に居たので残っていたケーキを彼女へと差しだす。
「フフ、(裏)生徒会。初めは煩わしいことが多かったですが、捨てたもんじゃありませんね。」
勿論彼女に笑みは無いので僕を見上げるだけだ。
しかし、その時初めて僕は彼女にも表情が有る様に思えた。
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【千星 那由多】
会長は俺が渡したしょぼいプレゼントでも喜んで受け取ってくれた。
みんなのプレゼントを受け取ると、いつもとどこか違うやわらかい笑顔を覗かせる。
普段は壁があるような感じがあったけど、今日ばかりは受け入れてもらえた気がした。
俺も久々に楽しかった。
誰かの誕生日を大勢で祝うなんて何年ぶりだろうか。
今日は色々スタンプラリーからカレー作り…堀口先輩の件など大変なことがたくさんあったけど、こういう1日もいいかもしれない。
三木さんの作ったケーキを頬張りながらいつもと違う夜のひと時を過ごす。
場所が変わったって、みんなとこうやって笑っていられれば、そこは(裏)生徒会室のような、そんな気がした。
まぁ、そこまではよかった。
その日お開きになると、先生にバレないようにこっそりとテントへ帰り俺達は就寝する。
辺りもだいぶ寝静まった頃、物凄い辛さと熱さに見舞われた俺はもがき苦しんでいた。
とにかく喉が焼けるほどに辛く、汗が死ぬほど噴き出てくる。
一体なんなのか原因がわからない。
ただ、考えられるとしたら…夜に食べたあのスパイシーカレーだ。
遅効性のスパイスでも入っていたのだろうか。
食べてる時以上に辛い。
どこかのテントからも、ポツポツとうめき声が沸き上がっていた。
その日の夜が、愛輝凪高校で有名なホラ―話しの一つになったのは、言うまでもない。
スタンプラリーは無事終了した。…いや、無事ではない。
俺のパンツが没収されてしまったからだ。
会長が貸してくれると言ったが、またブリーフなのだろうかとちょっと心配になった。
いや、でも降って来たパンツは確か黒のボクサーパンツだったはずだ。
そんなことはどうでもいい、とりあえず気を抜いてはいけなさそうな状況になった。
こんな所まで来て任務か…とちょっと切なくなったりもしたが、もしあの内容が本当なのであれば、救えるのは多分、俺達(裏)生徒会だけだ。
スタンプラリーが終了すると、一度テントまで戻る。
時刻は15時ぐらいになっていたが、そこからすぐに飯盒炊飯の準備にとりかかった。
1年と2年の班が合同でカレーを作るらしい。
メンバーはまだわからなかったが、もうミラクルで会長や副会長と当たることはないだろう。
と思っていた。
飯盒炊飯をするための広い施設へと向かうと、俺達が使用するテーブルで待ち構えていたのは、会長と副会長のグループだった。
これもイデアの差し金なのだろうか。
いや、もうさすがに他人が関与しているから地獄のカレーバトルとかそういうのは無いだろう。
「またなゆゆと巽と一緒かーよろしくネー♪」
副会長が白いエプロン姿でイタズラに笑っていた。
カレーを作るのにめちゃくちゃ汚れそうなエプロンだ。
そう言えば副会長は辛いものが大好きなわけだが、そんな相手とカレーを作るなんてちょっと色々嫌なことが起きるかもしれない。
気を取り直して色々と準備をし始めた所で、隣の班から声がかかった。
その声の主は三木さんだった。
彼女はにわとりが胸元に描かれたピンク色のエプロンを着ていた。
エプロン姿がより一層魅力を引き立てている。
その後ろから晴生が見えた。
どうやら二人の班は隣で飯盒炊飯らしい。
「三木さん、晴生…大丈夫ですか…」
「うん、なんとか…」
困ったように笑っていたが、多分なんとかなってなさそうなのは大体見た雰囲気でわかった。
本当にあいつ俺達以外には協調性がないというかなんというか…。
お互い準備をしながらそんな話をしていると、突然副会長の声があがった。
「いーこと思いついた!!!カレー対決しない?」
「え?」
その言葉に、周りにいたみんなが副会長へと視線を向けた。
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【日当瀬 晴生】
俺の班には三木が居た、後は俺のクラスメイトと三木のクラスメイト。
もう名前も忘れちまった。
カレーは二年の班と合流らしいので、言ってみると、●●、●●、そして、ブラックオウルの薮塚莉子と後はしらねぇ奴。
と、なんとも懐かしいメンバーだった。
まぁ、千星さんが居ない時点で俺には既にやる気は無いので関係ねぇ。
薮塚の奴は雰囲気ががらっと変わって、少し大人しくなってやがる。
なんだか顔もずっと赤いし、ちらちらしかこっちを見ない。
「いーこと思いついた!!!カレー対決しない?」
そう思っていると九鬼の声が響く。
隣の班は千星さんが居る班な筈、ちらりとそちらを見ると、九鬼がこちらを見て指をさしていた。
「二班合同で!罰ゲームは……そーだナ、後片付け!ちなみにジャッジは先生に行って貰うから公平だヨ♪」
「他にいい案有ったら言ってね!」的な笑顔を両班に振りまいている。
そうしている間に千星さんと、巽、良く見たら新井、後はしらねぇ奴がこっちに押されてきて、二年が連れて行かれる。
……って、これは願ってもねぇ!!
