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isc(裏)生徒会

林間学校〜デス・スタンプラリー〜

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【天夜 巽】


複数の女子生徒が帰宅しないという事件は長谷川優花教育実習生の仕業だった。
あの後、彼女は警察に連れて行かれた。
もう二度と教師の道は歩めないだろう。

それからは雑用のような任務ばかりだった。
それよりも僕たちは緻密に計画を立てなければいけないことが有る。
これは会長には秘密なので余計に手間がかかることだ。 

そして今日から僕たちは林間学校が始まる。
林間学校は一、二年が合同なのでもしかしたら会長やクッキーさんに会えるかもしれない。
俺はこの林間学校が楽しみだ。
なんたって那由多と同じ班になれた。ちなみに日当瀬は別の班。
この時ばかりは自分のクジ運、那由多運の良さに飛びあがった。
バスは勿論、日当瀬、那由多、俺の順番で座っている。

班構成は違うクラスのメンバーも混じっているので残りのメンバーは到着してみないとわからないんだよな。
たのしい仲間だったら良いけど。


今日は到着次第、班メンバーの自己紹介。
テント張り、晩飯(弁当)、明日のスタンプラリーの準備、顔合わせ(一、二年合同)だ。

ちなみにこの班メンバーと、スタンプラリーのメンバーは全く別物で、スタンプラリーに関しては俺と那由多と日当瀬は一緒だ。
後は現地で二年のメンバーと落ち合うんだけど、ここもまだ知らされていない。

そんな感じだけど、久々の遠足に俺は浮足立っていた。 


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【千星 那由多】


林間学校。
というのは初めての経験だった。
中学ではそういうものが無かったし、正直あまりやる気も出ない。
その上班が巽と一緒になってしまった。
自分のクジ運の悪さを呪った。
まぁ巽が一緒なら色々やってくれるから安心っちゃ安心だけど。
せめて晴生がいないだけ少しは騒がしいのもマシか。

バスの席順は案の定三人並ぶ結果になったけど。
しかも女子三人と席がかぶったのに巽と晴生の口喧嘩が始まって譲られてしまう始末。
それもバスの中だけの話だから数時間の我慢…。
違うクラスや二年の班の奴等が誰なのかとか、晴生は班の奴等とうまくやっていけるのだろうかとか、
色々と不安な要素はあるが、まぁそれなりに楽しむことにした。 


林間学校のキャンプの土地として使われる山は他県だった。
バスで数時間走ってから晴生と行動を別にする。
晴生が去り際に巽に何か言っていたようだったが俺はさっさとテントを張る場所へと向かった。
後についてきた巽と自分たちの荷物を降ろすと、聞き覚えのある声がかかる。

「……千星」

俺の名前を呼んでいる。
少なくとも呼ぶということは多分知り合いだ。
顔をあげるとそこには――――新井がいた。


「っ…新井!!」


俺は思わず興奮して大きな声で彼の名前を呼んでしまった。
それは嬉しさからだった。

「おまえ、いつ戻ってたの!無事だったのか!!」

「那由多」

巽に制止される。そうだ、これ以上はあまり多くは語ってはいけない。
ここは公共の場だ。
俺は自分の口を押さえると、新井は小さい声で喋る。

「本当についこの間だ。
病室でほとんど寝たり起きたりの繰り返し。
筋肉痛は酷かったけどうまく手当てして貰えたから、特になんて大したことはなかったよ」

そう言って笑った新井は少しやつれていたが、あの時のようなすさんだ表情ではなかった。
俺は思わず泣きそうになってしまった。
巽が俺と新井を引っぺがす様に間に割って入ると、彼に挨拶をするように手を差し出した。
改めて、ということだろうか。
お互いまったくあの時と違って映っているんだろう。
確かに、あの時の二人を思い返すと、目の前の二人は別人のようで少しおもしろかった。

どうやら新井は俺達と一緒の班のようだ。
ひそひそと感動を分かち合っていると、もう一人1年のメンバーがやってくる。

「新井先に行くなよなー…って、巽!もしかして同じ班?」

そこに現れたのは、いかにもスポーツしてます!といった感じの浅黒い肌をした生徒だった。
どうやら巽の知り合いのようだった。
巽は顔が広い。
大体の生徒なら巽のことは知ってそうだ。 


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【天夜 巽】


新井とはブラックオウル以来の再会だった。
気になっていなかったと言えば嘘になるので彼と再会できたことは嬉しい。
会長から聞いていたけど、彼は狂気の塊からは解放されたようだった。
僕と同じように。

その後に声を掛けてきたのはサッカー部のキャプテンの玉城翼だった。

「あ。久しぶり、翼。最近どう?」

「どうじゃねぇよ!てめぇ急に抜けやがって…!!」

「あはは、ごめんごめん。色々忙しくってさ。
ほら、今日はそんな話してる暇ないよ?さっさとテントつくろ。
あ、彼は千星那由多、僕の幼馴染。」 

僕はうまくかわすと那由多にふる。
翼は体育会系のノリで那由多に話しかけに行っていた。
那由多はそういうノリが苦手なのであたふたしていた。

俺はその間に新井とテントを作りに掛る。
なんだか、こうやってると昔のことなんて無かったみたいだった。 


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【九鬼】


こういう行事にはあまりいい思い出が無い。
いや、ボクが周りにいい思い出を作らせなかった、と言った方が正しいだろうか。
色んなイタズラをやりたい放題好き放題やって、教師や生徒を困らせていたことをバスに揺られながら思い出していた。

