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isc(裏)生徒会
圧倒的強さ
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【九鬼】
あーあ、また負けちゃった。
連敗な上に二度も完敗。
引きずられてくるローレンツを見てため息をつく。
彼は余程困惑しているのかぶつぶつと何かを呟いていて心ここに在らずと言った感じだ。
ディータ達はシッターを裏切ったローレンツへの怒りがまだ収まっていないようだったが、それよりも今のこの敗戦状況が気がかりだったようだ。
視線をボクに向けると、自分達の非を詫びるかのように何も言わずに俯いた。
ボクも正直ローレンツの裏切りには気づいてはいなかったが、まぁ今更そんなこと言ってももう既に結果は出たのだから、あまり拘るつもりもなかった。
フィデリオに連れて来られたフリーデルも闘える状態ではないのは見るだけでわかる。
あれだけ殺気の籠った幻覚を見せられれば、普通ならこうなるのことは目に見えているが。
ボクはあの幻覚は楽しくて仕方なかったけどネ。
二度目のため息を付くと、負けた二人に声もかけずに手元のモニターを開き、彼らと通信を繋いだ。
「おめでとう、さすがにこれだけ劣勢とは思わなかったヨ」
困ったように笑いかけると、ギアーズダイスを取り出した。
「感傷に浸ってる暇なんてないネ。
今度もボクが投げてイイ?こっちが負けてるんだから少しはワガママ聞いてもらえるよネ?」
そう言うと左千夫クンはにこやかに頷いた。
数度上へ放り投げた後、闘技場の中へ投げつけようとした瞬間だった。
手元のモニターからあちらのヒューマノイドの声が響いた。
『解析完了シタ』
その言葉にボクはギアーズダイスを放り投げるのを止める。
そろそろかと思ってたけど……バレちゃったかな?
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【神功 左千夫】
「ありがとうございます。イデア。」
そう告げると彼女はひらりと舞うように闘技場に降りていく。
ヒューマノイドの重さなど全く感じないその身のこなしに惚れ惚れとする。
彼女は闘技場の真ん中に達、ディスプレイに向かって立つ。
そうすると、彼女の瞳がプロジェクター代わりになりディスプレイに映像が映される。
その映像は先程の一回戦と二回戦のダイスの投下模様。
一度目は普通に流されるだけだ、そして二度目、こちらはスローモーションで映像が流れていく。
僕は闘技場に転がるダイスに違和感を抱いた。
なので、イデアに解析をお願いしたのだ。
スローモーションでもかなり分かりにくい為、徹底的なその部分のみ更にコマ送りにする。
そうすると、九鬼のやっていたことが明るみに出る。
そう、彼は羽や闘技場を具現化する能力でダイスの出る面を変えていたのだ。
かなりの早技なので見落としてしまいそうなものだがイデアがうまくその瞬間を映像として見せてくれる。
なぜ、そんないかさまをしたのか分からないが。
明らかにルール違反だ。
これを告げて彼が引き下がってくれるならそれがいい。
僕が今の状態で彼に勝つ勝率ははっきり言って低い。
そんな博打をするよりは不戦勝の方がよっぽどいい。
「これはどういうことですかね?九鬼。」
僕はいつもの笑みを唇に乗せて見せた。
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【九鬼】
あちらのヒューマノイドがボクが投げたギアーズダイスの解析映像をモニターへと映した。
ディータ達もその映像を見てどういうことかという視線をボクに向けている。
左千夫クンに訳を聞かれ微笑まれると、同じように笑みを返した。
「あーあ、バレちゃったか。
ま、どうせ君にはバレると思ってたから別に隠す必要もないか」
飴玉を取り出して口の中へと投げ入れた。
舐める前に全て噛み砕きながら、その場から立ち上がり、柵へと肘をついて向こう側の彼を見つめる。
「だってさー何が出るかわからない確率に任せてたら面白いショーなんて見れないでショ?
少しぐらいは人の手を加えないと、ボクは楽しめないタイプなんだ」
そう言った後、ボクは右手を挙げて指を打ち鳴らした。
すぐさまエイドスが闘技場内に居たイデアロスの後ろを取り、両腕で羽交い絞めにする。
あちら側からヒューマノイドの名前を呼んだ声が聞こえたが、エイドスは自分の腕から鉄製の拘束具を何本も突きだし、自分とイデアロスをガッチリと固定すると、こちらへと飛ぶように戻ってきた。
イデアロスは暴れる様子もなく、じっとボクを見つめる。
それに返事をするように口端を上げて笑いながら、エイドスの頭を撫でてやった。
「どっちにしろ、もうこっちの腕章はボクの分だけだ。
今の状況からして圧倒的に君達が有利…だから、全員でボクにかかってきなよ、それでチャラにしてくれナイ?