千星さんと一緒に飯が食える。
仕方ねぇな、と、言う体を装いながら俺は頷いた。
千星さんが近くに来るなり、俺はそっちに寄って行く。
やはり、彼が居るだけで自ずとテンションも上がる訳で。
そこから、色々話し合った結果。
母が居酒屋を営んでいる天夜が主体となり、カレーを作ることになった。
そんなやつより、俺の方が絶対うまくできます!と、内心思ったが、取り合えず今は千星さんとの野菜剥きが出来ることの喜びに酔い痴れた。
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【千星 那由多】
副会長のせいで、なぜか1年VS2年でカレー対決になってしまった。
別に俺はそれはそれでもかまわなかったが、ただひとつ、会長の笑みがいつも以上に冷ややかで怖かった。
多分周りの普通の生徒は気づいていないだろう。
巽は昔から居酒屋の手伝いをやっていたせいか、料理がうまい。
カレーは食べたことはないけど、あのかーちゃんの息子となると、多分かなりいい線をいっているのではないだろうか。
巽がテキパキと指示を出していき、渡されたジャガイモの皮むきを晴生と共に頼まれた。
なにせ人数が増えるため量が多い。
そして、俺はもちろん、皮むきなんてできるわけがなかった。
きゅうりぐらいなら切れるんだけど…。
包丁とジャガイモを見つめる。
隣で晴生はするすると皮を繋げたままで器用に剥いていっていた。
負けてはいられないと、包丁をザクっとじゃがいもに突き刺しゆっくりゆっくりと皮を剥いていく。
なぜ巽は、包丁を俺に渡したのか…。
近距離でジャガイモと刃を見つめ、指を切らないように注意して皮を剥いていると、誰かに肩を叩かれた。
晴生か巽か?と思い後ろを振り向くと、そこには会長達と同じ班だった二年生の先輩がいた。
「神功君、ボ、ボクの…ピーラー…使う?」
少し小太りのその先輩は、おどおどと俺に話しかけてきたようだったが、呼んでいる名前が明らかに違う。
神功…?会長かのことか?
急に話しかけられたのと、どう反応していいかわからずに軽くテンパっていると、二年生のチームから再び声がかかった。
「堀口君、もしかして僕と間違えてる?」
そう言って振り向いた先には、俺と同じような髪色で天然パーマの先輩がいた。
ということは、彼が神功…?会長と同じ名前だ。同性なのか?
訳がわからずにその先輩をよくよく見てみると、少し俺と似てるかもしれない。
自分ではあまりわからないが。
堀口という先輩はその言葉に俺と神功先輩を交互に見つめた
「えっ!?あ!うわ!ご、ごめん!すごい似てたから…ほんとごめん…っ!!」
そう言った堀口先輩は顔を真っ赤にして俺にも神功先輩にもペコペコとお辞儀をしていた。
「いやいやそんなに謝らないでよ、言われてみたら確かに似てるかもね。
君、名前は?僕は神功十輝央。
左千夫と知り合いなら、なんとなくわかるかもしれないけど、一応左千夫とは義理の兄弟みたいな感じ」
「せ…千星那由多です…」
差し出された握手を包丁を机に置いてから軽く握った。
会長と義理の兄弟だということは、この人は神功家の本当の息子…とかなのだろうか。
顔が似ていると言えど、明らかに俺と人種が違うんだろうなと、少し戸惑ったような笑みを浮かべた。
「あ、その困ったような顔、似てるかも!ね、左千夫、似てるー?」
ふわりと笑った後に半ば無理矢理に肩を掴まれ並ぶと、会長へと問いかけた。
初対面でなくてもこの近距離はかなり苦手なので、引き攣った笑みを浮かべ会長へと視線を送った。
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【神功 左千夫】
神功十輝央、十輝央兄さんが僕を呼んでいる。
僕はこの時調度米を炊いていた。
二年は、結局九鬼の意見が押し通されスパイシーなカレー、僕が最も嫌いとするカレーになった。
なぜだか分からないが、九鬼は専門的なスパイスまで持ってきた居た。
平等なようにと一年の班にも貸し出していたがあれを中々使いこなせるものは居ないだろう。
僕は、甘口が好きだ、なんとかの王子様ぐらいお子様向けでもいいくらいだ。
しかし、作られたカレーは食べなければならない。
酷く憂鬱だった。
勿論、表情には出ていなかっただろうが。
十輝央兄さんの方を向くとなぜか那由多君と並んでいた。
嗚呼。確かに似ている。
と、言うか見た目だけならそっくりな部類だ。
多少表情の変化や育った環境が出ているが形成されているパーツは一緒なのではないかと思うくらい似ている。
僕が那由多君を書記に即決した理由はここにも有ったのかもしれない。
「なるほど…。確かに似てますね。
内面が全く違うので気付きませんでした。」
マジマジと二人を見ていると野次馬が集まる、と、言っても、晴生君、巽君、九鬼、位だが。
「全然似てないよ。那由多のほうが…」や、「こんな奴と千星さんを一緒にすんな!」と、色々な声が飛ぶが九鬼は僕に賛同してくれているようだ。
そもそも、巽君と、晴生君は那由多君の内面を重視しているので那由多君は那由多君なのだろう。
彼らにとって千星那由多は唯一無二の存在なのだろう。
「そっか、じゃあ、似てないのかもね。」
十輝央兄さんが気を使ったのか、そう言ってその場は収まった。
そして、彼は自分のピーラーを那由多君に渡す様に告げてから、また持ち場に戻って行った。
はっきり言って、後姿だけなら見分けがつかない位似ていた。
そうこうしているうちに、米が炊け、僕たちは両班ともカレーが仕上がった。
真ん中にライスを盛り、右側に一年のルーを左側に二年のルーを流し込む。
なんだか、二年のルーは色からして凶悪に見えた、これを本当に食べないといけないと思うと僕は心底ナイーブになった。
最後に一つ多めに作った先生の分で、僕たちの班はカレーもご飯も綺麗に無くなった。
それをもった九鬼が先生の方へと走って行く背中を恨めしそうに僕は見つめるしたか無かった。
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【九鬼】
とっきー、こと神功十輝央が誰かに似ていると思っていたら、それはなゆゆだった。
雰囲気はまったく違うんだけど、あまり知らない人が彼らを見たら見間違うぐらいには似てる。
正直ボクもそう言われてから意識してしまうと、とっきーがなゆゆに見えてきてしまった。
そんなやり取りを終えると、1年と2年のカレー作りはほぼ同時に終了した。
スパイシーカレーで押し切っただけはあるぐらいのおいしさになっているだろう。
実の所、これを左千夫クンに食べさせたいがために作りたかっただけなんだけど。
ボクたちの担任の先生は心良く食べるのを承諾してくれた。
みんなの目の前で食して感想を言ってもらう。
「…1年のカレーうまいな!なんだか物凄く懐かしい味がして、昔大好きだったカレー屋の味を思い出したよ」
その言葉に1年組が沸いた。
確かに巽主導のカレーはとてもおいしそうだった。
庶民的で普通のカレーなんだけど、先生ぐらいの年齢にはウケそうな感じだ。
だけど、負けるつもりはない。
ボクらが作ったカレーを先生が口にする。
「………ッ!!!!!」
先生は1口食べた後、すぐに水を一気に飲み干した。
額から汗が流れでて悶絶している。
ここまではボクの想像通りだ。
だけど、ここからだ。
先生の手はそれから止まらない、食べては水、食べては水、を繰り返している。
その光景に辺りは静まり返った。
全て間食しきった後で一息ついて先生は感想を述べた。
「……なんだ…これは!!!!