まぁさすがにもうこの年になってそんなコトはしないけれど。多分。

隣の左千夫クンに話しかけるが、彼はまったく喋ってくれなかった。
そう、怒っている。なぜかと言うと、ボクと一緒の班になったからだ。

もちろんその班はボクがくじ引きをちょーっと能力でいじったから決まった班なんだけど。
彼は多分気づいているんだろう。
だけど、クラスで決められてしまったことには反抗しないのが優等生の彼なので、その仕返しか、ボクに小さな抵抗を送り続けていた。 


キャンプ場へ着くとすぐにテントを張る準備に入る。
相変わらず不貞腐れている左千夫クンと一緒に持ち場に着くと、もうそこには別のクラスの班の生徒が来ていた。
女子生徒だったら嬉しいなーと思っていたのに、残念、むさくるしい男子だった。
ここから見えるのは後姿だけだったが、一人は天然パーマでしゃんとした背筋に何か人は違うオーラを感じる。
もう一人は短髪、猫背で小太りのいかにも暗そうな雰囲気が醸し出されていた。
対極した雰囲気だな、と思いながら近づいていくと天然パーマの男子生徒がこちらを振り向いた。


「あ、君達が僕らと同じ班?……って、左千夫じゃないか」


ふわっと笑った彼は、どうやら左千夫クンと知り合いのようだった。
二人はボクそっちのけで話をし始める。
にしてもこの男子…誰かに似てる。どこかで会ったことあるカナ?
左千夫クンと喋る彼を見ながらじっと考え事をしていると、おどおどしている小太りの男子が視界に入った。
どうやら引っ込み思案な性格なのか、どうしようかと困っているらしい。
すごい冷や汗だ。

ボクはポケットから飴玉を取り出すと、小太りの彼に渡してニッコリと微笑んだ。

「ボク九鬼、三日間よろしくネ♪」

「あ…う…ぼ、ぼくは…堀口清志です、…よ、よろしくお願いします…」

もごもごと籠ったような声で名前を言う。
そして渡した飴玉を震える手で開けようとしていたが、何故か左千夫クンに止められていた。


折角の友好の印が。 


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【神功 左千夫】


やられた。
彼から能力を感じたので明らかにくじ引きの時にずるをしている。
こういう行事は出来ればおとなしいクラスメイトと仲間になりたかったのだが。

他の合流メンバーはおとなしいタイプなら助かるんですが…。

そう思っていると合流したのは神功十輝央だった。彼は僕の兄さんである。
勿論、彼は神宮忠仁の本当の子供。
前妻の子供と言ったほうが正しいのか、母親は柚子由の母とは異なる。
前妻は御病気で亡くなられたと聞いている。

「久しぶりですね、十輝央兄さん。」

「本当だよ、左千夫。全く帰って来ないんだから…。
部屋借りて貰ってるのは知ってるけど、気にせず帰ってきていいんだよ?」

彼は心配そうな笑顔を浮かべる。
僕の傍で色々近況を話してくれていた。

僕は神功家本邸には中々帰ることは無い。
居心地が悪いわけではないが、……まぁ、色々有る。
勿論、式典や祝い事のときは呼び出しが掛るので欠かすことなく行っている。

彼は本当に父親似で懐が広い、許容力が半端ない。と、言ったところか。
しかし、あの、父程の威厳が無い、その理由は僕はなんとなくわかる。
そして、それがあの、父が僕を養子にとった一つの理由でもある。

話しているうちに九鬼がもう一人へと飴を差し出していた。
いつもの激辛の飴なので僕は制止する。

しかし、彼は「人からもらったものなので…。」と、とても嬉しそうにしていて僕の制止をきかなかったので、
仕方なく鞄からその飴を相殺できるほど甘い飴を取り出して彼の手に握らせる。

この子はどういうことだろうか…。
人の好意に飢えているのか…? 

それからは四人でテントを張り。
支給された弁当を持ちながらスタンプラリーのメンバーと落ち合うことになった。 


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【千星 那由多】


テントはどうにか張り終えた。
ほとんど俺は手伝ってなかったけど。
こういう時の体育会系は楽ができるのでありがたい。

俺と巽は晴生と合流すると、スタンプラリーの打ち合わせに行くことになった。
これには二年のメンバーとの顔合わせも含まれている。
晴生は変わらずふてぶてしそうだったが、どうやら三木さんと同じ班だったようなので、少しはこの三日間安心かなと胸を撫で下ろした。 


指定された場所へ着くと、他の生徒もたくさんいる。
木の机が並んでいて、そこにスタンプラリーの班番号が書かれた札が立っていた。
俺達は―――12班。
辺りを見回し班のテーブルを探していると、すでにそこに見覚えのある後姿が見えた。