ま、どっちにしろこっちには人質がいるんだけど……ん、人、じゃないナ」
ケラケラと笑いながら向こう側の彼らにそう言い放った。
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【神功 左千夫】
イデアが捕らえられてしまった。
彼女は忠実なヒューマノイドだ。
僕の一言で彼女も戦闘に加わるかもしれないが、あの状態では破壊される可能性も高い。
そして、矢張り彼を倒さない限りは戦いを終わりにして貰えないらしい。
晴生君や巽君、那由多君が叫んでいる。
どうやらこちらももう抑えが効かないようだ。
僕は仕方なく、手の中で彼と同じサイコロを作りあげた。
勿論こちはら、幻術だ。
今まで彼がしていたのと同じようにそれを闘技場へと投げるとカランっと小気味よい音を立てて転がった。
出た目は「五」
勿論、出した方法は先程まで彼が行っていた行為と同じ。
唯一違うのは彼のものは実像で僕のものは虚像。
それだけだ。
「人であるかどうかなんて関係ありません。
イデアを返してもらいましょうか。
勿論、僕の会長の座を貴方に譲る気も有りません。」
僕の言葉と同時に全員が携帯を取り出した。
そして、彼女が作ったアプリを解き放ち、彼女が作った武器を手に取り闘技場へと降り立っていく。
これで最後だ。
久々のこのいいようの無い感情を抱えながら、僕は闘技場へと降り立った。
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【千星 那由多】
どうやら九鬼はギアーズダイスの目をごまかしていたらしい。
違反が発覚したのだからこの闘いは俺達の勝ち、なのかと思ったが、イデアが人質に取られてしまう。
会長と九鬼のやり取りを拳を握りしめながら黙って見ていることしかできなかった。
そして、会長は九鬼の言葉に返事を返すように自分で作り上げたギアーズダイスを放り投げる。
受けて立つつもりだ。もちろん俺も賛成だったしみんなもきっとそうだろう。
九鬼一人相手に5人がかりなら勝ち目はあるかもしれない。
だけど、あいつの強さが未だに計り知れない不安は少なからずある。
それでも、この闘いには勝たなければならない。
イデアのため、そして、俺達の(裏)生徒会を守るため。
俺達は会長の言葉で武器を展開する。
『解除』
そして、会長が闘技場へ降り立った後を追う様に、俺達も闘技場へと降りて行った。
九鬼も全員が降りたのを確認すると、白い翼を背中から広げ闘技場の中へと舞い降りるように着地した。
白い羽が地面へハラハラと散り、風に吹き飛ばされていくのを目で追った。
本当にリアル、というより本物の翼。
九鬼には不釣り合いな真っ白な翼だ。
「物分かりがよくて嬉しいヨ」
銀色の髪と左腕の腕章が風になびいた。
俺達は横一列に並ぶと、各々の武器を構える。
九鬼が口角を上げ見下げるように笑うと、エイドスとイデアが開始の合図を出した。
『強奪許可!』
それと同時に俺は炎の剣を作りあげる。
九鬼はどうやら素手のようだった。
片手を突きだし、俺達を挑発するように指だけで手招きをした。
「かかっておいでヨ」
そう言った彼の表情は目だけが笑っていなかった。
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【神功 左千夫】
さて、どうするか。
九鬼の能力は未知数だ。
しかし、黒鬼の名前が伊達でないことは気配で分かる。
彼はドイツでは特殊能力なしで他校を圧倒していった。
身体能力やポテンシャルの高さは言うまでも無いだろう。
彼自体に幻術は効かないが彼が作りあげたもの程度は幻術で押さえることが出来るかも知れない。
「那由多君、巽君、晴生君。君たちはいつも通り戦ってみてください。
後、僕の技は幻術です。必ずそこにあると信じて下さい。
疑わなければ、リアルにも負けることはありませんので。
柚子由は僕のフォローを。」
柚子由から返事が返ってくる。
そして、彼女は僕の直ぐ横に立ち、僕と同じように槍の柄の部分を地面に付けて瞼を落とし精神を集中させる。
那由多君達は気配から察するとどうやらいつも通りのフォーメーションを組んだようだ。
那由多君を先頭にする形が彼らに取って戦いやすいのだろう。
彼が炎の剣を手に九鬼に走っていく中、彼の背後や側面から空気砲とクナイが九鬼に向かって飛んでいく。
彼は羽を使って宙に舞うようにして避けているのが分かる。
更に上空へと飛行する気配を感じたので地面を幾つも隆起させ、那由多君達足場を作ってやる。
晴生君の銃が的確に九鬼の位置を捉え、那由多君の前まで誘導するようにと銃声が響く。
このまま行けば正面からぶつかるだろう。
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【千星 那由多】