世界中の辛さと辛さがぶつかりあい…それでも相殺されないこの辛さ!!!
だが手が止まらない!!美味すぎる…!!!こんな美味いカレー先生食べたことないぞ!!!」
その言葉に辺りが更に静まり返る。
ボクだけニコニコと微笑んで左千夫クンの方へと視線を送ったが、彼は目を合わせようともしない。
「……これは…二年の勝ちだな…1年もおいしかったんだがな……このカレーには負ける…」
汗を拭きながら先生はボク達2年生が作ったカレーを勝ちとした。
そんな感じでカレー対決の結果は出たけど、ボクはこれからが一番の楽しみだった。
どちらのカレーもあるわけだが、もちろんスパイシーカレーもみんな食べなければならない。
あの辛い物が大嫌いな左千夫クンもだ。
ボクはわざわざ彼にカレーをついであげた。
ちなみにちょっとスパイシーカレーのルーを多くしてやった。
「はい、左千夫クン」
みんなの前で無理矢理手渡せば、優等生の彼は投げつけたり落としたりなどはしないだろう。
ボクはイタズラな笑みを彼に送り続けた。
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【神功 左千夫】
先生の様子を見ているだけで僕は吐き気を催した。
二年が勝ったようだが、もう、そんなことどうだっていい。
これから、あれを食べるのかと思うと既に汗が噴き出している。
顔以外、だが。
九鬼からカレーの皿を貰った。
なんだか、スパイシーカレーの量が多いことに抗議したくなったが、そんなこと優等生の僕が許さない。
「ありがとう……ございます。」
ゴクリと喉が上下する。
いかにもからそうなカレーだ、これを今からうまいと言いながら食べなければならないのか…。
どの任務よりも僕にとっては酷だ。
取り合えず、余り賑わっている席には座りたくなかったので隅っこの席を探す様に視線を彷徨わせた。
調度堀口君が一人で座っているのが見えた。
「堀口君、ご一緒していい――――堀口君?」
良く見ると彼は真っ青な表情でスプーンを握り締めていた。
そして、地面には無残にもカレーがぶちまけられていた。
彼の視線の先を追うといかにもやんちゃそうなグループが談笑していた。
彼らに落とされたのだろうか…?
堀口君が僕の存在に気づいた様子で、はっとしてこちらを見上げた。
「あ…あ、ご、ごめんなさい、ボ、ボク…聞いてなくて…カ、カレーも落としちゃった…し。」
確かカレーは調度人数分しか無かった。
もう、彼の落とした分を補える予備は無いだろう、そして、今が絶好のチャンスだ。
ちらりと九鬼を見やると、調度、薮塚梨子と話をしていた今がチャンスだ、僕は自分で陰を作りながらスッと、堀口清の前にカレーを差し出す。
「どうぞ、食べて下さい。」
勿論彼は慌ててそれを返してこようとするここからが腕の見せ所だ。
僕は中腰になって彼の耳元に唇を寄せ、ヒソヒソと会話をし始める。
「実は僕、カレーがとても苦手でして…特に辛いカレーが…。
しかし、僕のポリシーとして人様に作っていただいたものを残すわけにはいかないので…」
どうやら、優等生である、僕が弱みを見せている姿に彼はぐらっときているようだ、後一歩と思い僕は一番いい笑みを浮かべた。
「君が食べてくれるなら、僕も助かるんです。
くれぐれも皆には秘密でお願いしますね…?」
にっこりと笑んだ僕になぜか顔を赤らめながら彼は頷いた。
これで、カレーを食べなくて済む。
一食位抜いたって僕は何の問題も無い。
さて、後片付けは一年がやってくれる手筈になってますし、僕は先にテントに戻って風呂の準備でもしましょうか。
一年と二年がカレーで騒いでいる間にばれないようにそっと抜ける。
イデアのメモの件も気になったので、それについてももう少し洗ってみることにした。
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【千星 那由多】
結局1年組は負けてしまったが、巽のカレーは文句なしにうまかった。
ただ、それ以上に二年組のカレーは凄まじかった。
辛い、ただただ、辛い。
だけど本当に食べる勢いが止まらない。
俺の班と晴生達の班のメンバー達はほぼ全員が、がっつくようにカレーを食べていた。
多分他の生徒から見たら異様な光景だろう。
ただ、会長がこれを完食したのかは謎だった。
1年だけで食事の後片付けが終わると、日もすっかり暮れていた。
晴生と三木さんと再び別れてから、俺達は風呂の準備をするためにテントへと戻った。
準備をしていると、そう言えばパンツが返ってこなかったことに気づく。
会長が貸してくれると言っていたが、忘れているだろうか。
二年のテントにまで取りに行くのも申し訳ないので、明日も今日のパンツを履くか…とそんな決意を固めた所で、目の前の薮から会長がいきなり姿を現した。
「うわ!!!」
急に沸き出てきた会長に驚き、俺は思わず声をあげてしまう。
会長はそんな俺を見て微笑みながら、何かを手渡した。
それは黒いボクサーパンツだった。
どうやら貸すと言ったことは覚えてくれていたみたいだ。
そして、渡されたパンツがブリーフじゃなかったことに俺はほっと胸を撫で下ろした。
「あ、ありがとうございます…」
おずおずと手を差出し、それを受け取ると、会長は周りの誰にも聞かれない程度に小さく呟いた。
「昼間の件ですが、僕と同じ班だった堀口清志君を要チェックしておいてください」
そう言うとまた薮の中へと消えて行った。
会長と同じ班の堀口清志…、多分俺と神功十輝央先輩を間違った人だ。
あの人があの文章を投函したかもしれないということだろうか。
とにかくこの事をきちんと巽にも伝えておこう。
俺は、綺麗に畳まれたボクサーパンツをポケットの中へと仕舞い込み、巽のいるテントへと戻った。
-----------------------------------------------------------------------