あのトサカ。
そして、あの銀髪。


「……会長、と副会長…」


声をかけると、並んで座っている二人がこちらに気づく。
(裏)生徒会の時とは違い、眼鏡をかけている会長がにっこりと笑うと、どこの班なのか聞かれ、俺達は顔を見合わせた。

「ここです…12班…」

何の差し金だ。
こんなミラクルで同じ班になるわけがなかった。
そもそもこの林間学校のスタンプラリーには「交流」という俺の嫌いなものが含まれている。
だけど、いつものこのメンツで交流なんて言葉は無駄だ。
毎日嫌と言うほど顔を合わせているわけだし。

何か、物凄く嫌な予感に背筋に悪寒が走った。

俺達は会長と副会長の前に座るように席へとつき、弁当を広げた。
(裏)生徒会室でのお茶会が弁当verになったような気分だった。
そして、無駄に周りの生徒の視線を感じる。
もちろんそれは俺に対するものではなく、ここにいる四人に向けての熱視線だった。


弁当食べるのも疲れそうだ…。 


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【日当瀬 晴生】


テント班とスタンプラリー班はまた別だ。
俺達はいつものように三人一緒だった。
天夜の奴、テントもスタンプラリーも千星さんといっしょなんてズル過ぎるぜ。


そんなことを思いながら打ち合わせに行くと、そこには会長たちが座っていた。
なんだか嫌な予感がする。
三木が欠けているが、これでは(裏)生徒会と何ら変わりない。

「それじゃあ、地図の確認をしておきましょうか。
九鬼、貴方が持っていたでしょう?」

いつも通り俺と巽は千星さん、九鬼は会長に話しかけて晩飯が終わる。
そして、いつも通り会長が指示を出しながら地図を広げた。
広げた瞬間に俺も会長も違和感に気付いた。
大きな地図の右端に矢印が有って、捲れる様になっている。
会長は辺りの視線がこちらに向いていないかを確認して、皆に寄る様に示してからそれを一気に捲りあげた。 


イデアの地獄~初級編~…デス・スタンプラリー


そこには先程の地図よりも広大なものと一緒に、でかでかと真っ赤な字でイデアさんからのメッセージが書かれていた。
九鬼以外の俺達の表情は凍て付く。
どうやら、この、林間学校もただでは返してくれないらしい。


流石です!イデアさん。 


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【九鬼】


何やら地図の確認をした後のみんなの顔がものすごく暗い。
ボクが持っていた地図はイデちゃんから渡されたものだったんだけど、どうやらそこに何か書かれていたみたいだった。
きっとスタンプラリーには色んな意味で面白いことが待ち受けてるに違いない。
ちょっと楽しくなってきた。

お弁当を食べ終わるとスタンプラリーでの話し合いが続く。
途中席を立ち、一人でこじんまりとした人気のないトイレへと向かった。
山だから仕方ないとはいえ、女子は使わなさそうな小汚いトイレだ。
中に入る前に数人の笑い声が耳に入る。
何も気にせずそのまま入ると同じ班の堀口クンが床に座り込み、数人の男子生徒に囲まれていた。
なんだか空気が重い。

ああ、なんだ、いじめか。

堀口クンはボクに気づいたのか、何か言おうとしたようだったが声は開いた口から聞こえない。
ボクはそのまま無視して用を足す。
ひそひそと話し声が聞こえたが何を言っているのかわからなかった。


「別にボクのコト気にせず続けたら?」


そう言うと一人の男子が、調子に乗ったのか堀口クンの腹に蹴りを入れ始めたようだ。
本当に続けるとかバカすぎて笑える。
思わず吹き出すように笑うと、別の男子が俺の肩を掴んだ。

「お前今笑ったろ?」

「え?笑ってた?いっつも笑ってるみたいな顔だネ~って言われるケド」

「ふざけてんのか?」

「いや、おしっこ中にふざけれないヨ、外すでショ?」

その男子がボクの膝裏に蹴りをかました。
青いジャージに泥がつく。

「もーおしっこ変なとこ飛ぶじゃん」

そう言うとボクは男子生徒の顔面に肘鉄を食らわせ、倒れるような姿勢になったところで首元へと腕を回した。

「ボクって何かしてるの邪魔されるの嫌いなんだよネ。
連れションもいいけど、別んとこでしてくんない?」

喉元を締めていた腕を叩いていた力が無くなりそうな瞬間に、腕を離してやる。
男子生徒たちは青ざめた顔で堀口クンだけを置いて出て行った。
ボクも用を足し終わると、放心していた彼をそのままにしてトイレから出て行く。
いま時あんなところでああいうことする奴っているんだナ。
もっと人目がある場所で羞恥を煽っていじめた方がおもしろいのに。 


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【神功 左千夫】


帰ってきた九鬼の気配がザワリとした気がした。


「トイレで…なにかしてきましたか。」


いや、何かはしてきたんだろうが。
それにしては変な気配の騒ぎ方だ。
彼は平生なんだろうけど、その微妙な違いに違和感を感じる。
今日初めて掛けた言葉がこれと言うのも妙な感じだ。
また、馬鹿なことを話し始めたので聞かなければよかったと肩を竦める。 