会長の言葉に頷くと、俺と巽、晴生はいつものフォーメーションを取った。
先陣を切って走って行くと、巽と晴生のフォローが入る。
だが、それを難なく避けきると彼は宙へと舞い上がった。
翼とか人外なもの出すなんて卑怯だよな…。
闘技場全てが九鬼の行動範囲になるわけだし、足と飛行じゃ追いつける場所も限られてしまう。
そんなことを思って宙を舞った九鬼を目で追うと、足場が突出し階段のように上へと繋がっていった。
これは会長の幻術だ。
リアルと大差のないそれを、俺は駆け上った。
晴生の銃で誘導された九鬼が俺の正面までくると、不意を狙って炎の剣を足場から飛び降りるように振った。
故意的かはわからなかったが、九鬼はその炎の剣を素手で受け止めると、目を丸くした後地上へ剣ごと俺を投げつけた。
そのまま急降下で落下したが、会長の幻術で柔らかくなった地面に落ちると無傷で済み、体制をすぐに整えた。
「あっつー…思った以上だネ、その炎の剣」
上空にいる九鬼は涙目になりながら炎の剣を受け止めた手に息を吹きかけていた。
何でも溶かしたり燃やすことができるはずだが、九鬼の身体は燃えなかった。
でも、少なからずダメージは与えられているのかもしれない。
ただ、俺と九鬼の力量がまるで違うのが一番の気がかりだ。
晴生と巽のクナイが飛び交う中、九鬼は上空をうろうろと飛び回り、ズボンのポケットから何かを取り出した。
「ちょっと痛かったし、またそれやられたらたまったもんじゃないカラ、さっそくだけど使っちゃお」
取り出したのは真っ白な指に穴の開いたグローブだった。
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【三木 柚子由】
左千夫様と精神をリンクさせる。
少しは手助けになっているか分からないけど彼と同じものを構想していく。
左千夫様が私に助けを求めるのは珍しい。
きっと彼の限界はもう近い。
いえ、既に限界を超えているのかもしれない。
幻術は無限でいろんな可能性を秘めているけど、その分精神力を半端なく消耗するし。
失敗すると逆に幻術に食われてしまう。
「柚子由。余計なことは考えない。
九鬼を倒すことだけ考えてなさい。」
左千夫様から怒られてしまった。
私はまた精神を練り直していると直接頭に声が響く。
‘那由多君、巽君、晴生君。君たちを直接持ち上げます。
余り長くは不可能なのでなるべく早期決戦を。無理なら、また違う策を考えます。
那由多君、気を付けて。彼のグローブはきっと僕たちの武器と同じです。どのような能力を秘めているか分からない。’
左千夫様はそれだけ告げると三人の周りの風を集めていく。
それは円盤のような形になり、三人を掬うように持ち上げた。
‘軽く重心移動してもらったら動きます。
危ない時は僕が無理矢理動かすかも知れませんが…。’
そのまま上空でグローブを嵌めている九鬼さんの元まで持ち上げていく。
風を切る音が辺りに響く。
殆ど左千夫様の力を使っていて、私は微力にしかなっていない。
それでも、この空気の塊を三つ造形するのはかなり難しい。
しかも、それを稼動させるなんて、私の想像の限界を超えそう。
左千夫様は戦況を確かめる為に目を開いて確りと上空を眺めていた。
危機的状況にも関わらずその横顔はどこか楽しんでいる様に見えたのが不思議だった。
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【九鬼】
千星の炎の剣は思った以上にダメージを食った。
素手で受け止め続けると厄介なため、ボクはグローブを手にする。
これはエイドスに作ってもらった武器。
ボクの闘い方は基本拳なので、手がいう事を聞かなくなってしまったらたまったもんじゃない。
ま、そもそもこの闘いでそこまでやられるとは思っていないけど。
念のため。
左千夫クンが千星達に風の円盤のようなものを作り出した。
彼は本当にしぶといというか…あの身体でよくここまでの幻術を使えるものだ。
何度殺せば死ぬのか、少し興味がある。
千星達がその円盤を使って空中戦をしかけてくる。
三人がかりでこられるとちょっとめんどくさい。
日当瀬の弾や天夜のクナイを避けていると、妙なタイミングで千星が斬りつけてきた。
動きが読めないわけではなかったが、タイミングが戦闘に慣れていないのが丸わかりなスタイルだった。
だけど、この三人はやけに息が合っている。
型破りなのか、型にはまっているのか…あーとにかくうっとおしい。
千星が振るった炎の剣を手で受け止めると、指先に丸い玉が出現する。
そのおかげで炎はグローブに触れることなく、熱も伝わらない。
グッと押し込むようにボクを斬りつけて来たが、力はかなり弱かった。
そして、何故この剣は人を斬れないのだろうか。
斬れたのならもっと殺傷能力は高いはずなのに。
「ここまで来ても…君は甘いんだねェ」
そう言うと後ろに回っていた天夜に剣を掴んだまま千星を投げつけた。