【堀口清志】
僕は昔からずっといじめられてきた。
小さい頃から体型のことやどんくさいこと勉強ができないこと、…色んなことで周りにケチをつけられてきた。
そんなのも成長すればきっと変わっいくのだろうと思ってずっとずっとこの17年間耐えて生きてきた。
でもそれは変わることはなかった。
僕は頑張って勉強して入った愛輝凪高校でもずっといじめられている。
もちろんその事に先生は気づいていないし、周りの人たちだって興味はない。
こんな人生に少し飽きてしまうぐらい、僕にとっていじめられることは当たり前のことだった。
「堀口くーん」
そう言って名前を呼ぶのは大体いじめてくる奴等だ。
この林間学校でも人目がつかない場所で、何度も暴行や酷い行為をされた。
僕が返事をしないでいると、一人の男子が腹を殴る。
もちろんこいつの名前なんて知らない、知りたくもない。
「な、お前神功家の二人とテントおんなじなんだって?すげー偶然だよなーレアじゃね?」
「……」
「あいつら金持ってるだろ、ちょっと貰ってきてくんないかなー」
神功左千夫君と神功十輝央君はとても優しかった。
そんな二人とこんな僕が同じ班だなんて、嬉しかったけど嫌だった。
こういうことが起きると思っていたからだ。
いつもなら言われた通りにやってしまうんだけど、この時ばかりは返事をしたくなかった。
「聞いてんの?なあ?」
男子は返事をしない僕の髪を掴んで、近くの水たまりへと身体ごと放り投げる。
ジャージが泥水で汚れたが、僕は立ち上がらなかった。
「チッ…うぜえ……じゃあさ、スタンプラリーのC地点で俺彼女に貰った指輪忘れてきたんだよねー。
それ取って来てくんない?暗くて行くの怖くってさー」
周りの男子たちがドッと笑った。
意味がわからない。でも、これもいつもの事だ。
別の男子が泥水に遣っている僕の横顔に蹴りを入れる。
そのまま手を付く様に上半身も倒れ込むと、何かをかけられた。
生ぬるいそれは小便だった。
「うわっなにやってんの!くせーのが余計臭くなるじゃん」
全員が笑いながら、数人同じ行動をする。
どうせ、お風呂に入るからいい。ジャージの着替えも持って来てる。
「じゃ、頼んだから。5秒数える間に行けよ、いーち、にー」
数字を数えだしたので立ち上がった。
これも染みついてしまった本能的なものだった。
抵抗なんてしない、無駄だから。
彼らの指示にただ従うだけ。
小さくなっていく笑い声を背中に感じながら、僕は真っ暗な森の中へと消えていった。
ああ、こんな終わった人生、つまらない。
やっぱりもう、死んでしまおうか。
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【天夜 巽】
俺のカレーが負けて一年が後片付けになってしまった。
でも、確かにクッキーさんのカレーは誰も真似できないような本格的なもので俺の腕もまだまだだと思った位美味しかった。
二年が終わったので、俺達一年に風呂の番が回ってきた。
それも問題なく終わって、辺りも気にしてるけど特に目立ったことは無い。
そう思った矢先、神功十輝央さんが僕たちの元に走ってきた。
「あ。千星くーん!あ、天夜君も…。堀口君見なかった?お風呂の前位から見かけなくてさ…。もう直ぐ消灯だから気になっちゃって…」
彼とは食事の時間色々話したのでその時に全員自己紹介している。
僕の名前を覚えてくれていたことに笑みが浮かんだ。
「いえ。僕たちはあれから見てませんけど…。」
「おかしいな…山の中に入っていったような影を見たって子が居るんだけど…、何か探しものかな…、ありがとう、僕もう少し探してみるね。」
その言葉を聞いた瞬間、僕は後ろに居た那由多に視線を合わせた。
那由多も何か感づいた様で深く頷いていた。
調度風呂上がりの日当瀬が居たので事情を説明し、一緒に来てもらう。
「メールは打っといたが、会長は今、連絡がつかねぇ…。
取り合えず、俺達だけで探しましょうか。」
俺と那由多と日当瀬は山の中へと入ることにした、点呼を取ってから先生の目を盗んで山の中に入る。
日当瀬が人数分の懐中電灯を持ってきてくれたがそれにしたって暗い。
「解除…。」
日当瀬が携帯を展開させる。
そうして、直ぐにブレスレットへと形態を変えた。
彼は特殊能力で堀口先輩の居場所を探そうと試みるようだ。
その時に電話が掛ってきた様子で舌打ちをしてから、自分の目の前にディスプレイのようなものを作りあげた。
本当に日当瀬はイデアアプリを使いこなしている、俺はまだ、あそこまで行かない。
『遅くなりました。目安箱の紙が彼のものかは分かりませんが、堀口君はいじめられている。それは間違いなさそうです。
今は彼はスタンプラリーのC地点に向かっている…。彼をいじめている者たちの証言によれば…ですが。』
スピーカのようにディスプレイから会長の声が響いた。
会長が語尾を濁したのはもし、自殺をしに向かっているのならどこにいるか分からないと言うことだろう。
「取り合えず、C地点に向かおう?やみくもに探すよりもマシかもしれない。」
俺がこういうと那由多も日当瀬も頷いてくれた。
『わかりました、僕たちも直ぐ、合流しますね。』
それだけ告げると会長は携帯の電源を切ったようだ。
俺も那由多も携帯を取り出すと展開させて行った。
山の中は本当に真っ暗で、ひんやりとして寒い。
自分の直ぐ前になにが有るかも分からない位だ。今日は不運なことに雲が多く月も顔を出したり隠したりしている。
きっと彼はこんな中、懐中電灯も持たず、一人で奥へと向かったんだろう。
その、孤独を考えると無意識に僕の体は震えてしまった。
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【千星 那由多】
会長に注意しておけと言われていた堀口清志がいなくなった。