明日はイデアのスパルタ。
僕はいい。特に何の問題も無い。

しかし、那由多君も居るし、他の一般生徒もいる。
隠しながら色々するのは結構骨が折れる。
柚子由は別の班な様で少し安心した。

九鬼が帰ってきたころには話し合いは終わっており、三人は僕と彼に挨拶をしてからテントに戻って行った。
これから順番に風呂に入って、それからテント…。
僕は、テントに帰るつもりは無いけれど。

地図をしまい、班に戻ろうとしたら、十輝央兄さんの声がした。

「左千夫ー。堀口君知らない?」

「いえ。スタンプラリーは同じ班じゃないので。」

「おかしいな…。もう、戻ってきてもいいんだけど…。そろそろ、お風呂の時間だよね。
あ!堀口君。いたいた!」

僕の背後から堀口清志は来たようだ。
十輝央兄さんが堀口清志の元に走って行く。
彼は九鬼と同じ方向から歩いてきた、そして、彼の様子が少しおかしい、九鬼の方を一度見るが直ぐに目を逸らした。
トイレでなにが起きたか、想像は付いたが、僕は現場を見ていないのでなにも言わないことにする。
十輝央兄さんはこう見えてもかなり懐が広い。
多分、僕がここで言葉を掛けることにより彼は一生堀口清志に気に掛けることになるだろう。
ちらりと九鬼を見やると彼はいつものようにニコニコしていた。

その表情が肯定そのものだったが、納得してしまった。
僕は彼の考えは嫌いでは無い。
寧ろ共感できる。

四人合流したところで風呂に入ってその日は就寝となった。
勿論僕はこっそり抜け出して、木の上で眠ることにした。
まだ、これからの事で考えたいことが有ったからだ。 


その晩は、「なんで、なんで帰って来ないの……」と、すすり泣きする、白い髪をした幽霊が出た。
そんな話で朝食は持ち切りだった。


まさか…………そんなことは、無いと思いますが。 


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【千星 那由多】


昨日の打ち合わせから気が落ちている。
スタンプラリーでまたあの地獄を見ることになるからだ。
山で修行したイデアのスパルタを思い出し身震いが起きる。
さすがにイデアは現れないかもしれないが、絶対に何か仕掛けてくるに違いない。
何が起きるのかわからないのが怖すぎて、あまり睡眠をとれなかった。

スタンプラリーを終えたら飯盒炊飯、そして…会長には内緒にしていたあることが執り行われることになっている。
それまで俺が死なないかが心配だが。


巽、晴生とスタンプラリーの出発地点へと向かうと、会長と副会長が何やら揉めていた。
まぁ一方的に副会長が何か言って、会長が関与せず、といった雰囲気なので揉めているとはまた違うんだけど。
なんだかんだでこの二人は仲がいい。
そんなことを言うと会長は嫌がりそうなので絶対に言わないが。

スタンプラリーを始める前に、会長から通達があった。
昨日イデアから連絡があり、少し前に携帯を改良しておいたとのこと。
アプリを解いて武器を展開させた後、それをブレスレット型に変えることができる。
潜入捜査の時や武器を誰かに見られては困る時のために、ということだったが、このブレスレットに変えるという作業が、少し大変だった。
もちろん、俺にとって。

その作業を簡単にまとめると、武器を展開させてから一点、手首あたりに意識を集中させて念じる。
そうすると手に持っていた武器がブレスレットに変わるということだったんだが…。

最初に会長が手本を見せてくれた。
アプリを展開させた後、槍が現れると、それは会長の腕へと光を放ち黒いブレスレットへと変化した。
それに続いてみんなも同じようにこなしていく。

だが俺だけ10分…いや、15分はかかっただろうか。
晴生と巽の応援も空しく、俺の剣がやっと青いブレスレットに変わった時は、かなりスタンプラリーの時間をロスしてしまっていた。
もちろん、平謝りするしかない。

ああ、なんか物凄く情けない。
ここに三木さんがいないことだけが少し救いだった気がする。
あと、イデアがいたら絶対にここで俺は気絶する運命だっただろう。 


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【神功 左千夫】


那由多君の適合力の無さは、流石としか言いようが無い。


かなりの時間をロスしてしまったが、まだ間に合うだろう。
イデアもその辺の時間配分は考えてくれたのかもしれない。
ルート、と、言っても、一般生徒が行うスタンプラリーの数十倍の長さが有り、道なき道を方位磁石で進んでいく感じだ。 

『イデアの地獄~入門編~死と隣り合わせの鬼ごっこ』よりも確実に道のりはハードになっている。
那由多君にとっては、かなり辛いのではないか。
今も上っているのは絶壁だ、しかも後ろから大量のスズメバチが飛んできている。
晴生君と巽君がフォローしているので死ぬことはないだろう。