その隙に日当瀬の弾が飛んできたが、拳を重ねて地面へと叩きつけると真下に小さく穴が空いたのが見えた。
「あー…ほんとに…こんなのでボクに勝てると思ってるの?」
彼らに言うのではなく、左千夫クンを見下げながら言葉を放った。
「つまんないから…もう、やーめた」
ボクはため息を付きながらグローブをはめなおす。
さっさと始末するなら、弱そうな子から始めよう。
口端を上げて笑うと、天夜に受け止められている千星へと目をやった。
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【日当瀬 晴生】
ヤツの動きを分析していく。
しかし、会長の幻術が俺の脳に作用してしまって先程のようにクリアな分析は出来ない。
会長の幻術なしで勝てる相手だとも思えないので仕方がないだろう。
本当に、俺と会長は火と油のように相性が悪い。
特殊能力まで相容れないとは思わなかった。
仕方なく視覚のみに頼る。
聴覚は聞こえるものだけ、後は気配にだけ敏感に察知できるようにしておく。
俺の放った銃を九鬼は意図も簡単に地上へと叩き落した。
俺も天夜も先程までの戦いで殆ど体力が残っていない。
それにしても、ここまでの力量の差を見せつけられると士気が落ちる。
千星さんの炎が効くと言うことはあのグローブを破壊しねぇとなんねーんだけど。
「つまんないから…もう、やーめた」
九鬼の声が響いた瞬間ゾッとするような殺気が千星さんに向かったのが分かった。
ヤバい。
九鬼よりも早く宙を蹴る。
会長も気づいてくれたのか足の下に有る円盤が目的の方へと動く。
この、足下に有る空気の塊は俺と相性がいいらしく、スピードは九鬼の上を行った。
そして、俺は円盤を足場にするように蹴り付け身を翻す。
千星さんに向かう九鬼の頭上を飛び越える様にして頭から千星さんの間に割って入る。
「君、後衛でしょ?駄目だなぁ、こんなとこまで出てきたら。」
奴は握った拳を大きく脇の方へと引き込む。
そのまま腰を捻る様にして拳を突き出してきた。
俺はそれに向けてど近距離で銃を発射する。
ガツンと激しい音が鳴って彼の腕が後ろに跳んだのが分かった。
一瞬ヤツが虚を突かれたような表情をしたのでやったかと思えば、その後ににやりと口角を上げた。
「残念。本当はこっちでした。」
そう言って奴はそのまま体を捻る様にして右手を突き出す。
一打目はフェイントだったようだ。
―――――間に合わない。
天夜もそれに気づいた様でぐっと千星さんを抱きしめた。
俺は九鬼の拳を銃の腹でガードするが威力は貫通するように体を突き抜け、天夜達を巻き添えにするように背後にぶっ飛んだ。
そのまま、闘技場の外の観客席を遮っている壁に激突した。
「――――かっはっ!!」
拳でなんて威力だ。
内臓を掻きまわされたような痛みが全身に掛け抜ける。
背後の壁は会長が柔らかくしてくれたようで、顔を上げると千星さんが俺を覗きこんでいた。
今度は、守れた。
俺の口角は自然と緩む。
まだ、意識を失っちゃいけねぇのに、もう無理そうだ。
俺が意識を飛ばす直前に、俺達を超える様に天夜が九鬼に向かっていくのが見えた。
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【九鬼】
三人まとめてぶっとばしたが、威力は日当瀬に集中したようだった。
千星は自分を犠牲にしてまで守るべき人物ではないということを奴等はわかっていないのだろうか。
首を鳴らすと伸びをする。
準備運動にもならない。
軽く体を動かしていると、天夜が円盤に乗ってこちらへ向かってきたのがわかった。
まだあの三人の中じゃ骨がある方なので、ボクは彼が向かってくるのを迎え撃つ。
クナイ、打撃、蹴り、素早く繰り出してくるそれは並みの努力じゃ手に入らないだろう。
天夜は元々の戦闘スキルが高く、天才型。
闘うために生まれてきたような身体能力だった。
避けてはいるが、集中していないと不意を突かれそうだ。
「その殺しにかかってくるような目付き、嫌いじゃないヨ」
そう言って天夜が投げてきたクナイを素手で受け止めると、その状態で口端をあげて笑う。
ひるまずに何本も投げつけてくるが、意味はない。
全て動きは見えている。
だが一本目の真後ろ、調度死角に二本目を仕込んでいたのか、受け止められなかったクナイが腕に刺さる。
その一瞬の隙を狙って、真上から飛びつく様に全力でかかとをボクの頭上へと落としてきた。
それを軽々と足首を掴むように受け止め、彼を見上げた。
「…センスは一番いいネ、でもそれだけじゃボクには勝てない」
そのまま下へと振り降ろすと、円盤が辿りつくよりも早く落ちていく彼を追い、左顔面へと拳を叩き込んだ。
少しの差で両腕で塞がれてしまったが、そんなもので威力が半減する訳でもなく、彼もまた場外へと吹っ飛んでいった。
…骨は折れたかな?