俺達は携帯を解除し武器をブレスレットにしてからC地点へと向かう。
懐中電灯の灯りでさえ頼りないほどに辺りは暗かった。
一人でこんな森の中を歩いていたらどうにかなってしまいそうだ。
完全な孤独…もしあの文章の投函者が堀口先輩なら、もしかしたら最悪な結果になってしまうかもしれない。
死にたいと本気で思うことは、どういう感覚なんだろうか。
ずっとずっと助けを求めて、彼はこんな風に心の暗闇をずっと彷徨ってきていたんだろうか。
冷える身体をぎゅっと抱えながら道を進んで行く。
すると、先頭に立っていた晴生が急に立ち止まった。
「…いる……」
その言葉に一瞬お化けでも出たのかと冷やっとしたが、堀口清志のことだろう。
俺は辺りを懐中電灯で照らして見渡すが、人影のようなものは見当たらない。
「上…」
晴生がそう口にした方向へと懐中電灯を三人で向ける。
そこには絶壁があり、その上に人影がチラリと光に照らされた。
それはぼんやりとした表情の堀口清志だった。
「…堀口先輩!!」
名前を呼んで懐中電灯で顔も照らしたけれど、まったく俺達には気づいていないといった感じだった。
ふらふらとした足取りはどんどん崖の方向へと近づいている。
真下は小さな池だ。
落ちてしまったら助けることもできるかもしれないが、この絶壁の高さを考えると一溜まりも無い気がする。
走り出して止めに行こうかとも思ったが、上に回っている暇なんてもちろんない。
すると晴生が空気砲を堀口先輩の足元へと撃ち込んだ。
足元の崖が下へと崩れ落ち、池へとパラパラ、と音を立てて落ちる。
その音で堀口先輩は我に返ったのか、その場に立ち止まったのが見えた。
とりあえずは大丈夫かもしれない。
急いで崖上へ回ろうと動き始めた時、誰かの声が響いた。
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【日当瀬 晴生】
特殊能力のお陰で俺は暗闇でも余り苦労しないようだ。
全神経を集中させながら歩いて行く。
獣の気配、木が揺れる音、虫が鳴く声、風が吹き抜ける感覚、川の流れ、全てが自然と調和する音を発しているのに一つだけ異音が聞こえる。
人が地面を踏みつける音だ。
「…いる……上…」
少し遠いながらターゲットを発見出来た。
しかし、奴は今にもそこから谷底へと飛び降りそうなくらい意識が確りしていない。
「……っち!」
千星さんの呼びかけにも応えない様子に業を煮やし、最終手段だがブレスレットを元の形に戻し空気砲を撃ち込む。
崖が砕ける音。それがぱらぱらと水面に向かって落ちる音で彼は正気に戻ったようだ。
その後はその場に立ち止まったのできっと死にたい欲より恐怖が勝ってしまったんだろう。
俺達が上に上がろうとしたその時だった透き通った声が響き渡る。
「堀口くーん!!…あ!堀口君!」
「く、来るなぁぁぁぁ―――!!!」
マズイ、また堀口の奴がテンパッたようだ。
どうやら、彼の名を呼んだのは神功十輝央、会長の義理の兄だった。
一番良くない展開だ、今急いで上がっても逆効果か…
それならここで落ちるのを待ち受ける作戦を練った方がいいか。
そうこうしているうちに俺の携帯の発信器を辿って会長と副会長が訪れた。
崖の上の二人を見た瞬間、瞬時に場を把握したようだった。
「状況は思わしくないようですね……。十輝央兄さんが居ては迂闊に近づけませんし…
少し様子を見ましょう。最悪は九鬼に一緒にダイブしてもらいます。」
そう言って彼は副会長を見て、いつもの通り笑ったが想像以上に冷ややかな笑いで俺すら背筋が凍った。
当の九鬼は、ボクと言うかのように自分を指差していたが会長の笑みのせいかそれ以上なにも言わなかった。
いったい何が有ったのか分からねぇが…、取り合えず、九鬼が会長に余計なことをしたっつーことだろう。
「どうして、どうして…ボ、ボクと同じ班なんかになったんだよ!」
声を荒げる堀口の内容は完全なやつあたりだった。
ここに来るまでに川に嵌ったり、こけたりと散々だったのであろう、全身びしょぬれで、生傷も多い。
「…どうしたの堀口君。ごめん、そんなに僕と一緒の班が嫌なら、先生に言ってかえて貰うから、取り合えず帰ろう?
そんな姿じゃ風邪ひいちゃうよ?」
「だ、誰も!!ボクと組みたいわけないだろ…!!もう、ボクはここで死ぬんだ!…構わないでくれ!!」
神功兄の声も虚しく一方通行に響くだけだ。
じりじりと背後の崖へと向かって足を進めて行っている。
しかし、矢張り神功財閥の息子だけある、彼はおどおどしながら堀口を刺激しない範囲でゆっくりと距離を詰めていた。
「堀口君。なにがあったの?僕が力に慣れることならなるから、死ぬなんて言わないで?」
「じ、神功君には分からないよ!!金持ちの息子の神功君にはボクの気持ちなんて絶対わからない――――!!」
なんて自分勝手なやつだ。
こんな奴の気持ちなんて分かりたくも無い。
俺はその時それで頭がいっぱいだった。
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【堀口清志】
そう、僕のことなんて神功君には絶対にわからないんだ。
生きてきた人生がまったく違う。
彼は、お金持ちの家に生まれて、みんなに愛されて、親しまれて…僕とはまったく真逆の人生を送ってきている。
神功君を見ながら崖の方へと後ずさって行く。
このまま正面をみないで落ちれば、怖くもないだろう。
僕はここで死ぬ。
死ぬ。
死ぬんだ!!!!
「そうだね、結局人の気持ちなんてわからないかもしれない」
神功君の声はやわらかかった。
そのままのトーンで彼は言葉を続けていく。
「だから僕は君と同じクラスになって、同じ班になっても、君が何をされて苦しんでいるかってことにもまったく気づかなかったんだ。
だけどね、僕の気持ちも君にはわからないだろう?