僕は先頭を急ぐ。
九鬼は僕の横を何食わぬ顔で付いてきている。
根本的な身体的能力は申し分ない。

武器無しで殴りあった場合かなり、辛いですね。

彼を見つめていると、いつものように笑みを返されたのでこちらも笑みを浮かべて置く。


そうしているうちに第一のポイントについた様で僕は足を止めた。
その時にはスズメバチは追い払えたようだった。

「ここですね。」

そこには木で出来た机が置いてあり、スタンプが有った、僕はそれを持っていた台紙へと押し付ける。
その後、横に置いてある指示書を広げると僕の名前が書いてあった。


―――――――――――――


左千夫へ。

この指示書の内容をクリアしろ。
今回は全員に必殺技を会得して貰う。

必殺技だ。
名前は特別に考えといてやったので、叫びながら取り行え。
クリア出来たものにだけ褒美が与えられる。

まずは左千夫。

北の方向にしめ縄で出来たロープがある。
それを槍の遠投で貫け。

名前は「ブレイクフライアウト」

イデアより。


――――――――――――――


……必殺技。
どこかの漫画みたいだと思いながらも彼女が指示してくることには大体理由が有るし、従わざるを得ない。
他のメンバー、特に九鬼は満更でもないのか楽しそうな表情をしていた。

僕は目的のものを探すために北の方角を向きながら、手首に集中力を集める。
そうすると、ブレスレットは黒い光とともに槍の形へと戻った。
それから、対象物を見つけた……が。

「……ギリギリのところに有りますね。」

北側には谷が広がっている。
そしてかなり向こうに絶壁が見える、その遥か頭上にそれは有った。
しめ縄のようなものが一本、木から木へ結ばれている。
あそこに結ぶのすら一般人には無理だ。
矢張り彼女は生徒会の人材として欲しい。

そんなことを考えながら僕は二又を前にして槍を構える。
この前九鬼の首を捉えて動けなくした技だ。


「ブレイクフライアウト――。」


自分が思っていたより冷たい声が漏れた。
体の捻りと肩を回す力を最大限に利用しながら槍に全ての動力を集める。
僕は驚くに目を見開いた。

なにも言わずに投げるよりもはるかに力が篭ったそれは、真っ直ぐにしめ縄へと飛んで行った。
イデアの武器は特殊素材で出来ている、僕たちの能力も電磁波や電気分解といった科学的要素を含む為、不確定だ。
それが、必殺技名を唱えるだけで確定的要素が増すのだろう。

結果、威力としてあらわれる。

僕の槍は縄を切り裂き崖へと突き刺さる。

その後頭上から黒い布にパラシュートのようなものがついたものがひらひらと落ちてきた。
あれが報酬なのだろうか。


どこかで見覚えのあるそれは、九鬼の頭上へと落ちて行った。 


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【九鬼】


どうやらイデちゃんの指令をポイント地点で各自がこなさないといけないらしい。
左千夫クンがやっているのを見ていると、言葉を口に出す事で攻撃に色々な要素が加わるみたいだった。
本当に彼女はヒューマノイドの中でも優秀な存在だ。

ボクの頭の上に落ちてきたものを両手で広げる。
それは黒いボクサーパンツだった。


「どうりで一枚少なくなってると思いました」


その言葉からしてこれは左千夫クンのパンツなんだろう。
ニッコリと笑って手を差し出してきたので、ボクも微笑みを返しながら即座にジャージのポケットに直す。
そのまま追いかけられたが逃げるように次のポイントへと向かった。
もちろんその間も落とし穴やら何処からか無数に降ってくるナイフなどを避けつつ。
彼らはこうやってヒューマノイドに扱かれてきたのか。
面白い事をしてるんだなぁ、とボクは少し楽しくなっていた。
ただ、なゆゆはかなり大変そうだったけど。

第二ポイントへ辿り着くと、第一ポイントと同じようにスタンプが置いてあり、台紙へそれを押し付けた後、指示書を左千夫クンが開いた。


「次は貴方のようですよ」

そう言った彼から指示書を手渡される。


―――――――――――――


九鬼へ。

めのまえのいわをいっぱつでくだけ。
それをくだかなければまえへはすすめない。

なまえは「龍衝裂破拳(りゅうしょうれっぱけん)」

イデアより。


――――――――――――――


さっきとは違ってかなり簡単に書かれていた上に、何故か全部平仮名だ。
確実に国語が苦手なボクを小馬鹿にしているのだろう。
ボクは中国育ちなので、漢字が読めないわけではないんだケド。
リコール決戦でエイドスに拘束されたことを未だに根にもっているのだろうか。

ボクはため息のような笑いを零すと、目の前にあるバカでかい岩へと視線を移した。
大きさは…一軒家ぐらいはあるだろうか。
さすがにこれを一発で砕くことはボクにはできない。

右腕に巻かれた白いリングに意識を再び集中させた。
すると、そのリングは光を放ち両手に纏わりつくと、リングと同色の白いグローブへと変化する。
エイドスからもらったグローブはなゆゆの炎で焼け焦げてしまったので、武器をイデちゃんに新調してもらっていた。

それがこの白いグローブ。
血でとっても綺麗に染まりそうだ。

そんなことを思いながらボクは岩に向かって拳を構えた。
岩の一点に集中しながら、深くゆっくり息を吐く。
目を見開くと同時に、中心へと思い切り拳を撃ち付けた。


「龍衝裂破拳!!」


言葉を口に出すと、思った以上の力が湧き起こる感じがした。
激しい音を辺りに響かせながら、岩は撃ち付けた部分からピキピキとゆっくり割れていく。
かと思うと、中から弾けるように粉々に砕け散った。