自分の腕にささったクナイを抜き取り、放り投げる。
特にこんなものは痛くもかゆくも無い。
カラン、という音を立ててそれが地面へと落ちると、千星の方へと再び目をやる。
「残り、三人」
戦闘を満足に楽しめないフラストレーションが溜まり、ボクの中の黒鬼は暴れたくて仕方がなくなっていた。
あーあ、また負けちゃった。
連敗な上に二度も完敗。
引きずられてくるローレンツを見てため息をつく。
彼は余程困惑しているのかぶつぶつと何かを呟いていて心ここに在らずと言った感じだ。
ディータ達はシッターを裏切ったローレンツへの怒りがまだ収まっていないようだったが、それよりも今のこの敗戦状況が気がかりだったようだ。
視線をボクに向けると、自分達の非を詫びるかのように何も言わずに俯いた。
ボクも正直ローレンツの裏切りには気づいてはいなかったが、まぁ今更そんなこと言ってももう既に結果は出たのだから、あまり拘るつもりもなかった。
フィデリオに連れて来られたフリーデルも闘える状態ではないのは見るだけでわかる。
あれだけ殺気の籠った幻覚を見せられれば、普通ならこうなるのことは目に見えているが。
ボクはあの幻覚は楽しくて仕方なかったけどネ。
二度目のため息を付くと、負けた二人に声もかけずに手元のモニターを開き、彼らと通信を繋いだ。
「おめでとう、さすがにこれだけ劣勢とは思わなかったヨ」
困ったように笑いかけると、ギアーズダイスを取り出した。
「感傷に浸ってる暇なんてないネ。
今度もボクが投げてイイ?こっちが負けてるんだから少しはワガママ聞いてもらえるよネ?」
そう言うと左千夫クンはにこやかに頷いた。
数度上へ放り投げた後、闘技場の中へ投げつけようとした瞬間だった。
手元のモニターからあちらのヒューマノイドの声が響いた。
『解析完了シタ』
その言葉にボクはギアーズダイスを放り投げるのを止める。
そろそろかと思ってたけど……バレちゃったかな?
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【神功 左千夫】
「ありがとうございます。イデア。」
そう告げると彼女はひらりと舞うように闘技場に降りていく。
ヒューマノイドの重さなど全く感じないその身のこなしに惚れ惚れとする。
彼女は闘技場の真ん中に達、ディスプレイに向かって立つ。
そうすると、彼女の瞳がプロジェクター代わりになりディスプレイに映像が映される。
その映像は先程の一回戦と二回戦のダイスの投下模様。
一度目は普通に流されるだけだ、そして二度目、こちらはスローモーションで映像が流れていく。
僕は闘技場に転がるダイスに違和感を抱いた。
なので、イデアに解析をお願いしたのだ。
スローモーションでもかなり分かりにくい為、徹底的なその部分のみ更にコマ送りにする。
そうすると、九鬼のやっていたことが明るみに出る。
そう、彼は羽や闘技場を具現化する能力でダイスの出る面を変えていたのだ。
かなりの早技なので見落としてしまいそうなものだがイデアがうまくその瞬間を映像として見せてくれる。
なぜ、そんないかさまをしたのか分からないが。
明らかにルール違反だ。
これを告げて彼が引き下がってくれるならそれがいい。
僕が今の状態で彼に勝つ勝率ははっきり言って低い。
そんな博打をするよりは不戦勝の方がよっぽどいい。
「これはどういうことですかね?九鬼。」
僕はいつもの笑みを唇に乗せて見せた。
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【九鬼】
あちらのヒューマノイドがボクが投げたギアーズダイスの解析映像をモニターへと映した。
ディータ達もその映像を見てどういうことかという視線をボクに向けている。
左千夫クンに訳を聞かれ微笑まれると、同じように笑みを返した。
「あーあ、バレちゃったか。
ま、どうせ君にはバレると思ってたから別に隠す必要もないか」
飴玉を取り出して口の中へと投げ入れた。
舐める前に全て噛み砕きながら、その場から立ち上がり、柵へと肘をついて向こう側の彼を見つめる。
「だってさー何が出るかわからない確率に任せてたら面白いショーなんて見れないでショ?
少しぐらいは人の手を加えないと、ボクは楽しめないタイプなんだ」
そう言った後、ボクは右手を挙げて指を打ち鳴らした。
すぐさまエイドスが闘技場内に居たイデアロスの後ろを取り、両腕で羽交い絞めにする。
あちら側からヒューマノイドの名前を呼んだ声が聞こえたが、エイドスは自分の腕から鉄製の拘束具を何本も突きだし、自分とイデアロスをガッチリと固定すると、こちらへと飛ぶように戻ってきた。
イデアロスは暴れる様子もなく、じっとボクを見つめる。
それに返事をするように口端を上げて笑いながら、エイドスの頭を撫でてやった。
「どっちにしろ、もうこっちの腕章はボクの分だけだ。
今の状況からして圧倒的に君達が有利…だから、全員でボクにかかってきなよ、それでチャラにしてくれナイ?