周りの友達はみんな笑った仮面をつけて寄ってくるだけ…本当の友達なんて周りには一人もいない。
僕はただの『神功家の息子』でしかない。
…この言葉を今言わなければ、そんなことも君はきっと気づかないままだったね。
だから、もう少し話をしよう。いや、僕は君と話がしたい。
もしかしたら、友達になれるかもしれないから…その可能性をここで失ってしまうのは僕は悲しいよ」
「……友達になんて…なれるわけないだろ!!」
「そうかもね、なれなかったらどうしよっか、親友にでもなる?」
「……!!」
何を言ってるんだ、神功君は。
こんな僕が君と対等に話ができるわけがない、友達になんて、親友になんて…。
「傷つけ方なんていっぱいあるんだよ、それがどれだけ辛いかなんてのも、傷つけられた人にしかわからない。
だから、君の傷を僕に教えてよ、一緒に話をしよう」
「……」
僕は気づいたらその場に泣き崩れていた。
そうだ、結局僕は周りが助けてくれるのを待っていた。自分から助けを求めることもせずに。
周りを恨んで、呪って、変わってくれるのを待っていた。
僕自信が変わらなければいけなかったのに。
神功君が僕の側へと近づいてきて手を差し伸べる。
「寒いから、帰ろう。
幸い僕たちは同じテントだね、今までの出来事を話する時間は今夜だけじゃ足りないかな?」
差し出されたては冷え切っていたが、彼の言葉で僕の心はとても温かかった。
今まで堪えていたものを吐きだす様に大声で泣いた。泣きじゃくった。
僕は、死ななくていいんだ。
生きていて、いいんだ。
-----------------------------------------------------------------------
【神功 左千夫】
堀口清志の泣き崩れる様子がここからでも分かった。
どうやらうまく十輝央兄さんが説得したようだ。
本当に親子揃って情が深いと言うか、要らないものを拾いやすいと言うか。
「僕には無駄にしか思えませんがね…」
小さく呟きを落としてから九鬼を見た。
彼も十輝央兄さんのように特殊な環境で育っただろう、少しは兄さんの言葉に共感が持てるかもしれない。
それよりも九鬼はどうやら谷底に飛び込まなくて良くなったことに喜びを感じているようで、いつもにも増してニコニコしていた。
彼に同情を求める方が間違っていたのかもしれない。
取り合えずこの件は(裏)生徒会が関与しなくてもどうにかなりそうだ。
あの投稿が彼かどうかは帰ってからイデアに筆跡鑑定をお願いしよう。
「さて、戻りましょう。後は彼に任せて置けば問題ないでしょう。
ああ見えても、神功財閥の御曹司です、その辺の輩とは出来が違います。」
皆にそう声を掛けて僕は踵を返す。
僕たちの不在を先生に気付かれないように僕の幻術ではぐらかすのももう限界だろう。
先程は不良に幻術を掛けて場所を聞き出しただけだったが、
神功十輝央が絡んできたら不良たちにもお仕置きをしておかなくてはならないな、と思いその内容を考える。
きっと今までにない位僕の笑みをたのしそうだっただろう。
しかし、その楽しみは無残にも打ち砕かれることになった。
-----------------------------------------------------------------------
【九鬼】
神功十輝央。
ボクは前から彼の事を知ってはいたけど、とんだ優男だな。
それが神功財閥らしさと言えばそうなのかもしれないが。
ただ、少しだけ、彼の生き方には共感できる部分がある。
友達、親友…ボクには今までそんなものがいなかった。
きっと彼もそうな人生を送ってきたんだろう。
少し気になることがあったので、帰る左千夫クン達にはついていかずに、楽しそうな道程を辿る堀口とトッキーの後をつけていった。
案の定それは正解だった。
キャンプ場が見えてきたぐらいだろうか、調度そこにトイレで堀口をいじめていた奴等が待ち構えていた。
まぁまたゾロゾロと汚い顔が並ぶこと。
「あれ?堀口くーん、なんで神功君と一緒にいるわけ?」
にたにたと笑う男子が堀口とトッキーの前へと立ちはだかる。
「…なに?君達。もう僕たち帰りたいんだけど、どいてくれないかな?」
そう告げながら彼らの横を通り抜けようとした時、後ろを歩いていた堀口が足をひっかけられた。
本当にどんくさいな、と思いながら彼らの様子を木の影からうかがう。
「だっせ、こけてやんの!つーか堀口ぃ、言ってたもん取ってきてくれたわけ?」
「………とって……きてない…」
「はぁ!?マジで!?最悪なんですけど!!」
堀口はただただ震えていたが、あのトイレの時と違うのは、彼らに反論していたことだろう。
トッキーは彼を起こすと、真っ直ぐな目で男子たちを見つめた。
「もしかして君達があんな所へ堀口君を一人で行かせたのか?感心しないな」
「あ?ぼっちゃんにはかんけーねーだろ?俺達の問題なんだよ、無駄な正義感出さないでくれる?」
「おい、やめとけって、神功に関わったら…」
数人の男子はどうやらトッキーがいることに恐怖を感じているようだ。
確かにトッキーに手を出せば、神功財閥は黙っていないだろう。
親の財力で喧嘩を仕掛けてきた奴の人生を狂わせるぐらいにはできてしまうはずだ。
まぁ、そんな惨い事をトッキーの親父がするかはわからないけれど。
「ちょーどいいわ、神功、金置いてってよ、そしたら堀口君見逃してやっからさ~」
そんなことを言う男子に何も言わずにただ神功は見つめているだけだった。
小さくため息をつき、男子から目を離しポケットの中へと手を入れた。
その瞬間、奥で見ていた一人の男子がトッキーに少し大きめの石を投げつける。
一瞬避けるような仕草を見せたが、堀口に当たると思ったのだろうか、彼は避けずにそのまま背中へと石をくらった。
ぐらっと重心が前に傾いたが、彼は何も言わない。
「神功君!」
「大丈夫だよ、お金渡したらいこっか」
その言葉に男子たちは徐々に動き始めた。
「やっぱりお金持ちは金で解決ですかー?いやー違うねー頼もしいねー。
…それがまた…うざいんだよ!!!」
そう言うと太い木の棒で更に殴りかかろうとする行動を見せる。
ボクは大きくため息をつくと、トッキーと男子生徒の間に割り込むように舞い込んだ。
地面に着地した衝撃で落ち葉が辺りに舞い、そこに見え隠れするボクの姿を見た他の生徒は驚いたように目を瞠った。