その光景に少し驚いてしまう。
これが人間だったら、体内の細胞を爆発させてしまうぐらいの威力になるのだろうか。
是非、試してみたい。

薄く目を見開きながら舌なめずりをすると、頭上でパラシュートが開いた音がした。
落ちてくるものをみんなが見上げる。
次のご褒美はなんだろうか。また左千夫クンのものならさっさと奪ってしまおう。

そして、視界に映ったカラフルなそれには見覚えがあった。


「あ、ボクのパンツだ」


そう言って高くジャンプしてそれを掴み取ると、左千夫クンの前へと飛び降りる。

「ハイ、これあげるからさっきの貰うネ♪」

イタズラに笑いながら、カラフルで少し下半身のラインが協調されてしまいそうなボクのパンツを彼へと差し出してあげた。 


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【日当瀬 晴生】


どうやら上から降ってきた下着は会長のものだったらしい。
もしかして、全員のが奪われているのか?
俺の予想通り次の下着は九鬼のものだった。

会長は九鬼に押し返そうとしていたけど、それよりも早く後ろから九鬼が壊した岩の数倍はあるだろう岩が転がってきたので、
仕方なく、ジャージのポケットにしまっていた。

つか、あれが勝負下着とかいうものなのか?
取り合えず、奴のパンツは派手で品が無く、ギリギリいちもつが隠れるかどうかの代物だった。

俺なら破り捨ててやるが、そうなると会長は自分の下着を奪い返しても、
ノーブラならぬノーパンツの九鬼が林間学校に表れるつーなんとも危険な事態に陥るからな。
仕方ないのかもしれねぇ。

そんなことを俺は走りながら考えていた。

いつものように会長が先頭を走る。
その横には今まで誰もいなかったのに、九鬼が居た。
リコール戦闘で俺達全員で掛らなければいけなかった九鬼の実力は折り紙つきだった。
俺達では並ぶことのできない会長の隣に彼は居る。
俺もはやく強くならなければと思っていたら千星さんが遅れ始めた。

そろそろ体力の限界かもしれない。
俺だって息が上がってきた。
後ろから追いかけてくる岩が止まらない中、途中の木につりさげてあるスタンプと指示書を会長が手に取る。
台紙は九鬼が持ったままだったのだろう、スタンプを奴に投げ捨ててから指示書はこっちに飛んできた。

「次は晴生君。君の番の様ですよ。」

いつものように微笑まれた。
やっぱり、涼しい顔をしてやがる。
俺は走りながら指示書の中を見た。


―――――――――――――


晴生へ。

転がってきている岩の丸い点を射抜け。
小さいから見落とすな。
新しい能力の訓練だと思うように。

技名は


「鷹の目の束縛(ホークアイリストレクション)」


イデアより。


――――――――――――――


流石です!イデアさん!格好いいです!!

心の中でそう唱えながら俺は半身を返した。
転がってくる岩はかなり速い。
携帯を展開させてあるので俺の能力は発動済みなので必要な情報を拾っていく。

つーか、点ってどれだよ。
…………もしかして、あの、米粒くらいの赤い点か!!

イデアさん、流石にそれはきついっス!

そう思っていると千星さんが転んだ。
俺と天夜は同時に反応し、彼の前に出て、転がってくる岩に立ち向かう。
これは俺の試練だ、巽の奴は手を出さないだろう。
会長も副会長もやってのけたんだ、俺もやるしかない。

速度、ルート、風向き、岩の回転数、全ての情報を公式に乗せて行く。
そして、計算ででた通りに銃を構えた。


「ホークアイリストレクション…!」


声に出して驚いた。
集中力が一気に高まり、自分の理想通りのタイミングで銃が放たれる。
それは赤い点に見事的中し、爆弾が仕掛けられていたのか岩が粉々に砕けた。
そして、ひらひらと俺の下着が落ちてきたので誰にも奪われないように先に手にする。

それから、千星さんの元に向かった。


「大丈夫ですか?千星さん。」 


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【千星 那由多】


「はっ…はぁっ……うん…なんとか…」


晴生の言葉に精一杯笑って答えたが、多分俺の顔色はめちゃくちゃ悪いだろう。
もう正直ダメだ…。
周りには助けてもらってばっかりだし、それでもこれだけしんどい。
多少スタミナがついたかと思ったが、やっぱりイデアは容赦がない。

このままの順番で行くと、次に指令が来るのは巽か俺だ。
みんなは簡単にやってのけてるが、俺はできそうにない。
いや、やらないとこの状況から考えて多分みんな殺される。
そして俺はまたイデアのお仕置きが…。

考えるだけで血の気が引いて行った。

汗を拭きながら立ち上がり、次のポイントへと向かった。
なぜか暫く走っても何も罠がなく、走り続けていると、巽に急に手を引かれた。

「那由多!」

「え?」

引き止められた足元が、崩れていった。
木が生い茂っていてよく見えなかったが、そこから先は絶壁になっていた。
二本のロープが向こう側にふたつ伸びている。

もしかしてこのロープを渡っていけと…。

考える暇もなく、さっさと会長と副会長は行ってしまっている。
俺はがっくりと肩を落とすと、晴生と巽に挟まれながら向こう岸へと渡ることになってしまった。
もちろん進めるわけがない俺を狙うように、鷹やトンビが攻撃してくる。