ま、どっちにしろこっちには人質がいるんだけど……ん、人、じゃないナ」
ケラケラと笑いながら向こう側の彼らにそう言い放った。
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【神功 左千夫】
イデアが捕らえられてしまった。
彼女は忠実なヒューマノイドだ。
僕の一言で彼女も戦闘に加わるかもしれないが、あの状態では破壊される可能性も高い。
そして、矢張り彼を倒さない限りは戦いを終わりにして貰えないらしい。
晴生君や巽君、那由多君が叫んでいる。
どうやらこちらももう抑えが効かないようだ。
僕は仕方なく、手の中で彼と同じサイコロを作りあげた。
勿論こちはら、幻術だ。
今まで彼がしていたのと同じようにそれを闘技場へと投げるとカランっと小気味よい音を立てて転がった。
出た目は「五」
勿論、出した方法は先程まで彼が行っていた行為と同じ。
唯一違うのは彼のものは実像で僕のものは虚像。
それだけだ。
「人であるかどうかなんて関係ありません。
イデアを返してもらいましょうか。
勿論、僕の会長の座を貴方に譲る気も有りません。」
僕の言葉と同時に全員が携帯を取り出した。
そして、彼女が作ったアプリを解き放ち、彼女が作った武器を手に取り闘技場へと降り立っていく。
これで最後だ。
久々のこのいいようの無い感情を抱えながら、僕は闘技場へと降り立った。
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【千星 那由多】
どうやら九鬼はギアーズダイスの目をごまかしていたらしい。
違反が発覚したのだからこの闘いは俺達の勝ち、なのかと思ったが、イデアが人質に取られてしまう。
会長と九鬼のやり取りを拳を握りしめながら黙って見ていることしかできなかった。
そして、会長は九鬼の言葉に返事を返すように自分で作り上げたギアーズダイスを放り投げる。
受けて立つつもりだ。もちろん俺も賛成だったしみんなもきっとそうだろう。
九鬼一人相手に5人がかりなら勝ち目はあるかもしれない。
だけど、あいつの強さが未だに計り知れない不安は少なからずある。
それでも、この闘いには勝たなければならない。
イデアのため、そして、俺達の(裏)生徒会を守るため。
俺達は会長の言葉で武器を展開する。
『解除』
そして、会長が闘技場へ降り立った後を追う様に、俺達も闘技場へと降りて行った。
九鬼も全員が降りたのを確認すると、白い翼を背中から広げ闘技場の中へと舞い降りるように着地した。
白い羽が地面へハラハラと散り、風に吹き飛ばされていくのを目で追った。
本当にリアル、というより本物の翼。
九鬼には不釣り合いな真っ白な翼だ。
「物分かりがよくて嬉しいヨ」
銀色の髪と左腕の腕章が風になびいた。
俺達は横一列に並ぶと、各々の武器を構える。
九鬼が口角を上げ見下げるように笑うと、エイドスとイデアが開始の合図を出した。
『強奪許可!』
それと同時に俺は炎の剣を作りあげる。
九鬼はどうやら素手のようだった。
片手を突きだし、俺達を挑発するように指だけで手招きをした。
「かかっておいでヨ」
そう言った彼の表情は目だけが笑っていなかった。
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【神功 左千夫】
さて、どうするか。
九鬼の能力は未知数だ。
しかし、黒鬼の名前が伊達でないことは気配で分かる。
彼はドイツでは特殊能力なしで他校を圧倒していった。
身体能力やポテンシャルの高さは言うまでも無いだろう。
彼自体に幻術は効かないが彼が作りあげたもの程度は幻術で押さえることが出来るかも知れない。
「那由多君、巽君、晴生君。君たちはいつも通り戦ってみてください。
後、僕の技は幻術です。必ずそこにあると信じて下さい。
疑わなければ、リアルにも負けることはありませんので。
柚子由は僕のフォローを。」
柚子由から返事が返ってくる。
そして、彼女は僕の直ぐ横に立ち、僕と同じように槍の柄の部分を地面に付けて瞼を落とし精神を集中させる。
那由多君達は気配から察するとどうやらいつも通りのフォーメーションを組んだようだ。
那由多君を先頭にする形が彼らに取って戦いやすいのだろう。
彼が炎の剣を手に九鬼に走っていく中、彼の背後や側面から空気砲とクナイが九鬼に向かって飛んでいく。
彼は羽を使って宙に舞うようにして避けているのが分かる。
更に上空へと飛行する気配を感じたので地面を幾つも隆起させ、那由多君達足場を作ってやる。
晴生君の銃が的確に九鬼の位置を捉え、那由多君の前まで誘導するようにと銃声が響く。
このまま行けば正面からぶつかるだろう。
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【千星 那由多】
会長の言葉に頷くと、俺と巽、晴生はいつものフォーメーションを取った。
先陣を切って走って行くと、巽と晴生のフォローが入る。
だが、それを難なく避けきると彼は宙へと舞い上がった。