その瞬間を狙って腹に一撃おみまいすると、白目をむいて木の棒を掲げていた男子はその場に倒れ込む。
「あ、ちょっと力入れ過ぎた」
「てめえ…!なんだ!!」
「ただの通りすがりだヨ~」
そう言って手をひらひらさせたと同時にその男子の目元へと指を突き出す。
指先が眼球ギリギリの所でとまり、少しでも彼が動けば突き刺さることになるだろう。
その光景に辺りが静まり返る。
「じゃんけんで絶対に勝つ方法知ってる?後出しするんだヨ。
だから、先に手を出しちゃった君の負け」
口角を高めにあげそのままにーっと笑顔を向けた。
このまま眼球を突き刺してしまってもよかったんだけど、さすがに左千夫クンにバレたら怒られてしまいそうなのでやめておく。
「次、先に出したら、抉るから」
笑顔をふっと無くすと、目の前の男子が恐怖で顔が引き攣っていくのがわかった。
小さな恐怖の声が周りであがり始めると同時に、二本の指をグーに戻すと、そのまま眉間へと一突きする。
男子は後ろへと倒れ込むと周りにいた男子生徒も散るように走り去って行った。
こういうのは性にあってない。
口先を尖らしながらため息をつくと、ボクを驚いた表情で見つめるトッキーたちへと視線を戻した。
「ちょっとそこの茂みで女の子と気持ちいいことしてたらサ~君達が見えちゃって。
邪魔された腹いせにやっちゃったけど悪かったかナ?」
首をふるふると横に振るトッキー達を見てイタズラに笑うと、テントの方へと歩み出す。
後ろの方で堀口の「ありがとう」という小さな声が聞こえたが、ボクは聞こえないフリをしてその場を去って行った。
ちゃんとありがとうが言えるなら、もう大丈夫か。
-----------------------------------------------------------------------
【神功 左千夫】
その後色々と偽造工作をしてから不良達の元に向かうと既に九鬼が手を出していた。
あれで十分なお仕置きになっただろうと渋々手を引くことにした。
沼の主に無残に食い殺される幻術を掛けるつもりだったんですがねぇ…。
それよりも自分の義兄で有る。
きっと財布ごと差しだすつもりだったのだろう。
人が良いにもほどが有る。
そんなことを思っているとイデアからからメールが入った。
『A地点で待つ。
24時前に来るように。』
彼女らしい淡泊な内容だった。
矢張り、彼女はこの合宿に来ていたようだ。
那由多君へのメッセージを読んだ時からなんとなく感づいては居たが。
まだ、少し時間が有ったので堀口君の筆跡が分かるものを拝借してから時間少し前にスタンプラリーのA地点に向かった。
面倒だったので懐中電灯も持って来なかった。
見事に真っ暗な中を進んでいく。
夜目になってしまえばこれくらいは特に問題ない。
が…。少し気になる噂が有ったので自然と体が萎縮する。
その瞬間僕の目の前に真っ白な髪をした何かがにゅっと姿を現した。
「―――――――――――――――っぅ!!!」
思いっきりその顔面向かって殴りかかるとうまくかわされてしまった。
なんて素早い幽霊なんだ。
どうにかして僕の前から姿を消して貰わないと、と、携帯を懐から取り出した時に声が掛る。
「わわわわ!!ボクだよ、左千夫クン!」
聞き覚えのある声がするので良く見てみると、そこには顔をライトで照らしている九鬼が居た。
いかにも下からライトアップしているその、嫌がらせに一発蹴りを喰らわせておく。
「どうしてこんなところに居るんですか?
僕はイデアから呼ばれてきたのですが…。
もしかして、全員呼び出しが掛っていたのですか?」
-----------------------------------------------------------------------
【九鬼】
危うく左千夫クンに殺されかけるところだった。
だけどいいものを見てしまったことに、僕は静かに口角をあげた。
どうやら彼はお化けが苦手みたいだ。
自分は幻術を使えばお化けと同じような存在になれるくせして…なんとも矛盾している。
蹴りを入れられた部分を撫でながら、彼の質問に答える。
「ん?そーだネ、どうなんだろうネ~。
それより今ボク達こんな暗闇で二人きりだヨ?なんか…いつもと違った一面を見せてくれたりとかナイの?」
彼に歩み寄って、顎をぐっと持ち上げた。
じとっとした目で汚らわしいものを見るかのように見つめてくる。
この目がまたたまらない。
一人で身体を震わせていると、茂みの中から声が上がった。
「汚らわしいです!!!」
それはゆずずだった。
まだ彼女は登場の時間ではない。
ボクが隠れて隠れてと手を上下に動かした所でハッとした彼女は再び茂みの中へと入っていった。
「……どういうことですか…」
ボクの手を薙ぎ払うようにすると、ゆずずが出現したところへと左千夫クンが向かっていく。
あーあ…折角の計画が……ってこれはボクのせい?
-----------------------------------------------------------------------
【千星 那由多】
堀口先輩の件がひと段落してから、俺達は予てから会長に内緒で計画していたことを実行に移す。
イデアに会長へと連絡を入れてもらい、A地点へと呼び出してもらうと、会長は一人でその場所へとやってきた。
もちろん俺達は先にその場所へ来て気配を消し待ち構えている。
ただ、気配を消している俺達に気づいてしまうのが会長なので、先に副会長に気を逸らす様に出ていってもらうことになっていた。
副会長はうまく…いや、うまくないけど、なんとか気をそらしてもらっていたが、
彼の行動に居ても立ってもいられなかった三木さんが開始合図前に顔を出してしまった。
慌てて引っ込んでいたが、会長はこの不穏な空気にすぐに気づいたようだった。
そりゃ気づくか。
イデアの合図は何をするかわからなかったが、それが起こるまで俺達は姿を出す事ができない。
茂みの中で息をこらしていると、心臓が早くなっていく。
会長に今の段階でバレたら全てが台無しだ。
「どうしたの会長~今なにか出た?気のせいだよ!ゆずずなんてそこにいないよ!!」
必死で会長を押さえつけるように三木さんがいる場所へ行くのを阻止しているが、これも時間の問題だろう。
イデア…早く…!!