これで少しは高所恐怖症も改善するのだろうか…いや、多分しない。


どれぐらいかかったかはわからないが、やっと辿り着いた向こう岸に同じようにスタンプが置いてあった。
会長はスタンプを押した後、開いた指令所を微笑みながら巽へと手渡した。
どうやら次は巽の番のようだった。

俺は結局最後か…。 


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【天夜 巽】


―――――――――――――


巽へ。

崖から飛び降りて魚の主を倒せ。
鎖鎌を使うように。
複数使う方がいいだろう。

技名は


「死の振り子(ペンデュラムオブデス)」


イデアより。


――――――――――――――


………なんだか、僕の技名だけ、凄く敵っぽい気がする。
気のせいかな。

到着した場所は小高い丘だった。
前のイデアちゃんのスパルタでもダイブしたけど、それとは比にならない高さだ。
北側の崖を覗きこむと更に情報から落ちている滝があり、滝壺が有るのが見える。

「じゃあ、僕は先に行きますね。」

会長達に向かって笑みを浮かべる。
取り合えず那由多は任せるしか無いか。

俺が飛び降りると水面に俺の影が映る。
その影がどんどん大きくなっていくのは俺が近づいているからじゃない。
水中から何かが飛び出してきた。

「な!!!?」


それは巨大な魚だった。
大きな口を開けて待ち構えている。
こんな、魚見たこと無いっていうか、これテレビに売ったらニュースになるよ!
イデアちゃんはどこから仕入れてきたんだろう。

そんなことを考えている場合じゃない。

俺が飛び降りた瞬間に、トンビや鷹や鷲が周りをぐるぐる回っている。

忍ばせていた鎖鎌を四本取り出す。
右に二本、左に二本持ったそれを投げ縄のように振り回す。
俺の思った通りの軌跡を鎌が描いて行く。
周りの鳥たちを薙ぎ払い真っ直ぐに巨大魚へと向かう。
鎖で雁字搦めにされた魚は口を開くことが出来ない、途中の岩に鎖を引っ掻けることで滑車のような役割になり、魚が宙へと引きずり上げられる。
その力で俺の降下速度が遅くなった為に俺は着水することなく岩へと着地した。


「死の振り子……。」


俺は着水することなく、岩の上に立ち、ギュッと四本の鎖を引きこんだ。
鎖が食い込むように魚の生を奪い取る。
岩が重さに耐えきれなくなり砕けたが、調度魚は岸辺に落ちた。
もうピクリとも動かない巨大魚を見つめながら自分の力の上昇に喉を鳴らした。 


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【千星 那由多】


巽は見事に鎖鎌を使って魚を締め上げた。
必殺技を唱えた時はちょっとゾッとしたけど。
まぁ、あいつにはああ言う名前がぴったりかもしれない。

下にいる巽を見ていると、俺の頭の上に何かが落ちてきたのがわかった。
それは黄色のトランクスで見覚えがあるものだった。…巽のだ。

イデアは一体いつの間に俺達のパンツを盗み出しているのだろうか。
もしかして訓練施設でのあの事件もイデアの仕業だったんじゃ…?
あの日ブリーフを履いたことを思い出してぶんぶんと頭を振った。

トランクスをポケットに直すと、巽が下でこちらに向けて大きく手を振っているので、どうしたもんかと会長に視線を向ける。
会長が手首へと目を落とすと、黒いブレスレットに数字が浮かび上がった。
どうやら時刻がわかるらしい。元が携帯だからだろうか。
そして、上にいる全員に言葉をかける。

「調度いいですし、お昼にしますか」

「え、でもどうやってあの魚…」

そう言った途端に会長は俺の腕を掴んだ。
戸惑っていると、もう一方の腕は副会長に掴まれた。


え?


そして崖を急に飛び降りたかと思うと、崖上から下に向かっていくつも落ちている蔦を器用に伝って物凄い速さで降りていく。
もちろん、俺の腕を掴んだまま、所謂宙ぶらりんの体勢だ。


「う、え、ええええええ!!!!!」


会長と副会長に腕を掴まれながら降りる俺は、まるで謎の種族に捕らえられてしまった無力な人間のようだった。
はるきも後からまだ俺達を狙ってくる鷹や鷲を銃で撃ち落としていた。

そのまま一気に崖下に降りると、岸辺へと降り立った。
俺は放心した状態で項垂れる。
腕を離されると、倒れそうにふらついた身体を晴生に支えられた。

「では、昼食といきましょうか」 

にっこりとほほ笑んだ会長は、ポケットの中から何かを取り出す。
それは小さな小瓶に入った塩こしょう、砂糖といった調味料だった。

ああ、このデカイ魚を食うワケですね…。

どんな味がするんだろうか。
そもそも食べることができるのだろうか。 


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【神功 左千夫】


僕と那由多君が焚き火用の木を集めているうちに巽君を主体に魚を捌いてくれていた。
野宿となると昔から全てを一人で行ってきたのでこういうことは少し新鮮だった。
後、火も起こすことなく、ここに起こせる人物が居る。
那由多君はニコニコ笑っている僕の意図を汲み取ったのか、薪に火を灯してくれた。