翼とか人外なもの出すなんて卑怯だよな…。
闘技場全てが九鬼の行動範囲になるわけだし、足と飛行じゃ追いつける場所も限られてしまう。
そんなことを思って宙を舞った九鬼を目で追うと、足場が突出し階段のように上へと繋がっていった。
これは会長の幻術だ。
リアルと大差のないそれを、俺は駆け上った。
晴生の銃で誘導された九鬼が俺の正面までくると、不意を狙って炎の剣を足場から飛び降りるように振った。
故意的かはわからなかったが、九鬼はその炎の剣を素手で受け止めると、目を丸くした後地上へ剣ごと俺を投げつけた。
そのまま急降下で落下したが、会長の幻術で柔らかくなった地面に落ちると無傷で済み、体制をすぐに整えた。
「あっつー…思った以上だネ、その炎の剣」
上空にいる九鬼は涙目になりながら炎の剣を受け止めた手に息を吹きかけていた。
何でも溶かしたり燃やすことができるはずだが、九鬼の身体は燃えなかった。
でも、少なからずダメージは与えられているのかもしれない。
ただ、俺と九鬼の力量がまるで違うのが一番の気がかりだ。
晴生と巽のクナイが飛び交う中、九鬼は上空をうろうろと飛び回り、ズボンのポケットから何かを取り出した。
「ちょっと痛かったし、またそれやられたらたまったもんじゃないカラ、さっそくだけど使っちゃお」
取り出したのは真っ白な指に穴の開いたグローブだった。
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【三木 柚子由】
左千夫様と精神をリンクさせる。
少しは手助けになっているか分からないけど彼と同じものを構想していく。
左千夫様が私に助けを求めるのは珍しい。
きっと彼の限界はもう近い。
いえ、既に限界を超えているのかもしれない。
幻術は無限でいろんな可能性を秘めているけど、その分精神力を半端なく消耗するし。
失敗すると逆に幻術に食われてしまう。
「柚子由。余計なことは考えない。
九鬼を倒すことだけ考えてなさい。」
左千夫様から怒られてしまった。
私はまた精神を練り直していると直接頭に声が響く。
‘那由多君、巽君、晴生君。君たちを直接持ち上げます。
余り長くは不可能なのでなるべく早期決戦を。無理なら、また違う策を考えます。
那由多君、気を付けて。彼のグローブはきっと僕たちの武器と同じです。どのような能力を秘めているか分からない。’
左千夫様はそれだけ告げると三人の周りの風を集めていく。
それは円盤のような形になり、三人を掬うように持ち上げた。
‘軽く重心移動してもらったら動きます。
危ない時は僕が無理矢理動かすかも知れませんが…。’
そのまま上空でグローブを嵌めている九鬼さんの元まで持ち上げていく。
風を切る音が辺りに響く。
殆ど左千夫様の力を使っていて、私は微力にしかなっていない。
それでも、この空気の塊を三つ造形するのはかなり難しい。
しかも、それを稼動させるなんて、私の想像の限界を超えそう。
左千夫様は戦況を確かめる為に目を開いて確りと上空を眺めていた。
危機的状況にも関わらずその横顔はどこか楽しんでいる様に見えたのが不思議だった。
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【九鬼】
千星の炎の剣は思った以上にダメージを食った。
素手で受け止め続けると厄介なため、ボクはグローブを手にする。
これはエイドスに作ってもらった武器。
ボクの闘い方は基本拳なので、手がいう事を聞かなくなってしまったらたまったもんじゃない。
ま、そもそもこの闘いでそこまでやられるとは思っていないけど。
念のため。
左千夫クンが千星達に風の円盤のようなものを作り出した。
彼は本当にしぶといというか…あの身体でよくここまでの幻術を使えるものだ。
何度殺せば死ぬのか、少し興味がある。
千星達がその円盤を使って空中戦をしかけてくる。
三人がかりでこられるとちょっとめんどくさい。
日当瀬の弾や天夜のクナイを避けていると、妙なタイミングで千星が斬りつけてきた。
動きが読めないわけではなかったが、タイミングが戦闘に慣れていないのが丸わかりなスタイルだった。
だけど、この三人はやけに息が合っている。
型破りなのか、型にはまっているのか…あーとにかくうっとおしい。
千星が振るった炎の剣を手で受け止めると、指先に丸い玉が出現する。
そのおかげで炎はグローブに触れることなく、熱も伝わらない。
グッと押し込むようにボクを斬りつけて来たが、力はかなり弱かった。
そして、何故この剣は人を斬れないのだろうか。
斬れたのならもっと殺傷能力は高いはずなのに。
「ここまで来ても…君は甘いんだねェ」
そう言うと後ろに回っていた天夜に剣を掴んだまま千星を投げつけた。
その隙に日当瀬の弾が飛んできたが、拳を重ねて地面へと叩きつけると真下に小さく穴が空いたのが見えた。
「あー…ほんとに…こんなのでボクに勝てると思ってるの?」
彼らに言うのではなく、左千夫クンを見下げながら言葉を放った。