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【神功 左千夫】
なんだこの奇妙なはぐらかし方は、いったい何を考えている。
そして、何が行われようとしている。
顎を掴まれるのは不快だったがそれよりも真意を見たくてずっと九鬼を見据えてやる。
そうすると、柚子由の声がした。
今まで、九鬼に気を取られていたがよくよく辺りに気を配るとちょこちょこ隠し切れていない気配が有る。
どういうことか柚子由に聞こうと思って彼女の声がした場所へと向かう、彼女は僕には隠し事が出来ないからだ。
そう思った矢先に背後にひゅーっと音がした、慌てて振り返るとドーンと大きな音が立ち花火が打ちあがる。
直ぐそこで打ち揚げているのかそれは今にも僕達に降りかかってきそうなほど近くで迫力が有った。
こんな、綺麗な花火は今まで見たことが無い。
その後、藪から一斉に皆がにょきっと生えてきた、一瞬たじろいだが、その後の言葉に僕は呆気に取られた後。
破顔してしまうことになる。
-----------------------------------------------------------------------
【千星 那由多】
空に高らかに花火が打ちあがった。
こんな夜更けに季節外れの打ち上げ花火…一瞬その光景にたじろいでしまったが、あれがイデアの合図なのだと気づいた俺達は茂みから全員顔を出した。
「た、誕生日おめでとうございます!」
全員が同じ言葉を言っていたが、揃っていない声が辺りに響く。
遠くで、花火に驚いたのか、キャンプ場の生徒や教師達がざわついている声が聞こえた。
そう、6月8日は会長の誕生日。
多分日付も変わった頃合いだろう。
イデアの花火は派手にやりすぎだと思うが、絶対に他の生徒に何のための花火なのかバレることはないと思う。
会長は数度瞬いた後優しい笑顔を俺達に向ける。
こんな夜中に派手なことをして怒られてしまうのではないかと思ったが、どうやら大丈夫なようだ。
俺達は茂みから出ると会長に近づいて行き、一人一人プレゼントを手渡す。
「今日、会長の誕生日だって三木さんに聞いて…内緒で進めてました、驚かしてすいません。
これ、ほんっとーにつまらないモノなんですけど、俺からの誕生日プレゼントです…」
俺はチョコでコーティングされた棒状のお菓子が詰まったドデカイ袋を手渡した。
正直学生で小遣い生活の俺にはこんなものしかあげれなかった。
喜んで貰えるかわからなかったが、甘い物なら大丈夫だろうか。
その後副会長が有名店のマカロンを大きな箱で手渡す。
透明なケースから覗いた色とりどりのマカロンには、九鬼の顔が印刷されていた。
見た目はどうであれ、かなりお高く手に入れるのも難しいらしいそれは、明らかに俺との格差を見せつけられているようで少し落ち込んでしまった。
いや、いいんだ……別に…。
マフィアの息子に勝てるなんて思ってないし…。
どうせ俺は庶民だよ…庶民…。
-----------------------------------------------------------------------
【神功 左千夫】
24時を超えた今、今日は6月8日、17歳の僕の誕生日だ。
勿論忘れていたわけでは無い。
近々神功財閥でも僕の誕生日会が有るから帰ってくるようにと父の執事から言われていた。
ただ、そんなに気に留めることでも無かった。
まさかのメンバーからのサプライズに僕は自然と笑みを浮かべてしまった。
那由多君からのチョコ菓子はいかにも彼らしくて少し笑ってしまう。
九鬼からのプレゼントは散々な見た目だが、ここのマカロンは格別に美味しいので渋々受け取った。
巽君からはお金の形をしたチョコをどっさりもらった。
晴生君からは某高級チョコメーカーの詰め合わせを。
そして、柚子由が手作りだろうケーキを持って奥に佇んでいた。
きっと、イデアと協力したのだろうが林間学校までそれを持ってくるのは大変であっただろう。
「ありがとうございます。全部、美味しく頂きますね。」
自然に漏れる笑顔を他人に惜しげもなく晒すなんていつ振りだろうか。
そう思いながら柚子由の持っているレアチーズケーキの蝋燭の火を消した。
上にブルーベリーが乗っている僕が大好物のケーキだ。
それから、木でできた机の上にケーキを置き、水筒に入った紅茶を紙コップで飲むと言った感じのアウトドアパーティが始まる。
余所余所しいパーティよりこっちの方がよっぽど性に合っている気がした。
柚子由の作ったケーキはとても美味しく半分位は僕一人で平らげてしまった。
その後は、皆がワイワイしだしたのでいつも通り傍から見守るポジションに戻る。
いつの間にかイデアが僕の横に居たので残っていたケーキを彼女へと差しだす。
「フフ、(裏)生徒会。初めは煩わしいことが多かったですが、捨てたもんじゃありませんね。」
勿論彼女に笑みは無いので僕を見上げるだけだ。
しかし、その時初めて僕は彼女にも表情が有る様に思えた。
-----------------------------------------------------------------------
【千星 那由多】
会長は俺が渡したしょぼいプレゼントでも喜んで受け取ってくれた。
みんなのプレゼントを受け取ると、いつもとどこか違うやわらかい笑顔を覗かせる。
普段は壁があるような感じがあったけど、今日ばかりは受け入れてもらえた気がした。
俺も久々に楽しかった。
誰かの誕生日を大勢で祝うなんて何年ぶりだろうか。
今日は色々スタンプラリーからカレー作り…堀口先輩の件など大変なことがたくさんあったけど、こういう1日もいいかもしれない。
三木さんの作ったケーキを頬張りながらいつもと違う夜のひと時を過ごす。
場所が変わったって、みんなとこうやって笑っていられれば、そこは(裏)生徒会室のような、そんな気がした。
まぁ、そこまではよかった。
その日お開きになると、先生にバレないようにこっそりとテントへ帰り俺達は就寝する。
辺りもだいぶ寝静まった頃、物凄い辛さと熱さに見舞われた俺はもがき苦しんでいた。
とにかく喉が焼けるほどに辛く、汗が死ぬほど噴き出てくる。
一体なんなのか原因がわからない。
ただ、考えられるとしたら…夜に食べたあのスパイシーカレーだ。
遅効性のスパイスでも入っていたのだろうか。
食べてる時以上に辛い。
どこかのテントからも、ポツポツとうめき声が沸き上がっていた。
その日の夜が、愛輝凪高校で有名なホラ―話しの一つになったのは、言うまでもない。
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クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
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ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
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