取ってきた野草を川の水で洗ってから岩の器で茹でて行く。
竹も有ったので持ってきた米と野草を混ぜて炊く。
この米は学校から支給されたものだ。

みんなが木の枝に刺した魚の身を持ってきた。
一つだけ、香辛料か真っ赤に染まったものが有ったので迷わず九鬼が座ってる前の火の中にくべる。
あれは、絶対に食べないでおこう。

沼の主は思った以上に白身で美味だった。
ご飯も特に問題ない。

途中で那由多君に「砂糖、かけないんですか?」と、問いを掛けられた。
僕は確かに甘いものが好きだが味音痴では無い。
九鬼と一緒にしないでほしい。
甘くする必要が無いものは甘くしない。
前方でうまそうに真っ赤な魚を食べている彼を見ると吐き気を覚えた。

再度ブレスレット上に時計機能を出すと、良い時間だ。
休憩も出来たし、先を急ぐことにしよう。

「さて、残りは一か所。きっと、那由多君ですね、さっさと終わらせに行きましょうか。」

僕の笑みとともに全員が動き始める。
理想の形になってきた事実に自然と笑みが浮かんだ。
最後の地点は難関かもしれないが。 


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【千星 那由多】


こうやって能力や武器を使って料理を作っているのを見ると、全員が揃っていれば簡単にサバイバルできそうな気がする。
俺はもちろん火起こし係りになるわけだが。

昼食をとり終わると、俺達は次の地点へと向かった。
地図によると調度この崖下から繋がる方向に最終地点があるらしい。
…もちろん残る最後は確実に俺だ。

次はどんな指令があるのかと内心冷や冷やで道を辿っていく。
途中、何故か急に川が氾濫したかのように水量があがっていき、濁流に変わったり、
その川が大きな渦を巻いて俺達を吸い込もうとしていたりと、やはり道のりは大変だった。
全員びしょ濡れになってしまったが、そこは何故か俺の炎で乾かすというなんとも雑用な特殊能力の使い方で、無事に最終地点へと辿りついた。 

会長がスタンプを押すと、指令書を開く前に、俺へと手渡してくる。

「最後はきっと那由多君でしょう」

そう言って手渡された紙を、息を飲んで開いた。


―――――――――――――


那由多へ。

お前はまた今度だ。
覚悟しておけ。


イデアより。


――――――――――――――


……え?

……なに?


………なんじゃそらああああああ!!!! 


俺は指令所を思わず破り捨てそうになる。
いや、待て待て、結局また今度ってことは、今はやらなくていいってことだよな?
ラッキー?いや、ラッキーなのか?
覚悟しておけってことは、また今度同じようなことがあるのか…。

俺は怒った後に喜んで落ち込む、という三段階の感情を一気に表現させた。

ため息を付きながら会長に見てもらおうと指令所を渡そうとすると、「イデアより。」と記入された下の方に、再び文章が書かれていることに気づく。
一瞬騙されたのかと思い、恐る恐る目を落とすと、そこにはこう書かれていた。


―――――――――――――


学内の目安箱に「死にたい助けて」という投函あり。


――――――――――――――


その少ない文章に俺は目を瞠った。
目安箱、ということは多分任務だ。
誰からとは書かれていないから、無記名だったんだろう。

俺はすぐ会長に指令所を手渡した。


「会長…この最後の文章…」 


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【神功 左千夫】


最後の文と言われたので僕は一番下の文章を見た。


―――――――――――――


p.s那由多のパンツは没収だ。


――――――――――――――


多分、那由多君が調度指で握っていた部分だったので見えなかったんだろう。
「一番最後とはこれですか。」と、返すと彼は目を白黒とさせていた。

「僕、下着一枚余分に持ってきてますから、後で取りに来てください。」

流石に汗だくの下着では気持ち悪いだろうと、言葉を掛けて置く。
問題はその上だ。

『学内の目安箱に「死にたい助けて」という投函あり。』

目安箱とは下駄箱近くに置いてある箱の事だ。
調度死角になっており、密かに入れることが出来る。
ここに入れた願い事がかなうとか、ジンクスがあるとか、色々と言われている箱だ。
くだらない内容を入れる人物も多いし、信憑性が有るかと言われると微妙なところですけどね…。 

それでも、イデアが伝達してきたということは何か有るかもしれない。 
注意しろ、と、言うことですかねぇ。 

「取り合えず、今回のスタンプラリーはこれでおしまいです。
みなさん、ご苦労さまです。
この、メッセージの件は各自気を付けて自分の班やクラスを見ておいてください。
こういう行事の最中に事件を起こすのはまずいですからね。
さて、終了時間も近いですし、戻りましょうか。」


そう言ってこの会をお開きにさせる。
こういう事件は起こってしまうとどうも出来ないものなのだが、(裏)生徒会としては起こしたくない事件だ。
僕、個人としてはどうでもいいんですがねぇ…。


この場所から集合地点は直ぐだったので、僕たちは一般生徒と合流した。 


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