「つまんないから…もう、やーめた」
ボクはため息を付きながらグローブをはめなおす。
さっさと始末するなら、弱そうな子から始めよう。
口端を上げて笑うと、天夜に受け止められている千星へと目をやった。
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【日当瀬 晴生】
ヤツの動きを分析していく。
しかし、会長の幻術が俺の脳に作用してしまって先程のようにクリアな分析は出来ない。
会長の幻術なしで勝てる相手だとも思えないので仕方がないだろう。
本当に、俺と会長は火と油のように相性が悪い。
特殊能力まで相容れないとは思わなかった。
仕方なく視覚のみに頼る。
聴覚は聞こえるものだけ、後は気配にだけ敏感に察知できるようにしておく。
俺の放った銃を九鬼は意図も簡単に地上へと叩き落した。
俺も天夜も先程までの戦いで殆ど体力が残っていない。
それにしても、ここまでの力量の差を見せつけられると士気が落ちる。
千星さんの炎が効くと言うことはあのグローブを破壊しねぇとなんねーんだけど。
「つまんないから…もう、やーめた」
九鬼の声が響いた瞬間ゾッとするような殺気が千星さんに向かったのが分かった。
ヤバい。
九鬼よりも早く宙を蹴る。
会長も気づいてくれたのか足の下に有る円盤が目的の方へと動く。
この、足下に有る空気の塊は俺と相性がいいらしく、スピードは九鬼の上を行った。
そして、俺は円盤を足場にするように蹴り付け身を翻す。
千星さんに向かう九鬼の頭上を飛び越える様にして頭から千星さんの間に割って入る。
「君、後衛でしょ?駄目だなぁ、こんなとこまで出てきたら。」
奴は握った拳を大きく脇の方へと引き込む。
そのまま腰を捻る様にして拳を突き出してきた。
俺はそれに向けてど近距離で銃を発射する。
ガツンと激しい音が鳴って彼の腕が後ろに跳んだのが分かった。
一瞬ヤツが虚を突かれたような表情をしたのでやったかと思えば、その後ににやりと口角を上げた。
「残念。本当はこっちでした。」
そう言って奴はそのまま体を捻る様にして右手を突き出す。
一打目はフェイントだったようだ。
―――――間に合わない。
天夜もそれに気づいた様でぐっと千星さんを抱きしめた。
俺は九鬼の拳を銃の腹でガードするが威力は貫通するように体を突き抜け、天夜達を巻き添えにするように背後にぶっ飛んだ。
そのまま、闘技場の外の観客席を遮っている壁に激突した。
「――――かっはっ!!」
拳でなんて威力だ。
内臓を掻きまわされたような痛みが全身に掛け抜ける。
背後の壁は会長が柔らかくしてくれたようで、顔を上げると千星さんが俺を覗きこんでいた。
今度は、守れた。
俺の口角は自然と緩む。
まだ、意識を失っちゃいけねぇのに、もう無理そうだ。
俺が意識を飛ばす直前に、俺達を超える様に天夜が九鬼に向かっていくのが見えた。
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【九鬼】
三人まとめてぶっとばしたが、威力は日当瀬に集中したようだった。
千星は自分を犠牲にしてまで守るべき人物ではないということを奴等はわかっていないのだろうか。
首を鳴らすと伸びをする。
準備運動にもならない。
軽く体を動かしていると、天夜が円盤に乗ってこちらへ向かってきたのがわかった。
まだあの三人の中じゃ骨がある方なので、ボクは彼が向かってくるのを迎え撃つ。
クナイ、打撃、蹴り、素早く繰り出してくるそれは並みの努力じゃ手に入らないだろう。
天夜は元々の戦闘スキルが高く、天才型。
闘うために生まれてきたような身体能力だった。
避けてはいるが、集中していないと不意を突かれそうだ。
「その殺しにかかってくるような目付き、嫌いじゃないヨ」
そう言って天夜が投げてきたクナイを素手で受け止めると、その状態で口端をあげて笑う。
ひるまずに何本も投げつけてくるが、意味はない。
全て動きは見えている。
だが一本目の真後ろ、調度死角に二本目を仕込んでいたのか、受け止められなかったクナイが腕に刺さる。
その一瞬の隙を狙って、真上から飛びつく様に全力でかかとをボクの頭上へと落としてきた。
それを軽々と足首を掴むように受け止め、彼を見上げた。
「…センスは一番いいネ、でもそれだけじゃボクには勝てない」
そのまま下へと振り降ろすと、円盤が辿りつくよりも早く落ちていく彼を追い、左顔面へと拳を叩き込んだ。
少しの差で両腕で塞がれてしまったが、そんなもので威力が半減する訳でもなく、彼もまた場外へと吹っ飛んでいった。
…骨は折れたかな?
自分の腕にささったクナイを抜き取り、放り投げる。
特にこんなものは痛くもかゆくも無い。
カラン、という音を立ててそれが地面へと落ちると、千星の方へと再び目をやる。
「残り、三人」
戦闘を満足に楽しめないフラストレーションが溜まり、ボクの中の黒鬼は暴れたくて仕方がなくなっていた。
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